説明

揚げ物用衣液の製造法

【課題】膨張剤を使用せずに、ボリューム感があり、しかも吸油が少なく、食感および外観が良好で経時変化が少ない揚げ物が得られ、しかもパン粉付けをする揚げ物においては、従来の衣の二度付け(衣液+パン粉+衣液+パン粉)をした場合と同等のボリューム感がある揚げ物が、衣の一度付け(衣液+パン粉)で得られる、揚げ物用衣液の製造法を提供すること。
【解決手段】穀粉類を主成分とし、膨張剤を含まない揚げ物用衣液に、不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する衣液を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用衣液の製造法に関する。詳細には、コロッケなどのパン粉付けをする揚げ物に使用する衣液(バッター)や、フリッタータイプの揚げ物に使用する衣液の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケなどのパン粉付けをする揚げ物に使用する衣液(バッター)には、フライ中のパンク防止のために膨張剤を使用することが多かった。また、フリッタータイプの揚げ物においてもボリューム感を出すために膨張剤を使用することが多かった。しかし、膨張剤を使用した場合、風味や食味が低下するとの問題があった。
また、コロッケなどのパン粉付けをする揚げ物においては、パンク防止およびボリューム感を出すために、具材に衣液を付けてパン粉を付着させ、この操作を繰り返す、所謂衣の二度付け(衣液+パン粉+衣液+パン粉)をすることが多かった。
一方、揚げ物に不活性ガスを使用する技術としては、特許文献1に記載された「揚天の製造法」がある。しかし、この技術は、魚肉摺身や大豆蛋白からなる生地に窒素ガスなどを吹き込んで発泡しない程度に含気させたものをフライして揚天を製造する技術であり、その比較例2に、発泡状態の生地にすると豆腐の油揚様の粗い食感となり、目的を達し得ない旨の記載があるが、特許文献1には揚げ衣に関する記載はない。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−3776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、膨張剤を使用せずに、ボリューム感があり、しかも吸油が少なく、食感および外観が良好で経時変化が少ない揚げ物が得られ、またコロッケなどのパン粉付けをする揚げ物においては、従来の衣の二度付け(衣液+パン粉+衣液+パン粉)をした場合と同等のボリューム感がある揚げ物が、衣の一度付け(衣液+パン粉)で得られ、しかもフライ時のパンクが防止される、揚げ物用衣液の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の揚げ物用衣液の製造法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
穀粉類を主成分とし、膨張剤を含まない揚げ物用衣液に、不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する衣液を調製することを特徴とする、揚げ物用衣液の製造法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の揚げ物用衣液の製造法によれば、膨張剤を使用することがないため膨張剤に起因する食味の低下がなく、また膨張剤を使用しなくてもボリューム感があり、しかも吸油が少なく、食感および外観が良好で経時変化が少ない揚げ物が得られる。例えば、フリーッタータイプの揚げ物において、本発明に係る衣液を使用すると、膨張剤を用いていないにもかかわらず、外観がふっくらとして良好で、しかも食感の良好な揚げ物が得られる。 また、コロッケやトンカツなどのパン粉付けをする揚げ物において、本発明に係る衣液を使用すると、従来の衣の二度付け(衣液+パン粉+衣液+パン粉)をした場合と同等のボリューム感がある揚げ物が、一度の衣付け操作(衣液+パン粉)で得られ、しかもフライ時のパンクが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の揚げ物用衣液の製造法をその好ましい実施態様について説明する。
尚、本発明における衣液とは、フリーッタータイプの揚げ物に使用する衣液や、コロッケなどのパン粉付けをする揚げ物に使用する衣液をいう。
【0008】
本発明を実施するには、まず、穀粉類を主成分とし、膨張剤を含まない揚げ物用衣液を調製する。この揚げ物用衣液の粘度は、揚げ物の種類、求められる外観や食感などによって異なるが、通常はその粘度を、150〜30,000mPa・sになるように調整するのが好ましく、350〜20,000mPa・sになるように調整するのがより好ましい。揚げ物の種類が、フリッタータイプの揚げ物に使用する衣液の場合には、150〜30,000mPa・sに調整するのが好ましく、1,200〜20,000mPa・sに調整するのがより好ましい。また、パン粉付けをする揚げ物に使用する衣液の場合には、250〜30,000mPa・sに調整するのが好ましく、350〜20,000mPa・sに調整するのがより好ましい。
【0009】
この揚げ物用衣液の粘度の調整は、その原料組成、例えば加える水の量を調整することにより適宜行うことができる。揚げ物用衣液の粘度を上記範囲に調整することで、衣液に不活性ガスを介在させたときに、多数の微細な気泡が衣液中により均一に分散して衣液の粘度が好ましいものとなり、衣の保形性がよりよくなり、衣を具材により均一に付着させることができる。
【0010】
また、この揚げ物用衣液は、その比重を1.00〜1.20g/cm3 の範囲に調整するのが好ましく、1.00〜1.05g/cm3 の範囲に調整するのがより好ましい。揚げ物用衣液の比重を上記範囲に調整することで、衣液に不活性ガスを介在させたときに、多数の微細な気泡が衣液中により均一に分散し、かつ気泡の分散状態が安定したものとなり、かつ得られる揚げ物の衣の食感も好ましいものとなる。
【0011】
揚げ物用衣液は、原料として小麦粉、コーンフラワー、大豆粉、各種澱粉類などの穀粉類を主成分とし、これに必要に応じて、衣液に通常用いる原料、例えば油脂類、糖類、食塩、調味料、香辛料、卵類、乳化剤などを適宜添加してもよいが、膨張剤は用いず、前記の原料にさらに水を加えて混合することにより調製される。本発明における揚げ物用衣液は、膨張剤を使用しないため膨張剤による食味の低下の問題がない。
上記の揚げ物用衣液の原料組成は、フリーッタータイプの揚げ物に使用する衣液や、コロッケなどのパン粉付けをする揚げ物に使用する衣液に用いられるものであれば制限されるものではないが、穀粉類としては小麦粉を用いるのが好ましく、小麦粉として薄力粉を用いるのがより好ましい。特に、小麦粉を、水を除く原料100質量部あたり、10〜100質量部用いるのが好ましく、30〜95質量部用いるのがより好ましい。
【0012】
次に、上記の揚げ物用衣液に不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する衣液を調製する。
上記不活性ガスとしては、食品に使用しても問題がないものであればよく、特に炭酸ガスが好ましい。上記不活性ガスとして、窒素ガスを炭酸ガスと併用して使用することができるが、不活性ガスではない空気を使用することは好ましくない。
上記揚げ物用衣液への不活性ガスの介在方法としては、揚げ物用衣液中に多数の気泡が内在される方法であれば特に限定されないが、例えば、密閉容器内に揚げ物用衣液を入れ、4〜14kg/cm2 の加圧条件下で不活性ガスを当該密閉容器内に充填し、その後、当該密閉容器を振とうして放置することにより、揚げ物用衣液中に小泡状の均一な気泡を多数内在させる方法があげられる。この方法は、特開2006−345776号公報や実用新案登録第3121937号公報に記載の装置〔これらの装置は、商品名「エスプーマアドバンス」(日本炭酸瓦斯株式会社製)として市販されている〕を使用することにより簡単に行うことができる。
【0013】
不活性ガスを介在させて多数の微細な気泡が内在する衣液を調製する際には、その粘度を指標の一つにして不活性ガスを衣液に介在させる程度を調整することができる。この多数の気泡が内在する衣液の粘度は、揚げ物の種類、求められる外観や食感などによって異なるが、通常は1,200〜27,000mPa・sの範囲にするのが好ましく、2,000〜27,000mPa・sの範囲にするのがより好ましい。揚げ物の種類が、フリッタータイプの揚げ物に使用する衣液の場合には、特に2,000〜27,000mPa・sに調整するのが好ましい。また、パン粉付けをする揚げ物に使用する衣液の場合には、特に2,000〜24,000mPa・sに調整するのが好ましい。
【0014】
不活性ガスを介在させた後の多数の気泡が内在する衣液の粘度を上記範囲に調整することで、得られる揚げ物の食感および外観がより良好で経時変化が少なくなり、吸油もより少なくなる。しかも、フライ時に衣が散るなどして揚げ物の外観が損なわれることがなくなり、また多数の微細な気泡が衣液中により均一に分散することで、フライ時の油はねが防止され、コロッケなどのパン粉付け揚げ物ではフライ時のパンクが防止される。
【0015】
尚、本発明でいう衣液の粘度の測定は、粘度計(東機産業(株)製「B型粘度計」)を用いて、プラスチックビーカー200mlに衣液を200ml入れて、該粘度計の操作説明書に記載の方法(粘度に合わせてローターと回転数を選択する)で行えばよい。
【0016】
また、不活性ガスを介在させた後の多数の気泡が内在する衣液は、その比重を0.43〜0.95g/cm3 とするのが好ましく、0.60〜0.95g/cm3 とするのがより好ましい。多数の気泡が内在する衣液の比重を上記範囲に調整することで、得られる揚げ物のボリューム感が良好なものとなり、しかもフライ時に衣が散るなどして揚げ物の外観が損なわれることがなくなり、またフライ時の油はねが防止され、コロッケなどのパン粉付け揚げ物ではフライ時のパンクが防止される。
【0017】
本発明の揚げ物用衣液は、従来の揚げ物用衣液と同様にして揚げ物に使用することができ、特に、コロッケなどのパン粉付けをする揚げ物に使用する衣液(バッター)や、フリッタータイプの揚げ物に使用する衣液として好適である。尚、本発明におけるフリッタータイプの揚げ物は、本発明の衣液を用いて得られ、多孔質の衣に包まれた揚げ物(パン粉付け揚げ物を除く)であれば特に限定されるものではない。
また、本発明の揚げ物用衣液が適用される揚げ物の具材としては、制限されるものではなく、本発明の揚げ物用衣液は、揚げ物の具材として従来使用されている具材に適用することができる。
【実施例】
【0018】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1〔コロッケ用衣液(バッター)の例〕
表1に示す配合からなる衣液(バッター)を調製した。この衣液(ガス介在前の衣液)の粘度は1,600mPa・sであり、比重は1.02g/cm3 であった。この衣液に「エスプーマアドバンス(日本炭酸瓦斯株式会社製)」を用いて炭酸ガスを介在させた。この介在の具体的方法は、上記装置に備え付けの密閉容器内に衣液を入れ、10kg/cm2 の加圧条件下で炭酸ガスを当該密閉容器内に充填し、その後、当該密閉容器を振とうして多少の時間放置する方法であり、この方法により、衣液中に小泡状の均一な気泡が多数内在された。この多数の気泡が内在する衣液(ガス介在後の衣液)の粘度は3,000mPa・sであり、比重は0.78g/cm3 であった。
この多数の気泡が内在する衣液を、市販のポテトコロッケの具(約30g/個:フルタフーズ株式会社製、商品名「北あかりコロッケパテ」)に、ほぼ均一に付着させ、次いでパン粉を付着させて生のコロッケを得た。
この生のコロッケを175℃の食用油で3分間フライして、調理済みコロッケを得た。この調理済みコロッケのフライ後10分間経過後の外観(衣の状態)および食感(吸油感)と、フライ後4時間経過後の食感について、表2に示す評価基準表に基づいてパネラー数10人で評価を行い、その結果(パネラー10人の平均点)を表1に示す。
【0020】
実施例2〜4
実施例1において、衣液の配合を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして衣液を調製した。以下、これらの衣液を用いて、実施例1と同様にして調理済みコロッケを得、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0021】
実施例5
実施例1において、炭酸ガスの代わりに窒素ガスと炭酸ガスの混合ガス(ガス混合比(質量比)=50:50)を使用した以外は実施例1と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例1と同様にして調理済みコロッケを得、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0022】
比較例1
実施例1において、炭酸ガスの代わりに圧縮空気を使用した以外は実施例1と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例1と同様にして調理済みコロッケを得、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0023】
比較例2
実施例1において、炭酸ガスを使用しない以外は実施例1と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例1と同様にして調理済みコロッケを得、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0024】
比較例3
実施例1において、衣液の配合において、水の代わりに炭酸水を使用し、さらに炭酸ガスを使用しない以外は実施例1と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例1と同様にして調理済みコロッケを得、評価を行った。その結果を表1に示す
【0025】
比較例4
比較例2において、コロッケの具に対して衣液とパン粉の付着を2回(衣の2度付け)行った以外は比較例2と同様にして調理済みコロッケを得、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例6(フリッタータイプの天ぷら用衣液の例)
表3に示す配合からなる天ぷら用衣液を調製した。この衣液(ガス介在前の衣液)の粘度は30,000mPa・sであり、比重は1.02g/cm3 であった。この衣液に「エスプーマアドバンス(日本炭酸瓦斯株式会社製)」を用いて炭酸ガスを介在させた。この介在の具体的方法は、上記装置に備え付けの密閉容器内に衣液を入れ、10kg/cm2 の加圧条件下で炭酸ガスを当該密閉容器内に充填し、その後、当該密閉容器を振とうして多少の時間放置する方法であり、この方法により、衣液中に小泡状の均一な気泡が多数内在された。この多数の気泡が内在する衣液の粘度は27,000mPa・sであり、比重は0.95g/cm3 であった。
この多数の気泡が内在する衣液を、市販の冷凍エビを解凍したもの(約10g/尾)に、ほぼ均一に付着させ、175℃の食用油で2分間フライして、フリッタータイプのエビ天ぷら(エビフリッター)を得た。このエビフリッターのフライ後の外観(ボリューム感)および食味と、フライ後4時間経過後の食感について、表4に示す評価基準表に基づいてパネラー数10人で評価を行い、その結果(パネラー10人の平均点)を表3に示す。
【0029】
実施例7〜10
実施例6において、衣液の配合を表3に示すように変えた以外は実施例6と同様にして衣液を調製した。以下、これらの衣液を用いて、実施例6と同様にしてエビフリッターを得、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0030】
実施例11
実施例6において、衣液の配合を表3に示すように変え、さらに炭酸ガスの代わりに窒素ガスと炭酸ガスの混合ガス(ガス混合比(質量比)=50:50)を使用した以外は実施例6と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例6と同様にしてエビフリッターを得、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0031】
比較例5
実施例6において、衣液の配合を表3に示すように変え、さらに炭酸ガスの代わりに圧縮空気を使用した以外は実施例6と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例6と同様にしてエビフリッターを得、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0032】
比較例6
実施例6において、衣液の配合を表3に示すように変え、さらに炭酸ガスを使用しない以外は実施例6と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例6と同様にしてエビフリッターを得、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0033】
比較例7
実施例6において、衣液の配合において、水の代わりに炭酸水を使用し、さらに炭酸ガスを使用しない以外は実施例6と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例6と同様にしてエビフリッターを得、評価を行った。その結果を表3に示す
【0034】
比較例8
実施例6において、衣液の配合を表3に示すように変え(膨張剤使用)、さらに炭酸ガスを使用しない以外は実施例6と同様にして衣液を調製した。以下、この衣液を用いて、実施例6と同様にしてエビフリッターを得、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を主成分とし、膨張剤を含まない揚げ物用衣液に、不活性ガスを介在させて、多数の気泡が内在する衣液を調製することを特徴とする、揚げ物用衣液の製造法。
【請求項2】
不活性ガスが炭酸ガスである請求項1記載の揚げ物用衣液の製造法。
【請求項3】
不活性ガスを介在させる前の揚げ物用衣液の粘度が、150〜30,000mPa・sである請求項1または2記載の揚げ物用衣液の製造法。
【請求項4】
不活性ガスを介在させた後の多数の気泡が内在する衣液の粘度が、1,200〜27,000mPa・sである請求項1〜3のいずれかに記載の揚げ物用衣液の製造法。
【請求項5】
不活性ガスを介在させた後の多数の気泡が内在する衣液の比重が、0.43〜0.95g/cm3 である請求項1〜4のいずれかに記載の揚げ物用衣液の製造法。

【公開番号】特開2009−65894(P2009−65894A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237535(P2007−237535)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】