説明

描画材、装飾紙の製造方法および装飾紙

【課題】本発明は、安価で、かつ、簡単な工程により、美しい書を描ける描画材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の描画材は、粉末油脂を主成分とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画材、装飾紙の製造方法および装飾紙に関する。
【背景技術】
【0002】
毛筆の書法に関しては、たとえば、特許文献1〜3に示すようなものが公知である。
即ち、特許文献1(特開昭60−231777号公報)に記載のものは、少なくとも二種の着色料間において、紙、布のような溶剤浸透性のある材料への浸透性の差異を利用し、溶剤浸透性のある材料の筆記面における一方の着色料の残す筆跡とその筆跡の周囲に拡散する他方の着色料による輪郭線の形成を生じさせ、筆跡の綺麗な強調を図ろうとするものであった。
【0003】
特許文献2(特開平9−188100号公報)記載のものは、毛筆書法による流動美と墨色の風格を具現する毛筆書法における浮き出し文字の浮き出し方法と浮き出し文字を提案するものであり、和紙の料紙に毛筆により文字を潤筆する浮き出し文字の毛筆書法において、所定の和紙の料紙と毛筆と墨汁と刷毛とを準備すると共に、所定の糊と所定の植物の液汁を準備し、該毛筆に墨汁をつけ、10対0.5〜1の比率で混合した前記糊と植物の液汁との混合物に所定の時間浸す段階の第1工程と、前記料紙の紙面に任意の文字を潤筆し、潤筆された紙を18°〜26℃の温度で2〜3日間自然乾燥する段階の第2工程と、該料紙の紙面全体に前記潤筆した文字の濃度より薄い濃度を有する薄墨を刷毛により塗布する段階の第3工程と、1〜2分後、薄墨を塗布した紙に5〜10分間、静水を静に注ぎ続け、紙面より文字の周辺の高さが少し盛り上り青白い雲状の浮き上り部分を有する浮き出し文字を定着する段階の第4工程とにより構成されるものであった。
【0004】
特許文献3(特開平10−140056号公報)に記載のものは、書画用の和紙の上面に一回の運筆により同一筆記線上に墨本来の着色剤成分と、この着色剤成分とその発色を異にするマイカ粉、金属粉、顔料の一または二以上を混合又は分散せしめた着色剤成分とを同時的に表現することのできる多重発色が可能な書画用墨汁およびその組成物を提供しようとするものであった。
【0005】
また、書道作品で拓本のように黒字に白い文字が書かれたものがある。これは溶かしたロウを筆で和紙に描き、その紙の裏から墨・墨液で染めたものであり、白抜き文字と呼ばれている。
【特許文献1】特開昭60−231777号公報
【特許文献2】特開平9−188100号公報
【特許文献3】特開平10−140056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載のものは、特殊なインクを用いての書法であり、そのインクは高価であり、一般大衆向きしないものであった。
【0007】
前記特許文献2記載のものは、工程が複雑で、一般大衆が気軽に用いるには困難なものであった。
【0008】
前記特許文献3に記載のものは、前記特許文献1記載のものと同様に、特殊な墨汁を用いるものであり、高価であり、一般大衆向きしないものであった。
【0009】
更に、白抜き文字の作成は、ロウを溶かしたり、描いたロウをアイロン等で抜いたりと、その取り扱いが大変面倒であった。
【0010】
そこで、本発明は、安価で、かつ、簡単な工程により、美しい書を描ける描画材を提供することを目的とする。
【0011】
また、この描画材を用いて作られた装飾紙、および、その装飾紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、前記ロウに代わる描画材が存在しないかにつき、各種の物質を用いて鋭意研究を重ねた。
【0013】
その結果、油脂水溶液が前記ロウに代わる描画材として用いることができることを見出した。
【0014】
そして、前記油脂水溶液の原料として、粉末油脂が最適であることを見出した。
よって、本発明の特徴とするところは、粉末油脂を主成分とする描画材という点にある。
【0015】
前記粉末油脂は、顆粒状の植物性油脂であり、水に溶かして油脂水溶液として使用されるものである。
【0016】
本発明の装飾紙の第1の製造方法は、和紙の表面に油脂を主成分とする油脂水溶液を塗布する油脂水溶液塗布工程と、前記和紙の裏面に彩液を塗布する裏塗工程とを有する。
【0017】
本発明の装飾紙の第2の製造方法は、和紙の表面に、油脂を主成分とする油脂水溶液を塗布する油脂水溶液塗布工程と、彩液を塗布する彩液塗布工程とを有する。
【0018】
前記第2の製造方法において、前記和紙の裏面に彩液を塗布する裏塗工程を有することができる。
【0019】
また、前記彩液塗布工程を行った後、該彩液が乾燥しない内に、前記油脂水溶液塗布工程を行うのが好ましい。
【0020】
本発明の装飾紙は、油脂水溶液と彩液とを和紙に塗布してなるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安価で、かつ、簡単な工程により、美しい書を描くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
(実施の形態1)
図1および2に示すものは、本発明の第1の実施の形態の白抜き技法に関わり、和紙に水玉模様を描くものである。
【0023】
まず、図1に示すように、和紙1の表面から、油脂水溶液2を、筆等の筆記具により点々と塗布する。即ち、油脂を主成分とする油脂水溶液2を和紙1に塗布する油脂水溶液塗布工程を行う。
【0024】
次に、前記塗布した油脂水溶液が乾いたら、前記和紙1の裏面から、墨3を刷毛で塗る。即ち、前記和紙1の裏面に彩液3を塗布する裏塗工程を行う。
【0025】
前記裏塗工程では、和紙1の裏面の全面に墨を塗布しても、油脂水溶液が塗布された部分には墨は浸透しないで、図2に示すような水玉模様となる。
【0026】
この原理は、油が水をはじくと言うものではなく、既に和紙には、油脂水溶液が浸透しており、該浸透部分には、他の溶液が浸透する余裕がないので、墨は浸透しないというものであると考えられる。この場合、油脂水溶液塗布部分が湿っていても乾いていても同じである。
【0027】
しかして、図2に示すものは、油脂水溶液2と彩液3とを和紙1に塗布してなる水玉模様の装飾紙である。
【0028】
図2に示す装飾紙において、水玉模様を形成する部分は、油脂水溶液が塗布された部分であり、前記油脂水溶液は乳白色であるので、和紙の地の色が現れている。そして、水玉の周りは、墨により黒色が着色されたものとなっている。
【0029】
したがって、前記水玉模様の部分を、たとえば、文字とすれば、白抜き文字となる。
即ち、油脂水溶液を筆に浸して、和紙に文字を描く。その後、裏面より墨を塗ることにより、白抜き文字が完成する。
【0030】
前記白抜き法に従えば、従来のロウを用いたものとは異なり、簡単な工程で白抜き文字を描くことができる。
【0031】
前記裏塗工程の彩液として、墨を用いたが、この墨は、墨液に限らず、朱液でも良い。また、その他の色液を用いても良い。
【0032】
前記油脂水溶液は、乳白色をしているが、この液に彩液を添加して着色することもできる。
【0033】
和紙としては、半紙や画仙紙が適しているが、溶剤浸透性のある紙であればよい。
前記油脂水溶液は、粉末油脂を主成分とする描画材を水で溶いて作られる。
【0034】
油脂の主成分は、脂肪酸であり、脂肪酸として、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等がある。植物性油脂として、オリーブ油、アーモンド油、紅花油、ひまわり油、ごま油、大豆油、亜麻仁油等がある。
【0035】
粉末の性状としては、顆粒状が好ましい。微粉末とかビーズ状粉末では、水に溶けにくくなるが、使用できないものではない。
【0036】
なお、油脂水溶液の原料としては、植物性油脂に限らず、動物性油脂であっても良い。しかし、動物性油脂は長期保存が困難で、変質するおそれがある。また鉱物性油脂であっても良いが、動植物性油脂のほうが人体にとって安全である。即ち、動植物性油脂は、食品添加剤としても使用されており、誤って食べても安全である。
【0037】
また、油脂水溶液の原料としては、粉末に限らず、液状、流動ペースト状の油脂であっても良い。しかし、水溶液の濃度を調整するには、粉末が適している。
【0038】
粉末油脂から油脂水溶液作るには、粉末油脂1グラム(さじ1杯)を容器に入れる。次に、温水(約50℃)を15ml(さじ15杯)を入れ、よくかき混ぜる。ツブツブを潰しながらよく攪拌する。最後は筆でツブツブがなくなるまで良く混ぜる。
【0039】
なお、粉末油脂と水との混合割合は、粉末油脂小匙1杯に対して、温水10mlや20ml等限定されるものではない。
【0040】
(実施の形態2)
図3〜図8に示すものは、本発明の第2の実施の形態の万華鏡模様に関わる装飾紙の製造方法の工程図であり、且つ、図8は、万華鏡模様の装飾紙を示す。
【0041】
図3に示すように、和紙1の表面に墨3を点々と円形に置いていく、彩液塗布工程を行う。そして、墨溜りが消えて生乾きになるまで待つ。
【0042】
図4に示すように、墨3が落ち着いたら、筆に浸した油脂水溶液2を墨円の中心部に落とし、にじませる油脂水溶液塗布工程を行う。
【0043】
図5に示すように、油脂水溶液2の拡がりが落ち着くまで待つ。
図6に示すように、再度、油脂水溶液を墨円の中心部に落とし、外周部に向かってにじませる。
【0044】
図7は、墨が油脂水溶液のにじみによって押し流されていく状態を示している。
図8は、図7の状態で乾いたものであり、装飾紙の完成品である。
【0045】
(実施の形態3)
図9〜図12は、本発明の第3の実施の形態である唐傘模様に関わる装飾紙の製造方法の工程図であり、且つ、図12は、唐傘模様の装飾紙を示す。
【0046】
図9に示すように、彩液である墨3を和紙1の中心に置く。
図10に示すように、墨が落ち着いたら、点の中心に、最初は極少量の油脂水溶液2をにじませる。
【0047】
図11に示すように、油脂水溶液2を繰り返し置いていき、墨を外側へにじませる。
図12は、墨が流れて乾いた状態から、裏から墨を刷毛で塗る裏塗工程を行ったものであり、本発明の装飾紙を示す。
【0048】
なお、本発明は、前記各実施の形態に示すものに限定されるものではない。
たとえば、図8に示すものにおいて、和紙の裏面から墨を刷毛で塗る裏塗工程を有するものであっても良い。
【0049】
また、前記第1の実施の形態では、油脂水溶液塗布工程は、筆の先から油脂水溶液を点状に塗布するものを示したが、刷毛で紙面全体にわたって曲線を描くようにすれば、木目模様等の変わった模様を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、描画材の産業、および、装飾紙の製造業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す装飾紙の平面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示す装飾紙の平面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態を示す製造方法の一工程図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態を示す装飾紙の平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 和紙、2 油脂水溶液、3 彩液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末油脂を主成分とする描画材。
【請求項2】
前記粉末油脂は、顆粒状の植物性油脂であり、水に溶かして油脂水溶液として使用されるものである請求項1記載の描画材。
【請求項3】
和紙の表面に油脂を主成分とする油脂水溶液を塗布する油脂水溶液塗布工程と、前記和紙の裏面に彩液を塗布する裏塗工程とを有する装飾紙の製造方法。
【請求項4】
和紙の表面に油脂を主成分とする油脂水溶液を塗布する油脂水溶液塗布工程と、前記和紙の表面に彩液を塗布する彩液塗布工程とを有する装飾紙の製造方法。
【請求項5】
前記和紙の裏面に彩液を塗布する裏塗工程を有する請求項4記載の装飾紙の製造方法。
【請求項6】
前記彩液塗布工程を行った後、該彩液が乾燥しない内に、前記油脂水溶液塗布工程を行う請求項4または5記載の装飾紙の製造方法。
【請求項7】
油脂水溶液と彩液とを和紙に塗布してなる装飾紙。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図8】
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【図12】
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