説明

換気ブース

【課題】陰圧又は陽圧を作用させるファンフィルタユニットの大型化を招くことなく、陽圧及び陰圧の切り替え使用可能な換気ブースを提供する。
【解決手段】ベッド面の頭側領域を覆い該ベッド面の残部を露出させる包囲体と、該包囲体内を陰圧又は陽圧に保持すべく包囲体内から空気を吸引し又は包囲体内に空気を供給するファンフィルタユニットとを含む換気ブース。前記ユニットは、互いに対向する面の一方に空気を吸い込むための吸入開口が設けられ互いに対向する面の他方に空気を吹き出すための吹出開口が設けられたハウジングと、該ハウジング内で前記両開口を連通する空気通路に該空気通路を横切って配置され、吸込開口から吹出開口へ向けての空気流を生成するための送風源及び吸込開口からの空気を浄化するためのフィルタとを備える。ハウジングの吹出開口及び吸入開口は、包囲体に設けられた取付け開口に接続手段を介して選択的に取り外し可能に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染した又は感染が疑われる患者から放出される浮遊結核菌や浮遊ウイルスのような浮遊微生物による院内感染の防止を目的として感染症患者を収容し、あるいは花粉症のようなアレルギー症状の患者を浄化環境下に置くことを目的として患者を収容すべく、医療機関、介護福祉施設及び歯科診療施設等に設置される換気ブースに関する。
【背景技術】
【0002】
保菌患者を収容する病室用空調システムが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。前記病室用空調システムは、ベッド全体を収容する室内を構成すべく該ベッドの全体を取り巻く例えばビニールからなる包囲体と、該包囲体内に陰圧を作用するためのファン装置のような陰圧源とを備える。前記包囲体内のベッドに横たわった患者から放出される浮遊菌や浮遊ウイルスのような浮遊微生物は、前記ファン装置に組み込まれたHEPAフィルタに捕獲されるので、これら浮遊微生物による院内感染を防止することができる。
【0003】
また、ベッドの全体を覆うことなく、その一部を包囲体で被い、該包囲体内に陽圧源となる送風手段からの浄化空気を供給することにより、該包囲体内を陽圧に保持してクリーンブースを構成することが提案されている(例えば特許文献1)。これによれば、ベッドの全体を覆う包囲体を用いる場合に比較して、送風手段の容量の小型化が可能となり、包囲体で被われた陽圧ブース内に花粉症のようなアレルギー症状の患者を収容することにより、患者を浄化環境下におくことができる。
【0004】
しかしながら、前記した従来技術によれば、そのいずれも、陽圧ブース及び陰圧ブースの切り替え使用を可能とするためには、陰圧源及び陽圧源がそれぞれ個別に必要となり、構成要素の増加から、構成が複雑となり、高価になるという欠点がある。あるいは陽圧ブース及び陰圧ブースの切り替え使用を可能とするために、陰圧源又は陽圧源のフィルタの取り換えを含む改変作業が必要になるので、切り替え作業に手間取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−166756号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ベッドアイソレータ LI−35」、カタログ、パンデミック対策資料ダウンロード[online] 2008年8月29日、株式会社アイソテック、[平成21年3月19日検索]、インターネット〈http://www.iiso.co.jp/download_top.htm〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡易的にベッド上の患者を覆うことができ、陰圧又は陽圧を作用させる送風装置の大型化を招くことなく、しかも陽圧及び陰圧の切り替え使用可能な換気ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る換気ブースは、ベッドのベッド面の頭側領域の上方を覆い前記ベッド面の残部を露出させる包囲体と、該包囲体を支持するフレーム組立体と、前記包囲体内を陰圧又は陽圧に保持すべく前記包囲体内から空気を吸引し又は前記包囲体内に空気を供給するための送風装置とを含む換気ブースであって、前記包囲体は天井部及び周壁部を有し、該周壁部には前記送風装置のための取付け開口が設けられ、前記送風装置は、互いに対向する面の一方に空気を吸い込むための吸入開口が設けられ前記互いに対向する面の他方に空気を吹き出すための吹出開口が設けられたハウジングと、該ハウジング内で前記両開口を連通する空気通路に該空気通路を横切って配置され、前記吸込開口から前記吹出開口へ向けての空気流を生成するための送風源及び前記吸込開口からの空気を浄化するためのフィルタとを備えるユニット装置であり、前記ハウジングの前記吹出開口及び前記吸入開口は接続手段を介して選択的に前記周壁部の前記取付け開口に取り外し可能に接続され、前記送風源は一方向へのみ駆動回転される。
【0009】
本発明によれば、前記包囲体はベッド全体を覆うことなくベッド面の頭部側領域の上方を被い、残部を露出させる。しかも、前記周壁部の取付け開口に例えば前記送風装置の吸引開口を接続することにより、前記包囲体内を陰圧に保持することができ、陰圧ブースとして使用できる。また、前記周壁部の取付け開口に前記送風装置の吹出開口を接続することにより、前記包囲体内を陽圧に保持することができ、陽圧ブースとして使用できる。
【0010】
したがって、前記した送風装置の両開口の一方を前記包囲体の周壁部に設けられた取付け開口に選択的に接続するように、前記包囲体への前記送風装置の取付面を選択することにより、前記送風装置にフィルタの取り換えのような改変を施すことなく、陽圧ブース及び陰圧ブースを切り替えて使用することができる。
【0011】
また、前記したように、前記包囲体はベッド面の頭部側領域の上方を被い、残部を露出させることから、包囲体内に陰圧又は陽圧を作用させるための前記送風装置の容量の小型化が可能になり、この小型化によって、前記送風装置はユニット化が可能となる。
【0012】
前記包囲体の前記天井部は前記頭側領域の上方に位置して前記ベッド面の頭側縁部に対応する一辺及び該一辺の両端から前記ベッド面の両側縁に沿って延びる一対の辺を含む全体に矩形の形状とすることができる。この場合、前記周壁部は前記天井部の各辺から前記ベッド面に向けてそれぞれ垂下する4つの周壁部を有し、前記ベッド面の足元側に位置する前記周壁部を除く他の3つの前記周壁部の下縁は前記ベッド面又は該ベッド面上の寝具に接し、前記足元側に位置する前記周壁部の下縁は、前記他の3つの周壁部の下縁よりも上方に位置し、かつ前記ベッド上に臥した人の両側で空気の流通を許す間隙を保持すべく前記ベッド面又は該ベッド面上の寝具から間隔をおく。これにより、前記足元側の周壁部の下縁の両側部分を包囲体内すなわちブース内の空気の通気口として作用させることができる。
【0013】
前記取付け開口は、前記足元側の周壁部を除く他の3つの周壁部のいずれか一つに設けることができる。また、前記ユニット装置は、前記取付け開口を経て前記包囲体内から空気を吸引し又は前記包囲体内に空気を供給すべく、前記フレーム組立体に取り外し可能に支持することができる。
【0014】
前記接続手段として、前記ハウジングの前記両開口のそれぞれを取り巻いて配置され、相互に解除可能に係合する第1及び第2の係合部のいずれか一方が設けられた第1の接合面と、前記周壁部に前記取付け開口を取り巻いて配置され、前記第1部及び第2の係合部の他方が設けられた第2の接合面とを有する接続手段を採用することができる。この接続手段は、前記包囲体に前記吹出開口及び前記吸入開口の一方を選択的に接続し、また、前記周壁部の前記取付け開口と前記ユニット装置の前記吹出開口又は前記吸入開口との間のシール機能を担う。
【0015】
前記した接続手段の一例として、前記第1及び第2の係合部が相互に解除可能に係合する多数のフック部及びループ部の一方及びその他方からそれぞれ成る面ファスナを挙げることができる。
【0016】
前記ユニット装置は、前記ハウジングに設けられた支持部材を介して前記フレーム組立体に取り外し可能に支持することができる。
【0017】
前記支持部材として、前記ハウジングの前記互いに対向する面のそれぞれに設けられ、前記ユニット装置を前記フレーム組立体に取り外し可能に懸架するフック部材を用いることができる。
【0018】
前記ユニット装置は200L/分以上の送風能力を有するものを用いることが望ましい。
【0019】
前記包囲体内が陰圧に保持されて使用されるとき、横臥する患者の身体の長手方向に沿った寸法は、40cm以上に設定することが望ましい。
【0020】
前記包囲体の前記第4の周壁部の下縁よりも上方の位置にあって隣接する周壁部の稜線に直交する方向に延在しかつ相互に解除可能に係合する多数のフック部及びループ部の一方及びその他方からそれぞれ成る面ファスナの帯を第1ないし第4の周壁部の内側に取り付けることができる。この場合、前記面ファスナの前記フック部及びループ部の一方を前記第1ないし第4の周壁部の前記稜線を形成すべく隣接する両周壁部の一方に設け、前記フック部及びループ部の他方を前記稜線を形成すべく隣接する両周壁部の他方に設けることができる。この面ファスナの帯により、包囲体の下方部をベッド面の減少に応じて絞り込むことができるので、ベッドの小さな担架式ベッドに本発明の換気ブースを適用することができる。
【0021】
前記包囲体に、第1ないし第4の周壁部が隣接して形成する四つの稜線のうちの少なくとも一つを通る又は周壁部そのものを鉛直方向に通る切断線を頭合わせファスナで構成することができる。この頭合わせファスナを構成する一対のスライダを相離れる方向へ操作することにより、一対のスライダ間にスライダ開口を形成することができる。このスライダ開口は、例えば前記換気ブースを透析治療用ベッドに適用する場合、透析装置からベッド上の患者に延びる透析治療用血液チューブの挿通孔として利用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記したように、包囲体自体の小型化が可能になる上、該包囲体内に陰圧又は陽圧を作用させるための送風装置の送風能力の著しい低減が可能となるので、送風装置をユニット化することができ、このユニット化された前記送風装置の両開口の一方を前記包囲体の周壁部に設けられた取付け開口に選択的に接続するように、前記包囲体への前記送風装置の取付面を選択することにより、前記送風装置にフィルタの取り換えのような改変を施すことなく、陽圧ブース及び陰圧ブースを切り替えて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る換気ブースの斜視図であり、
【図2】図1に示したファンフィルタユニットを包囲体から取り外した状態を示す概略的な斜視図であり、
【図3】図1に示したファンフィルタユニットの使用形態を示す概略的な断面図であり、(a)は陰圧源として使用し、(b)は陽圧源として使用した例を示し、
【図4】本発明に係る換気ブース内での微粒子の濃度の経時変化を示すグラフであり、
【図5】本発明に係る換気ブースの他の例を示す正面図であり、
【図6】図1に示した包囲体に錘を適用した例を示し、(a)は横断面を示し、(b)は正面図を示し、
【図7】本発明に係る換気ブースのさらに他の例を標準ベッドに適用した例を概略的に示す斜視図であり、
【図8】図7に示した換気ブースを標準ベッドよりも小さなベッド幅の担架式ベッドに適用した例を概略的に示す斜視図であり、
【図9】本発明に係る換気ブースのさらに他の例を標準ベッドに適用した例を概略的に示す斜視図であり
【図10】本発明に係る換気ブースのさらに他の例を示す図9と同様な図面であり、
【図11】は図10に示した換気ブースの包囲体内を該包囲体に設けられた線ファスナで開放した例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る換気ブース10は、図1に示されているように、患者12が横たわるベッド14に関連して設けられる。換気ブース10は、フレーム組立体16と、該フレーム組立体に支持される包囲体18と、該包囲体内すなわちブース内を陰圧又は陽圧に保持するための送風装置たるファンフィルタユニット20とを含む。
【0025】
フレーム組立体16は、ベッド下に配置可能な全体に矩形のベース部16aと、該ベース部の一部から上方に立ち上がる柱部16bと、該柱部の頂部からベース部16aと間隔をおいて該ベース部と平行に延び、またベッド14のベッド面14a(又は該ベッド面上の図示しないマット面)上を被うように該ベッド面の上方を横切って延びる全体に矩形の天井部16cとを備える。
【0026】
図示の例では、柱部16bは、それぞれが一対の短辺フレーム部材22a、22a及び一対の長辺フレーム部材22b、22bから成る矩形の下枠24a及び上枠24bと、下枠24aの4隅から立ち上がり、両枠24a、24bの4隅を連結する4本の柱22cとで構成される直方体フレームで構成されている。柱部16bを前記した直方体フレームで構成することにより、ファンフィルタユニット20が後述するようにフレーム組立体16に取り付けられたとき、該フレーム組立体のバランスの崩れが防止され、これによりファンフィルタユニット20が確実に保持される。
【0027】
また、柱部16bには、上枠24bの一対の長辺フレーム部材22b、22bのうち、天井部16cの伸長方向の側に位置する一方の長辺フレーム部材22bの近傍下方で該長辺フレーム部材22bに平行に、補助の横フレーム部材22dが設けられている。当該長辺フレーム部材22b及び補助の横フレーム部材22d間には、一対の補助の縦フレーム部材22e、22eが設けられている。横フレーム部材22dは、両端が対応する柱22cに連結されており、補助の縦フレーム部材22e、22eは、両端が対応する長辺フレーム部材22b及び補助の横フレーム部材22dに連結されている。これら上枠24bの長辺フレーム部材22b、補助の横フレーム部材22d及び一対の補助の縦フレーム部材22e、22eは、包囲体18の後述する開口部(26)に対応する取付け開口26を区画する。
【0028】
ベース部16aは、一対のベースフレーム部材22f、22fと、両ベースフレーム部材22f、22fを連結する連結フレーム部材22gとを含む。これらフレーム部材22f、22f、22gは、柱部16bの長辺フレーム部材22bと共に、天井部16cとほぼ同一面積の矩形形状を呈するように、継ぎ手を介して組まれており、また、長辺フレーム部材22bは、継ぎ手を介して一対のベースフレーム部材22f、22fに連結されることにより、ベース部16aを補強する作用をなす。
【0029】
一対のベースフレーム部材22f、22fは、下枠24aの対応する短辺フレーム部材22aから下枠24aの内方へそれぞれ間隔を置いて配置されている。これにより、ベッド14の脚14bのうち、ベッド面14a(又は前記マット面、以下ではベッド面で代表する。)の頭部側(患者12の頭12aが位置する側)に位置する一対の脚14bの一方(14b)を該脚に近接する一方のベースフレーム部材22fに干渉させることなく、ベース部16aをベッド14の下方に挿入することができる。
【0030】
このベース部16aのベッド14下への挿入により、前記したように、フレーム組立体16の天井部16cをベッド14のベッド面14a上を被うように配置することができる。
【0031】
フレーム組立体16の天井部16cは、上枠24bの他方の長辺フレーム部材22bにそれぞれの端部が接続され、柱部16bの対応する短辺フレーム部材22aに平行に、前記一方の長辺フレーム部材22bを越えて伸長する一対のトップフレーム部材22h、22hと、両トップベースフレーム部材22h、22hの伸長端に両端が連結された連結フレーム部材22iとを備える。図示の例では、さらに柱部16bの前記他方の長辺フレーム部材22b及び連結フレーム部材22i間、すなわち柱部16b及びトップベースフレーム部材22h、22hの最遠部間には、一対のトップフレーム部材22h、22h間で補強フレーム部材22jが渡されている。これらフレーム部材22h〜22jで構成される天井部16cは、ベッド面14aの頭部側の一半の上方をベッド面14aの一側から該ベッド面を横切って他側に向けて伸長する。
【0032】
図示の例では、フレーム組立体16の移動を容易にするために、該フレーム組立体の下枠24a及びベース部16aには、病室の床28を転動可能のキャスタ30が設けられている。このキャスタ30によって、換気ブース10をベッド14に関して所望の方向から後述するような所定の姿勢及び位置に容易に設定することができる。
【0033】
包囲体18は、例えばビニールのような透明な可撓性を有する遮蔽膜からなり、全体に矩形の天井部18aと、該矩形の天井部の各辺に沿って下方に垂れ下がる第1ないし第4の周壁部18b、18c、18d及び18eとを備える。
【0034】
包囲体18の天井部18aは、直線の4つの辺32a、32b、32c及び32dで形成された矩形形状を有する。一辺32aは、フレーム組立体16の一対のトップフレーム部材22h、22hのうち、ベッド面14aの頭側の縁部に沿って位置する一方のトップフレーム部材22hに沿う。辺32b及び32cは、辺32aの両端からそれぞれ連結フレーム部材22i及び前記一方の長辺フレーム部材22bに沿って、すなわちベッド面14aの両側縁に沿って延びる。辺32dは、前記一対の辺32b、32cの伸長端の間で辺32aに並行する。
【0035】
天井部18aの一辺32aからは頭側の第1の周壁部18bがベッド面14aに向けて垂れ下がり、頭側周壁部18bは、その下縁がベッド面14aを越えて該ベッド面よりも下方に達するに十分な高さ寸法を有する。天井部18aの辺32b、32cからは、それぞれ側方の周壁部18c、18dがベッド面14aに向けて垂れ下がる。これら両側方周壁部18c、18dは、それぞれの下縁がベッド面14aを越えて該ベッド面よりも下方に達するに十分な高さ寸法を有する。両側方周壁部18c、18dのうち、天井部18aの一辺32c側に位置する一方の側方周壁部18dには、取付け開口26に一致した開口部(26)が形成されており、この開口部(26)に関連して前記ファンフィルタユニット20が取り付けられている。
【0036】
他方、天井部18aの一辺32dからベッド面14aに向けて垂れ下がる足元側の周壁部18eは、その下縁34がベッド面14aの近傍に位置するが、基本的にベッド面14aから間隔をおく。
【0037】
天井部18a及び各周壁部18b〜18dから成る包囲体18は、天井部18aを頂部とする下端開放のような状態となるように、該天井部で、図示しない複数のフックを介してフレーム組立体16の天井部16cにその下方に吊り下げられている。
【0038】
すなわち、天井部18aは、その両辺32a、32dの両辺に沿った複数箇所で、前記フックを介しては、フレーム組立体16の一対のトップフレーム部材22h、22hのそれぞれに移動可能に吊り下げられている。これにより、包囲体18は、ベッド14の幅方向に沿った寸法を調整可能となる。なお、フレーム組立体16の柱部16bの側に位置する前記一方の側方周壁部18dが柱部16bから離れることを防止するために、天井部18aの辺32dと辺32c及び辺32aと辺32cでそれぞれ構成される隅部に前記フックを設け、該フックを前記一方の長辺フレーム部材22bに係止することが望ましい。
【0039】
天井部18aからベッド面14aに向けて伸びる頭側及び両側の各周壁部18b〜18dは、前記したように、ベッド面14aよりも下方に垂れ下がるに十分な高さ寸法を有することから、各周壁部18b〜18dは、該周壁部とベッド面14aの対応する縁部との間を閉鎖すべく、該縁部に当接可能である。
【0040】
他方、天井部18aの一辺32dからベッド面14aに向けて垂れ下がる足元側周壁部18eは、その下縁34がベッド面14aの近傍に位置するが、基本的にベッド面14aから間隔をおく。足元側周壁部18eの下縁34は、ベッド上の盛り上がり部分であるベッド上の患者12又は該患者に施した上掛け寝具(図示せず)の患者12で盛り上がった部分で、これらの盛り上がり部分に当接しても良いが、下縁34は、これらの盛り上がり部分を除く領域で、ベッド面14aあるいは前記上掛け寝具から間隔をおく。そのため、足元側周壁部18eの下縁34は、患者12のほぼ体の厚み分だけ、他の第1ないし第3の周壁部18b〜18dの前記下縁よりも上方に位置する。
【0041】
換言すれば、足元側周壁部18eの下縁34は、ベッド面14aに患者12が横たわったとき、該患者の両側で、ベッド面14aあるいは前記上掛けとの間に、間隔tの隙間が形成される天井部18aからの長さを有する。しかしながら、周壁部18eは、その下縁34の中央部分すなわち患者12の両側部分間の中央領域で、患者12あるいは患者を被う上掛けに接する長さを有する。したがって、患者12の両側で、足元側周壁部18eの下縁34下に間隙tが保持される。
【0042】
足元側周壁部18eは、例えば、図示しない巻取装置を介して天井部18aから懸架することができ、前記巻取装置により、足元側周壁部18eの下縁34の高さ位置すなわち前記間隙tを調整可能とすることができる。また、前記巻取装置を設ける例に代えて、足元側周壁部18eの下縁34を巻き上げることにより、前記間隙tを調整することができる。
【0043】
天井部18a及び足元側、頭側及び両側方の各周壁部18b〜18eから成る包囲体18は、ベッド14に患者12が横たわったとき、該患者のほぼ上半身を被うブースをベッド面14a上に区画する。このベッド14上のブースへの出入りは、例えば一方の側方周壁部18cを下縁よりまくり上げて該周壁部分の位置から、あるいは足元側周壁部18eを下縁34よりまくり上げて該周壁部分の位置から、行うことができる。
【0044】
ベッド14の幅方向に沿ったブース幅Wは、ベッド14上に配置された前記マットの幅よりも狭くかつ患者12が閉塞感を覚えない寸法、例えばマット幅が82cmであれば、約75cmとすることが望ましい。また、ベッド14の長手方向に沿ったブース深さDは、ベッド14上の患者12の口元位置から足元側周壁部18eまで間隔が40cm以上となるに十分な値、例えば約90cmとすることが望ましい。この包囲体18によるブース容積は、例えば1.0mとすることができる。足元側周壁部18eの前記下縁34下の前記間隙tは、後述するように前記ブースの通気口として作用する。
【0045】
送風装置20は、前記ブース内を陰圧又は陽圧に保持すべく、換気ブース10の周壁、すなわち図1及び図2に示す例では、前記一方の側方周壁部18dに設けられている。
【0046】
送風装置20では、図2に示すように、送風源となるファン42の下流側に下流へ向けて順次プレフィルタ、中又は高性能フィルタが配置されている。すなわち、送風装置20は、前記一方の側方周壁部18dの開口部(26)に整合可能な開口36a、36bが互いに対向する両面に形成され、内部に両開口36a、36bを連通する空気通路が形成された全体に矩形のハウジング38と、図3(a)及び(b)に示されているように、ハウジング38内の一方の開口36aを横切って、すなわち前記空気通路を横切って配置された例えば粗塵フィルタからなるプレフィルタ40aと、該プレフィルタに間隔をおいて他方の開口36bを横切って、すなわち前記空気通路を横切って配置された準HEPAフィルタ40bと、両フィルタ40a、40b間で前記空気通路を横切って配置され、一方向に駆動回転される送風源たるファン42とを備えるユニット装置である。
【0047】
ファン42は、その一方向への駆動回転によって、プレフィルタ40aが配置された一方の開口36aから空気を吸引し、準HEPAフィルタ40bが配置された他方の開口36bから吸引空気を吐出する。したがって、空気を吸い込む吸入開口として作用する一方の開口36aからハウジング38内に吸引された空気は、プレフィルタ40aを経た後、準HEPAフィルタ40bを経て浄化され、空気を吹き出す吹出開口として作用する他方の開口36bを経てハウジング38外に吐出される。プレフィルタ40aを不要とすることができる。しかし、準HEPAフィルタ40bの目詰まりを防止し、該HEPAフィルタの長寿命化を図る上で、プレフィルタ40aを用いることが望ましい。また、準HEPAフィルタ40bに代えて、HEPAフィルタを適用することができる。
【0048】
ハウジング38の前記両面には、送風装置すなわちファンフィルタユニット20をフレーム組立体16に支持する手段として、フック44a、44bがそれぞれ設けられている。図2に示すように、吸入開口36aが開放する一方の面には、一対のフック44a、44aが設けられ、吹出開口36bが開放する他方の面には一対のフック44b、44bが設けられている。各一対のフック44a又は44bは、選択的に上枠24bの前記一方の長辺フレーム部材22bに係止可能である。
【0049】
例えば一方のフック44a、44aを長辺フレーム部材22bに係止することにより、吸入開口36aを取付け開口26に整合する前記一方の側方周壁部18dの開口部(26)に整合させることができ、また他方のフック44b、44bを長辺フレーム部材22bに係止することにより、吹出開口36bを、前記一方の側方周壁部18dの開口部(26)に整合させることができる。
【0050】
前記一方の側方周壁部18dの開口部(26)と、ファンフィルタユニット20の吸入開口36a及び吹出開口36bとを気密的に選択的に接続すべく、前記一方の側方周壁部18dの開口部(26)の縁部と、吸入開口36a及び吹出開口36bの縁部との間には、着脱可能な密閉手段として面ファスナ46が設けられている。
【0051】
すなわち、前記一方の側方周壁部18dの外面の開口部(26)を取り巻く縁部、ここでは4辺には、図示しないが、従来よく知られているように、相互に解除可能に係合する多数のフック部及びループ部の一方から成る第1の係合部が設けられた第1の接合面46aが形成されている。他方、ユニット装置であるファンフィルタユニット20のハウジング38の両面の各開口36a、36bを取り巻く縁部、例えばフランジには、多数のフック部及びループ部の他方から成る第2の係合部が設けられた第2の接合面46bがそれぞれ形成されている。
【0052】
面ファスナ46は、従来よく知られているように、第1の接合面46a及び第2の接合面46bを解除可能に係合させることができる。したがって、ファンフィルタユニット20の吸入開口36aを一方の側方周壁部18dの開口部(26)と接続する場合、該開口部の縁部に設けられた第1の接合面46aと、ファンフィルタユニット20の吸入開口36aの縁部に設けられた一方の第2の接合面46bとを係合させることにより、両開口36a、(26)を気密的に接合することができる。この場合、ファン42の作動により、図3(a)に示すように、前記ブース内の空気は、ファンフィルタユニット20の吸入開口36aから吸引され、各フィルタ40a、40bの濾過作用により浄化されて、吹出開口36bから前記室内に排出され、前記ブース内には陰圧が作用する。このとき、足元側周壁部18eの下縁34下の前記間隙tは、前記ブース内に室内空気を取り入れる通気口として作用する。
【0053】
また、ファンフィルタユニット20の吹出開口36bを一方の側方周壁部18dの開口部(26)と接続する場合、まず、一方の側方周壁部18dの外面に接続されたファンフィルタユニット20の吸入開口36aの縁部に設けられた一方の第2の接合面46bを前記開口部(26)の縁部に設けられた第1の接合面46aから引き外す。その後、前記一方の側方周壁部18dの外面に対向するファンフィルタユニット20の対向面を反転させて、ハウジング38の吹出開口36bが設けられた面を一方の側方周壁部18dの外面に対向させる。この姿勢の反転後、該取付け開口の縁部に設けられた第1の接合面46aと、ファンフィルタユニット20の吹出開口36bの縁部に設けられた一方の第2の接合面46bとを係合させることにより、両開口36b、(26)を気密的に接合することができる。この場合、ファン42の作動により、図3(b)に示すように、前記室内の空気は、ファンフィルタユニット20の吸入開口36aから吸引され、各フィルタ40a、40bの濾過作用により浄化されて、吹出開口36bから前記ブース内に排出され、前記ブース内には陽圧が作用する。このとき、足元側周壁部18eの下縁34下の前記間隙tは、前記ブース内の空気を前記室内に排出する通気口として作用する。
【0054】
前記ブース内を陰圧ブース又は陽圧ブースのいずれに使用する場合であっても、ベッド14上の患者12が炭酸ガス濃度の増加によって不快感を覚えないためには、ファンフィルタユニット20の送風能力として、200L/分以上の送風能力が要求される。
【0055】
また、前記ブース内に所望の陰圧又は陽圧を確保する上で足元側周壁部18eの下縁34下の間隙tすなわち通気口(t)を通る風の速度が22cm/秒以上を確保できることが望ましい。すなわち、一般の病室では、室内空調機の作動によって室内に存在する気流の速度は0cm/秒〜20cm/秒であり、その方向も様々であると考えられる。したがって、換気ブース10が設置される室内の風の向きの如何に拘わらず、前記ブース内に所望の陰圧又は陽圧を確実に保持する上で、前記通気口(t)の風速が22cm/秒を維持できるように、足元側周壁部18eの下縁34下の間隔tを調整し、あるいはファンフィルタユニット20の作動を制御することが望ましい。
【0056】
本発明に係る換気ブース10は、例えば感染した又は感染が疑われる患者12を収容するための陰圧ブースとして使用することができる。この場合、ベッド14上の患者12から放出された浮遊菌や浮遊ウイルスのような浮遊微生物は、図3(a)に沿って説明したとおり、ファンフィルタユニット20の準HEPAフィルタ40bにより確実に捕獲されるので、換気ブース10を収容する病室にそのような浮遊微生物が排出されることはなく、浮遊菌による院内感染を確実に防止することができる。
【0057】
また、患者12から前記ブース内に放出された浮遊微生物が前記通気口tから漏れ出ることを確実に防止する上で、前記したように、ベッド14の長手方向に沿った、すなわち空気の流れに沿ったブース深さDは、40cm以上の長さが必要であり、90cm以上とすることが望ましい。
【0058】
なぜなら、ベッド14上の患者12の咳と共に前記ブース内に浮遊微生物が放出されたとしても、ブース深さDを40cm以上とすることにより、浮遊微生物が直接前記通気口(t)に到達するには、ベッド14の長手方向へほぼ40cm以上を進行する必要がある。ところで、咳によって放出される菌は、本願発明者等の実験によれば、40cmを進むと、その飛散速度がほぼ0に失速する。そのため、ベッド14の長手方向に沿って40cm以上を進んで前記通気口(t)に到達した浮遊微生物は、前記通気口(t)の22cm/秒以上の風速に逆らって該通気口から前記病室内に漏れ出ることを確実に防止されるからである。
【0059】
この場合、ベッド14上の患者12の口元位置から足元側周壁部18eまで間隔が40cm以上となることを保証するためには、前記したとおり、ブース深さDを約90cmとすることが望ましい。このブース深さDを確保することにより、前記浮遊微生物が前記通気口(t)から前記病室内に漏れ出ることをより確実に防止し、ファンフィルタユニット20の準HEPAフィルタ40bによって、より確実に捕獲することができる。準HEPAフィルタ40bに代えて、HEPAフィルタを用いることができる。
【0060】
図4は、前記した陰圧換気ブース内でネブライザーを用いて、1秒間1wt%の奨尿液(総量は3マイクロリットル)を前記ブース内に噴霧し、パーティクルカウンタを用いて噴霧後の前記ブース内に残留する0.3μm以上の大きさの粒子数(個数/空気1リットル)をカウントした実験結果のグラフである。該グラフは、ファンフィルタユニット20の送風能力(リットル/分)をパラメータとして、前記ブース内の空気1リットル中の粒子数(個/リットル)及び噴霧終了後の経過時間(分)をそれぞれ縦軸及び横軸で示す。
【0061】
特性線48a、48b、48c、48d、48eは、それぞれファンフィルタユニット20の送風能力を0リットル/分,42リットル/分、137リットル/分、200リットル/分及び420リットル/分に設定したときの特性を示す。図4のグラフから明らかなように、ファンフィルタユニット20の送風能力を200リットル/分とすることにより、前記換気ブース内に残留する粒子数を迅速に噴霧直後のそれの約10分の1に低減し、かつそのレベルを維持することができる。
【0062】
したがって、ファンフィルタユニット20の送風能力を200リットル/分以上とすることにより、たとえ前記ブース内の空気が室内に漏れ出しても、この漏れ出しによる感染防止比率を大きく低減することができる。
【0063】
また、相対湿度が50%RHを越えると浮遊インフルエンザウイルスの失活が著しくなるとの論文報告(Haper, G. J., Airborne micro-organisms, Survival test with four viruses, J. hyg.,Camb (1961), 59, p479-486)が見られる。このことから、前記ブース内のインフルエンザウイルスの生存率を低減させ、これにより前記ブースからのウイルス漏洩リスクの実質的な低減を図る上で、前記ブース内の相対湿度を50%RH以上に保持することが望ましく、そのために、前記ブース内に加湿器を配置することができる。
【0064】
本発明に係る換気ブース10は、花粉症のようなアレルギー症状患者12を収容するための陽圧ブースとして使用することができる。この場合、図3(b)に沿って説明したように、主として準HEPAフィルタ40bで浄化された室内空気が、前記ブース内に供給される。したがって、アレルギー症の患者12を確実にアレルギー源から保護できるので、そのような症状の患者12の例えば点滴治療あるいは透析治療に用いることができる。なお、このような使用では、準HEPAフィルタ40bに代えて中性能フィルタを用いることができる。
【0065】
本発明に係る換気ブース10によれば、陰圧及び陽圧のいずれの使用においても、包囲体18は、ベッド14の全域を被うことなく、ベッド面14a(マット面をも含む)の頭部側領域を含む一半の上方を被い、残部を露出させる。また、包囲体18の足元側周壁部18eの下縁34と該下縁に間隔tをおくベッド面14a又は該ベッド面上の寝具との間が、ブース内への通気口(t)となる。そのため、包囲体18自体の小型化が可能になる上、該包囲体内に陰圧又は陽圧を作用させるための送風装置であるファンフィルタユニット20の送風能力の著しい低減が可能となる。
【0066】
また、包囲体18が小型化することから、該包囲体の定期的な清掃作業が容易に行える。
【0067】
さらに、ファンフィルタユニット20の室内に面するフィルタ面は、ファンフィルタユニット20がブースの陰圧源として使用されたときはフィルタ40aが汚染空気の吸込口面となり、陽圧源として使用されたときはフィルタ40bが浄化空気の吹出口面となる。フィルタ包囲体18の外面に向き合うフィルタ面換気ブース10のファンフィルタユニット20は、図3(a)に示す陰圧源及び図3(b)に示す陽圧源のいずれの使用態様においても、各フィルタ40a及び40bの異物捕獲面は、反転することはない。すなわち、ファンフィルタユニット20は、陰圧源及び陽圧源としての使用に応じて、取付け開口26への接続口が吸入開口36a又は吹出開口36bとなるように、包囲体18への取付け姿勢が全体的に反転される。そのため、例えば準HEPAフィルタ40bの捕獲面は、陰圧源及び陽圧源としての前記した使用の切り替えに拘わらず、ファン42に向き合った面に保持される。
【0068】
一方、包囲体18へのファンフィルタユニット20の取付け姿勢を反転させることなく、陰圧源又は陽圧源への切り替えのために、ファンの駆動回転方向を反転させ、これにより、ファンフィルタユニット20の風向を反転させると、該装置内の前記フィルタの捕獲面が反転する。この捕獲面の反転は、捕獲した異物のブース内への飛散を招く。このような事態を防止するために、前記したような運転切り替えを試みても、陰圧源及び陽圧源としての前記した使用の切り替え毎に前記フィルタ40a、40bの捕獲面を反転するために該フィルタの表裏を反転する必要が生じる。あるいはフィルタの捕獲面に捕獲された異物の前記室内あるいは前記ブース内への放出を防ぐために、前記各フィルタの清掃作業が必要になる。
【0069】
これに対し、本発明に係る換気ブース10によれば、前記した陰圧源及び陽圧源として切り替えて使用する場合、単に前記したようにファンフィルタユニット20の包囲体18への取付け姿勢を全体的に反転するだけで使用できる。したがって、前記フィルタ40a、40bの表裏を反転するためあるいは該フィルタを清掃するために、該各フィルタを取り外すことなく、また極めて短時間での切り替え作業によって、引き続き使用することが可能となる。
【0070】
前記したところでは、ベッド14の両側に位置する第2及び第3の周壁部18c及び18dのうちの一方の側方周壁部18dに取付け開口部(26)を設けた例に沿って本願発明を説明した。この例に代えて、図5に示すように、ベッド14上の患者12の頭12a側に位置する第1の周壁部18bに取付け開口部(26)を設け、該開口に関連してファンフィルタユニット20を配置することができる。
【0071】
また、ベッド面14aの両側に位置する両側方周壁部18c及び18dと、ベッド面14aとの密着性を高めるために、図6(a)及び(b)に示すように、両側方周壁部18c及び18dのそれぞれに、ベッド面14aの長手方向に沿って延びる一対の錘50a、50aを設け、さらに各周壁部18c及び18dの下縁に互いに間隔を置いてベッド面14aの長手方向に配列される複数の錘50b、50bを設けることができる。
【0072】
本発明に係る換気ブース10のさらに他の例を図7ないし11に沿って説明する。これら図7ないし11に示す例では、図面の簡素化のために、フレーム組立体16が省略されている。
【0073】
図7ないし11の例では、図2及び3に沿って説明したファンフィルタユニット20が、図5に示したと同様に患者12の頭側に位置する第1の周壁部18bに設けられた開口部(26)に関連してフレーム組立体16に取り付けられている。また、足元側の第4の周壁部18eの下縁34には、ベッド14のベッド面14a上に臥した患者12から間隔を置いて該患者を受け入れるための下端開放の凹所34aが設けられており、該凹所によって患者12の両側に通気口として作用する前記間隔tが形成されている。
【0074】
図7に示す換気ブース10は、ベッド幅W1が標準ベッド幅である83cmの標準ベッド12に適用された例を示し、包囲体18の天井部18aは、前記ベッド幅W1に沿った辺長さが該ベッド幅の寸法よりも小さく、例えば70cmに設定されている。また包囲体18の第1ないし第3の各周壁部18b〜18eは、その下縁部がベッド面14aに沿って曲がり、該ベッド面に重なるに充分な高さ寸法を有する。他方、足元側の第4の周壁部18eの下縁には、凹所34aが形成されており、前記下縁は、凹所34aを除いてほぼベッド面14aに接する高さ寸法を有する。凹所34aは、ベッド14上の患者12から間隔を置いて該患者を受け入れかつ患者12の両側に通気口となる間隔tを形成するに充分な大きさを有する。
【0075】
また、隣接する各周壁部18b〜18eは、ベッド面14a上に重なる下縁部を除き、互いに連続して垂直方向に連続した稜線60a〜60dを形成する。各周壁部18b〜18dの内側には、各稜線60a〜60dの近傍領域で、第4の周壁部18eの下縁34よりも上方の高さ位置にあって各稜線60a〜60dと直交する方向に延在する面ファスナの帯62a、62bが形成されている。
【0076】
各稜線60a〜60dを形成するそれぞれの両周壁部18d及び18b、18b及び18c、18c及び18e、18e及び18dの一方には、例えば多数の前記フック部が設けられた面ファスナの帯62aが係合面を包囲体18内に向けて水平方向に延在するように形成されている。また、両周壁部18d及び18b、18b及び18c、18c及び18e、18e及び18dのそれぞれの他方には、多数の前記ループ部が設けられた面ファスナの帯62bが隣接して対応する面ファスナの帯62aと係合可能に係合面を包囲体18内に向けて水平方向に形成されている。これらの面ファスナの帯62a、62bの配置は、各稜線60a〜60dを間にして相互に隣接する面ファスナの帯62a、62bが係合可能となる限り、適宜変更することができる。
【0077】
この面ファスナの帯62a、62bは、前記換気ブース10が図8に示すような担架式ベッド14に適用されたとき、効果を発揮する。すなわち、天井部18aの前記ベッド幅に沿った辺長さを例えば70cmに設定した換気ブース10を担架式ベッド14に適用しようとすると、該担架式ベッドの幅寸法W2は55cmであり、これは天井部18aの前記ベッド幅に沿った辺長さよりも15cmも小さい。したがって、図7に示した換気ブース10をそのまま担架式ベッド14に適用しようとすると、ベッド14両側に位置する両側の周壁部18c及び18dがベッド面14aに重ならず、ベッド14の両側から間隔をおいて垂れ下がる。そのため、両側の周壁部18c及び18dとベッド14の両側との間に大きな間隙が生じ、この間隙を経て過大な空気の漏れが生じることから、ファンフィルタユニット20に必要な送風能力の増大を招く結果となり、延いてはファンフィルタユニット20の大型化を招き、本願発明の効果を奏し得ない結果を招く。
【0078】
このような事態を避けるために、図7に示した前記換気ブース10を担架式ベッド14に適用する場合、図8に示されているように、各稜線60a〜60dを間にして配置された互いに対応する面ファスナの帯62a、62bを密着させて係合させることができる。この対応する面ファスナの帯62a、62bの係合により、ベッド面14a上での包囲体18のベッド幅W2に沿った幅寸法をベッド幅W2よりも小さく絞り込むことができ、この絞り込みにより、担架式ベッド14に拘わらず、両側の周壁部18c及び18dの下縁部をベッド面14a上に重ね合わせることができる。したがって、両側の周壁部18c及び18dと担架式ベッド14の両側との間に大きな間隙が生じることを防止することができる。その結果、第4の周壁部18eの下縁34に形成された下縁34によって適正な通風口が保持されるので、ファンフィルタユニット20の送風能力の増大を招くことなく、包囲体18内の空気流を適正に維持することができる。
【0079】
図9に示す換気ブース10は、人工透析治療の実施に使用された例を示す。この換気ブース10では、前記した面ファスナの帯62a、62bに加えて、各稜線60a〜60dに沿った切断線に沿って線ファスナ64が設けられており、さらに両側の周壁部18c、18dには稜線60a〜60dに平行な切断線に沿ってファスナ66が設けられている。
【0080】
図9に示す例では、線ファスナ64及び66は、いずれも、稜線60aに設けられた線ファスナ64に代表的に示されているように、上方スライダ及び下方スライダから成る一対のスライダ68a、68bを有する従来よく知られた頭合わせファスナである。この頭合わせファスナ64及び66によれば、従来よく知られているように、一対のスライダ68a、68bが相離れるように該スライダをファスナエレメントである務歯に沿って移動させることにより、一対のスライダ68a、68b間で務歯の係合を解除することができる。これにより、一対のスライダ68a、68b間に所望の開口部70a、70bを形成することができる。
【0081】
図9では、一方の側壁部18cに設けられた線ファスナ66に開口部70aが形成され、稜線60aに設けられた線ファスナ64に開口部70bが形成されている。一方の開口部70aには、換気ブース外に配置された透析装置72からベッド14上の換気ブース内に延びる2本のチューブ72a、72bが貫通して配置されている。一方のチューブ72aはベッド14上の患者12から透析処理のための血液を透析装置72に送り、他方のチューブ72bは透析装置72で透析処理後の血液を患者12に戻すために、各チューブ72a、72bの先端は、患者12の血管に穿刺されている。
【0082】
両チューブ72a、72bを包囲体18の下端から該包囲体内に差し入れることができるが、この場合、両チューブ72a、72bは包囲体18の下端とベッド面14aとで挟まれた状態となる。そのため、透析治療中の患者12が体を動かしたとき、穿刺された各チューブ72a、72bの先端が抜け落ちたり、あるいはベッド面14aから持ち上げた包囲体18の下端を誤ってチューブ72a、72b上に落としたとき、同様に穿刺された各チューブ72a、72bの先端が抜け落ちたりして、不慮の事故を引き起こしかねない。このような事故は、点滴治療及び輸血治療でも生じ得る。
【0083】
本発明の換気ブース10では、前記したように、線ファスナ66の開口部70aにチューブ72a、72bを通すことにより、該チューブが包囲体18の下端とベッド面14aとで挟まれることがないので、透析治療に限らず、点滴治療及び輸血治療等での前記したような不慮の事故を確実に防止することができる。
【0084】
また、図9に示す例では、他方の開口部70bは、液晶モニタテレビ74を支持するためのアーム74aの挿通を許す。アーム74aはブース外から開口部70bを経て換気ブース内に延び、その先端で液晶モニタテレビ74の本体を支持する。透析治療は、通常、4時間にも及ぶことから、その間のテレビの視聴は患者12にとっては欠かせない娯楽となる。
【0085】
線ファスナ64及び66は、図示の例に限らず、必要個数を必要箇所に設置することができる。また、線ファスナ64及び66として前記したような頭合わせファスナを採用することにより、ファスナのほぼ長さ範囲内で該ファスナに沿って所望の高さ位置に所望の長さの開口部70a、70bを形成することができる。各線ファスナ64及び66は、次に示すように、下端にオープンファスナ方式を採用することが望ましい。
【0086】
図10及び11に示す例では、周壁部18dの垂直切断線に沿って頭合わせファスナ66が設けられており、その両スライダ68a、68b間の開口部70aを経て透析装置72のチューブ72a、72bが換気ブース内に延びる。頭合わせファスナ66の下端はオープンファスナ方式であり、例えば図10に示すような透析治療中に換気ブース内の患者12の様態が急変した場合、ファスナ66の係合を下端から解除することにより、図11に示すように、周壁部18dをその下端からファスナ66が設けられた垂直切断線で左右に完全に分離し、包囲体18を大きく開放させることができる。そのため、医療関係者が換気ブース内に容易に入ることができるので、緊急時の対応が迅速かつ容易に行える。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々に変更することができる。例えばプレフィルタを不要とすることができる。またフックからなる支持手段に代えて、支持台のような支持手段をフレーム組立体に設けることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 換気ブース
12 患者
12a 患者の頭
14 ベッド
14a ベッド面
16 フレーム組立体
18 包囲体
18a 包囲体の天井部
18b〜18e 包囲体の周壁部
20 ファンフィルタユニット(ユニット装置)
26 取付け開口(開口部)
30 キャスタ
34 足元側周壁部の下縁
36a ファンフィルタユニットの吸引口
36b ファンフィルタユニットの吐出口
38 ファンフィルタユニットのハウジング
40a、40b フィルタ
44a、44b フック(支持部材)
46 (接続手段)面ファスナ
46a、62a、 面ファスナの第1の接合面
46b、62b 面ファスナの第2の接合面
64、66 頭合わせファスナ
t 間隙(通気口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドのベッド面の頭側領域の上方を覆い前記ベッド面の残部を露出させる包囲体と、該包囲体を支持するフレーム組立体と、前記包囲体内を陰圧又は陽圧に保持すべく前記包囲体内から空気を吸引し又は前記包囲体内に空気を供給するための送風装置とを含む換気ブースであって、
前記包囲体は天井部及び周壁部を有し、該周壁部には前記送風装置のための取付け開口が設けられ、
前記送風装置は、互いに対向する面の一方に空気を吸い込むための吸入開口が設けられ前記互いに対向する面の他方に空気を吹き出すための吹出開口が設けられたハウジングと、該ハウジング内で前記両開口を連通する空気通路に該空気通路を横切って配置され、前記吸込開口から前記吹出開口へ向けての空気流を生成するための送風源及び前記吸込開口からの空気を浄化するためのフィルタとを備えるユニット装置であり、前記ハウジングの前記吹出開口及び前記吸入開口は接続手段を介して選択的に前記周壁部の前記取付け開口に取り外し可能に接続され、前記送風源は一方向へのみ駆動回転される、換気ブース。
【請求項2】
前記包囲体の前記天井部は前記頭側領域の上方に位置して前記ベッド面の頭側縁部に対応する一辺及び該一辺の両端から前記ベッド面の両側縁に沿って延びる一対の辺を含む全体に矩形の形状を有し、前記周壁部は前記天井部の各辺から前記ベッド面に向けてそれぞれ垂下する4つの周壁部を有し、前記ベッド面の足元側に位置する前記周壁部を除く他の3つの前記周壁部の下縁は前記ベッド面又は該ベッド面上の寝具に接し、前記足元側に位置する前記周壁部の下縁は、前記他の3つの周壁部の下縁よりも上方に位置し、かつ前記ベッド上に臥した人の両側で空気の流通を許す間隙を保持すべく前記ベッド面又は該ベッド面上の寝具から間隔をおく、請求項1に記載の換気ブース。
【請求項3】
前記取付け開口は、前記他の3つの周壁部のいずれか一つに設けられており、前記ユニット装置は、前記取付け開口を経て前記包囲体内から空気を吸引し又は前記包囲体内に空気を供給すべく、前記フレーム組立体に取り外し可能に支持されている、請求項2に記載の換気ブース。
【請求項4】
前記接続手段は、前記ハウジングの前記両開口のそれぞれを取り巻いて配置され、相互に解除可能に係合する第1及び第2の係合部のいずれか一方が設けられた第1の接合面と、前記周壁部に前記取付け開口を取り巻いて配置され、前記第1部及び第2の係合部の他方が設けられた第2の接合面とを有し、前記接続手段により前記包囲体に前記吹出開口及び前記吸入開口の一方が選択的に接続される、請求項3に記載の換気ブース。
【請求項5】
前記接続手段は、前記第1及び第2の係合部が相互に解除可能に係合する多数のフック部及びループ部の一方及びその他方からそれぞれ成る面ファスナである、請求項4に記載の換気ブース。
【請求項6】
前記ユニット装置は、前記ハウジングに設けられた支持部材を介して前記フレーム組立体に取り外し可能に支持されている、請求項5に記載の換気ブース。
【請求項7】
前記支持部材は、前記ハウジングの前記互いに対向する面のそれぞれに設けられ、前記ユニット装置を前記フレーム組立体に取り外し可能に懸架するフック部材である、請求項6に記載の換気ブース。
【請求項8】
前記ユニット装置は200L/分以上の送風能力を有する、請求項2に記載の換気ブース。
【請求項9】
前記包囲体内は陰圧に保持され、横臥する患者の身体の長手方向に沿った前記包囲体の寸法は、40cm以上に設定されている、請求項2に記載の換気ブース。
【請求項10】
前記包囲体の前記第4の周壁部の下縁よりも上方の位置にあって隣接する周壁部の稜線に直交する方向に延在しかつ相互に解除可能に係合する多数のフック部及びループ部の一方及びその他方からそれぞれ成る面ファスナの帯が、第1ないし第4の周壁部の内側に取り付けられた、請求項1に記載の換気ブース。
【請求項11】
前記面ファスナの前記フック部及びループ部の一方が前記第1ないし第4の周壁部の前記稜線を形成すべく隣接する両周壁部の一方に設けられ、前記フック部及びループ部の他方が前記稜線を形成すべく隣接する両周壁部の他方に設けられている、請求項10に記載の換気ブース。
【請求項12】
前記包囲体には、第1ないし第4の周壁部が隣接して形成する四つの稜線のうちの少なくとも一つを通る又は周壁部そのものを鉛直方向に通る切断線が頭合わせファスナで構成されている、請求項1に記載の換気ブース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−269121(P2010−269121A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196769(P2009−196769)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】(504136993)独立行政法人国立病院機構 (37)
【Fターム(参考)】