説明

搬送波周波数測定装置及びその方法

【課題】 無線通信機の変調方式や伝送路のフェージングに影響されることなく、搬送波周波数を正確にかつ容易に測定する。
【解決手段】 無線信号を受信して、受信部2で中間周波数信号に変換し、この中間周波数信号を、A/D変換部3及び直交検波部4によりデジタル複素包絡信号に変換する。このデジタル複素包絡信号を、FM検波部5でFM検波して瞬時周波数を求め、平均値算出部6で、この瞬時周波数の平均値を、受信時の同調周波数に加算して搬送周波波数を算出する。こうすることにより、周波数選択性フェージングがあっても、極めて簡単にかつ正確に、リアルタイムで、搬送波周波数が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送波周波数測定装置及びその方法に関し、特に無線通信機における搬送波周波数を測定するための搬送波周波数測定方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信における電波監視時に、発射されている電波の質を測定する目的で、無線通信機からの送信搬送波周波数や帯域などの測定が行われている。搬送波周波数を求めるためには、FFT(Fast Fourier Transform)処理によって周波数スペクトラムを求めた後、パワーの周波数分析を行ってその中心値を搬送波周波数とする手法が、一般に用いられている。
【0003】
具体的には、低周波数側若しくは高周波数側からパワーを積分して、全パワーの50%となる周波数を搬送波周波数とする手法がある。また他の手法として、信号帯域を測定して低周波数側と高周波数側のカットオフ周波数をそれぞれ求め、その中心値を搬送波周波数とするものもある。
【0004】
なお、関連する技術として特許文献1〜3に記載の技術がある。
【特許文献1】特開2000−341348号公報
【特許文献2】特開2001−196861号公報
【特許文献3】特開2001−228242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなFFT処理を用いた手法では、次のような問題点がある。無線通信においては、マルチパスによる周波数選択性フェージング環境下で、伝送路歪みが発生するために、周波数スペクトラムに歪みが生じてしまい、よって、正確な周波数を測定することが困難であるということである。また、搬送波周波数を含んだ広帯域のスペクトラムを求めてから、搬送波周波数を抽出するという二段階の処理を行っているために、演算量が多くなり、またメモリの容量も多くなって、装置構成が複雑で高価となるということである。更に、処理のための演算量が多いので、リアルタイム処理が困難であるということである。
【0006】
そこで、上述した如き問題点をクリアすると共に、変調方式のいかんにかかわらず正確に搬送波周波数を測定することが要求される。
【0007】
本発明の目的は、無線通信機の変調方式や伝送路のフェージングに影響されることなく、搬送波周波数を正確かつ容易に測定することが可能な搬送波周波数測定装置及びその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による搬送波周波数測定装置は、無線信号の搬送波周波数を測定する搬送波周波数測定装置であって、前記無線信号を受信して中間周波数信号に変換する中間周波数信号変換手段と、この中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するデジタル複素包絡信号変換手段と、このデジタル複素包絡信号をFM検波して瞬時周波数を求めるFM検波手段と、この瞬時周波数の平均値を用いて前記搬送周波波数を算出する平均値算出手段とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明による搬送波周波数測定方法は、無線信号の搬送波周波数を測定する搬送波周波数測定方法であって、前記無線信号を受信して中間周波数信号に変換する中間周波数信号変換ステップと、この中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するデジタル複素包絡信号変換ステップと、このデジタル複素包絡信号をFM検波して瞬時周波数を求めるFM検波ステップと、この瞬時周波数の平均値を用いて前記搬送周波波数を算出する平均値算出ステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の作用を述べる。無線信号の搬送波周波数を測定するに際して、無線信号を受信して中間周波数信号に変換し、この中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換する。そして、このデジタル複素包絡信号をFM検波して瞬時周波数を求め、この瞬時周波数の平均値を、受信時の同調周波数に加算して搬送周波波数を算出する。こうすることにより、周波数選択性フェージングがあっても、極めて簡単にかつ正確に、リアルタイムで、搬送波周波数が求められる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の如き効果が得られる。第1の効果は、周波数選択性フェージング環境下においても、正確に搬送波周波数の測定が可能となることである。その理由は、瞬時周波数の出現頻度平均により搬送波周波数を求めているので、周波数選択性フェージングにより各周波数のパワーが変化しても、その影響を受けないからである。
【0012】
第2の効果は、様々な変調方式に広く対応できることである。その理由は、FM検波によって搬送波信号と被変調信号(音声信号やデータ信号)が求められ、そのうち被変調信号は直流成分を有していないために平均化処理により零となって、搬送波成分のみが抽出されるからである。
【0013】
第3の効果は、安価なハードウェア構成で搬送波周波数の測定が可能となることである。その理由は、FM検波を用いて瞬時周波数を直接求め、その時間平均を搬送波周波数として求めているので、処理に必要な演算量やメモリ容量が極めて少ないからである。第4の効果は、リアルタイム性に優れていることである。その理由は、処理に必要な演算量が少なく、電波を受信してから搬送波周波数を測定するまでの時間が短くて良いからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施の形態の機能ブロック図である。図1を参照すると、本発明による搬送波周波数測定装置は、FM検波方式を利用した搬送波周波数測定装置であって、アンテナ1、受信部2、A/D(アナログ/デジタル)変換部3、直交検波部4、FM検波部5、平均値算出部6からなる構成である。
【0015】
アンテナ1による受信信号は受信部2において中間周波数(IF)信号ダウンコンバートされる。このIF信号である中間周波数帯域通過信号は、A/D変換部3においてデジタル化されて直交検波部4へ入力される。この直交検波部4では、このIF帯域通過デジタル信号が直交検波されることにより、低周波数域の信号つまり複素包絡信号(デジタル複素包絡信号)に変換される。
【0016】
ここで、複素包絡信号とは、上述した如く、ある帯域通過信号と等価な低域通過信号(複素信号)のことであり、ある帯域通過信号を、u(t)exp(j2πft)としたとき、u(t)が複素包絡信号である。なお、exp(j2πft)は複素搬送波(搬送波周波数はf)である。この信号をデジタル化したものが、デジタル複素包絡信号と称されており、特許文献3にも開示されている。
【0017】
このデジタル複素包絡信号はFM検波部5へ入力されてその瞬時周波数が求められることになる。次の平均値算出部6においては、FM検波部5による瞬時周波数の平均値が、予め定められた時間における時間平均として算出されるが、受信部2からの同調周波数が、この平均値に加算されることにより、搬送波周波数が最終的に求められることになる。
【0018】
この平均値算出部6において、受信部2における同調周波数を加算する理由を述べる。先ず、FM検波部5でのFM検波では、受信信号の瞬時周波数が求められるが、ここで、変調波がAM変調の場合には、搬送波周波数そのものは変化させないので、瞬時周波数は搬送波周波数と等しくなり、FM変調などの角度変調(デジタル変調方式の場合も同じ)では、搬送波周波数が変化するが、そのときの変化は平均すると零になる。なぜならば、搬送波周波数の変化が送信すべき信号情報(音声など)であり、この信号情報は直流成分を含んでいないためである。
【0019】
そして、デジタル複素包絡信号のFM検波出力を平均して得られる結果は、同調周波数からのずれであるために、搬送波周波数(RF信号)を求めるためには、この同調周波数を当該ずれに加算することが必要になるのである。
【0020】
例えば、搬送波周波数(無線通信機の出力)が435.0001MHz、受信部2での同調周波数が435.0000MHzであるとすると、FM検波の平均により周波数差(ずれ)0.0001MHzが求められる。従って、これに同調周波数435.0000MHzを加算することにより、搬送波周波数435.0001MHzが求められることになる。
【0021】
以上の本発明の実施の形態の動作をフローチャートにして示したのが図2である。図2に示す如く、先ず、受信部2においてIF信号変換処理が行われ(ステップS1)、次に、A/D変換部3及び直交検波部4においてデジタル複素包絡信号が生成される(ステップS2)。そして、FM検波部5において瞬時周波数が測定され(ステップS3)、平均値算出部6にて搬送波周波数が求められることになる(ステップS4)。
【0022】
図3は周波数選択性フェージングの有無によるFM検波信号を示しており、(A)はフェージング無し、(B)はフェージング有りの場合であり、FM検波信号は周波数選択性フェージングの有無に影響を受けず、ほぼ(A)及び(B)共に同一の波形となっている。
【0023】
また、図4は周波数選択性フェージングの有無による周波数スペクトラムを示しており、(A)はフェージング無し、(B)はフェージング有りの場合である。周波数選択性フェージングにより周波数スペクトラムが歪み(図4(B))、高周波側のパワーが著しく減少していることが分る。
【0024】
なお、図5は具体的な評価結果を示す図である。本評価結果は、以下の条件でシミュレーションを実施したものである。
【0025】
変調方式:FM
搬送波周波数:20KHz
被変調信号:1KHz正弦波
変調指数:3.5
サンプリング周波数:100KHz
周波数選択性フェージング:3段の移動平均フィルタ
FFTポイント数:2048
FMポイント数:2048
【0026】
周波数フェージングが無い場合は、従来のFFT手法、本発明によるFM手法共に搬送波周波数の測定値は真の値20KHzを示しているが、周波数選択性フェージングがある場合には、周波数スペクトラムの変形によって(図4(B)参照)、FFT手法では大きな測定誤差が生じているのに対して、FM手法では何等影響を受けることなく正しい測定値が得られていることが分る。なお、一般に、無線信号はマルチパスによる周波数選択性フェージングの影響が避けられないので、本発明によるFM手法は有効になるのである。
【0027】
また、本FM手法は、FM検波によって搬送波信号と被変調信号(音声信号やデータ信号など)が求められ、そのうち被変調信号は直流成分を持たないために、平均化処理によって零となり、よって搬送波信号のみが抽出されることになる。その結果、種々の変調方式に広く対応可能となる。例えば、AM,FM,PMなどのアナログ変調方式のみならず、PSK,FSK,GMSK,QAMなどのデジタル変調方式に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図3】(A)は周波数選択性フェージング無しの場合のFM検波信号を示し、(B)は周波数選択性フェージング有りの場合のFM検波信号を示す。
【図4】(A)は周波数選択性フェージング無しの場合の周波数スペクトラムを示し、(B)は周波数選択性フェージング有りの場合の周波数スペクトラムを示す。
【図5】従来のFFT手法と本発明によるFM手法との評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 アンテナ
2 受信部
3 A/D変換部
4 直交検波部
5 FM検波部
6 平均値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号の搬送波周波数を測定する搬送波周波数測定装置であって、前記無線信号を受信して中間周波数信号に変換する中間周波数信号変換手段と、この中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するデジタル複素包絡信号変換手段と、このデジタル複素包絡信号をFM検波して瞬時周波数を求めるFM検波手段と、この瞬時周波数の平均値を用いて前記搬送周波波数を算出する平均値算出手段とを含むことを特徴とする搬送波周波数測定装置。
【請求項2】
前記平均値算出手段は、前記平均値と前記無線信号受信時の同調周波数とを加算して前記搬送周波波数を算出することを特徴とする請求項1記載の搬送波周波数測定装置。
【請求項3】
前記デジタル複素包絡信号変換手段は、前記中間周波数信号をデジタル変換する手段と、このデジタル変換出力を直交検波する手段とを有することを特徴とする請求項1または2記載の搬送波周波数測定装置。
【請求項4】
無線信号の搬送波周波数を測定する搬送波周波数測定方法であって、前記無線信号を受信して中間周波数信号に変換する中間周波数信号変換ステップと、この中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するデジタル複素包絡信号変換ステップと、このデジタル複素包絡信号をFM検波して瞬時周波数を求めるFM検波ステップと、この瞬時周波数の平均値を用いて前記搬送周波波数を算出する平均値算出ステップとを含むことを特徴とする搬送波周波数測定方法。
【請求項5】
前記平均値算出ステップは、前記平均値と前記無線信号受信時の同調周波数とを加算して前記搬送周波波数を算出することを特徴とする請求項4記載の搬送波周波数測定方法。
【請求項6】
前記デジタル複素包絡信号変換ステップは、前記中間周波数信号をデジタル変換するステップと、このデジタル変換出力を直交検波するステップとを有することを特徴とする請求項4または5記載の搬送波周波数測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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