接続異常検出方法、ネットワークシステムおよびマスター装置
【課題】マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおいて、スレーブ装置の接続異常を検出するための技術を提供する。
【解決手段】本発明の接続異常検出方法は、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、マスター装置からのデータは各スレーブ装置を経由して戻されるネットワークシステムにおける接続異常検出方法であって、各スレーブ装置は上流側ポートと下流側ポートを有し、接続異常検出方法は、ネットワークシステムのトポロジ情報を取得するステップと、対象スレーブ装置が最下流とする直列のトポロジを形成するように、各スレーブ装置のポートを遮断または開放するポート制御ステップと、ポート制御の後で検査用データを送信するステップと、検査用データの戻り状況に基づいて装置の接続異常を検出するステップを有する。
【解決手段】本発明の接続異常検出方法は、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、マスター装置からのデータは各スレーブ装置を経由して戻されるネットワークシステムにおける接続異常検出方法であって、各スレーブ装置は上流側ポートと下流側ポートを有し、接続異常検出方法は、ネットワークシステムのトポロジ情報を取得するステップと、対象スレーブ装置が最下流とする直列のトポロジを形成するように、各スレーブ装置のポートを遮断または開放するポート制御ステップと、ポート制御の後で検査用データを送信するステップと、検査用データの戻り状況に基づいて装置の接続異常を検出するステップを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおける接続異常検出方法、ネットワークシステムおよびマスター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FA(Factory Automation)の分野においては、様々な種類の装置が作業の工程を分担して制御が行われる。工場施設等一定の領域において作業に用いられる各種のコントローラやリモートI/O、製造装置を連携して動作させるために、これらの装置を接続する、フィールドネットワークとも呼ばれる産業用ネットワークシステムが構築されている。
【0003】
多くの産業用ネットワークシステムでは、工場内に設置される生産設備のデータ収集及び制御を行う各種のスレーブ装置と、複数のスレーブ装置を集中管理するマスター装置が接続され通信を行うことにより生産工程が制御される。
マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークは、装置間の連携や配線の都合に応じて、直列状、リング状、ツリー状またはスター状など、様々なトポロジを取り得る。
【0004】
直列状トポロジにおいては、全てのスレーブ装置はマスター装置を起点とした1本の伝送路の中に含まれる。マスター装置を上流とすると、上流側から伝送路に流れてきた情報信号は、直列に接続されたスレーブ装置を次々と通過して最下流のスレーブ装置に到達する。その後情報信号は最下流から折り返し送信され、マスター装置に戻ってくる。また、リング状トポロジにおいては、マスター装置は情報信号を送出する側と受信する側の2つのポートを持っており、送出された情報信号はスレーブ装置を次々と通過したのち、受信側のポートから戻ってくる。このように、直列状トポロジやリング状トポロジでは、情報信号が分岐のない1本の伝送路を通過する。
【0005】
一方、ツリー状またはスター状トポロジにおいては、マスター装置からの経路が分岐している。分岐箇所にはネットワーク機器として、上流側に接続する1つのポートと、下流側にスレーブ装置を接続する複数のポートを有するハブ装置が配置される。あるいはスレーブ装置自身が複数の他のスレーブ装置を直接接続させる場合もある。
【0006】
FAの分野を対象とした産業用ネットワークシステムの一例として、イーサネット(登録商標)の技術を適用した産業用イーサネットと呼ばれる技術の開発が進んでいる。産業用イーサネットは、工業用イーサネットまたはリアルタイムイーサネットとも呼ばれ、イーサネットの技術や機器を様々なレイヤーでFA分野に導入したネットワークである。産業用イーサネットとして様々な団体がオープンな規格を制定し公開しており、ETG(EtherCAT Technology Group)が推進するEtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology:登録商標)もその一つである。
【0007】
EtherCATの規格においても上述した各種のトポロジをサポートしており、数珠つなぎによる直列状の接続や、ハブ装置を用いた分岐を組み合わせることが可能である。またEtherCATにおいては、マスター装置から送出された情報信号は特定の宛先にのみ届くのではなく、同じ信号が全てのスレーブ装置によって利用される。情報信号にはスレーブ装置ごとの制御データが含まれているので、スレーブ装置は信号の中から自身を対象とした部分を読み出し、必要に応じて書き換えを行った上で下流のスレーブ装置に受け渡す。したがって情報信号はネットワーク内の一箇所に留まることなく最下流まで到達
するので、高速かつデータの衝突が起きない通信を実現できる。
【0008】
上記のようにEtherCATにおける情報信号は、いわば一筆書きのような経路をたどってネットワーク内を移動する。このような特性は分岐箇所を含むトポロジであっても変わらない。すなわち、マスター装置から送出された情報信号が分岐箇所であるハブ装置に到達すると、複数のポートの中から所定のポートが選ばれ、そこに接続されたスレーブ装置に送信される。そして、そのスレーブ装置の下流に他のスレーブ装置がある場合、情報信号は順次受け渡され、最下流まで到達した後ハブ装置に戻される。続いて、ハブ装置に含まれる別のポートに接続されたスレーブ装置に送信される。
【0009】
特開2008−124791号公報(特許文献1)には、イーサネットにおいてケーブル接続ミスや設定ミスを検出するためのネットワーク障害の監視方法が記載されている。特開2010−034876号公報(特許文献2)には、ネットワークの中継装置や通信回線における障害発生の検出と、障害発生箇所を特定する方法が記載されている。しかし、いずれの文献においても、マスター装置とスレーブ装置が通信する産業用ネットワークシステムにおいて接続異常を検出する方法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−124791号公報
【特許文献2】特開2010−034876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したEtherCATの規格に従って構築された産業用ネットワークシステムにおいては、マスター装置とスレーブ装置の間にケーブル障害などの接続異常が起こった場合に、その発生箇所を検出することが難しいという課題があった。このため障害検出用の様々な手段が用意されている標準のイーサネット規格に比べ障害からの復旧に時間を要するおそれがあった。この課題について以下説明する。
【0012】
図2(a)は、一般的なイーサネットの標準に従って5台のノードN1〜N5がハブ接続された様子を示している。ここで、ノードN4をハブに接続するケーブルに異常が発生したとする。利用者のノードであるN1から他のノードとの通信に障害が発生しているかどうかを検出するために、ネットワーク内のノードを指定して個別に通信が成立するかどうかを確認する方法がある。この際には相手ノードにパケットを送信し返信を要求するpingコマンドのような機能を用いれば良い。ノードN4から返信がない場合、障害が発生したことを検出できる。他にもノード間で相互監視する仕組みを設けることによっても早期の障害検出を実現できる。
【0013】
図2(b)は、EtherCATの規格に従ったネットワーク構成を示しており、マスター装置Mと4台のスレーブ装置S1〜S4が直列状のトポロジで接続されている。ここでマスター装置から送出された情報信号は、丸数字1〜4のように全てのスレーブを通過して下流側に順次受け渡される。そしてスレーブS4まで到達した後、逆の経路をたどってマスター装置に戻ってくる。したがって、例えばスレーブS3とS4の間のケーブル障害により情報信号がマスター装置に戻らなかった場合でも、経路中のどの場所で障害が起きたのかマスター装置が知ることはできない。
【0014】
障害が発生した場所をマスター装置から検出できない場合、問題の切り分けのために接続箇所を一つずつ確認する必要があり、多大な時間を要する。また問題が利用者の手に余る場合にはカスタマーエンジニアによる検査が必要となり、復旧に要する時間と費用がさ
らに増大するおそれがある。
【0015】
EtherCATには上述したように情報信号が一筆書きの経路を取るという特徴があるので、ネットワーク内のスレーブ装置が正しく接続されていないと、情報信号がネットワーク内で正しく受け渡されず、期待された制御が行えないようになる。正しくない接続とは例えば、ケーブルの品質が悪く通信の一部または全部が欠落するような状態や、スレーブ装置のポートにケーブルを挿すときに誤った種類のポートを選んでしまうことなどである。従って、障害発生箇所を早期に検出できないことは、生産工程における誤った制御を招き、ネットワーク全体の安定的な運用を阻害する結果になるとともに、ユーザビリティの低下につながる。
【0016】
EtherCATのベンダによっては接続異常に対応する仕組みを用意している場合がある。例えば一定時間に情報信号が戻ってこなかった場合、その情報信号を再度送出することにより、システム全体の通信品質を向上させようとする仕組みである。ただしこの方法は障害を本質的に解決したとは言えない上に、ネットワーク内のどの個所で障害が発生しているのかまでは検出できない。さらに情報信号を再送することにより一定の通信リソースが消費されてしまうので、ネットワークの帯域を圧迫するおそれがある。
【0017】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおいて、スレーブ装置の接続異常を検出するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は以下の第1の構成を採用する。すなわち、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻される、ネットワークシステムにおける接続異常検出方法であって、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、前記接続異常検出方法は、前記マスター装置が、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得するステップと、前記マスター装置が、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御ステップと、前記マスター装置が、前記ポート制御ステップの後で検査用データを送信するステップと、前記マスター装置が、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出するステップと、を有することを特徴とする接続異常検出方法である。
【0019】
このような接続異常検出方法によれば、マスター装置から送信されるデータがトポロジに含まれる全てのスレーブ装置を経由するネットワークシステムにおいても、対象スレーブ装置を特定してから検査用データを送受信して接続異常の有無を調べることができる。その結果異常の発生した箇所を容易に特定し、利用者に通知することが可能になるため、障害に対して迅速に対応を取ることができるようになる。
【0020】
また、本発明は以下の第2の構成を採用することもできる。すなわち、前記検出するステップにおいて前記対象スレーブ装置の接続異常が検出されなかった場合、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置の下流側ポートに接続されているスレーブ装置を新たな対象スレーブ装置として、前記ポート制御ステップを実行するような構成を取ることができる。
【0021】
このような接続異常検出方法によれば、ネットワークシステムに含まれるスレーブ装置を、上流側の装置から下流側に向けて1つずつ検査することができる。したがって検査済みの部分を少しずつ広げることが可能になる。そのため、再度検出するステップを試行したときに接続異常が検出された場合、新たに広げられた検査対象の部分が異常の原因であることが明確にできるので、障害発生箇所の迅速な特定に寄与できる。
【0022】
また、本発明は以下の第3の構成を採用することもできる。すなわち、前記ネットワークシステムのトポロジが分岐箇所を含む場合、前記ポート制御ステップにおいて、前記マスター装置は、分岐先のうち1つを選択して直列のトポロジを形成するような構成を取ることができる。
【0023】
このような接続異常検出方法によれば、分岐箇所がある場合でも、1つの分岐先を選択してマスター装置とスレーブ装置間の通信を可能にし、他の分岐先を遮断することにより、直列トポロジを形成することが可能である。選択した分岐先に接続異常がなければ順々に分岐先を変えることにより、ネットワークシステムに含まれる全てのスレーブ装置を検査することができる。
【0024】
また、本発明は以下の第4の構成を採用することもできる。すなわち、前記複数のスレーブ装置はケーブルにより接続されており、前記送信するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置に複数回の検査用データ送信を行い、前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記送信するステップにおいて検査用データを送信した回数よりも、戻ってきた検査用データを受信できた回数が少ない場合に、前記対象スレーブ装置を接続するケーブルに異常があるものとするような構成を取ることができる。
【0025】
このような接続異常検出方法によれば、スレーブ装置に送信した検査用データのうち戻ってこないものの数を検査することにより、当該スレーブ装置を接続するケーブルに障害があるかどうかを確認することが可能になる。
【0026】
また、本発明は以下の第5の構成を採用することもできる。すなわち、前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報には、各スレーブ装置が接続される順序およびスレーブ装置間の接続に用いられるポートの種類に基づいて定められるポジションアドレスが含まれており、前記送信するステップにおいて前記マスター装置が送信する検査用データは、前記ポート制御ステップにおいて形成された直列のトポロジに含まれるスレーブ装置の台数を確認するためのデータであり、前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記トポロジ情報および前記ポジションアドレスから求められる前記対象スレーブ装置までの装置台数の期待値と、戻ってきた前記検査用データにより確認される装置台数が一致しない場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとするような構成を取ることができる。
【0027】
このような接続異常検出方法によれば、スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートの取り違えに起因してポジションアドレスが誤って割り振られたことを検出できるので、マスター装置から接続異常のあった箇所を特定することが可能になる。
【0028】
また、本発明は以下の第6の構成を採用することもできる。すなわち、上記第5の構成において、前記対象スレーブ装置がネットワークシステムの最下流に位置するスレーブ装置である場合、前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報は、前記スレーブ装置のポートごとの他の装置との接続状況を含んでおり、前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置が有するポートのうち上流側ポートにのみ他の装置が接続されている場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとするような構成をとることができる
。
【0029】
このような接続異常検出方法によれば、第5の構成によっては対象スレーブ装置までの装置台数の期待値と検査用データにより確認された台数の比較により接続異常を求められない場合であっても、上流側ポートと下流側ポートの取り違えを検出することが可能になる。
【0030】
また、本発明は以下の第7の構成を採用することも出来る。すなわち、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻されるネットワークシステムであって、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、前記マスター装置は、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する手段と、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、を有することを特徴とするネットワークシステムである。
【0031】
このようなネットワークシステムによっても、異常の発生した箇所を容易に特定し、利用者に通知することが可能になるため、障害に対して迅速に対応を取ることができるようになる。
【0032】
また、本発明は以下の第8の構成を採用することも出来る。すなわち、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻され、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しているようなネットワークシステムにおけるマスター装置であって、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する段と、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、を有することを特徴とするマスター装置である。
【0033】
このようなマスター装置によっても、異常の発生した箇所を容易に特定し、利用者に通知することが可能になるため、障害に対して迅速に対応を取ることができるようになる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおいて、スレーブ装置の接続異常を検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマスター装置とスレーブ装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】イーサネットとEtherCATにおける情報信号の伝達の違いを説明する図である。
【図3】本発明の全体的な処理を説明するフロー図である。
【図4】本発明の実施例1におけるポート制御を説明する図である。
【図5】本発明の実施例1におけるテストモードの処理を説明するフロー図である。
【図6】本発明の実施例2におけるポート制御を説明する図である。
【図7】本発明の実施例3における処理を説明する図である。
【図8】本発明の実施例3におけるテストモードの処理を説明するフロー図である。
【図9】本発明の実施例4における処理を説明する図である。
【図10】産業用ネットワークシステムの構成例を説明するブロック図である。
【図11】本発明の実施例5における処理を説明する図である。
【図12】本発明の実施例5におけるテストモードの処理を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。以下の実施例ではEtherCATの規格に即したシステム構築方法を取り上げるが、本発明の対象はこれに限られない。マスター装置とスレーブ装置を有し、マスター装置から送出された情報信号が各スレーブ装置を経由して戻るような経路を取る産業用ネットワークシステムであれば、本発明を適用する対象とすることができる。
【0037】
(産業用ネットワークシステムの構成)
まず、図10を用いて本発明が対象とする産業用ネットワークシステムの構成例を示す。本図において、産業用ネットワークシステム100は、マスター装置200(PLC:Programmable Logic Controller)と複数のスレーブ装置300とが、ケーブル400や装置に備わるI/Oユニット500、ハブ装置700を介して直接的又は間接的に接続されることにより形成される。スレーブ装置300には、電源ユニット,モータユニット,カウンタユニット,画像ユニット,通信ユニット,I/Oユニット等がある。マスター装置200には、ユーザがマスター装置200の動作設定、産業用ネットワークシステム100の動作状態の表示、ネットワークの設計など行うための管理装置600が接続されることもある。管理装置600は設定ツールがインストールされたパーソナルコンピュータなどにより構成される。
【0038】
ハブ装置700は、マスター装置側を上流としたときに、上流側に接続する1つのポート701と、下流側に接続する複数のポート702a〜702cを有している。利用者は各装置をケーブルやハブ装置を用いて順序や分岐を設定しながら接続することにより、所望のトポロジを作ることができる。分岐構造は、ハブ装置だけではなく、スレーブ装置が下流側に複数のスレーブ装置を接続することによっても作ることができる。
EtherCATにおいてはケーブル400に関して、一般のイーサネットの規格で使用されるものの転用や、イーサネット用機器の製造設備での製造が可能である。これにより費用削減を実現している。
【0039】
産業用ネットワークシステム100はEtherCATの規格に準拠したネットワークであり、例えば工場等に敷設されFAシステムとして利用される。マスター装置200は、プログラムやオペレーションに従い、ネットワークを通じて制御データを含む情報信号を送信する。スレーブ装置300は、情報信号に含まれるマスター装置からのリクエストへの応答として、受信した情報信号に基づく装置動作や、受信した情報信号の書き換えおよび返送処理を行う。産業用ネットワークシステム100を含む工場における生産は、マスター装置が動作の内容やタイミングを制御することによりスレーブ装置全体が連動して作業を分担することにより達成される。
【0040】
イーサネットのような規格では、ネットワーク内での装置の並び順は特に限定されない
。これは各装置が、ネットワーク内の位置と関係なく割り当てられる、macアドレスのような一意の物理アドレスを持つことによる。
【0041】
一方、EtherCATの規格においては、接続順序に基づくネットワーク上の装置の位置が、マスター装置とスレーブ装置との間の情報伝達に意味を持つ。これは、スレーブ装置がmacアドレスのような絶対的なアドレスを持たず、マスター装置はネットワーク内の位置(ポジションアドレス)を基にして各スレーブ装置のアドレス(ノードアドレス)を割り当てるためである。マスター装置が送出する情報信号は全てのスレーブ装置を対象としており、各スレーブ装置は情報信号のうち自身のアドレスに対応する位置に対して読み書きを行う。従って直列状に並ぶスレーブ装置の配線の順序が設計支援システムにより設計された情報と違っている場合、マスター装置が想定している相手とは異なるスレーブが情報信号の読み書きを行ってしまう。その結果、スレーブ装置に対する制御データが正しくないためにモータ等の動作が異常をきたすような事態や、情報信号が誤ったスレーブにより上書きされて整合性を取れなくなる事態が生じる可能性がある。
【0042】
<実施例1>
本実施例では、かかるEtherCATの規格に沿って構築されたネットワークにおいて、スレーブ装置の接続異常としてケーブル障害が発生した場合に、マスター装置からの制御によって障害発生個所を検出する方法について説明する。
【0043】
(装置構成)
図1は、本実施例にかかるマスター装置およびスレーブ装置の構成を示すブロック図である。マスター装置200は、トポロジ取得手段201、ポート制御手段202、送受信手段203、判定手段204、制御手段205、ポート206を有している。
【0044】
トポロジ取得手段201は、マスター装置の下流側に接続されている全てのスレーブ装置と通信を行って情報を収集する。収集する情報の内容については後述する。そして、収集した情報を元に現在のトポロジを解釈する。ポート制御手段202は、ネットワーク内の各スレーブ装置に対して、ポートごとに開放するか遮断するかを指示する。あるスレーブ装置のポートが遮断された場合、そのポートより下流側のスレーブ装置には情報信号は受け渡されないので、ネットワークのトポロジが変化する。本実施例の接続異常検出においては、ネットワークのトポロジを直列状に変化させて、その直列状トポロジの最下流に位置するスレーブ装置を対象スレーブ装置とする。そして、対象スレーブ装置を上流側につなぐケーブルの品質が検査される。
【0045】
マスター装置の送受信手段203は、スレーブ装置への情報信号の送受信を管理する。テストモードにおいては特に、情報信号を複数回送出し、当該送出した情報信号のうち戻ってきたものの割合を求める。判定手段204は、ポート制御手段のポート開放および遮断制御により構築された現時点でのトポロジと、送受信手段が情報信号の受信に成功した割合とに基づいて、対象スレーブ装置に接続異常があるかどうか判定する。
【0046】
制御手段205はプログラムを実行するCPU等であり、不図示の制御線を経由してマスター装置の各ブロックを制御する。ポート206はマスター装置からの情報信号を下流のスレーブ装置に送出するとともに、スレーブ装置から戻ってきた情報信号を受信する。情報信号送出時と受信時で異なるポートを用いても良い。
【0047】
スレーブ装置300は、送受信手段301、制御手段302、上流側のポート303a(INポート)、下流側のポート303b(OUTポート)を有している。スレーブ装置の送受信手段301は、上流側からの情報信号を受信して自スレーブ装置を対象とする位置から情報を読み取り、必要に応じて書き換えも行う。制御手段302はマスター装置同
様CPU等からなり、不図示の制御線を経由した制御を行う。上流側のポート303aはスレーブ装置内に1つだけ存在する。一方下流側のポート303bは、スレーブ装置内に複数個存在しても良い。
本図ではスレーブ装置を1つだけ記載したが、実際には下流側のポート303bに続いて、本図と同様の構成を持つスレーブ装置が利用者の所望のトポロジで接続されている。
【0048】
なお、EtherCATの規格に従ってネットワークを設計する際にはスレーブ装置間の接続順序やハブ装置におけるポート番号といったようなトポロジを意識した設計を行うことが必要になる。しかし通常の利用者がSEやカスタマーエンジニアのような専門知識や経験を有しているとは限らない。そこで、グラフィカルな表示によりトポロジを理解しやすくして設計作業を助けるための設計支援システムを提供することが好ましい。設計支援システムは、マスター装置に接続された管理装置として提供される。管理装置は、設定情報を作成するアプリケーションである設定ツールをインストールしたパーソナルコンピュータなどである。利用者が管理装置のディスプレイ上に表示されたGUIから、キーボードやマウスなどの入力装置による操作を行うことで容易な設計が可能になる。
【0049】
(全体の処理フロー)
まず、本実施例全体の処理フローについて図3を参照しつつ説明する。ステップS301にてマスター装置の電源がONにされ、ステップS302にてネットワークにオンライン接続される。するとマスター装置の送受信手段201はポート206を経由して、立ち上げ時の初期処理として、あるいは利用者の明示的な操作に従い、ネットワーク内の各スレーブ装置と通信を行い、スレーブ装置に関する情報を収集し保存する(ステップS303)。このとき配線上のスレーブ装置の位置に応じて定まるアドレスによるアクセスが行われる。この時得られる情報としては、装置の名称、OUTポートが複数ある場合はその数と遮断と開放の状況、ポートごとの接続先装置名などがある。
【0050】
ステップS304にて、マスター装置のトポロジ取得手段201は、ネットワークのトポロジの解釈を行う。すなわち、上記ステップS303で取得した情報は、スレーブ装置がポートを介して結びついている構造を示す情報であるため、全スレーブ装置から得た情報を突き合わせて所定のアルゴリズムで解析することによりトポロジを解釈できる。なお、既にトポロジ情報がマスター装置に記憶されている場合、ステップS303およびS304を行わず、すぐにテストモードに移行することができる。
そしてステップS305が、本実施例を特徴付けるテストモードである。この処理の詳細については別のフロー図を用いて後述する。テストモードにおいてはネットワーク内にケーブル障害等の接続異常があるかどうか、および、もし異常があれば発生箇所が検出される。
【0051】
接続異常があった場合(ステップS306=YES)、管理装置の画面への表示、音声、LEDの点灯など何らかの手段で利用者に通知する(ステップS307)。例えば管理装置のディスプレイにグラフィカルに表示されたネットワークのトポロジ図上に障害発生箇所を表示することは、利用者の理解を助ける点で好ましい。異常を通知された利用者は発生した障害の発生した場所を知ることができるので、問題の切り分けに時間を要することなく迅速な対応が可能になる。
【0052】
(テストモードの処理フロー)
続いて、接続異常検出を行うテストモードの開始から終了までの処理フローを、図5を参照しつつより詳細に説明する。必要に応じて、図4に示した産業用ネットワークシステムのトポロジの模式図も参照する。フロー処理開始の時点では、マスター装置とスレーブ装置は電源が入った状態で接続されている。テストモードとは、産業用ネットワークシステムによる生産工程とは異なり、接続異常を検出するための専用のモードである。テスト
モードへの移行は利用者が明示的な行為、例えばマスター装置に接続された管理装置上のGUIからの入力や、物理的なスイッチやボタン等の操作などにより行われる。あるいは情報信号が途絶した場合にテストモードに移行するようにしても良い。テストモードに入った後の一連の処理は制御手段が自動的に行って結果を表示するようにしても良いし、利用者が状況を確認しながら段階を追って行っても良い。
【0053】
ステップS501において、産業用ネットワークシステムがテストモードに移行する。これにより通常の情報信号による制御からケーブル接続確認に移行する。
ステップS502において、接続状況を確認するべき対象スレーブ装置が決定される。対象スレーブ装置はネットワークから1つ選択される。本実施例では特に、EtherCATの性質に鑑みて、ネットワークの上流側から順々に対象スレーブ装置を選択する。図4(a)〜(d)は処理の様子を時系列に沿って示しており、スレーブ装置S1〜S4の順に選択対象となる。
【0054】
ステップS503において、マスター装置のポート制御手段202が各スレーブ装置のポート遮断と開放を指示することにより、対象スレーブ装置までの直列のトポロジが形成される。例えば図4(a)では、対象スレーブ装置として選択されているスレーブ装置S1の下流側のポートが遮断される。これにより、マスター装置とスレーブ装置S1からなる直列のトポロジができる。
ステップS504において、マスター装置の送受信手段203によって対象スレーブ装置まで複数回の情報信号送信と、戻ってきた情報信号の受信の試行が行われる。情報送受信回数は任意であり、本実施例では例えば100回とする。そしてマスター装置の送受信手段203は、送信した回数に対して受信に成功した回数を求める(ステップS505)。
【0055】
受信に成功した回数が100回であれば、対象スレーブ装置(ここではS1)までの接続に異常なしと判断できる(ステップS507)。一方成功回数が100回に満たなければ、対象スレーブ装置までの接続に異常ありと判断される(ステップS506)。異常ありと判断された場合は、全体の処理フローで述べたように、利用者に障害発生箇所を通知して対応を促す。複数回送信する情報信号が、本実施例での検査用データとなる。
【0056】
ネットワークに含まれる全てのスレーブ装置のチェックが済んでいなければ(ステップS508=NO)、対象スレーブ装置決定(S503)に戻って処理を続行する。その際のスレーブ装置選択について図4(b)に示す。この場合、図4(a)で形成したトポロジを延長するために、現時点の対象スレーブ装置S1より一つ下流側にあるスレーブ装置S2を選択する。そして前回処理における対象スレーブ装置S1の下流側ポートを開放するとともに、新たな対象スレーブ装置S2の下流側のポートを遮断し、複数回の情報信号送受信を行う。送信回数と受信回数が一致していれば、スレーブ装置S2に関する接続異常はないものと判断される。
【0057】
この時点で、既に異常はなしと判断されていたマスター装置とスレーブ装置S1との間に加えて、スレーブ装置S1とS2の間も異常なしと判断される。このように上流側から順次異常を検出していくことにより、検査済みの区間を延長することができる。
続いて、図4(c)において同様にスレーブ装置S3が新たな対象スレーブ装置となり、下流側のポートが遮断され、複数回の情報信号送受信に問題がないかチェックされる。
【0058】
そして対象スレーブ装置がS4に移ったとき、ステップS505の判断において送信回数と受信回数が一致しなかったとする。送受信回数が一致しないケースの中には一部の情報信号だけが戻ってこないケースと、受信が全く途絶するケースがあり得る。いずれのケースであっても何らかの接続異常が発生したと判断できるし、戻ってこない情報信号の割
合によって異常の深刻度を判断できる可能性もある。
この場合、マスター装置とスレーブ装置S1の間、スレーブ装置S1およびS2の間、スレーブ装置S2とS3の間は異常なしと分かっているので、新たに直列状トポロジに追加された、スレーブ装置S3とS4の間のケーブルで異常が発生したと分かる。
【0059】
このように、個別のスレーブ装置を指定した通信ができず、情報信号が全てのスレーブ装置を通過する産業用ネットワークシステムであっても、障害が発生した場所をマスター装置の側から特定できる。この情報を利用者に伝えることにより障害からの迅速な復旧に寄与することができる。したがって専門的な知識を有しない利用者であっても障害への対応が可能となり、高い安定性とユーザビリティの向上に配慮したネットワークを提供することができる。
【0060】
<実施例2>
本実施例では、ネットワークにハブ装置や、複数の下流側ポートを持つスレーブ装置などの分岐箇所が含まれる場合に直列状トポロジを形成する方法について述べる。この方法により、様々なトポロジのネットワークに上記実施例1のような接続異常の検出方法を適用できる。
【0061】
図6は、本実施例のトポロジ形成について説明するための図である。
図6(a)は、検出処理が始まって最初の処理である。図5のフロー中のステップS502においてスレーブ装置S1が対象スレーブ装置として決定される。S503においてスレーブ装置S1の下流側ポートが遮断、上流側のポートが開放されてトポロジが直列状になる。
【0062】
形成された直列状トポロジ内にケーブル障害がなければ、処理はフロー内のループを経て2回目のステップS502に移行する。この様子を図6(b)に示す。ここではスレーブ装置S2が対象スレーブ装置である。スレーブ装置S2の2つの下流側ポートには他のスレーブ装置が接続されており、分岐箇所となる。そのポートを2つとも遮断することで、マスター装置からスレーブ装置S2までの直列状トポロジができる。
【0063】
ここまで接続異常が確認されなければ、図6(c)に示すように、片方の分岐先にあるスレーブ装置S3が対象スレーブ装置として選択される。そして、スレーブ装置S2のうちS3に接続する側のポートだけが開放され、スレーブ装置S5に接続する側のポートは遮断される。ここでスレーブ装置S2とS3の間のケーブルに障害があった場合、マスター装置から送出された情報信号の送信回数と受信回数が一致しないので、マスター装置の判定手段により何らかの異常が起きたことを検出できる。
【0064】
一方、もしスレーブ装置S3に続いてS4まで検査しても異常が発見されなければ、別の分岐先の検査に移る。そのために、スレーブ装置S2の2つのポートのうち、スレーブ装置S3側のポートを遮断し、スレーブ装置S5側のポートを開放する。
【0065】
EtherCATの規格に従ったネットワークにおいては分岐箇所を含む様々なトポロジが想定される。しかし分岐のあるネットワークであっても、本実施例の方法によれば、分岐の枝ごとに上流側から順々にスレーブ装置を特定してポート制御手段による指示を行い、障害発生箇所を知ることができる。
【0066】
<実施例3>
本実施例では、検出対象となる接続異常は、スレーブ装置同士を接続する際のポートの種類を取り違えたポート誤接続である。特に、対象スレーブ装置に上流側からケーブルを接続するときに、本来は対象スレーブ装置のINポートにケーブルを挿すべきところ、誤
ってOUTポートにケーブルを挿してしまった場合を取り上げる。上流側のスレーブ装置のOUTポートと対象スレーブ装置のOUTポートとがケーブルで結ばれていることから、このような誤接続をOUT−OUT接続とも呼ぶ。
【0067】
図7を参照しつつ、OUT−OUT接続があった場合の問題を述べる。ここでは単純化のために1台のマスター装置Mと、4台のスレーブ装置S1〜S4を含む直列状トポロジについて検討する。まず図7(a)に各装置のINポートとOUTポートが正常接続された様子を示す。
このとき、ネットワーク内のスレーブ装置にはその位置に基づくアドレス(ポジションアドレス)が割り当てられている。例えばアドレスの番号を上流側から増加させていく場合、ポジションアドレスはスレーブ装置S1=1、スレーブ装置S2=2、といったように割り当てられる。なおここに示したポジションアドレスの設定ルールは一例に過ぎず、本発明を適用する産業用イーサネットの規格ごとに適宜変更できる。
【0068】
一方、図7(b)に示したのはOUT−OUT接続がある場合の模式図である。すなわち、スレーブ装置S1のOUTポートから伸びたケーブルは、スレーブ装置S2のINポートではなく、OUTポートに誤って接続されている。そのためスレーブ装置S2のINポートは、下流側のスレーブ装置S3に接続されている。このときのポジションアドレスは、スレーブ装置S1=1については図7(a)と同じだが、誤接続があったスレーブ装置S2より下流においては図7(a)とは異なった番号になる。
【0069】
このようにポジションアドレスが振られるのは、EtherCATの規格に起因する。この様子を、図7(c)を用いて説明する。各スレーブ装置のポジションアドレスは、マスター装置から送出された情報信号が処理される順番に基づいて決定される。そしてスレーブ装置はINポートから受け渡された情報信号を対象として各種の処理を行うので、ポジションアドレスは丸数字1〜4の順に割り当てられることになる。
【0070】
このように、ポートの誤接続はポジションアドレスが誤って振られる原因となる。その結果、マスター装置が情報信号の中に各スレーブ装置への制御データを設定する際の想定と実際のポジションアドレスが異なってしまう。そのために発生し得る意味を成さないデータの受け渡しや意図しない上書きを防止するために、OUT−OUT接続を容易に検出する方法が必要となる。
【0071】
(処理フロー)
図8を参照しつつ本実施例の処理フローを説明する。必要に応じて、図7に示したトポロジも参照する。フロー処理開始の時点の条件は実施例1と同様であり、誤接続のテストモードに入った時点から処理を開始する。比較のために、図7(a)の正常接続と図7(b)の誤接続それぞれのネットワークに本実施例の検査方法を適用した場合の挙動を検討する。
【0072】
ステップS801〜S803では、図5のステップS501〜S503と同様の処理を行う。すなわち、ステップS801においてテストモードに移行し、ステップS802において対象スレーブ装置が決定される。対象スレーブ装置がネットワーク上流側から順に選択されることも実施例1と同様である。
ステップS803において、マスター装置のポート制御手段からの指示により各スレーブ装置のポートごとの遮断または開放が決定され、対象スレーブ装置までの直列状トポロジを構築する。マスター装置はこのとき、全体の処理フローにおいてトポロジ解釈を行って入手した情報を用いる。ここで、マスター装置はポートを遮断したいスレーブ装置のポジションアドレスを指定して指示を出す点に注意を要する。
【0073】
ステップS804において、マスター装置の送受信手段203によって、現在のネットワークのトポロジに参加している全てのスレーブ装置を対象としてスレーブ装置台数を確認するためのコマンドが投げられる。なお上述したように、EtherCATにおける情報信号は全てのスレーブ装置を経由してマスター装置に戻る。したがって例えば情報信号を受け取ったスレーブ装置が所定の変数を1つずつ増加していく方法により装置台数を確認できる。この情報信号が本実施例での検査用データである。
【0074】
まず、図7(a)のようにマスター装置からスレーブ装置S2までが正常接続された直列状トポロジについて検討する。マスター装置は、ポジションアドレス=2のスレーブ装置を指定してOUTポートを遮断し、直列状トポロジを形成している。このときマスター装置によるスレーブ装置台数の期待値は2台となる。かかるネットワークに対してステップS804のコマンドが実行されると、スレーブ装置S1およびS2により変数が増加されるので、装置台数は2台と判断される。従ってステップS805=YESとなり、接続異常なしと判断される。
【0075】
続いて、図7(b)のようにスレーブ装置S1とS2の間がOUT−OUT接続された直列状トポロジについて検討する。マスター装置は、上の場合と同じくポジションアドレス=2のスレーブ装置を指定してOUTポートを遮断し、直列状トポロジを形成している。このときマスター装置によるスレーブ装置台数の期待値も、上と同じく2台である。一方、かかるネットワークに対してステップS804のコマンドが実行されると、スレーブ装置S1、S2およびS3により変数が増加されるので、装置台数は3台と判断される。従ってステップS805=NOとなり、接続異常ありと判断される。
【0076】
本実施例の接続異常検出方法によれば、テストモードに移行してマスター装置からのポート遮断および開放指示とコマンドの送信を行うことにより、スレーブ装置間でOUT−OUT接続が行われている状態を検出できるようになる。そのため誤接続があった場合でも管理装置等の操作から障害発生箇所を迅速に特定することが可能になるので、システムの安定的な運用とユーザビリティの向上を実現することができる。
また、産業用ネットワークシステムが分岐を含むトポロジを取る場合であっても、スレーブ装置のポートの遮断と開放を適切に行うことにより、本実施例の接続異常検出方法を適用することができる。
【0077】
<実施例4>
本実施例では、産業用ネットワークシステムの末端、すなわち最も下流側に位置するスレーブ装置がOUT−OUT接続されている状態を検出する方法を説明する。本実施例の対象スレーブ装置の様子を図9に示す。単純化のために、マスター装置とスレーブ装置S1〜S4が直列状に接続されているネットワークを想定する。このとき、マスター装置からスレーブ装置S3までは正常に接続されているが、スレーブ装置S3のOUTポートから伸びたケーブルはスレーブ装置S4のOUTポートに挿されており、誤接続となっている。
【0078】
実施例3で述べたように、各スレーブ装置のポジションアドレスは情報信号を処理する順番に基づいて決定されるので、スレーブ装置S1〜S4にはそれぞれポジションアドレス1〜4が割り当てられることになる。上記実施例3では、マスター装置のポート制御手段により構築された直列状トポロジ内の装置台数の期待値と、マスター装置の送受信手段から送出されたコマンドにより確認された装置台数を比較してOUT−OUT接続を検出しようとしていた。しかし本実施例の場合、誤接続されたスレーブ装置S4を対象スレーブ装置として上記実施例3の方法を実行しても、装置台数が期待値と一致するため接続異常の検出が行えない。
【0079】
かかる誤接続状態を放置すると制御データの問題を引き起こす可能性がある。さらに、利用者がスレーブ装置S4の後ろに他のスレーブ装置を接続するときに、ふさがっているOUTポートではなく開いているINポートにケーブルを挿してしまう可能性がある。よって本実施例のような場合でもOUT−OUT接続を検出する方法が求められる。
【0080】
本実施例のように、システムの最も下流側にあるスレーブ装置に関しては、マスター装置がスレーブ装置から収集した情報を元に判断を行うことにより、OUT−OUT接続を検出できる。すなわち、マスター装置がスレーブ装置の情報を収集する際に、スレーブ装置のポートごとの接続状況を取得している。そこで、収集した情報においてスレーブ装置S4のOUTポートにのみ接続先装置が存在していれば、スレーブ装置S3とS4はOUT−OUT接続されていると判断できる。あるいはマスター装置は、システムの最下流のスレーブ装置の接続異常検出のために改めて情報収集を行っても良い。
【0081】
本実施例の接続異常検出方法によれば、システムの末端に位置しているスレーブ装置についてもOUT−OUT接続を検出して利用者に対応を促すことが出来るようになる。
【0082】
<実施例5>
本実施例では、検出対象となる接続異常は、ネットワーク内に存在するループ接続である。ループ接続が行われた様子を図11(a)に示す。図中のネットワークでは、1台のマスター装置と4台のスレーブ装置S1〜S4が直列に接続されている。スレーブ装置S2は1つのINポートと2つのOUTポートを有している。スレーブ装置が有する2つのOUTポートを第1のOUTポート(OUT1ポート)と第2のOUTポート(OUT2ポート)と呼ぶ。
【0083】
図示したように、スレーブ装置S2のOUT2ポートにはスレーブ装置S3のINポートが接続されている。そして、スレーブ装置S2のOUT1ポートは、ネットワーク末端にあるスレーブ装置S4のOUTポートと接続されている。このようにスレーブ装置S2〜S4の間の経路が、通常の一筆書きではなく循環する構造になっている状態を、ループ接続と呼ぶ。
【0084】
なおEtherCATの規格においては、スレーブ装置が2つのOUTポートを有する場合、情報を送出する際の前後関係は決まっている。通常の(ループ接続を含まない)ネットワークでは、INポートからスレーブ装置に入ってきた情報信号が下流側に送出される際には、まずOUT1ポートから出力され、一筆書きの経路をたどって戻ってきた後、OUT2ポートから出力される。
【0085】
ネットワーク内にループ接続が存在する場合に起こり得る問題を、図11(b)を参照しつつ検討する。マスター装置から送出された情報信号は、点線の矢印で示した経路を移動する。すなわち、スレーブ装置S1を通過してスレーブ装置S2に到達した後、優先度の高いOUT1ポートから送出され、スレーブ装置S4に入る。その後、スレーブ装置S3、S2、S1の順に移動する。
【0086】
しかしこのとき、情報信号に対する受信処理を行うのはスレーブ装置S1、S2のみである(丸数字1、2に対応)。一方スレーブ装置S3、S4においては情報信号の受信処理は行われない。これは、スレーブ装置はINポートから入力される情報信号にのみ処理を行うためである。その結果、マスター装置からスレーブ装置S3、S4に対する指示を届けることができず、生産工程等のネットワークの動作が正常に行われなくなってしまう。従って、ネットワーク内のループ接続を検出することが必要になっていた。
【0087】
(処理フロー)
かかるループ接続を接続異常として検出する際の処理を、図12のフロー図を用いて説明する。ここでは図3のステップS305におけるテストモードの一つとして記載しているが、実際には所望のタイミングでループ接続検出を行うことができる。
【0088】
ステップS1201においてネットワークはテストモードに移行する。続いてステップS1202において、ネットワーク内のスレーブ装置のリンク数の期待値が求められる。リンク数とはケーブルにより他の装置に接続されているポートの数を言い、接続対象となる他の装置にはマスター装置も含まれる。ただし、マスター装置のポートは、リンク数には含めない。リンク数の期待値Lexpは、以下の式(1)により求められる。なお、Snumはスレーブ装置の台数である。
Lexp = ((Snum−1)×2)+1 ・・・(1)
【0089】
ステップS1203において、スレーブ装置の実際の全リンク数が求められる。これは図3のステップS303で収集した情報に基づいて求めることが可能である。すなわち、スレーブ装置のポートごとに接続先の状況が分かっているので、これらを合計することにより全リンク数が求められる。
【0090】
ステップS1204において、リンク数の期待値と実際の数値が比較される。そして数値が異なっていたら(S1204=NO)、接続異常、この場合はループ接続ありと判断される。一方数値が同じであれば(S1204=YES)、正常に接続されていると判断される。そして図3のステップS306に戻り、任意の方法により利用者にループ接続の存在が通知され、対応を促す。
【0091】
(リンク数の求め方)
上記ステップS1202〜S1204の処理ついて具体的に説明する。
まず、本実施例のようなネットワーク構成でリンク数の期待値を求める。スレーブ装置の数は4台であるから、これを式(1)に適用すると、
Lexp = ((4−1)×2)+1 = 7
となるので、期待値は7となる。
【0092】
まず、ループ接続箇所を持たないネットワークにおける実際の全リンク数を、図11(c)を参照しつつ検討する。本図では正常にケーブルが接続されており、ループ接続は存在しない。このときのリンク数は、スレーブ装置S1、S2、S3のそれぞれについて2つ、スレーブ装置S4について1つの、合計7つである。
従って期待値と実際の全リンク数は等しく、接続異常なしと判断される。
【0093】
続いて、ループ接続のある図11(a)の場合を検討する。この場合、スレーブ装置の数は4台であるが、リング接続されたスレーブ装置S3とS4においては情報信号の受信処理は行われないため、マスター装置は2台のスレーブ装置が接続されていると認識する。スレーブ装置が2台のときのリンク数の期待値はS1で2つ、S2で1つの合計3つである。一方、このときの実際のリンク数は、スレーブ装置S1に2つ、スレーブ装置S2に3つの、合計5つである。
従って期待値と実際の全リンク数は一致せず、接続異常ありと判断される。
【0094】
このように本実施例の接続異常検出方法によれば、テストモードにおいてスレーブ装置のリンク数を検証することにより、ネットワークに含まれるループ接続をマスター装置から検出できる。ループ接続が検出された場合は利用者に通知することにより、障害への早期の対応を促すことが可能になる。その結果、生産工程の正しい制御と、安定的な運用に寄与することができる。
なお本実施例ではマスター装置とスレーブ装置が直列に接続された構造を取り上げたが
、分岐箇所を有するトポロジであっても、リンク数の期待値と実際の全リンク数を比較することにより、接続異常を検出することができる。
【符号の説明】
【0095】
200:マスター装置,201:トポロジ取得手段,202:ポート制御手段,203:送受信手段,204:判定手段,300:スレーブ装置,301:送受信手段,303a:上流側ポート,303b:下流側ポート
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおける接続異常検出方法、ネットワークシステムおよびマスター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FA(Factory Automation)の分野においては、様々な種類の装置が作業の工程を分担して制御が行われる。工場施設等一定の領域において作業に用いられる各種のコントローラやリモートI/O、製造装置を連携して動作させるために、これらの装置を接続する、フィールドネットワークとも呼ばれる産業用ネットワークシステムが構築されている。
【0003】
多くの産業用ネットワークシステムでは、工場内に設置される生産設備のデータ収集及び制御を行う各種のスレーブ装置と、複数のスレーブ装置を集中管理するマスター装置が接続され通信を行うことにより生産工程が制御される。
マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークは、装置間の連携や配線の都合に応じて、直列状、リング状、ツリー状またはスター状など、様々なトポロジを取り得る。
【0004】
直列状トポロジにおいては、全てのスレーブ装置はマスター装置を起点とした1本の伝送路の中に含まれる。マスター装置を上流とすると、上流側から伝送路に流れてきた情報信号は、直列に接続されたスレーブ装置を次々と通過して最下流のスレーブ装置に到達する。その後情報信号は最下流から折り返し送信され、マスター装置に戻ってくる。また、リング状トポロジにおいては、マスター装置は情報信号を送出する側と受信する側の2つのポートを持っており、送出された情報信号はスレーブ装置を次々と通過したのち、受信側のポートから戻ってくる。このように、直列状トポロジやリング状トポロジでは、情報信号が分岐のない1本の伝送路を通過する。
【0005】
一方、ツリー状またはスター状トポロジにおいては、マスター装置からの経路が分岐している。分岐箇所にはネットワーク機器として、上流側に接続する1つのポートと、下流側にスレーブ装置を接続する複数のポートを有するハブ装置が配置される。あるいはスレーブ装置自身が複数の他のスレーブ装置を直接接続させる場合もある。
【0006】
FAの分野を対象とした産業用ネットワークシステムの一例として、イーサネット(登録商標)の技術を適用した産業用イーサネットと呼ばれる技術の開発が進んでいる。産業用イーサネットは、工業用イーサネットまたはリアルタイムイーサネットとも呼ばれ、イーサネットの技術や機器を様々なレイヤーでFA分野に導入したネットワークである。産業用イーサネットとして様々な団体がオープンな規格を制定し公開しており、ETG(EtherCAT Technology Group)が推進するEtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology:登録商標)もその一つである。
【0007】
EtherCATの規格においても上述した各種のトポロジをサポートしており、数珠つなぎによる直列状の接続や、ハブ装置を用いた分岐を組み合わせることが可能である。またEtherCATにおいては、マスター装置から送出された情報信号は特定の宛先にのみ届くのではなく、同じ信号が全てのスレーブ装置によって利用される。情報信号にはスレーブ装置ごとの制御データが含まれているので、スレーブ装置は信号の中から自身を対象とした部分を読み出し、必要に応じて書き換えを行った上で下流のスレーブ装置に受け渡す。したがって情報信号はネットワーク内の一箇所に留まることなく最下流まで到達
するので、高速かつデータの衝突が起きない通信を実現できる。
【0008】
上記のようにEtherCATにおける情報信号は、いわば一筆書きのような経路をたどってネットワーク内を移動する。このような特性は分岐箇所を含むトポロジであっても変わらない。すなわち、マスター装置から送出された情報信号が分岐箇所であるハブ装置に到達すると、複数のポートの中から所定のポートが選ばれ、そこに接続されたスレーブ装置に送信される。そして、そのスレーブ装置の下流に他のスレーブ装置がある場合、情報信号は順次受け渡され、最下流まで到達した後ハブ装置に戻される。続いて、ハブ装置に含まれる別のポートに接続されたスレーブ装置に送信される。
【0009】
特開2008−124791号公報(特許文献1)には、イーサネットにおいてケーブル接続ミスや設定ミスを検出するためのネットワーク障害の監視方法が記載されている。特開2010−034876号公報(特許文献2)には、ネットワークの中継装置や通信回線における障害発生の検出と、障害発生箇所を特定する方法が記載されている。しかし、いずれの文献においても、マスター装置とスレーブ装置が通信する産業用ネットワークシステムにおいて接続異常を検出する方法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−124791号公報
【特許文献2】特開2010−034876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したEtherCATの規格に従って構築された産業用ネットワークシステムにおいては、マスター装置とスレーブ装置の間にケーブル障害などの接続異常が起こった場合に、その発生箇所を検出することが難しいという課題があった。このため障害検出用の様々な手段が用意されている標準のイーサネット規格に比べ障害からの復旧に時間を要するおそれがあった。この課題について以下説明する。
【0012】
図2(a)は、一般的なイーサネットの標準に従って5台のノードN1〜N5がハブ接続された様子を示している。ここで、ノードN4をハブに接続するケーブルに異常が発生したとする。利用者のノードであるN1から他のノードとの通信に障害が発生しているかどうかを検出するために、ネットワーク内のノードを指定して個別に通信が成立するかどうかを確認する方法がある。この際には相手ノードにパケットを送信し返信を要求するpingコマンドのような機能を用いれば良い。ノードN4から返信がない場合、障害が発生したことを検出できる。他にもノード間で相互監視する仕組みを設けることによっても早期の障害検出を実現できる。
【0013】
図2(b)は、EtherCATの規格に従ったネットワーク構成を示しており、マスター装置Mと4台のスレーブ装置S1〜S4が直列状のトポロジで接続されている。ここでマスター装置から送出された情報信号は、丸数字1〜4のように全てのスレーブを通過して下流側に順次受け渡される。そしてスレーブS4まで到達した後、逆の経路をたどってマスター装置に戻ってくる。したがって、例えばスレーブS3とS4の間のケーブル障害により情報信号がマスター装置に戻らなかった場合でも、経路中のどの場所で障害が起きたのかマスター装置が知ることはできない。
【0014】
障害が発生した場所をマスター装置から検出できない場合、問題の切り分けのために接続箇所を一つずつ確認する必要があり、多大な時間を要する。また問題が利用者の手に余る場合にはカスタマーエンジニアによる検査が必要となり、復旧に要する時間と費用がさ
らに増大するおそれがある。
【0015】
EtherCATには上述したように情報信号が一筆書きの経路を取るという特徴があるので、ネットワーク内のスレーブ装置が正しく接続されていないと、情報信号がネットワーク内で正しく受け渡されず、期待された制御が行えないようになる。正しくない接続とは例えば、ケーブルの品質が悪く通信の一部または全部が欠落するような状態や、スレーブ装置のポートにケーブルを挿すときに誤った種類のポートを選んでしまうことなどである。従って、障害発生箇所を早期に検出できないことは、生産工程における誤った制御を招き、ネットワーク全体の安定的な運用を阻害する結果になるとともに、ユーザビリティの低下につながる。
【0016】
EtherCATのベンダによっては接続異常に対応する仕組みを用意している場合がある。例えば一定時間に情報信号が戻ってこなかった場合、その情報信号を再度送出することにより、システム全体の通信品質を向上させようとする仕組みである。ただしこの方法は障害を本質的に解決したとは言えない上に、ネットワーク内のどの個所で障害が発生しているのかまでは検出できない。さらに情報信号を再送することにより一定の通信リソースが消費されてしまうので、ネットワークの帯域を圧迫するおそれがある。
【0017】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおいて、スレーブ装置の接続異常を検出するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は以下の第1の構成を採用する。すなわち、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻される、ネットワークシステムにおける接続異常検出方法であって、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、前記接続異常検出方法は、前記マスター装置が、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得するステップと、前記マスター装置が、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御ステップと、前記マスター装置が、前記ポート制御ステップの後で検査用データを送信するステップと、前記マスター装置が、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出するステップと、を有することを特徴とする接続異常検出方法である。
【0019】
このような接続異常検出方法によれば、マスター装置から送信されるデータがトポロジに含まれる全てのスレーブ装置を経由するネットワークシステムにおいても、対象スレーブ装置を特定してから検査用データを送受信して接続異常の有無を調べることができる。その結果異常の発生した箇所を容易に特定し、利用者に通知することが可能になるため、障害に対して迅速に対応を取ることができるようになる。
【0020】
また、本発明は以下の第2の構成を採用することもできる。すなわち、前記検出するステップにおいて前記対象スレーブ装置の接続異常が検出されなかった場合、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置の下流側ポートに接続されているスレーブ装置を新たな対象スレーブ装置として、前記ポート制御ステップを実行するような構成を取ることができる。
【0021】
このような接続異常検出方法によれば、ネットワークシステムに含まれるスレーブ装置を、上流側の装置から下流側に向けて1つずつ検査することができる。したがって検査済みの部分を少しずつ広げることが可能になる。そのため、再度検出するステップを試行したときに接続異常が検出された場合、新たに広げられた検査対象の部分が異常の原因であることが明確にできるので、障害発生箇所の迅速な特定に寄与できる。
【0022】
また、本発明は以下の第3の構成を採用することもできる。すなわち、前記ネットワークシステムのトポロジが分岐箇所を含む場合、前記ポート制御ステップにおいて、前記マスター装置は、分岐先のうち1つを選択して直列のトポロジを形成するような構成を取ることができる。
【0023】
このような接続異常検出方法によれば、分岐箇所がある場合でも、1つの分岐先を選択してマスター装置とスレーブ装置間の通信を可能にし、他の分岐先を遮断することにより、直列トポロジを形成することが可能である。選択した分岐先に接続異常がなければ順々に分岐先を変えることにより、ネットワークシステムに含まれる全てのスレーブ装置を検査することができる。
【0024】
また、本発明は以下の第4の構成を採用することもできる。すなわち、前記複数のスレーブ装置はケーブルにより接続されており、前記送信するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置に複数回の検査用データ送信を行い、前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記送信するステップにおいて検査用データを送信した回数よりも、戻ってきた検査用データを受信できた回数が少ない場合に、前記対象スレーブ装置を接続するケーブルに異常があるものとするような構成を取ることができる。
【0025】
このような接続異常検出方法によれば、スレーブ装置に送信した検査用データのうち戻ってこないものの数を検査することにより、当該スレーブ装置を接続するケーブルに障害があるかどうかを確認することが可能になる。
【0026】
また、本発明は以下の第5の構成を採用することもできる。すなわち、前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報には、各スレーブ装置が接続される順序およびスレーブ装置間の接続に用いられるポートの種類に基づいて定められるポジションアドレスが含まれており、前記送信するステップにおいて前記マスター装置が送信する検査用データは、前記ポート制御ステップにおいて形成された直列のトポロジに含まれるスレーブ装置の台数を確認するためのデータであり、前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記トポロジ情報および前記ポジションアドレスから求められる前記対象スレーブ装置までの装置台数の期待値と、戻ってきた前記検査用データにより確認される装置台数が一致しない場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとするような構成を取ることができる。
【0027】
このような接続異常検出方法によれば、スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートの取り違えに起因してポジションアドレスが誤って割り振られたことを検出できるので、マスター装置から接続異常のあった箇所を特定することが可能になる。
【0028】
また、本発明は以下の第6の構成を採用することもできる。すなわち、上記第5の構成において、前記対象スレーブ装置がネットワークシステムの最下流に位置するスレーブ装置である場合、前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報は、前記スレーブ装置のポートごとの他の装置との接続状況を含んでおり、前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置が有するポートのうち上流側ポートにのみ他の装置が接続されている場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとするような構成をとることができる
。
【0029】
このような接続異常検出方法によれば、第5の構成によっては対象スレーブ装置までの装置台数の期待値と検査用データにより確認された台数の比較により接続異常を求められない場合であっても、上流側ポートと下流側ポートの取り違えを検出することが可能になる。
【0030】
また、本発明は以下の第7の構成を採用することも出来る。すなわち、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻されるネットワークシステムであって、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、前記マスター装置は、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する手段と、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、を有することを特徴とするネットワークシステムである。
【0031】
このようなネットワークシステムによっても、異常の発生した箇所を容易に特定し、利用者に通知することが可能になるため、障害に対して迅速に対応を取ることができるようになる。
【0032】
また、本発明は以下の第8の構成を採用することも出来る。すなわち、マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻され、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しているようなネットワークシステムにおけるマスター装置であって、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する段と、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、を有することを特徴とするマスター装置である。
【0033】
このようなマスター装置によっても、異常の発生した箇所を容易に特定し、利用者に通知することが可能になるため、障害に対して迅速に対応を取ることができるようになる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、マスター装置とスレーブ装置を有するネットワークシステムにおいて、スレーブ装置の接続異常を検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマスター装置とスレーブ装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】イーサネットとEtherCATにおける情報信号の伝達の違いを説明する図である。
【図3】本発明の全体的な処理を説明するフロー図である。
【図4】本発明の実施例1におけるポート制御を説明する図である。
【図5】本発明の実施例1におけるテストモードの処理を説明するフロー図である。
【図6】本発明の実施例2におけるポート制御を説明する図である。
【図7】本発明の実施例3における処理を説明する図である。
【図8】本発明の実施例3におけるテストモードの処理を説明するフロー図である。
【図9】本発明の実施例4における処理を説明する図である。
【図10】産業用ネットワークシステムの構成例を説明するブロック図である。
【図11】本発明の実施例5における処理を説明する図である。
【図12】本発明の実施例5におけるテストモードの処理を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。以下の実施例ではEtherCATの規格に即したシステム構築方法を取り上げるが、本発明の対象はこれに限られない。マスター装置とスレーブ装置を有し、マスター装置から送出された情報信号が各スレーブ装置を経由して戻るような経路を取る産業用ネットワークシステムであれば、本発明を適用する対象とすることができる。
【0037】
(産業用ネットワークシステムの構成)
まず、図10を用いて本発明が対象とする産業用ネットワークシステムの構成例を示す。本図において、産業用ネットワークシステム100は、マスター装置200(PLC:Programmable Logic Controller)と複数のスレーブ装置300とが、ケーブル400や装置に備わるI/Oユニット500、ハブ装置700を介して直接的又は間接的に接続されることにより形成される。スレーブ装置300には、電源ユニット,モータユニット,カウンタユニット,画像ユニット,通信ユニット,I/Oユニット等がある。マスター装置200には、ユーザがマスター装置200の動作設定、産業用ネットワークシステム100の動作状態の表示、ネットワークの設計など行うための管理装置600が接続されることもある。管理装置600は設定ツールがインストールされたパーソナルコンピュータなどにより構成される。
【0038】
ハブ装置700は、マスター装置側を上流としたときに、上流側に接続する1つのポート701と、下流側に接続する複数のポート702a〜702cを有している。利用者は各装置をケーブルやハブ装置を用いて順序や分岐を設定しながら接続することにより、所望のトポロジを作ることができる。分岐構造は、ハブ装置だけではなく、スレーブ装置が下流側に複数のスレーブ装置を接続することによっても作ることができる。
EtherCATにおいてはケーブル400に関して、一般のイーサネットの規格で使用されるものの転用や、イーサネット用機器の製造設備での製造が可能である。これにより費用削減を実現している。
【0039】
産業用ネットワークシステム100はEtherCATの規格に準拠したネットワークであり、例えば工場等に敷設されFAシステムとして利用される。マスター装置200は、プログラムやオペレーションに従い、ネットワークを通じて制御データを含む情報信号を送信する。スレーブ装置300は、情報信号に含まれるマスター装置からのリクエストへの応答として、受信した情報信号に基づく装置動作や、受信した情報信号の書き換えおよび返送処理を行う。産業用ネットワークシステム100を含む工場における生産は、マスター装置が動作の内容やタイミングを制御することによりスレーブ装置全体が連動して作業を分担することにより達成される。
【0040】
イーサネットのような規格では、ネットワーク内での装置の並び順は特に限定されない
。これは各装置が、ネットワーク内の位置と関係なく割り当てられる、macアドレスのような一意の物理アドレスを持つことによる。
【0041】
一方、EtherCATの規格においては、接続順序に基づくネットワーク上の装置の位置が、マスター装置とスレーブ装置との間の情報伝達に意味を持つ。これは、スレーブ装置がmacアドレスのような絶対的なアドレスを持たず、マスター装置はネットワーク内の位置(ポジションアドレス)を基にして各スレーブ装置のアドレス(ノードアドレス)を割り当てるためである。マスター装置が送出する情報信号は全てのスレーブ装置を対象としており、各スレーブ装置は情報信号のうち自身のアドレスに対応する位置に対して読み書きを行う。従って直列状に並ぶスレーブ装置の配線の順序が設計支援システムにより設計された情報と違っている場合、マスター装置が想定している相手とは異なるスレーブが情報信号の読み書きを行ってしまう。その結果、スレーブ装置に対する制御データが正しくないためにモータ等の動作が異常をきたすような事態や、情報信号が誤ったスレーブにより上書きされて整合性を取れなくなる事態が生じる可能性がある。
【0042】
<実施例1>
本実施例では、かかるEtherCATの規格に沿って構築されたネットワークにおいて、スレーブ装置の接続異常としてケーブル障害が発生した場合に、マスター装置からの制御によって障害発生個所を検出する方法について説明する。
【0043】
(装置構成)
図1は、本実施例にかかるマスター装置およびスレーブ装置の構成を示すブロック図である。マスター装置200は、トポロジ取得手段201、ポート制御手段202、送受信手段203、判定手段204、制御手段205、ポート206を有している。
【0044】
トポロジ取得手段201は、マスター装置の下流側に接続されている全てのスレーブ装置と通信を行って情報を収集する。収集する情報の内容については後述する。そして、収集した情報を元に現在のトポロジを解釈する。ポート制御手段202は、ネットワーク内の各スレーブ装置に対して、ポートごとに開放するか遮断するかを指示する。あるスレーブ装置のポートが遮断された場合、そのポートより下流側のスレーブ装置には情報信号は受け渡されないので、ネットワークのトポロジが変化する。本実施例の接続異常検出においては、ネットワークのトポロジを直列状に変化させて、その直列状トポロジの最下流に位置するスレーブ装置を対象スレーブ装置とする。そして、対象スレーブ装置を上流側につなぐケーブルの品質が検査される。
【0045】
マスター装置の送受信手段203は、スレーブ装置への情報信号の送受信を管理する。テストモードにおいては特に、情報信号を複数回送出し、当該送出した情報信号のうち戻ってきたものの割合を求める。判定手段204は、ポート制御手段のポート開放および遮断制御により構築された現時点でのトポロジと、送受信手段が情報信号の受信に成功した割合とに基づいて、対象スレーブ装置に接続異常があるかどうか判定する。
【0046】
制御手段205はプログラムを実行するCPU等であり、不図示の制御線を経由してマスター装置の各ブロックを制御する。ポート206はマスター装置からの情報信号を下流のスレーブ装置に送出するとともに、スレーブ装置から戻ってきた情報信号を受信する。情報信号送出時と受信時で異なるポートを用いても良い。
【0047】
スレーブ装置300は、送受信手段301、制御手段302、上流側のポート303a(INポート)、下流側のポート303b(OUTポート)を有している。スレーブ装置の送受信手段301は、上流側からの情報信号を受信して自スレーブ装置を対象とする位置から情報を読み取り、必要に応じて書き換えも行う。制御手段302はマスター装置同
様CPU等からなり、不図示の制御線を経由した制御を行う。上流側のポート303aはスレーブ装置内に1つだけ存在する。一方下流側のポート303bは、スレーブ装置内に複数個存在しても良い。
本図ではスレーブ装置を1つだけ記載したが、実際には下流側のポート303bに続いて、本図と同様の構成を持つスレーブ装置が利用者の所望のトポロジで接続されている。
【0048】
なお、EtherCATの規格に従ってネットワークを設計する際にはスレーブ装置間の接続順序やハブ装置におけるポート番号といったようなトポロジを意識した設計を行うことが必要になる。しかし通常の利用者がSEやカスタマーエンジニアのような専門知識や経験を有しているとは限らない。そこで、グラフィカルな表示によりトポロジを理解しやすくして設計作業を助けるための設計支援システムを提供することが好ましい。設計支援システムは、マスター装置に接続された管理装置として提供される。管理装置は、設定情報を作成するアプリケーションである設定ツールをインストールしたパーソナルコンピュータなどである。利用者が管理装置のディスプレイ上に表示されたGUIから、キーボードやマウスなどの入力装置による操作を行うことで容易な設計が可能になる。
【0049】
(全体の処理フロー)
まず、本実施例全体の処理フローについて図3を参照しつつ説明する。ステップS301にてマスター装置の電源がONにされ、ステップS302にてネットワークにオンライン接続される。するとマスター装置の送受信手段201はポート206を経由して、立ち上げ時の初期処理として、あるいは利用者の明示的な操作に従い、ネットワーク内の各スレーブ装置と通信を行い、スレーブ装置に関する情報を収集し保存する(ステップS303)。このとき配線上のスレーブ装置の位置に応じて定まるアドレスによるアクセスが行われる。この時得られる情報としては、装置の名称、OUTポートが複数ある場合はその数と遮断と開放の状況、ポートごとの接続先装置名などがある。
【0050】
ステップS304にて、マスター装置のトポロジ取得手段201は、ネットワークのトポロジの解釈を行う。すなわち、上記ステップS303で取得した情報は、スレーブ装置がポートを介して結びついている構造を示す情報であるため、全スレーブ装置から得た情報を突き合わせて所定のアルゴリズムで解析することによりトポロジを解釈できる。なお、既にトポロジ情報がマスター装置に記憶されている場合、ステップS303およびS304を行わず、すぐにテストモードに移行することができる。
そしてステップS305が、本実施例を特徴付けるテストモードである。この処理の詳細については別のフロー図を用いて後述する。テストモードにおいてはネットワーク内にケーブル障害等の接続異常があるかどうか、および、もし異常があれば発生箇所が検出される。
【0051】
接続異常があった場合(ステップS306=YES)、管理装置の画面への表示、音声、LEDの点灯など何らかの手段で利用者に通知する(ステップS307)。例えば管理装置のディスプレイにグラフィカルに表示されたネットワークのトポロジ図上に障害発生箇所を表示することは、利用者の理解を助ける点で好ましい。異常を通知された利用者は発生した障害の発生した場所を知ることができるので、問題の切り分けに時間を要することなく迅速な対応が可能になる。
【0052】
(テストモードの処理フロー)
続いて、接続異常検出を行うテストモードの開始から終了までの処理フローを、図5を参照しつつより詳細に説明する。必要に応じて、図4に示した産業用ネットワークシステムのトポロジの模式図も参照する。フロー処理開始の時点では、マスター装置とスレーブ装置は電源が入った状態で接続されている。テストモードとは、産業用ネットワークシステムによる生産工程とは異なり、接続異常を検出するための専用のモードである。テスト
モードへの移行は利用者が明示的な行為、例えばマスター装置に接続された管理装置上のGUIからの入力や、物理的なスイッチやボタン等の操作などにより行われる。あるいは情報信号が途絶した場合にテストモードに移行するようにしても良い。テストモードに入った後の一連の処理は制御手段が自動的に行って結果を表示するようにしても良いし、利用者が状況を確認しながら段階を追って行っても良い。
【0053】
ステップS501において、産業用ネットワークシステムがテストモードに移行する。これにより通常の情報信号による制御からケーブル接続確認に移行する。
ステップS502において、接続状況を確認するべき対象スレーブ装置が決定される。対象スレーブ装置はネットワークから1つ選択される。本実施例では特に、EtherCATの性質に鑑みて、ネットワークの上流側から順々に対象スレーブ装置を選択する。図4(a)〜(d)は処理の様子を時系列に沿って示しており、スレーブ装置S1〜S4の順に選択対象となる。
【0054】
ステップS503において、マスター装置のポート制御手段202が各スレーブ装置のポート遮断と開放を指示することにより、対象スレーブ装置までの直列のトポロジが形成される。例えば図4(a)では、対象スレーブ装置として選択されているスレーブ装置S1の下流側のポートが遮断される。これにより、マスター装置とスレーブ装置S1からなる直列のトポロジができる。
ステップS504において、マスター装置の送受信手段203によって対象スレーブ装置まで複数回の情報信号送信と、戻ってきた情報信号の受信の試行が行われる。情報送受信回数は任意であり、本実施例では例えば100回とする。そしてマスター装置の送受信手段203は、送信した回数に対して受信に成功した回数を求める(ステップS505)。
【0055】
受信に成功した回数が100回であれば、対象スレーブ装置(ここではS1)までの接続に異常なしと判断できる(ステップS507)。一方成功回数が100回に満たなければ、対象スレーブ装置までの接続に異常ありと判断される(ステップS506)。異常ありと判断された場合は、全体の処理フローで述べたように、利用者に障害発生箇所を通知して対応を促す。複数回送信する情報信号が、本実施例での検査用データとなる。
【0056】
ネットワークに含まれる全てのスレーブ装置のチェックが済んでいなければ(ステップS508=NO)、対象スレーブ装置決定(S503)に戻って処理を続行する。その際のスレーブ装置選択について図4(b)に示す。この場合、図4(a)で形成したトポロジを延長するために、現時点の対象スレーブ装置S1より一つ下流側にあるスレーブ装置S2を選択する。そして前回処理における対象スレーブ装置S1の下流側ポートを開放するとともに、新たな対象スレーブ装置S2の下流側のポートを遮断し、複数回の情報信号送受信を行う。送信回数と受信回数が一致していれば、スレーブ装置S2に関する接続異常はないものと判断される。
【0057】
この時点で、既に異常はなしと判断されていたマスター装置とスレーブ装置S1との間に加えて、スレーブ装置S1とS2の間も異常なしと判断される。このように上流側から順次異常を検出していくことにより、検査済みの区間を延長することができる。
続いて、図4(c)において同様にスレーブ装置S3が新たな対象スレーブ装置となり、下流側のポートが遮断され、複数回の情報信号送受信に問題がないかチェックされる。
【0058】
そして対象スレーブ装置がS4に移ったとき、ステップS505の判断において送信回数と受信回数が一致しなかったとする。送受信回数が一致しないケースの中には一部の情報信号だけが戻ってこないケースと、受信が全く途絶するケースがあり得る。いずれのケースであっても何らかの接続異常が発生したと判断できるし、戻ってこない情報信号の割
合によって異常の深刻度を判断できる可能性もある。
この場合、マスター装置とスレーブ装置S1の間、スレーブ装置S1およびS2の間、スレーブ装置S2とS3の間は異常なしと分かっているので、新たに直列状トポロジに追加された、スレーブ装置S3とS4の間のケーブルで異常が発生したと分かる。
【0059】
このように、個別のスレーブ装置を指定した通信ができず、情報信号が全てのスレーブ装置を通過する産業用ネットワークシステムであっても、障害が発生した場所をマスター装置の側から特定できる。この情報を利用者に伝えることにより障害からの迅速な復旧に寄与することができる。したがって専門的な知識を有しない利用者であっても障害への対応が可能となり、高い安定性とユーザビリティの向上に配慮したネットワークを提供することができる。
【0060】
<実施例2>
本実施例では、ネットワークにハブ装置や、複数の下流側ポートを持つスレーブ装置などの分岐箇所が含まれる場合に直列状トポロジを形成する方法について述べる。この方法により、様々なトポロジのネットワークに上記実施例1のような接続異常の検出方法を適用できる。
【0061】
図6は、本実施例のトポロジ形成について説明するための図である。
図6(a)は、検出処理が始まって最初の処理である。図5のフロー中のステップS502においてスレーブ装置S1が対象スレーブ装置として決定される。S503においてスレーブ装置S1の下流側ポートが遮断、上流側のポートが開放されてトポロジが直列状になる。
【0062】
形成された直列状トポロジ内にケーブル障害がなければ、処理はフロー内のループを経て2回目のステップS502に移行する。この様子を図6(b)に示す。ここではスレーブ装置S2が対象スレーブ装置である。スレーブ装置S2の2つの下流側ポートには他のスレーブ装置が接続されており、分岐箇所となる。そのポートを2つとも遮断することで、マスター装置からスレーブ装置S2までの直列状トポロジができる。
【0063】
ここまで接続異常が確認されなければ、図6(c)に示すように、片方の分岐先にあるスレーブ装置S3が対象スレーブ装置として選択される。そして、スレーブ装置S2のうちS3に接続する側のポートだけが開放され、スレーブ装置S5に接続する側のポートは遮断される。ここでスレーブ装置S2とS3の間のケーブルに障害があった場合、マスター装置から送出された情報信号の送信回数と受信回数が一致しないので、マスター装置の判定手段により何らかの異常が起きたことを検出できる。
【0064】
一方、もしスレーブ装置S3に続いてS4まで検査しても異常が発見されなければ、別の分岐先の検査に移る。そのために、スレーブ装置S2の2つのポートのうち、スレーブ装置S3側のポートを遮断し、スレーブ装置S5側のポートを開放する。
【0065】
EtherCATの規格に従ったネットワークにおいては分岐箇所を含む様々なトポロジが想定される。しかし分岐のあるネットワークであっても、本実施例の方法によれば、分岐の枝ごとに上流側から順々にスレーブ装置を特定してポート制御手段による指示を行い、障害発生箇所を知ることができる。
【0066】
<実施例3>
本実施例では、検出対象となる接続異常は、スレーブ装置同士を接続する際のポートの種類を取り違えたポート誤接続である。特に、対象スレーブ装置に上流側からケーブルを接続するときに、本来は対象スレーブ装置のINポートにケーブルを挿すべきところ、誤
ってOUTポートにケーブルを挿してしまった場合を取り上げる。上流側のスレーブ装置のOUTポートと対象スレーブ装置のOUTポートとがケーブルで結ばれていることから、このような誤接続をOUT−OUT接続とも呼ぶ。
【0067】
図7を参照しつつ、OUT−OUT接続があった場合の問題を述べる。ここでは単純化のために1台のマスター装置Mと、4台のスレーブ装置S1〜S4を含む直列状トポロジについて検討する。まず図7(a)に各装置のINポートとOUTポートが正常接続された様子を示す。
このとき、ネットワーク内のスレーブ装置にはその位置に基づくアドレス(ポジションアドレス)が割り当てられている。例えばアドレスの番号を上流側から増加させていく場合、ポジションアドレスはスレーブ装置S1=1、スレーブ装置S2=2、といったように割り当てられる。なおここに示したポジションアドレスの設定ルールは一例に過ぎず、本発明を適用する産業用イーサネットの規格ごとに適宜変更できる。
【0068】
一方、図7(b)に示したのはOUT−OUT接続がある場合の模式図である。すなわち、スレーブ装置S1のOUTポートから伸びたケーブルは、スレーブ装置S2のINポートではなく、OUTポートに誤って接続されている。そのためスレーブ装置S2のINポートは、下流側のスレーブ装置S3に接続されている。このときのポジションアドレスは、スレーブ装置S1=1については図7(a)と同じだが、誤接続があったスレーブ装置S2より下流においては図7(a)とは異なった番号になる。
【0069】
このようにポジションアドレスが振られるのは、EtherCATの規格に起因する。この様子を、図7(c)を用いて説明する。各スレーブ装置のポジションアドレスは、マスター装置から送出された情報信号が処理される順番に基づいて決定される。そしてスレーブ装置はINポートから受け渡された情報信号を対象として各種の処理を行うので、ポジションアドレスは丸数字1〜4の順に割り当てられることになる。
【0070】
このように、ポートの誤接続はポジションアドレスが誤って振られる原因となる。その結果、マスター装置が情報信号の中に各スレーブ装置への制御データを設定する際の想定と実際のポジションアドレスが異なってしまう。そのために発生し得る意味を成さないデータの受け渡しや意図しない上書きを防止するために、OUT−OUT接続を容易に検出する方法が必要となる。
【0071】
(処理フロー)
図8を参照しつつ本実施例の処理フローを説明する。必要に応じて、図7に示したトポロジも参照する。フロー処理開始の時点の条件は実施例1と同様であり、誤接続のテストモードに入った時点から処理を開始する。比較のために、図7(a)の正常接続と図7(b)の誤接続それぞれのネットワークに本実施例の検査方法を適用した場合の挙動を検討する。
【0072】
ステップS801〜S803では、図5のステップS501〜S503と同様の処理を行う。すなわち、ステップS801においてテストモードに移行し、ステップS802において対象スレーブ装置が決定される。対象スレーブ装置がネットワーク上流側から順に選択されることも実施例1と同様である。
ステップS803において、マスター装置のポート制御手段からの指示により各スレーブ装置のポートごとの遮断または開放が決定され、対象スレーブ装置までの直列状トポロジを構築する。マスター装置はこのとき、全体の処理フローにおいてトポロジ解釈を行って入手した情報を用いる。ここで、マスター装置はポートを遮断したいスレーブ装置のポジションアドレスを指定して指示を出す点に注意を要する。
【0073】
ステップS804において、マスター装置の送受信手段203によって、現在のネットワークのトポロジに参加している全てのスレーブ装置を対象としてスレーブ装置台数を確認するためのコマンドが投げられる。なお上述したように、EtherCATにおける情報信号は全てのスレーブ装置を経由してマスター装置に戻る。したがって例えば情報信号を受け取ったスレーブ装置が所定の変数を1つずつ増加していく方法により装置台数を確認できる。この情報信号が本実施例での検査用データである。
【0074】
まず、図7(a)のようにマスター装置からスレーブ装置S2までが正常接続された直列状トポロジについて検討する。マスター装置は、ポジションアドレス=2のスレーブ装置を指定してOUTポートを遮断し、直列状トポロジを形成している。このときマスター装置によるスレーブ装置台数の期待値は2台となる。かかるネットワークに対してステップS804のコマンドが実行されると、スレーブ装置S1およびS2により変数が増加されるので、装置台数は2台と判断される。従ってステップS805=YESとなり、接続異常なしと判断される。
【0075】
続いて、図7(b)のようにスレーブ装置S1とS2の間がOUT−OUT接続された直列状トポロジについて検討する。マスター装置は、上の場合と同じくポジションアドレス=2のスレーブ装置を指定してOUTポートを遮断し、直列状トポロジを形成している。このときマスター装置によるスレーブ装置台数の期待値も、上と同じく2台である。一方、かかるネットワークに対してステップS804のコマンドが実行されると、スレーブ装置S1、S2およびS3により変数が増加されるので、装置台数は3台と判断される。従ってステップS805=NOとなり、接続異常ありと判断される。
【0076】
本実施例の接続異常検出方法によれば、テストモードに移行してマスター装置からのポート遮断および開放指示とコマンドの送信を行うことにより、スレーブ装置間でOUT−OUT接続が行われている状態を検出できるようになる。そのため誤接続があった場合でも管理装置等の操作から障害発生箇所を迅速に特定することが可能になるので、システムの安定的な運用とユーザビリティの向上を実現することができる。
また、産業用ネットワークシステムが分岐を含むトポロジを取る場合であっても、スレーブ装置のポートの遮断と開放を適切に行うことにより、本実施例の接続異常検出方法を適用することができる。
【0077】
<実施例4>
本実施例では、産業用ネットワークシステムの末端、すなわち最も下流側に位置するスレーブ装置がOUT−OUT接続されている状態を検出する方法を説明する。本実施例の対象スレーブ装置の様子を図9に示す。単純化のために、マスター装置とスレーブ装置S1〜S4が直列状に接続されているネットワークを想定する。このとき、マスター装置からスレーブ装置S3までは正常に接続されているが、スレーブ装置S3のOUTポートから伸びたケーブルはスレーブ装置S4のOUTポートに挿されており、誤接続となっている。
【0078】
実施例3で述べたように、各スレーブ装置のポジションアドレスは情報信号を処理する順番に基づいて決定されるので、スレーブ装置S1〜S4にはそれぞれポジションアドレス1〜4が割り当てられることになる。上記実施例3では、マスター装置のポート制御手段により構築された直列状トポロジ内の装置台数の期待値と、マスター装置の送受信手段から送出されたコマンドにより確認された装置台数を比較してOUT−OUT接続を検出しようとしていた。しかし本実施例の場合、誤接続されたスレーブ装置S4を対象スレーブ装置として上記実施例3の方法を実行しても、装置台数が期待値と一致するため接続異常の検出が行えない。
【0079】
かかる誤接続状態を放置すると制御データの問題を引き起こす可能性がある。さらに、利用者がスレーブ装置S4の後ろに他のスレーブ装置を接続するときに、ふさがっているOUTポートではなく開いているINポートにケーブルを挿してしまう可能性がある。よって本実施例のような場合でもOUT−OUT接続を検出する方法が求められる。
【0080】
本実施例のように、システムの最も下流側にあるスレーブ装置に関しては、マスター装置がスレーブ装置から収集した情報を元に判断を行うことにより、OUT−OUT接続を検出できる。すなわち、マスター装置がスレーブ装置の情報を収集する際に、スレーブ装置のポートごとの接続状況を取得している。そこで、収集した情報においてスレーブ装置S4のOUTポートにのみ接続先装置が存在していれば、スレーブ装置S3とS4はOUT−OUT接続されていると判断できる。あるいはマスター装置は、システムの最下流のスレーブ装置の接続異常検出のために改めて情報収集を行っても良い。
【0081】
本実施例の接続異常検出方法によれば、システムの末端に位置しているスレーブ装置についてもOUT−OUT接続を検出して利用者に対応を促すことが出来るようになる。
【0082】
<実施例5>
本実施例では、検出対象となる接続異常は、ネットワーク内に存在するループ接続である。ループ接続が行われた様子を図11(a)に示す。図中のネットワークでは、1台のマスター装置と4台のスレーブ装置S1〜S4が直列に接続されている。スレーブ装置S2は1つのINポートと2つのOUTポートを有している。スレーブ装置が有する2つのOUTポートを第1のOUTポート(OUT1ポート)と第2のOUTポート(OUT2ポート)と呼ぶ。
【0083】
図示したように、スレーブ装置S2のOUT2ポートにはスレーブ装置S3のINポートが接続されている。そして、スレーブ装置S2のOUT1ポートは、ネットワーク末端にあるスレーブ装置S4のOUTポートと接続されている。このようにスレーブ装置S2〜S4の間の経路が、通常の一筆書きではなく循環する構造になっている状態を、ループ接続と呼ぶ。
【0084】
なおEtherCATの規格においては、スレーブ装置が2つのOUTポートを有する場合、情報を送出する際の前後関係は決まっている。通常の(ループ接続を含まない)ネットワークでは、INポートからスレーブ装置に入ってきた情報信号が下流側に送出される際には、まずOUT1ポートから出力され、一筆書きの経路をたどって戻ってきた後、OUT2ポートから出力される。
【0085】
ネットワーク内にループ接続が存在する場合に起こり得る問題を、図11(b)を参照しつつ検討する。マスター装置から送出された情報信号は、点線の矢印で示した経路を移動する。すなわち、スレーブ装置S1を通過してスレーブ装置S2に到達した後、優先度の高いOUT1ポートから送出され、スレーブ装置S4に入る。その後、スレーブ装置S3、S2、S1の順に移動する。
【0086】
しかしこのとき、情報信号に対する受信処理を行うのはスレーブ装置S1、S2のみである(丸数字1、2に対応)。一方スレーブ装置S3、S4においては情報信号の受信処理は行われない。これは、スレーブ装置はINポートから入力される情報信号にのみ処理を行うためである。その結果、マスター装置からスレーブ装置S3、S4に対する指示を届けることができず、生産工程等のネットワークの動作が正常に行われなくなってしまう。従って、ネットワーク内のループ接続を検出することが必要になっていた。
【0087】
(処理フロー)
かかるループ接続を接続異常として検出する際の処理を、図12のフロー図を用いて説明する。ここでは図3のステップS305におけるテストモードの一つとして記載しているが、実際には所望のタイミングでループ接続検出を行うことができる。
【0088】
ステップS1201においてネットワークはテストモードに移行する。続いてステップS1202において、ネットワーク内のスレーブ装置のリンク数の期待値が求められる。リンク数とはケーブルにより他の装置に接続されているポートの数を言い、接続対象となる他の装置にはマスター装置も含まれる。ただし、マスター装置のポートは、リンク数には含めない。リンク数の期待値Lexpは、以下の式(1)により求められる。なお、Snumはスレーブ装置の台数である。
Lexp = ((Snum−1)×2)+1 ・・・(1)
【0089】
ステップS1203において、スレーブ装置の実際の全リンク数が求められる。これは図3のステップS303で収集した情報に基づいて求めることが可能である。すなわち、スレーブ装置のポートごとに接続先の状況が分かっているので、これらを合計することにより全リンク数が求められる。
【0090】
ステップS1204において、リンク数の期待値と実際の数値が比較される。そして数値が異なっていたら(S1204=NO)、接続異常、この場合はループ接続ありと判断される。一方数値が同じであれば(S1204=YES)、正常に接続されていると判断される。そして図3のステップS306に戻り、任意の方法により利用者にループ接続の存在が通知され、対応を促す。
【0091】
(リンク数の求め方)
上記ステップS1202〜S1204の処理ついて具体的に説明する。
まず、本実施例のようなネットワーク構成でリンク数の期待値を求める。スレーブ装置の数は4台であるから、これを式(1)に適用すると、
Lexp = ((4−1)×2)+1 = 7
となるので、期待値は7となる。
【0092】
まず、ループ接続箇所を持たないネットワークにおける実際の全リンク数を、図11(c)を参照しつつ検討する。本図では正常にケーブルが接続されており、ループ接続は存在しない。このときのリンク数は、スレーブ装置S1、S2、S3のそれぞれについて2つ、スレーブ装置S4について1つの、合計7つである。
従って期待値と実際の全リンク数は等しく、接続異常なしと判断される。
【0093】
続いて、ループ接続のある図11(a)の場合を検討する。この場合、スレーブ装置の数は4台であるが、リング接続されたスレーブ装置S3とS4においては情報信号の受信処理は行われないため、マスター装置は2台のスレーブ装置が接続されていると認識する。スレーブ装置が2台のときのリンク数の期待値はS1で2つ、S2で1つの合計3つである。一方、このときの実際のリンク数は、スレーブ装置S1に2つ、スレーブ装置S2に3つの、合計5つである。
従って期待値と実際の全リンク数は一致せず、接続異常ありと判断される。
【0094】
このように本実施例の接続異常検出方法によれば、テストモードにおいてスレーブ装置のリンク数を検証することにより、ネットワークに含まれるループ接続をマスター装置から検出できる。ループ接続が検出された場合は利用者に通知することにより、障害への早期の対応を促すことが可能になる。その結果、生産工程の正しい制御と、安定的な運用に寄与することができる。
なお本実施例ではマスター装置とスレーブ装置が直列に接続された構造を取り上げたが
、分岐箇所を有するトポロジであっても、リンク数の期待値と実際の全リンク数を比較することにより、接続異常を検出することができる。
【符号の説明】
【0095】
200:マスター装置,201:トポロジ取得手段,202:ポート制御手段,203:送受信手段,204:判定手段,300:スレーブ装置,301:送受信手段,303a:上流側ポート,303b:下流側ポート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻される、ネットワークシステムにおける接続異常検出方法であって、
各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、
前記接続異常検出方法は、
前記マスター装置が、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得するステップと、
前記マスター装置が、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御ステップと、
前記マスター装置が、前記ポート制御ステップの後で検査用データを送信するステップと、
前記マスター装置が、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出するステップと、
を有することを特徴とする接続異常検出方法。
【請求項2】
前記検出するステップにおいて前記対象スレーブ装置の接続異常が検出されなかった場合、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置の下流側ポートに接続されているスレーブ装置を新たな対象スレーブ装置として、前記ポート制御ステップを実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の接続異常検出方法。
【請求項3】
前記ネットワークシステムのトポロジが分岐箇所を含む場合、前記ポート制御ステップにおいて、前記マスター装置は、分岐先のうち1つを選択して直列のトポロジを形成することを特徴とする請求項1または2に記載の接続異常検出方法。
【請求項4】
前記複数のスレーブ装置はケーブルにより接続されており、
前記送信するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置に複数回の検査用データ送信を行い、
前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記送信するステップにおいて検査用データを送信した回数よりも、戻ってきた検査用データを受信できた回数が少ない場合に、前記対象スレーブ装置を接続するケーブルに異常があるものとする
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接続異常検出方法。
【請求項5】
前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報には、各スレーブ装置が接続される順序およびスレーブ装置間の接続に用いられるポートの種類に基づいて定められるポジションアドレスが含まれており、
前記送信するステップにおいて前記マスター装置が送信する検査用データは、前記ポート制御ステップにおいて形成された直列のトポロジに含まれるスレーブ装置の台数を確認するためのデータであり、
前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記トポロジ情報および前記ポジションアドレスから求められる前記対象スレーブ装置までの装置台数の期待値と、戻ってきた前記検査用データにより確認される装置台数が一致しない場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとする
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接続異常検出方法。
【請求項6】
前記対象スレーブ装置がネットワークシステムの最下流に位置するスレーブ装置である
場合、
前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報は、前記スレーブ装置のポートごとの他の装置との接続状況を含んでおり、
前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置が有するポートのうち上流側ポートにのみ他の装置が接続されている場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとする
ことを特徴とする請求項5に記載の接続異常検出方法。
【請求項7】
マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻されるネットワークシステムであって、
各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、
前記マスター装置は、
前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する手段と、
前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、
前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、
前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、
を有することを特徴とするネットワークシステム。
【請求項8】
マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻され、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しているようなネットワークシステムにおけるマスター装置であって、
前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する手段と、
前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、
前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、
前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、
を有することを特徴とするマスター装置。
【請求項1】
マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻される、ネットワークシステムにおける接続異常検出方法であって、
各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、
前記接続異常検出方法は、
前記マスター装置が、前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得するステップと、
前記マスター装置が、前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御ステップと、
前記マスター装置が、前記ポート制御ステップの後で検査用データを送信するステップと、
前記マスター装置が、前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出するステップと、
を有することを特徴とする接続異常検出方法。
【請求項2】
前記検出するステップにおいて前記対象スレーブ装置の接続異常が検出されなかった場合、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置の下流側ポートに接続されているスレーブ装置を新たな対象スレーブ装置として、前記ポート制御ステップを実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の接続異常検出方法。
【請求項3】
前記ネットワークシステムのトポロジが分岐箇所を含む場合、前記ポート制御ステップにおいて、前記マスター装置は、分岐先のうち1つを選択して直列のトポロジを形成することを特徴とする請求項1または2に記載の接続異常検出方法。
【請求項4】
前記複数のスレーブ装置はケーブルにより接続されており、
前記送信するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置に複数回の検査用データ送信を行い、
前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記送信するステップにおいて検査用データを送信した回数よりも、戻ってきた検査用データを受信できた回数が少ない場合に、前記対象スレーブ装置を接続するケーブルに異常があるものとする
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接続異常検出方法。
【請求項5】
前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報には、各スレーブ装置が接続される順序およびスレーブ装置間の接続に用いられるポートの種類に基づいて定められるポジションアドレスが含まれており、
前記送信するステップにおいて前記マスター装置が送信する検査用データは、前記ポート制御ステップにおいて形成された直列のトポロジに含まれるスレーブ装置の台数を確認するためのデータであり、
前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記トポロジ情報および前記ポジションアドレスから求められる前記対象スレーブ装置までの装置台数の期待値と、戻ってきた前記検査用データにより確認される装置台数が一致しない場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとする
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接続異常検出方法。
【請求項6】
前記対象スレーブ装置がネットワークシステムの最下流に位置するスレーブ装置である
場合、
前記取得するステップにおいて前記マスター装置が取得するトポロジ情報は、前記スレーブ装置のポートごとの他の装置との接続状況を含んでおり、
前記検出するステップにおいて、前記マスター装置は、前記対象スレーブ装置が有するポートのうち上流側ポートにのみ他の装置が接続されている場合に、前記対象スレーブ装置の上流側ポートと下流側ポートを取り違える接続異常があるものとする
ことを特徴とする請求項5に記載の接続異常検出方法。
【請求項7】
マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻されるネットワークシステムであって、
各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しており、
前記マスター装置は、
前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する手段と、
前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、
前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、
前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、
を有することを特徴とするネットワークシステム。
【請求項8】
マスター装置と複数のスレーブ装置とから構成され、前記マスター装置から送信されたデータは最上流のスレーブ装置から最下流のスレーブ装置まで順番に経由した後で前記マスター装置に戻され、各スレーブ装置は、上流の装置に接続するための上流側ポートと下流の装置に接続するための少なくとも1つの下流側ポートを含む複数のポートを有しているようなネットワークシステムにおけるマスター装置であって、
前記ネットワークシステムのトポロジであるトポロジ情報を取得する手段と、
前記トポロジ情報に基づいて、検査対象となる対象スレーブ装置が最下流となり、かつ、前記マスター装置から前記対象スレーブ装置までが直列のトポロジとなるように、各スレーブ装置のポートの遮断と開放を切り換えるポート制御手段と、
前記ポート制御手段による制御が行われた後で検査用データを送信するとともに、戻ってきた前記検査用データを受信する送受信手段と、
前記検査用データの戻り状況に基づいて、前記対象スレーブ装置の接続異常を検出する判定手段と、
を有することを特徴とするマスター装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−195653(P2012−195653A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56390(P2011−56390)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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