説明

揚げ物用ミックス

【課題】
油ちょう後の食感が、クリスピーかつソフトで、衣が軽く、口どけの良い食感であり、長時間経過した場合や冷凍した場合に、電子レンジ等で再加熱して喫食しても揚げたての食感を維持している揚げ物用ミックスを提供する。
【解決方法】
米澱粉に代表される小粒子澱粉を原料とする、膨潤度が0.5〜5.0mlである架橋澱粉を含有する揚げ物用ミックスを用いる。前記小粒子澱粉を原料とする架橋澱粉は、ミックス中に3〜97質量%含有されていることが好ましい。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用ミックスに関する。詳細には、油ちょう後の食感がクリスピーかつソフトで、衣が軽く、口どけの良さを有して優れており、油ちょう後時間が経過した場合、または冷凍保存した場合などにレンジ加熱しても食感の劣化が少ない揚げ物用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、小麦粉、澱粉等を主体とし、タンパク質、ガム類等添加剤を必要に応じて配合したものを揚げ物用ミックスと言う。揚げ物はこれらを用いて、具材にミックス粉をそのまままぶして揚げる唐揚げ、ミックスを水で溶いたバッター液を具材につけて揚げる天ぷら、バッター液を具材につけ、更にパン粉等をまぶして揚げるフライに大別される。唐揚げに関しては、ミックスを水で溶いて用いる水溶きタイプの唐揚げもあり、また、天ぷら、フライに関してはバッター液をつける前に、具材に打ち粉、まぶし粉をまぶすこともある。
【0003】
このようにして作られた揚げ物は、揚げたては良好な食感を有しているが、時間の経過とともにサクサク感がなくなり、口どけも悪くなる。特に、油ちょう後、長時間経過した場合や冷凍保存した場合はレンジで再加熱してから食すため、上記食感の劣化が著しい。
【0004】
近年、家庭でバッター付けや油ちょう等の手間をかけることなく、電子レンジやオーブンで加熱するだけで食べられるようにした冷凍食品や、コンビニエンスストアー等で見られる弁当等の惣菜が多く市販されている。これらの揚げ物においてはレンジによる解凍や加温の際、具材の水分等が衣に移行するために衣のサクサク感や口どけが更に低下するという問題がある。
【0005】
このため、揚げ物の食感改良には多くの方法が提案されている。例えば、α化米粉80〜95質量%およびロースト小麦粉5〜20質量%からなることを特徴とするフライ用バッター粉(特開平4−11858号)、小麦粉に対して酸処理澱粉、湿熱処理澱粉、架橋処理済α化澱粉のうち少なくとも1種類が配合されていることを特徴とする揚げ物衣用ミックス(特開平7−303457号)等が開示されている。しかし、これらの方法によるフライ食品は、クリスピー感はある程度改善されるものの、油ちょう後冷凍した場合に電子レンジで解凍すると、衣が重い食感となり、口どけが悪くなる等の問題があった。
【0006】
また、(A)小麦粉と、(B)α化ハイアミロース澱粉及び/又はその誘導体と、(C)架橋澱粉、エーテル化澱粉、モチ種澱粉、タピオカ澱粉及びハイアミロース澱粉から選ばれた少なくとも1種の澱粉とを含有することを特徴とする揚げ物用衣材(特開平11−46711号)が開示されているが、上記方法を用いてもサク味の維持には多少の効果は見られるものの、口どけや歯切れの良さ等の点で充分に満足されるものではない。
【0007】
更に、膨潤度4〜15で、且つ、溶解度が10重量%以下である架橋澱粉を20重量%以上含有する揚げ物用衣材を用いる方法(特開平9−215478号)が開示されている。しかしながら、上記方法を用いた場合、レンジ解凍後のサクサク感の改善はなされるものの、原料澱粉によってガリガリと硬い食感となる、または、重い食感となり、口どけが悪くなる等問題が残されていた。また、架橋澱粉の原料となる澱粉の粒子径についてはなんらの開示も示唆もなされていない。
【特許文献1】特開平4−11858号公報
【特許文献2】特開平7−303457号公報
【特許文献3】特開平11−46711号公報
【特許文献4】特開平9−215478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、油ちょう直後の食感がクリスピーかつソフトで、衣が軽く、口どけの良さを有して優れており、長時間経過した場合や冷凍した後、電子レンジ等で解凍しても揚げたての食感を維持できる揚げ物用ミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、揚げ物用ミックスに関する上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、小粒子澱粉を原料とする、膨潤度が0.5〜5.0mlである架橋澱粉を含有する揚げ物用ミックスを用いることで、上記課題が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
以上説明してきたように、本発明によれば、小粒子澱粉を原料とする、膨潤度が0.5〜5.0mlである架橋澱粉を含有する揚げ物用ミックスを用いることでクリスピーかつソフトで、衣が軽く、口どけの良い食感を持ち、長時間経過した場合や冷凍した後、電子レンジ等で解凍しても揚げたての食感を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用する小粒子澱粉を原料とした架橋澱粉(以下、これを小粒子架橋澱粉という)とは、澱粉平均粒子径が10μm以下、好ましくは5μm以下である架橋澱粉である。具体的には、糯米澱粉、粳米澱粉等の米澱粉、アマランサス澱粉、里芋澱粉、小粒子小麦澱粉等を原料とした架橋澱粉が挙げられる。
【0012】
前記小粒子架橋澱粉はトリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、エピクロロヒドリン等の従来から使用されてきた架橋剤を用いて架橋することで得られ、その架橋の程度は、膨潤度として検知でき、この値が0.5〜5.0mlの条件を満たすものである。本発明では、この条件を満たす限り、架橋処理と他のエーテル化、エステル化、油脂加工、漂白処理、α化等の他の加工処理を組み合わせたものも包含する。
【0013】
架橋処理と他の加工処理を組み合わせた小粒子架橋澱粉の中で、エーテル化またはエステル化処理を施した澱粉は、よりソフトな食感が得られ、冷蔵、冷凍耐性を更に向上させることができる。しかし、適度な置換度を越えてエーテル化またはエステル化処理をすると、重く,口どけの悪い食感になってしまう。また、架橋処理と油脂加工を組み合わせると、特に豚カツ等において、具材と衣の結着性が優れ、かつ本発明の効果を有するミックスが得られる。漂白処理と組み合わせると、より白度が良好となり、α化した小粒子架橋澱粉を適当な量混合することで、所望のバッター粘度を持つミックスが得られる。
【0014】
前記澱粉の膨潤度とは、膨潤抑制の度合を測定する方法で、その測定法を以下に述べる。
試料を無水換算150mg精秤し、試験管に移す。その中へ後述する試験用液15mlを正確に加え、よく振とう分散させ、直ちに沸騰水浴中に入れ5分間加熱後、急冷し室温程度にした後、再度振とう均一化して10mlメスシリンダーに試験管内溶液を10ml移し、20℃程度で18時間静置して、その沈降した量(ml)を測定した値である。
試験用液の調製方法:塩化亜鉛300g,塩化アンモニウム780g,イオン交換水1875gを加温溶解後冷却し、19ボーメ(15℃)に合わせる。この液10mlを取り、ブロムフェノールブルー液を2滴加え、0.1N−HClで呈色が紫から黄色に変わる点を終点として滴定して塩酸度(塩酸度=HClのファクター×滴定に要したml数)を求める。塩酸度が3.9±0.1になるようにアンモニア水、塩酸を用いて調整する。調整後、再度塩酸度を確認して、最後にろ過して用いる。
【0015】
前記小粒子澱粉以外の澱粉、例えばコーンスターチやタピオカ澱粉等を原料として得られる架橋澱粉を用いたミックスでは、サクサク感は得られても、硬い食感になる、または重い食感で口どけが悪くなる等、目的とする衣にはなり得ない。
【0016】
本発明に使用する小粒子架橋澱粉は、ミックス中に3〜97質量%含有されていることが好ましい。それは、通常、揚げ物用ミックスは作業性や品質向上の必要から、後に例示するような添加剤を配合するため、前記架橋澱粉の含有量が97質量%を越えることは現実的ではなく、また、含有量が3質量%未満では充分な効果が得られないからである。小粒子架橋澱粉の最適な含有量は揚げ物の種類や具材によって異なり、これは、具材の水分量の違いや、フライの種類によって衣の厚みが異なること等が原因であると考えられる。
【0017】
本発明で得られた揚げ物用ミックスは、唐揚げ、フリッター、天ぷら、豚カツ、牛カツ、チキンカツ、ミンチカツ、ハムカツ、コロッケ等で、打ち粉、まぶし粉やバッター液として用いることができる。
【0018】
本発明の揚げ物用ミックスにおいては、一般にフライ食品に用いられる添加剤について、従来と同様に、必要なものを選択して小粒子架橋澱粉と併用することができる。例えば、穀粉(小麦粉、コーンフラワー、米粉等)、未変性澱粉(コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉等)、加工澱粉(油脂加工澱粉、次亜塩素酸塩処理澱粉、酸処理澱粉、α化澱粉、乾熱処理澱粉、湿熱処理澱粉、架橋澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化架橋澱粉、エーテル化架橋澱粉等)、糖類(単糖、二糖類、オリゴ糖、澱粉分解物、還元澱粉分解物等)、天然ガム類(グアガム、キサンタンガム等)、膨張剤(ベーキングパウダー、重炭酸ソーダ等)、蛋白類(大豆蛋白、乳蛋白、卵白、卵黄、カゼイン等)、油脂類(大豆油、マーガリン等)、乳化剤(レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステル等)、アルコール類(エタノール等)、色素(β−カロチン、パプリカ色素等)、調味料(みりん、醤油、食塩、グルタミン酸ソーダ等)が挙げられる。
【0019】
以下、本発明を実施例にて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
水1300質量部(以下「部」という)に、硫酸ナトリウム200部、苛性ソーダ10部を加え溶解し、攪拌下、原料澱粉1000部を添加して調製したスラリーを用意し、トリメタリン酸ソーダを0.1部〜20部の範囲で、添加量を変えて加え、40℃にて16時間反応した。その後、中和、水洗、脱水、乾燥、精粉して架橋澱粉(試料R1〜R7、C1〜C5、T1〜T5)を得た。その膨潤度を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
<試験例1>
薄力粉56.7部、表1の架橋澱粉(R1〜R7、C1〜C5、T1〜T5)40部、ベーキングパウダー2部、食塩1部、粘度調整のためのグアガムを0.3部添加したミックスに水130部を加えてバッター液を調製し、このバッターに表面の水分を拭きとったイカの切り身を浸し、175℃の油で2分間油フライしてイカのフリッターを得た。
得られたフリッターのフライ直後および24時間冷凍保存後、電子レンジで解凍した時のサクサク感、ソフトさ、口どけに関する評価を表2に示す基準にて行なった。その結果を表3に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
インディカ種粳米澱粉を原料とし、膨潤度が0.5〜5.0mlの範囲の架橋澱粉を含有した上記処方のミックスを用いたイカのフリッターは、同程度の架橋を施したコーンスターチやタピオカ澱粉を含有するミックスを用いた場合よりも優れた食感を有していた。
【実施例2】
【0026】
原料澱粉として異なる3種類の米澱粉を用いた以外は実施例1と同様にして試作を行ない、架橋澱粉(試料RH1〜5、RL1〜5、W1〜5)を得た。その膨潤度を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
<試験例2>
架橋澱粉として表4のRH1〜RH5、RL1〜RL5、W1〜W5を用いた以外は試験例1と同様にしてイカのフリッターを得た。
得られたフリッターのフライ直後および24時間冷凍保存後、電子レンジで解凍した時のサクサク感、ソフトさ、口どけに関する評価を表2に示す基準にて行なった。その結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
膨潤度が0.5〜5.0mlの範囲の小粒子架橋澱粉を含有するミックスを用いると、小粒子架橋澱粉の原料の種別やアミロース含量が異なっていても、良好な食感を有するイカのフリッターを得ることができた。
【実施例3】
【0031】
水1300部に、硫酸ナトリウム300部、苛性ソーダ10部を加え溶解し、攪拌下、粳米澱粉1000部を添加して調製したスラリーを用意し、トリメタリン酸ソーダを1.0部、プロピレンオキサイドを1.5部〜7部の範囲で添加量を変えて加え、40℃にて18時間反応した。その後、中和、水洗、脱水、乾燥、精粉して架橋澱粉(試料R8〜12)を得た。そのヒドロキシプロポキシル基(HPO基)の質量%と膨潤度を表6に示す。
【0032】
【表6】

【0033】
<試験例3>
架橋澱粉として表6のR5およびR8〜R11を用いた以外は試験例1と同様にしてイカのフリッターを得た。
得られたフリッターのフライ直後および6時間冷蔵保存後、電子レンジで再加熱した時のサクサク感、ソフトさ、口どけに関する評価を表2に示す基準にて行なった。その結果を表7に示す。
【0034】
【表7】

【0035】
HPO基を付与した小粒子架橋澱粉を含有するミックスを用いたイカのフリッターは、冷蔵後、再加熱した場合でも揚げたての食感を維持することができ、特にHPO基が2.3質量%のものが好ましい結果となった。
【0036】
<試験例4>
架橋澱粉としてR5(膨潤度2.0ml)を用いて、表8に示す配合でミックスを調製し、これに水130部を加えてバッター液とした。このバッターに表面の水分をよく拭きとったイカの切り身を浸し、175℃の油で2分間フライしてイカのフリッターを得た。
得られたフリッターのフライ直後および24時間冷凍保存後、電子レンジで解凍した時のサクサク感、ソフトさ、口どけに関する評価を表2の基準に従って行ない、その結果を表9に示す。
【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
膨潤度2.0mlの小粒子架橋澱粉を含有するミックスを用いたイカのフリッターにおいて、その含有量はミックス中の20〜96.7質量%が良い評価となり、特に20〜60質量%のものがより好ましい評価を得た。
【0040】
<試験例5>
架橋澱粉としてR5(膨潤度2.0ml)を用いて、表10に示す配合でミックスを調製し、これに水150部を加えてバッター液とした。このバッターに適当な大きさにカットしたサツマイモを浸し、175℃の油で3分間揚げてサツマイモの天ぷらを得た。
得られた天ぷらの揚げ直後および24時間冷凍保存後、電子レンジで解凍した時のサクサク感、ソフトさ、口どけに関する評価を表2の基準に従って行ない、その結果を表11に示す。
【0041】
【表10】

【0042】
【表11】

【0043】
膨潤度2.0mlの小粒子架橋澱粉を含有するミックスを用いたサツマイモの天ぷらにおいて、その含有量はミックス中の3〜80質量%のものが高い評価となり、特に10〜40質量%のものがより好ましい評価を得た。
【0044】
<試験例6>
架橋澱粉としてR5(膨潤度2.0ml)を用いて、表12に示す配合でミックスを調製し、これに水180部を加えてバッター液を調製した。このバッターに薄くスライスしたハムを浸し、170℃の油で2分間揚げてハムカツを得た。
得られたハムカツの揚げ直後および24時間冷凍保存後、電子レンジで解凍した時のサクサク感、ソフトさ、口どけに関する評価を表2の基準に従って行ない、その結果を表13に示す。
【0045】
【表12】

【0046】
【表13】

【0047】
膨潤度2.0mlの小粒子架橋澱粉を含有するミックスを用いたハムカツにおいて、その含有量はミックス中の40〜92.5質量%が良い評価となり、特に60〜80質量%のものがより好ましい評価を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小粒子澱粉を原料とし、膨潤度が0.5〜5.0mlである架橋澱粉を含有することを特徴とする揚げ物用ミックス。
【請求項2】
前記架橋澱粉をミックス中に3〜97質量%含有した請求項1に記載の揚げ物用ミックス。
【請求項3】
小粒子澱粉が米澱粉である請求項1または2に記載の揚げ物用ミックス。