説明

搬送装置及び搬送方法

【課題】フレキシブル基板の製造等における高速移動テーブル加工装置に対応した長尺状シート体の搬送装置において、加工テーブルが加速してもシート体のテンションが緩まないようにし、ガイドローラに対するシート体のスリップをなくし、シート体の幅方向に均一なテンションを発生させ、製品不良の発生を防止する。
【解決手段】シート体101を吸着してシート体101の移動に同期した移動及びシート体101を解放して初期位置への復帰を繰返す加工テーブル105と、巻出しロール102と加工テーブル105の間の位置及び加工テーブル105と巻取りロール103の間の位置に配置されシート体101にテンションを与える一対のダンサローラ6,16とを備え、各ダンサローラ6,16は、垂直方向にのみ移動可能、かつ、軸回りの回転が可能で、付勢手段11により下方に向けて付勢され、シート体101にテンションを付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状のシート体の搬送装置及び搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフレキシブル基板(FPC:Flexible printed circuits)の製造工程には、銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)に対する非貫通穴(LVH)の加工工程がある。非貫通穴加工は、レーザ加工装置(例えば、ESI社製のUV−YAGレーザ加工装置)によって行われている。
【0003】
レーザ加工装置によってシート状基板のような長尺状のシート体に対する加工を行うには、図5に示すように、レーザ加工装置104の周囲に、搬送装置を付属させる必要がある(特許文献1)。この搬送装置は、同図に示すように、長尺状のシート体101を、巻出しロール102から巻取りロール103に搬送させるものである。
【0004】
この搬送装置は、レーザ加工装置104の基台104aに設けられ、シート体101を吸着固定して移動する加工テーブル105を備えている。この加工テーブル105は、図5中矢印Aで示すように、シート体101を吸着固定した状態でのシート体101の移動に同期した移動と、シート体101を解放した状態での初期位置への復帰とを繰り返すようになっている。
【0005】
シート体101に対してレーザ加工を行うレーザ加工装置104の加工ヘッド104bは、加工テーブル105の移動に同期して、図5中矢印Aで示すように、シート体101の送り方向に高速移動を繰り返すようになっている。加工ヘッド104bは、加工テーブル105とともに移動しながら、加工テーブル105に吸着固定されたシート体101に対するレーザ加工を行う。
【0006】
加工テーブル105の移動は、加速度が1G〜1.5Gであり、最高速度は、通常は300mm/secであるが、設定によっては、900mm/secにまで達する。
【0007】
そして、この搬送装置は、高速で移動する加工テーブル105にシート体101を追従させるため、シート体101にテンションを与える上流側フリーダンサ106及び,下流側フリーダンサ116を備えている。
【0008】
上流側フリーダンサ106は、巻出しロール102と加工テーブル105との間のシート体101を下方から支持する上流側ガイドローラ107,108の間に配置されている。下流側フリーダンサ116は、加工テーブル105と巻取りロール103との間のシート体101を下方から支持する下流側ガイドローラ109,110の間に配置されている。これらフリーダンサ106,116は、図示しないガイド機構により、垂直方向にのみ移動可能とされ、かつ、軸回りの回転が可能に支持されている。
【0009】
これらフリーダンサ106,116は、自重により、シート体101にテンションを付与する。すなわち、これらフリーダンサ106,116は、上流側ガイドローラ107,108の間のシート体101、及び、下流側ガイドローラ109,110の間のシート体101により、それぞれ吊り下げられた状態となって、シート体101に対してテンションを付与する。
【0010】
シート体101は、上記フリーダンサ106,116により所定のテンションを付与されることにより、加工テーブル105の高速移動に追従するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−244148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来の搬送装置においては、レーザ加工装置における加工テーブル105の移動速度の高速化に伴って、下記のような問題が発生している。
【0013】
すなわち、加工テーブル105の加速度が大きくなると、図6に示すように、加工テーブル105の移動にフリーダンサ116の下降が追従できず、シート体101のテンションが緩むことがある。この場合には、その後にフリーダンサ116が落下し、再びシート体101にテンションが付与される。レーザ加工中に、このようなシート体101のテンションの緩み及び張りが繰り返されると、搬送装置とレーザ加工装置との間で、シート体101が上下方向に振動を繰り返す現象が起こる。この上下方向の振動により、シート体101には、折れやシワが発生し、製品不良となっていた。
【0014】
このようなシート体101の上下方向の振動の振幅を小さくするためには、シート体101に付与しているテンションを上げる必要がある。現状の製造条件では、シート体101には、10kgfのテンションを付与している。しかし、近年の傾向として、フレキシブル基板上の回路の高密度化の要求に伴い、銅張積層板の厚さも薄くなってきている。シート体101の厚さが薄くなることにより、付与されるテンションによりシート体101に対する加工時にシート体101が伸びてしまう虞がある。シート体101が伸びてしまうと、レーザ加工の位置精度が悪化する。
【0015】
また、上流側ガイドローラ107,108及び下流側ガイドローラ109,110は、塩化ビニル、または、ポリエチレン(PE)など、合成樹脂材料により形成されている。加工テーブル105の加速度が大きくなる場合には、前述したように、加工テーブル105の移動にフリーダンサ106,116の下降が追従できず、シート体101のテンションが緩む。このようにシート体101のテンションが緩んだときには、図7に示すように、レーザ加工装置に近い位置に配置されたガイドローラ108,109に対してシート体101がスリップし、当該ガイドローラ108,109の回転速度がシート体101の移動速度に対して遅くなる。逆に、加工テーブル105から遠い側のガイドローラ107,110においては、加工テーブル105が停上したときに、当該ガイドローラ107,110に対してシート体101がスリップし、そのガイドローラ107,110が空転する。このようなガイドローラ107,110に対するシート体101のスリップにより、シート体101の表面に擦り傷が生じ、製品不良が発生していた。
【0016】
さらに、幅方向においてシート体101が部分的に伸びる事により、水平にフリーダンサ106,116が当たっても、シート体101の幅方向に均一なテンションが発生せず、部分的な緩みが発生する揚合がある。このときシート体101において、テンションが援んだ箇所においては、フリーダンサ106,116の上下の振動により、シワが発生する虞がある。
【0017】
そこで、本発明は、長尺状のシート体の搬送装置であって、加工テーブルの加速度が増大した場合にも、シート体のテンションが緩むことがなく、また、シート体の厚さが薄くなった場合にも、シート体が加工時に伸びてしまうことのない搬送装置及び搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る搬送装置は、以下の構成を有するものである。
【0019】
〔構成1〕
長尺状のシート体を巻出しロールから巻取りロールに搬送させる搬送装置であって、シート体を吸着固定した状態でのシート体の移動に同期した移動及びシート体を解放した状態での初期位置への復帰を繰り返す加工テーブルと、巻出しロールと加工テーブルとの間のシート体を下方から支持する一対の上流側ガイドローラの間に配置されシート体にテンションを与える上流側ダンサローラと、加工テーブルと巻取りロールとの間のシート体を下方から支持する一対の下流側ガイドローラの間に配置されシート体にテンションを与える下流側ダンサローラとを備え、各ダンサローラは、垂直方向にのみ移動可能とされ、かつ、軸回りの回転が可能に支持されており、付勢手段により下方に向けて付勢されることによりシート体に張力を付与することを特徴とするものである。
【0020】
〔構成2〕
構成1を有する搬送装置において、付勢手段の付勢力によりダンサローラに生ずる加速度は、重力によりダンサローラに生ずる重力加速度より大きいことを特徴とするものである。
【0021】
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する搬送装置において、ダンサローラは、移動可能である垂直方向の面内において、回転軸が傾斜することが可能に支持されていることを特徴とするものである。
【0022】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する搬送装置において、シート体を下方から支持する一対のガイドローラは、ゴム材質により形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
〔構成5〕
構成1を有する搬送装置を用いて長尺状のシート体を巻出しロールから巻取りロールに搬送させる搬送方法であって、上流側ダンサローラ及び下流側ダンサローラによりシート体にテンションを与えた状態で、加工テーブルをシート体を吸着固定した状態でシート体の移動に同期して移動させ、加工テーブルと下流側ダンサローラとの間の位置においてシート体を保持し、上流側ダンサローラによりシート体に付与されるテンションを緩め、加工テーブルをシート体を解放した状態で初期位置へ復帰させ、加工テーブルによりシート体を吸着固定し、上流側ダンサローラによりシート体に与えるテンションを復帰させ、加工テーブルと下流側ダンサローラとの間の位置におけるシート体に対する保持を開放することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
構成1を有する本発明に係る搬送装置においては、垂直方向にのみ移動可能とされ、かつ、軸回りの回転が可能に支持された各ダンサローラは、付勢手段により下方に向けて付勢されることによりシート体に張力を付与し、ダンサローラによりシート体に付与される張力は、付勢手段による付勢力とダンサローラの重量との合力となるので、シート体に付与する張力を一定とした場合において、ダンサローラの下方への加速度は、付勢手段がない場合に比較して、付勢手段の付勢力により生ずる分だけ大きくなる。
【0025】
したがって、加工テーブルが加速した場合にも、シート体のテンションが緩むことを防止し、ガイドローラに対してシート体がスリップすることを防止することができる。
【0026】
構成2を有する本発明に係る搬送装置においては、付勢手段の付勢力によりダンサローラに生ずる加速度は、重力によりダンサローラに生ずる重力加速度より大きいので、ダンサローラの下方への加速度を、付勢手段がない場合に比較して、十分に大きくすることができ、加工テーブルが加速した場合にも、シート体のテンションが緩むことを防止し、ガイドローラに対してシート体がスリップすることを防止することができる。
【0027】
構成3を有する本発明に係る搬送装置においては、ダンサローラは、移動可能である垂直方向の面内において、回転軸が傾斜することが可能に支持されているので、シート体の幅方向に均一なテンションを発生させることができる。
【0028】
構成4を有する本発明に係る搬送装置においては、シート体を下方から支持する一対のガイドローラは、ゴム材質により形成されているので、ガイドローラに対してシート体がスリップすることを確実に防止することができる。
【0029】
構成5を有する本発明に係る搬送方法においては、加工テーブルと下流側ダンサローラとの間の位置においてシート体を保持し、上流側ダンサローラによりシート体に付与されるテンションを緩めてから、加工テーブルをシート体を解放した状態で初期位置へ復帰させ、加工テーブルによりシート体を吸着固定するので、シート体を低い張力状態で加工テーブルに吸着固定でき、シート体の伸びがない状態で、シート体に対する加工を行うことができる。
【0030】
すなわち、本発明は、長尺状のシート体の搬送装置であって、加工テーブルが加速した場合にも、シート体のテンションが緩むことがなく、また、ガイドローラに対してシート体がスリップすることがなく、さらに、シート体の幅方向に均一なテンションを発生させることができ、また、シート体の厚さが薄くなった場合にも、シート体が加工時に伸びてしまうことがなく、製品不良の発生を防止することができる搬送装置及び搬送方法を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る搬送装置の構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係る搬送装置の要部(エアシリンダ)の構成の他の例を示す側面図である。
【図3】本発明に係る搬送装置の要部(ダンサロール)の構成を示す側面図である。
【図4】本発明に係る搬送装置の要部(ダンサロール)の構成の他の例を示す側面図である。
【図5】従来の搬送装置の構成を示す側面図である。
【図6】従来の搬送装置において発生するシート体の上下方向の振動を示す側面図である。
【図7】従来の搬送装置において発生するガイドローラの空転を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本発明に係る搬送装置の構成を示す側面図である。
【0034】
本発明に係る搬送装置は、図1に示すように、長尺状のシート体101を、巻出しロール102から巻取りロール103に搬送させるものである。
【0035】
この搬送装置は、レーザ加工装置104の基台104aの上に設けられ、シート体101を吸着固定して移動する加工テーブル105を備えている。この加工テーブル105は、図1中矢印Aで示すように、シート体101を吸着固定した状態でのシート体101の移動に同期した移動と、シート体101を解放した状態での初期位置への復帰とを繰り返すようになっている。
【0036】
シート体101に対するレーザ加工を行うレーザ加工装置104の加工ヘッド104bは、加工テーブル105の移動に同期して、図1中矢印Aで示すように、シート体101の送り方向に高速移動を繰り返すようになっている。加工ヘッド104bは、加工テーブル105とともに移動しながら、加工テーブル105に吸着固定されたシート体101に対するレーザ加工を行う。
【0037】
加工テーブル105の移動は、加速度が1G〜1.5Gであり、最高速度は、通常は300mm/sec程度であるが、設定により、900mm/sec程度とすることができる。
【0038】
加工テーブル105の前方(上流側)及び後方(下流側)には、クランプ21,22が設けられている。これらクランプ21,22は、シート体101を把持して移動しないようにすることができる。加工テーブル105の前方側のクランプ21は、加工テーブル105と上流側ダンサローラ6との間の位置において、シート体101を保持する。加工テーブル105の後方側のクランプ22は、加工テーブル105と下流側ダンサローラ16との間の位置において、シート体101を保持する。
【0039】
そして、この搬送装置は、高速で移動する加工テーブル105にシート体101を追従させるため、シート体101にテンション(張力)を与える上流側ダンサローラ6,下流側ダンサローラ16を備えている。
【0040】
上流側ダンサローラ6は、巻出しロール102と加工テーブル105との間のシート体101を下方から支持する上流側ガイドローラ7,8の間に配置されている。下流側ダンサローラ16は加工テーブル105と巻取りロール103との間のシート体101を下方から支持するガイドローラ9,10の間に配置されている。これらダンサローラ6,16は、図示しないガイド機構により、垂直方向にのみ移動可能とされ、かつ、軸回りの回転が可能に支持されている。
【0041】
そして、これらダンサローラ6,16は、付勢手段となるエアシリンダ11により、図1中矢印Pで示すように、下方へ付勢されている。付勢手段としては、摺動抵抗の少ないスムースシリンダを有するエアシリンダを用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0042】
これらダンサローラ6,16は、エアシリンダ11による下方への付勢力及び自重により、シート体101にテンションを付与する。すなわち上流側ダンサローラ6は、上流側ガイドローラ7,8の間のシート体101を上方より下方側に押圧することによって、シート体101に対してテンションを付与する。また下流側ダンサローラ16は下流側ガイドローラ9,10の間のシート体101を、上方より下方側に押圧することによって、シート体101に対してテンションを付与する。上記ダンサローラ6,16によりシート体101に付与されるテンションは、エアシリンダ11による付勢力とダンサローラ6,16の重量との合力となる。
【0043】
この搬送装置において、シート体101は、ダンサローラ6,16により所定のテンションを付与されることにより、加工テーブル105の高速移動に追従するようになっている。
【0044】
この搬送装置においては、エアシリンダ11の付勢力によりダンサローラ6,16に生ずる加速度は、重力によりダンサローラ6,16に生ずる重力加速度よりも大きくなっている。シート体101に付与するテンション(エアシリンダ11による付勢力とダンサローラ6,16の重量との合力)を一定に保つとすれば、ダンサローラ6,16を軽量化すればするほど、エアシリンダ11の付勢力により生ずる加速度を、重力により生ずる重力加速度よりも大きくすることができる。また、重力加速度はダンサローラ6,16の重量に依らず一定であるので、ダンサローラ6,16を軽量化すればするほど、これらの加速度の合計も大きくなる。
【0045】
ダンサローラ6,16によりシート体101に付与されるテンションTは、以下の式で示すことができる。
T=mg+F ・・・・・(式1)
(ただし、gは、重力加速度、Fは、ダンサローラ6,16に作用する付勢力、mは、ダンサローラ6,16の質量である。)
【0046】
また、ダンサローラ6,16の下方への加速度Aは、以下の式で示すことができる。
A=g+a=g+(F/m) ・・・・・(式2)
(ただし、aは、付勢力Fにより生ずる加速度である。)
【0047】
(式2)より、ダンサローラ6,16の付勢力Fによる加速度aは、エアシリンダ11による付勢力Fに比例し、ダンサローラ6,16の質量mに反比例する。重力加速度gは、ダンサローラ6,16の重量に依らず、一定である。
【0048】
したがって、付勢力Fを大きくすれば、ダンサローラ6,16の下方への加速度を大きくすることができ、このとき、ダンサローラ6,16の質量mを小さくすれば、加速度を大きくすることができるとともに、テンションTを一定に保つことができる。(式1)より、付勢力Fと重量mgとの増減が相殺されれば、テンションTは一定に保たれる。
【0049】
この搬送装置においては、ダンサローラ6,16の下方への加速度Aが大きくなっていることにより、レーザ加工中に加工テーブル105が加速しても、加工テーブル105の動作にダンサローラ6,16が追従することができ、シート体101に付与するテンションが緩むことがなく、シート体101が張った状態を保持することができる。したがって、シート体101に折れやシワが発生することがなく、製品不良の発生が防止される。
【0050】
また、この搬送装置においては、ダンサローラ6,16をエアシリンダ11により下方に付勢して加速度を大きくしていることにより、シート体101に付与するテンションの緩みがなくなり、ガイドローラ7,8,9,10に対するシート体101からの荷重に緩みがなくなる。そのため、ガイドローラ7,8,9,10を始動、停止させるための制動トルクが十分に伝導され、ガイドローラ7,8,9,10がシート体101に対して空転することが防止されている。
【0051】
図2は、本発明に係る搬送装置の要部(エアシリンダ)の構成の他の例を示す側面図である。
【0052】
なお、エアシリンダ11は、図2に示すように、ダンサロール6,16を下方に押圧するのみならず、ダンサロール6,16を上方に引上げることができるものとしてもよい。この場合には、この搬送装置に対する電力供給が意図せずに遮断されてしまった場合には、ダンサロール6,16を下方に押圧する力(圧力P)が遮断され、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)が維持されるように設定しておくことが望ましい。
【0053】
すなわち、搬送装置の動作中には、ダンサロール6,16を下方に押圧する力(圧力P)をダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)よりも大きくしておき、電力供給が遮断された場合には、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)のみが保持されるようにしておく。このように設定することにより、搬送装置に対する電力供給が遮断されてしまった場合にも、ダンサロール6,16が落下してシート体101が損傷することを防止することができる。
【0054】
また、エアシリンダ11は、上流側ダンサロール6に対する押圧力と、下流側ダンサロール16に対する押圧力とを、それぞれ独立して調整することができるようにしてもよい。
【0055】
図3は、本発明に係る搬送装置の要部(ダンサロール)の構成を示す側面図である。
【0056】
そして、ダンサローラ6,16は、図3において矢印Bで示すように、移動可能である垂直方向の面内において、回転軸が傾斜することが可能に支持されている。
【0057】
すなわち、ダンサローラ6,16は、図3に示すように、このダンサローラ6,16の支軸6aの両端側に立設されたガイド機構となるガイドレール12,12により、垂直方向にのみ移動可能に支持されている。ダンサローラ6,16は、支軸6aの回りに、軸受け6bを介して回転筒6cが取付けられて構成されている。ダンサローラ6,16は、回転筒6cの外周面により、シート体101を押圧する。ガイドレール12,12には、それぞれ、これらガイドレール12,12に沿って上下方向に移動可能となされた支持部材13,13が取付けられている。これら支持部材13,13には、支持ピン14,14が設けられている。支軸6aの一端側には、丸孔6dが形成され、この丸孔6dに支持ピン14が嵌合している。また、支軸6aの他端側には、長孔6eが形成され、この長孔6eにも支持ピン14が嵌合している。
【0058】
支持部材13,13がガイドレール12,12に沿って上下方向に移動することにより、ダンサローラ6,16は、ガイドレール12,12の間において、上下方向に移動することになる。このとき、各支持部材13,13の互いの高さが異なれば、図3中の矢印Bで示すように、ダンサローラ6,16は、移動可能である垂直方向の面内において、支軸6aが傾斜する。このとき、支軸6aは、一端側において、丸孔6d回りに支持部材13に対して回動することとなる。支軸6aの他端側においては、長孔6eが支持ピン14に対して移動するので、支軸6aの傾きが阻害されることがない。
【0059】
エアシリンダ11は、各支持部材13,13に対応してそれぞれに設け、図3中の矢印Pで示すように、それぞれを下方に押圧するように配置されている。
【0060】
このように、ダンサローラ6,16の回転軸が垂直方向の面内において傾斜可能であることにより、シート体101が片伸びした場合においても、ダンサローラ6,16がシート体101に倣って傾斜するので、シート体101の幅方向について均一に正確なテンションを付与することができ、製品不良の発生を防止することができる。
【0061】
図4は、本発明に係る搬送装置の要部(ダンサロール)の構成の他の例を示す側面図である。
【0062】
なお、エアシリンダ11は、図4に示すように、各支持部材13,13について、1本のみを配置するようにしてもよい。この場合には、エアシリンダ11は、各支持部材13,13の間に差し渡された押圧メンバ15の中央部分を下方に押圧するように配置する。エアシリンダ11は、図4中矢印Pで示すように、押圧メンバ15を下方に押圧することにより、この押圧メンバ15を介して、各支持部材13,13を下方に押圧する。押圧メンバ15は、エアシリンダ11に対して支持ピン17を介して回動可能に接続されており、図4中矢印Bで示すダンサローラ6,16の傾きを阻害せずに、ダンサローラ6,16とともに傾くようになっている。
【0063】
そして、この搬送装置においては、シート体101を下方から支持するガイドローラ7,8,9,10のうちの、少なくとも加工テーブル105に近い側のガイドローラ8,9は、ゴム材質により形成されている。
【0064】
この搬送装置においては、前述のように、ダンサローラ6,16の下方への加速度を大きくしていることにより、ガイドローラ7,8,9,10がシート体101に対して空転することが防止されている。さらに、ガイドローラ8,9を摩擦係数の大きいゴムライニングローラとすることにより、シート体101とガイドローラ8,9との間の摩擦係数を増やし、ガイドローラ8,9に対する制動トルクを増やし、ガイドローラ8,9とシート体101との間のスリップをなくしている。
【0065】
ゴム材質としては、硬度が低く、帯電防止処理がなされたものが望ましく、例えば、宮川ローラ社製の「カーボレスEPT」などを用いることができる。
【0066】
ガイドローラ8,9に対する制動トルクtは、以下の式で示される。
t=f・r=μ・N・r ・・・・・(式3)
(ただし、fは、ガイドローラの表面におけるガイドローラを回転させる駆動力、rは、ガイドローラの半径、μは、ガイドローラの表面の摩捺係数、Nは、ガイドローラからの垂直抗力である。)
【0067】
シート体101のテンションが緩むと垂直抗力Nが小さくなり、その結果、駆動力fが小さくなるため、制動トルクtが小さくなる。ここで、テンションの緩みがなくなれば垂直抗力Nが小さくなることがなく、また、摩擦係数μが大きければ、制動トルクtを大きくすることができる。
【実施例】
【0068】
〔実施例1〕
本発明に係る搬送装置の実施例として、図2に示すように、エアシリンダ11として、ダンサロール6,16を下方に押圧するのみならず、ダンサロール6,16を上方に引上げることができるロッドレスシリンダを用いて、搬送装置を構成した。ロッドレスシリンダの径は、16mmである。ダンサロール6の自重は、2kgfである。
【0069】
まず、ダンサロール6,16を下方に押圧する力(圧力P)のみを加え、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)を加えない状態とした。圧力Pは、0.2MPa、圧力Qは、0MPaとした。
【0070】
エアシリンダ11の動作時のシート体101の張力は、ダンサロール6,16の自重2kgfより、2/2=1kgf、エアシリンダ11による押圧力4kgf、摺動抵抗4kgfの合計で9kgfであった。エアシリンダ11を保持したときのシート体101の張力は、ダンサロール6の自重2kgfより、2/2=1kgf、エアシリンダ11による押圧力4kgf、摺動抵抗0kgfの合計で5kgfであった。
【0071】
ここで、ダンサロール6,16の加速度Aについて考えると、エアシリンダ11を保持したときには、エアシリンダ11による押圧力F(80N)、摺動抵抗F(−0N)、ダンサロール6の自重F(20N)の合計がmAであるので、A=(80−0+20)/2=50(m/s)≒5Gとなる。エアシリンダ11の動作時には、エアシリンダ11による押圧力F(80N)、摺動抵抗F(−80N)、ダンサロール6の自重F(20N)の合計がmAであるので、A=(80−80+20)/2=10(m/s)≒1Gとなる。
【0072】
圧力Pを0.25MPaにすると、エアシリンダ11による押圧力Fが100Nとなり、エアシリンダ11の動作時には、エアシリンダ11による押圧力F(100N)、摺動抵抗F(−80N)、ダンサロール6の自重F(20N)の合計がmAであるので、A=(100−80+20)/2=20(m/s)≒2Gとなる。
【0073】
圧力Pを0.25MPaにすれば、エアシリンダ11の動作時でも加速度Aを2Gにすることができるが、張力が大きくなる。ダンサロール6の自重を軽くすることにより、張力を調整することができる。
【0074】
本発明に係る搬送装置は、この実施例1及び以下の実施例2においては、以下の順序で動作する。
【0075】
(1)レーザ加工の後、加工テーブル105がシート体101を吸着した状態で、材料フィード(搬送)を行う。このとき、シート体101の張力は、ダンサロール6,16の自重及び両側のエアシリンダ11,11による押圧力によって、9kgfとなっている。
【0076】
(2)材料フィードの完了後、シート体101を、加工テーブル105の前方のクランプ21及び後方のクランプ22により把持する。このとき、シート体101の張力は、9kgfとなっている。
【0077】
(3)加工テーブル105において、エアブローにより、シート体101を吹き上げる。このとき、シート体101の張力は、9kgfとなっている。
【0078】
(4)エアブローを行った状態で、加工テーブル105を、初期位置に戻す。このときも、シート体101の張力は、9kgfとなっている。
【0079】
(5)加工テーブル105において、エアブローから吸着に切り替え、シート体101を加工テーブル105に吸着させる。このときも、シート体101の張力は、9kgfとなっている。
【0080】
(6)シート体101に対する吸着の圧力確認を行った後に、加工テーブル105の前方のクランプ21及び後方のクランプ22を開放し、次のレーザ加工を開始する。
【0081】
〔実施例2〕
次に、ダンサロール6,16を下方に押圧する力(圧力P)のみならず、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)も加える状態とした。圧力Pは、0.4MPa、圧力Qは、0.2MPaとした。
【0082】
エアシリンダ11の動作時のシート体101の張力は、ダンサロール6の自重2kgfより、2/2=1kgf、エアシリンダ11による押圧力〔8kgf−4kgf〕、摺動抵抗4kgfの合計で9kgfであった。エアシリンダ11を保持したときのシート体101の張力は、ダンサロール6の自重2kgfより、2/2=1kgf、エアシリンダ11による押圧力〔8kgf−4kgf〕、摺動抵抗0kgfの合計で5kgfであった。
【0083】
ここで、ダンサロール6,16の加速度Aについて考えると、エアシリンダ11を保持したときには、エアシリンダ11による押圧力F(160N−80N)、摺動抵抗F(−0N)、ダンサロール6の自重F(20N)の合計がmAであるので、A=(80−0+20)/2=50(m/s)≒5Gとなる。エアシリンダ11の動作時には、エアシリンダ11による押圧力F(160N−80N)、摺動抵抗F(−80N)、ダンサロール6の自重F(20N)の合計がmAであるので、A=(80−80+20)/2=10(m/s)≒1Gとなる。
【0084】
このように、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)も加えることにより、加速度は同一のままで、ダンサロール6,16の自重による落下をキャンセルできる。シート体101の張力を下げながら、ダンサロール6,16の加速度Aを上げるには、ダンサロール6,16を下方に押圧する力(圧力P)のみならず、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)も加える状態とし、また、ダンサロール6の自重を軽くすればよい。摺動抵抗を低くするには、ロッドレスシリンダに代えて、低摺動シリンダを用いるとよい。
【0085】
この実施例では、エアシリンダ11として、ロッドレスシリンダに代えて、低摺動シリンダを用いて搬送装置を構成した。シリンダの径は、25mmである。また、ダンサロール6の自重を、2kgfから1kgfに軽量化した。そして、ダンサロール6,16を下方に押圧する力(圧力P)のみならず、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)も加える状態とした。圧力Pは、0.11MPa、圧力Qは、0.01MPaとした。
【0086】
エアシリンダ11の動作時のシート体101の張力は、ダンサロール6,16の自重1kgfより、1/2=0.5kgf、エアシリンダ11による押圧力〔5.5kgf−0.5kgf〕、摺動抵抗0.4kgfの合計で5.9kgfであった。エアシリンダ11を保持したときのシート体101の張力は、ダンサロール6の自重1kgfより、1/2=0.5kgf、エアシリンダ11による押圧力〔5.5kgf−0.5kgf〕、摺動抵抗0kgfの合計で5.5kgfであった。
【0087】
ここで、ダンサロール6,16の加速度Aについて考えると、エアシリンダ11を保持したときには、エアシリンダ11による押圧力F(110N−10N)、摺動抵抗F(−0N)、ダンサロール6の自重F(10N)の合計がmAであるので、A=(100−0+10)/1=110(m/s)≒11Gとなる。エアシリンダ11の動作時には、エアシリンダ11による押圧力F(110N−10N)、摺動抵抗F(−8N)、ダンサロール6の自重F(10N)の合計がmAであるので、A=(100−8+10)/1=102(m/s)≒10Gとなる。
【0088】
このように、低摺動シリンダを用いることにより摺動抵抗を低くし、ダンサロール6,16の自重を軽くし、さらに、ダンサロール6,16を上方に引上げる力(圧力Q)も加えることにより、シート体101の張力を一定に保ちつつ、ダンサロール6,16の加速度Aを上げることができる。
【0089】
〔実施例3〕
前述のように、本発明に係る搬送装置においては、エアシリンダ11により、シート体101に張力を付与している。したがって、エアシリンダ11が加える押圧力を変更することにより、シート体101に付与する張力を容易に調整することができる。この実施例3においては、特にシート体101が薄い場合において、レーザ加工時にシート体101に付与される張力を低くするものである。
【0090】
すなわち、レーザ加工を行う前に、シート体101に付与している張力を一時的に開放し、張力の低い状態でシート体101を吸着テーブル105に吸着させる。その後に、シート体101に張力を付与することにより、シート体101の振動を抑えつつ、シート体101が伸ばされた状態でレーザ加工されることを防止することができる。
【0091】
本発明に係る搬送装置は、この実施例3においては、以下の順序で動作する。
【0092】
(1)レーザ加工の後、加工テーブル105がシート体101を吸着した状態で、材料フィード(搬送)を行う。このとき、シート体101の張力は、ダンサロール6,16の自重及び両側のエアシリンダ11,11による押圧力によって、9kgfとなっている。
【0093】
(2)材料フィードの完了後、シート体101を、加工テーブル105の後方のクランプ22のみにより把持する。加工テーブル105の前方のクランプ21は把持しない。このとき、シート体101の張力は、9kgfとなっている。
【0094】
(3)加工テーブル105において、エアブローにより、シート体101を吹き上げる。このとき、加工テーブル105の前方の上流側ダンサローラ6に加える押圧力を下げ、シート体101に付与している張力を所定の低い張力(例えば、5kgf)まで低下させる。このとき、加工テーブル105の前方のクランプ21は開放され、加工テーブル105の後方のクランプ22がシート体101を保持しているので、上流側ダンサローラ6に対する押圧力が下がることにより、後方のクランプ22より前方のシート体101の張力が低下する。後方のクランプ22より前方のシート体101の張力は、上流側ダンサローラ6の自重分を下方から付勢することにより、0kgfまで下げることができる。
【0095】
(4)エアブローを行った状態で、加工テーブル105を、初期位置に戻す。このとき、シート体101の張力は、(3)で設定した所定の低い張力となっている。
【0096】
(5)加工テーブル105において、エアブローから吸着に切り替え、シート体101を加工テーブル105に吸着させる。このときも、シート体101の張力は、(3)で設定した所定の低い張力となっている。
【0097】
(6)シート体101に対する吸着の圧力確認を行った後に、上流側ダンサローラ6に加える付勢力を戻してシート体101に張力を付与する。このとき、加工テーブル105の前方及び後方におけるシート体101の張力は等しくなる。そして、加工テーブル105の後方のクランプ22を開放し、次のレーザ加工を開始する。
【0098】
なお、この実施例においては、エアシリンダ11は、下流側ダンサロール16に対する押圧力を変化させずに、上流側ダンサロール6のみについて押圧力を調整することができるようにしておく。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、長尺状のシート体の搬送装置及び搬送方法に適用される。
【符号の説明】
【0100】
6 上流側ダンサローラ
7 上流側ガイドローラ
8 下流側ガイドローラ
9 下流側ガイドローラ
10 下流側ガイドローラ
11 エアシリンダ
16 下流側ダンサローラ
101 シート体
105 加工テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のシート体を、巻出しロールから巻取りロールに搬送させる搬送装置であって、
前記シート体を吸着固定した状態でのシート体の移動に同期した移動及びシート体を解放した状態での初期位置への復帰を繰り返す加工テーブルと、
前記巻出しロールと前記加工テーブルとの間のシート体を下方から支持する一対の上流側ガイドローラの間に配置され、前記シート体にテンションを与える上流側ダンサローラと、
前記加工テーブルと前記巻取りロールとの間のシート体を下方から支持する一対の下流側ガイドローラの間に配置され、前記シート体にテンションを与える下流側ダンサローラと、
を備え、
前記各ダンサローラは、垂直方向にのみ移動可能とされ、かつ、軸回りの回転が可能に支持されており、付勢手段により下方に向けて付勢されることにより前記シート体に張力を付与する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記付勢手段の付勢力により前記ダンサローラに生ずる加速度は、重力により前記ダンサローラに生ずる重力加速度より大きい
ことを特徴とする請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記ダンサローラは、移動可能である垂直方向の面内において、回転軸が傾斜することが可能に支持されている
ことを特徴とする請求項1、または、請求項2記載の搬送装置。
【請求項4】
前記シート体を下方から支持する一対のガイドローラは、ゴム材質により形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の搬送装置。
【請求項5】
請求項1記載の搬送装置を用いて、長尺状のシート体を巻出しロールから巻取りロールに搬送させる搬送方法であって、
前記上流側ダンサローラ及び前記下流側ダンサローラにより前記シート体にテンションを与えた状態で、前記加工テーブルを、前記シート体を吸着固定した状態で、前記シート体の移動に同期して移動させ、
前記加工テーブルと前記下流側ダンサローラとの間の位置において前記シート体を保持し、前記上流側ダンサローラにより前記シート体に付与されるテンションを緩め、
前記加工テーブルを、前記シート体を解放した状態で、初期位置へ復帰させ、
前記加工テーブルにより前記シート体を吸着固定し、
前記上流側ダンサローラにより前記シート体に与えるテンションを復帰させ、
前記加工テーブルと前記下流側ダンサローラとの間の位置における前記シート体に対する保持を開放する
ことを特徴とする搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28470(P2013−28470A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−117823(P2012−117823)
【出願日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】