説明

揚重システム

【課題】クレーン同士が接触するのを確実に防止できる揚重システムを提供すること。
【解決手段】解体システムは、所定高さの水平面内で既存建物1の長さ方向に移動可能なX方向天井走行クレーン80と、所定高さの水平面内で既存建物1の幅方向に移動可能なY方向天井走行クレーン90と、を備える。X方向天井走行クレーン80には、このX方向天井走行クレーン80周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲Bとして障害物を検知する検知装置85が設けられ、検知装置85の検知範囲内にY方向天井走行クレーン90が侵入した場合には、X方向天井走行クレーン80およびY方向天井走行クレーン90の移動を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚重システムに関する。詳しくは、構造物の解体作業を行うための揚重システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高層建築では、設備や躯体の老朽化を理由として、既存の建築物を解体し、新たに建築物を構築する建て替えが行われる場合がある。
ここで、既存の建築物を解体する方法として、例えば、以下のような手法が提案されている。すなわち、最上階にハットトラスからなる仮設屋根を設け、さらに、この仮設屋根を仮設柱であるマストで支持し、マストベースを介してこのマストを既存の建築物に支持させる。この仮設屋根に覆われた空間を解体作業スペースとし、この解体作業スペースで解体作業を行うことにより、粉塵や騒音を防止しつつ、建築物を解体する(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、以上の解体方法では、外壁材を円滑に解体するため、既存の建物の外壁面の内側に沿って天井走行クレーンを配置する必要がある。
すると、同一の水平面内で天井走行クレーン同士が交差する方向に移動することになるが、この場合、天井走行クレーンが障害物に衝突するのを防止するため、例えば、天井走行クレーンにタッチセンサや光電センサを設けることが提案されている(特許文献2参照)。
この提案によれば、障害物がタッチセンサに接触したり、光電センサで計測した所定距離内に障害物が接近したりすると天井走行クレーンの移動を停止させるため、天井走行クレーンが障害物に接触するのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−272403号公報
【特許文献2】特開平5−330789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タッチセンサや光電センサでは天井走行クレーンの全体を検知範囲とすることはできず、天井走行クレーン同士が接触するおそれがあった。
【0006】
本発明は、クレーン同士が接触するのを確実に防止できる揚重システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の揚重システムは、所定高さの水平面内で所定方向に移動可能な第1クレーンと、所定高さの水平面内で前記所定方向に交差する方向に移動可能な第2クレーンと、を備える揚重システムであって、前記第1クレーンには、当該第1クレーン周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置が設けられ、前記検知装置の検知範囲内に前記第2クレーンが侵入した場合には、前記第1クレーンおよび前記第2クレーンのうち少なくとも一方の移動を停止することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、第1クレーンに、この第1クレーン周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置を設け、この検知装置の検知範囲内に第2クレーンが侵入した場合には、第1クレーンおよび第2クレーンのうち少なくとも一方の移動を停止する。これにより、クレーン同士が接触するのを確実に防止できる。
【0009】
請求項2に記載の揚重システムは、前記検知装置の検知範囲は、当該第1クレーンの水平面内の位置に応じて、複数種類に設定されることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、検知装置の検知範囲を第1クレーンの水平面内の位置に応じて、複数種類に設定した。よって、検知範囲を障害物の位置および大きさに応じて適宜設定することで、第1クレーンを障害物に接触することなく円滑に移動することができる。
【0011】
請求項3に記載の揚重システムは、前記所定高さよりも高い位置の水平面内で移動可能なテルハをさらに備え、当該テルハには、当該テルハ下方の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置が設けられることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、テルハに、このテルハ下方の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置を設けた。よって、テルハのフックが第1クレーンや第2クレーンと接触するのを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1クレーンに、この第1クレーン周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置を設け、この検知装置の検知範囲内に第2クレーンが侵入した場合には、第1クレーンおよび第2クレーンのうち少なくとも一方の移動を停止する。これにより、クレーン同士が接触するのを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る揚重システムが適用された既存建物の断面図である。
【図2】前記実施形態に係る既存建物に取り付けられる仮設柱の正面図および側面図である。
【図3】前記実施形態に係る仮設柱の下部の横断面図である。
【図4】前記実施形態に係る仮設柱の中央部の横断面図である。
【図5】前記実施形態に係る仮設柱の平面図である。
【図6】前記実施形態に係る既存建物に設けられる仮設屋根の平面図である。
【図7】前記実施形態に係る揚重システムの小型テルハの平面図である。
【図8】前記実施形態に係る小型テルハの断面図である。
【図9】前記実施形態に係る小型テルハの正面図である。
【図10】前記実施形態に係る揚重システムのX方向天井走行クレーンの平面図である。
【図11】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンの側面図である。
【図12】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンの正面図である。
【図13】前記実施形態に係る揚重システムのY方向天井走行クレーンの平面図である。
【図14】前記実施形態に係るY方向天井走行クレーンの側面図である。
【図15】前記実施形態に係るY方向天井走行クレーンの正面図である。
【図16】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンが既存柱との衝突を回避する動作を説明するための平面図(その1)である。
【図17】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンが既存柱との衝突を回避する動作を説明するための平面図(その2)である。
【図18】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンが既存柱との衝突を回避する動作を説明するための平面図(その3)である。
【図19】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンがY方向天井走行クレーンとの衝突を回避する動作を説明するための平面図(その1)である。
【図20】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンがY方向天井走行クレーンとの衝突を回避する動作を説明するための平面図(その2)である。
【図21】前記実施形態に係るX方向天井走行クレーンがY方向天井走行クレーンとの衝突を回避する動作を説明するための平面図(その3)である。
【図22】前記実施形態に係る小型テルハがX方向天井走行クレーンとの衝突を回避する動作を説明するための平面図(その1)である。
【図23】前記実施形態に係る小型テルハがX方向天井走行クレーンとの衝突を回避する動作を説明するための平面図(その2)である。
【図24】前記実施形態に係る小型テルハがX方向天井走行クレーンとの衝突を回避する動作を説明するための平面図(その3)である。
【図25】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その1)である。
【図26】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その2)である。
【図27】前記実施形態に係る既存建物を解体する手順を説明するための図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る揚重システムが適用された既存建物1の断面図である。
既存建物1は、24階建ての鉄骨造であり、複数本の角形鋼管である既存柱11と、これら既存柱11同士を連結する複数の鉄骨梁である既存梁12と、既存梁12に支持される既存スラブ13と、を備える。
【0016】
この既存建物1には、既存建物1を解体するために、解体システム60が構築されている。解体システム60は、仮設屋根61と、この仮設屋根61の外周に設けられた外周足場62と、既存建物1の構造体に支持されて略鉛直方向に延びて仮設屋根61を支持する仮設柱20と、を備える。
【0017】
仮設屋根61は、24階床レベルの外周側の既存梁12と、24階の外周側の既存柱11と、R階床レベルの一部の既存梁12である仮設梁63と、この仮設梁63の上に張り付けられた透光性を有する板材64と、仮設梁63の梁上に設けられたテルハ40、70(図6参照)と、仮設梁63の梁下に設置された天井走行クレーン80、90(図6参照)と、を備える。
外周足場62は、仮設梁63に支持されている。
また、テルハ40、70の直下には、床開口15、16が形成されている(図6参照)。
【0018】
仮設柱20は、既存建物1の既存柱11の近傍に設置される。
以下、既存柱11のうち既存柱11Aの近傍に設置された仮設柱20Aについて説明するが、他の仮設柱20も同様の構成である。
【0019】
図2は、仮設柱20Aの正面図および側面図である。図2では、理解の容易のため、後述の水平支持レール23Bを省略している。
【0020】
仮設柱20Aは、鉛直方向に略平行に延びる一対の柱部材21と、これら2本の柱部材21を連結する連結部材22と、柱部材21に沿って延びる水平支持レール23A、23B(図3参照)と、を備える。
【0021】
各柱部材21は、断面略H形状の下部211と、この下部211の上に設けられた断面略箱形状の中央部212と、この中央部212の上に設けられた断面略H形状の上部213と、を備える。
【0022】
また、下部211には、互いに対向する一対の貫通孔214が長さ方向に沿って2組形成されている。
【0023】
この仮設柱20には、仮設柱20の長さ方向に沿って延びるステップロッド24と、このステップロッド24に沿って移動可能なステップロッドジャッキ25と、このステップロッドジャッキ25の下端に取り付けられた第1かんぬき部材26と、仮設柱20に取り付けられた一対の直線状のかんざし部材27と、このかんざし部材27に連結された第2かんぬき部材30と、が内蔵されている。
【0024】
図3は、仮設柱20Aの下部211の横断面図である。
仮設柱20は、既存建物1の既存スラブ13を貫通して延びている。すなわち、既存柱11Aの近傍の各階の既存スラブ13には、床開口14が形成されており、仮設柱20は、各階の床開口14に挿通される。
【0025】
第2かんぬき部材30は、一対の柱部材21の間に挿通され、軸方向の長さが変更可能な構造である。すなわち、第2かんぬき部材30は、所定長さの本体31と、この本体31の両端側に水平方向に回動自在に設けられた係止部32と、を備える。
【0026】
この第2かんぬき部材30では、係止部32および本体31を一直線上に配置することで、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くできる。一方、係止部32を水平方向に折り曲げることで、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを短くできる。この状態では、第2かんぬき部材30の軸方向の長さが床開口14の内法寸法よりも短くなるため、第2かんぬき部材30は、床開口14を通って鉛直方向に移動可能となっている。
【0027】
一対のかんざし部材27は、柱部材21の上下の2組の貫通孔214のうちの上側の一組に挿通されている。
上述の第2かんぬき部材30の上面は、かんざし部材27の下面に当接して固定されている。これにより、第2かんぬき部材30は、仮設柱20とともに略鉛直方向に移動するようになっている。
【0028】
第2かんぬき部材30を所定高さに配置して、第2かんぬき部材30の軸方向の長さを長くすることで、第2かんぬき部材30は、既存柱11Aから互いに直交して延びる2つの既存梁12に跨って配置される。
この状態では、第2かんぬき部材30が既存梁12に係止し、この第2かんぬき部材30にかんざし部材27が係止するので、仮設柱20は第2かんぬき部材30を介して既存梁12に支持されることになる。
【0029】
また、床開口14のうち仮設柱20の下部211が挿通されるものには、既存建物1に支持されて仮設柱20の側面に当接する一対の水平反力受け部材51、52が設けられる。
すなわち、水平反力受け部材51、52は、既存梁12上に取り付けられて仮設柱20の側面に当接する略コの字形状の第1水平反力受け部材51と、既存スラブ13上に取り付けられて仮設柱20の側面に当接する略コの字形状の第2水平反力受け部材52と、からなる。
【0030】
各水平反力受け部材51、52は、水平支持レール23Aに当接する長尺状の第1ガイド部53と、この第1ガイド部53の両端から直交して延びて水平支持レール23Bに当接する第2ガイド部54と、を備える。これにより、仮設柱20を下方に向かって円滑に移動可能となっている。
水平反力受け部材51、52は、仮設柱20を挟んで略矩形枠状に配置されており、これにより、第2かんぬき部材30の上下方向の移動に干渉しないようになっている。
【0031】
図4は、仮設柱20の中央部212の横断面図である。
ステップロッドジャッキ25の下端面には、水平に直線状に延びる第1かんぬき部材26が連結され、この第1かんぬき部材26の両端側は、2つの既存梁12の直上に位置している。
第1かんぬき材の中央には、ステップロッド24が挿通される挿通孔が形成されている。
第1かんぬき部材26を所定高さに配置することで、第1かんぬき部材26は既存柱11Aから互いに直交して延びる2つの既存梁12に跨って配置される。このとき、これら2本の既存梁12の上面が露出しているため、第1かんぬき部材26は、既存梁12に直接載置される。
この状態では、第1かんぬき部材26が既存梁12に係止するので、仮設柱20は第1かんぬき部材26を介して既存梁12に支持されることになる。
【0032】
図5は、仮設柱20の平面図である。
仮設柱20は、既存柱11Aの上端から互いに直交して延びる2つの仮設梁63の間に設置されている。
仮設柱20の上端面には、水平に直線状に延びる支持部材28が設けられ、2つの仮設梁63は、この支持部材28の両端側の上面に位置している。これにより、仮設柱20の上端面は、支持部材28を介して、仮設屋根61の仮設梁63に連結されている。
【0033】
図2に戻って、仮設柱20の上部213の側面には、継手29が設けられている。仮設柱20の上部213の側面は、この継手29を介して、仮設屋根61の一部である24階の既存柱11Aの上側の側面に連結されている。
【0034】
図6は、仮設屋根61の平面図である。図6では、理解の容易のため、仮設梁63、床開口15、16、テルハ40、70、および天井走行クレーン80、90の配置のみを示す。
床開口15は、最も上に位置する既存スラブ13の長さ方向略中央に形成されている。床開口16は、既存スラブ13の長さ方向両端側に形成されて1階まで連通している(図1参照)。
【0035】
テルハ40、70は、床開口15の直上に設けられて水平面内で既存建物1の幅方向に移動可能な1台の大型テルハ40と、床開口16の直上に設けられて水平面内で既存建物1の幅方向に移動可能な2台の小型テルハ70と、で構成される。
大型テルハ40は、床開口15を通じて解体作業用の重機を下階に降ろすためのものである。小型テルハ70は、床開口16を通して解体材を搬出階である1階に降ろすためのものである。
【0036】
図7〜図9は、小型テルハ70の平面図、断面図、および正面図である。
小型テルハ70は、既存梁12の上面に設けられて床開口16を跨いで既存建物1の幅方向に延びる2条の走行レール71と、これら走行レール71に沿って移動可能なテルハ本体72と、テルハ本体72に設けられた巻上げ装置73と、テルハ本体72に設けられた滑車74、75と、動滑車76と、フック77と、テルハ本体72の下面に設けられた一対のレーザスキャナである検知装置78と、を備える。
【0037】
巻上げ装置73には巻上ワイヤ79が巻き回されており、この巻上ワイヤ79は、滑車75〜76を介してフック77まで延びている。よって、この巻上げ装置73を駆動することにより、フック77を昇降可能となっている。
【0038】
各検知装置78は、図8、9中一点鎖線で示すように、小型テルハ70の直下の鉛直方向の所定範囲を検知範囲Aとして障害物を検知することが可能となっている。この検知装置78の検知範囲Aは、フック77の高さ位置に応じて上下に伸縮するように設定されている。
【0039】
天井走行クレーン80、90は、解体材を床開口16付近まで運搬するものである。
天井走行クレーン80、90は、既存建物1の長さ方向両端側に設けられて外壁面の内側を水平面内で幅方向に移動可能な2台の第1クレーンとしてのX方向天井走行クレーン80と、既存建物1の幅方向両端側に設けられて外壁面の内側を水平面内で既存建物1の長さ方向に移動可能な2台の第2クレーンとしてのY方向天井走行クレーン90と、で構成される。
【0040】
図10〜12は、X方向天井走行クレーン80の平面図、側面図、正面図である。
X方向天井走行クレーン80は、既存梁12の下面に設けられて既存建物1の長さ方向に延びる2条の走行レール81と、これら走行レール81に沿って移動可能な上段ガータ82と、上段ガータ82の下面に設けられて既存建物1の幅方向にスライド可能な下段ガータ83と、下段ガータ83の下面に設けられてこの下段ガータ83に沿って移動可能な巻上げ装置84と、を備える。
【0041】
上段ガータ82は、既存建物1の幅方向に延びる矩形枠状のガータ本体821と、このガータ本体821に設けられて走行レール81に沿って走行する走行装置822と、ガータ本体821に設けられた一対のレーザスキャナである検知装置85と、を備える。
下段ガータ83は、既存建物1の幅方向に延びるガータ本体831と、このガータ本体831に設けられて上段ガータ82のガータ本体821の下面に沿って走行する走行装置832と、を備える。
巻上げ装置84は、ウインチ841と、このウインチ841に設けられて下段ガータ83のガータ本体831の下面に沿って走行する走行装置842と、を備える。
【0042】
以上のX方向天井走行クレーン80では、下段ガータ83を上段ガータ82に対してスライドさせることにより、ガータを伸長して、上段ガータ82や下段ガータ83の長さと比較して、幅広い範囲で解体材を揚重することが可能となっている。
【0043】
また、X方向天井走行クレーン80では、一対の検知装置85を組み合わせることにより、図10中一点鎖線で示すように、X方向天井走行クレーン80周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲Bとして、障害物を検知することが可能となっている。
【0044】
図6に戻って、本実施形態では、この検知装置の検知範囲Bは、X方向天井走行クレーン80の水平面内の位置に応じて、6種類設定されている。
すなわち、X方向天井走行クレーンの移動範囲を6つに分割し、図6中左側から順に、第1制御領域、第2制御領域、第3制御領域、第4制御領域、第5制御領域とする。これらの制御領域は、X方向天井走行クレーン80が走行レール81に設けられた切替えスイッチを通過することにより、自動的に切り替わるようになっている。
【0045】
第1、6制御領域では、検知範囲Bは、Y方向天井走行クレーン90、仮設柱20および既存柱11に衝突するのを回避するように設定される。
第2制御領域では、検知範囲Bは、仮設柱20および既存柱11に衝突するのを回避するように設定される。
第3、5制御領域では、検知範囲Bは、小型テルハ70、仮設柱20および既存柱11に衝突するのを回避するように設定される。
第4制御領域では、検知範囲Bは、大型テルハ40、仮設柱20および既存柱11に衝突するのを回避するように設定される。
【0046】
図13〜15は、Y方向天井走行クレーン90の平面図、側面図、正面図である。
Y方向天井走行クレーン90は、既存梁12の下面に設けられて既存建物1の幅方向に延びる2条の走行レール91と、これら走行レール91に沿って移動可能な上段ガータ92と、上段ガータ92の下面に設けられて既存建物1の長さ方向にスライド可能な下段ガータ93と、下段ガータ93の下面に設けられてこの下段ガータ93に沿って移動可能な巻上げ装置94と、を備える。
【0047】
上段ガータ92は、既存建物1の長さ方向に延びるガータ本体921と、このガータ本体921に設けられて走行レール91に沿って走行する走行装置922と、を備える。
下段ガータ93は、既存建物1の長さ方向に延びるガータ本体931と、このガータ本体931に設けられて上段ガータ92のガータ本体921の下面に沿って走行する走行装置932と、を備える。
巻上げ装置94は、ウインチ941と、このウインチ941に設けられて下段ガータ93のガータ本体931の下面に沿って走行する走行装置942と、を備える。
【0048】
以上のY方向天井走行クレーン80では、下段ガータ93を上段ガータ92に対してスライドさせることにより、ガータを伸長して、上段ガータ92や下段ガータ93の長さと比較して、幅広い範囲で解体材を揚重することが可能となっている。
【0049】
以下、X方向天井走行クレーン80が既存柱11との衝突を回避する動作について説明する。
まず、図16に示すように、X方向天井走行クレーン80の下段ガータ83を既存建物1の外側に向かってスライドさせた状態で、X方向天井走行クレーンを用いて外壁材を解体する。その後、X方向天井走行クレーンを走行レールに沿って図16中右側に向かって移動させたとする。
【0050】
すると、図17に示すように、X方向天井走行クレーン80が既存柱11に接近し、検知範囲B内に既存柱11が侵入するため、警報が鳴り、X方向天井走行クレーン80が停止する。
そこで、既存柱11が検知範囲Bの外に位置するまで、既存柱11から離れる方向つまり図17中左側に向かってX方向天井走行クレーン80を移動させる。
【0051】
その後、図18に示すように、下段ガータ83を既存建物1の内側に向かってスライドさせて、再び、X方向天井走行クレーン80を図18中右側に向かって移動させる。
【0052】
次に、X方向天井走行クレーン80がY方向天井走行クレーン90との衝突を回避する動作について説明する。
まず、図19に示すように、X方向天井走行クレーン80の下段ガータ83が既存建物1の内側に向かってスライドした状態で、X方向天井走行クレーン80を走行レール81に沿って図19中右側に向かって移動させたとする。ここで、Y方向天井走行クレーン90は停止した状態である。
【0053】
すると、図20に示すように、検知範囲B内にY方向天井走行クレーン90が侵入するため、警報が鳴り、X方向天井走行クレーン80が停止し、Y方向天井走行クレーン90も移動できなくなる。
【0054】
そこで、Y方向天井走行クレーン80が検知範囲Bの外に位置するまで、X方向天井走行クレーン80をY方向天井走行クレーン90から離れる方向に移動させる。同時に、Y方向天井走行クレーン90もX方向天井走行クレーン80から離れる方向に移動させる。
【0055】
その後、図21に示すように、再び、X方向天井走行クレーン80を図21中右側に向かって移動させる。
【0056】
次に、小型テルハ70がX方向天井走行クレーン80との衝突を回避する動作について説明する。
まず、図22に示すように、下段ガータ83が既存建物1の内側に向かってスライドした状態で、X方向天井走行クレーン80が床開口16の直上に位置している。そして、小型テルハ70のフックがある程度降りた状態で、小型テルハ70を走行レール71に沿って図22中上方に向かって移動させる。
【0057】
すると、図23に示すように、小型テルハ70の検知範囲A内にX方向天井走行クレーン80が侵入するため、警報が鳴り、小型テルハ70が停止し、X方向天井走行クレーン80も移動できなくなる。
そこで、過巻防止スイッチが作動するまで、小型テルハ70のフック77を巻き上げる。
その後、図24に示すように、再び、小型テルハ70を図24中上方に向かって移動させる。
【0058】
次に、既存建物1を解体する手順について説明する。
ステップ1では、図1に示すように、屋上階としてのR階の設備機器、目隠し壁、およびフレーム等を解体する。また、R階床レベルの既存梁12の一部を残して解体して、残った既存梁12を仮設梁63とする。さらに、24階床レベルの外周の既存梁12を残して、24階の外壁を含む立上がりおよび24階床レベルの内側の既存梁12を解体する。
また、仮設柱20の外側に仮設梁63に支持される外周足場62を設ける。
【0059】
ステップ2では、仮設梁63の梁上にテルハ40、70を取り付け、仮設梁63の梁下に天井走行クレーン80、90を取り付ける。また、仮設梁63に透光性を有する板材64を貼り付けて、仮設屋根61を完成させる。これにより、仮設屋根61および外周足場62で囲まれた解体作業スペースを形成する。
なお、図示しないが、仮設屋根61には、雨水を利用した散水設備およびドライミスト装置を設ける。
【0060】
ステップ3では、各階の既存スラブ13に床開口14〜16を形成し、20〜23階床レベルの床開口14に水平反力受け部材51、52を設置する。
その後、既存建物1の外周の既存柱11の近傍に仮設柱20を配置する。
【0061】
ステップ4では、ステップロッドジャッキ25駆動して、23階床レベルの既存梁12に第1かんぬき部材26を係止させ、仮設柱20を23階床の既存梁12に支持させる。また、第2かんぬき部材30を収縮させておく。
その後、23階の既存柱11を柱頭部で切断し、23階の外壁を含む立上がりを解体する。このとき、天井走行クレーン80、90を利用して、解体材を床開口16に移動し、小型テルハ70によりこの解体材を搬出階に荷下ろしする。荷下ろしした解体材は、リサイクル可能な材料と産業廃棄物との仕分けを行って、場外に搬出する。
【0062】
ステップ5では、図25に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、ステップロッド24の上方に向かって移動させる。
これにより、仮設柱20が下降し、仮設屋根61および外周足場62も下降し、第2かんぬき部材30は21階床レベルの高さに位置する。このとき、水平反力受け部材51、52により、仮設柱20の移動を案内する。
次に、第2かんぬき部材30を伸長させて、この第2かんぬき部材30を21階床レベルの既存梁12に係止させ、仮設柱20の荷重を21階床の既存梁12に支持させる。
【0063】
ステップ6では、図26に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、第1かんぬき部材26を上方に向かってわずかに移動し、解体対象である23階床から退避させる。
また、23階床レベルに設置した水平反力受け部材51、52を19階床レベルに盛り替える。
次に、解体作業スペース内で、23階の床から22階の外壁を含む立上がりまで(図26中破線で示す部分)を解体する。このとき、天井走行クレーン80、90を利用して、解体材を床開口16に移動し、小型テルハ70によりこの解体材を搬出階に荷下ろしする。
【0064】
ステップ7では、図27に示すように、ステップロッドジャッキ25を駆動して、第1かんぬき部材26を下方に向かって移動し、22階床レベルの既存梁12に係止させ、仮設柱20を22階床の既存梁12に支持させる。また、第2かんぬき部材30を収縮させておく。
【0065】
以下、ステップ5〜7の作業を繰り返すことで1層毎に解体して、1階まで解体する。
【0066】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)X方向天井走行クレーン80に、このX方向天井走行クレーン80の周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲Bとして障害物を検知する検知装置85を設け、この検知装置85の検知範囲B内にY方向天井走行クレーン90が侵入した場合には、X方向天井走行クレーン80およびY方向天井走行クレーン90の移動を停止する。これにより、天井走行クレーン80、90同士が接触するのを確実に防止できる。
【0067】
(2)検知装置85の検知範囲BをX方向天井走行クレーン80の水平面内の位置に応じて、複数種類に設定した。よって、検知範囲Bを障害物の位置および大きさに応じて適宜設定することで、X方向天井走行クレーン80を障害物に接触することなく円滑に移動することができる。
【0068】
(3)小型テルハ70に、この小型テルハ70下方の所定範囲を検知範囲Aとして障害物を検知する検知装置78を設け、この検知装置78の検知範囲Aをフック77の昇降に従って伸縮させた。よって、小型テルハ70のフック77がX方向天井走行クレーン80やY方向天井走行クレーン90と接触するのを確実に防止できる。
【0069】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、既存建物1の解体作業に本発明を適用したが、これに限らず、建物の新築にも適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1…既存建物
11、11A…既存柱
12…既存梁
13…既存スラブ
14、15、16…床開口
20、20A…仮設柱
21…柱部材
22…連結部材
23A…水平支持レール
23B…水平支持レール
24…ステップロッド
25…ステップロッドジャッキ
26…第1かんぬき部材
27…かんざし部材
28…支持部材
29…継手
30…第2かんぬき部材
31…本体
32…係止部
51…水平反力受け部材
52…水平反力受け部材
53…第1ガイド部
54…第2ガイド部
60…解体システム
61…仮設屋根
62…外周足場
63…仮設梁
64…板材
70…小型テルハ
71…走行レール
72…テルハ本体
73…巻上げ装置
74、75…滑車
76…動滑車
77…フック
78…検知装置
79…巻上ワイヤ
80…X方向天井走行クレーン(第1クレーン)
81…走行レール
82…上段ガータ
83…下段ガータ
84…巻上げ装置
85…検知装置
90…Y方向天井走行クレーン(第2クレーン)
91…走行レール
92…上段ガータ
93…下段ガータ
94…巻上げ装置
211…下部
212…中央部
213…上部
214…貫通孔
821…ガータ本体
822…走行装置
831…ガータ本体
832…走行装置
841…ウインチ
842…走行装置
921…ガータ本体
922…走行装置
931…ガータ本体
932…走行装置
941…ウインチ
942…走行装置
A、B…検知範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定高さの水平面内で所定方向に移動可能な第1クレーンと、所定高さの水平面内で前記所定方向に交差する方向に移動可能な第2クレーンと、を備える揚重システムであって、
前記第1クレーンには、当該第1クレーン周囲の水平方向の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置が設けられ、
前記検知装置の検知範囲内に前記第2クレーンが侵入した場合には、前記第1クレーンおよび前記第2クレーンのうち少なくとも一方の移動を停止することを特徴とする揚重システム。
【請求項2】
前記検知装置の検知範囲は、当該第1クレーンの水平面内の位置に応じて、複数種類に設定されることを特徴とする請求項1に記載の揚重システム。
【請求項3】
前記所定高さよりも高い位置の水平面内で移動可能なテルハをさらに備え、
当該テルハには、当該テルハ下方の所定範囲を検知範囲として障害物を検知する検知装置が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の揚重システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−218873(P2012−218873A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85920(P2011−85920)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000194756)成和リニューアルワークス株式会社 (32)