説明

揮発性成分の連続評価方法および分取装置

【課題】
液体中における揮発性成分の寄与を簡便に評価するための方法および装置を提供する。
【解決手段】
ガスクロマトグラフの排気流路に接続する気体流路と、液体容器と、液体容器からの液体を通液する流路、気体流路と通液流路とを合流させる流路を有し、合流後の流路から吐出される溶液を分取する手段を備えたことを特徴とする揮発性成分の分取装置、およびこの装置を用いた揮発性成分の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物原材料の芳香の中で、ガスクロマトグラフによって分離された成分を分取する装置。およびガスクロマトグラフにより分離された揮発性成分が香気または風味に及ぼす影響を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスクロマトグラフで分離された揮発性成分を分取することにより、より精密な分析や分取成分の評価が行われている。従来の分取装置は、一般に機器分析に供することを前提とするため、ガスクロマトグラフから排出された気体を分取容器に導入し冷却することにより揮発性成分を凝縮させる方法が採られている(特許文献1)。
【0003】
また、非特許文献2にはガスクロマトグラフで分離した揮発性成分を、水中に導入して捕集する方法が「コーヒーフレーバーの開発」に記載されている。
【0004】
一方、動植物原材料からその微量芳香成分の検索法として、匂い嗅ぎGC(GC−Olfactometry:GC−O)が用いられている。すなわち、GCのカラム出口で分離され流出した成分の匂いを嗅ぐことで、GC−MSでは検出されない微量成分の検索をするもので一般的に行われている。そのような香料分析技術は、例えば、「香料分析におけるガスクロマトグラフィーおよび質量分析計の利用」(非特許文献1)等に紹介されている。また香気成分の動植物原材料の液体試料での香味的役割については単離また濃縮した成分を動植物原材料の液体試料に添加し評価する方法が用いられる。
【0005】
また、特許文献2にはガスクロマトグラフで分離した揮発性成分と試料から揮散する成分を混合することで、分離した揮発性成分の香気に対する影響を連続的に評価する方法が提示されている。
【特許文献1】特公平6−64035号公報
【特許文献2】特開2003−107067号公報
【非特許文献1】フレグランス ジャーナル, 1997−6, 12, 1997
【非特許文献2】ソフト・ドリンク技術資料,2002年1号,67−83
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来使用されている分取装置は、分離された揮発性成分をキャリアガスと共に分取容器に導入して冷却凝縮させる方法は、キャリアガスを排出するため通気状態で行われるため、微量成分が失われたり、低沸点の成分が捕集し難いという欠点を有していた。
【0007】
一方、香気成分の評価方法としては、前記のGC−Oを用いた香気成分の評価は気相での成分の特性を表現するに過ぎず、口腔内での香気成分間また香気成分と動植物原材料との相互作用については全く評価できない。また、香気成分をひとつひとつ単離、濃縮して動植物原材料の液体試料に添加して評価する場合には単離濃縮に膨大な労力を要す。また、前記特許文献2に記載の評価方法は、大気中に揮散した状態での各成分による影響を評価するものであって、揮発成分の香気への影響や消臭効果などの評価をする方法として優れたものではあるが、液体中に存在する成分の影響を正確に予測することは困難であった。
【0008】
また、前記の非特許文献2に記載されている方法は、水中にキャリアガスと共に排出される揮発性成分を導入しバブリングする方法であるため、気液接触面積や接触時間を一定化することが困難であった。また、この方法では揮発性成分を導入する水を投入した容器を複数用意し、順次交換するため作業が繁雑となってしまうという問題があった。
【0009】
すなわち、本発明の課題は液体中における揮発性成分の寄与を簡便に評価するための方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、上記のような従来のGC−O分析法と香気成分の評価方法またひとつひとつの香気成分を動植物原材料の液体試料に添加する方法によるの欠点及び限界を克服し、動植物原材料の芳香の忠実な再現及び機能性の開発を目的に鋭意研究を重ねた結果、ガスクロマトグラフによって分離された揮発性成分と、動植物原材料の液体試料を連続的に混合し評価するという、従来文献未記載の新規香気捕集方法を開発し本発明を完成した。
【0011】
本発明者らの開発した新規香気評価方法は、ガスクロマトグラフによって分離された揮発性成分を液体試料と連続的に混合する香気評価方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、分離された揮発性成分と評価用の液体試料の混合液体を簡便に官能的な評価できるため、マスキングやエンハンスというような香気成分同士が相互に作用する香気成分の評価に大変有力な手法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の分取装置は、ガスクロマトグラフにより分離された揮発性成分を液体溶媒に吸収させることを特徴とするものであり、ガスクロマトグラフの排気流路に接続する気体流路と、液体容器と、液体容器から液体を通液する流路、気体流路と通液流路とを合流させる流路を有し、合流後の流路から吐出される溶液を分取する手段を備えるものである。
【0014】
本発明では、液体容器は使用する液体もしくは分取の目的により、必要に応じて加熱もしくは冷却することができる。試料容器中の温度調節の方法は、容器外部にヒーターを設置する方法や容器にジャケットを付して、温度調節用の流体を通じる方法など公知の方法が使用できる。また、容器内部もしくは外表面に温度計測用の器具を設置することもでき、計測機器の出力によって温度調節をする手段を適用することもできる。容器の材質としては、それ自体が臭気など揮発性成分を放出せず、かつ揮発性成分を吸着しないものが好ましく、通常はガラス製容器などが使用される。
【0015】
液体の通液方法は、例えば重力落下式やポンプ送液など任意の方法を選択できるが、通液量の制御がより簡便で正確に行えることからポンプによる送液が好ましい。さらには、評価用の試料溶液を通液する場合に、通液経路における香気成分や呈味成分の残留による影響を避けるため、通液経路を簡便に交換できるチューブポンプを使用することがより好ましい。
【0016】
本発明において分取装置は、ガスクロマトグラフとは別に装置を構成してもよく、またガスクロマトグラフと一体化して装置を構成してもよい。ガスクロマトグラフと別の装置として構成する場合は、気体流路と、液体容器と容器中の液体を通液する流路、気体流路と試料溶液の通液流路とを合流させる流路を有し、合流後の流路から吐出される溶液を分取する手段が配置され、気体流路の末端部にガスクロマトグラフの排気流路に接続する手段が設けられる。また、ガスクロマトグラフと一体化して装置を構成する場合は、カラムオーブンによる加熱の影響を避けるために、カラム槽の外部に独立して液体試料容器および通液経路および分取装置が配置される。
【0017】
本発明において、ガスクロマトグラフで分離された成分は、検知器への流路と液体容器からの液体との合流路に分割するか、もしくは検知器を通過した後に合流路へと導かれる。ガスクロマトグラフの検知器が、加熱などにより揮発性成分に変化をもたらす恐れのある場合は、カラム分離後に検知器への流路と分割することが好ましい。
【0018】
本発明において、ガスクロマトグラフで分離された揮発性成分と液体は、合流経路内で混合され、揮発性成分が液体試料に吸収された状態で経路外に吐出される。吐出された混合液は、時間毎またはガスクロマトグラムの検出ピーク毎に分取される。時間毎に分取する方式の場合は、フラクションコレクターでの時間設定がサンプリングの切り替え時間となる。また、検出ピーク毎に分取する場合は、たとえば検知器からの信号を元に数値の変化量ΔTが負の値から0もしくは正の値に変化した時点をピークの変更点として検出し、ガスクロマトグラフの検知時間と当該成分を含む混合液の吐出時間との時間差を加算して、サンプリングの切替時間とする。
【0019】
本発明における混合液の分取方法は、通常フラクションコレクターを用いる。本発明で使用されるフラクションコレクターは、一般的な機能を備えているものであればよく、分取装置と一体化させることもできる。
【0020】
本発明の揮発性成分の評価方法においては、前記のガスクロマトグラフ用分取装置が使用される。すなわち、多成分から成る精油などを各成分に分離する手段と、分離された揮発性成分と評価試験用の液体試料を連続的に混合する手段、混合された溶液を分取する手段よりなる装置が用いられる。本発明においては、分離された揮発性成分と評価用の液体試料の混合液体を、官能的に評価するが、同時にクロマトグラムにより、各成分とその評価を簡便に対応させることができる。
【0021】
本発明の揮発性成分の評価方法においては、前記ガスクロマトグラフ用分取装置における液体容器に、揮発性成分および/または呈味成分を含有する試料溶液が投入され、該試料溶液と分離された揮発性成分を混合し分取した溶液を評価に供する。評価試験用の試料溶液は、たとえば水、アルコール、プロピレングリコールなどの溶媒もしくはこれらの混合溶媒に揮発性成分および/または呈味成分を溶解または分散させた溶液や、乳、乳飲料、嗜好飲料、アルコール飲料、果汁、液体調味料類などの液体状食品類、動植物原料の溶剤抽出液、水蒸気蒸留水、精油類またはそれらの溶剤による希釈液などの液体である。液体試料作成に用いる抽出溶媒または希釈溶媒として使用される溶剤の種類としては、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、油脂など液状であれば良いが、好ましくは低粘度で常温で固化しないものであることが好ましい。
【0022】
分離された揮発性成分と評価用の液体試料の混合液体は、公知の方法によりGC、GC−MSによる成分分析を行うこともできる。
【0023】
以下図1に本発明に用いる最も簡略な装置の概念図の一例を示すが、本発明はこの図面によって何ら限定されるものではない。
【0024】
(図1)

【0025】
以下に本発明の実施例を示す。
(実施例1)
水蒸気蒸留により得たコーヒー香気濃縮物をガスクロマトグラフに導入すると同時に、ガスクロマトグラフの経路外に設けた試料容器からコーヒー抽出物を通液して、ガスクロマトグラフからの流出ガスとの混合液を得て、その混合液を評価した。実験に用いたガスクロマトグラフは、HP社製5890で、検出器はTCD、使用したカラムはHP−1(長さ30m,内径0.53mm,膜厚1.5μm)、ガスクロマトグラフのキャリヤーガスはヘリウムガスで毎分4.4mlの流量、昇温条件40℃から230℃まで毎分3℃昇温で行った。分取方法としては、定量ポンプで毎分1mlのコーヒー抽出液を通液し、通液流路と気体流路の合流する部分で、コーヒー抽出液とガスクロマトグラフからの流出ガスを接触させることで混合液を得て、その混合液をフラクションコレクターを用いて分取した。フラクションコレクターでのサンプリングの切り替え時間は1分とし、1mlずつ分取を行った。
【0026】
パネラーとしてフレーバリスト3人に、上記条件で官能評価を行ったところ、GC−Oでの評価ではわからない、各フラクション毎のコーヒー風味への影響を評価することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の連続評価方法およびこれに用いる装置によって、液体中に溶存する揮発性成分の香気に対する寄与、または悪臭の発生を抑制する効果などを、より正確かつ簡便に評価することができ、香料の調合や消臭成分の選定に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフの排気流路に接続する気体流路と、液体容器と、液体容器からの液体を通液する流路、気体流路と通液流路とを合流させる流路を有し、合流後の流路から吐出される溶液を分取する手段を備えたことを特徴とする揮発性成分の分取装置。
【請求項2】
揮発性成分を分離するカラムと、連続的に液体試料を通液する試料容器、および該試料容器からの液体と、カラムからの流出ガスの流路とが合流する流路を有するガスクロマトグラフ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置を用いて、ガスクロマトグラフにより分離された揮発性成分と、揮発性成分および/または呈味成分を含有する液体試料を連続的に混合する事を特徴とする揮発性成分の評価方法。
【請求項4】
請求項3において、試料容器に導入する試料が、動植物原料の搾汁液もしくは抽出液であることを特徴とする揮発性成分の評価方法。
【請求項5】
ガスクロマトグラフの経路外に設けた試料容器に導入する試料が悪臭物質を含有する液体であることを特徴とする請求項3または4に記載の揮発性成分の評価方法。