説明

接着剤組成物

【課題】施工現場で、基材への貼り合わせを可能とする、耐ブロッキング性の向上した接着剤組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】軟化点が170〜350℃の硬質樹脂(A)100重量部あたり、軟化点が75〜100℃の軟質樹脂(B)を1〜200重量部含有する接着剤組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材に塗工した後、乾燥して得られる、ヒートシール可能な接着剤層含有化粧シートを製造できる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新築住宅に入居したり、新しい家具を購入した場合、めまいや皮膚炎等が生じる、いわゆる「シックハウス症候群」が生じる場合がある。これは、プラスチック基材、化粧シート等を貼り合わせた住宅用建材や家具用建材を製造するために使用される従来の水性エマルジョン型接着剤に含まれる、各種の可塑剤や有機溶剤等の揮発性有機化合物(以後、「VOCs」と称する。)が原因であると考えられている。このVOCsを使用しない接着剤が種々検討されている(特許文献1等参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載の接着剤組成物を用いる場合、中質繊維板(MDF)等の基材に当該接着剤組成物を塗布し、その接着剤組成物がwet(未乾燥)の状態で化粧紙を貼り合わせ、次いで、乾燥することにより、化粧紙をMDF等の基材上に貼り合わせることができる。
【0004】
この場合、施工現場で接着剤組成物を基材上に塗布する必要がある。これに対し、前もって、接着剤組成物を化粧紙に塗布しておき、施工現場で、接着層を有する化粧紙を基材上に載せ、熱を加えて化粧紙を基材に貼り付ける方法を採用できると、施工現場での手間を省くことができて好ましい。
【0005】
【特許文献1】特開2004−269858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の接着剤組成物を用いた場合、接着剤組成物を化粧紙に塗工して接着剤層を形成した状態で保存すると、この接着剤組成物の成分の組合せによっては、ブロッキングが生じ、巻き戻しや剥離が困難になる等、基材への貼り合わせ時の作業効率が悪化する場合がある。
【0007】
そこで、この発明は、施工現場で、基材への貼り合わせを可能とする、耐ブロッキング性の向上した接着剤組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、軟化点が170〜350℃の硬質樹脂(A)100重量部あたり、軟化点が75〜100℃の軟質樹脂(B)を1〜200重量部含有する接着剤組成物を用いることにより、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかる接着剤組成物を用いることにより、耐ブロッキング性等を向上させることができる。このため、この接着剤組成物を基材に塗布して得られるヒートシール層含有化粧シートは、使用までに保存する際のブロッキング発生を抑制することができる。
【0010】
また、上記の接着剤組成物は、ヒートシール性を有するので、この接着剤組成物を基材に塗布して得られるヒートシール層含有化粧シートは、ヒートシール可能となり、このヒートシール層含有化粧シートを基材に貼る際は、このヒートシール層含有化粧シートを基材に載せ、化粧シートの上から加熱することによって、化粧シートを基材に接合することができる。
【0011】
さらに、このヒートシール層含有化粧シートを基材に載せて貼り合わせる際に、巻き戻しや剥離が容易に可能となり、作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態を説明する。
この発明にかかる接着剤組成物は、所定の硬質樹脂(A)と所定の軟質樹脂(B)とを含有する組成物である。
【0013】
上記硬質樹脂(A)とは、軟化点が170〜350℃の樹脂をいい、175〜230℃の樹脂が好ましい。170℃より低いと、乾燥時の耐ブロッキング性が悪化する傾向にある。一方、350℃より高いと、低温接着性が劣る傾向にある。なお、上記軟化点は、高化式フローテスターで測定することができる。
【0014】
上記硬質樹脂(A)を構成する樹脂の例としては、酢酸ビニル樹脂、酢ビ−アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられ、少なくとも1種の樹脂が用いられる。これらのうち、上記軟化点の条件を満たす樹脂が硬質樹脂(A)として用いられる。
【0015】
上記酢酸ビニル樹脂とは、酢酸ビニルの単独重合体をいい、上記酢ビ−アクリル系樹脂とは、酢酸ビニルと後述する(メタ)アクリル系単量体との共重合体をいう。また、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂とは、エチレンと酢酸ビニル又はこれを主体とするバーサチック酸ビニル等のビニルエステル混合物との共重合体をいう。なお、これらの樹脂には、その効果を損なわない範囲で、他の共重合単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0016】
上記(メタ)アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリル系単量体の単独重合体又は共重合体をいう。上記(メタ)アクリル系単量体とは、(メタ)アクリル酸又はそのエステル化合物等をいい、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等があげられ、重合に際しては、その1種を用いても、それらの2種以上の混合物を用いてもよい。
【0017】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等があげられる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸系単量体としては、アクリル酸又はメタクリル酸があげられる。
上記(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル等があげられる。なお、この明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0019】
上記ウレタン系樹脂とは、ポリイソシアネート、高分子ポリオール、及び必要により鎖伸長剤を反応させた重合体である。上記ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートがあげられ、上記高分子ポリオールとしては、ジカルボン酸とジオール類との縮合反応によるポリエステル系ポリオール等があげられる。
【0020】
上記の中でも、硬質樹脂(A)としては、軟化点が170〜350℃のエチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
上記軟質樹脂(B)は、軟化点が75〜100℃の樹脂をいい、軟化点が78〜90℃の樹脂が好ましい。軟化点が100℃より高いと、低温接着性が悪化する傾向がある。また、軟化点が75℃より低いと、耐ブロッキング性が悪化する傾向にある。なお、上記軟化点は、高化式フローテスターで測定することができる。
【0022】
上記軟質樹脂(B)を構成する樹脂の例としては、酢酸ビニル樹脂、酢ビ−アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−アクリル共重合体系樹脂、ウレタン系樹脂、軟質塩ビ系樹脂(可塑化されたもの)等があげられる。これらの樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、上記軟化点の条件を満たす樹脂が軟質樹脂(B)として用いられる。
【0023】
上記酢酸ビニル樹脂、酢ビ−アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩ビ系樹脂としては、上記した硬質樹脂(A)の場合と同様の樹脂があげられる。また、上記軟質樹脂(B)として用いられるウレタン系樹脂の具体例としては、大日本インキ化学工業(株)製:ハイドランHW−D05等があげられる。
【0024】
上記の中でも、軟質樹脂(B)としては、軟化点が75〜100℃のエチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂や、軟化点が75〜100℃の、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−アクリル共重合体系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が特に好ましい。
【0025】
上記の硬質樹脂(A)と軟質樹脂(B)との混合比は、硬質樹脂(A)100重量部あたり、軟質樹脂(B)1〜200重量部を用い、1〜100重量部が好ましく、1〜40重量部がさらに好ましい。1重量部より少ないと、低温接着性が悪化する傾向にある。一方、200重量部より多いと、耐熱性が低下する傾向にある。
【0026】
上記接着剤組成物は、任意の方法で製造することができる。このなかでも、上記の硬質樹脂(A)及び/又は軟質樹脂(B)として水性エマルジョンのものを用い、各成分を混合して、全体として水性エマルジョンとすると、得られる接着剤組成物の安定性、取扱性等の点で特に好ましい。
【0027】
また、上記接着剤組成物には、この発明の目的及び効果に悪影響を与えない範囲で、多官能性架橋剤、沈降防止剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、充填剤等の添加物を加えてもよい。
【0028】
上記接着剤組成物は、JAS輸出合板基準((財)日本合板検査会、「化粧合板」−「塩化ビニル化粧合板」、常態ピーリング試験)に記載の方法にしたがって測定した塩ビシート/合板の接着強度(23℃)が、通常、1.5kN/m以上となり、かつ、その組成から明らかなように、揮発性有機成分をほとんど含まないので、VOCs対策として有用である。
【0029】
この発明にかかる接着剤組成物は、基材の一面に塗工することにより、ヒートシール可能な化粧シートの接着剤層として用いることができる。
【0030】
上記ヒートシール可能な化粧シートに用いられる基材、すなわち、化粧シートの材質としては、特に限定されるものではなく、紙、不織布、プラスチックフィルム、プラスチックシート等を好適にあげることができる。
【0031】
上記接着剤組成物を、上記したような基材の一方の面に塗工し、その後に乾燥させることにより、接着剤層が形成され、ヒートシール可能な化粧シート、すなわち、ヒートシール層含有化粧シートを得ることができる。
【0032】
上記のプラスチックフィルムやプラスチックシートとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、PET等のポリエステル類からなるフィルムやシートがあげられる。また、上記化粧シートとは、必要に応じて、外表面が印刷等によって意匠が施された紙、フィルム、シート等をいう。
【0033】
上記の塗工方法としては、塗布、噴霧等による方法があげられる。
【0034】
この接着剤層含有化粧シートは、木質系材料等の基材に載せ、加圧・加熱することにより、上記基材に貼り合わせることができ、この接着剤層含有化粧シートを各種住宅建材用材料として用いることができる。上記木質系材料としては、合板、中質繊維板(MDF)、パーティクルボード(PB)等の木質ボード類があげられる。
【0035】
この発明にかかる接着剤層含有化粧シートの2枚を、接着剤層を有する面と有さない面とを向かい合わせて重ねた状態で、60℃で2kgf/mの圧力を加えて24時間放置しても、両者を容易に剥がすことができ、十分な耐ブロッキング性を有する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。まず、試験方法を下記に示す。
[固形分の測定]
接着剤組成物を、JIS K 6833に記載の規定に従って測定した。
【0037】
[常温タック性]
得られた試験体の接着剤層を指触し、タック性(粘着性)を下記の基準で評価した。
○:タック無し
△:一部タック有り
×:常温でタック有り
【0038】
[ドライ貼り性]
得られた試験体の接着剤層を手で剥離させ、剥離面を目視にて確認し、下記の基準で評価した。
○:紙破した
△:紙破するが、部分的に界面剥離が見られた
×:界面剥離した
【0039】
[浸漬剥離試験(JISII類)]
得られた試験体を75mm×75mmに切断して試験片を得た。この試験片を70℃温水中に2時間浸漬後、60℃室温中で3時間乾燥した。乾燥後の試験片を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:接着剤層の剥離は認められない、また、表面状態の異常は認められない
△:同一接着剤層の各側面の剥離していない部分が50mm以上
×:同一接着剤層の各側面の剥離していない部分が50mm未満
【0040】
[耐ブロッキング性]
得られた試験体を50mm×50mmに切断して試験片を得た。この試験片2枚を、接着剤層同士を向かい合わせて重ねた状態で、60℃で2kgf/mの圧力を加えて24時間放置した。その後、重ね合わせた試験片を剥離し、その状態を目視観察し、下記の基準で評価した。
5:剥離時に、抵抗なく剥離した
4:剥離時に、若干、音を発しながら剥離した
3:剥離時に、連続的に音を発しながら剥離した
2:剥離時に、一方の接着剤層の一部が他方に転写した
1:剥離時に、一方の接着剤層の全面が他方に転写した
【0041】
[ヒートシール性]
各実施例及び比較例において、ヒートシール層含有化粧シートとMDFとを貼り合わせる際の様子を観察し、下記の基準で評価した。
○:両者は、問題なく貼り合わされた
×:両者を接合した際、貼り合わされない部分が生じた
【0042】
(使用原料)
接着剤の原料として使用したものの製品名と略号とを下記に示す。
(硬質樹脂(A))
・住友化学工業(株)製、スミカフレックスS−305HQ(略号:S305HQ)(エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、ガラス転移温度(Tg):7℃、軟化点:180℃、固形分:50重量%)
・昭和高分子(株)製、ポリゾールEVA AD−13(略号:AD13)(エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、Tg:13℃、軟化点:190℃、固形分:55重量%)
・三洋化成工業(株)製、サンプレンUXA−3005(略号:UXA3005)(ウレタン系樹脂、軟化点:128℃、固形分:40重量%)
【0043】
(軟質樹脂(B))
・第一工業製薬(株)製、F−8744D(略号:F8744D)(ウレタン系樹脂、軟化点:80℃、固形分:40重量%)
・中央理化工業(株)製、リカボンドET−910(略号:ET910)(スチレン−アクリル系共重合樹脂、軟化点:72℃、固形分:40重量%)
・中央理化工業(株)製、リカボンドAP−25H(略号:AP25H)(アクリル酸系共重合樹脂、軟化点:40℃、固形分:52重量%)
【0044】
(基材)
・ホクシン(株)製:スターウッドTFB−TSMOA(EO)(略号:MDF)(中質繊維板)
【0045】
(実施例1〜2、比較例1〜4)
表1に記載の各成分を表1に記載の重量部(固形分)で混合し、接着剤組成物を作製した。次いで、化粧紙(日本デコール(株)製:プレコート紙)の裏面に、得られた組成物を、30g/m(wet量)となるように、バーコーダー#20を用いて塗工した。その後、100℃で30秒間乾燥させた後、23℃、50%Rhの条件下で24時間養生して、ヒートシール層含有化粧シートを得た。得られたシートをMDFに載せ、3kgf/cm、200℃の条件下でヒートロール(1パス)して貼り合わせた。そして、上記の方法に従って、評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が170〜350℃の硬質樹脂(A)100重量部あたり、軟化点が75〜100℃の軟質樹脂(B)を1〜200重量部含有する接着剤組成物。
【請求項2】
上記の硬質樹脂(A)及び上記軟質樹脂(B)は、それぞれ、酢酸ビニル樹脂、酢ビ−アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂からなる群から選ばれる、少なくとも1種の樹脂からなる請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記軟質樹脂(B)は、軟化点が75〜100℃の、ウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、及びスチレン−アクリル共重合体系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記組成物が水性エマルジョンである請求項1乃至3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
ヒートシール可能な化粧シートの接着剤層に用いられる請求項1乃至4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の接着剤組成物を、基材に塗布した後、乾燥して形成されたヒートシール可能な化粧シート。

【公開番号】特開2007−51240(P2007−51240A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238488(P2005−238488)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】