説明

接着性付与剤、接着性樹脂組成物および接着方法

【課題】ラジカル重合性二重結合を有さない重合体に対して顕著な接着性能を付与することが出来る接着性付与剤を提供する。
【解決手段】ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)を主要接着剤成分として使用する際に使用される接着性付与剤であって、以下の一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)とラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)との組合せから成る上記の接着性付与剤。
[化l]
−O−O−R (I)
(上記一般式(I)中、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、炭素数5以上の分岐アルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性付与剤、接若性樹脂組成物および接着方法に関し、詳しくは、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体を主要接着剤成分(塗膜成分)として使用する際に使用される接着性付与剤、上記の重合体および接着性付与剤を含有する接着性樹脂組成物、および当該接着性樹脂組成物を使用した接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、既に、基材自体の表面改質などの事前処理を予め行うことなく良好に接着することが出来る接着性樹脂組成物として、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体100重量部に対し、ラジカル発生剤0.1〜10重量部、ラジカル重合性を有する単量体0.1〜10重量部を含有する接着性樹脂組成物を提案した(特許文献l)。ラジカル重合性を有する単量体としては、分子内に少なくともラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合を持つ化合物を挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献l】特開2008−214620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、前記の接着性樹脂組成物について更に改良すべく検討を重ねた結果、次のような驚くべき知見を得た。すなわち、前記の提案の中には具体的に開示されていない特定のラジカル発生剤を使用することにより、接着性能が顕著に向上する。
【0005】
本発明は、上記の知見に基づき達成されたものであり、その目的は、新規な接着性付与剤、接着性樹脂組成物および接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記の各目的は次の本発明によって容易に達成される。
【0007】
(1)ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)を主要接着剤成分として使用する際に使用される接着性付与剤であって、以下の一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)とラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)との組合せから成ることを特徴とする上記の接着性付与剤。
【0008】
[化1]

−O−O−R (I)

(上記一般式(I)中、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、炭素数5以上の分岐アルキル基を表す。)
【0009】
(2)ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)100重量部に対し、ラジカル発生剤(B)0.1〜10重量部、ラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)0.1〜10重量部を含有する接着性樹脂組成物であって、ラジカル発生剤(B)として一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)を使用することを特徴とする接着性樹脂組成物。
【0010】
(3)上記の接着性樹脂組成物を基材に塗布し、ラジカル発生剤(B)に起因するラジカルを発生させることを特徴とする接着方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体に対して顕著な接着性能を付与することが出来る接着性付与剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、先ず、本発明で使用する各成分について説明する。本発明においては、必須成分として、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)、前記一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)及びラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)とで構成され、更に目的に応じて、任意成分が使用される。
【0013】
<ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)>
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)としては、樹脂として汎用されているものを使用することが出来る。例えば、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)の分子量は、特に制限されず、また、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)は二種類以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0014】
<ラジカル発生剤(B)>
ラジカル発生剤(B)としては前記一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)を使用する。
【0015】
前記一般式(I)で表されるラジカル発生剤(B)のR基およびR基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、炭素数5以上の分岐アルキル基を表す。この際、R基およびR基は、シクロヘキサン環および/または芳香環を含んでいてもよい。また、炭素数5以上の分岐アルキル基の中では、t−アルキル基が好ましく、その炭素数は6以上であることがより好ましい。更に、t−アルキル基の中では、t−ヘキシル基が特に好ましい。なお、ラジカル発生剤(B)は単独で使用してもよく、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。複数のラジカル発生剤を組み合わせて使用する場合には、少なくともそのうちの1種類以上が、前記一般式(I)で表されるラジカル発生剤(B)である必要がある。また、一般に知られているラジカル発生剤の分解促進剤を添加することに何ら制約はない。
【0016】
ラジカル発生剤(B)の例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイド、ジ−t−へキシルパーオキサイド、ビス(3−メチル−3−ペンチル)パーオキサイド、ビス(2,4,4−トリメチル−2−ペンチル)パーオキサイド、ビス(2−シクロヘキシル−2−プロピル)パーオキサイド、ビス(2−(4−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル)パーオキサイド、ビス(2−メチル−2−ウンデシル)バーオキサイド、ビス(2−(4−メチルフェニル)−2−プロピル)パーオキサイド、ビス(2−(4−イソプロピルフェニル)−2−プロピル)パーオキサイド、ビス(2−(3−クロロフェニル−2−プロピル)パーオキサイド、t−アミル−2−フェニル−2−プロピルパ−オキサイド、2−メチル−2ペンチル−2−フェニルー2−プロピルパーオキサイド、t−アミル−2−メチル−2−ペンチルパーオキサイド等の、シクロヘキサン環や、芳香環を含んでいてもよい炭素鎖が分岐した構造を持つジアルキルパーオキサイド類が挙げられ、中でもジ−t−アルキルパーオキサイド類が特に好ましい。
【0017】
<ラジカル重合性単量体(C)>
ラジカル重合性単量体(C)は、ラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有する。
【0018】
上記のラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合としては、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。また、上記の反応性置換基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、シアノ基などが挙げられるが、中でもエポキシ基の一種であるグリシジルエーテル基および/または水酸基が特に好ましい。なお、これらの反応性置換基は、通常、ラジカル重合性を有していない。
【0019】
ラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合と反応性置換基の結合位置は離れている方が好ましい。ラジカル重合性単量体(C)の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレート類、3−エチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート等のオキセタン環を有する(メタ)アクリレート類、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルポン酸類、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(N−置換)(メタ)アクリルアミド類、1,4−ブタンジオールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル等のポリオールとラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合基とから成る水酸基を有するエーテル類、4−ビニルオキシブタノールグリシジルエーテル、4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキシルメタノールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するアルコールとラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合基とから成るエポキシ基を有するエーテル類などが挙げられる。本発明においては、グリシジルエーテル基を有するラジカル重合性単量体の一種である、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルおよび/または水酸基を有するラジカル重合性単量体の一種である4−ヒドロキシブチルアクリレートを使用することが特に好ましい。
【0020】
<任意成分>
本発明では、基材への接着性をより付与させる目的で、必要に応じて一種類以上のシランカップリング剤を使用しても良い。使用するシランカップリング剤の有機官能基としては、反応性置換基、炭化水素基、置換基を有する炭化水素基などが挙げられるが、通常、ケイ素一個あたり一個又はそれぞれ異なる種類でもよい複数個の有機官能基で構成される。反応性置換基としては、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、シアノ基、イソシアナート基、チオール基などが挙げられる。炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基や、フェニル基などの芳香族基が挙げられ、これらの炭化水素基の水素原子の一部が、クロル基などのハロゲン基や、前記した反応性置換基で直換されている場合、置換基を有する炭化水素基と成る。中でも、(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基が好ましい。使用するシランカップリング剤の加水分解性基としては、クロル基などのハロゲン基、アルコキシ基などが挙げられるが、通常、ケイ素一個あたりそれぞれ異なる種類でもよい複数個の加水分解性基で構成される。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
【0021】
シランカップリング剤の例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフイド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランに代表される、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランを使用することが特に好ましい。
【0022】
また、本発明では、粘度調製、架橋性付与、その他の物性付与を目的として、下記のような化合物も使用できる。これらの化合物の例としては、炭素−炭素不飽和結合を一個有するラジカル重合性単量体として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等の(芳香環や脂環式構造、ハロゲン基、エーテル基等を有していてもよい)アルキル(メタ)アクリレート類が挙げられ、炭素−炭素不飽和結合を二個有するラジカル重合性単量体として、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリレート類が挙げられ、炭素−炭素不飽和結合を三個有するラジカル重合性単量体として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、および1,3,5−トリアリルイソシアヌレート、1,3,5−トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌル酸誘導体類が挙げられ、同一分子内にそれぞれ異なっていてもよい複数のラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合を有する化合物類として、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、4−ビニルオキシブチル(メタ)アクリレート、4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリレート類が挙げられ、また、一般的に使用される、エポキシ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類などの、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー類等も挙げられる。
【0023】
更に、本発明では、目的とする接着剤の物性を得るのに必要であれば、ラジカル重合性二重結合を有する重合体を併用してもよい。また、希釈剤として、用途や目的に応じ、水や溶剤も使用することが出来る。
【0024】
<接着性樹脂組成物>
次に、説明の便宜上、本発明の接着性樹脂組成物について説明する。本発明の接着性樹脂組成物は、前記の必須成分と任意成分とから成る。そして、各成分の使用割合は、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)100重量部に対し、次の通りである。
【0025】
ラジカル発生剤(B)は、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜3重量部である。ラジカル発生剤(B)の使用割合が上記の範囲より多い場合は、使用割合に見合った接着性が付与できない。ラジカル発生剤(B)の使用割合が上記の範囲より少ない場合は接着性付与効果が十分に発揮されない。
【0026】
ラジカル重合性単量体(C)は、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。ラジカル重合性単量体(C)の使用割合が上記の範囲より多い場合は、ラジカル重合性単量体(C)の一部が未反応で残存し、臭気や樹脂のべたつき等の問題が発生する恐れがある。ラジカル重合性単量体(C)の使用割合が上記の範囲より少ない場合は、接着性付与効果が十分に発揮されない。なお、ラジカル重合性単量体(C)は二種類以上を組み合わせて使用することが出来る。この場合、合計使用量が上記の範囲を満足する必要がある。
【0027】
任意成分のシランカップリング剤は、通常0,05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。シランカップリング剤の使用割合が上記の範囲より多い場合は、シランカップリング剤の一部が未反応で残存し、臭気や樹脂のべたつき等の問題が発生する恐れがある。シランカップリング剤の使用割合が上記の範囲より少ない場合は、接着性付与効果が十分に発揮されない。なお、シランカップリング剤は二種類以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0028】
上記の接着性樹脂組成物の接着現象の機構は、必ずしも明らかではないが、ラジカル重合性単量体(C)の次のようなスペーサー的作用に基づくものと推定される。すなわち、ラジカル重合性単量体(C)の反応性置換基は、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)と化学的に反応し、そして、ラジカル重合性単量体(C)のラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合は、ラジカル発生剤(B)によって活性化された基材表面とラジカル的に反応すると推定される。もしくはこれとは逆に、ラジカル重合性単量体(C)の反応性置換基は、基材表面と化学的に反応し、そして、ラジカル重合性単量体(C)のラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合は、ラジカル発生剤(B)によって活性化されたラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)とグラフト的に反応することも考えられる。
【0029】
換言すれば、ラジカル発生剤(B)とラジカル重合性単量体(C)とは、主要接着剤成分として使用されるラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)に対して接着性付与剤として機能する。そして、シランカップリング剤を使用した場合、ラジカル重合性単量体(C)のスペーサー的作用を強めて、効果的に接着性を付与させると考えられる。
【0030】
前記の必須成分の配合方法は、後述する本発明の接着性付与剤の説明を参酌することが出来る。なお、前記の任意成分は、ラジカル童合性二重結合を有さない重合体(A)、接着性付与剤、配合物または接着性樹脂組成物に対して、保存安定性の問題が起きない任意の段階で含有させることが出来る。
【0031】
本発明の接着性樹脂組成物は、後述する各種の基材に適用される。そして、接着剤、塗料、樹脂膜、コーティング剤、充填材、封止材、基材表面改質材などとして利用される。
【0032】
<接着性付与剤>
次に、本発明の接着性付与剤について説明する。本発明の接着性付与剤は、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)を主要接着剤成分として使用する際に使用される接着性付与剤であって、前記の一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)とラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)との組合せから成る。
【0033】
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)を主要接着剤成分として使用するとは、ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)100重量部に対し、ラジカル発生剤(B)0.1〜10重量部、ラジカル重合性単量体(C)0.1〜10重量部の割合で使用することを意味する。従って、ラジカル発生剤(B)とラジカル重合性単量体(C)との使用比率は上記の通りである。
【0034】
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)に対して接着性付与剤を含有させる場合、ラジカル発生剤(B)及びラジカル重合性単量体(C)を別々に含有させることも出来る。
【0035】
予めラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)に対して接着性付与剤のうちのラジカル重合性単量体(C)を含有させた配合物としてもよい。
【0036】
また、ラジカル発生剤(B)は、通常、ポットライフの観点から基材への塗布の直前にラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)とラジカル重合性単量体(C)の配合物に対して含有させることが好ましいが、予め上記の配合物にラジカル発生剤(B)を含有させることも出来る。
【0037】
<接着方法>
次に、本発明の接着方法について説明する。本発明の接着方法は、前記の接着性樹脂組成物を基材に塗布し、ラジカル発生剤(B)に起因するラジカルを発生させることを特徴とする。
【0038】
接着性樹脂組成物を基材に塗布した後、必要であれば一般的な方法による加熱や乾燥などを行った後、接着性樹脂組成物を加熱して接着性樹脂組成物を基材に接着させる。加熱温度は一般的には40〜200℃、好ましくは80〜160℃が適当である。基材として、金属、ガラス、木材、プラスチック等の様々な資材を使用することが出来る。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の例では、接着性樹脂組成物を、綿製の漁布に含浸させた後、基材に貼り合わせて接着した試験片を作成し、基材との接着力として剥離強度を測定した。また、以下の記載において「部」とあるのは「重量部」を意味する。
【0040】
<各種試験片の作成>
以下の諸例において、以下の要領で各種試験片を作成し、剥離試験に供した。
【0041】
<基材の選定および加工>
基材は、ナイロン6を使用した。ナイロン6は日本テストパネル社製(1mm厚)を長辺=70mm、短辺=25mmの短冊形に整形して各試験片作成に供した。なお、ナイロン6は、使用直前に、傷をつけないように表面をメタノールで拭き取り洗浄し、乾燥後に使用した。
【0042】
<綿製濾布の加工>
石川テント社製の綿製濾布(品番#11)を使用し、長辺=120mm、短辺=25mmの短冊形に整形して各試験片作成に供した。
【0043】
<接着性樹脂組成物の濾布への含浸>
油布を接着性樹脂組成物に浸し充分に含浸させた。接着性樹脂組成物の含浸量は、接着した試験片の厚さから基材の厚さを除いた厚さが0.7mmになるように調整した。
【0044】
<接着性樹脂組成物を含浸した濾布の貼り合わせと加熱>
接着性樹脂組成物を含浸させた濾布を、空気が入らないように一端を揃えて基材に貼り合わせたものを、厚み2.0mmのガラス板で挟み、そのガラス板の両端をクリップで固定し、120°Cまたは80℃で5時間、接着性樹脂組成物を加熱し基材に接着させた。その後、オーブンから取り出して室温まで冷却し、試験片として剥離試験に供した。
【0045】
<剥離試験方法>
オリエンテック社製の定速伸長引張試験機「テンシロンRTM−500」を使用し、900剥離強度を、引張速度=50mm/分で測定した。なお剥離強度は、全ての試験片の接着幅を25mmに統一したため、剥離強度の単位を「kg/25mm」として表した。
【0046】
実施例l〜3:
接着性樹脂組成物は次のような樹脂組成物1〜3とラジカル発生剤(B)、必要に応じてシランカップリング剤から調製した。
【0047】
(樹脂組成物1)
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)としてエポキシ樹脂(三菱化学社製;配合組成は重量比で、jER828(エポキシ樹脂)/jER871(エポキシ樹脂)/jERキュア3080(硬化剤)=6.5/3.5/3.5)の配合物100部に対して、ラジカル重合性単量体(C)として4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成社製;4HBAGE)3部を配合した。
【0048】
(樹脂組成物2)
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)としてエポキシ樹脂(三菱化学社製;配合組成は重量比で、jER828(エポキシ樹脂)/jER871(エポキシ樹脂)/jERキユア3080(硬化剤)=6.5/3.5/3.5)の配合物100部に対して、ラジカル重合性単量体(C)として4−ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成社製;4HBA)3部を配合した。
【0049】
(樹脂組成物3)
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)としてエポキシ樹脂(三菱化学社製;配合組成は重量比で、jER828(エポキシ樹脂)/jER871(エポキシ樹脂)/jERキユア3080(硬化剤)=6.5/3.5/3.5)の配合物100部に対して、ラジカル重合性単量体(C)として4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成社製;4HBAGE)2.7部、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤;信越化学工業社製;KBM5103)0.3部を配合した。
【0050】
(接着性樹脂組成物の調製)
樹脂組成物1、樹脂組成物2、樹脂組成物3,それぞれ103部に対して前記の一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)としてジ−t−へキシルパーオキサイド(日油社製;パーヘキシルD;10時間半減期温度116℃)1部を配合した。
【0051】
上記接着性樹脂組成物を使用して、前述の方法で試験片を作成して剥離強度を測定した。なお接着性樹脂組成物の加熱温度は、バーヘキシルDの10時間半減期温度を考慮して、全ての実施例で120℃とした。接着性樹脂組成物の加熱条件、および接着後の剥離強度を表1(シランカップリング剤配合せず)、表2(シランカップリング剤配合)に記載する。
【0052】
比較例1〜12:
バーヘキシルDに代えて、以下に記載のラジカル発生剤を使用し、樹脂組成物1,または樹脂組成物3から接着性樹脂組成物を調製した。接着性樹脂組成物の加熱温度を、比較例9および2のみ、カヤエステル0−50の10時間半減期温度を考慮して80℃とした以外は、実施例1および3と同様に試験片を作成して剥離強度を測定した。
【0053】
ラジカル発生剤としては、一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)には含まれない次のものを使用した。
【0054】
(パーオキシエーテル系ラジカル発生剤)
ジ−t−ブチルパーオキサイド(曰油社製;パーブチルD;10時間半減期温度124℃)(比較例l)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(日油社製;パーヘキシン25B;10時間半減期温度128℃)(比較例2,10)、および2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(曰抽社製;パーヘキサ25B;10時間半減期温度118℃)(比較例3)を使用した。
【0055】
(パーオキシカーボネート系ラジカル発生剤)
t−アミルパーオキシーイソプロピルカーボネート(化薬アクゾ社製;カヤカルボンAIC‐75;10時間半減期温度96℃)(比較例4)、t−へキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油社製;パーヘキシルI;10時間半減期温度95℃)(比較例5)を使用した。
【0056】
(パーオキシケタール系ラジカル発生剤)
1,1−ビス(t−へキシルパーオキシ)シクロヘキサン(日油社製;パーヘキサHC;lO時間半減期温度87℃)(比較例6)
【0057】
(パーオキシエステル系ラジカル発生剤)
t−ブチルパーオキシベンゾエート(日油社製;バーブチルZ;10時間半減期温度104℃)(比較例7)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(化薬アクゾ社製;カヤエステル0−50;10時間半減期温度74℃)(比較例8,9,11,12)を使用した。
【0058】
各接着性樹脂組成物の加熱条件、および接着後の剥離強度を表1(シランカップリング剤配合せず)、表2(シランカップリング剤配合)に記載した。
【0059】
参考例1〜2:
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体としてエポキシ樹脂(三菱化学社製;配合組成は重量比で、jER828(エポキシ樹脂)/jER871(エポキシ樹脂)/jERキュア3080(硬化剤)=6.5/3.5/3.5)のみを使用した樹脂組成物4を接着性樹脂組成物として調製し、加熱温度を参考例2において80℃とした以外は、実施例lと同様に試験片を作成して、接着後の剥離強度を測定した。剥離強度を表3に記載した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)を主要接着剤成分として使用する際に使用される接着性付与剤であって、以下の一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)とラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に一個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)との組合せから成ることを特徴とする上記の接着性付与剤。
[化1]
−O−O−R (I)
(上記一般式(I)中、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい、炭素数5以上の分岐アルキル基を表す。)
【請求項2】
ラジカル重合性単量体(C)がグリシジルエーテル基および/または水酸基を有する単量体である請求項1に記載の接着性付与剤。
【請求項3】
ラジカル重合性単量体(C)が4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルおよび/または4−ヒドロキシブチルアクリレートである請求項1または2に記載の接着性付与剤。
【請求項4】
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)100重量部に対し、ラジカル発生剤(B)0.1〜10重量部、ラジカル重合性を有する炭素−炭素不飽和結合とそれとは異なる位置に更に−個以上の反応性置換基を有するラジカル重合性単量体(C)0.1〜10重量部を含有する接着性樹脂組成物であって、ラジカル発生剤(B)として請求項1に記載の一般式(I)で表されるジアルキルパーオキサイド系ラジカル発生剤(B)を使用することを特徴とする接着性樹脂組成物。
【請求項5】
ラジカル重合性単量体(C)がグリシジルエーテル基および/または水酸基を有する単量体である請求項4に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
ラジカル重合性単量体(C)が4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルおよび/または4−ヒドロキシブチルアクリレートである請求項4または5に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項7】
ラジカル重合性二重結合を有さない重合体(A)が、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂の群から選択される少なくとも1種である請求項4〜6の何れかに記載の接着性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4〜7の何れかに記載の接着性樹脂組成物を基材に塗布し、ラジカル発生剤(B)に起因するラジカルを発生させることを特徴とする接着方法。

【公開番号】特開2012−180435(P2012−180435A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43528(P2011−43528)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】