説明

損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法

【課題】 震害などで損傷した鉄道高架橋柱の取り換えと同時に高架橋下の空間拡幅を行うことができる、損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法を提供する。
【解決手段】 損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、損傷を受けた既設鉄道高架橋柱1の塑性ヒンジ区間2,2′のコンクリートをはつり、座屈した軸方向鉄筋3,3′を露出させ、前記座屈した軸方向鉄筋5,5′を残して前記既設鉄道高架橋柱1を取り除き、前記座屈した軸方向鉄筋5,5′を曲げ戻し処理し、この曲げ戻し処理した軸方向鉄筋に新たな軸方向鉄筋6を継手7,7′で接続し、塑性ヒンジ区間保護キャップ8,8′を設置し、前記新たな軸方向鉄筋6に帯鉄筋9を巻き付け、この帯鉄筋9を巻き付けた前記軸方向鉄筋6にコンクリート10を打設することで、新たな鉄道高架橋柱への取り換えを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、震害、車両の衝突事故などにより損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法に関するものである。また、空間拡幅を目的とした既設RC(鉄筋コンクリート:Reinforced Concrete)ラーメン高架橋柱の取り換え工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋脚の補強方法としては、例えば、橋脚の周囲に全体的に鉄筋が入った鉄筋コンクリート構造を形成するようにしたものがある(下記特許文献1参照)。
また、橋脚の建て替え工法では、図2に示すように、建て替え対象となる既存の橋脚101に隣接した位置に、当該既存の橋脚101を挟み込むように、橋軸方向両側に新規橋脚102,103を建て、それらの新規橋脚102,103によって主桁105及び床版106からなる橋梁の上部構造体104が支持される状態とした後に、既存の橋脚101を撤去するようにしていた(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−177492号公報
【特許文献2】特開2008−303698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道高架橋柱が震害などにより損傷を受けた場合、これまでの高架橋柱の取り換え工法では、軸方向鉄筋を曲げ戻して、鋼板を巻き立てる工法などを用いていた。また、既設鉄道高架橋柱は駅部幅が大きいものが多く、これまでの高架橋柱の取り換え工法では、新しい柱の幅を既存の柱の幅より小さくして高架橋柱間の空間拡幅を行うことが難しかった。仮に柱の幅を小さくした場合には、本設構造物として十分な耐力を得ることができる高架橋柱の取り換え工法とならない可能性があった。
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みて、震害などで損傷した鉄道高架橋柱の取り換えと同時に高架橋下の空間拡幅を行うことができる、損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、損傷を受けた既設鉄道高架橋柱の塑性ヒンジ区間のコンクリートをはつり、座屈した軸方向鉄筋を露出させ、前記座屈した軸方向鉄筋を残して前記既設鉄道高架橋柱を取り除き、前記座屈した軸方向鉄筋を曲げ戻し処理し、この曲げ戻し処理した軸方向鉄筋に新たな軸方向鉄筋を継手で接続し、塑性ヒンジ区間保護キャップを設置し、前記新たな軸方向鉄筋に帯鉄筋を巻き付け、この帯鉄筋を巻き付けた軸方向鉄筋にコンクリートを打設することで、新たな鉄道高架橋柱への取り換えを行うことを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記コンクリートの打設幅を前記塑性ヒンジ区間の幅より狭くし、前記新たな鉄道高架橋柱間の空間拡幅を行うことを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記塑性ヒンジ区間保護キャップが、鋼板または超高強度繊維補強コンクリートからなることを特徴とする。
【0008】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記軸方向鉄筋の曲げ戻し処理は熱処理によって行うことを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記継手が重ね継手又は機械式継手であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、震害などにより損傷を受けた既設鉄道高架橋柱の塑性ヒンジ区間の鉄筋を利用した鉄道高架橋柱の取り換え工法を提供することができる。
また、鉄道高架橋下の空間を拡幅することができ、その空間の有効利用に資することができる。加えて、鉄道高架橋柱の性能向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例を示す損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法を示す図である。
【図2】従来の橋脚の建て替え工法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法は、損傷を受けた既設鉄道高架橋柱の塑性ヒンジ区間のコンクリートをはつり、座屈した軸方向鉄筋を露出させ、前記座屈した軸方向鉄筋を残して前記既設鉄道高架橋柱を取り除き、前記座屈した軸方向鉄筋を曲げ戻し処理し、この曲げ戻し処理した軸方向鉄筋に新たな軸方向鉄筋を継手で接続し、塑性ヒンジ区間保護キャップを設置し、前記新たな軸方向鉄筋に帯鉄筋を巻き付け、この帯鉄筋を巻き付けた軸方向鉄筋にコンクリートを打設することで、新たな鉄道高架橋柱への取り換えを行う。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法を示す図である。
本発明は、損傷した塑性ヒンジ区間の鉄筋を残して柱の取り換えを行うものである。なお、鉄道高架橋柱を切断して柱を取り除いた場合における高架橋柱の倒壊などを防ぐため、仮支柱による補強工事や仮工事が必要になるが、それらについては説明を省略する。
【0013】
(1)まず、図1(a)に示すように、既設鉄道高架橋柱である既設RCラーメン高架橋柱1を点検し、損傷の発生を確認する。例えば、震害による損傷の場合、特に、塑性ヒンジ区間2,2′に軸方向鉄筋3,3′の座屈等の損傷が発生しやすい。なお、Aは既設RCラーメン高架橋柱1の基台、Bは既設RCラーメン高架橋柱1の上部構造体である。
(2)次に、図1(b)に示すように、軸方向鉄筋3,3′の座屈が発生している塑性ヒンジ区間2,2′のコンクリートをはつり、鉄筋を露出させる。この時、既設RCラーメン高架橋柱1の塑性ヒンジ区間2,2′は損傷を受けているため、比較的容易にはつることができる。
【0014】
(3)次に、図1(c)に示すように、元の柱4を切断して取り除き、塑性ヒンジ区間2,2′の座屈した軸方向鉄筋3,3′のみにする。
(4)次に、図1(d)に示すように、座屈した軸方向鉄筋3,3′を所定本数残し、それを熱処理により曲げ戻して鉄筋5,5′とする。
(5)次に、図1(e)に示すように、座屈した軸方向鉄筋3,3′を曲げ戻した鉄筋5,5′に、軸方向鉄筋6を継手7,7′で新たに接続し、塑性ヒンジ区間保護キャップ8,8′を設置する。ここで、継手7,7′としては、例えば、重ね継手、機械式継手などを用いる。また、塑性ヒンジ区間保護キャップ8,8′は、鋼板や超高強度繊維補強コンクリートなどからなるものを用いる。
【0015】
(6)次に、図1(f)に示すように、軸方向鉄筋6に帯鉄筋9を巻き付ける。
(7)次に、図1(g)に示すように、帯鉄筋9を巻き付けた軸方向鉄筋6にコンクリート10を打設する。
(8)すると、図1(h)に示すように、既設RCラーメン高架橋柱の取り換えが完了する。ここで、新たな塑性ヒンジ区間11,11′が構築されることになる。
【0016】
このように、本発明の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法では、震害などにより損傷した塑性ヒンジ区間の軸方向鉄筋を曲げ戻して利用することにより新しい高架橋柱としてリニューアルする。また、既設鉄道高架橋柱の幅よりも狭い幅の柱とするようにコンクリートを打設することで、柱取り替え後の高架橋柱の空間を拡幅し、高架橋下の空間を有効利用することができる。
【0017】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法であって、震害などで損傷した鉄道高架橋柱の取り換え工法として利用可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 既設鉄道高架橋柱(既設RCラーメン高架橋柱)
2,2′ 塑性ヒンジ区間
3,3′ 座屈した軸方向鉄筋
4 元の柱
5,5′ 鉄筋
6 軸方向鉄筋
7,7′ 継手
8,8′ 塑性ヒンジ区間保護キャップ
9 帯鉄筋
10 コンクリート
11,11′ 新たな塑性ヒンジ区間
A 既設RCラーメン高架橋柱の基台
B 既設RCラーメン高架橋柱の上部構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)損傷を受けた既設鉄道高架橋柱の塑性ヒンジ区間のコンクリートをはつり、座屈した軸方向鉄筋を露出させ、
(b)前記座屈した軸方向鉄筋を残して前記既設鉄道高架橋柱を取り除き、
(c)前記座屈した軸方向鉄筋を曲げ戻し処理し、
(d)該曲げ戻し処理した軸方向鉄筋に新たな軸方向鉄筋を継手で接続し、塑性ヒンジ区間保護キャップを設置し、
(e)前記新たな軸方向鉄筋に帯鉄筋を巻き付け、
(f)該帯鉄筋を巻き付けた軸方向鉄筋にコンクリートを打設することで、新たな鉄道高架橋柱への取り換えを行うことを特徴とする損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法。
【請求項2】
請求項1記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記コンクリートの打設幅を前記塑性ヒンジ区間の幅より狭くし、前記新たな鉄道高架橋柱間の空間拡幅を行うことを特徴とする損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記塑性ヒンジ区間保護キャップが、鋼板または超高強度繊維補強コンクリートからなることを特徴とする損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記軸方向鉄筋の曲げ戻し処理は熱処理によって行うことを特徴とする損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法において、前記継手が重ね継手又は機械式継手であることを特徴とする損傷を受けた鉄道高架橋柱の取り換え工法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−144919(P2012−144919A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4655(P2011−4655)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】