説明

揮発性有機化合物の捕集方法及び捕集装置

【課題】揮発性有機化合物を含む気体から揮発性有機化合物を高効率かつ低コストで捕集することができる捕集方法及び捕集装置を提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物を含む気体と、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10と接触した水11とを混合し、その混合された気体と水11とを加圧下で接触させて、水11に揮発性有機化合物を乳化して取り込み、揮発性有機化合物を取り込んだ水27を所定の時間放置して揮発性有機化合物28と水29とに分離させ、分離した揮発性有機化合物28を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揮発性有機化合物の捕集方法及び装置に関し、更に詳しくは、揮発性有機化合物を含む気体から揮発性有機化合物を高効率かつ低コストで捕集することができる捕集方法及び捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルエンやキシレンなどの揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)は、健康被害をもたらす浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの発生原因の1つであるため、大気汚染防止法により環境中への排出が規制されている。
【0003】
一般に、印刷工場や塗装工場などでは、活性炭のフィルターを用いて排気中から揮発性有機化合物を捕集するようにしているが、排気量が大きいとフィルターがすぐに目詰まりしてしまい、頻繁に交換する必要があるため、捕集にかかるコストが増大するという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1は、界面活性剤を利用して水溶液中に揮発性有機化合物を取り込んで捕集する方法を提案している。
【0005】
しかし、上記特許文献1の方法では、揮発性有機化合物を取り込んだ水溶液が廃水として多量に発生するため、その貯蔵や処理にかかるコストが大きくなるという問題がある。また、大気汚染防止法における新たな排出基準が平成22年度から適用されるため、揮発性有機化合物を更に効率的に捕集することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2008−262905号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、揮発性有機化合物を含む気体から揮発性有機化合物を高効率かつ低コストで捕集することができる捕集方法及び捕集装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の揮発性有機化合物の捕集方法は、揮発性有機化合物を含む気体と、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体と接触した水とを混合し、前記混合された気体と前記水とを加圧下で接触させて該水に前記揮発性有機化合物を乳化して取り込み、前記揮発性有機化合物を取り込んだ水を所定の時間放置して前記揮発性有機化合物と水とに分離させ、前記分離した揮発性有機化合物と水とを回収することを特徴とするものである。
【0009】
また、上記の目的を達成する本発明の揮発性有機化合物の捕集装置は、揮発性有機化合物を含む気体をブロアで吸引し、前記吸引された気体にα線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体と接触した水を噴霧ノズルで噴霧すると共に、該水を噴霧された気体が流れる向きに対向するように、保水性繊維で表面が覆われた板状体を配設し、該保水性繊維が保持した水を集めて前記揮発性有機化合物と前記水とに分離させる分離槽を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の揮発性有機化合物の捕集方法及び捕集装置によれば、揮発性有機化合物を含む気体と、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体と接触させて活性化した水とを混合し、その後に加圧下で接触させることにより、揮発性有機化合物を乳化して水に取り込んで捕集するようにしたので、揮発性有機化合物を高い効率で捕集することができる。また、揮発性有機化合物を取り込んだ水は、揮発性有機化合物と水とに分離し、その分離した揮発性有機化合物及び水を回収して再使用するようにしたので、捕集にかかるコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態からなる揮発性有機化合物の捕集装置である。
【図2】図1に示す揮発性有機化合物の捕集装置の断面図であって、(a)はA−A矢視で示す箇所であり、(b)はB−B矢視で示す箇所である。
【図3】本発明の他の実施形態からなる揮発性有機化合物の捕集装置である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態からなる揮発性有機化合物の捕集装置を示す。なお、以下の図面においては、気体の流れを矢印付きの点線で、液体の流れを矢印付きの実直線で、それぞれ示すようにしている。
【0014】
この揮発性有機化合物の捕集装置(以下、単に「捕集装置」という。)は、縦置きされた中空直方体状の本体1を有し、その本体1の上部側面には吸気口2が、上面には排気口3がそれぞれ設けられている。吸気口2は、粗フィルター4を備えたブロワ5に接続する共に、その内部には噴霧ノズル6が配置されている。噴霧ノズル6は、加圧ポンプ7が介設された噴霧ライン8を通じて接触槽9に接続し、その接触槽9内には、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10が水11に浸漬している。この接触槽9内の水11は、循環ポンプ12が介設された循環ライン13を通じて適宜供給される。
【0015】
α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10としては、酸化トリウム(ThO)を含有する遠赤外線セラミックスを用いることが、コスト及び安全性の点から望ましい。この遠赤外線セラミックスは、特に限定するものではないが、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、シリカ(SiO)、ジルコン(ZrSiO)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y)、コージライト(2MgO・2Al・5SiO)、βスポージューメン(LiO・Al・4SiO)、ムライト(Al・3SiO)、チタン酸アルミニウム(Al・TiO)などが例示される。
【0016】
あるいは、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10として、上記の遠赤外線セラミックスの粉末とモナザイト((Ce、La、Nd)PO)の粉末とからなる混合物の焼結体を用いることもできる。モナザイトは、微量成分としてトリウム(ThO)を含有している。この場合、特許第3085182号公報に記載されているように、モナザイトにおける酸化トリウムの含有量は0.3〜2.0重量%とすることが実用面から好ましい。
【0017】
このようなα線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10を接触槽9内で用いるに際しては、水11との接触面積を大きくするため、粉末状又は球状に加工することが望ましい。
【0018】
本体1の下部には、排出ポンプ14を介して分離槽15に接続する排出ライン16が接続している。また、分離槽15の下端部は、上述した循環ライン13に接続している。更に、分離槽15の近傍には、分離槽15内に貯留する液体の液面付近の部分を吸引ポンプ17で吸引して捕集タンク18に移送する捕集ライン19が設けられている。
【0019】
本体1の内部は、遮へい板20により、吸気口2から底部へ至る反応部21と、その反応部21の下部から排気口3へ通じる通気部22とに区画されている。反応部21には、遮へい板20及び対向する本体1内の側面から、互い違いに仕切板23が延びており、縦方向に連通する複数の段部を形成している。各仕切板23の上面には、図2に示すように、複数の吸水板24が、本体1の内側面から斜め方向に延びる向きで立設されており、それら吸水板24の両面は、織布又は不織布に加工された保水性繊維25により覆われている。この保水性繊維25としては、アクリレート系繊維やセルロース系繊維などが例示される。アクリレート系繊維としては、ランシール(東洋紡績株式会社の登録商標)やモイスファイン(東洋紡績株式会社の登録商標)を用いることができる。また、吸水板24が斜めに延びる方向は、下段へ通じる開口部26へ向かうようにすることが好ましい。
【0020】
このような捕集装置を用いて揮発性有機化合物を捕集する捕集方法を以下に説明する。ここで揮発性有機化合物とは、「大気中に排出された時、又は飛散した時に気体である有機化合物」を意味し、シンナー、トルエン、キシレンや酢酸エチルなどが含まれる。
【0021】
まず、揮発性有機化合物を含む気体を粗フィルター4を通じてブロワ5で吸引する。そして、吸引した気体に対し噴霧ノズル6により接触槽9内の水11を噴霧して両者を混合する。水11が混合された気体は、吸気口2から本体1内の反応部21へ流入し、各段部において吸水板24に衝突しつつ水平方向へ向けて流れる。その際、気体中に含まれる水11は、吸水板24の保水性繊維25に吸収されるので、後から送られた気体は、水11を保持した保水性繊維25に吹き付けるようになる。
【0022】
保水性繊維25が保持する水11は、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10と接触して活性化されているため、気体中に含まれる揮発性有機化合物を乳化して取り込むようになる。水11の活性化の機構の詳細は不明であるが、α線のエネルギーが遠赤外線放射体における遠赤外線の放出能力を高め、その多量の遠赤外線の作用により水11のクラスターを乖離させることにより、水11の表面張力が低下するためであると推定される。この活性化した水11は不安定な状態にあるため、時間の経過とともに、揮発性有機化合物と水11とに再び分離する。
【0023】
このような揮発性有機化合物の乳化による水11への取り込みは、図2に示すように、気体が吸水板24に衝突して、加圧による圧縮と圧力開放とを繰り返すことで効率的に行われる。
【0024】
そして、揮発性有機化合物が除去された気体は、通気部22を通じて本体1の上部へ流れ、排気口3から外部へ放出されると共に、揮発性有機化合物を取り込んだ水のうち保水性繊維25に保持できなくなった分は、本体1の下方へ滴下して貯留する。
【0025】
本体1内の貯留水27は、排出ライン16の排出ポンプ14により汲み出され、分離槽15内へ移送される。分離槽15内で貯留水27は、例えば数分から数時間の時間が経過すると揮発性有機化合物28と水29とに分離し、比重の違いから揮発性有機化合物28が上相となる。その分離した揮発性有機化合物28を捕集ライン19を通じて吸い上げて捕集タンク18に回収する。この捕集タンク18に回収した揮発性有機化合物28は、比較的純度が高いため、適当な手段により化学製品等として再生し、印刷工場などで再使用することができる。また、下相に分離した水29は、循環ライン13を通じて接触槽9へ戻して再利用する。
【0026】
このように、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10と接触させて活性化した水11により、揮発性有機化合物を乳化して捕集するようにしたので、揮発性有機化合物を高い効率で捕集することができる。また、貯留水27を揮発性有機化合物28と水29とに分離させて、それぞれ回収して再使用できるようにしたので、捕集にかかるコストを低減することができる。
【0027】
なお、本捕集装置では、ブロア5が吸引した気体に噴霧ノズル6で水11を噴霧することにより両者を混合しているが、混合手段はこれに限られるものではなく、例えば、吸気口2内に配置した繊維シートに水11を常に湿潤させ、ブロア5が吸引した気体が、その繊維シートを通過するようにしてもよい。
【0028】
吸水板24の表面には、あらかじめα線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10を固定しておくことが望ましい。固定する方法としては、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10の粉末をエポキシ樹脂を溶剤として吸水板24の表面に塗布し、硬化剤を加えて焼き付ける方法などが例示される。そのようにすることで、保水性繊維25に保持された水11による揮発性有機化合物の乳化を促進し、捕集効率を高めることができる。
【0029】
更に、遮へい板20の表面や本体1の内面にも、あらかじめα線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体10を固定してことで、更に捕集効率を高めることができる。
【0030】
図3は、本発明の他の実施形態からなる捕集装置を示す。
【0031】
この捕集装置は、本体1の排気口3に脱臭装置30を接続したものである。本体1から排気された気体中には、極めて微量の揮発性有機化合物しか残存していないが、そのような微量の揮発性有機化合物でも、悪臭や刺激臭をもたらす油性の臭気成分となって人間の嗅覚に感知されることがある。従って、脱臭装置30を用いることにより、印刷工場などにおける作業環境を良好なものとすることができる。
【0032】
この脱臭装置30は、本体1と同じ構造をしているが、噴霧ノズル31につながる供給タンク32内には、ノニオン系(非イオン性)の界面活性剤33、例えばポリオキシエチレンエーテルやポリアルキレンアルキルエーテルの水溶液が貯留している。このようにすることで、界面活性剤により排気気体中の油性の臭気成分を乳化し、水溶液中に取り込んで除去することができる。なお、油性の臭気成分を取り込んだ水は、脱臭装置30の貯留水34として回収され、フィルター35でろ過された後に処理される。
【0033】
上述した捕集方法及び捕集装置の用途は、特に限定するものではないが、揮発性有機化合物を溶剤に用いたインキ、塗料や接着剤を使用する印刷工場や塗装工場などから排出される揮発性有機化合物の捕集に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 本体
2 吸気口
3 排気口
4 粗フィルター
5 ブロワ
6 噴霧ノズル
7 加圧ポンプ
8 噴霧ライン
9 接触槽
10 遠赤外線放射体
11 (接触槽内の)水
12 循環ポンプ
13 循環ライン
14 排出ポンプ
15 分離槽
16 排出ライン
17 吸引ポンプ
18 捕集タンク
19 捕集ライン
20 遮へい板
21 反応部
22 通気部
23 仕切板
24 吸水板
25 保水性繊維
26 開口部
27 本体内の貯留水
28 分離した揮発性有機化合物
29 分離した水
30 脱臭装置
31 (脱臭装置の)噴霧ノズル
32 供給タンク
33 界面活性剤
34 (脱臭装置の)貯留水
35 フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を含む気体と、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体と接触した水とを混合し、前記混合された気体と前記水とを加圧下で接触させて該水に前記揮発性有機化合物を乳化して取り込み、前記揮発性有機化合物を取り込んだ水を所定の時間放置して前記揮発性有機化合物と水とに分離させ、前記分離した揮発性有機化合物と水とを回収する揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項2】
前記分離した水を前記α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体と接触させ、前記揮発性有機化合物を含む気体と再び混合するようにした請求項1に記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項3】
前記混合された気体と前記水とを、保水性繊維で表面が覆われた板状体に吹き付けるようにした請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項4】
前記α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体が、酸化トリウムを含有する遠赤外線セラミックスである請求項1〜3のいずれかに記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項5】
前記α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体が、遠赤外線セラミックスの粉末とモナザイトの粉末との混合物の焼結体である請求項1〜3に記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項6】
前記モナザイトにおける酸化トリウムの含有量が0.3〜2.0重量%である請求項5に記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項7】
前記α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体が粉体状又は球体状である請求項1〜6のいずれかに記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項8】
前記揮発性有機化合物が回収された気体と界面活性剤の水溶液とを混合し、前記混合された水溶液と前記気体を加圧下で接触させて該水溶液に該気体に残存する揮発性有機化合物を乳化して取り込むようにした請求項1〜7のいずれかに記載の揮発性有機化合物の捕集方法。
【請求項9】
揮発性有機化合物を含む気体をブロアで吸引し、前記吸引された気体にα線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体と接触した水を噴霧ノズルで噴霧すると共に、該水を噴霧された気体が流れる向きに対向するように、保水性繊維で表面が覆われた板状体を配設し、該保水性繊維が保持した水を集めて前記揮発性有機化合物と前記水とに分離させる分離槽を設けた揮発性有機化合物の捕集装置。
【請求項10】
前記保水性繊維がアクリレート系繊維又はセルロース系繊維である請求項9に記載の揮発性有機化合物の捕集装置。
【請求項11】
前記板状体の表面に、α線を放出する放射性物質を含有する遠赤外線放射体を固定した請求項9又は10に記載の揮発性有機化合物の捕集装置。
【請求項12】
前記捕集装置から排気された気体に界面活性剤の水溶液を噴霧ノズルで噴霧すると共に、該捕集装置の下流側に、前記気体が流れる向きに対向するように、保水性繊維で表面が覆われた板状体を配設した請求項9〜11のいずれかに記載の揮発性有機化合物の捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−83658(P2011−83658A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236295(P2009−236295)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000129482)株式会社クラウド (8)
【Fターム(参考)】