説明

接着剤エマルジョン組成物

【課題】凝集物の発生を抑制し、かつ、高速回転のドラムに接着剤組成物を塗工する際の接着剤組成物の飛散を抑制することを目的とする。
【解決手段】
(A)ガラス転移温度が−50〜0℃であり、テトラヒドロフラン不溶分が40重量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体、(B)(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の単量体と、(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルから選ばれる少なくとも1種の単量体とを含む混合物を水性媒体中で重合して得られた共重合体、(C)熱流動開始温度が100℃以下のポリウレタン、及び水を含有し、(A)成分100重量部(固形分)あたり、(B)成分を1〜300重量部(固形分)、及び(C)成分を1〜100重量部(固形分)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接着性の良好な水性接着剤エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境対策、作業環境改善、資源等の有効活用等の観点から、有機溶剤型の接着剤等のかわりに、水系の接着剤等が使用されている。
【0003】
ところで、有機溶剤型接着剤は、初期接着性が良好であるのに対し、水系接着剤は、初期接着性が十分でない場合がある。初期接着性が十分でないと、基材へシート等を貼着する場合に、シート等の浮き上がり等を引き起こすおそれがある。
【0004】
また、接着剤を塗布して乾燥させた後、加熱等で接着力を回復させ、相手材と接着させるドライ接着性については、水系接着剤の場合、高温、かつ、長い時間の乾燥が必要であった。
【0005】
これに対し、初期接着性及び低温接着性に優れた水系接着剤として、特許文献1に記載の水系接着剤が知られている。この水系接着剤は、所定のウレタン樹脂エマルジョンと所定のエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンとを含有する組成物からなる。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の水系接着剤を用いた場合であっても、ドライ接着において、初期接着性が十分に発揮できない場合や、加熱時の樹脂のドローダウン等が生じ、耐熱クリープが低下する場合がある。
【0007】
一方、THF不溶分を所定以上としたエチレン−酢酸ビニル共重合体、流動開始温度を所定温度以下としたポリウレタン樹脂を用いることにより、加熱時のドローダウン発生を抑制し、耐熱クリープの向上を図ることが、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−129019号公報
【特許文献2】特開2008−266520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、得られる接着剤組成物を被着物に塗工する方法として、高速回転のドラムに一旦塗工し、これを被着物に転写する方法を挙げることができる。この場合、接着剤組成物に凝集物が発生したり、高速回転のドラムに接着剤組成物を塗工する際に、接着剤組成物の飛散が生じたりすると、被着物への接着剤組成物の塗工を均一に行うことが困難となったり、作業環境が悪化することとなる。
【0010】
一方、上記特許文献2に記載の発明は、架橋剤を併用する。このため、得られる接着剤組成物に凝集物が発生する可能性がある。また、使用する架橋剤の種類によっては、作業環境上の問題を生じる場合がある。
【0011】
そこで、この発明は、凝集物の発生を抑制し、かつ、高速回転のドラムに接着剤組成物を塗工する際の接着剤組成物の飛散の少ない水性接着剤エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、(A)ガラス転移温度が−50〜0℃であり、テトラヒドロフラン不溶分が40重量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体、(B)(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の単量体と、(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルから選ばれる少なくとも1種の単量体とを含む混合物を水性媒体中で重合して得られた共重合体、(C)熱流動開始温度が100℃以下のポリウレタン、及び水を含有し、上記(A)成分100重量部(固形分)あたり、上記(B)成分を1〜300重量部(固形分)、及び上記(C)成分を1〜100重量部(固形分)含有してなる水系接着剤エマルジョン組成物を用いることにより、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0013】
(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の単量体と、(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルから選ばれる少なくとも1種の単量体とから得られる共重合体を用い、かつ、所定のポリウレタンを用いるので、凝集物の発生を抑制し、高速回転のドラムに接着剤組成物を塗工する際の接着剤組成物の飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)サックマシン適性試験機の平面図、(b)(a)のA−A断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかる接着剤エマルジョン組成物は、(A)成分である所定のエチレン−酢酸ビニル共重合体、(B)成分である所定の共重合体、及び(C)成分である所定のポリウレタンを含有する水系エマルジョン組成物である。
【0016】
[(A)成分]
上記(A)成分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとからなる共重合体であり、必要に応じて、部分的に又は全体的に加水分解されたものであってもよい。
【0017】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチレン含有量は、50重量%以下がよく、40重量%以下が好ましい。50重量%より多いと、耐熱クリープ性が不足する傾向となる。一方、エチレン含有量の下限は、10重量%がよく、15重量%が好ましい。10重量%より少ないと、接着性が低下する傾向となる。
【0018】
また、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体の重量平均分子量は、20万〜100万がよく、50万〜85万が好ましい。20万より少ないと、耐熱性が不足する傾向となる。一方、100万より多いと、密着性が低下し、低温接着性が悪化する場合がある。
【0019】
さらに、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」と略する場合がある。)は、−50℃以上がよく、−40℃以上が好ましい。−50℃より低いと、耐熱性が低下する傾向がある。一方、Tgの上限は、0℃がよく、−10℃が好ましい。0℃より高いと、低温接着性が不十分となるおそれがある。
【0020】
なお、ガラス転移温度(Tg)は、各構成単量体の単独重合体のガラス転移温度と、重量分率とを用いたFOXの式から求めることができる。
【0021】
さらにまた、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体のテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略する。)不溶分は、40重量%以上が必要であり、50重量%以上が好ましい。40重量%より低いと、耐熱性が不十分となる傾向がある。一方、THF不溶分の上限は、95重量%がよく、90重量%が好ましい。95重量%より高いと、エチレン−酢酸ビニル共重合体の重合時の安定性が悪化し、製造が困難となるおそれがある。
【0022】
なお、THF不溶分は、以下の定義に従って算出される数値である。なお、詳細な測定方法は、後述する実施例において記す。
・THF不溶分(重量%)=〔(THF浸漬後の未溶解樹脂乾燥重量)/(THF浸漬前の樹脂重量)〕×100
【0023】
このTHF不溶分は、ポリマーの構造が架橋や枝分かれ構造をとったり、分子量が大きくなると、その数値が大きくなり、一般的にこの数値が高いポリマーほど分子間の相互作用が密であり、特に耐熱クリープ性等の性能が向上する。
【0024】
THF不溶分を高くする方法として、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体を内部架橋する方法があげられる。この内部架橋を行うことにより、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体のTHF不溶分を大きくすることができ、耐熱性が向上するという特徴を発揮することができる。
【0025】
この内部架橋をするための架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート等があげられる。
【0026】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体には、必要に応じて、他のモノマーを共重合させてもよい。このようなモノマーとしては、アクリル酸2─エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル;塩化ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル等があげられる。また、アクリル酸、メタクリル酸のようにカルボキシル基を含有するモノマーの他、スルホン酸基、水酸基、エポキシ基、メチロール基、アミノ基、アミド基等の官能基を含有する各種モノマーもあげることができる。
【0027】
上記(A)成分は、水に酢酸ビニル、乳化剤及び重合触媒を添加し、次いでこの系にエチレンガスを所定量加えて加温し、乳化重合を行うことによりエマルジョン状態として得ることができる。このときの温度、圧力等の条件、重合触媒等は通常使用される条件や重合触媒を使用することができる。さらに、上記乳化剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤があげられ、これらは単独で用いられても、二種以上が併用されてもよい。また、上記界面活性剤に、反応性の二重結合を有する反応性界面活性剤や、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略する。)、デンプン等の水溶性高分子を併用することもできる。
【0028】
上記水性媒体としては、水や、水とメタノール、エタノール等の水溶性有機溶媒との混合溶媒があげられる。
【0029】
[(B)成分]
上記(B)成分である共重合体は、(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の単量体と、(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルから選ばれる少なくとも1種の単量体とを含む混合物を水性媒体中で重合して得られた共重合体をいい、得られる接着剤組成物に良好な初期接着性を維持することができ、また、得られる接着剤組成物に凝集物が発生するのを抑制し、高速で接着剤組成物を塗工する際の接着剤組成物の飛散を抑制する機械適性を付与することができる。
【0030】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等があげられる。なお、この発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」のいずれかを意味する。
【0031】
上記(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルとしては、塩化ビニル、バーサチック酸ビニル、酢酸ビニル等があげられる。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸ブチルや(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルを主成分として共重合することによって得られる(B)成分を用いると、共重合性、ドライタック、耐熱クリープ性等の点でより好ましい。
【0033】
上記(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルの種類及び使用比率は、得られる共重合体のガラス転移温度(Tg)が−30〜20℃の範囲となるように、その種類及び組成比を選定すればよい。
【0034】
上記共重合体のTgは、−30〜20℃であり、−20℃以上が好ましい。−30℃より低いと、耐熱クリープ性が劣る場合がある。Tgの上限は、20℃が好ましい、20℃より高いと、低温時の接着性が悪化する場合がある。
【0035】
また、上記共重合体の重量平均分子量は、例えば、20万〜100万程度のものを用いることができる。
【0036】
上記(B)成分は、上記(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の単量体と、上記の(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルから選ばれる少なくとも1種の単量体とを含む混合物を水性媒体中で重合することにより製造される。この重合形態としては、乳化重合が用いられる。乳化重合することにより、(B)成分が水性エマルジョンとして得られるので、この発明にかかる接着剤組成物を水性にすることが容易になる。この乳化重合時の温度、圧力等の条件、重合触媒等は通常使用される条件や重合触媒を使用することができる。
【0037】
この乳化重合に使用される水性媒体としては、上記した水性媒体を用いることができる。さらに、上記乳化剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤があげられ、これらは単独で用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0038】
また、上記乳化重合の際に用いられる保護コロイドとしては、PVA、デンプン等の水溶性高分子等、一般的に使用されるものが用いられるが、その中でも、得られるエマルジョンの安定性の点で、PVAを用いることが好ましい。
【0039】
上記保護コロイドの使用量は、(B)成分の乳化重合に使用される全単量体量(100重量部)に対し、4重量部以上が好ましく、6重量部以上がより好ましい。4重量部より少ないと、機械的安定性が不足することがある。一方、使用量の上限は、20重量部が好ましく、15重量部がより好ましい。20重量部より多いと、乾燥性が低下したり、得られるエマルジョンの粘度が高くなり、作業性が悪化することがある。
【0040】
上記(B)成分の乳化重合は、上記(A)成分や(C)成分等をシード重合体として用いて行うことができる。このシード重合体の存在下で乳化重合を行うと、(B)成分の乾燥粘着性をより向上させることができる。このシード重合体の使用量は、上記(B)成分の原料である上記(メタ)アクリル系単量体を主成分とする単量体100重量部に対し、5〜70重量部が好ましく、10〜30重量部がより好ましい。
【0041】
[(C)成分]
上記(C)成分であるポリウレタンは、一般に、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物(a)と分子内に水酸基を2個以上有する化合物(b)とを反応させて得られる樹脂からなり、水中に分散させてエマルジョンとして使用されるものである。
【0042】
上記分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物(a)としては、通常のウレタン樹脂の製造に使用される有機ポリイソシアネート化合物であって、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル−2,6−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネート)メチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類;2,4−トルイレンジイソシアネート、2,6−トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,5’−ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類;リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−イソシアネート−4,4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチロールプロパンとトルイレンジイソシアネートとのアダクト体、トリメチロールプロパンと1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートとのアダクト体等のトリイソシアネート類などがあげられ、これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記分子内に水酸基を2個以上有する化合物(b)としては、通常のウレタン樹脂の製造に使用される、分子内に水酸基を2個以上有するポリエステルポリオールや、ポリエーテルポリオール、その他のポリオール化合物等があげられる。
【0044】
この分子内に水酸基を2個以上有するポリエステルポリオールの具体例としては、アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸等のジカルボン酸類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等のポリオール化合物とから得られるポリエステルポリオール類;ポリカプロラクトンポリオール、ポリβ−メチル−δ−バレロラクトン等のポリラクトン系ポリエステルポリオールなどがあげられる。
【0045】
また、上記分子内に水酸基を2個以上有するポリエーテルポリオール化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール類などがあげられる。
【0046】
上記その他のポリオール化合物としては、ポリブタジエンポリオール又はその水添物、ポリカーボネートポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリアクリル酸エステルポリオール等があげられる。
【0047】
上記ポリウレタン樹脂の熱流動開始温度は、100℃以下が必要で、60℃以下が好ましい。100℃を超えると、ポリウレタン樹脂セグメントの柔軟性が不足して、粘着性に寄与しなくなり、接着性が十分に発揮されなくなる場合がある。熱流動開始温度の下限は、通常0℃である。0℃以下でもよいが、そのようなポリウレタンは製造しにくいので、0℃以上で十分である。
【0048】
上記の熱流動開始温度は、例えば、島津製作所(株)製:CFT−500等のメルトフローテスターを用いて、JISK−7210に従って測定することができる。
【0049】
上記(C)成分は、例えば、上記の各モノマーを、アセトン、メチルエチルケトン等の親水性の揮発性溶剤の存在下で反応させてポリウレタン樹脂を合成し、次いで、アセトン法、プレポリマーミキシング法、ケチミン法、ホットメルトディスパージョン法等の公知の方法でウレタンエマルジョンに転化することによって得られる。
【0050】
[(A)成分〜(C)成分の混合比率]
上記(B)成分の(A)成分に対する混合比率は、上記(A)成分100重量部(固形分)あたり、上記(B)成分1重量部(固形分)以上がよく、20重量部(固形分)以上が好ましい。1重量部(固形分)より少ないと、機械的安定性が不足するという問題点を生じる場合がある。一方、上限は、300重量部(固形分)がよく、200重量部(固形分)が好ましい。300重量部(固形分)より多いと、初期接着性が不十分となることがある。
【0051】
また、上記(C)成分の(A)成分に対する混合比率は、上記(A)成分100重量部(固形分)あたり、上記(C)成分が1重量部(固形分)以上がよく、4重量部(固形分)以上が好ましい。1重量部(固形分)より少ないと、接着力が不足するという問題点を生じる場合がある。一方、上限は、100重量部(固形分)がよく、50重量部(固形分)が好ましく、15重量部(固形分)がより好ましい。100重量部(固形分)より多いと、耐熱性が不足したり、ベタつきを生じることがある。
【0052】
[(D)成分]
この発明にかかる接着剤組成物には、低温接着性の向上を目的に、(D)成分として可塑剤を含有させてもよい。この(D)成分の、(A)成分及び(B)成分の固形分合計量に対する混合比率は、上記(A)成分及び(B)成分の固形分合計量100重量部あたり、60重量部以下がよく、30重量部以下が好ましい。60重量部より多いと、耐熱性の低下が起こることがある。なお、この(D)成分は、使用しなくてもよいので、下限は、0重量部でよい。
【0053】
[(E)成分]
この発明にかかる接着剤組成物には、水分揮発による凝集物発生を防ぐため、(E)成分として保湿剤を含有させてもよい。この(E)成分の(A)成分及び(B)成分の固形分合計量に対する混合比率は、上記(A)成分及び(B)成分の固形分合計量100重量部(固形分)あたり、20重量部以下が好ましい。20重量部より多いと、主成分の含有量が相対的に低下し、接着力が不足する場合がある。一方、混合比率の下限は、0.1重量部以上がよく、2重量部以上が好ましい。0.1重量部より少ないと、添加による効果が十分得られないおそれがある。
【0054】
この発明にかかる接着剤エマルジョン組成物は、エマルジョン状態の(A)成分〜(C)成分を混合するか、又は各成分を混合してエマルジョン化することによって、製造される。
【0055】
この発明にかかる接着剤組成物は、凝集物の発生や、高速回転のドラムに接着剤組成物を塗工する際の飛散の発生を抑制することができる。このため、この発明にかかる接着剤組成物は、被着体への塗工方法として、サックマシン等による塗工方法、すなわち、高速回転のドラムに一旦、塗工し、これを被着物に転写する方法を採用する場合に、好適な接着剤であるといえる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明するが、この発明は以下の実施例によって限定されるものではない。まず、評価方法について説明する。
【0057】
(評価方法)
<ガラス転移温度(Tg)>
共重合体の各構成単量体a,b,……の構成重量分率をWa,Wb,……とし、各構成単量体の単独重合体のガラス転移温度をTga,Tgb,……としたとき、下記に示すFOXの式を用いて、共重合体のTgを求めた。
1/Tg=Wa/Tga+Wb/Tgb+……
【0058】
<THF不溶分>
常温減圧下で乾燥させた(A)成分中の固形分40mgを、THF20mlに溶解させ、24時間放置後、ADVANTEC社製:PF100 38A04400(ポリフロンフィルター)でろ過し、不溶分を105℃×3時間で乾燥後の重量を測定して、下記計算式によって、THF不溶分を算出した。
THF不溶分(重量%)=(40(mg)−不溶分乾燥後重量(mg))/40(mg)×100
【0059】
<熱流動開始温度>
JIS K−7210「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトフローレイトの試験方法」に準拠し、下記の方法に従って測定した。なお、作成した試料皮膜は、23℃、50%RH、7日間で養生した。また、測定温度を40〜250℃とし、試料のサンプル量を1.0〜1.5gとした。
高化式フローテスター((株)島津製作所製:島津フローテスター(CFT−500D))にて、1mmφ×2mmLのダイを用い、荷重30kgで、6℃/分の割合で昇温した際のプランジャーが降下を開始した温度を、降下量と温度(時間)との関係を記録したチャート上から読み取って、資料の流動開始温度(℃)とした。
【0060】
<低温接着性>
まず、実施例及び比較例で得られた接着剤組成物、プレスコート紙、二軸延伸ポリプロピレンフィルムラミネート紙(「OPPラミ紙」と称する。)、及び二軸延伸ポリエチレンテレフタレートラミネート紙(「PETラミ紙」と称する。)を、5℃恒温室にて十分養生する。
次いで、上記の各加工紙の加工面に、上記接着剤組成物を約1mm幅で線状に塗布する。そして、速やかに加工紙裏面と貼り合わせ、ハンドゴムローラで3回圧締する。
そして、5℃の条件下で2日間養生する。
養生終了後、強制剥離し、剥離状態を観察し、下記の基準で評価した。
○:紙破が生じた。
△:紙破が生じたが、紙破部を指でこすると、簡単に界面剥離した。
×:界面剥離した。
【0061】
<機械適性>
サックマシン適性試験機(自製、図1(a)〜(b)参照)の糊壺に接着剤組成物を150gを秤り取り、ロールと間隙板との間隔(r)を0.05mmとして、720rpm×15分間、ロールを回転させ、凝集物の発生状況と接着剤の飛散状況を、下記の基準で評価した。なお、評価は、基準接着剤を用いて、同条件で試験を行い、相対的な差異で評価した。この評価で用いた基準接着剤は、サックマシン用接着剤である、中央理化工業(株)製:リカボンドBP−336である。
・凝集物の発生状況
○:凝集物の発生量が、基準接着剤と同等又は少ない。
×:凝集物の発生量が、基準接着剤よりが多い。
・接着剤の飛散状況(糊とび)
○:接着剤の飛散が、基準接着剤と同様又は少ない。
△:接着剤の飛散が、基準接着剤より少し多い。
×:接着剤の飛散が、基準接着剤よりかなり多い。
【0062】
なお、自製のサックマシン適性試験機1は、図1(a)〜(b)に示すような機械であり、糊つぼ2の開放上面に軸3に指示されたローラ4が設けられたものである。この軸3は、糊つぼ2の側壁上端縁に設けられた軸受5で支持され、変速機付きのモータ6で回転可能となっている。また、上記糊つぼ2の開放上面には、間隙板7が設けられ、この間隙板7は、固定ねじ8によって固定される。また、この間隙板7のローラ4と近接する部分は、コの字状に切り欠きが設けられ、ローラ4の周面と、このローラ4の周面と対向する上記切り欠き部の端面との間には、所定の間隔(r)を有する間隙部9を設ける。
この糊つぼ2には、図1(b)に示すように、ロール4が浸る程度の量の接着剤11が入れられる。そして、モータ6によって、ローラ4が図1(b)に示すように回転されると、接着剤11は、間隙板7に向かって盛り上がり部11aが形成される。そして、この接着剤11は、間隙部9を通ることにより、ローラ4上にのる接着剤11の厚みが一定となる。このとき、場合によっては、間隙板7上に、粘性によって刃裏に回り込んだ接着剤や凝集物による接着剤カス等12が生じ、これが実塗工時には、被塗材の塗工ムラや汚染の原因となる場合がある。
【0063】
(原材料)
[(A)成分]
・エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン…住化ケムテックス(株)製:スミカフレックスS−400HQ(商品名、固形分55%、エチレン含有率18%、Tg:0℃、THF不溶分65%、保護コロイド:PVA、以下、「S400HQ」と略する。)
・エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン…住化ケムテックス(株)製:スミカフレックスS−401HQ(商品名、固形分55%、エチレン含有率30%、Tg:−18℃、THF不溶分65%、保護コロイド:PVA、以下、「S401HQ」と略する。)
・エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン…住化ケムテックス(株)製:スミカフレックスS−408HQE(商品名、固形分50%、エチレン含有率40%、Tg:−30℃、THF不溶分50%、保護コロイド:PVA、以下、「S408HQE」と略する。)
【0064】
[(B)成分及びその対比物]
・酢酸ビニル−アクリル酸ブチル共重合体エマルジョン…中央理化工業(株)製:リカボンドBC−1000(商品名、固形分49%、酢酸ビニル含有割合約60重量%、Tg:−10℃、以下、「BC1000」と略する。)
・酢酸ビニル重合体エマルジョン…中央理化工業(株)製:リカボンドAW−500(商品名、固形分55%、酢酸ビニル含有割合100重量%、Tg:29℃、以下、「AW500」と略する。)
【0065】
[(C)成分]
・ポリウレタンエマルジョン…大日本インキ工業(株)製;ハイドランHW−375(商品名、固形分45%、熱流動開始温度55℃、以下、「HW375」と略する。)
・ポリウレタンエマルジョン…第一工業製薬(株)製;サンプレンXA−3005(商品名、固形分40%、熱流動開始温度120℃、以下、「XA3005」と略する。)
・ポリウレタンエマルジョン…ゼネカ(株)製;NeoRez R−9660(商品名、固形分33%、熱流動開始温度130℃、以下、「R9660」と略する。)
【0066】
[(D)成分]
・可塑剤…デュポン(株)製:DBE(コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの混合物、以下、「DBE」と称する。)
[(E)成分]
・保湿剤…新日本理化(株)製:精製グリセリン
・保湿剤…宇部興産(株)製:工業用尿素
【0067】
(実施例1〜5、比較例1〜6)
表1、表2の(A)成分〜(E)成分を、表1、表2に記載の量ずつ混合し、接着剤組成物を作製した。得られた樹脂水性エマルジョンを用いて、上記の各評価を行った。その結果を表1、表2に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【符号の説明】
【0070】
1 サックマシン適性試験機
2 糊つぼ
3 軸
4 ローラ
5 軸受
6 モータ
7 間隙板
8 固定ねじ
9 間隙部
11 接着剤
11a 接着剤盛り上がり部
12 接着剤カス等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移温度が−50〜0℃であり、テトラヒドロフラン不溶分が40重量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体、
(B)(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の単量体と、(メタ)アクリル酸エステル以外のビニルエステルから選ばれる少なくとも1種の単量体とを含む混合物を水性媒体中で重合して得られた共重合体、
(C)熱流動開始温度が100℃以下のポリウレタン、
及び水を含有し、
上記(A)成分100重量部(固形分)あたり、上記(B)成分を1〜300重量部(固形分)、及び上記(C)成分を1〜100重量部(固形分)を含有してなる接着剤エマルジョン組成物。
【請求項2】
上記各成分に加え、(D)成分として可塑剤を、上記(A)成分及び(B)成分の固形分合計量100重量部あたり、0〜60重量部含有してなる請求項1に記載の接着剤エマルジョン組成物。
【請求項3】
上記各成分に加え、(E)成分として保湿剤を、上記(A)成分及び(B)成分の固形分合計量100重量部あたり、0.1〜20重量部含有してなる請求項1又は2に記載の接着剤エマルジョン組成物。
【請求項4】
上記(A)成分のエチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン含有量が、10〜50重量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着剤エマルジョン組成物。
【請求項5】
上記(B)成分は、保護コロイドとしてポリビニルアルコールを用いた乳化重合によって得られた共重合体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の接着剤エマルジョン組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−209282(P2010−209282A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59498(P2009−59498)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】