説明

揚鉱管の昇降方法と揚鉱管

【課題】高圧空気を送り込む装置を必要とせず、水底の深度が大きくなっても耐張力の増加を抑えることができて、任意の位置で鋼管の交換や間引き等を行えるようにした揚鉱管の昇降方法と揚鉱管を提供する。
【解決手段】作業船に揚鉱管4を支持し、揚鉱管4を海中に沈めたり海上に浮かべたりする。揚鉱管4は複数の鋼管3を連結し、各鋼管3の外周面に耐食性の塗覆装6を被覆する。塗覆装6の比重を海水より小さくして浮力を持たせる。揚鉱管4を海中に略垂直に沈める際、揚鉱管4中に海水を注入することで揚鉱管内の海水及び揚鉱管4及び塗覆装6のトータルの比重を海水の比重より大きくする。揚鉱管4を海上に浮かべる場合、揚鉱管4中に空気を注入して海水と置換することで揚鉱管4内の空気及び揚鉱管4及び塗覆装6のトータルの比重を海水の比重より軽くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底で採取した鉱物や石油等の資源等の流送物を海上へ搬送するための揚鉱管の昇降方法とこの方法で用いる揚鉱管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海底に埋設されている鉱床が日本の排他的経済海域で多数発見されており、これらの鉱床の開発が進められている。このような海底の鉱床の掘削に際しては、1000m〜6000mの範囲の深い海域が多いため、無人の採鉱機等を海底に設置して鉱物やガス、石油等を掘削して、揚鉱管によって海底から海上の作業船等に搬送するようにしている。
このような海底から海上に浮かぶ船舶にガスや石油、鉱物等を海底から搬送するライザーシステムが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されたライザーシステムでは、海底井戸で採取したガス石油等を、鋼管を順次接続して垂直方向に配設した揚鉱管の上端からフレキシブル管を介して、海上の船舶へ給送する経路が形成されている。この揚鉱管の垂直姿勢を保持するためにフレキシブル管との間に水中ブイを設けている。
このようなシステムでは、揚鉱管の敷設時には、船舶の上で鋼管を1本ずつつなぎながら海中に降ろしていくようにしている。そして、フレキシブル管を含む揚鉱管を構成する複数の鋼管から一部の鋼管を交換したりメンテナンス等を行う場合、揚鉱管を上側から船舶へ直線状に順次引き上げて鋼管の交換や機器の修理等を行っている。そして鋼管の交換やメンテナンス等が終了すると、各鋼管同士を接続し直して海中へ順次降下させるようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載された深層水取水装置では、海底に設けたシンカーにポンプを取り付け、送水管の先端と中間にフロートを取り付けて先端リングフロートにエアーまたは水をいれることで送水管の浮沈をコントロールするようにしている。中間リングフロートは送水管の海中重量をゼロにするよう浮力調整している。また、送水管に引き上げ用ロープを取り付け、この引き上げ用ロープでシンカーを海面上に引き上げるようにしている。
【0005】
また、特許文献3に示す海水取水装置では、取水用のパイプとパイプの所定間隔に設けた浮体と各浮体に高圧空気を供給する高圧空気供給ホースと信号ケーブルとを備え、パイプの先端にパイプアンカを取り付けている。そして、パイプを海中に沈めるにはパイプだけでなく浮体にも海水を注入しパイプアンカの重量も加味されて海底に沈降する。パイプを海上に浮上させるには、高圧空気供給ホースから浮体にエアを供給して海水と置換させ、更にパイプとパイプアンカにも高圧空気を送り込むことで海水と置換させて浮力を与えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国公開特許第2008−138159号公報
【特許文献2】特開平3−25128号公報
【特許文献3】特開昭62−203894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1は、数百メートル程度の深さの海域で行うシステムであり、例えば日本近海のように1000m〜6000m程度の深海では揚鉱管の長さが非常に長くなり、揚鉱管を水面下の比較的浅い深度に設定したブイの浮力で引っ張ることは、ブイと揚鉱管の接続部に深度に応じた非常に大きな張力がかかる。しかも、この接続部は海域や波の揺動に対応させるためにヒンジ機構やスイベルの機能を併せ持つことが要求され、複雑な機構を必要とするために損傷し易いという欠点がある。更に、揚鉱管上部の接続部には下部につながる揚鉱管の重量がかかるために継手構造に大きな耐引っ張り応力が求められる構造であった。
また、垂直に延びる揚鉱管を敷設する場合、鋼管を順次垂直方向に接続するため端部把持機構も強力なものが要求される。搬送物が腐食性のものであったり鉱石を含むスラリで鋼管内部に腐食等が発生したりして補修が必要になった場合には、作業船によって揚鉱管を垂直に引き上げつつ鋼管を分断して順次鋼管の検査と補修を行うため、手間がかかりメンテナンス性に劣る構造となっていた。
【0008】
また、特許文献2に記載された深層水取水装置では、先端リングフロートにエアーまたは水を入れることで送水管の浮沈を制御するものにすぎない。そのため、送水管を浮上させて修理や部品の交換をするためには、別に引き上げ用ロープを送水管に取り付ける必要があり、煩雑で作業が面倒であった。
また、特許文献3では、パイプの他にパイプの長手方向に所定間隔で設置した浮体や浮体に高圧空気を供給するための高圧空気供給ホース及び電磁切換弁等が必要であり、浮体や高圧空気供給ホース及び電磁切換弁の設置や管理をしなければならず、構造が複雑でコスト高になるという欠点があった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて、高圧空気を送り込む装置を必要とせず、水底の深度が大きくなっても耐張力の増加を抑えることができて、任意の位置で鋼管の交換や間引き等を行えるようにした揚鉱管の昇降方法と揚鉱管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による揚鉱管の昇降方法は、海底で掘削した流送物を海上に輸送する揚鉱管を海中に沈めたり海上に浮かべたりする昇降方法において、揚鉱管は複数の管体を連結して構成され、各管体にはそれぞれ浮体が設置されており、揚鉱管を海中に沈める際には、揚鉱管中に海水を注入することで揚鉱管内の海水及び揚鉱管及び浮体のトータルの比重を海水の比重より重くし、揚鉱管を海中から海上に浮かべる場合には、揚鉱管の上端開口を上端盲フランジ部で封止して気体を注入することで海水と置換し、揚鉱管内の気体及び揚鉱管及び浮体のトータルの比重を海水の比重より軽く設定するようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、浮体は、揚鉱管に被覆された塗覆装であることが好ましい。
【0012】
また、揚鉱管を海中から海上に浮かべる場合には、揚鉱管の上端開口は上端盲フランジ部によって封止されると共に、上端盲フランジ部に設けた気体注入手段によって前記揚鉱管中に空気を注入して海水と置換することが好ましい。
【0013】
また、揚鉱管を海中に保持された状態から内部に気体を注入して海水と置換して海上に浮かべる途中工程で、揚鉱管の下端開口を水抜き逆流防止弁を設けた下端盲フランジ部で封止することによって、揚鉱管から水抜き逆流防止弁を介して海水を排出させることが好ましい。
【0014】
また、揚鉱管を海中に沈ませる際、下端盲フランジ部を揚鉱管から取り外して海水を浸入させることによって行うことが好ましい。
【0015】
また、揚鉱管の下端に海底で作業する作業機械を連結させて、揚鉱管と共に作業機械を降下させ、また浮上させるようにしてもよい。
【0016】
本発明による揚鉱管は、複数の鋼管を連結して形成されていて内部を通して流送物を引き上げる揚鉱管であって、各鋼管にはそれぞれ浮体が設置されており、連結された複数の鋼管の上端開口は着脱可能な上端盲フランジ部によって封止されると共に、上端盲フランジ部から揚鉱管中に空気を注入する気体注入手段が設けられており、複数の鋼管内で海水と空気を互いに置換することで上昇と降下を制御するようにしたことを特徴とする。
【0017】
また、沈下された前記複数の鋼管を浮上させる途中工程で、前記複数の鋼管の下端開口は離脱可能に封止する下端盲フランジ部と、該下端フランジ部に設けた水抜き逆流防止弁を介して海水を外部に排出させることが好ましい。
【0018】
また、浮体は鋼管の外面に形成されている塗覆装であり、該塗覆装を海水の比重より軽くすることで鋼管に浮力が設定されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明による揚鉱管の昇降方法によれば、揚鉱管は複数の管体を連結して構成され、各管体にはそれぞれ浮体が設置されており、揚鉱管を海中に沈める場合には、揚鉱管中に海水を注入することで揚鉱管内の海水及び揚鉱管及び浮体のトータルの比重を海水の比重より重くし、揚鉱管を海中から海上に浮かべる場合には、揚鉱管中に気体を注入することで揚鉱管内の気体及び揚鉱管及び浮体のトータルの比重を海水の比重より軽くなるように設定したから、高圧空気供給ホース等の他の部品が必要なく、しかも浮体内に海水と気体と空気を置換する必要もなく、揚鉱管全体を回動させながら海上に浮かべたり海中に沈めたりする制御ができる。
しかも、揚鉱管は各鋼管に浮体が設けられたことで海上では揚鉱管全体に浮力が働いて全長に亘る作業や検査を行うことができ、作業効率が高い。また、海中に沈める揚鉱管の水深が深くなっても鋼管の接続部に大きな耐引っ張り応力が要求されないから、鋼管の継ぎ手部分をフランジボルト等で固定できる等、継ぎ手の構造を簡単にできて経済的であり、鋼管の交換や間引き等を簡単に行えて劣化した部分を容易に排除または補修できてメンテナンスや補修を容易に行える。
【0020】
また、浮体は、揚鉱管の各鋼管に被覆された塗覆装によって形成したことで、塗覆装に耐食性と浮力を持たせることができ、しかも海上では揚鉱管全体に浮力が働いて全長に亘る作業や検査が行われて作業効率が高く、しかも浮体内に海水と気体と空気を置換する必要もない。また、海中に沈める揚鉱管の水深が深くなってもこの浮体によって鋼管の接続部に大きな引っ張り応力が作用しないから、鋼管の継ぎ手部分をフランジボルト等で固定できる。
【0021】
また、揚鉱管を海中から海上に浮かべる場合には、揚鉱管の上端開口は上端盲フランジ部によって封止されると共に、気体注入手段によって上端盲フランジ部から揚鉱管中に気体を注入するようにしたから、揚鉱管内に気体を注入して海水と置換できて、揚鉱管と内部の気体と浮体とからなる全体の比重が同体積の海水の比重より軽くなって揚鉱管全体を海上に浮上させて浮かばせることができ、揚鉱管全体の作業や検査を同時に行える。
【0022】
また、揚鉱管を海中に保持された状態から内部に気体を注入して海上に浮かべる途中工程で、揚鉱管の下端開口を水抜き逆流防止弁を設けた下端盲フランジ部で封止することによって、揚鉱管から水抜き逆流防止弁を介して海水を排出させるようにしたから、揚鉱管内に気体を導入して海水と置換する際に傾斜角度が水平に近い角度になっても、水抜き逆流防止弁によって内部に残存する海水だけを確実に排出できる。
【0023】
また、揚鉱管を海中に沈ませる際、下端盲フランジ部を揚鉱管から取り外して海水を浸入させることによって行うから、揚鉱管内の気体が海水と置換され、揚鉱管と内部の海水と浮体の全体の比重を同体積の海水の比重より大きく設定できて海中に沈めることができる。
【0024】
また、揚鉱管の下端に海底で作業する作業機械を連結させて、揚鉱管と共に作業機械を降下させ、また浮上させるようにしたから、揚鉱管を海中に沈めた状態で作業機械を連結する手間を排除でき、しかも作業機械は揚鉱管を沈める際には重りとなり、揚鉱管の降下がスムーズになる。
【0025】
本発明による揚鉱管は、複数の鋼管を連結して形成されていて内部を通して流送物を引き上げる揚鉱管であって、各鋼管にはそれぞれ浮体が設置され、連結された複数の鋼管の上端開口は着脱可能な上端盲フランジ部によって封止されると共に、上端盲フランジ部から揚鉱管中に空気を注入する気体注入手段が設けられており、複数の鋼管内で海水と空気を互いに置換することで上昇と降下を制御するから、揚鉱管全長に亘って浮力を与えることができて、揚鉱管は海上では揚鉱管全体に浮力が働いて全長に亘る作業や検査を行うことができて、作業効率が高い。しかも、海中に沈める揚鉱管の水深が深くなっても上側の鋼管の接続部に大きな引っ張り応力が作用しないから、鋼管の継ぎ手部分をフランジボルト等で固定できる等、構造を簡単にできて経済的であり、鋼管の交換や間引き等を行えて劣化した部分を容易に排除できてメンテナンスや補修を容易に行える。しかも、高圧空気供給ホース等の他の部品が必要なく、しかも浮体内に海水と気体と空気を置換する必要もなく、揚鉱管の浮上と沈降を行うことができる。
【0026】
また、沈下された揚鉱管を浮上させる途中工程で、揚鉱管の下端開口は離脱可能に封止する下端盲フランジ部と、該下端フランジ部に設けた水抜き逆流防止弁を介して海水を外部に排出させるようにしたから、揚鉱管内に気体を導入して海水と置換する際に傾斜角度が水平に近い角度になっても、水抜き逆流防止弁によって内部に残存する海水だけを確実に排出できる。
【0027】
また、浮体は鋼管の外面に形成された塗覆装であり、塗覆装を海水の比重より軽くすることで鋼管に浮力が設定されているから、塗覆装に耐食性と浮力の機能を持たせることができ、しかも海上では揚鉱管全体に浮力が働いて全長に亘る作業や検査が行われて作業効率が高く、また海中に沈める揚鉱管の水深が深くなっても鋼管の接続部に大きな引っ張り応力が作用しない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態による揚鉱管を作業船から海底に垂下させた状態と海上に浮かべた状態とを示す揚鉱管の敷設構造を示す説明図である。
【図2】図1で用いる揚鉱管を示すものであって、(a)は揚鉱管の長手方向における部分拡大縦断面図、(b)は揚鉱管の鋼管の長手方向に直交する断面図である。
【図3】揚鉱管の上端の上端盲フランジ部にコンプレッサを取り付けた空気注入構造を示す要部説明図である。
【図4】揚鉱管の下端に水抜き逆流防止バルブ付きの下端盲フランジ部を取り付けた状態を示す要部説明図である。
【図5】揚鉱管を海底に垂下させた状態から海上に浮かべた状態まで変移する状態を示す説明図である。
【図6】本実施形態の変形例による揚鉱管の敷設構造を示す図であり、揚鉱管の下端にバラストタンクと揚重機を設けた図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による揚鉱管とその敷設システムについて説明する。
図1に示す揚鉱管の敷設システム1は、海上に作業船2が浮かんでおり、作業船2から海底に向けて複数の鋼管3を接続してなる揚鉱管4を例えば略垂直に垂下させている。揚鉱管4は海底で掘削された鉱石、或いは海底井戸に埋設された石油または天然ガス等を作業船2に揚げるようになっている。そして、作業船2では、揚鉱管4を海上に略水平に浮かばせることで、メンテナンスしたり損傷や故障等した一部の鋼管3または部品等を交換したり修理することができるようになっている。
本実施形態における敷設システム1の揚鉱管4は、作業船2で揚鉱管4の上端を支持してこれを中心に、海底に垂下された状態と海上に浮かんだ略水平状態との間で回動できるように保持されている。
【0030】
また、図2に示すように、揚鉱管4は例えば揚鉱用の所定長さの鋼管3が複数連結されて構成されている。単体の鋼管3は例えばその両端部にフランジ部3aが形成されており、隣接する他の鋼管3との間でフランジ部3a同士を当接させてフランジ部3aの周囲をフランジボルト等の連結部材で連結させている。そして、各鋼管3は適宜の肉厚で形成され、その外周面に所定厚みの塗覆装6が被覆されている。
塗覆装6は本来鋼管3に防食性を与えるために被覆形成するものであり、例えばポリエチレン等からなり、鋼管3の外周面に粘着材を介して全周に亘って被覆されている。しかも、本実施形態では、揚鉱管4の浮力を増大させるために塗覆装6は海水より比重が小さく浮力を持たせており、そのために防食に必要以上の厚みtを形成している。
【0031】
次に図3において、複数の鋼管3を海の深さに応じて作業船2から海底まで届くように略垂直に接続した揚鉱管4について、作業船3側の上端部には揚鉱管4の上端開口4aを封止する上端盲フランジ部9が固定されており、この上端盲フランジ部9には気体として例えば空気を揚鉱管4内に注入する気体注入手段として、例えばコンプレッサー10と開閉可能なバルブ11が連結されている。揚鉱管4内を空気で置換した場合には、充填された空気を含めた揚鉱管4、塗覆装6を総合した全体即ちトータルの比重(密度)が海水の比重(密度)より軽くなり、揚鉱管4が回動して海上に浮かぶことになる。
【0032】
また、図4において、揚鉱管4の下端開口4bが開口されている場合には、海水が揚鉱管4の内部に浸入可能であり、揚鉱管4内を海水で置換した場合には、充填された海水を含めた揚鉱管4、塗覆装6を総合した全体即ちトータルの比重(密度)が海水の比重(密度)より大きいことなり、海の中に回動して降下し略垂直に支持されることになる。
また、揚鉱管4内部の海水を空気に置換して、揚鉱管4が垂直状態から海上に近い位置まで浮かんだ傾斜状態になった場合に、ダイバー等によって揚鉱管4の下端部には下端開口4bを封止する下端盲フランジ部12が固定され、この下端盲フランジ部12には揚鉱管4の内部に残存する海水を抜くための水抜き逆流防止バルブ13が取り付けられている。
【0033】
次に、揚鉱管4が海中に略垂直に支持される状態と海面に略水平に浮いた状態とに切り換え制御される条件について以下の例により説明する。
揚鉱管4の要素として、複数の鋼管3からなる揚鉱管4、各鋼管3の外周面に被覆された所定厚みtの塗覆装6を備えている。
そして、図2(b)に示すように、
鋼管3の内径:rcm、
鋼管3の外径:Rcm、
塗覆装6を含めた鋼管3の外径:Rocm、
塗覆装6の比重:α g/cm
とする。
また、定数として、
海水の比重=1.02≒1g/cm
鋼材の比重=7.85g/cm
とする。また、空気の比重はほぼ0とする。
【0034】
そして、本発明が成立する条件として、各鋼管3について以下の条件が同時に満足されることが必要である。
まず、条件1として、鋼管3内部が中空即ち空気が充填されている場合、内部も含めた鋼管3に塗覆装6を含む全体の比重が海水よりも軽いことを要する。また、条件2として、鋼管3内部が海水で満たされた場合、内部も含めた鋼管3に塗覆装6を含む全体の比重が海水よりも重いことを要する。
以下、条件1および条件2を満足する条件式を導出する。
本計算は以下の仮定に基づき単位長さ(1cm)について解くこととする。
鋼管3の継手は、フランジ部3aまたは溶接または機械継ぎ手を採用できるが、計算の便宜のために、継手部分の鋼材重量は鋼管3に分散されて加算されるとして鋼管3の重量分布は均一であると仮定している。また、塗覆装6は均一な比重であるとし、鋼管3の外面に均一に配設されていると仮定する。また、鋼管3の内面に塗覆装は設けないとする。
【0035】
条件1を満足するためには、以下の式を満足する必要がある。
鋼管3内空断面積をS1として、S1=πr(cm) …(1)
鋼管3外径断面積をS2として、S2=πR(cm) …(2)
塗覆装6を含む断面積をS3として、S3=πRo(cm) …(3)。
また、単位長さ(1cm)あたりの鋼管3と塗覆装6の重量は、
鋼管3の重量をWS(g)として、WS={S2(cm)−S1(cm)}×7.85 (g/cm)×1(cm) …(4)となり、
塗覆装6の重量をWC(g)として、WC={S3(cm)−S2(cm)}×α(g/cm)×1(cm) …(5)となる。
【0036】
見かけの揚鉱管4全体の比重(中空時)をWF(g/cm)とすると、
WF={WS(g)+WC(g)}/(S3(cm)×1(cm) ) …(6)となる。
そのため、条件1を満たすには、下記(7)式を満足する必要がある。
WF(g/cm)<1(g/cm) …(7)
【0037】
条件2を満足するためには、以下の式を満足する必要がある。
鋼管3の内部に注水される海水の重量をWW(g)とすると、次式(8)になる。
WW=S1(cm)×1 (g/cm)×1(cm) …(8)
また、鋼管3内に海水を満たした状態における見かけの鋼管3全体の比重WD(g/cm)とすると、次式(9)が得られる。
WD={WS(g)+WC(g)+WW(g)}/(S3(cm)×1(cm) ) …(9)
そのため、条件2を満たすには、下記(10)式を満足する必要がある。
WD(g/cm)>1(g/cm) …(10)
【0038】
以上の式から、条件1及び条件2を満たすための関係により、次式(11)が得られる。
π(R-r)×7.85+π(Ro-R)×α<πRo<π(R-r)×7.85+π(Ro-R)×α+πr …(11)
そのため、
条件1
(R-r)×7.85+Rα<(1−α)Ro
{(R-r)×7.85+Rα}/(1−α)< Ro
条件2
Ro<(R-r)×7.85+(Ro-R)×α+r
{(R-r)×7.85+Rα+r}/(1−α)> Ro
となる。従って、(11)式を満たす塗覆装6の外径として設計すればよいこととなる。
【0039】
一例として、塗覆装6として耐圧性のシンタチックフォームを用いるものとする。シンタチックフォームは硬質熱硬化性樹脂をマトリックスとして低比重の微少中空体を均一に分散させて軽量化したもので、高強度の複合材である。シンタチックフォームの比重α=0.55g/cm(温度20℃の場合)である。また、鋼管3の外径R=13cm、鋼管3の内径r=12cmとする。
そのため、(11)式及びR<Roから、
条件1…25.35cm<Ro
条件2…Ro<31.02cm
となる。
従って、塗覆装6を含めた外径Roは条件1及び条件2で導き出されるから、
25.35cm<Ro<31.02cm
に収めればよいことになる。
【0040】
なお、上述の実施例において、シンタクチックフォームは深海向けの浮力材で非常に高価となるものであるので、コストダウンのため深海部における揚鉱管4の設計は深海部においては硬質の鋼材で肉厚を薄くし鋼材重量を抑えるか、交換時期までを考慮に入れて摩耗量を考慮した厚肉の塩ビ管などを適用して揚鋼管4の重量を抑えて内径をできるだけ大きく取る設計とすることで必要とする浮力材のボリュームを減らすことができる。
逆に人、ROV等が近接してメンテナンス、交換等が可能な海面近辺の揚鉱管4部分においては高価な浮力材を適用する必要はなく、また鋼管も安い鋼材、または他の材料で頻繁に交換することで本発明で目指している揚鉱管4の機能を実現することができる。
以上のように、深度に応じて適切な揚鉱管4の材料及び仕様の選定と浮力材の組み合わせによる設計により揚鉱管4の機能を満足させつつ、システム全体のライフサイクルコストを低減することができる。
【0041】
本実施形態による揚鉱管4の敷設システム1は上述の構成を備えており、次に揚鉱管4のメンテナンス方法について説明する。
先ず、図1及び図2(a)に示すように複数の鋼管3を両端のフランジ部3a同士で直線状に連結した揚鉱管4を、作業船2から海底まで略垂直に垂下させた状態にあり、海底から鉱石や石油等を作業船2へ流送するものとする。そのため、この状態で揚鉱管4の上端開口4aと下端開口4bは開放状態にある。
そして、鋼管3や他の部品等の修理や交換等のために揚鉱管4を引き上げる場合、図3に示すように、揚鉱管4の上端開口4aに上端盲フランジ部9を固定して封止し、上端盲フランジ部9にコンプレッサー10を連結して気体として例えば空気を揚鉱管4内に充填する。すると、揚鉱管4内の海水が次第に空気に置換されて浮力が増大し、揚鉱管4の全体比重が海水の比重より小さくなると、作業船2で上端を把持された揚鉱管4は上端の把持部を中心に回転し、垂直方向から水平方向に向けて次第にその傾斜角度が小さくなっていく。
【0042】
このとき、揚鉱管4は、例えば図5に示すように、垂直状態からしなるように湾曲しながら水平に近くなっていく。そして、揚鉱管4の下端近傍が海面近くに浮上してきたら、海中に潜ったダイバーによって揚鉱管4の下端開口4bに水抜き逆流防止弁13付き下端盲フランジ部12を固定して封止する。或いは、ROV(遠隔操作無人探査機)等で揚鉱管4の下端部を保持して水抜き逆流防止弁13付き下端盲フランジ部12を固定してもよい。
これにより、その後、コンプレッサー10から揚鉱管4内に充填される空気が浮上しつつある下端開口4bから抜けることを防止できる。しかも、揚鉱管4内に充填される空気によって押圧される揚鉱管4内に残存する海水は水抜き逆流防止弁13から海中に排出される。このようにして、揚鉱管4内が海水から空気に置換されることによって、揚鉱管4の中間部分をしならせながら下端部が海面に浮上し、揚鉱管4はほぼ海上に水平状態に保持される。
【0043】
なお、揚鉱管4を海中に垂直に垂下させた状態から海上に水平に浮上させる工程で、作業船2を停止状態で揚鉱管4を浮上させてもよい。しかし、作業船2を揚鉱管4の下端部が浮上する方向と反対の方向に移動させると揚鉱管4がしなりを減少させて斜めに傾斜することになるので、一層スムーズに揚鉱管4を回動させながら浮上させることができる。
【0044】
そして、揚鉱管4の下端部が海面に浮かんだ状態で、例えば目視検査によって揚鉱管4全体の各鋼管3や他の部品等の損傷等の不具合の有無を検査する。また、損傷等のために鋼管3等の交換が必要な場合には、損傷した鋼管3の両端のフランジ部3aのフランジボルトを外して新たな鋼管3を接合させたり、損傷した鋼管3を間引きしてその両隣の鋼管3同士をフランジ部3aで連結する。
【0045】
鋼管3や他の部品等の交換や間引き等が終了した場合には、揚鉱管4の下端に固定した下端盲フランジ部12を取り外し、揚鉱管4内部に海水を導入する。揚鉱管4内部に海水が浸入することで、塗覆装6を含む揚鉱管4全体の比重が海水の比重より大きくなり、揚鉱管4は作業船2で支持された上端部を中心に回動しながら海中に降下していく。
その際、途中で揚鉱管4の上端盲フランジ部9を取り外せば、或いはバルブ11を開放すれば、空気が上端開口4aからも抜けるので、揚鉱管4の降下が促進される。こうして、揚鉱管4は図1に示すように海中に略垂直に垂下させられた状態になり、揚鉱管4内は海水で埋められる。
揚鉱管4を海中に沈める場合、作業船2を停止状態で揚鉱管4を降下させてもよいが、海上に浮かぶ揚鉱管4の方向に作業船2を移動、例えば後退させながら揚鉱管4の下端を降下させるようにしてもよい。このようにすることで揚鉱管4の降下が一層スムーズになる。
【0046】
上述のように本実施形態による揚鉱管4の敷設システム1及びメンテナンス方法によれば、耐食性部材として鋼管3の外面に被覆した塗覆装6を海水より比重の軽い材料を用いてその厚みを調整して鋼管3毎に浮力を付与することができる。
また、本実施形態による揚鉱管4は、複数の鋼管3を各鋼管3の両端フランジ部3aでフランジボルト等によって連結して構成したから、損傷や劣化した鋼管3を簡単に交換したり間引いたり補修したりできてメンテナンスが容易に行える。また、揚鉱管4内に空気を充填する際、高圧空気供給ホース等の他の部品が必要なく、しかも塗覆装6は常に浮体として機能し、海水または空気を充填する作業も必要ない。
【0047】
しかも、揚鉱管4を新規に敷設したり複数の鋼管3全体にメンテナンス診断したりする場合には、従来は垂直方向に順次鋼管3を連結しながら降下させたり、或いは揚鉱管4を引き上げながら取り外し対象の鋼管3の継ぎ手を外して交換する等の作業を行っていたが、本実施形態では揚鉱管4内に直接空気を充填することで塗覆装6と共に全体に浮力を設定できるから、揚鉱管4を回動させながら海中に降下させることができ、また海面に揚鉱管4を浮上させた状態で全線に亘る作業や検査が可能になり、作業効率が優れている。また、揚鉱管4全長でなくても鋼管3のしなりで揚鉱管4の一部分でも切り離して検査や鋼管3の交換作業を行うことができるので、作業効率が向上する。
しかも、従来、海中に略垂直に保持した揚鉱管では、水深が深くなるほど揚鉱管とブイとの接続部に鋼管継ぎ手を設けて耐引っ張り応力や耐久力の引き上げが必要であったが、本実施形態によれば各鋼管3毎に塗覆装6を設けて浮力を付与したから、水深が深くなっても耐引っ張り応力の増大を考慮することなく揚鉱管4及びその敷設システム1を製造でき、構造がシンプルであり製造コストを低減できて経済的である。
【0048】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を変更しない限り各種の変更が可能である。
図6は本発明の変形例を示すものであり、揚鉱管4の下端に例えば揚重機15を接続してもよい。更にスラリーポンプ(図示せず)を設置してもよい。このような構成にすれば、揚鉱管4を海底に沈めた後で揚重機15やスラリーポンプを接続する必要がなく作業が簡単になる。しかも、揚重機15やスラリーポンプは揚鉱管4を沈める際の重りとなる。
また、揚重機15の上部にバラストタンク16を取り付け、揚鉱管4の下端開口4bにゴム等からなる可撓管17を取り付けてもよい。そして、コンプレッサー10から揚鉱管4及び可撓管17を介して空気を供給すれば、バラストタンク16に空気が溜まり浮体として機能するので、揚重機15を揚鉱管4と共に浮上させることができる。
【0049】
なお、上述した実施形態による敷設システム1では、揚鉱管4の各鋼管3毎に塗覆装6を取り付けるようにして鋼管3毎に浮体を設けたが、塗覆装6には耐食性の機能のみを持たせて薄肉に形成し、別個に各鋼管3毎にブイ等の浮力調整部材7を取り付けてもよい。
また、浮体として各鋼管3に塗覆装6と浮力調整部材7の両方を設置してもよい。
また、コンプレッサー10等の気体注入手段で注入する気体は空気に限定されることなく、不活性ガス等、比重が海水より小さい各種のガスを採用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 敷設システム
2 作業船
3 鋼管
3a フランジ部
4 揚鉱管
4a 上端開口
4b 下端開口
6 塗覆装
9 上端盲フランジ部
10 コンプレッサー
12 下端盲フランジ部
13 水抜き逆流防止弁
15 揚重機
16 バラストタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底で掘削した流送物を海上に搬送する揚鉱管を海中に沈めたり海上に浮かべたりする昇降方法において、
前記揚鉱管は複数の管体を連結して構成され、各管体にはそれぞれ浮体が設置されており、
前記揚鉱管を海中に沈める場合には、前記揚鉱管中に海水を注入して気体と置換することで前記揚鉱管内の海水及び前記揚鉱管及び浮体のトータルの比重を海水の比重より重くし、
前記揚鉱管を海中から海上に浮かべる場合には、前記揚鉱管の上端開口を上端盲フランジ部で封止して気体を注入することで海水と置換し、前記揚鉱管内の気体及び前記揚鉱管及び浮体のトータルの比重を海水の比重より軽く設定するようにしたことを特徴とする揚鉱管の昇降方法。
【請求項2】
前記浮体は、前記揚鉱管の各鋼管に被覆された塗覆装である請求項1に記載された揚鉱管の昇降方法。
【請求項3】
前記揚鉱管を海中から海上に浮かべる場合には、前記揚鉱管の上端開口は上端盲フランジ部によって封止されると共に、前記上端盲フランジ部に設けた気体注入手段によって前記揚鉱管中に空気を注入して海水と置換するようにした請求項1または2に記載された揚鉱管の昇降方法。
【請求項4】
前記揚鉱管を海中に保持された状態から内部に気体を注入して海水と置換して海上に浮かべる途中工程で、前記揚鉱管の下端開口を水抜き逆流防止弁を設けた下端盲フランジ部で封止することによって、前記揚鉱管から水抜き逆流防止弁を介して海水を排出させるようにした請求項1乃至3のいずれか1項に記載された揚鉱管の昇降方法。
【請求項5】
前記揚鉱管を海中に沈ませる際、前記下端盲フランジ部を揚鉱管から取り外して海水を浸入させるようにした請求項4に記載された揚鉱管の昇降方法。
【請求項6】
前記揚鉱管の下端に海底で作業する作業機械を連結させて、前記揚鉱管と共に作業機械を降下させ、また浮上させるようにした請求項1乃至6のいずれか1項に記載された揚鉱管の昇降方法。
【請求項7】
複数の鋼管を連結して形成されていて内部を通して流送物を引き上げる揚鉱管であって、
前記各鋼管にはそれぞれ浮体が設置されており、
連結された前記複数の鋼管の上端開口は着脱可能な上端盲フランジ部によって封止されると共に、前記上端盲フランジ部から前記揚鉱管中に空気を注入する気体注入手段が設けられており、
前記複数の鋼管内で海水と空気を互いに置換することで上昇と降下を制御するようにしたことを特徴とする揚鉱管。
【請求項8】
請求項7に記載された揚鉱管であって、
前記浮体は鋼管の外面に形成されている塗覆装であり、該塗覆装を海水の比重より軽くすることで前記鋼管に浮力が設定されている揚鉱管。
【請求項9】
請求項8または9に記載された揚鉱管であって、
沈下された前記複数の鋼管を浮上させる途中工程で、前記複数の鋼管の下端開口は離脱可能に封止する下端盲フランジ部と、該下端フランジ部に設けた水抜き逆流防止弁を介して海水を外部に排出させるようにした揚鉱管。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate