説明

揺動型ロータリー圧縮機

【目的】揺動型ロータリー圧縮機において、ピストン2の外周面に簡単な切削加工で切欠部を形成するだけで、吸入ガスの吸入室Yへの吸入抵抗や、吸入ガスが切欠部を介して圧縮室Xから吸入室Yに連通されるときの通路抵抗を小としながら、圧縮能力調整を正確に行い、また、各種部品を共通化して製作コストを低廉とする。
【構成】ピストン2の外周面で、そのブレード部21の突設位置に対し吸入室Y側に、ブレード部21の突設位置近くから公転方向前方に延び、吸入孔13から吸入される吸入ガスの吸入閉じ切り位置を圧縮室X側に変位させる切欠部22を形成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主に冷凍装置に使用される揺動型ロータリー圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、ロータリー圧縮機は、機種により所定の圧縮能力を設定しており、製品コストをできるだけ低廉化するため、圧縮機のシリンダ形状は一定のまま、駆動軸の偏心量及びローラの外径を変更することにより、能力調整を行っている。ところがこの場合には、シリンダは共通にできるが、前記駆動軸及びローラの種類が多くなることから、部品管理が煩雑となるし、また、製造ラインでの段替えや芯出しのやり替えなどが必要となってコストアップになる問題があった。
【0003】また、部品の共通化を図るため、回転数制御を行うことにより圧縮能力を可変としたインバータ制御タイプのものが知られているが、斯かるインバータ制御タイプのものは非常に高価であるため、冷凍装置に組み込んだとき、その製作コストが高くなるのである。
【0004】そこで、従来では、ロータリー圧縮機の圧縮能力を調整する他の手段として、例えば実開昭54−29403号公報に記載されているように、シリンダとフロントヘッド又はリヤヘッドとの間に薄板を介在させて、該薄板に、シリンダ室における吸入孔が開口する吸入室と吐出口が開口する圧縮室とを吸入開始時に連通させるバイパス通路を形成して、吸入ガスの吸入閉じ切り位置を圧縮室側にずらして圧縮能力の調整をするようにしたものが知られている。
【0005】即ち、この能力調整方法は、図6で示したように、フロント及びリヤヘッド間に介装されるシリンダAのシリンダ室A1内にローラBを内装し、このローラB内に駆動軸Cの偏心部C1を挿嵌させると共に、前記シリンダAに形成した吐出口A2と吸入孔A3との中間部位に、前記シリンダ室A1の内部を前記吐出口A2に連通する圧縮室Xと前記吸入孔A3に連通する吸入室Yとに区画するブレードDを進退出可能に設けて、該ブレードDの背面側をスプリングD1で押圧して、その先端側を前記ローラBの外周面に常時接触させるように付勢させたロータリー圧縮機において、前記フロントヘッドとシリンダAとの間に、該シリンダAの外径と同径の円板状で、中心に前記駆動軸Cを挿通する軸穴E2を有する薄板Eを挟在させて、この薄板Eに、前記吸入孔A3から吸入室Y内に吸入される吸入ガスの吸入閉じ切り位置を前記圧縮室X側に変位させるバイパス通路E1を形成したものである。尚、前記バイパス通路E1は、前記シリンダ室A1の内壁の曲面に沿う円弧状の長穴としており、この薄板Eの板厚分で、前記バイパス通路E1を形成している。
【0006】従って、以上の構成によれば、前記シリンダ室A1内を、前記ローラBの外周面が前記シリンダ室A1の内壁面に接触される接触点Oと前記ブレードDによって、該ブレードDにおける前記偏心部C1の回転方向前方側壁面と前記接触点Oとの間に形成される吸入室Yと、前記接触点Oと前記ブレードDにおける前記偏心部C1の回転方向後方側の壁面との間に形成される圧縮室Xとに区画して、前記駆動軸Cの駆動に伴い前記ローラBの前記シリンダ室A1の内壁面への接触点Oがシリンダ室A1の内壁面に沿って移動されることにより、前記吸入孔A3から前記吸入室Y内にガスが吸入され、また、前記圧縮室X内でガスが圧縮されて前記吐出口A2から吐出され、これらガスの吸入と圧縮とが繰り返されるようになり、また、前記シリンダAとフロントヘッドとの間には前記薄板Eが配設されているので、この薄板Eに形成する前記バイパス通路E1に、前記接触点Oが位置したとき、前記圧縮室Xと前記吸入室Yとが連通状態となり、この圧縮室X内でのガス圧縮が開始されることなく、前記接触点Oがバイパス通路E1を通過した後に初めて吸入ガスの吸入が閉じ切られて前記吸入室Yと圧縮室Xとが密閉状に画成されて、該圧縮室X内でのガス圧縮が開始されるのである。従って、前記薄板Eに設けるバイパス通路E1の長さ変更を行って、前記圧縮室Xへの吸入ガスの吸入閉じ切り位置を前記圧縮室X側に任意に変位させ、これに伴い前記圧縮室X内におけるガス圧縮の開始時期を調整することにより、該圧縮室X内の圧縮容積が調整され、つまり、この圧縮室Xでの圧縮能力が自由に調整可能となって、前記ロータリー圧縮機の能力バリエーションを拡大できるのである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、以上の構成によれば、前記バイパス通路E1を備えた薄板Eを別途必要とするため、部品点数が増え、それだけ組み立て工数が増えて全体構成が複雑化するのであり、しかも、前記バイパス通路E1は、前記シリンダAとフロントヘッドとの間に挟在される前記薄板Eの板厚分の通路面積しかないので、前記吸入孔A3から吸入室Yに吸入された吸入ガスを、前記薄板Eが配設される前記シリンダAの軸方向端部側に導いて前記バイパス通路E1から前記圧縮室Xへと案内させる必要があるだけでなく、前記吸入室Y内の吸入ガスが前記バイパス通路E1を通過するときの抵抗が大となって、圧縮能力の正確な調整が困難となる問題があった。
【0008】本発明は、シリンダのシリンダ室に配設されるピストンに、このシリンダ室を圧縮室と吸入室とに区画するブレード部を一体に設け、該ブレード部を前記シリンダに回転可能に設けられた支持体に揺動可能に支持させるようにした所謂揺動型のロータリー圧縮機においては、前記シリンダ室内で前記ピストンが回転されることなく、このピストンが公転駆動され、その吸入孔と対向する外周面位置が、該吸入孔に対し大きく位置変動されることがないことに着目して発明したもので、その目的は、前記ピストンの外周面に簡単な切削加工などを施すだけで、吸入ガスをバイパスさせるときの抵抗を少なくしながら、圧縮能力を正確に調整することができ、しかも、部品管理の繁雑化を招いたりすることなく、各種部品を共通化して製作コストを低廉にできるようにする点にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、シリンダ室11に、駆動軸3の偏心部31に挿嵌するピストン2を公転可能に内装して、このピストン2に、前記シリンダ室11を圧縮室Xと吸入孔13が開口する吸入室Yとに区画するブレード部21を一体的に突設し、このブレード部21をシリンダ1に回転可能に配設される支持体4に揺動可能に支持した揺動型ロータリー圧縮機において、前記ピストン2の外周面で、前記ブレード部21の突設位置に対し前記吸入室Y側に、前記ブレード部21の突設位置近くから公転方向前方に延び、前記吸入孔13から吸入される吸入ガスの吸入閉じ切り位置を、前記圧縮室X側に変位させる切欠部22を形成したのである。
【0010】また、請求項2記載の発明は、前記切欠部22における前記吸入孔13との対向位置に、該吸入孔13から導入される吸入ガスを前記吸入室Y側に案内する凹部22aを設けたのである。
【0011】さらに、請求項3記載の発明は、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって設け、その軸方向両側を前記ピストン2の軸方向端面に開放させたのである。
【0012】また、請求項4記載の発明は、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ中間部に設け、このピストン2の軸方向端面に対し閉鎖させたのである。
【0013】
【作用】請求項1記載の発明では、揺動型ロータリー圧縮機において、前記ピストン2の外周面に、前記ブレード部21の突設位置近くから公転方向前方に延び、前記吸入室Yのガス吸入閉じ切り位置を前記圧縮室X側に変位させる切欠部22を形成したから、前記ピストン2の前記切欠部22が前記シリンダ室11の内壁面に近接して対向している間は、該切欠部22により前記圧縮室Xと前記吸入室Yとが連通状態となるので、前記駆動軸3の駆動により前記ピストン2が公転駆動しても、前記圧縮室X内でのガス圧縮が開始されることはなく、前記圧縮室Xの吸入ガスの吸入閉じ切りは、前記切欠部22の形成位置より公転方向前方側の前記ピストン2の外周面が前記シリンダ室11に接触したときに初めて前記吸入室Yに対し前記圧縮室Xが密閉状に画成されて、該圧縮室X内でのガス圧縮が開始されるのである。
【0014】従って、ブレード部21を一体に突設する前記ピストン2を前記シリンダ室11内で公転駆動させるので、前記ピストン2の外周面に、その周方向長さを任意に前記切欠部22を形成するだけで、前記圧縮室Xの吸入ガスの吸入閉じ切り位置を前記圧縮室X側、即ち、前記吸入孔13の開口部よりも前記ピストン2の公転方向前方側に任意に変位させて、前記圧縮室X内におけるガス圧縮の開始時期を調整して、該圧縮室X内の圧縮容積を調整できるから、この圧縮室Xでの圧縮能力が自由に調整可能となって、前記揺動型ロータリー圧縮機の能力のバリエーションを拡大することができるのである。
【0015】しかも、前記切欠部22を任意の深さに形成するだけで、該切欠部22によって形成される空間で吸入ガスの吸入時における吸入抵抗を少なくでき、かつ、前記切欠部22を通過する際の通路抵抗も少なくできながら前記圧縮機の圧縮能力調整を正確かつ簡単に行うことができるのである。また、斯かる圧縮能力の調整を行う場合に、前記ピストン2以外の部品は何れも共通部品として使用できるのであり、従って、部品管理の繁雑化を招いたりすることなく、各種部品を共通化して製作コストを低廉にできるのである。
【0016】また、請求項2記載の発明では、前記切欠部22における前記吸入孔13との対向位置に、該吸入孔13から導入される吸入ガスを前記吸入室Y側に案内する凹部22aを形成したから、この凹部22aにより吸入開始時における前記吸入孔13の開口部近くの空間部をより広く取れるし、前記凹部22aにより前記吸入孔13からの吸入ガスを前記吸入室Yの公転方向前方側に向かって円滑に案内できるので、それだけ吸入抵抗をより少なく、かつ、より円滑に導入させられながら、この吸入室Yと前記圧縮室Xとを前記切欠部22により連通させて、圧縮能力の調整を正確に行うことができる。
【0017】さらに、請求項3記載の発明では、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって設け、その軸方向両側を前記ピストン2の軸方向端面に開放したから、前記切欠部22をエンドミル加工などにより簡単に形成でき、しかも、前記吸入孔13が前記シリンダ1の軸方向の如何なる箇所やフロントヘッドまたはリヤヘッドに形成されている場合であっても、常に、前記吸入孔13を前記切欠部22に開口できるので、前記吸入孔13から前記吸入室Yへの吸入抵抗を少なくでき、かつ、該吸入室Yから前記圧縮室X側への通路抵抗も少なくできながら、圧縮能力の調整を正確にできるのである。
【0018】また、請求項4記載の発明では、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ中間部に設け、このピストン2の軸方向端面に対し閉鎖したから、特に、前記シリンダ1に吸入孔13を形成する場合に、該吸入孔13は、一般に前記シリンダ1の軸方向中間部に形成されるので、前記切欠部22をピストン2の軸方向長さ中間部に形成することにより、前記吸入孔13の開口位置に対向させられ、前記切欠部22への吸入ガス抵抗を少なくできるし、前記ピストン2の軸方向端面に対し前記切欠部22を閉鎖状としているので、前記ピストン2の軸方向端面に所定厚みの肉厚を確保できるから、該ピストン2の内周側から外周側への高圧油の漏れを、前述した請求項3記載の発明のように、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって形成し、このピストン2の軸方向両側端面に前記切欠部22の軸方向両側を開放させる場合に比べ、該ピストン2における軸方向端面に所定の肉厚を確保できて、このピストン2の軸方向両側端面と前記各ヘッドとの間からの高圧油、冷媒の漏れを抑制することもできるのである。
【0019】
【実施例】図1は揺動型ロータリー圧縮機の要部を示しており、この圧縮機は、フロント及びリヤヘッド間に介装されるシリンダ1のシリンダ室11内にピストン2を配設し、該ピストン2の内部に駆動軸3の偏心部31を挿嵌させて、この駆動軸3の回転に伴い前記ピストン2を、その外周面を前記シリンダ室11の内壁面に接触させながら、同図矢印方向に公転駆動させるようになすと共に、前記ピストン2の外周部に径方向外方に向けて延びるブレード部21を一体に突出させる一方、前記シリンダ1に設けた吐出口12と吸入孔13との中間部位に支持体4を回転可能に設けて、該支持体4に前記ブレード部21を揺動及び進退出可能に支持させている。
【0020】そして、前記ピストン2に突設するブレード部21により、前記シリンダ室11内を、前記吸入孔11に連通する吸入室Yと、前記吐出口12に連通する圧縮室Xとに区画して、前記駆動軸3の駆動に伴い前記ピストン2の外周面を前記シリンダ室11の内壁面に沿って接触させながら移動させることにより、前記吸入孔13から前記吸入室Y内にガスを吸入し、また、前記圧縮室X内でガスを圧縮して前記吐出口12から吐出し、これらガスの吸入と圧縮とを繰り返すようにしている。
【0021】しかして、以上の構成において、まず、第1実施例について図1及び図2に基づいて説明する。第1実施例は、前記ピストン2の外周面における吸入室Y側に、前記ブレード部21の突出基部近くから公転方向前方側に延び、前記吸入孔13から前記吸入室Y側に吸入される吸入ガスの吸入閉じ切り位置を、前記圧縮室X側、即ち、前記ピストン2の公転方向前方側に変位させる切欠部22を形成したのである。
【0022】即ち、前記切欠部22は、図1及び図2で示したように、前記ピストン2の外周面における前記吸入孔13との対向位置から、前記ピストン2の公転方向前方側に向かって周方向に延びる所定長さに形成され、しかも、その軸方向長さ全長にわたって形成されており、前記切欠部22の軸方向両側を前記ピストン2の軸方向両側端面に開放させている。
【0023】以上の構成によれば、前記ピストン2の外周面(前記切欠部22形成部においては図1に示す仮想線)が前記シリンダ室11の内壁面に接触する点をOとすると、公転駆動時に、前記接触点Oが、図1で示すように、前記切欠部22の範囲に位置されている場合は、該切欠部22を介して前記吸入室Yと圧縮室Xとが互いに連通状態に保持され、この圧縮室X内のガスが前記吸入室Y側へと流れて、前記圧縮室X内でのガス圧縮は開始されないのであり、そして、前記接触点Oが前記ピストン2の公転方向前方側に移動されて、前記切欠部22の形成位置より公転方向前方側の前記ピストン2の外周面が前記シリンダ室11に接触したときに初めて前記吸入室Yに対し前記圧縮室Xが閉じ切られて密閉状に画成されて、該圧縮室X内でのガス圧縮が開始されるのである。
【0024】従って、本実施例は、ブレード部21を一体に突設する前記ピストン2を使用する揺動型のロータリー圧縮機であるので、前記ピストン2が前記シリンダ室11内で公転駆動され、従って、前記ピストン2に、その周方向長さを任意にして前記切欠部22を形成するだけで、前記圧縮室Xの吸入ガスの吸入閉じ切り位置を前記圧縮室X側、即ち、前記吸入孔13の開口部よりも前記ピストン2の公転方向前方側に任意に変位させられるので、前記圧縮室X内におけるガス圧縮の開始時期を調整することができ、該圧縮室X内の圧縮容積を調整でき、つまり、この圧縮室Xでの圧縮能力が自由に調整可能となって、前記揺動型ロータリー圧縮機の能力のバリエーションを拡大することができるのである。
【0025】しかも、前記ピストン2の外周面に任意の深さの前記切欠部22を設けられるので、切欠部22を前記吸入孔13に対向させることにより、前記切欠部22によって形成される空間で吸入ガスの吸入時における吸入抵抗を少なくできるし、該切欠部22を吸入ガスが通過するときの通路抵抗を少なくできながら、前記圧縮機の圧縮能力調整を正確かつ簡単に行うことができのであり、その上、前記切欠部22が形成されたピストン2以外の前記シリンダ1や駆動軸3などの部品を何れも共通部品として使用できるので、部品管理の繁雑化を招いたりすることなく、各種部品を共通化して製作コストを低廉にできるのである。
【0026】また、図1及び図2に示すように、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって形成し、該ピストン2の軸方向両側端面に前記切欠部22の軸方向両側を開放させるときには、この切欠部22をエンドミル加工などにより簡単に形成でき、しかも、前記吸入孔13が前記シリンダ1の軸方向長さの如何なる箇所や、フロントヘッドやリヤヘッドに形成されている場合にあっても、常に前記吸入孔13を前記切欠部22に開口させられるので、該吸入孔13から前記吸入室Yへの吸入抵抗を小としながら、該吸入室Yから前記圧縮室X側への通路抵抗も少なくして、圧縮能力の調整を正確に行うことができる。
【0027】さらに、図3に示す第2実施例のように、前記ピストン2の軸方向長さ両側部分だけに前記切欠部22をそれぞれ形成してもよく、斯くするときには、前記シリンダ1の両側に配設されるフロント及びリヤヘッドに前記吸入孔13を開設する場合に特に有効となり、該吸入孔13から吸入される吸入ガスを前記切欠部22に吸入抵抗少なく円滑に案内させて、圧縮能力調整を正確にできるのである。
【0028】また、前記切欠部22は、図4で示す第3実施例のように、前記ピストン2の軸方向長さ中間部に形成して、このピストン2の軸方向端面に対し閉鎖させるようにしてもよい。斯くするときには、特に、前記シリンダ1に吸入孔13を開設するとき、該吸入孔13は、一般に前記シリンダ1の軸方向中間部に開口させれることから、前記切欠部22への吸入ガス抵抗を少なくできながら、圧縮能力調整を正確に行うことができるのである。しかも、以上のように、前記切欠部22をピストン2の軸方向長さ中間部に設けて、このピストン2の軸方向端面に対し前記切欠部22を閉鎖状とするときには、前記ピストン2の軸方向端面に所定厚みの肉厚を確保できるので、前記ピストン2の内部側が高圧の潤滑油などが充満する高圧とされる一方、前記ピストン2の外周囲で前記吸入室Yとの対向側は吸入ガスが充満されて低圧とされているため、前記吸入孔13近くにおける前記ピストン2の内外部分は高低圧力差が大きくなり、また、このピストン2の軸方向両側端面はフロント及びリヤヘッドと対接されることから、前記した第1実施例のように、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって形成し、このピストン2の軸方向両側端面に前記切欠部22の軸方向両側を開放させていることから、前記ピストン2における軸方向端面の厚みが前記切欠部22により薄肉とされる場合に比べ、前記ピストン2における軸方向端面に所定の肉厚を確保できるので、前記高低圧力差により前記ピストン2の軸方向両側端面と前記各ヘッドとの間からの漏れを低減できるのである。
【0029】さらに、図5の第4実施例に示したように、前記切欠部22における、前記吸入孔13との対向位置に、該吸入孔13から導入される吸入ガスを前記吸入室Y側に案内する凹部22aを設けるようにしてもよく、斯くするときには、前記吸入孔13からの吸入開始時における吸入抵抗をより少なくでき、かつ、前記凹部22aを介して前記吸入孔13からの吸入ガスを前記吸入室Y内における公転方向前方側に向かって、より吸入抵抗少なく円滑に導入させることができながら、前記吸入室Yから前記圧縮室X内に前記切欠部22を介して円滑にバイパスさせ、圧縮能力の調整を正確に行うことができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、シリンダ1のシリンダ室11内に、駆動軸3の偏心部31に挿嵌するピストン2を公転可能に内装して、このピストン2に、前記シリンダ室11を圧縮室Xと吸入孔13が開口する吸入室Yとに区画するブレード部21を一体形成し、このブレード部21を前記シリンダ1に回転可能に配設される支持体4に揺動可能に支持した揺動型ロータリー圧縮機において、前記ピストン2の外周面で、前記ブレード部21の突設位置に対し前記吸入室Y側に、前記ブレード部21の突設位置近くから公転方向前方に延び、前記吸入孔13から吸入される吸入ガスの吸入閉じ切り位置を、前記圧縮室X側に変位させる切欠部22を設けたから、ブレード部21を一体に突設する前記ピストン2を前記シリンダ室11内で公転駆動させるので、前記ピストン2の外周面に、その周方向長さを任意に前記切欠部22を形成するだけで、前記圧縮室Xの吸入ガスの吸入閉じ切り位置を前記圧縮室X側、即ち、前記吸入孔13の開口部よりも前記ピストン2の公転方向前方側に任意に変位させて、前記圧縮室X内におけるガス圧縮の開始時期を調整して、該圧縮室X内の圧縮容積を調整できるから、この圧縮室Xでの圧縮能力が自由に調整可能となって、前記揺動型ロータリー圧縮機の能力のバリエーションを拡大することができるのである。
【0031】しかも、前記切欠部22を任意の深さに形成するだけで、該切欠部22によって形成される空間で吸入ガスの吸入時における吸入抵抗を少なくでき、かつ、前記切欠部22を通過する際の通路抵抗も少なくできながら前記圧縮機の圧縮能力調整を正確かつ簡単に行うことができるのである。また、斯かる圧縮能力の調整を行う場合に、前記ピストン2以外の部品は何れも共通部品として使用できるのであり、従って、部品管理の繁雑化を招いたりすることなく、各種部品を共通化して製作コストを低廉にできるのである。
【0032】また、請求項2記載の発明によれば、前記切欠部22における前記吸入孔13との対向位置に、該吸入孔13から導入される吸入ガスを前記吸入室Y側に案内させる凹部22aを形成したから、この凹部22aにより吸入開始時における前記吸入孔13の開口部近くの空間部をより広く取れるし、前記凹部22aにより前記吸入孔13からの吸入ガスを前記吸入室Yの公転方向前方側に向かって円滑に案内できるので、それたげ吸入抵抗をより少なく、かつ、より円滑に導入させられながら、この吸入室Yと前記圧縮室Xとを前記切欠部22により連通させて、圧縮能力の調整を正確に行うことができる。
【0033】さらに、請求項3記載の発明によれば、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって設け、その軸方向両側を前記ピストン2の軸方向端面に開放させたから、前記切欠部22をエンドミル加工などにより簡単に形成でき、しかも、前記吸入孔13が前記シリンダ1の軸方向の如何なる箇所やフロントヘッドまたはリヤヘッドに形成されている場合であっても、常に、前記吸入孔13を前記切欠部22に開口できるので、前記吸入孔13から前記吸入室Yへの吸入抵抗を少なくでき、かつ、該吸入室Yから前記圧縮室X側への通路抵抗も少なくできながら、圧縮能力の調整を正確にできるのである。
【0034】また、請求項4記載の発明によれば、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ中間部に設け、このピストン2の軸方向端面に対し閉鎖させたから、特に、前記シリンダ1に吸入孔13を形成する場合に、該吸入孔13は、一般に前記シリンダ1の軸方向中間部に形成されるので、前記切欠部22をピストン2の軸方向長さ中間部に形成することにより、前記吸入孔13の開口位置に対向させられ、前記切欠部22への吸入ガス抵抗を少なくできるし、前記ピストン2の軸方向端面に対し前記切欠部22を閉鎖状としているので、前記ピストン2の軸方向端面に所定厚みの肉厚を確保できるから、該ピストン2の内周側から外周側への高圧油の漏れを、前述した請求項3記載の発明のように、前記切欠部22を前記ピストン2の軸方向長さ全長にわたって形成し、このピストン2の軸方向両側端面に前記切欠部22の軸方向両側を開放させる場合に比べ、該ピストン2における軸方向端面に所定の肉厚を確保できて、このピストン2の軸方向両側端面と前記各ヘッドとの間からの高圧油、冷媒の漏れを抑制することもできるのである。
【0035】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる揺動型ロータリー圧縮機の第1実施例における要部を示す平面図である。
【図2】第1実施例のピストンを示す斜視図である。
【図3】第2実施例のピストンを示す斜視図である。
【図4】第3実施例のピストンを示す斜視図である。
【図5】第4実施例のピストンをシリンダ室に内装した状態を示す平面図である。
【図6】従来例を示す平面図である。
【符号の説明】
1 シリンダ
11 シリンダ室
13 吸入孔
2 ピストン
21 ブレード部
22 切欠部
22a 凹部
3 駆動軸
31 偏心部
4 支持体
X 圧縮室
Y 吸入室

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ室(11)に、駆動軸(3)の偏心部(31)に挿嵌するピストン(2)を公転可能に内装して、このピストン(2)に、前記シリンダ室(11)を圧縮室(X)と吸入孔(13)が開口する吸入室(Y)とに区画するブレード部(21)を一体的に突設し、このブレード部(21)をシリンダ(1)に回転可能に配設される支持体(4)に揺動可能に支持した揺動型ロータリー圧縮機であって、前記ピストン(2)の外周面で、前記ブレード部(21)の突設位置に対し前記吸入室(Y)側に、前記ブレード部(21)の突設位置近くから公転方向前方に延び、前記吸入孔(13)から吸入される吸入ガスの吸入閉じ切り位置を、前記圧縮室(X)側に変位させる切欠部(22)を形成していることを特徴とする揺動型ロータリー圧縮機。
【請求項2】 切欠部(22)は、吸入孔(13)との対向位置に、該吸入孔(13)から導入される吸入ガスを吸入室(Y)側に案内する凹部(22a)を有している請求項1記載の揺動型ロータリー圧縮機。
【請求項3】 切欠部(22)は、ピストン(2)の軸方向長さ全長にわたって設けられ、その軸方向両側が前記ピストン(2)の軸方向端面に開放している請求項1又は請求項2記載の揺動型ロータリー圧縮機。
【請求項4】 切欠部(22)は、ピストン(2)の軸方向長さ中間部に設けられ、このピストン(2)の軸方向端面に対し閉鎖している請求項1又は請求項2記載の揺動型ロータリー圧縮機。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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