説明

搬送用長寿命チェーン

【課題】プレート強度の低下とチェーン部品点数の増加を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮してローラとブシュとの間に潤滑油を長期に亘って供給する搬送用長寿命チェーンを提供すること。
【解決手段】内プレート110とブシュ120とローラ130と連結ピン140と外プレート150とから構成され、ローラ130とブシュ120との間に潤滑油が封入され、ローラ130の両端面から内プレート110に向けて突出形成した小径のローラ軸部131が、内プレート110の外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部111によりそれぞれ囲繞支持されている搬送用長寿命チェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送用コンベヤチェーン、伝動用ローラチェーンなどに用いる長寿命チェーンに係るものであって、特に、左右一対で離間配置された内プレートと該内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュと該ブシュに対して回転自在に外嵌された前後一対のローラと前記ブシュ内に対して回転自在に挿通された前後一対の連結ピンと該連結ピンの両端にピン孔を圧入嵌合させて内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートとを備え、前記ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を封入してなる搬送用長寿命チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
一対の外リンクプレートの両端部をピンで連結した外リンクと一対の内リンクプレートの両端部をブシュで連結すると共に該ブシュにローラを被嵌した内リンクとを前記ブシュに前記ピンを嵌挿することにより交互に連結し、かつ前記ブシュとローラとの間に封入される潤滑油をシールするシール手段を備えてなるシールチェーンが知られている。そして、このようなシールチェーンのシール手段は、前記内リンクプレートの内側面にブシュを囲むように形成された凹部と、前記ローラの両端部に遊嵌されたリング状のシールプレートと、前記凹部とシールプレートとの間に配置された弾性体からなるシールリングとを備えている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−282813号公報(第7頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したような従来のシールチェーンでは、ローラと内リンクプレートとの間を密封してローラとブシュとの間に注入された潤滑油のシール効果を持続させるために、シールリングとシールプレートが内リンクプレートの内側面に形成された凹部とローラとの間に押圧状態で配置され、このような押圧状態の押圧力によって、ローラと内リンクプレートとの間の相対的な回転抵抗が大きくなり、チェーン稼動時にローラが円滑に転動しなくなるという問題があった。
【0004】
また、リング部材と弾性シールリングが内リンクプレートやローラ等に対して摺接摩耗することによって生じるシール効果の低下を防止するために、シールリングおよびシールプレートと接触する内リンクプレートの内側面とローラの端面の表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があり、加工負担が増加するという問題があった。
【0005】
そして、シール手段としてのシールリングとシールプレートとを基本的なチェーン構成部品である内リンクプレートの内側面に形成された凹部とローラとの間に設けているので、チェーンの部品点数および組立工数が多くなり、チェーン組立性が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、プレート強度の低下とチェーン部品点数の増加を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮してローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を長期に亘って供給する搬送用長寿命チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、左右一対で離間配置された内プレートと該内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュと該ブシュに対して回転自在に外嵌された前後一対のローラと前記ブシュ内に対して回転自在に挿通された前後一対の連結ピンと該連結ピンの両端にピン孔を圧入嵌合させて内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートとを備え、前記ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を封入してなる搬送用長寿命チェーンにおいて、前記ローラの両端面から内プレートに向けて突出形成した小径のローラ軸部が、前記内プレートの外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記ブシュが前記潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、前記ブシュの外周面に刻設されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構成に加えて、前記ローラ軸支用環状膨出部の膨出面が、前記ローラ軸支用環状膨出部の凹陥面よりも大きな外径と小さな内径とを有していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0011】
請求項5に係る本発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の構成に加えて、前記ローラ軸支用環状膨出部の膨出面とローラの両端面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0012】
請求項6に係る本発明は、請求項5記載の構成に加えて、前記ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部のローラ両端面からの突出量Dkが、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0013】
請求項7に係る本発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の構成に加えて、前記ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部のローラ両端面からの突出量Dk、内プレート内側面の相互間隔Diおよびローラの幅Drが、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0014】
請求項8に係る本発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の構成に加えて、前記ローラ軸支用環状膨出部の膨出面の内径Wti、ローラ軸部の外径Wk、ローラの内径Wrおよびブシュの外径Wbが、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0015】
なお、本発明の搬送用長寿命チェーンで言うところの「オフセット状態」とは、ローラ軸支用環状膨出部とそれ以外のプレート部分とがプレート厚み方向にずれて段差状を呈している状態を意味している。
また、本発明の搬送用長寿命チェーンで言うところの「焼結含油金属材料」とは、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた金属材料を意味している。
また、本発明の搬送用長寿命チェーンで言うところの「ラビリンス構造形成粗面」とは、油溜り用ラビリンス構造を形成し得る粗面を意味している。
【発明の効果】
【0016】
そこで、本発明は、左右一対で離間配置された内プレートと内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュとブシュに対して回転自在に外嵌された前後一対のローラとブシュ内に対して回転自在に挿通された前後一対の連結ピンと連結ピンの両端にピン孔を圧入嵌合させて内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートとを備え、ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を封入していることにより、外部からの無給油状態で長期にわたってチェーン駆動することができるばかりでなく、以下のような特有の効果を奏することができる。
【0017】
請求項1に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、ローラの両端面から内プレートに向けて突出形成した小径のローラ軸部が、内プレートの外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部によりそれぞれ囲繞支持されていることにより、このようなローラ軸部とローラ軸支用環状膨出部と内プレートの内側面との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造となって、チェーン走行時の周回走行によって生じる遠心力等に起因したローラとブシュとの間に封入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン走行時において搬送物を支持するとともに走行するチェーンを支持して摺動頻度が高く摩耗が進行し易いローラの内周面とブシュの外周面の摩耗損傷や焼付きを抑制できる。
【0018】
また、ローラ軸支用環状膨出部が内プレートの外側面を凹陥させて内側面に膨出させたオフセット状態で形成されていることにより、ローラ軸支用環状膨出部の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ローラ軸支用環状膨出部を形成することによる内プレートの強度低下を抑制できるとともに、内プレートのプレス打ち抜き加工を行う際に、内プレートの外側面を凹陥させて内側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、内プレートの打ち抜き加工とローラ軸支用環状膨出部の形成加工とを同時に行うことができるので、内プレートの打ち抜き加工とは別途にローラ軸支用環状膨出部を形成する研削やミーリング等の機械加工を内プレートに施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0019】
また、内プレートとローラとの間には、従来のシールチェーンのような内リンクプレートとローラとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部材として設けていないので、ローラの転動抵抗が小さく、チェーン稼動時にローラが円滑に転動しながらスプロケットに噛み合うとともに、チェーンの部品点数が少なくチェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業が容易である。
また、従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの内側面とローラの端面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の搬送用長寿命チェーンでは、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0020】
請求項2に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項1記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ブシュが潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されていることにより、ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュの内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がローラの内周面とブシュの外周面との間に徐々に滲み出すので、ローラの内周面とブシュの外周面との間の摺接摩耗を低減でき、また、焼結含油金属材料からなるブシュは何らの加工を施していない通常のブシュと同形状を呈しており、通常のブシュと同様に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎなどの分解組み付け作業を簡便に達成できる。
【0021】
請求項3に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項1または請求項2記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑剤を供給する油溜り溝が、ブシュの外周面に刻設されていることにより、より多くの潤滑油を封入してローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を継続的に供給するので、ローラの内周面とブシュの外周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、ローラとブシュとの間で発生する摺動音や焼付きを防止できるとともに、スプロケットとの噛み合い時にローラが円滑に転動しながら噛み合うため、チェーンの摩耗を防止できる。
【0022】
請求項4に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ローラ軸支用環状膨出部の膨出面が、ローラ軸支用環状膨出部の凹陥面よりも大きな外径と小さな内径とを有していることにより、内プレートに形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として凹陥面の外径よりも大径で膨出面の外径よりも小径なプレート部分の断面係数、および、ブシュ圧入孔を中心として膨出面の内径よりも大径で凹陥面の内径よりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりもそれぞれ大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレートの段差部分の強度を向上できる。
【0023】
請求項5に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ローラ軸支用環状膨出部の膨出面とローラの両端面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることにより、ローラ軸支用環状膨出部の膨出面とローラの両端面との間には油溜り用ラビリンス構造が形成されているので、ローラの内周面とブシュの外周面との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ローラの内周面とブシュの外周面との間に注入された潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0024】
請求項6に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項5記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部のローラ両端面からの突出量Dkが、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン稼動時にローラが内プレートに対してチェーン幅方向に片寄った際にも、摺接抵抗の小さいローラ軸部の端面と内プレートの内側面とが互いに接触して、摺接抵抗の大きいローラ軸支用環状膨出部の膨出面とローラの両端面とが接触することを完全に阻止するので、ローラの転動抵抗が小さく、チェーン稼動時にローラが円滑に転動しながらスプロケットに噛み合うため、チェーンの摩耗を防止できる。
【0025】
請求項7に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部のローラ両端面からの突出量Dk、内プレート内側面の相互間隔Diおよびローラの幅Drが、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、チェーン稼動時にローラが内プレートに対してチェーン幅方向に片寄った際にも、ローラ軸部がローラ軸支用環状膨出部から外れることを阻止して潤滑油の外部漏出を防止するので、ブシュの外周面とローラの内周面の摺接摩耗や焼付きを抑制できる。
【0026】
請求項8に係る本発明の搬送用長寿命チェーンによれば、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーンが奏する効果に加えて、ローラ軸支用環状膨出部の膨出面の内径Wti、ローラ軸部の外径Wk、ローラの内径Wrおよびブシュの外径Wbが、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されていることにより、ローラがブシュに対してチェーン進行方向に片寄った際に、ローラの内周面とブシュの外周面とが接触して、ローラ軸部の外周面とローラ軸支用環状膨出部の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するので、ローラ軸部の外周面とローラ軸支用環状膨出部の内周面との摺動接触に起因する摩耗粉がローラの内周面とブシュの外周面との間に侵入して、このような摩耗粉が研摩剤となってローラの内周面とブシュの外周面との間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、左右一対で離間配置された内プレートと該内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュと該ブシュに対して回転自在に外嵌された前後一対のローラと前記ブシュ内に対して回転自在に挿通された前後一対の連結ピンと該連結ピンの両端にピン孔を圧入嵌合させて内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートとを備え、前記ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を封入してなる搬送用長寿命チェーンにおいて、前記ローラの両端面から内プレートに向けて突出形成した小径のローラ軸部が、前記内プレートの外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部によりそれぞれ囲繞支持されて、プレート強度の低下とチェーン部品点数の増加を回避しつつチェーン製造負担を大幅に軽減するとともに、チェーン稼動時における潤滑油の外部漏出と外部塵埃の侵入を防止して、しかも、ブシュが優れた潤滑油の徐放性を発揮してローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を長期に亘って供給するものであれば、その具体的な実施の形態は如何なるものであっても何ら構わない。
【0028】
例えば、本発明の搬送用長寿命チェーンに組み込まれるローラの具体的材料については、耐摩耗性、耐衝撃性を備えたものであれば、工具鋼、ステンレス鋼、ゴム、エンプラと称するエンジニアリングプラスチックなどのいずれであっても良く、特に、工具鋼を採用した場合には、ブシュや内プレート等との摺動接触に起因した摩耗損傷を防止できるので、より好ましい。
【0029】
また、本発明の搬送用長寿命チェーンに組み込まれるブシュの具体的な態様については、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されて強靱性および潤滑油の徐放性を発揮するものであれば、焼結含油金属材料の焼結密度やその原料となる金属粉末の具体的な種類や組み合わせは如何なるものであっても良く、特に、焼結含油金属材料が、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されている場合には、ブシュがチェーン張力に起因する剪断力および衝撃力を受けるための強靱性能や多くの潤滑油を含浸させて長期に亘ってローラとブシュとの間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮できる。
【0030】
また、本発明の搬送用長寿命チェーンにおいて用いられる潤滑油の具体的な種類については、潤滑性や耐劣化性を備えたものであれば如何なるものであって良く、特に、ポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用した場合には、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュの内部に形成された気孔に目詰まりを生じさせることなくブシュの気孔から長期に亘ってローラとブシュとの間に滲み出て摺接摩耗を抑制できる。
【0031】
また、本発明の搬送用長寿命チェーンにおける油溜り溝の具体的形状については、Dカット形状の凹溝、ブシュの外周面に周設した環状の凹溝などいずれであっても差し支えないが、Dカット形状の凹溝の場合には、ブシュの強度を低下させることなく多くの潤滑油を封入することができるので、より好ましい。
また、本発明の搬送用長寿命チェーンにおける油溜り溝の個数については、連結ピンの外周面に1つ設けたもの、連結ピンの外周面に2つ設けたものなどいずれであっても差し支えない。
【0032】
また、本発明の搬送用長寿命チェーンにおけるローラ軸部の具体的な形状については、外周面が円形に形成されたもの、外周面が多角形に形成されたものなどいずれであっても差し支えない。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の第1実施例である搬送用長寿命チェーン100を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例である搬送用長寿命チェーンの一部を切り欠いた全体概要図であり、図2は、図1に示す搬送用長寿命チェーンの連結状態を示す斜視図であり、図3は、図1に示す搬送用長寿命チェーンを一部拡大視した断面図であり、図4は、図1に示す搬送用長寿命チェーンに組み込まれるブシュを一部拡大視した斜視図であり、図5は、図1に示す搬送用長寿命チェーンの組み付け寸法図であり、図6は、図1の搬送用長寿命チェーンに組み込まれるローラがチェーン幅方向に片寄った状態を示す寸法図であり、図7は、図1の搬送用長寿命チェーンに組み込まれるローラがチェーン進行方向に片寄った状態を示す寸法図である。
【0034】
まず、本発明の第1実施例である搬送用長寿命チェーン100は、図1および図3に示すように、左右一対で離間配置された内プレート110と、内プレート110のブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュ120と、ブシュ120に回転自在に外嵌された前後一対のローラ130と、ブシュ120の内部に回転自在に挿通された前後一対の連結ピン140と、連結ピン140の両端をピン孔に圧入嵌合して内プレート110をチェーン長手方向に連結する左右一対で離間配置された外プレート150とを備えている。
そして、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に潤滑油が封入されている。
【0035】
そこで、本実施例の搬送用長寿命チェーン100が最も特徴とする内プレート110およびローラ130の具体的な形態について図2乃至図7により詳しく説明する。
まず、図2および図3に示すように、内プレート110には、外側面を凹陥させて、すなわち、凹ませて陥らせてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部111が形成されており、このローラ軸支用環状膨出部111にローラ130の両端面から内プレート110に向けて突出形成した小径のローラ軸部131がそれぞれ囲繞支持されている。
なお、本発明の搬送用長寿命チェーン100で言うところの「オフセット状態」とは、ローラ軸支用環状膨出部111とそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0036】
ブシュ120は、図4に示すように、焼結含油金属材料、すなわち、その内部に無数の気孔121を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた金属材料から成形されており、そのため、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ120の内部に形成された無数の気孔121に含浸された潤滑油がローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に徐々に滲み出すようになっている。
なお、この焼結含油金属材料は、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されており、そのため、ブシュ120は、チェーン張力に起因する剪断力および衝撃力を受けるための強靱性能と、多くの潤滑油を含浸させて長期に亘ってローラ130とブシュ120との間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮するようになっている。
また、本実施例の搬送用長寿命チェーン100では、潤滑油としてポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用しており、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュ120の内部に形成された気孔121に目詰まりを生じさせることなくブシュ120の気孔121から長期に亘って安定してローラ130とブシュ120との間に滲み出て摺接摩耗を抑制するようになっている。
【0037】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aとローラ130の両端面は、図3に示すように、梨地状のラビリンス構造形成粗面112、132をそれぞれ有しており、このラビリンス構造形成粗面112、132は、相互に近接対向してローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aとローラ130の両端面との間に油溜り用ラビリンス構造Lを形成して、ローラ130とブシュ120との間に注入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を防止するようになっている。
【0038】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aの外径Wtoは、図5に示すように、ローラ軸支用環状膨出部111の凹陥面111bの外径Wzoより大きく設定されており、内プレート110の段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として膨出面111aの外径Wtoよりも小径で凹陥面111bの外径Wzoよりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなって、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレート110の段差部分の強度を向上するようになっている。
【0039】
また、ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aの内径Wtiは、図5に示すように、ローラ軸支用環状膨出部111の凹陥面111bの内径Wziより小さく設定されており、内プレート110に形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として膨出面111aの内径Wtiよりも大径で凹陥面111bの内径Wziよりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるようになっている。
【0040】
ローラ軸支用環状膨出部111の内プレート110の内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部131のローラ130の両端面からの突出量Dkは、図5に示すように、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されており、図6に示すように、チェーン稼動時にローラ130が内プレート110に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、摺接抵抗の小さいローラ軸部131の端面と内プレート110の内側面とが互いに接触して、摺接抵抗の大きいローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aとローラ130の両端面とが接触することを完全に阻止するようになっている。
【0041】
ローラ軸支用環状膨出部111の内プレート110の内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部131のローラ130の両端面からの突出量Dk、内プレート110の内側面の相互間隔Diおよびローラ130の幅Drは、図5に示すように、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されており、図6に示すように、チェーン稼動時にローラ130が内プレート110に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、ローラ軸部131がローラ軸支用環状膨出部111から外れることを防止するようになっている。
【0042】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aの内径Wti、ローラ軸部131の外径Wk、ローラ130の内径Wrおよびブシュ120の外径Wbは、図5に示すように、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されており、図7に示すように、ローラ130がブシュ120に対してチェーン進行方向に片寄った際に、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面とが接触して、ローラ軸部131の外周面とローラ軸支用環状膨出部111の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するようになっている。
【0043】
このようにして得られた本実施例の搬送用長寿命チェーン100は、ローラ130の両端面から内プレート110に向けて突出形成した小径のローラ軸部131が、内プレート110の外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部111によりそれぞれ囲繞支持されている。
したがって、このようなローラ軸部131とローラ軸支用環状膨出部111と内プレート110の内側面との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造Lとなって、チェーン走行時の周回走行によって生じる遠心力等に起因したローラ130とブシュ120との間に封入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン走行時において搬送物を支持するとともに走行するチェーンを支持して摺動頻度が高く摩耗が進行し易いローラ130の内周面とブシュ120の外周面の摩耗損傷や焼付きを抑制できる。
【0044】
ローラ軸支用環状膨出部111が、内プレート110の外側面を凹陥させて内側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ローラ軸支用環状膨出部111の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ローラ軸支用環状膨出部111を形成することによる内プレート110の強度低下を抑制できるとともに、内プレート110のプレス打ち抜き加工を行う際に、内プレート110の外側面を凹陥させて内側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、内プレート110の打ち抜き加工とローラ軸支用環状膨出部111の形成加工とを同時に行うことができるので、内プレート110の打ち抜き加工とは別途にローラ軸支用環状膨出部111を形成する研削やミーリング等の機械加工を内プレート110に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0045】
また、内プレート110とローラ130との間には、従来のシールチェーンのような内リンクプレートとローラとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部材として設けていないので、ローラ130の転動抵抗が小さく、チェーン稼動時にローラ130が円滑に転動しながらスプロケットに噛み合うとともに、チェーンの部品点数が少なくチェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業が容易である。
また、従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの内側面とローラの端面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の搬送用長寿命チェーン100では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0046】
ブシュ120が、潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されている。
したがって、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュ120が優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ120の内部に形成された無数の気孔121に含浸された潤滑油がローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に徐々に滲み出すので、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間の摺接摩耗を低減でき、また、焼結含油金属材料からなるブシュ120は何らの加工を施していない通常のブシュと同形状を呈しており、通常のブシュと同様に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎなどの分解組み付け作業を簡便に達成できる。
【0047】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aの外径Wtoが、ローラ軸支用環状膨出部111の凹陥面111bの外径Wzoより大きく設定されている。
したがって、内プレート110に形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として凹陥面111bの外径Wzoよりも大径で膨出面111aの外径Wtoよりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレート110の段差部分の強度を向上できる。
【0048】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aの内径Wtiが、ローラ軸支用環状膨出部111の凹陥面111bの内径Wziより小さく設定されている。
したがって、内プレート110に形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として膨出面111aの内径Wtiよりも大径で凹陥面111bの内径Wziよりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレート110の段差部分の強度を向上できる。
【0049】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aとローラ130の両端面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面112、132を備えている。
したがって、ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aとローラ130の両端面との間には油溜り用ラビリンス構造Lが形成されているので、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に注入された潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0050】
ローラ軸支用環状膨出部111の内プレート110の内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部131のローラ130の両端面からの突出量Dkが、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時にローラ130が内プレート110に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、摺接抵抗の小さいローラ軸部131の端面と内プレート110の内側面とが互いに接触して、摺接抵抗の大きいローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aとローラ130の両端面とが接触することを完全に阻止するので、ローラ130の転動抵抗が小さく、チェーン稼動時にローラ130が円滑に転動しながらスプロケットに噛み合うため、チェーンの摩耗を防止できる。
【0051】
ローラ軸支用環状膨出部111の内プレート110の内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部131のローラ130の両端面からの突出量Dk、内プレート110の内側面の相互間隔Diおよびローラ130の幅Drが、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時にローラ130が内プレート110に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、ローラ軸部131がローラ軸支用環状膨出部111から外れることを阻止して潤滑油の外部漏出を防止するので、ブシュ120の外周面とローラ130の内周面の摺接摩耗や焼付きを抑制できる。
【0052】
ローラ軸支用環状膨出部111の膨出面111aの内径Wti、ローラ軸部131の外径Wk、ローラ130の内径Wrおよびブシュ120の外径Wbが、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、ローラ130がブシュ120に対してチェーン進行方向に片寄った際に、ローラ130の内周面とブシュ120の外周面とが接触して、ローラ軸部131の外周面とローラ軸支用環状膨出部111の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するので、ローラ軸部131の外周面とローラ軸支用環状膨出部111の内周面との摺動接触に起因する摩耗粉がローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間に侵入して、このような摩耗粉が研摩剤となってローラ130の内周面とブシュ120の外周面との間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止できるなど、その効果は甚大である。
【0053】
つぎに、本発明の第2実施例である搬送用長寿命チェーン200について、図8および図9に基づいて説明する。
まず、本発明の第2実施例である搬送用長寿命チェーン200は、図8および図9に示すように、左右一対で離間配置された内プレート210と、内プレート210のブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュ220と、ブシュ220に回転自在に外嵌された前後一対のローラ230と、ブシュ220の内部に回転自在に挿通された前後一対の連結ピン240と、連結ピン240の両端をピン孔に圧入嵌合して内プレート210をチェーン長手方向に連結する左右一対で離間配置された外プレート250とを備えている。
そして、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に、潤滑油が封入されている。
【0054】
そこで、本実施例の搬送用長寿命チェーン200が最も特徴とする内プレート210、ブシュ220、およびローラ230の具体的な形態について図8および図9により詳しく説明する。
まず、図8および図9に示すように、内プレート210には、外側面を凹陥させて、すなわち、凹ませて陥らせてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部211が形成されており、このローラ軸支用環状膨出部211にローラ230の両端面から内プレート210に向けて突出形成した小径のローラ軸部231がそれぞれ囲繞支持されている。
なお、本発明の搬送用長寿命チェーン200で言うところの「オフセット状態」とは、ローラ軸支用環状膨出部211とそれ以外のプレート部分とがずれて段差状を呈している状態を意味している。
【0055】
ブシュ220は、焼結含油金属材料、すなわち、その内部に無数の気孔を有するように金属粉末を圧縮成形して融解点以下の温度で焼結することで得られた多孔質材に潤滑油を含浸させた金属材料から成形されており、そのため、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ220の内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に徐々に滲み出すようになっている。
なお、この焼結含油金属材料は、鉄、銅、ニッケル、クロムモリブデン鋼などを配合してなる混合金属粉末を圧縮形成するとともに6.0g/cm〜7.0g/cmの焼結密度で焼結することで成形されており、そのため、ブシュ220は、チェーン張力に起因する剪断力および衝撃力を受けるための強靱性能と、多くの潤滑油を含浸させて長期に亘ってローラ230とブシュ220との間に潤滑油を供給する含油性能および徐放性能の両方をバランス良く兼ね備えて充分に発揮するようになっている。
また、本実施例の搬送用長寿命チェーン200では、潤滑油としてポリαオレフィンやポリオールエステルなどの合成系炭化水素を基油とする合成油を採用しており、優れた粘性、潤滑性、耐劣化性を発揮して、ブシュ220の内部に形成された気孔に目詰まりを生じさせることなくブシュ220の気孔から長期に亘って安定してローラ230とブシュ220との間に滲み出て摺接摩耗を抑制するようになっている。
【0056】
ブシュ220の外周面には、図8および図9に示すように、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に潤滑油を供給するDカット形状の油溜り溝222が2つ刻設されており、より多くの潤滑油を封入してローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に潤滑油を継続的に供給するようになっている。
【0057】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aとローラ230の両端面は、図9に示すように、梨地状のラビリンス構造形成粗面212、232をそれぞれ有しており、このラビリンス構造形成粗面212、232は、相互に近接対向してローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aとローラ230の両端面との間に油溜り用ラビリンス構造Lを形成して、ローラ230とブシュ220との間に注入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を防止するようになっている。
【0058】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aの外径は、ローラ軸支用環状膨出部211の凹陥面211bの外径より大きく設定されており、内プレート210の段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として膨出面211aよりも小径で凹陥面211bよりも大径なプレート部分の断面係数がそれ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなって、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレート210の段差部分の強度を向上するようになっている。
【0059】
また、ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aの内径は、ローラ軸支用環状膨出部211の凹陥面211bの内径より小さく設定されており、内プレート210に形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として膨出面211aの内径よりも大径で凹陥面211bの内径よりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるようになっている。
【0060】
ローラ軸支用環状膨出部211の内プレート210の内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部231のローラ230の両端面からの突出量Dkは、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されており、チェーン稼動時にローラ230が内プレート210に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、摺接抵抗の小さいローラ軸部231の端面と内プレート210の内側面とが互いに接触して、摺接抵抗の大きいローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aとローラ230の両端面とが接触することを完全に阻止するようになっている。
【0061】
ローラ軸支用環状膨出部211の内プレート210の内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部231のローラ230の両端面からの突出量Dk、内プレート210の内側面の相互間隔Diおよびローラ230の幅Drは、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されており、チェーン稼動時にローラ230が内プレート210に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、ローラ軸部231がローラ軸支用環状膨出部211から外れることを防止するようになっている。
【0062】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aの内径Wti、ローラ軸部231の外径Wk、ローラ230の内径Wrおよびブシュ220の外径Wbは、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されており、ローラ230がブシュ220に対してチェーン進行方向に片寄った際に、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面とが接触して、ローラ軸部231の外周面とローラ軸支用環状膨出部211の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するようになっている。
【0063】
このようにして得られた本実施例の搬送用長寿命チェーン200は、ローラ230の両端面から内プレート210に向けて突出形成した小径のローラ軸部231が、内プレート210の外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部211によりそれぞれ囲繞支持されている。
したがって、このようなローラ軸部231とローラ軸支用環状膨出部211と内プレート210の内側面との間に生じた潤滑油の漏出径路が複雑に屈曲して油溜り機能を発揮する油溜り用ラビリンス構造Lとなって、チェーン走行時の周回走行によって生じる遠心力等に起因したローラ230とブシュ220との間に封入された潤滑油の外部漏出を抑制するとともに外部塵埃の侵入を抑制するので、チェーン走行時において搬送物を支持するとともに走行するチェーンを支持して摺動頻度が高く摩耗が進行し易いローラ230の内周面とブシュ220の外周面の摩耗損傷や焼付きを抑制できる。
【0064】
ローラ軸支用環状膨出部211が、内プレート210の外側面を凹陥させて内側面に膨出させたオフセット状態で形成されている。
したがって、ローラ軸支用環状膨出部211の断面係数とそれ以外のプレート部分の断面係数とが同程度となるので、ローラ軸支用環状膨出部211を形成することによる内プレート210の強度低下を抑制できるとともに、内プレート210のプレス打ち抜き加工を行う際に、内プレート210の外側面を凹陥させて内側面へ膨出させる形状の金型を用いるだけで、内プレート210の打ち抜き加工とローラ軸支用環状膨出部211の形成加工とを同時に行うことができるので、内プレート210の打ち抜き加工とは別途にローラ軸支用環状膨出部211を形成する研削やミーリング等の機械加工を内プレート210に施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0065】
また、内プレート210とローラ230との間には、従来のシールチェーンのような内リンクプレートとローラとの間に押圧状態で配置したシール部材を別部材として設けていないので、ローラ230の転動抵抗が小さく、チェーン稼動時にローラ230が円滑に転動しながらスプロケットに噛み合うとともに、チェーンの部品点数が少なくチェーン切り継ぎ等の分解組み付け作業が容易である。
また、従来のシールチェーンでは、シール部材の摺接摩耗を防止して潤滑油の密封性を維持するために、内リンクプレートの内側面とローラの端面に表面粗さを小さくする表面仕上げ加工を施す必要があったが、本発明の搬送用長寿命チェーン200では、従来のような表面仕上げ加工を施す必要がなく、チェーンの製造負担を軽減できる。
【0066】
ブシュ220が、潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されている。
したがって、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に潤滑油が充分に供給されてない状態となっても、ブシュ220が優れた潤滑油の徐放性を発揮して、すなわち、チェーン稼動時の周回走行によって生じる遠心力等に起因してブシュ220の内部に形成された無数の気孔に含浸された潤滑油がローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に徐々に滲み出すので、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間の摺接摩耗を低減でき、また、焼結含油金属材料からなるブシュ220は何らの加工を施していない通常のブシュと同形状を呈しており、通常のブシュと同様に取り扱うことができるので、チェーン切り継ぎなどの分解組み付け作業を簡便に達成できる。
【0067】
ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に潤滑剤を供給する油溜り溝222が、ブシュ220の外周面に刻設されている。
したがって、より多くの潤滑油を封入してローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に潤滑油を継続的に供給するので、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面の摺接摩耗を長期に亘って低減でき、ローラ230とブシュ220との間で発生する摺動音や焼付きを防止できるとともに、スプロケットとの噛み合い時にローラ230が円滑に転動しながら噛み合うため、チェーンの摩耗を防止できる。
【0068】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aの外径が、ローラ軸支用環状膨出部211の凹陥面211bの外径より大きく設定されている。
したがって、内プレート210に形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として凹陥面211bの外径よりも大径で膨出面211aの外径よりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレート210の段差部分の強度を向上できる。
【0069】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aの内径が、ローラ軸支用環状膨出部211の凹陥面211bの内径より小さく設定されている。
したがって、内プレート210に形成された段差部分、すなわち、ブシュ圧入孔を中心として膨出面211aの内径よりも大径で凹陥面211bの内径よりも小径なプレート部分の断面係数が、それ以外のプレート部分の断面係数よりも大きくなるので、チェーン稼動時に疲労破壊を生じがちな内プレート210の段差部分の強度を向上できる。
【0070】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aとローラ230の両端面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面212、232を備えている。
したがって、ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aとローラ230の両端面との間には油溜り用ラビリンス構造Lが形成されているので、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に注入された潤滑油のシール効果をより一層向上させることができ、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に注入された潤滑油の外部漏出および外部塵埃の侵入を防止できる。
【0071】
ローラ軸支用環状膨出部211の内プレート210の内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部231のローラ230の両端面からの突出量Dkが、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時にローラ230が内プレート210に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、摺接抵抗の小さいローラ軸部231の端面と内プレート210の内側面とが互いに接触して、摺接抵抗の大きいローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aとローラ230の両端面とが接触することを完全に阻止するので、ローラ230の転動抵抗が小さく、チェーン稼動時にローラ230が円滑に転動しながらスプロケットに噛み合うため、チェーンの摩耗を防止できる。
【0072】
ローラ軸支用環状膨出部211の内プレート210の内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部231のローラ230の両端面からの突出量Dk、内プレート210の内側面の相互間隔Diおよびローラ230の幅Drが、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、チェーン稼動時にローラ230が内プレート210に対してチェーン幅方向に片寄った際にも、ローラ軸部231がローラ軸支用環状膨出部211から外れることを阻止して潤滑油の外部漏出を防止するので、ブシュ220の外周面とローラ230の内周面の摺接摩耗や焼付きを抑制できる。
【0073】
ローラ軸支用環状膨出部211の膨出面211aの内径Wti、ローラ軸部231の外径Wk、ローラ230の内径Wrおよびブシュ220の外径Wbが、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されている。
したがって、ローラ230がブシュ220に対してチェーン進行方向に片寄った際に、ローラ230の内周面とブシュ220の外周面とが接触して、ローラ軸部231の外周面とローラ軸支用環状膨出部211の内周面とが互いに接触することを完全に阻止するので、ローラ軸部231の外周面とローラ軸支用環状膨出部211の内周面との摺動接触に起因する摩耗粉がローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間に侵入して、このような摩耗粉が研摩剤となってローラ230の内周面とブシュ220の外周面との間で生じがちな異常な摩耗損傷を防止できるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施例である搬送用長寿命チェーンの一部を切り欠いた全体概要図。
【図2】図1に示す搬送用長寿命チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図3】図1に示す搬送用長寿命チェーンを一部拡大視した断面図。
【図4】図1に示す搬送用長寿命チェーンに組み込まれるブシュを一部拡大視した斜視図。
【図5】図1に示す搬送用長寿命チェーンの組み付け寸法図。
【図6】図1の搬送用長寿命チェーンに組み込まれるローラがチェーン幅方向に片寄った状態を示す寸法図。
【図7】図1の搬送用長寿命チェーンに組み込まれるローラがチェーン進行方向に片寄った状態を示す寸法図。
【図8】本発明の第2実施例である搬送用長寿命チェーンの連結状態を示す斜視図。
【図9】図8に示す搬送用長寿命チェーンを一部拡大視した断面図。
【符号の説明】
【0075】
100、200 ・・・ 搬送用長寿命チェーン
110、210 ・・・ 内プレート
111、211 ・・・ ローラ軸支用環状膨出部
111a、211a・・・ 膨出面
111b、211b・・・ 凹陥面
112、212 ・・・ ラビリンス構造形成粗面
120、220 ・・・ ブシュ
130、230 ・・・ ローラ
131、231 ・・・ ローラ軸部
132、232 ・・・ ラビリンス構造形成粗面
140、240 ・・・ 連結ピン
150、250 ・・・ 外プレート
222 ・・・ 油溜り溝
1、・・・ 油溜り用ラビリンス構造
Dt ・・・ ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量
Dk ・・・ ローラ軸部のローラ両端面からの突出量
Dt ・・・ ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量
Dk ・・・ ローラ軸部のローラ両端面からの突出量
Di ・・・ 内プレート内側面の相互間隔
Dr ・・・ ローラの幅
Wti ・・・ ローラ軸支用環状膨出部の膨出面の内径
Wk ・・・ ローラ軸部の外径
Wr ・・・ ローラの内径
Wb ・・・ ブシュの外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対で離間配置された内プレートと該内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合された前後一対のブシュと該ブシュに対して回転自在に外嵌された前後一対のローラと前記ブシュ内に対して回転自在に挿通された前後一対の連結ピンと該連結ピンの両端にピン孔を圧入嵌合させて内プレートをチェーン長手方向に連結する左右一対の外プレートとを備え、前記ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を封入してなる搬送用長寿命チェーンにおいて、
前記ローラの両端面から内プレートに向けて突出形成した小径のローラ軸部が、前記内プレートの外側面を凹陥させてオフセット状態で内側面に膨出させたローラ軸支用環状膨出部によりそれぞれ囲繞支持されていることを特徴とする搬送用長寿命チェーン。
【請求項2】
前記ブシュが、前記潤滑油を含浸させた焼結含油金属材料から成形されていることを特徴とする請求項1記載の搬送用長寿命チェーン。
【請求項3】
前記ローラの内周面とブシュの外周面との間に潤滑油を供給する油溜り溝が、前記ブシュの外周面に刻設されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の搬送用長寿命チェーン。
【請求項4】
前記ローラ軸支用環状膨出部の膨出面が、前記ローラ軸支用環状膨出部の凹陥面よりも大きな外径と小さな内径とを有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーン。
【請求項5】
前記ローラ軸支用環状膨出部の膨出面とローラの両端面が、相互に近接対向するラビリンス構造形成粗面を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーン。
【請求項6】
前記ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量Dtおよびローラ軸部のローラ両端面からの突出量Dkが、Dt<Dkを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項5記載の搬送用長寿命チェーン。
【請求項7】
前記ローラ軸支用環状膨出部の内プレート内側面からの膨出量Dt、ローラ軸部のローラ両端面からの突出量Dk、内プレート内側面の相互間隔Diおよびローラの幅Drが、Di−Dt<Dr+2Dk<Diを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーン。
【請求項8】
前記ローラ軸支用環状膨出部の膨出面の内径Wti、ローラ軸部の外径Wk、ローラの内径Wrおよびブシュの外径Wbが、Wti−Wk>Wr−Wbを満足するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の搬送用長寿命チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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