説明

接触燃焼式ガスセンサ及びガス検出装置

【課題】シリコン成分による触媒の被毒を防止し、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの検出感度を良好に維持することが可能な接触燃焼式ガスセンサ及び、ガス検出装置を提供する。
【解決手段】被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを燃焼する触媒を含む反応部72を、シリコン成分を吸着することにより、触媒の劣化を防止する触媒劣化防止層73により被覆する。この触媒劣化防止層73は、多孔質の部材からなり、被検出ガスに含まれるシリコン成分は触媒劣化防止層73に吸着して捕捉される一方、被検出ガスは多孔質の触媒劣化防止層73を通過し反応部72に達する。したがって、接触燃焼式ガスセンサ60の触媒を包含する反応部72に被検出ガスに包含されるシリコン成分が吸着することを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度測定や漏洩検知等に用いられる接触燃焼式ガスセンサ及び接触燃焼式ガスセンサを備えるガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や自然保護等の社会的要請から、高効率で、クリーンなエネルギー源として燃料電池の研究が活発に行われている。その中で、低温作動、高出力密度等の利点を有する固体高分子形燃料電池(PEFC)や水素内燃機関は、車載用、家庭用といった幅広い用途への適用が期待されている。これらの固体高分子形燃料電池や水素内燃機関の燃料システムは水素を燃料としているため、燃料システムを安全に稼働させるために、水素漏れが発生していないかを検知する必要がある。
【0003】
この水素を検出する装置として、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを触媒を含む反応部で燃焼させたときに生じる熱により変化する発熱抵抗体の電気抵抗値の変化に基づいて、可燃性ガスの濃度を求める接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この接触燃焼式ガスセンサは、反応部(触媒)にシリコン成分が吸着堆積すると、初期と同程度の可燃性ガスを燃焼させることが困難となり可燃性ガスの検出感度が低下する。
【0004】
一方、上述の燃料システムには、耐熱性を備えたシリコン系のシール材や配管が使用されているため、接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置の検出雰囲気中には、それらから発生するシリコン成分が存在する。また、自動車の車内には、樹脂部やカーペット等の車室内の部品から発生するシリコン成分が存在する。このため、上述の燃料システムや当該燃料システムを搭載した自動車の車内等に接触燃焼式ガスセンサが設置された場合には、被検出ガス中に含まれるシリコン成分によって触媒が被毒され、可燃性ガスの検出感度が低下するという問題があった。
【0005】
これに対して、シリコン成分が堆積することによる触媒の劣化を遅延させるために、反応部に含まれる触媒の含有量を30(重量%)以上と増加させるとともに、初期の性能を確保するためにシリコンの蒸気を含む環境で触媒を予めエージングさせる接触燃焼式ガスセンサ、及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭56−18750号公報
【特許文献2】国際公開第2004/111628号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2において提案されている接触燃焼式ガスセンサは、シリコン成分が触媒の上に堆積する構成を有しているので、シリコン成分が触媒に堆積することによる触媒劣化は進行する。このため、ある程度のシリコン成分が触媒に付着すると、初期の感度を保つことは困難となり、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの検出ができなくなるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、シリコン成分による触媒の被毒を防止し、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの検出感度を良好に維持することが可能な接触燃焼式ガスセンサ及び、ガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の接触燃焼式ガスセンサは、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを燃焼する触媒を含む反応部を備え、前記可燃性ガスが前記触媒により燃焼する際に発生する熱量に基づき、前記可燃性ガスを検出する接触燃焼式ガスセンサにおいて、前記反応部の表面が、前記被検出ガス中に含まれるシリコン成分を吸着することにより前記触媒の劣化を防止する多孔質の触媒劣化防止層により被覆されたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明の接触燃焼式ガスセンサは、請求項1に記載の発明の構成に加え、自身の温度変化により抵抗値が変化する第1発熱抵抗体を備え、前記第1発熱抵抗体は、前記熱量の変化に伴って、前記抵抗値が変化する位置に配置されている。
【0010】
また、請求項3に係る発明の接触燃焼式ガスセンサは、請求項2に記載の発明の構成に加え、自身の温度変化により抵抗値が変化する第2発熱抵抗体を備え、前記第1発熱抵抗体と前記第2発熱抵抗体とはともに、前記被検出ガスの温度変化に伴って、抵抗値が変化する位置に配置されている。即ち、前記第1発熱抵抗体は、前記被検出ガスの温度変化と前記熱量の変化とに伴って、抵抗値が変化する位置に配置され、前記第2発熱抵抗体は、前記被検出ガスの温度変化に伴って、抵抗値が変化する位置に配置されている。
【0011】
また、請求項4に係る発明の接触燃焼式ガスセンサは、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記第2発熱抵抗体の表面が、前記触媒劣化防止層と同じ材料からなるシリコン化合物吸着層により被覆されたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明の接触燃焼式ガスセンサは、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記触媒劣化防止層は、少なくとも周期律表第2A族元素を含有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明の接触燃焼式ガスセンサは、請求項3乃至5のいずれかに記載の発明の構成に加え、板厚方向に開口部が形成された半導体基板と、前記半導体基板上に形成され、前記開口部に対応する部位に前記第1発熱抵抗体と前記第2発熱抵抗体とをそれぞれ内包する絶縁層とを備え、前記反応部が、前記絶縁層を介し前記第1発熱抵抗体に対向するように、前記絶縁層上に形成されている。
【0014】
また、請求項7に係る発明のガス検出装置は、請求項2乃至6のいずれかに記載の接触燃焼式ガスセンサと、前記接触燃焼式ガスセンサが有する第1発熱抵抗体の抵抗値の変化に応じて出力信号を出力する信号出力回路と前記信号出力回路が出力した出力信号に基づき、前記可燃性ガスの濃度を判定するガス判定手段を有するマイクロコンピュータとを備えている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、反応部の表面が、触媒劣化防止層により被覆されており、被検出ガス中に含まれるシリコン成分を吸着することにより触媒の劣化を防止しているので、シリコン成分が触媒に吸着することによる、接触燃焼式ガスセンサの感度低下を防止することができる。
【0016】
また、請求項2に係る発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスが触媒の作用により燃焼する際に発生する熱量に応じて、抵抗値が変化する第1発熱抵抗体を備える接触燃焼式ガスセンサにおいて、シリコン成分が触媒に吸着することによる、接触燃焼式ガスセンサの感度低下を防止することが可能である。
【0017】
また、請求項3に係る発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、本発明の接触燃焼式ガスセンサを用いれば、第1発熱抵抗体とは別に、被検出ガスの温度変化に応じて抵抗値が変化する位置に第2発熱抵抗体を設けているので、第1発熱抵抗体の抵抗値の変化のうち、被検出ガスの温度変化によるものを差し引くように補正でき、より精度の高い出力値を得ることができる。また、第1発熱抵抗体の抵抗値の変化のうち、ノイズ等の外乱の影響によるもの等も補正することができる。
【0018】
また、請求項4に係る発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、被検出ガス中に含まれるシリコン成分が、触媒劣化防止層及びシリコン化合物吸着層の双方に同様に堆積することになるので、シリコン化合物吸着層と第2発熱抵抗体との熱量の総和が、可燃性ガスとの反応していない条件における反応部と第1発熱抵抗体との熱容量の総和と実質的に一致する。このため、本発明の接触燃焼式ガスセンサを用いれば、シリコン成分の吸着量に応じた発熱抵抗体の抵抗値の変化をも補正できるので、可燃性ガスが反応部に含有される触媒の作用により燃焼したときにセンサ出力がドリフトすることを抑制することが可能である。
【0019】
また、請求項5に係る発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の効果に加え、触媒劣化防止層は、シリコン成分を吸着する周期律表第2A族元素を含有する材料により形成されているので、被検出ガスに含まれるシリコン成分をより確実に吸着し、反応部にシリコン成分が吸着することを防止することができる。したがって、本発明の接触燃焼式ガスセンサを用いれば、反応部にシリコン成分が吸着することによる、可燃性ガスの検出感度の低下を防ぐことができる。
【0020】
また、請求項6に係る発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、請求項3乃至5のいずれかに記載の発明の効果に加え、接触燃焼式ガスセンサが、昇温、降温を短時間で行うことができ、発熱抵抗体の消費電力を低減することができる。また、反応部を周囲から熱的に絶縁することができるため、接触燃焼式ガスセンサは短時間で起動し、かつ優れた応答性を有する。
【0021】
また、請求項7に係る発明のガス検出装置によれば、ガス検出装置が備える接触燃焼式ガスセンサは、被検出ガスに含まれるシリコン成分が反応部に含まれる触媒に吸着することを防ぐ触媒劣化防止層を備えているので、被検出ガス中にシリコン成分が含まれる場合であっても、可燃性ガスの検出感度を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施形態も基づき、図1乃至図5を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るガス検出装置10の縦断面図である。このガス検出装置10は、可燃性ガスの燃焼に伴って電気抵抗値が変化することを利用して可燃性ガスの濃度を検出するガス検出装置である。このガス検出装置10は、例えば、水素を燃料とした燃料電池自動車に搭載され、水素の漏れを検出する目的等に用いられる。尚、図1に示す縦断面図において、上下方向を上下方向、左右方向を左右方向と言う。また、本発明における「検出」とは、被検出ガスに含まれる所定の可燃性ガスの有無を判定することに限らず、被検出ガスに含まれる所定の可燃性ガスの濃度を検量することを含む趣旨である。
【0023】
図1に示すように、ガス検出装置10は、被検出ガスを検出する接触燃焼式ガスセンサ60を収容する素子ケース20と、この素子ケース20を支持すると共に、接触燃焼式ガスセンサ60と電気的に接続され、接触燃焼式ガスセンサ60に備えられた第1発熱抵抗体71の抵抗値の変化に応じて出力信号を出力する信号出力回路91(図5参照)を備えた回路基板41を収容する収容ケース40とから構成される。
【0024】
まず、収容ケース40の構成について図1を参照して説明する。図1に示すように、この収容ケース40は、ケース本体42と、ケース本体42の上端部に設けられた開口を覆う蓋であるケース蓋44とから構成されている。また、収容ケース40は、その内部に、回路基板41及びマイコン94を備えている。以下、収容ケース40を構成する各部材について詳述する。
【0025】
ケース本体42は、上面及び下面に開口を有し、所定の高さを有する容器であり、素子ケース20のつば部38を下面に備える開口にて保持する保持部46と、回路基板41の周縁部を保持する回路基板保持部45とを備えている。この保持部46と素子ケース20のつば部38との間には、被検出ガスの流路と収容ケース40との間をシールするシール部材47が外装されている。また、ケース本体42は、ケース本体42の下部中央に形成された流路形成部43と、ケース本体42の外側面に形成され、外部給電するためのコネクタ55とを備え、これらは一体に樹脂成形されている。一方、ケース本体42の上面に備えられる開口には、この開口を塞ぎ、合成樹脂からなるケース蓋44が備えられている。
【0026】
コネクタ55は、回路基板41及びマイコン94に電気を供給するためのものであり、ケース本体42の外側面に組み付けられている。このコネクタ55の内部には、ケース本体42の外側面から突出し、導電性部材からなる複数のコネクタピン56,57が設けられている。コネクタピン56,57はそれぞれ、ケース本体42の側壁に埋め込まれた配線(図示せず)を介して回路基板41及びマイコン94に電気的に接続されている。
【0027】
回路基板41は、所定の厚みを有する板状の基板であり、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを検出するための制御回路90(図5参照)を備えている。この制御回路90は、図2を参照して後述する接続端子24乃至28により、接触燃焼式ガスセンサ60の電極85,87,88及びグランド電極86,89とそれぞれ電気的に接続されている。この制御回路90の構成は、図5を参照して後述する。
【0028】
マイコン94は、外部から電気を供給されることにより作動し、信号出力回路91を備える制御回路90(図5参照)の出力信号に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を演算、判定するものであり、少なくとも、これらの出力演算処理を実行するためのプログラムを格納する記憶装置と、この記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPUとを備えている。尚、このマイコン94は、収容ケース40の外部に設けられてもよく、その場合は、制御回路90の出力を収容ケース40の外部に備えられたマイコンに送信する手段を設けるようにすればよい。また、このマイコン94は、本発明におけるマイクロコンピュータに相当し、マイコン94が備えるCPUがガス判定手段として機能する。
【0029】
次に、ガス検出装置10を構成する素子ケース20について、図2を参照して説明する。図2は、ガス検出装置10を構成する素子ケース20の縦断面図である。尚、図2において、上下方向を上下方向、左右方向を左右方向と言う。
【0030】
図2に示すように、素子ケース20は、接触燃焼式ガスセンサ60が設置される接続端子取出台21と、接続端子取出台21の周縁部を挟持するとともに、被検出ガスを導入する導入口に向かって突設された円筒状の壁面を有する検出空間形成部材22とを備えている。そして、素子ケース20の接続端子取出台21の周縁部には、被検出ガスの流路と素子ケース20との間をシールするシール部材48が外装されている。この接続端子取出台21及び検出空間形成部材22により囲まれた空間は、被検出ガスを導入するための検出空間39となっている。以下、素子ケース20を構成する各部材について詳述する。
【0031】
接続端子取出台21は、接触燃焼式ガスセンサ60を支持するための部材であり、接続端子取出台21の内側面には、スペーサ23を介して、接触燃焼式ガスセンサ60が設けられている。また、接続端子取出台21には、接続端子24乃至28を個別に挿入するための挿入孔がそれぞれ設けられ、各挿入孔の周縁部は絶縁性部材により覆われている。
【0032】
接続端子24乃至28は、図3及び図4を参照して後述する接触燃焼式ガスセンサ60と回路基板41に備えられた制御回路90とを電気的に接続するための部材であり、導電性部材によりピン状に形成されている。各接続端子の一端は、接続端子取出台21に設けられた挿入孔にそれぞれ挿通され、接続端子取出台21に対して垂直に支持されている。
【0033】
また、検出空間形成部材22は、外側面にて被検出ガスと接する外筒36,接続端子取出台21の周縁部を挟持する取出台支持部37及び、収容ケースにより支持されるつば部38を備えている。また、検出空間形成部材22の下端部には、被検出ガスを検出空間39に導入する開口である導入口34が設けられている。
【0034】
この導入口34の近傍には、導入口34から被検出ガスを、接触燃焼式ガスセンサ60に対して導入及び排出するための流路を形成する導入部35が設けられている。そして、この導入部35には、導入口34から近い順に、撥水フィルタ29,スペーサ30及び、2枚の金網31,32がそれぞれ装填されている。これらの部材は、検出空間形成部材22とフィルタ固定部材33とにより挟持固定されている。以下、導入部35を構成する各部材について、詳述する。
【0035】
撥水フィルタ29は、導入口34に最も近い位置に取り付けられるフィルタであり、被検出ガス中に含まれている水滴を除去する撥水性を有する薄膜である。これより、水滴等が飛来する多湿環境下においても、接触燃焼式ガスセンサ60が被水することを防ぐことができる。この撥水フィルタ29は、物理的吸着により水滴を除去するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を利用したフィルタを適用することができる。
【0036】
スペーサ30は、フィルタ固定部材33の内周壁に備えられ、被検出ガスが導入される開口を有する平面視リング状の部材であり、所定の厚みを有することにより、撥水フィルタ29と金網31,32との位置を調整している。このスペーサ30は、例えば、合成樹脂や金属により形成される。
【0037】
金網31,32は、所定の厚みと所定の開口部を有しており、接触燃焼式ガスセンサ60に設けられた発熱抵抗体の温度が被検出ガスに含まれる水素ガスの発火温度よりも上昇して発火した場合であっても、火炎が外部に出るのを防止するフレームアレスタとしての機能を果たす。
【0038】
フィルタ固定部材33は、撥水フィルタ29,スペーサ30及び、2枚の金網31,32を挟持固定するための部材であり、検出空間形成部材22の内壁面と当接する筒状の壁面を有すると共に、その壁面の軸方向に突出し、フィルタを固定するための凸部を備えている。フィルタ固定部材33は、例えば、金属により形成される。
【0039】
次に、接続端子取出台21に備えられ、本発明の重要な構成要素である接触燃焼式ガスセンサ60の構成を、図3及び図4を参照して説明する。図3は、接触燃焼式ガスセンサ60の検出素子70及び参照素子75の配置状態を説明するための模式平面図であり、図4は、検出素子70及び参照素子75の配置状態を説明するための図3のB−B線における矢視方向断面図である。尚、図4において、上側を上方、下側を下方とする。また、図3及び図4において、左右方向を左右方向とする。
【0040】
接触燃焼式ガスセンサ60は、被検出ガスに含まれる可燃性ガスが触媒により燃焼する際に発生する熱量に基づき、可燃性ガスを検出するガス検出装置に備えられるセンサである。図3に示すように、この接触燃焼式ガスセンサ60は、縦が3mm,横が5mmの長方形の平面形状を有する。また、図3及び図4に示すように、接触燃焼式ガスセンサ60は、板状のシリコン基板61と、シリコン基板61の表面に形成され、第1発熱抵抗体71及び第2発熱抵抗体76をそれぞれ内包する絶縁層65と、絶縁層65上に所定の厚みで形成される保護層64とを備えている。この接触燃焼式ガスセンサ60は、例えば、マイクロマシニング技術により形成される。尚、接触燃焼式ガスセンサ60を構成する各部材の電気的な接続については、図5を参照して後述する。以下、接触燃焼式ガスセンサ60を構成する部材について詳述する。
【0041】
シリコン基板61は、所定の厚みを有するシリコン製の平板である。このシリコン基板61は、第1発熱抵抗体71及び第2発熱抵抗体76の下方に位置する部位に、シリコン基板61の一部が開口状に除去された1対の開口部62,63を備えており、当該開口部62,63の上部は、絶縁層65の一部が露出している。このような構成にすることにより、第1発熱抵抗体71及び第2発熱抵抗体76は、開口部62,63により周囲から断熱されるため、短時間にて昇温又は降温する。このため、接触燃焼式ガスセンサ60の熱容量を小さくすることができる。尚、このシリコン基板61は、本発明における半導体基板に相当する。
【0042】
このシリコン基板61の上面には、絶縁性を有する絶縁層65が、所定の厚みで層状に形成されている。この絶縁層65の下面の一部は、シリコン基板61の一部が開口状に除去されている開口部62,63に露呈している。この開口部62,63に対応する領域には第1発熱抵抗体71と第2発熱抵抗体76とがそれぞれ内包されている。また、第1発熱抵抗体71及び第2発熱抵抗体76が形成された平面と同じ平面に形成された配線膜711,712,761及び、配線713,714,762,763がそれぞれ絶縁層65に内包されている。この絶縁層65は、絶縁性を有する材料により形成され、例えば、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(Si)が用いられる。絶縁層65は単一の材料により形成される場合の他、異なる材料を用いて複数の層を形成するようにしてもよい。
【0043】
また、保護層64は、絶縁層65の上面に所定の厚みを有する層状に形成され、絶縁層65と同様の材質により形成される。この保護層64は、第1発熱抵抗体71,第2発熱抵抗体76,配線膜711,712,761及び、配線713,714,762,763を覆うように配置されることで、これらの汚染や損傷を防いでいる。
【0044】
絶縁層65に内包された第1発熱抵抗体71は、反応部72及び触媒劣化防止層73とともに、検出素子70を構成するものであり、自身の温度変化により抵抗値が変化する抵抗体である。この第1発熱抵抗体71は、その上部を後述する反応部72に覆われており、被検出ガスの温度により加熱又は冷却されるとともに、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスが触媒の作用により燃焼したときに生じる熱量により加熱され、自身の抵抗値が変化する。即ち、第1発熱抵抗体71は、被検出ガスの温度と、可燃性ガスが触媒の作用により燃焼したときに生じる熱量とに基づいて、自身の抵抗値が変化するので、この第1発熱抵抗体71の抵抗値の変化に応じて変化する出力値を用いれば、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを検出することが可能である。この第1発熱抵抗体71の抵抗値の変化に応じて変化する出力値については、図5を参照して詳細に後述する。
【0045】
この第1発熱抵抗体71は、シリコン基板61と平行な平面の開口部62の上部に対応する部位に平面視渦巻き状に形成され、絶縁層65に内包されている。この第1発熱抵抗体71は、温度抵抗係数が大きい導電体によって形成され、例えば、白金(Pt)、ポリシリコン等により形成される。
【0046】
この第1発熱抵抗体71の左端は、絶縁層65に内包され、第1発熱抵抗体71と一体に形成された配線713及び配線膜711を介し、電極85と電気的に接続されている。一方、第1発熱抵抗体71の右端は、絶縁層65に内包され、第1発熱抵抗体71と一体に形成された配線714及び配線膜712を介し、グランド電極86と電気的に接続されている。この電極85及びグランド電極86は、第1発熱抵抗体71に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホールを介して露出している。この電極85及びグランド電極86の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0047】
また、絶縁層65の上面であって、この第1発熱抵抗体71の上方には第1発熱抵抗体71の一部を覆うように反応部72が形成されている。この反応部72は、第1発熱抵抗体71により加熱されるとともに、可燃性ガスの燃焼を促す触媒を含んでおり、被検出対象となる可燃性ガスによって適宜材質を選択することができる。例えば、水素ガス等の多くの可燃性ガスに適用する触媒として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh),イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)等の貴金属を採用でき、また、反応部72として、触媒の単層膜又は、触媒を酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)又はジルコニア(ZrO)に担持させたものを用いることができる。尚、保護層64と反応部72との密着強度を向上させるために、密着層を反応部72の下層に設けることもできる。密着層を形成する材料としては、例えば、ガラス又はガラスと触媒層材料の混合物が用いられる。
【0048】
この反応部72の表面は、本発明の重要な構成要素である触媒劣化防止層73により覆われている。触媒劣化防止層73は、反応部72にシリコン成分が吸着することによる、可燃性ガスの検出感度が低下することを防止するためのものである。このため、触媒劣化防止層73は、反応部72が被検出ガスに接触して、シリコン成分が吸着しないように、反応部72の表面を覆う構成を有している。このような構成により、本発明では、反応部72の近傍に存在する被検出ガスに含有されるシリコン成分を吸着しているので、触媒がシリコン成分に被毒されるのを防止するために最低限必要なシリコン成分を吸着している。このため、例えば、シリコン成分を吸着する部材が導入部35に設けられる場合に比べ、吸着するシリコン成分を少なくすることができ、シリコン成分を吸着するための部材にシリコン成分が堆積して閉塞して、被検出ガスの通過を阻害するという問題が起きにくい。
【0049】
この触媒劣化防止層73として、シリコン成分を吸着するとともに、被検出ガスが反応部72に供給可能となるように通気性を有する多孔質の材料を採用可能であり、例えば、シリコン成分を吸着する無機化合物を包含する材料により構成される。触媒劣化防止層73として、好ましくは、シリコン成分を好適に吸着するマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等の周期律表第2A族元素を包含する材料により構成され、さらに好ましくは、非常に細かい粒子が形成されるため、シリコン成分が素通りすることを防ぐ事ができるマグネシウム(Mg)又はカルシウム(Ca)の塩化物、炭酸塩、硝酸塩を包含する材料により構成される。例えば、塩化カルシウム(CaCl)又は、炭酸マグネシウム(MgCO)を含有する材料より構成される。
【0050】
ここで、触媒劣化防止層73として、周期律表第2A族元素を包含する材料により構成される場合には、触媒劣化防止層73のシリコン成分の吸着能は高温条件下で高まる。これに対し、本発明の触媒劣化防止層73は、第1発熱抵抗体71及び、被検出ガスに含まれる可燃性ガスが触媒の作用により燃焼して発熱する反応部72を覆うように形成されているので、触媒劣化防止層73のシリコン吸着能が高められている。このため、新たに熱源を追加することなく、効率的に被検出ガスに含まれるシリコン成分を触媒劣化防止層73に吸着させることができる。
【0051】
一方、第2発熱抵抗体76は、シリコン化合物吸着層77とともに、被検出ガスの温度変化による検出素子70の出力を補正するための参照素子75を構成するものであり、自身の温度変化により抵抗値が変化する抵抗体である。第2発熱抵抗体76は、被検出ガスの温度により、自身の抵抗値が変化するので、この第2発熱抵抗体76の抵抗値の変化に応じて変化する出力値を用いれば、前述の第1発熱抵抗体71の抵抗値の変化に応じて変化する出力値のうち、被検出ガスの温度変化に基づく第1発熱抵抗体71の抵抗値の変化分の出力値を補正することができる。また、第1発熱抵抗体の抵抗値の変化に応じて変化する出力値のうち、ノイズ等の外乱の影響によるもの等も補正することができる。この第2発熱抵抗体76の抵抗値の変化に応じて変化する出力値については、図5を参照して詳細に後述する。
【0052】
この第2発熱抵抗体76は、第1発熱抵抗体71と同様に、シリコン基板61と平行な平面の開口部63の上部に平面視渦巻き状に形成され、絶縁層65に内包されている。この第2発熱抵抗体76は、通常は第1発熱抵抗体71と同じの材料により形成され、例えば、白金(Pt)、ポリシリコン等により形成される。
【0053】
また、保護層64の上面であって、この第2発熱抵抗体76の上方には第2発熱抵抗体76を覆うように、シリコン化合物吸着層77が設けられている。このシリコン化合物吸着層77は、触媒劣化防止層73と同様の材料により層状に形成される。本発明のように、触媒劣化防止層73を設けた場合には、触媒劣化防止層73にシリコン成分が堆積したときに、触媒劣化防止層73の熱容量が変化して、検出素子70のゼロ出力がドリフトするおそれがある。これに対し、第2発熱抵抗体76の上部に触媒劣化防止層73と同様の材料、同様の形態にてシリコン化合物吸着層77を形成すれば、触媒劣化防止層73にシリコン成分が堆積することによる熱容量の変化をキャンセルすることができる。したがって、反応部72に含まれる触媒が被検出ガスに含まれるシリコン成分により被毒することを防止するための、触媒劣化防止層73を設けた場合であっても、安定したセンサ出力を維持することができる。尚、触媒劣化防止層73にシリコン成分が堆積することによる熱容量の変化を有効にキャンセルさせるためには、触媒劣化防止層73の体積とシリコン化合物吸着層77の体積は、同じであることが好ましい。
【0054】
また、第2発熱抵抗体76の左端は、絶縁層65に内包され、第2発熱抵抗体76と一体に形成された配線762及び配線膜712を介し、グランド電極86と電気的に接続されている。一方、第2発熱抵抗体76の右端は、絶縁層65に内包され、第2発熱抵抗体76と一体に形成された配線763及び配線膜761を介し、電極87と電気的に接続されている。このグランド電極86及び電極87は、第2発熱抵抗体76に接続される配線の引き出し部位であり、コンタクトホールを介して露出している。このグランド電極86及び電極87の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0055】
測温抵抗体80は、検出空間39内に存在する被検出ガスの温度を検出するためのものであり、絶縁層65の内部で、かつ、シリコン基板61と平行な平面上に形成されている。測温抵抗体80は、電気抵抗値が温度に比例して変わる金属が用いられ、例えば、白金(Pt)が用いられる。この測温抵抗体80は、検出素子70及び参照素子75とともに、接触燃焼式ガスセンサ60を構成するため、被検出ガスの温度を検出するための測温抵抗体を接触燃焼式ガスセンサ60とは別に設ける場合に比べ、検出空間39を小型化することが可能である。
【0056】
また、測温抵抗体80は、電極88及びグランド電極89と電気的に接続されている。この電極88及びグランド電極89は、コンタクトホールを介して露出している。この電極88及びグランド電極89の材質は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)が用いられる。
【0057】
次に、ガス検出装置10の回路基板41に備えられている制御回路90について図5を参照して説明する。図5は、接触燃焼式ガスセンサ60の検出信号を処理するための制御回路90を説明する説明図である。図5に示すように、制御回路90は、信号出力回路91,参照回路92及び測温回路93を備えている。以下、制御回路90が備える各回路について詳述する。
【0058】
信号出力回路91は、接触燃焼式ガスセンサ60に備えられた第1発熱抵抗体71と、回路基板41に備えられた固定抵抗95乃至97とによって構成されるホイートストーンブリッジ911及び、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ911から得られる電位差を増幅するオペアンプ912を備えている。第1発熱抵抗体71として、自身の温度が上昇すると、抵抗値が温度の上昇に伴い上昇する抵抗体を用いた場合、このオペアンプ912は、第1発熱抵抗体71の温度が所定の温度(例えば、200℃)に保たれるように、第1発熱抵抗体71の温度が上昇した場合には、出力する電圧を低くし、第1発熱抵抗体71の温度が下降した場合には、出力する電圧を高くするように作動する。そして、このオペアンプ912の出力は、ホイートストーンブリッジ911に接続されているので、被検出ガスに含まれる可燃性ガスが、触媒の作用により燃焼して第1発熱抵抗体71の温度が上昇すると、第1発熱抵抗体71の温度を下げるためにオペアンプ912から出力される電圧は低くなり、ホイートストーンブリッジ911に印加される電圧が低下する。このときの、ホイートストーンブリッジ911の端部を構成する電極85の電圧は信号出力回路91の出力信号として、マイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力信号は、被検出ガスに含まれる可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0059】
同様に、参照回路92は、接触燃焼式ガスセンサ60に備えられた第2発熱抵抗体76と、回路基板41に備えられた固定抵抗98乃至100によって構成されるホイートストーンブリッジ921と、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ921から得られる電位差を増幅するオペアンプ922とを備えている。このオペアンプ922の出力は、第2発熱抵抗体76の温度が所定の温度(例えば、200℃)に保たれるように作動し、ホイートストーンブリッジ921に接続されている。ホイートストーンブリッジ921の端部を構成する電極87の出力は、マイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力信号は、被検出ガスに含まれる可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0060】
測温回路93は、接触燃焼式ガスセンサ60に備えられた測温抵抗体80と、回路基板41に備えられた固定抵抗101乃至103によって構成されるホイートストーンブリッジ931と、回路基板41に備えられ、このホイートストーンブリッジ931から得られる電位差を増幅するオペアンプ932とを備えている。このオペアンプ932の出力は、マイコン94により検出され、マイコン94により検出された出力信号は、被検出ガスの温度を測定するのに用いられ、さらに、被検出ガスに含まれる可燃性ガスを検出するための演算処理に供される。
【0061】
マイコン94により実行される可燃性ガスの濃度を演算する処理は、次のように行われる。まず、マイコン94が備えるCPUは、マイコン94が備える記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムに基づき、信号出力回路91の出力値及び、参照回路92の出力値から得られるそれぞれの電位差から、可燃性ガス濃度にほぼ比例した第1の出力値を出力する。さらに、第1の出力値は検出空間39の雰囲気温度変化による出力変化を含んでいるので、測温回路93からの出力に基づき第1の出力値を補正した第2の出力値を出力する。さらに、マイコン94は、マイコン94の記憶装置(図示せず)に記憶された第2の出力値と可燃性ガスの濃度との関係に基づき、被検出ガス中に含まれる可燃性ガスの濃度を出力する。このように、第1の出力値を測温回路93の出力に基づき補正しているので、精度よく可燃性ガスを検出できる。
【0062】
以上のように構成されたガス検出装置10の効果を確認するために、評価試験を行った。この評価試験について、図6乃至図9を参照して説明する。図6は、シリコン成分被毒試験装置を説明するための説明図であり、図7は、シリコン成分として用いた、ヘキサメチルジシラザンの構造式を説明するための説明図である。また、図8は、比較例として、参照ガス検出装置11を用いた場合の試験結果を示す説明図であり、図9は、ガス検出装置10を用いた場合の試験結果を示す説明図である。
【0063】
本発明の効果を確認する試験として、ガス検出装置10と、比較例として、本発明に係る触媒劣化防止層73及びシリコン化合物吸着層77を設けないことを除いてガス検出装置10と同様な構成を有する参照ガス検出装置11(図6参照)とを可燃性ガス測定装置に取り付け被検出ガス中に所定の濃度含有させた水素ガスの検出を行った。
【0064】
尚、本評価試験に供したガス検出装置10の触媒劣化防止層73及びシリコン化合物吸着層77は、次のような手順により形成した。まず、平均粒径0.2(μm)程度の酸化チタン(TiO)粉末を塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)等の周期律表第2A族成分を純水に溶解した溶液中に加え、煮沸攪拌しながら乾燥し、その後550(℃)にて熱処理した。この処理により得られた粉末に、有機バインダとブチルカルビトールとを加え、筆にて反応部72を覆うように塗布し、500(℃)で焼付した。
【0065】
評価試験に先立って、図6に示す装置を用いて、参照ガス検出装置11と、本発明に係るガス検出装置10とをシリコン成分に被毒させる被毒処理を行った。被毒処理の手順は、まず、図6に示す装置により、常温で無色透明の液体であり、図7に示す構造式を有する有機シリコン化合物であるヘキサメチルジシラザン(以下、「HMDS」と言う。)を含有する溶液123に精製空気を通気させた有機シリコン含有空気と、精製空気とを混合し、シリコン含有調整空気に含まれるHMDSの濃度が100(ppm)となるように調整した。次に、このように調整したシリコン含有調整空気を、ガス温度25(℃)、ガス流量25(L/min)の条件で、所定時間、耐久用チャンバ124に供給し、参照ガス検出装置11とガス検出装置10とをそれぞれ、HMDSにより被毒させた。
【0066】
次に、HMDSに被毒させていない初期状態の参照ガス検出装置11及びガス検出装置10と、上述の条件によりHMDSにより、所定時間被毒させた参照ガス検出装置11及びガス検出装置10とを用い、被検出ガス中に含まれる水素ガス(体積%)と各ガス検出装置のセンサ出力(V)との関係を調べた。被検出ガスのガス組成は、水素(H)を0〜2(体積%)、酸素(O)を20.7(体積%)含有し、窒素(N)により合計量が100(体積%)となるように調整し、当該被検出ガスを、ガス温度25(℃)、ガス流量10(L/min)の条件で各ガス検出装置に供給した。尚、センサ出力(V)とは、マイコン94により算出された、前述の第2の出力値に相当する。
【0067】
この評価試験結果を図8及び図9に示す。図8及び図9において、「初期」は、HMDSにより被毒させていない初期状態の参照ガス検出装置11又はガス検出装置10を用いた場合を示している。また、「150hr後」、「300hr後」、「400hr後」及び、「500hr後」はそれぞれ、上述の条件にて、各時間、有機シリコン含有調整空気により被毒させた参照ガス検出装置11又はガス検出装置10を用いた場合を示している。
【0068】
図8に示す、参照ガス検出装置11の評価試験結果において、初期の条件では、被検出ガス中の水素濃度(体積%)に対してセンサ出力(V)は直線的に増加している。これに対し、同じ水素濃度のセンサ出力を比べた場合、HMDSにより被毒させた条件では、被毒時間が長くなるに従い、センサ出力が小さい値になっている。また、センサ出力と水素濃度との関係はいずれの条件も線形となっているが、被毒時間が長くなるに従い、その傾きは小さくなっている。これは、参照ガス検出装置11が、有機シリコン化合物であるHMDSを含む被検出ガスに晒されたことにより、被検出ガス中の水素ガスを検出する感度が低下することを示すとともに、被毒時間が長くなるほど、高濃度の水素ガスを検出する感度が低下する度合いが大きくなることを示している。本発明者らが種々検討したところ、センサ出力が検出時間の経過に伴い低下する現象は、反応部72へのシリコン成分が堆積する量が増大することによって発生することが分かった。
【0069】
一方、図9に示す、本発明に係るガス検出装置10の評価試験結果においては、被毒時間が長い条件のガス検出装置10を用いた場合であっても、HMDSに被毒させていない初期条件で測定したセンサ出力(V)とほぼ同じ値を示している。これは、ガス検出装置10は、シリコン成分により接触燃焼式ガスセンサの出力が初期状態よりも低下する感度劣化が抑制されていることを示している。
【0070】
ここで、前述のように、ガス検出装置10と参照ガス検出装置11との構成上の違いは、ガス検出装置10には、本発明に係る周期律表第2A族元素であるカルシウム(Ca)を含有する触媒劣化防止層及び、シリコン化合物吸着層を設置していることのみである。したがって、図9に示すように、ガス検出装置10を用いた場合には、有機シリコン化合物であるHMDSを含むシリコン含有調整空気に晒された条件であっても水素ガスを検出する感度が劣化しなかったのは、周期律表第2A族元素であるカルシウム(Ca)を含有する触媒劣化防止層及びシリコン化合物吸着層により、有機シリコン化合物であるHMDSが捕集され、ガス検出装置10に備えられた接触燃焼式ガスセンサ60の反応部72にシリコン成分が吸着することを防止していることによると言える。
【0071】
以上説明した実施形態のガス検出装置10によれば、ガス検出装置10が備える接触燃焼式ガスセンサ60は、触媒を含む反応部72を覆うように触媒劣化防止層73を設け、触媒を含む反応部がシリコン成分に被毒することを防止しているので、触媒を含む反応部がシリコン成分に被毒することによる、被検出ガスに含まれる可燃性ガスの検出感度の低下を防ぐことができる。
【0072】
また、接触燃焼式ガスセンサ60は、触媒劣化防止層73を、シリコン成分の吸着能が高い周期律表第2A族元素を含有する材料にて形成した場合には、シリコン成分をより効率的に捕集することができる。このため、接触燃焼式ガスセンサ60を備えたガス検出装置10は、接触燃焼式ガスセンサ60の触媒を含む反応部72に、シリコン成分が堆積することを抑制することによって、可燃性ガスの検出感度が低下することなく、可燃性ガスを検出することができる。
【0073】
また、本実施形態の接触燃焼式ガスセンサ60は、図4に示すように、第1発熱抵抗体71及び第2発熱抵抗体76の下部のシリコン基板61が除去され、開口部62,63が形成される構成を有しているので、応答速度を高速化すると共に、消費電力を低減することが可能である。また、接触燃焼式ガスセンサ60は測温抵抗体80を備えているので、ガス検出装置10は別途温度センサを設ける必要が無い。このため、接触燃焼式ガスセンサ60を備えたガス検出装置10を小型化することが可能である。
【0074】
尚、本発明は、以上詳述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。まず、本実施形態においては、ガス検出装置10として、水素を燃料とした燃料電池自動車に搭載され、水素の漏れを検出する目的等に用いられるものを例示したが、ガス検出装置10の設置場所や用途はこれに限定されない。例えば、都市ガス等の可燃性ガスの漏洩検出や濃度検出に用いるガス検出装置に本発明を適用してもよい。
【0075】
また、本実施形態においては、第2発熱抵抗体を備えるガス検出装置10を例示したが、被検出ガス中の温度と第2発熱抵抗体との関係を予めマイコン94又は、マイコン94と同等の外部装置の記憶部に記憶する場合には、参照素子75を備えなくてもよい。
【0076】
また、本実施形態の測温抵抗体80に代えて、接触燃焼式ガスセンサ60とは別体の測温抵抗体やその他の温度センサを採用してもよい。この場合、当該温度センサは、検出空間内に配置することが望ましい。また、この測温抵抗体80は、薄膜抵抗体に限定されることなく、サーミスタ等の温度検出可能な各種の抵抗体を採用可能である。
【0077】
また、本実施形態においては、絶縁層65の上部に保護層64を配置するようにしていたが、保護層64は省略することができる。
【0078】
次に、上述の実施形態のガス検出装置10に備えられた接触燃焼式ガスセンサ60の構成のうち、シリコン化合物吸着層77を設けない変形例について、図10を参照して説明する。図10は、変形例における接触燃焼式ガスセンサ160の、図4に示す図3のB−B線における矢視方向断面図に対応する断面図である。
【0079】
図10に示すように、変形例における接触燃焼式ガスセンサ160は、図4に示す実施形態の接触燃焼式ガスセンサ60と、参照素子175にシリコン化合物吸着層77を設けない点において異なる。接触燃焼式ガスセンサ160は、その反応部72の表面が、本発明の重要な構成要素である触媒劣化防止層73により覆われているため、触媒劣化防止層73は、反応部72に包含される触媒に被検出ガス中に含まれるシリコン成分が吸着することによる、可燃性ガスの検出感度が低下することを防止することができる。
【0080】
変形例に例示する接触燃焼式ガスセンサ160のように、シリコン化合物吸着層77を設けていない場合には、被検出ガス中に含まれるシリコン成分が吸着して堆積する量が、触媒劣化防止層73と、保護層64の上面であって第2発熱抵抗体の上部の領域とで異なるおそれがある。その場合には、シリコン成分の触媒劣化防止層73への吸着により変化した検出素子70の熱容量を、参照素子の熱容量の変化によって十分に補正されない。したがって、被検出ガス中に多量のシリコン成分が含まれる場合等には、センサのゼロ出力が低下し、即ち、ドリフトするおそれがある。これに対し、前述の実施形態のように、第2発熱抵抗体の上部に、触媒劣化防止層73と同様の材料からなるシリコン化合物吸着層77を設ける代わりに、シリコン成分の堆積に伴うセンサ出力の変化を減少させるように補正して補正信号として決定する信号補正手段を備えるようにしてもよい。
【0081】
変形例に例示した接触燃焼式ガスセンサ160を備えたガス検出装置に適用する信号補正手段について図11乃至図13を参照して説明する。図11は、センサ出力(V)と水素濃度(体積%)との関係を示しおり、電圧閾値をY及び水素濃度が0(体積%)の初期状態のセンサ出力をAとして示すグラフである。図12は信号補正手段により実行される補正処理を説明するためのフローチャートである。図13は、信号補正手段により補正された後のセンサ出力(V)と水素濃度(体積%)との関係を示すグラフである。
【0082】
図11において、「初期出力」は、シリコン成分により被毒されていない接触燃焼式ガスセンサを用いた場合のセンサ出力と水素濃度との関係を表しており、「シリコン被毒した出力」は、シリコン成分により被毒された接触燃焼式ガスセンサを用いた場合のセンサ出力と水素濃度との関係を表している。図11に示すように、同じ水素濃度を供した場合のセンサ出力(V)は、シリコン成分に被毒されていない接触燃焼式ガスセンサを用いた「初期出力」に比べ、シリコン成分により被毒された接触燃焼式ガスセンサを用いた「シリコン被毒した出力」の方が小さい値を示している。図11に示すグラフにおいて、「初期出力」のセンサ出力と水素濃度との関係は、「シリコン被毒した出力」のセンサ出力を一定値増加させた補正出力と水素濃度との関係とにほぼ一致する。この一定値は、例えば、「初期出力」の水素濃度が0(体積%)の条件のセンサ出力(V)から「シリコン被毒した出力」の水素濃度が0(体積%)の条件のセンサ出力(V)を差し引いた値により、オフセット値Z(V)として規定することができる。したがって、変形例に例示した接触燃焼式ガスセンサ160を備えたガス検出装置において、シリコン成分の触媒劣化防止層73への吸着により変化した検出素子70の熱容量を、参照素子の熱容量の変化によって十分に補正されない場合には、接触燃焼式ガスセンサ160を用いた場合のセンサ出力に、オフセット値Z(V)を加算する補正処理を施せばよい。
【0083】
この補正処理の処理手順を図12に示すフローチャートを参照して説明する。尚、接触燃焼式ガスセンサ160を備えるガス検出装置(図示せず)のマイコン(図示せず)に備えられたCPU(図示せず)が、信号補正手段として機能し、補正処理を実行するためのプログラムは、マイコンに備えられた記憶装置(図示せず)に記憶されている。また、このガス検出装置の構成は、ガス検出装置10と接触燃焼式ガスセンサ160とマイコンに記憶されたプログラムを除いて同様である。
【0084】
尚、初期状態のセンサにおいて、水素濃度0(体積%)の条件のセンサ出力を求め、その値を初期出力Aとする。この変形例の場合、初期出力Aは1とする。そして、その値は、マイコンに備えられた記憶装置に記憶されている。また、オフセット値Zの初期値は、0として、その記憶装置に記憶されている。
【0085】
補正処理が開始されると、まず、変形例に係る信号補正手段により補正される前のセンサ出力である補正されていないセンサ出力X0(V)が算出される(S10)。この補正されていないセンサ出力X0(V)は、前述の実施形態に係るマイコン94により算出された、第2の出力値に相当する。変形例に係る接触燃焼式ガスセンサ160を備えたガス検出装置が水素を燃料とした燃料電池自動車に搭載され、水素の漏れを検出する目的で用いられる場合には、通常時には、被検出ガス中には、水素ガスを含まれていないため、このセンサ出力X0(V)は水素濃度0(体積%)の被検出ガスに対するセンサ出力とみなされる。
【0086】
続いて、補正されていないセンサ出力X0(V)にマイコンに備えられた記憶装置に記憶されたオフセット値Z(V)が加算され、マイコンが備える記憶装置にセンサ出力Xとして記憶される(S20)。この処理は、オフセット値Zを更新する必要があるか否かを判断するための処理であり、更新する必要がないと判断される場合には、当該オフセット値Zを加算した値をセンサ出力Xとして出力するための処理である。
【0087】
続いて、マイコンの記憶装置に記憶された閾値Yが参照され、S20により算出されたセンサ出力Xが閾値Y以下であるか否かが判断される(S30)。この閾値Yは、補正が必要なセンサ出力(V)を規定するものであり、初期出力のセンサ出力(V)より一定値小さい値として予め規定され、マイコンが備える記憶装置に記憶されている。
【0088】
S20により算出されたセンサ出力Xが閾値Y以下であると判断される場合には(S30:Yes)、S20において、センサ出力X0にオフセット値Zを加算した処理を行っても、センサ出力Xの値が小さく、さらに補正する必要があると判断される。このため、オフセット値Zを更新するために、更新前のオフセット値Zに初期出力Aを加算した値から、閾値Yを差し引く処理が実行され、この値はオフセット値Zとして、マイコンが備える記憶装置に記憶される(S40)。続いて、センサ出力X0にS40にて更新されたオフセット値Zを加算したセンサ出力Xが出力され(S20)、再度S20により算出されたセンサ出力Xが閾値Y以下であるかが判断される(S30)。S40において更新されたオフセット値Zを用いて求めたセンサ出力Xは閾値Yよりも大きいと判断され(S30:No)、続いてこのセンサ出力X(V)が出力される(S50)。その後、S10に戻り処理を繰り返す。
【0089】
一方、S20により算出されたセンサ出力Xが閾値Yより大きい値であると判断される場合には(S30:No)、センサ出力Xをさらに補正する必要はないと判断されるので、当該センサ出力X(V)が出力される(S50)。続いて、S10に戻り処理を繰り返す。
【0090】
尚、S50において出力されたセンサ出力Xは、マイコンに備えられた記憶装置に記憶されている、センサ出力と水素濃度との関係とに基づき、水素濃度を算出する処理に供される。また、図12に示した補正処理は、ガス検出装置立ち上げ時や、検出開始時から所定時間経過後等に行えばよく、通常時には、S20で算出したセンサ出力Xを、水素濃度を算出する処理に供すればよい。
【0091】
以上説明した補正処理により、図11に示す、「シリコン被毒した出力」の出力値を補正した結果を図13に示す。図13において、「補正後の出力」は図11に示す「シリコン被毒した出力」を、図12に示す補正処理に従って補正した値を示している。図13に示すように、「補正後の出力」は、「初期出力」とほぼ同様なセンサ出力を示している。したがって、信号補正手段による補正処理を適用すれば、シリコン成分の堆積に伴うセンサ出力の変化を減少させるように補正することができる。
【0092】
尚、この信号補正手段による補正処理は、上述の実施形態に適用するようにしてもよい。実施形態に適用した場合には、被検出ガス中に含まれるシリコン成分の量が多く、図3及び図4に示す触媒劣化防止層73に過剰のシリコン成分が堆積し、触媒劣化防止層73のシリコン化合物吸着能が低下した場合にも、可燃性ガスの検出感度を良好に保つことができる。
【0093】
以上説明した変形例によれば、反応部72は触媒劣化防止層73により覆われているので、反応部72がシリコン成分により被毒されるのを防止することができる。このため、被検出ガス中にシリコン成分が含まれる場合であっても、可燃性ガスの検出感度を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス検出装置10の縦断面図である。
【図2】ガス検出装置10を構成する素子ケース20の縦断面図である。
【図3】接触燃焼式ガスセンサ60の検出素子70及び参照素子75の配置状態を説明するための模式平面図である。
【図4】検出素子70及び参照素子75の配置状態を説明するための図3のB−B線における矢視方向断面図である。
【図5】接触燃焼式ガスセンサ60の検出信号を処理するための制御回路90を説明する説明図である。
【図6】シリコン化合物被毒試験装置を説明するための説明図である。
【図7】シリコン成分として用いた、ヘキサメチルジシラザンの構造式を説明するための説明図である。
【図8】比較例として、参照ガス検出装置11を用いた場合の評価試験結果を示す説明図である。
【図9】ガス検出装置10を用いた場合の評価試験結果を示す説明図である。
【図10】変形例における接触燃焼式ガスセンサ160の、図4に示す図3のB−B線における矢視方向断面図に対応する断面図である。
【図11】センサ出力(V)と水素濃度(体積%)との関係を示すグラフである。
【図12】信号補正手段により実行される補正処理を説明するためのフローチャートである。
【図13】信号補正手段により補正された後のセンサ出力(V)と水素濃度(体積%)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
10 ガス検出装置
60 接触燃焼式ガスセンサ
61 シリコン基板
62 開口部
63 開口部
65 絶縁層
71 第1発熱抵抗体
72 反応部
73 触媒劣化防止層
76 第2発熱抵抗体
77 シリコン化合物吸着層
90 制御回路
91 信号出力回路
94 マイコン
160 接触燃焼式ガスセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガス中に含まれる可燃性ガスを燃焼する触媒を含む反応部を備え、前記可燃性ガスが前記触媒により燃焼する際に発生する熱量に基づき、前記可燃性ガスを検出する接触燃焼式ガスセンサにおいて、
前記反応部の表面が、前記被検出ガス中に含まれるシリコン成分を吸着することにより前記触媒の劣化を防止する多孔質の触媒劣化防止層により被覆されたことを特徴とする接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項2】
自身の温度変化により抵抗値が変化する第1発熱抵抗体を備え、
前記第1発熱抵抗体は、前記熱量の変化に伴って、前記抵抗値が変化する位置に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項3】
自身の温度変化により抵抗値が変化する第2発熱抵抗体を備え、
前記第1発熱抵抗体と前記第2発熱抵抗体とはともに、前記被検出ガスの温度変化に伴って、抵抗値が変化する位置に配置されたことを特徴とする請求項2に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項4】
前記第2発熱抵抗体の表面が、前記触媒劣化防止層と同じ材料からなるシリコン化合物吸着層により被覆されたことを特徴とする請求項3に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項5】
前記触媒劣化防止層は、少なくとも周期律表第2A族元素を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項6】
板厚方向に開口部が形成された半導体基板と、
前記半導体基板上に形成され、前記開口部に対応する部位に前記第1発熱抵抗体と前記第2発熱抵抗体とをそれぞれ内包する絶縁層とを備え、
前記反応部が、前記絶縁層を介し前記第1発熱抵抗体に対向するように、前記絶縁層上に形成されたことを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれかに記載の接触燃焼式ガスセンサと、
前記接触燃焼式ガスセンサが有する第1発熱抵抗体の抵抗値の変化に応じて出力信号を出力する信号出力回路と、
前記信号出力回路が出力した出力信号に基づき、前記可燃性ガスの濃度を判定するガス判定手段を有するマイクロコンピュータと
を備えたことを特徴とするガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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