説明

接着剤組成物

【課題】
水性高分子−イソシアネート系接着剤組成物であって、優れた初期接着性、常態強度、耐沸水性、可使時間を兼備した接着剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、(B)ポリビニルアルコールを配合してなる主剤に対して、架橋剤として(C)イソシアネート基を有する化合物を含有してなる接着剤組成物であって、(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンが、(D)ポリビニルアルコール及びデンプンからなる保護コロイド成分を保護コロイドとして、酢酸ビニルモノマー100質量部に対して20〜200質量部の(E)無機フィラーの存在下で乳化重合を行うことで得られるものである接着剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木工用途に好適に使用できる接着剤組成物に関し、詳しくは、初期接着性、常態強度、耐沸水性、可使時間のいずれも兼備し、且つ貯蔵安定性が優れる水性高分子−イソシアネート系接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合板の市場では、ホルムアルデヒドを含有しない耐水性接着剤として、水性エマルジョン、水性高分子、イソシアネート系化合物を配合してなる接着剤、いわゆる水性高分子−イソシアネート系接着剤が広く使用されている。水性エマルジョンとしては、スチレン・ブタジエン共重合樹脂ラテックスやエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンが用いられているが、スチレン・ブタジエン共重合樹脂ラテックスを用いた場合、耐沸水性には優れるものの初期接着性が不十分であり、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを用いた場合、スチレン・ブタジエン共重合樹脂ラテックスに比べて初期接着性には優れるものの十分ではなく、また耐沸水性が不十分であるという問題があった。カルボキシル基を導入したスチレン・ブタジエン共重合樹脂ラテックスを使用した場合、初期接着性は若干向上するものの実用上不十分であった。
【0003】
また、特許文献1には、1級水酸基含有モノマーを共重合させた酢酸ビニル系エマルジョンにより耐水性を向上する方法が、特許文献2には、カルボキシル基を共重合することにより初期接着性を向上する方法が提案されているが、かかる方法による接着剤はイソシアネート添加後の粘度上昇が大きくなり、可使時間が短くなるといった欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−1270号公報
【特許文献2】特開2000−226562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、ポリビニルアルコールを配合してなる主剤に対して、架橋剤としてイソシアネート基を有する化合物を配合してなる水性高分子−イソシアネート系接着剤組成物であって、優れた初期接着性、常態強度、耐沸水性、可使時間を兼備した接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール及びデンプンを保護コロイドとして無機フィラー存在下で重合したエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを用いた場合に初めて上記課題を解決し得ることを見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、(B)ポリビニルアルコールを配合してなる主剤に対して、架橋剤として(C)イソシアネート基を有する化合物を含有してなる接着剤組成物であって、(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンが、(D)ポリビニルアルコール及びデンプンからなる保護コロイド成分を保護コロイドとして、酢酸ビニルモノマー100質量部に対して20〜200質量部の(E)無機フィラーの存在下で乳化重合を行うことで得られるものである接着剤組成物に関する。
【0008】
さらに、主剤に(F)無機フィラーを配合してなることが好ましい。
【0009】
(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン100質量部あたり、保護コロイド成分(D)として使用するポリビニルアルコールの使用量は0.5〜10質量部であり、デンプンの使用量は0.1〜5質量部であることが好ましい。
【0010】
本発明は、(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、(B)ポリビニルアルコールを配合してなる主剤に対して、架橋剤として(C)イソシアネート基を有する化合物を含有してなる接着剤組成物であって、後述する条件(1)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、98〜560N/cmであり、条件(2)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、1800〜3000N/cmであり、条件(3)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、588〜1500N/cmである接着剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接着剤組成物によれば、優れた初期接着性、耐沸水性、可使時間を兼備した接着剤組成物を提供するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明の接着剤組成物に使用するエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)は、ポリビニルアルコール及びデンプンを保護コロイド成分(D)として酢酸ビニルモノマー100質量部に対して20〜200質量部の無機フィラー(E)の存在下で乳化重合を行うことにより製造すればよい。
【0013】
本発明の接着剤組成物に使用するエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)の保護コロイド成分(D)として使用するポリビニルアルコールは、通常の乳化重合で使用されるケン化度が80モル%以上のものを使用することができ、スルホン酸基、カルボン酸基等によりアニオン変性されたもの、4級アミン基等によりカチオン変性されたものをはじめ、アマイド変性、アセトアセチル基変性、エチレン変性等された変性ポリビニルアルコールも使用することができる。ポリビニルアルコールの平均重合度は、500〜2400であることが好ましく、500以上とすることで、重合安定性がより良好になり、また良好な初期接着性が得られ好ましい。2400以下とすることで、得られるエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの粘度が高くなりすぎず好ましい。
【0014】
ポリビニルアルコールの使用量はエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)の不揮発分100質量部に対して0.5質量部〜10質量部となるよう使用することが好ましく、さらには、2〜8質量部となるよう使用することがさらに好ましい。0.5質量部以上とすることで必要な重合安定性が得られ、また良好な初期接着性を得ることができる。10質量部以下とすることで、水性高分子−イソシアネート系接着剤として用いた際の耐沸水性を更に良好なものにすることができる。
【0015】
保護コロイド成分(D)として使用するデンプンも馬鈴薯デンプン、とうもろこしデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン等、特に制限されず、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基等によりエーテル化されたもの、カルボン酸、リン酸等によりエステル化されたもの等の変性された加工デンプン、次亜塩素酸ナトリウム等で酸化された酸化デンプンも使用することができる。なかでも、無機フィラー(E)、無機フィラー(F)の分散性が良好である点から、酸化デンプン、リン酸エステル化デンプンが好ましい。
【0016】
デンプンの使用量は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)の不揮発分100質量部に対して0.1〜5質量部となるよう使用することが好ましく、さらには、0.5〜3質量部となるよう使用することがさらに好ましい。0.1質量部以上とすることで無機フィラーの沈降が抑制され貯蔵安定性を良好にすることができ、5質量部以下とすることで水性高分子−イソシアネート系接着剤として用いた際の耐沸水性を更に良好なものにすることができる。
【0017】
保護コロイドとして、ポリビニルアルコール、デンプンの他、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性高分子も使用することができる。
【0018】
保護コロイドの添加方法は特に制限されず、重合の開始前又は開始と同時に全量を反応容器に添加しても良いし、一部を反応容器に添加し残りを適宜重合の進行に伴って添加してもよい。
【0019】
保護コロイドのほか、各種界面活性剤を使用することができる。界面活性剤を使用することで、イソシアネート基を有する化合物(C)の分散が良好になり、耐沸水強度が良好となる。
【0020】
本発明のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)を乳化重合する際に使用できる無機フィラー(E)としては特に限定されず、クレー、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク等が挙げられる。特に炭酸カルシウムが、安価であること、分散が容易である点で好ましい。
【0021】
無機フィラー(E)は単独で用いてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。無機フィラー(E)の添加方法は特に限定されず、重合の開始前又は開始と同時に全量を反応容器に添加しても良いし、一部を反応容器に添加し、残りを適宜重合の進行に伴って添加してもよい。
【0022】
無機フィラー(E)の量は酢酸ビニルモノマー100質量部に対して20〜200質量部であり、20〜150質量部であることが好ましい。20質量部未満の場合、無機フィラー(E)の存在下でエチレンと酢酸ビニルを共重合することにより初期接着性、耐沸水強度を向上するという本発明の効果が得られず好ましくない。200質量部を超える場合、接着強度、初期接着強度が低下し好ましくない。
【0023】
本発明で使用できる不飽和単量体としては、エチレン、酢酸ビニルの他にエチレン、酢酸ビニルと共重合可能なモノマーを本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。具体的には、具体的には、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、イソノナン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のアルキル酸ビニルエステル、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸およびそれらの塩等のビニル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類、スルホン酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多官能アクリレート等が例示される。
【0024】
本発明において使用される重合触媒としては、乳化重合で通常用いられるラジカルを形成する触媒を用いることができる。該重合触媒の例としては過酸化水素、過流酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ターシャリ・ブチルヒドロパーオキシド、アゾビス−(2−アミジノプロパン)ハイドクロライド、ラウロイルパーオキサイド、a,a’−アゾビスイソブチロニトリル、ケトンハイドロパーオキサイド等があげられる。これらの重合触媒は単独または還元剤との適当な組合せによるいわゆるレドックス触媒としても用いることができる。
【0025】
還元剤としてはアミン、第一鉄塩、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、酒石酸及びその塩類、アスコルビン酸及びその塩類、エリソルビン酸及びその塩類等があげられる。
【0026】
重合触媒及び必要に応じて添加する還元剤の使用量は、不飽和単量体の質量に対して0.001〜10質量%であり、その添加方法は重合の開始前又は開始と同時に全量を反応容器に添加するか、一部を反応容器に添加し残りを適宜重合の進行に伴って添加してもよい。
【0027】
重合の際、必要に応じて、酢酸、塩酸、硫酸等の酸、アンモニア、アミン苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化カルシウム等の塩基、またはアルカリ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩等の緩衝剤が使用される。
【0028】
また、必要に応じて、重合度調節剤としてメルカプタン類、アルコール類等を添加してもよい。
【0029】
重合は、エチレン加圧の下行われるが、エチレンの加圧は共重合体中のエチレン重合体の必要量により変わるが通常20MPaまでで、好ましくは10MPa以下である。重合は通常20〜100℃、好ましくは40〜90℃で行われる。エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)中の酢酸ビニルモノマー由来の成分100質量部に対して、エチレンモノマー由来の成分は、5〜30質量部であることが好ましい。5質量部より少なくなると、低温での成膜性が低下し、30質量部より多くなると、凝集力が小さくなる傾向にある。
【0030】
本発明の接着剤組成物に使用するポリビニルアルコール(B)は、通常の完全ケン化物または部分ケン化物のいずれも使用することができ、スルホン酸基、カルボン酸基等によりアニオン変性されたもの、4級アミン基等によりカチオン変性されたものをはじめ、アマイド変性、アセトアセチル基変性、エチレン変性等された変性ポリビニルアルコールも使用することができる。耐沸水性の観点から、完全ケン化物を用いることが好ましい。
【0031】
ポリビニルアルコール(B)の添加量は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)の固形分100質量部に対して、ポリビニルアルコール(B)の固形分が2〜100質量部、より好ましくは5〜50質量部の範囲となるように配合するのがよい。ポリビニルアルコール(B)が2質量部以上であることにより、良好な初期接着性が得られ好ましい。また、ポリビニルアルコール(B)が100質量部以下であることにより、最終的に得られた接着剤組成物の耐水性をさらに高めることができる。
【0032】
本発明の接着剤組成物に使用するイソシアネート基を有する化合物(C)は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有しているものであれば特に制限はなく、例としては、ヘキサメチレンジイソシアネートのような脂肪族イソシアネート、m−およびp−フェニレンジイソシアネート、トリレン−2,4−および−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニレン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニル、3−メチル−ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートのような芳香族イソシアネート、およびシクロヘキサン−2,4−および−2,3−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのような脂環族イソシアネート等が挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。また過剰のジイソシアネートまたは多官能ポリイソシアネートとヒドロキシル末端ポリエステルまたはヒドロキシル末端ポリエーテルとの反応により生成されたイソシアネート末端プレポリマー、並びに過剰のジイソシアネートまたは多官能ポリイソシアネートとエチレングリコール、トリメチロールプロパンまたは1,3−ブタンジオールのような単量体ポリオールまたはその混合物との反応により得られる生成物も使用可能である。なかでも、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートが、適度な硬化性であり、可使時間とのバランスが良い点で好ましい。
【0033】
イソシアネート基を有する化合物(C)の配合量は、使用する目的により任意に決定すればよいが、好ましくはエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(A)とポリビニルアルコール(B)を配合した主剤の不揮発分100質量部に対し、固形分で2〜100質量部の範囲となるように配合するのがよい。さらに好ましくは、10〜50質量部の範囲となるように配合するのが良い。イソシアネート基を有する化合物(C)の配合量が2質量部以上であることにより、初期接着強度、常態強度、耐沸水強度のいずれにおいても、十分な接着力を提供することができ、好ましい。また、イソシアネート基を有する化合物(C)の配合量が100質量部以下であることにより、配合後の可使時間をさらに長くすることができるとともに、粘度上昇も抑制することができる。
【0034】
本発明の接着剤組成物には、防腐剤、防錆剤等の各種添加剤を適宜添加することができる。また、必要に応じて物性が低下しない範囲で一般的なSBRラテックス、NBRラテックス、アクリルエマルジョン、スチレン−アクリルエマルジョン、EVAエマルジョン、EVAアクリルエマルジョンを添加してもよい。
【0035】
また、乳化重合時に使用する無機フィラー(E)だけでなく、本発明の接着剤組成物に更に無機フィラー(F)を配合して使用してもよい。無機フィラー(F)としては、クレー、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク等が挙げられる。特に炭酸カルシウムが、安価であること、分散が容易である点で好ましい。
【0036】
無機フィラー(F)は単独で用いてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。無機フィラー(F)の量は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの固形分100部に対して50〜200質量部となる量を添加することが好ましい。50質量部以上とすることで接着剤の凝集力を高め充分な接着強度を得ることができる。200質量部以下とすることで、接着剤の性膜性、接着強度および耐水性を一層高めることができる。また、無機フィラー(F)の他に小麦粉、澱粉、木粉等の有機充填剤を併用してもよい。
【0037】
本発明の接着剤組成物は、不揮発分が45%以上であることが好ましい。接着剤組成物の不揮発分が45%より低くなると、初期接着性が低下する傾向にある。
【0038】
本発明の接着剤組成物は、条件(1)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、98〜560N/cmであり、条件(2)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、1800〜3000N/cmであり、条件(3)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、588〜1500N/cmである。ここで、条件(1)で示す方法で測定される圧縮剪断強度は、初期接着強度を表すものであり、条件条件(2)で示す方法で測定される圧縮剪断強度は、常態強度を表すものであり、条件(3)で示す方法で測定される圧縮剪断強度は、耐沸水強度を表すものである。条件(1)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、98N/cmより小さくなると、圧締時間を長くしなければならず、生産性の低下をまねく原因となる。条件(2)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が1800N/cmより小さくなると、構造用、造作用の集成材として実用上不十分である。また条件(3)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が588N/cmより小さくなると、該接着剤は構造用集成材としては使用できない。
【0039】
条件(1)、条件(2)、条件(3)は以下の通りである。
【0040】
条件(1):
2.5cm角のカバ柾目板(含水率6〜15%)に接着剤組成物を塗布量125g/mで塗布する。5℃にて、接着剤組成物を塗布したカバ柾目板2つを貼り合わせ、10kg/cmで10分間、圧締して試験片を作製する。圧締めした後、作製した試験片について、直ちに23℃、65%RHで条件(4)に示す圧縮剪断試験により圧縮剪断強度を測定する。
【0041】
条件(2):
2.5cm角のカバ柾目板(含水率6〜15%)に接着剤組成物を塗布量125g/mで塗布する。23℃にて、接着剤組成物を塗布したカバ柾目板2つを貼り合わせ、10kg/cmで24時間、圧締する。圧締めした後、23℃、65%RHで72時間養生することにより試験片を得る。作製した試験片について、直ちに23℃、65%RHで条件(4)に示す圧縮剪断試験により圧縮剪断強度を測定する。
【0042】
条件(3):
2.5cm角のカバ柾目板(含水率6〜15%)に接着剤組成物を塗布量125g/mで塗布する。23℃にて、接着剤組成物を塗布したカバ柾目板2つを貼り合わせ、10kg/cmで24時間、圧締する。圧締めした後、23℃、65%RHで72時間養生することにより試験片を得る。作製した試験片について、煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃で20時間乾燥し、続いて煮沸水中で4時間浸漬し、さらに23℃の水中に浸漬することで冷却し、23℃、65%RHで条件(4)に示す圧縮剪断試験により圧縮剪断強度を測定する。
【0043】
また、条件(4)は以下の通りである。
【0044】
条件(4):
圧縮剪断試験機による荷重方向が、カバ柾目板の接着方向と平行になるように試験片を取り付け、荷重速度9.81kN/minにより圧縮剪断試験を行ない、試験片が破壊するまでの最大荷重を測定する。測定した最大荷重から、式(a):
【0045】
【数1】

により、圧縮剪断強度を求める。
【0046】
なお、これらの圧縮剪断試験は1994年発行のJIS K−6852に従って、実施される。
【0047】
本発明の接着剤組成物は、優れた接着強度、初期接着強度および耐沸水接着力を提供することができ、且つ無機フィラーの沈降が極めて少ない作業性を改善したものである。すなわち、本発明の接着剤組成物は、既に記述したようにきわめて大きな利点と特長を有しており、幅広い用途の木材用接着剤として有用である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、「部」および「%」は特に断りのない限り、質量基準を示すものとする。
【0049】
実施例1
(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成
蒸留水800部にたいしてポリビニルアルコール「JP−18」(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度88モル%、平均重合度1800)を5部、「JP−05」(日本酢ビ・ポバール株式会社製、ケン化度88モル%、平均重合度500)を50部、王子エースA(酸化デンプン、王子コーンスターチ株式会社製)15部を溶解した水溶液にソフトン1200(備北粉化工業株式会社製、炭酸カルシウム)350部を分散させた。この分散液と酢酸ビニル70部を、いかり型攪拌機を備えた内容量3リットルのステンレス型オートクレーブに仕込んだ。続いてオートクレーブ内の空気をエチレンで十分置換した。攪拌下、オートクレーブ内の温度を75℃に、エチレン圧を5.0MPaに昇圧した。続いて、過硫酸アンモニウムの1質量%の水溶液200質量部を8時間で均一に滴下した。また、同時に6時間かけて酢酸ビニル630部を均一に滴下した。エチレン圧は酢酸ビニル添加終了まで5.0MPaを保った。触媒添加終了後冷却して、消泡剤を添加し、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.5%、粘度は3400mPa・sであった。
【0050】
(ii)接着剤組成物の配合
上記で得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンに、ポリビニルアルコール「PVA117」(株式会社クラレ製、完全ケン化)の15%水溶液を加え、主剤とした。ポリビニルアルコール「PVA117」は、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの固形分100部に対し、固形分が15部となる量を加えた。主剤の固形分100部に対しイソシアネート基を有する化合物、ミリオネートMR−100(日本ポリウレタン工業株式会社製、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート)を36部添加し、十分混合して実施例1の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0051】
実施例2
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において、ソフトン1200を630質量部、滴下する酢酸ビニルを350質量部とする以外は実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.3%、粘度は3500mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、実施例2の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0052】
実施例3
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において、王子エースAの使用量を80質量部とした以外は、すべて実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.9%、粘度は4200mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、実施例3の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0053】
実施例4
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において、ソフトン1200を175質量部とした以外は実施例1と同様にして、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は52.5%、粘度は2600mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用し、さらに、ソフトン1200を175質量部を配合したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、実施例4の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0054】
実施例5
実施例1のソフトン1200をLMS−400(富士タルク工業株式会社製、タルク)に変更した以外は実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.0%、粘度は6800mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、実施例5の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0055】
実施例6
実施例1のソフトン1200をカオブライト(白石カルシウム株式会社製、クレイ)に変更した以外は実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.0%、粘度は6200mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、実施例6の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0056】
比較例1
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において王子エースAを使用しなかったこと以外は、すべて実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.1%、粘度は2800mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、比較例1の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0057】
比較例2
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において、王子エースAの使用量を80質量部とし、重合時にポリビニルアルコールを使用しなかったこと以外は、すべて実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.2%、粘度は2000mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、比較例2の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0058】
比較例3
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において重合時にソフトン1200を使用せず、滴下する酢酸ビニルを980質量部とした以外は、すべて実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.4%、粘度は4200mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、比較例3の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0059】
比較例4
実施例1の(i)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの合成において重合時に使用するソフトン1200を787.5質量部、滴下する酢酸ビニルを192.5質量部とした以外は、すべて実施例1と同様にしてエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを得た。得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの不揮発分は56.5%、粘度は2800mPa・sであった。続いて、得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを使用したこと以外は、すべて実施例1の(ii)接着剤組成物の配合に準拠して実施し、比較例4の接着剤組成物として性能評価を行った。
【0060】
ブロック圧縮剪断試験
実施例および比較例で得られた接着剤を用いて試験片を作製し、接着性能を測定した。測定方法と測定条件を以下に記す。また、測定結果を表1に示す。
【0061】
(1)接着条件
(1−1)常態強度、耐沸水強度
基材:カバ柾目板、含水率11%
塗布量:250g/m(両面塗布、カバ柾目板2枚に対し、それぞれ125g/mずつ塗布し、2枚を貼り合わせる)
圧締:常温 10kg/cm−24時間
【0062】
(1−2)初期接着強度
基材:カバ柾目板、含水率11%
塗布量:250g/m(両面塗布、カバ柾目板2枚に対し、それぞれ125g/mずつ塗布し、2枚を貼り合わせる)
圧締:5℃ 10kg/cm−10分
基材、接着剤とも5℃にて貼り合せ。
【0063】
(2)試験方法
JIS K−6852による圧縮剪断試験
【0064】
(3)測定方法
常態接着強度:23℃、65%RH下の標準状態で測定。
煮沸繰り返し接着強度:煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃で20時間乾燥し、続いて煮沸水中で4時間浸漬し、さらに室温に放置した水中に浸漬し、冷却してから測定。
初期接着強度:5℃にて所定時間圧締した後、直ちに23℃、65%RH下で測定。
【0065】
(4)可使時間
イソシアネート基を有する化合物を配合した直後の粘度を基準とし、23℃で60分間静置した後の粘度上昇が1.5倍以下の場合を良好、1.5倍を超える場合を不良とした。
【0066】
(5)貯蔵安定性
各実施例及び比較例で得られたエチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを用いて、広口ポリ瓶(直径125mm、高さ245mm)に実施例1に記載の方法で配合した主剤を2kg充填し、23℃雰囲気下で60日間静置、保存した。60日後にポリ瓶底部より約1cmの高さの部分よりエマルジョンサンプルを採取、同様に液面下約1cmの部分より採取したエマルジョンサンプルの不揮発分を測定し、不揮発分差が1%未満のものを貯蔵安定性が良好、1%以上のものを不良とした。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、ホルムアルデヒドを放散せず、良好な初期接着強度、常態強度、耐沸水強度、可使時間を有し、かつ貯蔵安定性が良好である接着剤組成物が提供され、幅広い用途の木材用接着剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、(B)ポリビニルアルコールを配合してなる主剤に対して、架橋剤として(C)イソシアネート基を有する化合物を含有してなる接着剤組成物であって、(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンが、(D)ポリビニルアルコール及びデンプンからなる保護コロイド成分を保護コロイドとして、酢酸ビニルモノマー100質量部に対して20〜200質量部の(E)無機フィラーの存在下で乳化重合を行うことで得られるものである接着剤組成物。
【請求項2】
さらに、主剤に(F)無機フィラーを配合してなる請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン100質量部あたり、保護コロイド成分(D)として使用するポリビニルアルコールの使用量が0.5〜10質量部であり、デンプンの使用量が0.1〜5質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
(A)エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、(B)ポリビニルアルコールを配合してなる主剤に対して、架橋剤として(C)イソシアネート基を有する化合物を含有してなる接着剤組成物であって、
条件(1)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、98〜560N/cmであり、条件(2)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、1800〜3000N/cmであり、条件(3)で示す方法で測定される圧縮剪断強度が、588〜1500N/cmである接着剤組成物。
条件(1):
2.5cm角のカバ柾目板(含水率6〜15%)に接着剤組成物を塗布量125g/mで塗布する。5℃にて、接着剤組成物を塗布したカバ柾目板2つを貼り合わせ、10kg/cmで10分間、圧締して試験片を作製する。圧締めした後、作製した試験片について、直ちに23℃、65%RHで条件(4)に示す圧縮剪断試験により圧縮剪断強度を測定する。
条件(2):
2.5cm角のカバ柾目板(含水率6〜15%)に接着剤組成物を塗布量125g/mで塗布する。23℃にて、接着剤組成物を塗布したカバ柾目板2つを貼り合わせ、10kg/cmで24時間、圧締する。圧締めした後、23℃、65%RHで72時間養生することにより試験片を得る。作製した試験片について、直ちに23℃、65%RHで条件(4)に示す圧縮剪断試験により圧縮剪断強度を測定する。
条件(3):
2.5cm角のカバ柾目板(含水率6〜15%)に接着剤組成物を塗布量125g/mで塗布する。23℃にて、接着剤組成物を塗布したカバ柾目板2つを貼り合わせ、10kg/cmで24時間、圧締する。圧締めした後、23℃、65%RHで72時間養生することにより試験片を得る。作製した試験片について、煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃で20時間乾燥し、続いて煮沸水中で4時間浸漬し、さらに23℃の水中に浸漬することで冷却し、23℃、65%RHで条件(4)に示す圧縮剪断試験により圧縮剪断強度を測定する。
条件(4):
圧縮剪断試験機による荷重方向が、カバ柾目板の接着方向と平行になるように試験片を取り付け、荷重速度9.81kN/minにより圧縮剪断試験を行ない、試験片が破壊するまでの最大荷重を測定する。測定した最大荷重から、式(a):
【数1】

により、圧縮剪断強度を求める。

【公開番号】特開2010−126555(P2010−126555A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299759(P2008−299759)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】