説明

推進工法並びにその推進工法用の推力方向転換装置および推進システム

【課題】管の推進箇所の開削路幅を広げることなしに、より大きな推進力をもった推進機を使用して確実な施工を行い得るようにすることにある。
【解決手段】推進機7が発生させる推力により管P2を推進させて管路を形成する推進工法において、前記推進機7が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置1を用いて、前記管路の延在方向に対し交差する方向に向かう前記推進機7の推力により前記管P2を推進させることを特徴とする、管の推進工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進機が発生させる推力により管を推進させて管路を形成したり杭を打ち込んだりする推進工法並びにその推進工法用の推力方向転換装置および推進システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上下水道、電力、ガス、通信といったライフライン用の管路の敷設工事では、図9(a),(b)に示すように、本管、支管、枝管といった供給者側の管P1は殆どの場合道路Rに沿って開削路Cを掘る開削工法で敷設され、各家庭(需要者側)への管P2は、ほぼこれに直角に接続される。
【0003】
この需要者側への管の敷設工事においては、雨水側溝や、塀、植樹他、様々な障害物があるため、開削工法による施工が困難になるケースが多々発生する。その際、現状では図9(a),(b)に示すように、幅90cm程度の開削路内にその幅内に収まる大きさの推進機Iを据え付けて必要な管P2を推進させた後,各家庭へのその管P2の接続を行っているが、礫や玉石の混入した地盤では、パワー不足により施工不能に陥り、やむなく当該箇所の開削路幅を広げて、よりパワーの強い推進機を設置して施工を行っている。
【0004】
すなわち、現状の技術で90cmの開削路内から管を推進させ得る工法としては、
(1)オーガスクリュー掘削方式(例えば非特許文献1記載の油圧回転押圧推進式のもの等)、
(2)ボーリング方式、
(3)鋼管打撃推進方式(例えば非特許文献2記載の打撃推進式のもの等)
の3種類が知られている。
【非特許文献1】長野油機株式会社平成14年4月10日発行のカタログ「小型推進機うりん坊」
【非特許文献2】マルチモール協会発行のカタログ「とんとん君」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(1),(2)の工法では、掘進時に玉石を揺動させるため、「礫」や「砂」等の細粒分を崩落させ、管の上方の地盤を緩めるおそれ(推進管上部の構造物への影響)があることが良く知られている。つまり、(1),(2)の工法は元々「玉石混じり土」の施工には不適なのであるが、仮にこれらの工法で施工を行い得たとしても、(1),(2)の工法では切刃の回転により掘削するという原理上、玉石を破壊するのに大きなエネルギーが必要となるため、経済性に難がある。
【0006】
一方、(3)の推進工法では、砂礫玉石混じり土の施工で地盤を緩める可能性はかなり少ないが、90cmの開削路幅から推進する場合、推進機の打撃ピストンのストロークが短いため、推力不足で「玉石混じり土」の施工は困難である。
【0007】
それゆえこの発明は、管の推進工法を改良し、管の推進箇所の開削路幅を広げることなしに、大きな推進力をもった推進機を使用して確実な施工を行い得るようにすることを目的としている。
【0008】
また、上記の問題点は推進工法による杭の打ち込みの際についても同様であり、例えば既設の橋梁の橋脚の周囲に新たに補強用の杭を下向きに打ち込む場合に、杭の上端と橋脚上部や橋桁等との間に充分な幅の空間がない場合には、大きな推進力をもった推進機を杭の打ち込み方向へ向けて配置することができず、長尺の杭の打ち込みが困難であった。
【0009】
それゆえこの発明は、杭の打設のための推進工法を改良し、杭の打ち込み箇所で杭の上端と橋脚上部や橋桁等との間に充分な幅の空間がない場合でも、大きな推進力をもった推進機を使用して確実な施工を行い得るようにすることをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する、請求項1記載のこの発明の推進工法は、推進機が発生させる推力により管を推進させて管路を形成する推進工法において、前記推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、前記管路の延在方向に対し交差する方向に向かう前記推進機の推力により前記管を推進させることを特徴とするものである。
【0011】
また上記目的を達成する、請求項2記載のこの発明の推進工法は、推進機が発生させる推力により杭を打ち込む推進工法において、前記推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、前記杭の打ち込み方向に対し交差する方向に向かう前記推進機の推力により前記杭を打ち込むことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項6記載のこの発明の推力方向転換装置は、前記推進機が発生させる推力により押圧される従動子と、その従動子を前記推力の方向に対し交差する方向へ移動させるカムとを具えてなるものである。
【0013】
また、請求項7記載のこの発明の推力方向転換装置は、前記推進機が発生させる推力により押圧されるカムと、そのカムにより押圧されて前記推力の方向に対し交差する方向へ移動する従動子とを具えてなるものである。
【0014】
そして、請求項9記載のこの発明の推進システムは、前記推進機と、請求項6から8までの何れか記載の推力方向転換装置とを具えてなるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の推進工法および、この発明の推進システムによれば、推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、管路の延在方向に対し直角方向等の交差する方向に向かう推進機の推力により管を推進させて管路を形成するので、開削路の幅内に推進方向寸法が納まるように無理やり小さい推進機を据え付ける代わりに、適切な推力を持った推進機を、開削路の上方の広い空間や開削路に沿って広がる長い空間にセットして推進工法を行い得て、管の推進箇所の開削路幅を広げることなしに、より大きな推進力をもった推進機を使用して確実な施工を行うことができる。
【0016】
またこの発明の推進工法および、この発明の推進システムによれば、推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、杭の打ち込み方向に対し直角方向等の交差する方向に向かう推進機の推力により杭を打ち込むので、例えば既設の橋梁の橋脚の周囲に新たに補強用の杭を下向きに打ち込む場合に、杭の上端と橋脚上部や橋桁等との間に充分な幅の空間がなくて、大きな推進力をもった推進機を杭の打ち込み方向へ向けて配置することができない状況でも、適切な推力を持った推進機を、杭上端と橋脚上部や橋桁との間でそれら橋脚上部や橋桁に沿って水平方向へ広がる空間に横向き等にセットして推進工法を行い得て、長尺の杭の打ち込みの確実な施工を行うことができる。
【0017】
なお、この発明の推進工法においては、前記推進機は、下方へ向かう推力を発生させるものとしても良く、このようにすれば、開削路の上方の広い空間に推力の大きい推進機を下向きにセットし得るとともにその推進機の自重で反力を受け得るので好ましい。
【0018】
また、この発明の推進工法においては、前記推進機は、開削路の延在方向や、杭上端と橋脚上部等との間の隙間の延在方向等、幅狭の空間の広がる方向へ向かう推力を発生させるものとしても良く、この場合も、開削路幅や杭上端と橋脚上部等との間の隙間より細い太さのものであれば、開削路幅や杭上端と橋脚上部等との間の隙間より長尺の、より推力の大きい推進機でも使用できるので好ましい。
【0019】
さらに、この発明の推進工法においては、前記推力方向転換装置は、互いに推力方向が異なる複数の前記推進機の推力の方向を互いに実質的に同一の方向に転換するものとしても良く、この場合には、複数の推進機の推力を、管や杭の推進方向以外では釣り合わせたり相殺させたりし得るので、管や杭を推進させる方向がずれるのを防止し得るとともに、推力方向転換装置の位置ずれを防止することができる。
【0020】
さらに、この発明の推進工法においては、前記推力方向転換装置は、カムとそれに沿って動く従動子とを具えるカム機構でも良く、あるいは楔の原理で推力の方向を変えるもの等でも良い。
【0021】
一方、この発明の推力方向転換装置によれば、推進機が発生させる推力により押圧される従動子と、その従動子を推進機の推力の方向に対し交差する方向へ移動させるカムとを具えているか、または、推進機が発生させる推力により押圧されるカムと、そのカムにより押圧されて推進機の推力の方向に対し交差する方向へ移動する従動子とを具えているので、カムの、従動子と接する面の形状を適宜に設定することで、推進機より大きい推力を得たり、推力の方向を所望の方向に変更したりすることができる。
【0022】
なお、この発明の推力方向転換装置においては、前記従動子は前記カムに対し摺動可能に掛合していても良く、このようにすれば、管や杭の推進に伴ってその推進方向へ推力方向転換装置および推進機も自走するので、管や杭と推力方向転換装置との間にスペーサを介挿して管や杭の推進とともにそのスペーサを厚さの厚いものに交換してゆくといった手間を省くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置の一実施例を用いた、この発明の推進工法の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムの一実施例としての管の推進システムを、管の推進前および推進後の状態でそれぞれ示す縦断面図、図2は、図1に示す実施例の推力方向転換装置の一変形例を示す縦断面図である。
【0024】
図中符号1で示すこの実施例の推力方向転換装置は、開削路C内の管P2の推進箇所に設置される例えば筒状の鋼管製のケーシング2と、そのケーシング2の内壁に沿って上下方向に延在するように設けられた例えば円筒状の案内部材3と、そのケーシング2の下部に管P2の推進方向へ延在するように例えば図では水平に設けられた案内レール4と、その案内レール4上にそのレールに沿って摺動可能に載置されるとともに上向きの傾斜面5aを持つ断面三角形状の、従動子としての従動部材5と、上記案内部材3内に上下方向摺動可能に挿入されるとともに従動部材5の傾斜面5aと摺接する下向きの傾斜面6aを先端部に持つ、カムあるいは楔としての駆動部材6とを具えており、その駆動部材6内には、例えばライフライン工業株式会社が販売する空圧衝撃推進式推進機「グルンドラム(商品名)」等の推進機7が設けられ、その推進機7には図示しない空気圧源からホース7aを介して圧縮空気が供給される。
【0025】
この実施例の管の推進工法および管の推進システムでは、図1(a)に示すように、上記実施例の推力方向転換装置1を開削路C内の、管P2の推進箇所に設置するとともに、そのケーシング2の開口部2aを通した鋼製の管P2を、推進方向へ向けて配置する。次いで、推進機7に空気圧を供給すると、推進機7の内部のピストンが空気圧で繰り返し往復運動するとともにその前進時にヘッド部を打撃して断続的に推力を発生させる。
【0026】
この推進機7の推力により駆動部材6が、下向きに附勢されて案内部材3内を下降しつつ、図1(b)に示すように、カム面としての傾斜面6aで従動部材5の傾斜面5aを断続的に押圧し、この押圧力により従動部材5は、駆動部材6の傾斜面6aに対し傾斜面5aを摺動させつつ案内レール4上を移動して、管P2を土中に断続的に推進させる。
【0027】
しかして駆動部材6の傾斜面6aと従動部材5の傾斜面5aとの接触長さが短くなったら、駆動部材6を図示しないクレーン等で持ち上げるとともに従動部材5を後退させ、従動部材5と管P2の間に空いた隙間に次の管P2を入れてそれを先の管P2に接続する。その後は先の作業と同様の作業を繰り返すことで、管P2を各家庭まで到達させて、開削路Cから各家庭までの管路を敷設する。
【0028】
かかる実施例の管の推進工法および管の推進システムによれば、推進機7が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置1を用いて、管路の延在方向に対し直角方向等の交差する方向に向かう推進機7の推力により管P2を推進させて管路を形成するので、開削路Cの幅内に推進方向寸法が納まるように無理やり小さい推進機を据え付ける代わりに、適切な推力を持った推進機7を開削路Cの上方の広い空間や開削路に沿う長い空間にセットして推進工法を行い得て、管P2の推進箇所の開削路Cの幅を広げることなしに、より大きな推進力をもった推進機7を使用して確実な施工を行うことができる。
【0029】
しかもこの実施例の管の推進工法および管の推進システムによれば、推進機7は下方へ向かう推力を発生させるので、開削路Cの上方の広い空間に推力の大きい推進機7を下向きにセットし得るとともにその推進機7の自重で推力の反力を受けることができる。
【0030】
そして上記実施例の推力方向転換装置1によれば、推進機7が発生させる推力により押圧される従動部材5と、その従動部材5を上記推力の方向に対し交差する方向へ移動させる駆動部材6とを具えているので、駆動部材6の傾斜面6aの形状を適宜に設定することで、推進機7の推力より大きい推力を従動部材5で得たり、推力の方向を、例えば図7(b)の管P2の如く斜め上方に向かう方向等、所望の方向に変更したりすることができる。
【0031】
図2に示す変形例の推力方向転換装置11では、ケーシング2内の底部に、上向きの傾斜面8aを持つ断面三角形状の、カムとしての固定カム部材8が固設されるとともに、ケーシング2内に、その傾斜面8aに摺接する下向きの傾斜面9aを先端部に持つ、従動子としての従動部材9が配置され、その従動部材9内に先の実施例におけると同様の推進機7が設けられており、この変形例によれば、推進機7の下向きの推力により従動部材9が傾斜面8aに沿って下降すると、従動部材9の側面が管P2の後端に摺接しつつその管P2の後端を押圧し、これにより管P2が土中に推進される。
【0032】
かかる変形例の推力方向転換装置11並びにそれを用いた管の推進工法および管の推進システムによっても、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。
【0033】
図3(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置の他の一実施例を用いた、この発明の推進工法の他の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムの他の一実施例としての管の推進システムを管の推進前および推進後の状態でそれぞれ示す縦断面図である。
【0034】
この実施例の推力方向転換装置21では、ケーシング2内の底部に、上向きの傾斜面8aを持つ断面三角形状の、カムとしての固定カム部材8が固設されるとともに、その固定カム部材8と向かい合わせに、上向きの傾斜面5aを持つ断面三角形状の、従動子としての従動部材5が水平方向摺動可能に配置され、それらの傾斜面8a,5a間に楔状のヘッド部7aが入り込むように、ケーシング2内に先の実施例におけると同様の推進機7が下向きに配置されており、この実施例の推力方向転換装置21にあっては、図3(a)に示すように、推進機7の下向きの推力により推進機7のヘッド部7aが傾斜面8a,5aに沿って下降すると、従動部材5の側面が管P2の後端に摺接しつつその管P2の後端を押圧し、これにより管P2が土中に推進される。
【0035】
しかしてヘッド部7aと傾斜面8a,5aとの接触長さが短くなったら、推進機7をクレーン等で持ち上げるとともに従動部材5を後退させて、図3(b)に示すように、従動部材5と管P2の間に空いた隙間にスペーサ10を介挿する、という作業を繰り返し、これにより管P2の単位長さ分管P2が推進されたら、その管P2の後端に次の管P2を接続する。
【0036】
かかる実施例の推力方向転換装置21並びにそれを用いた管の推進工法および管の推進システムによっても、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。
【0037】
図4(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法のさらに他の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムのさらに他の一実施例としての管の推進システムを管の推進前および推進後の状態でそれぞれ示す平面図である。
【0038】
この実施例の推力方向転換装置31では、開削路C内の底部に、管の推進方向(図では左方)へ向くように開削路Cの延在方向(図では上下方向)に対し傾斜した傾斜面8aを持つ断面三角形状の、カムとしての固定カム部材8が固設されるとともに、その固定カム部材8と向かい合わせに、管の推進方向と反対方向(図では右方)へ向くように開削路Cの延在方向(図では上下方向)に対し傾斜した傾斜面9aを持つ断面三角形状の、従動子としての従動部材9が傾斜面8a,9a同士摺動可能に配置され、固定カム部材8の傾斜面8aにはそれに沿って水平方向に延在するあり溝8bが設けられ、一方、従動部材9の傾斜面9aにはそれに沿って水平方向に延在して固定カム部材8のあり溝8bに摺動可能に掛合する断面鳩尾状の凸条9bが設けられ、そして従動部材9内には先の実施例におけると同様の推進機7が傾斜面9aに沿って、すなわち概ね開削溝Cの延在方向に沿って水平に配置されている。
【0039】
この実施例の推力方向転換装置31にあっては、図4(a)に示すように、傾斜面9aに沿った推進機7の水平向きの推力により従動部材9が傾斜面8aに沿って前進すると、従動部材9の側面が管P2の後端に固定された球状又は筒状の伝動部材に摺接しつつその伝動部材を介して管P2の後端を押圧し、これにより管P2が土中に推進され、その際、従動部材9は固定カム部材8に対しあり溝8bおよび凸条9bにより摺動可能に掛合していることから、管P2の推進に伴ってその推進方向へ従動部材9および推進機7も斜めに自走する。そして図4(b)に示すように、傾斜面8a,9a同士の接触長さが短くなったら、従動部材9を後退させて、従動部材9と管P2の間に空いた隙間に次の管P2を入れてそれを先の管P2に接続する。その後は先の作業と同様の作業を繰り返すことで、管P2を各家庭まで到達させて、開削路Cから各家庭までの管路を敷設する。
【0040】
かかる実施例の推力方向転換装置31並びにそれを用いた管の推進工法および管の推進システムによっても、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。なお、管P2の推進の反力は、傾斜面8a,9a同士の接触摩擦によって受け止められる。
【0041】
図5は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法のさらに他の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムのさらに他の一実施例としての管の推進システムを管の推進中の状態で示す平面図である。
【0042】
この実施例の推力方向転換装置41では、開削路C内の底部に、管の推進方向(図では左方)へ延在するように案内レール4が敷設されて、その案内レール4上に可動台12が水平に配置され、その案内レール4により管の推進方向への可動台12の移動が案内されるとともに、その可動台12上に管の推進方向へ向くように開削路Cの延在方向(図では上下方向)に対し傾斜した傾斜面8aを持つ断面三角形状の、カムとしての固定カム部材8が固設され、さらにその可動台12上に先の実施例におけると同様の推進機7が固定カム部材8の傾斜面8aに向いて開削路Cの延在方向(図では上下方向)に延在しかつその延在方向に摺動し得るように水平に配置され、それら推進機7と固定カム部材8の傾斜面8aとの間に、従動子としての球状または円筒状の伝動部材13が介挿されて、その伝動部材13が管P2の後端に当接している。
【0043】
この実施例の推力方向転換装置41にあっては、図5に示すように、開削路Cの延在方向に沿った推進機7の水平向きの推力により伝動部材13が傾斜面8aに沿って前進すると、伝動部材13が管P2の後端を押圧し、これにより管P2が土中に推進される。そして、伝動部材13が傾斜面8aの端部付近まで前進したら、推進機7と伝動部材13とを後退させるとともに、可動台12を伝動部材13と管P2との間に空いた隙間の分だけ管の推進方向へ案内レール4上で摺動させる。しかしてその繰り返しにより可動台12が案内レール4の終端(図では左端)まで到達したら、可動台12を案内レール4上でその始端まで戻り摺動させてから、伝動部材13と管P2との間に次の管P2を入れてそれを先の管P2に接続する。その後は先の作業と同様の作業を繰り返すことで、管P2を各家庭まで到達させて、開削路Cから各家庭までの管路を敷設する。
【0044】
かかる実施例の推力方向転換装置41並びにそれを用いた管の推進工法および管の推進システムによっても、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。なお、管P2の推進の反力は、可動台12と案内レール4との接触摩擦および可動台12と推進機7との接触摩擦によって受け止められる。
【0045】
図6は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法のさらに他の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムのさらに他の一実施例としての管の推進システムを管の推進中の状態で示す縦断面図である。
【0046】
この実施例の推力方向転換装置51では、開削路C内の管P2の推進箇所に設置される例えば円筒状のコンクリート製のケーシング2と、上部はそのケーシング2の内壁に沿って上下方向に延在するが下部は円弧状に方向を変えて例えば水平に推進方向へ向くように設けられた例えば円筒状あるいは角筒状の案内通路14aを有する、カムとしての案内部材14と、そのケーシング2の下部に管P2の推進方向へ延在するように例えば図では水平に設けられた支持台15と、案内通路14aが円筒状の場合は球状をなし、案内通路14aが角筒状の場合は球状または円筒状をなしていて案内通路14a内に摺動可能に複数配置される、従動子としての伝動部材13とを具えており、それらの伝動部材13の上方の案内通路14a内には、先の実施例におけると同様の推進機7が上下方向摺動可能に配置されている。
【0047】
この実施例の推力方向転換装置51にあっては、図6に示すように、推進機7の下向きの推力により推進機7が案内部材14の案内通路14a内を、その推進機7の下方の伝動部材13を押圧しながら下降すると、案内通路14a内の複数の伝動部材13が次々に押圧力を伝えながら案内通路14aの下部の円弧状部分で押圧方向および移動方向を変えて管P2の推進方向へ押圧力を伝えながら移動するようになり、その先端の伝動部材13が管P2の後端を押圧し、これにより管P2が土中に推進される。
【0048】
しかして伝動部材13の一個分管P2が土中に推進されたら、推進機7を図示しないクレーン等で支持するとともに先端の伝動部材13を取り除き、次の伝動部材13と管P2の間に空いた隙間に次の管P2を挿入して先の管P2に接続してから、また推進機7を伝動部材13上に下ろしてその管P2を推進させ、このようにして図6の下部に示すように推進機7が案内通路14aの円弧状部分まで来たら、推進機7を上記クレーン等で持ち上げて案内通路14a内から出すとともにその案内通路14a内に複数の伝動部材13を補充する、という作業を繰り返す。
【0049】
かかる実施例の推力方向転換装置51並びにそれを用いた管の推進工法および管の推進システムによっても、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。
【0050】
図7(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法のさらに他の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムのさらに他の一実施例としての管の推進システムを示す平面図および縦断面図である。
【0051】
この実施例の推力方向転換装置61では、開削路C内の底部に、図7(b)に示すように開削路Cの延在方向から見てL字状をなす支持台15が開削路Cに沿って配置され、その支持台15上に、図7(a)に示すように、各々、管の推進方向へ向くように開削路Cの延在方向(図では上下方向)に対し傾斜した傾斜面6aを持つとともに内部に先の実施例におけると同様の推進機7を固設された互いに同一の三角形状の二個の、カムとしての駆動部材6が、互いに摺動可能かつ支持台15に対しても摺動可能に、かつそれらの駆動部材6内の推進機7が上下に多少ずれて互いに向き合うように、二段重ねに載置され、また支持台15上に、図7(a)中実線で示す推進開始位置では二個の駆動部材6が互いに開削路Cの延在方向へ大きくずれて位置して下側の駆動部材6が上側の駆動部材6を支持する重なり量が僅かになることから、図7(b)に示すように上側の駆動部材6を摺動可能に支持する支柱16が、下側の駆動部材6の摺動を妨げないように立設され、さらに支持台15上に、それら二個の駆動部材6の傾斜面6aにそれぞれ摺接する二つの傾斜面5aを持つ断面三角形状(三角柱状)の、従動子としての従動部材5が摺動可能に配置され、その従動部材5が管P2の後端に当接している。
【0052】
この実施例の推力方向転換装置61にあっては、互いに推力方向が向き合う二台の推進機7の推力により、三角形状の二個の駆動部材6が、図7(a)中仮想線で示す推進終了位置へ向けて互いに重なり量を増加させるように移動し、それらの駆動部材6の傾斜面6aと三角柱状の従動部材5の傾斜面5aとの摺接により、二台の推進機7の互いに逆向きの推力が、互いに(厳密には多少上下にずれているが)実質的に同一の、管P2の推進方向に転換されて、図7(a)中矢印で示すように管P2が推進される。従ってこの実施例によれば、二台の推進機7の推力を、管P2の推進方向以外では実質的に釣り合わせたり相殺させたりし得るので、管P2を推進させる方向がずれるのを防止し得るとともに、二個の駆動部材6から支持台15に加わる力を開削路Cの延在方向については相殺させて、支持台15が位置ずれするのを防止することができる。
【0053】
図8(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法の他の一実施例としての杭の打設工法およびこの発明の推進システムの他の一実施例としての杭の打設システムを示す平面図および縦断面図である。
【0054】
この実施例の推力方向転換装置71は、図8(b)に示すように、地盤Gに対し例えば鉛直に配置した例えば四本の杭P3上に配置されて、それらの杭P3を同時に地盤G中に打ち込むもので、図8(a)に示すように、何れも中央穴を持つ円盤状の上板17aと底板17bとをガイドを兼ねた複数対(図では八対)の支柱17cで結合して形成されたケーシング17と、そのケーシング17の上板17aと底板17bとの中央穴内に配置された、従動子としての、円錐状の傾斜面18aを持つ従動部材18とを具えており、ケーシング17の内部の支柱17cの各対の間には、先の実施例におけると同様の推進機7が摺動可能に配置されている。そしてここでは、その従動部材18の底面が杭P3の後端に当接している。
【0055】
この実施例の推力方向転換装置71にあっては、二台ずつが互いに推力方向が向き合う複数台(図では八台)の推進機7が従動部材6の円錐状の傾斜面に摺接して推力を伝え、これにより従動部材6が、図8(b)では下方へ附勢されて、同図中矢印で示すように杭P3が地盤G中に打ち込まれる。
【0056】
従ってこの実施例の推力方向転換装置71およびそれを用いたこの実施例の杭の打設方法および打設システムによれば、例えば既設の橋梁の橋脚の周囲に新たに補強用の杭P3を下向きに打ち込む場合等に、例えば杭P3の上端と橋脚上部や橋桁等との間に充分な幅の空間がなくて、大きな推進力をもった推進機を杭の打ち込み方向へ向けて配置することができない状況でも、そのスペースに推力方向転換装置71を設置し得て、複数台(図では八台)の推進機7の推力で確実に杭P3を打設することができる。
【0057】
しかも、この実施例の推力方向転換装置71およびそれを用いたこの実施例の杭の打設方法および打設システムによれば、複数台(図では八台)の推進機7の推力を、杭P3の推進方向以外では実質的に釣り合わせたり相殺させたりし得るので、杭P3を推進させる方向がずれるのを防止し得るとともに、複数台(図では八台)の推進機7の推力を合わせて、複数本(図では四本)の杭P3を同時に打ち込むことができる。
【0058】
図8(c)は、上記実施例の杭の打設方法の一変形例を示す縦断面図であり、この変形例では、複数本の杭P3を同時に打設する代わりに太い一本の杭P3を打設するものである。かかる場合にも先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。
【0059】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上記例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、推進機は空圧衝撃推進式のものには限らず、機械式のもの等でも良い。また推力方向転換装置は、互いに推力方向が異なる複数の推進機の推力の方向を、例えば左右対称形状のカムや円錐形状のカム等により、互いに実質的に同一である管や杭の推進方向に転換するものとしても良い。さらに推力方向転換装置は、カム機構や楔には限られず、推進機の推力を液圧に変換して推力方向を変えるものでも良い。
【0060】
さらに、この発明の推進工法および推進システムは、例えば管や杭を下向きだけでなく横向きや斜め向きや上向きに推進させたり打ち込んだりする場合にも適用でき、その場合にもこの発明の推力方向転換装置により推進工法を行い得て、長尺の管の推進や長尺の杭の打ち込みの施工を確実に行うことができる。
【0061】
なお、この発明の推進工法および推進システムを杭の打ち込みに適用する実施例も、上記管の推進用の各実施例の推力方向転換装置を使用して、上記各実施例の推進工法および推進システムと同様に構成することができる。但し、この発明の推進工法および推進システムは、杭の打ち込み方向も打ち込み状況も、上述の補強用杭の打ち込みの例には限られない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
かくしてこの発明の推進工法およびこの発明の推進システムによれば、推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、管路の延在方向に対し直角方向等の交差する方向に向かう推進機の推力により管を推進させて管路を形成するので、開削路の幅内に推進方向寸法が納まるように無理やり小さい推進機を据え付ける代わりに、適切な推力を持った推進機を、開削路の上方の広い空間や開削路に沿って広がる長い空間にセットして推進工法を行い得て、管の推進箇所の開削路幅を広げることなしに、より大きな推進力をもった推進機を使用して確実な施工を行うことができる。
【0063】
またこの発明の推進工法および、この発明の推進システムによれば、推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、杭の打ち込み方向に対し直角方向等の交差する方向に向かう推進機の推力により杭を打ち込むので、例えば既設の橋梁の橋脚の周囲に新たに補強用の杭を下向きに打ち込む場合に、杭の上端と橋脚上部や橋桁等との間に充分な幅の空間がなくて、大きな推進力をもった推進機を杭の打ち込み方向へ向けて配置することができない状況でも、適切な推力を持った推進機を、杭上端と橋脚上部や橋桁との間でそれら橋脚上部や橋桁に沿って水平方向へ広がる空間に横向き等にセットして推進工法を行い得て、長尺の杭の打ち込みの確実な施工を行うことができる。
【0064】
さしてこの発明の推力方向転換装置によれば、推進機が発生させる推力により押圧される従動子と、その従動子を推進機の推力の方向に対し交差する方向へ移動させるカムとを具えているか、または、推進機が発生させる推力により押圧されるカムと、そのカムにより押圧されて推進機の推力の方向に対し交差する方向へ移動する従動子とを具えているので、カムの、従動子と接する面の形状を適宜に設定することで、推進機より大きい推力を得たり、推力の方向を所望の方向に変更したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置の一実施例を用いた、この発明の推進工法およびこの発明の推進システムの一実施例を管の推進前および推進後の状態でそれぞれ示す縦断面図である。
【図2】図1に示す実施例の推力方向転換装置の一変形例を示す縦断面図である。
【図3】(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置の他の一実施例を用いた、この発明の推進工法および推進システムの他の一実施例を管の推進前および推進後の状態でそれぞれ示す縦断面図である。
【図4】(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法および推進システムのさらに他の一実施例を管の推進前および推進後の状態でそれぞれ示す平面図である。
【図5】この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法および推進システムのさらに他の一実施例を管の推進中の状態で示す平面図である。
【図6】この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法および推進システムのさらに他の一実施例を管の推進中の状態で示す縦断面図である。
【図7】(a),(b)は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法のさらに他の一実施例としての管の推進工法およびこの発明の推進システムのさらに他の一実施例を示す平面図および縦断面図である。
【図8】(a),(b),(c)は、この発明の推力方向転換装置のさらに他の一実施例を用いた、この発明の推進工法の他の一実施例としての杭の打設工法およびこの発明の推進システムの他の一実施例としての杭の打設システムを示す平面図、縦断面図および、その実施例の杭の打設工法の一変形例を示す縦断面図である。
【図9】(a),(b)は、従来の管の推進工法を示す平面図および縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1,11,21,31,41,51,61,71 推力方向転換装置
2,17 ケーシング
3,14 案内部材
4 案内レール
5,9,18 従動部材
5a,6a,8a,9a,18a 傾斜面
6 駆動部材
7,I 推進機
7a ヘッド部
8 固定カム部材
8b あり溝
9b 凸条
10 スペーサ
12 可動台
13 伝動部材
14 案内部材
14a 案内通路
15 支持台
16 支柱
17a 上板
17b 底板
17c 支柱
C 開削路
G 地盤
P1,P2 管
P3 杭
R 道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進機が発生させる推力により管を推進させて管路を形成する推進工法において、
前記推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、前記管路の延在方向に対し交差する方向に向かう前記推進機の推力により前記管を推進させることを特徴とする、推進工法。
【請求項2】
推進機が発生させる推力により杭を打ち込む推進工法において、
前記推進機が発生させる推力の方向を転換する推力方向転換装置を用いて、前記杭の打ち込み方向に対し交差する方向に向かう前記推進機の推力により前記杭を打ち込むことを特徴とする、推進工法。
【請求項3】
前記推進機は下方へ向かう推力を発生させることを特徴とする、請求項1または2記載の推進工法。
【請求項4】
前記推進機は幅狭の空間の広がる方向へ向かう推力を発生させることを特徴とする、請求項1または2記載の推進工法。
【請求項5】
前記推力方向転換装置は互いに推力方向が異なる複数の前記推進機の推力の方向を互いに同一の方向に転換することを特徴とする、請求項1から4までの何れか記載の推進工法。
【請求項6】
前記推進機が発生させる推力により押圧される従動子と、その従動子を前記推力の方向に対し交差する方向へ移動させるカムとを具えてなる、請求項1から5までの何れか記載の推進工法用の推力方向転換装置。
【請求項7】
前記推進機が発生させる推力により押圧されるカムと、そのカムにより押圧されて前記推力の方向に対し交差する方向へ移動する従動子とを具えてなる、請求項1から5までの何れか記載の推進工法用の推力方向転換装置。
【請求項8】
前記従動子は前記カムに対し摺動可能に掛合していることを特徴とする、請求項6または7記載の推力方向転換装置。
【請求項9】
前記推進機と、請求項6から8までの何れか記載の推力方向転換装置とを具えてなる、請求項1から5までの何れか記載の推進工法用の推進システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−249815(P2006−249815A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69030(P2005−69030)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(598167419)ライフライン工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】