説明

搬送装置

【課題】シートを搬送する搬送装置におけるシートの浮き上がりを防止しつつ、発生する気流を低減する。
【解決手段】搬送装置1は、複数のベルト穴21を有し、印刷用紙10を所定の搬送方向に搬送する搬送ベルト2と、搬送ベルト2を摺動可能に支持し、ベルト穴21が通過する箇所において上面から下面に向かって掘り下げられた凹部31、および凹部31の底面の一部から下面に貫通する吸引穴32を有するプラテンプレート3と、吸引穴32、凹部31、およびベルト穴21を介して空気を吸引し、印刷用紙10を搬送ベルト2に吸着させる吸引部とを備え、ベルト穴21の平面視面積は、搬送方向に略直交する断面における凹部31の断面積よりも小さく、かつ、搬送方向における吸引穴32の開口端32Eから凹部31の開口端31Eまでの距離は、ベルト穴21のピッチよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙等のシートを搬送する搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送経路上を搬送される印刷用紙にインクジェットヘッドからインクを吐出して印刷を行う印刷装置が知られている。
【0003】
このような印刷装置では、印刷用紙を搬送しつつ印刷するために、いわゆるエア吸着方式の搬送装置が広く用いられている。このエア吸着方式の搬送装置として、特許文献1には、複数のベルト穴が設けられた搬送ベルトと、上面から下面に向かって掘り下げられた凹部、および凹部の底面の一部から下面に貫通する吸引穴を有し、搬送ベルトを支持するプラテンプレートと、プラテンプレートの下方に設けられたファンとを備える搬送装置が開示されている。
【0004】
特許文献1記載の搬送装置は、ファンにより、吸引穴、凹部、およびベルト穴を介して空気を吸引することで、ベルト穴に発生する負圧による吸着力で印刷用紙を搬送ベルト上に吸着保持しつつ、搬送ベルトを周回させて印刷用紙を搬送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−280321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなインクジェット方式の印刷装置では、搬送ベルトで搬送される印刷用紙の位置に応じたタイミングでインクを吐出することで、所望の画像を印刷している。
【0007】
ここで、用紙の搬送中に搬送ベルトから印刷用紙が浮き上がると、搬送精度が低下し、その結果、印刷画像が乱れるおそれがある。また、搬送ベルトから浮き上がった印刷用紙は、インクジェットヘッドに接触するおそれがある。印刷用紙がインクジェットヘッドに接触すると、インクジェットヘッドが破損したり、印刷用紙が汚れたりすることがある。
【0008】
特許文献1に記載された搬送装置では、吸引穴、凹部、およびベルト穴の各部の寸法が、上記各部からなる空気の流路上の各所で発生する負圧の大きさに影響する。特許文献1では、上記各部の寸法については考慮されていない。その寸法によっては、搬送ベルトのベルト穴において発生する負圧が十分でなく、吸着力が弱くなって印刷用紙の浮き上がりを招くおそれがあった。
【0009】
また、エア吸着方式の搬送装置を用いたインクジェット方式の印刷装置では、ファンで空気を吸引するため気流が発生する。この気流はインクミストを散乱させる。インクミストは印刷物や装置内部の汚染を招く。このため、搬送装置により発生する気流は小さいことが望ましい。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、印刷用紙等のシートを搬送する搬送装置において、シートの浮き上がりを防止しつつ、発生する気流を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る搬送装置の第1の特徴は、のベルト穴を有し、シートを所定の搬送方向に搬送する搬送ベルトと、前記搬送ベルトを前記搬送方向に摺動可能に支持し、前記ベルト穴が通過する箇所において前記搬送ベルトに対向する一方の面から前記一方の面に対向する他方の面に向かって掘り下げられた凹部、および前記凹部の底面の一部から前記他方の面に貫通する吸引穴を有する支持板と、前記吸引穴、前記凹部、および前記ベルト穴を介して空気を吸引し、シートを前記搬送ベルトに吸着させる吸引部とを備え、前記ベルト穴の平面視面積は、前記搬送方向に略直交する断面における前記凹部の断面積よりも小さく、かつ、前記搬送方向における前記吸引穴の開口端から前記凹部の開口端までの距離は、前記ベルト穴のピッチよりも小さいことにある。
【0012】
本発明に係る搬送装置の第2の特徴は、前記搬送方向に略直交する断面における前記凹部の断面積は、前記ベルト穴の平面視面積の2倍以下であり、かつ、前記ベルト穴のピッチは、前記搬送方向における前記吸引穴の開口端から前記凹部の開口端までの距離の1.2倍以下であることにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る搬送装置の第1の特徴によれば、ベルト穴の平面視面積は、搬送方向に略直交する断面における凹部の断面積よりも小さく、かつ、搬送方向における吸引穴の開口端から凹部の開口端までの距離は、ベルト穴のピッチよりも小さい。この条件を満たすことで、搬送装置は、ベルト穴が凹部上の開口端付近にきたときでも、ベルト穴における負圧の絶対値の低下が抑えられる。これにより、搬送ベルトにシートを吸着保持するために十分な吸着力を確保でき、シートの浮き上がりを防止できる。また、上記条件を満たすことで、搬送装置は、搬送ベルトとインクジェットヘッドとの間に発生する気流を低減できる。
【0014】
本発明に係る搬送装置の第2の特徴によれば、搬送方向に略直交する断面における凹部の断面積は、ベルト穴の平面視面積の2倍以下であり、かつ、ベルト穴のピッチは、搬送方向における吸引穴の開口端から凹部の開口端までの距離の1.2倍以下であることで、空気の流路における負圧と流量との適切なバランスをより良好に確保し、所望の吸着力を維持しつつ、空気の流量の増大を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態に係る搬送装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す搬送装置の搬送ベルトおよびプラテンプレートを一部切り欠いて示す平面図である。
【図3】搬送ベルトの部分拡大平面図である。
【図4】(a)は、プラテンプレートの部分拡大平面図、(b)は、(a)におけるA−A線に沿った断面図、(c)は、(a)におけるB−B線に沿った断面図である。
【図5】図1に示す搬送装置の作用を説明するための図である。
【図6】式(2)が満たされない構成の搬送装置の作用を説明するための図である。
【図7】ファンの動作を説明するための図である。
【図8】実施例で用いたサクションファンの風量・静圧特性を示す図である。
【図9】実施例の圧力コンタ図である。
【図10】比較例1の圧力コンタ図である。
【図11】比較例2の圧力コンタ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0017】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る搬送装置の概略構成図、図2は、図1に示す搬送装置の搬送ベルトおよびプラテンプレートを一部切り欠いて示す平面図、図3は、搬送ベルトの部分拡大平面図である。また、図4(a)は、プラテンプレートの部分拡大平面図、図4(b)は、図4(a)におけるA−A線に沿った断面図、図4(c)は、図4(a)におけるB−B線に沿った断面図である。なお、以下の説明における上下方向、左右方向、前後方向は、図1〜図4において示す互いに略直交する上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示すものとする。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る搬送装置1は、搬送ベルト2と、プラテンプレート3と、チャンバ4と、サクションファン5とを備える。
【0020】
搬送ベルト2は、搬送装置1の搬送対象物であるシートとしての印刷用紙10を、左から右に向かう搬送方向に搬送するものである。
【0021】
搬送ベルト2は、モータ(図示せず)によって回転駆動される駆動ローラ6と、駆動ローラ6に従動する従動ローラ7,8,9とに掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト2は、可塑性を有し、印刷用紙10との間に適度な摩擦力を発生させるゴム、樹脂等の材料により構成される。
【0022】
搬送ベルト2には、図2に示すように、印刷用紙10を吸着保持するための貫通穴であるベルト穴21が多数形成されている。ベルト穴21は、平面視において、つまり上側または下側から見て、例えば、円形状に形成される。円形状のベルト穴21の直径Dは、例えば、1mm〜3mmに設定される。
【0023】
ベルト穴21の左右方向のピッチPは、例えば、6mm〜18mmに設定される。また、前後方向におけるベルト穴21のピッチは、後述するプラテンプレート3の凹部31の前後方向のピッチと略同じに設定される。さらに、前後方向に隣り合う次段のベルト穴21の左右方向のピッチは、前段に対して半ピッチずれている。つまり、ベルト穴21は、千鳥配置になっている。
【0024】
搬送ベルト2は、サクションファン5の駆動によりベルト穴21に発生する吸着力により、印刷用紙10を吸着保持する。搬送ベルト2は、駆動ローラ6の駆動により図1における時計回り方向に回転する。これにより、搬送ベルト2は、上面に吸着保持した印刷用紙10を右方向に搬送する。
【0025】
搬送ベルト2は、搬送装置1が設置されるインクジェット方式の印刷装置のインクジェットヘッド11に対向して、インクジェットヘッド11の下方に配置される。搬送ベルト2により搬送される印刷用紙10にインクジェットヘッド11からインクが吐出されることにより、印刷用紙10に画像が印刷される。
【0026】
プラテンプレート3は、搬送ベルト2の下側に設けられ、搬送ベルト2の下面を搬送方向に摺動可能に支持する。プラテンプレート3は、金属、樹脂等からなる。プラテンプレート3の厚さTは、例えば、2.5mm〜7mmに設定される。プラテンプレート3は、請求項の支持板に相当する。
【0027】
プラテンプレート3は、ベルト穴21が通過する箇所において搬送ベルト2に対向する上面からそれに対向する下面に向かって掘り下げられた凹部31と、凹部31の底面31aの一部から下面に貫通する吸引穴32とを有する。
【0028】
凹部31は、ここでは、平面視で左右方向に細長い長方形状に形成されている。凹部31の左右方向の長さL1は、例えば、16mm〜68mmに設定される。凹部31の前後方向の長さ(幅)W1は、例えば、4mm〜10mmに設定される。凹部31の深さHは、例えば、0.5mm〜2mmに設定される。
【0029】
凹部31は、左右方向に一定のピッチにより規則的に配列され、前後方向に隣り合う次段の凹部31は前段に対して半ピッチずれて左右方向に同一の一定のピッチにより規則的に配列されている。つまり、凹部31は千鳥配置になっている。
【0030】
吸引穴32は、ここでは、凹部31の底面31aの中央部に配設されている。吸引穴32の下端は、チャンバ4内に開口している。吸引穴32は、ここでは、平面視で左右方向に細長く、左右方向の両端に円弧形状を有する長円形状に形成されている。吸引穴32の左右方向の長さL2は、例えば、4mm〜30mmに設定される。吸引穴32の前後方向の長さ(幅)W2は、例えば、4mm〜10mmに設定される。吸引穴32の長円形状の両端の円弧の半径Rは、W2/2となる。
【0031】
凹部31および吸引穴32は千鳥配置になっているので、プラテンプレート3に隙間なく吸引穴32を配設できる。これにより、印刷用紙10の全域に対する吸着力を均等にできる。
【0032】
ここで、ベルト穴21の平面視面積である面積S1は、前後方向または上下方向に沿うプラテンプレート3の断面における凹部31の断面積である面積S2よりも小さく、かつ、左右方向における吸引穴32の開口端32Eから凹部31の開口端31Eまでの距離L3は、左右方向におけるベルト穴21のピッチPよりも小さく設定されている。つまり、搬送装置1は、以下の式(1)、式(2)をともに満たしている。
【0033】
S1<S2 …(1)
L3<P …(2)
面積S1は、図3においてドットハッチングで示した領域E1の面積に相当する。図3は、ベルト穴21が平面視にて円形状の場合を示している。この場合、面積S1は、以下の式(3)で表される。
【0034】
S1=π×(D/2) …(3)
面積S2は、図4(c)においてドットハッチングで示した領域E2の面積に相当する。面積S2は、以下の式(4)で表される。
【0035】
S2=W1×H …(4)
本実施の形態では、前述のように、吸引穴32は、凹部31の底面31aの中央部に配設されているので、距離L3は、以下の式(5)で表される。
【0036】
L3=(L1−L2)/2 …(5)
チャンバ4は、プラテンプレート3の下面側に設けられる。チャンバ4は、プラテンプレート3の吸引穴32および凹部31を介して搬送ベルト2のベルト穴21に吸着力を発生させるための負圧室を形成するものである。
【0037】
サクションファン5は、チャンバ4から排気してチャンバ4内に負圧を発生させ、吸引穴32、凹部31、およびベルト穴21を介して空気を吸引し、印刷用紙10を搬送ベルト2に吸着させるためのものである。サクションファン5は、チャンバ4の下面に設置される。サクションファン5は、請求項の吸引部に相当する。
【0038】
次に、搬送装置1の作用について説明する。
【0039】
搬送装置1が搭載されるインクジェット方式の印刷装置で印刷動作が開始されると、搬送装置1において、駆動ローラ6およびサクションファン5が駆動される。
【0040】
駆動ローラ6の駆動により、搬送ベルト2は、図1における時計回り方向に回転する。搬送ベルト2が回転すると、ベルト穴21がプラテンプレート3の凹部31および吸引穴32の上を右方向に通過して行く。
【0041】
一方、サクションファン5の駆動により、チャンバ4から下方への排気が行われると、凹部31および吸引穴32に連通した搬送ベルト2のベルト穴21から空気が吸引される。これにより、図5の太線矢印で示すように、空気は、ベルト穴21から凹部31および吸引穴32を通ってチャンバ4へと導かれる。
【0042】
このように空気が吸引されることで、ベルト穴21に負圧が生じ、吸着力が発生する。搬送ベルト2上に左側の給紙台(図示せず)から印刷用紙10が搬送されてくると、搬送ベルト2は、ベルト穴21に発生した吸着力により、印刷用紙10を吸着保持する。搬送ベルト2は、図1における時計回り方向に回転することで、上面に吸着保持した印刷用紙10を右方向に搬送する。
【0043】
ここで、搬送装置1は、前述のように、式(1)、式(2)をともに満たしている。これにより、図5に示すように、ベルト穴21が凹部31上の開口端31E付近にきたときでも、ベルト穴21の開口付近の領域40において、圧力勾配が大きくなる。この結果、ベルト穴21において安定して大きな負圧が生じる。
【0044】
これに対し、式(1)が満たされない構成である場合(S1>S2の場合)では、ベルト穴21が凹部31上の開口端31E付近にきたとき、ベルト穴21から吸引穴32への空気の流路中、凹部31内で圧力勾配が最大となる。例えば、図5に示す領域41付近において、圧力勾配が最大となる。また、凹部31内の圧力も十分に下がらない。この結果、開口端31E付近のベルト穴21の開口付近の領域40における負圧が十分に大きくならない。
【0045】
また、式(2)が満たされない構成である場合(L3>Pの場合)、図6に示すように、凹部31の開口端31Eと吸引穴32の開口端32Eとの間に、複数のベルト穴21が入ることがある。図6の例では、凹部31の開口端31Eと吸引穴32の開口端32Eとの間に、2つのベルト穴21A,21Bが位置している。この場合、吸引穴32に近い方のベルト穴21Bから、ベルト穴21Aよりも空気が吸引されやすいため、ベルト穴21B付近の領域42付近で圧力勾配が大きくなる。この結果、ベルト穴21Aの開口付近の領域40における負圧が十分に大きくならない。
【0046】
このように搬送装置1では、式(1)および式(2)を満たすことで、ベルト穴21が凹部31上の開口端31E付近にきたときでも負圧の絶対値の低下が抑えられ、ベルト穴21に安定して負圧を生じさせ、印刷用紙10を吸着保持するために十分な吸着力を確保できる。
【0047】
一方、式(1)および式(2)を満たす場合、所望の吸着力を維持しながら、インクジェットヘッド11と搬送ベルト2との間に発生する空気の流量は小さく抑えられる。この理由は以下のようになる。
【0048】
一般に、ファンの動作静圧および動作風量は、ファンによる空気の流れが発生する流路の構造によって決まる。図7において、曲線50は、ファンの風量・静圧特性曲線(PQ特性曲線)の一例であり、曲線51は、流路のシステムインピーダンス曲線の一例である。曲線50と曲線51との交点が動作点52である。
【0049】
曲線53は、曲線51に対応する流路よりも流路抵抗による圧力損失が大きい構造の流路のシステムインピーダンス曲線である。曲線53と曲線50との交点が、この場合の流路に対応する動作点54である。また、曲線55は、曲線51に対応する流路よりも流路抵抗による圧力損失が小さい構造の流路のシステムインピーダンス曲線である。曲線55と曲線50との交点が、この場合の流路に対応する動作点56である。
【0050】
動作点52,54,56で示されるように、流路の圧力損失が大きくなるほど、静圧が大きくなり、流量(風量)が小さくなる。
【0051】
一方、ファンの動作により流路に発生する静圧は、流路抵抗による圧力損失によって減少する。圧力損失は、以下の式(6)により表される。
【0052】
ΔP∝lQ/A …(6)
ここで、ΔPは圧力損失、Qは流量、lは流路の長さ、Aは流路の断面積である。
【0053】
したがって、本実施の形態では、ベルト穴21のサイズが同じとすれば、凹部31における面積S2を大きくし、長さL3を短くすることで、空気の流路の圧力損失を小さくし、ベルト穴21において静圧(負圧)により発生する吸着力を大きくすることが可能である。
【0054】
しかしながら、上述したように、サクションファン5の特性から、流路の圧力損失が小さくなると、空気の流量が大きくなる。この結果、インクジェットヘッド11と搬送ベルト2との間の空気の流量が大きくなってしまう。つまり、負圧と流量とはトレードオフの関係にある。
【0055】
本実施の形態では、式(2)を満たすので、凹部31の開口端31Eと吸引穴32の開口端32Eとの間に入るベルト穴21は1つのみである。開口端31E,32E間に複数のベルト穴21が入ると、長さL3が短くなるのと同様に流路の圧力損失が小さくなるが、式(2)を満たすことで、これを回避し、空気の流量の増大を抑えることができる。
【0056】
前述のように、式(1)および式(2)を満たすことで、搬送装置1において、ベルト穴21に印刷用紙10を吸着保持するための負圧を確保できる。また、上記のように、式(2)を満たすことは、空気の流量の増大を抑える効果がある。したがって、式(1)および式(2)を満たすことで、搬送装置1において、流路における負圧と流量との適切なバランスを確保し、所望の吸着力を維持しつつ、空気の流量の増大を抑えることが可能となる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態の搬送装置1は、式(1)および式(2)を満たすように搬送ベルト2およびプラテンプレート3が形成されているので、ベルト穴21に安定した吸着力を発生させて印刷用紙10の浮き上がりを防止できる。また、搬送装置1は、インクジェットヘッド11と搬送ベルト2との間に発生する気流を低減し、インクミストの散乱を抑制できる。
【0058】
なお、搬送装置1において、流路における負圧と流量との適切なバランスをより良好に確保するために、式(1)および式(2)を満たすとともに、凹部31の面積S2がベルト穴21の面積S1の2倍以下であり、かつ、ベルト穴21のピッチPが長さL3の1.2倍以下であることが好ましい。つまり、搬送装置1は、以下の式(7)および式(8)を満たすことが好ましい。
【0059】
S1<S2≦2×S1 …(7)
L3<P≦1.2×L3 …(8)
式(1)および式(2)を満たすが式(7)または式(8)を満たさない場合、流路の圧力損失が必要以上に小さくなり、空気の流量が大きくなってしまう。また、ベルト穴21における所望の吸着力の維持が困難になることがある。
【0060】
また、凹部31の底面31aは、その左右方向の端部から吸引穴32に向かって下る斜面になるように形成されていてもよい。これにより、空気の流れをスムーズにし、安定した吸着力を得ることができる。なお、この場合には、凹部31の断面積である面積S2としては、凹部31のもっとも浅い位置での前後方向または上下方向に沿う断面における断面積をとればよい。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
実施例として、式(1)および式(2)を満たす搬送ベルト2およびプラテンプレート3を有する搬送装置1を用意した。これに対し、比較例1〜比較例3を用意した。比較例1は、式(2)を満たすが、式(1)を満たさない。比較例2は、式(1)を満たすが、式(2)を満たさない。ここで、実施例および比較例1,2では、S2<S3である。面積S3は、吸引穴32の平面視面積であり、図4(a)においてドットハッチングで示した領域E3の面積に相当する。比較例3は、式(1)を満たすが、式(2)を満たさず、また、S2>S3である。
【0063】
実施例および比較例1〜3において、図8に示すようなPQ特性を有するサクションファン5を用いて、ベルト穴21における静圧(負圧)および空気の流量(ともに平均値)を測定した。なお、インクジェットヘッド11は設置しない状態で測定を行った。
【0064】
そして、静圧を面積S1で除算して、ベルト穴21における吸着力を求めた。また、同等の吸着力を得た場合の流量を比較するため、吸着力により流量を基準化した基準化流量を算出した。基準化流量は、流量を基準化係数で除算した値であり、基準化係数は、各例の吸着力を実施例1の吸着力で除算した値である。
【0065】
実施例および比較例1〜3における各部の寸法および面積を表1に示す。また、各種測定結果等を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0066】
実施例では、比較例1〜3よりも大きな吸着力が得られた。
【0067】
ここで、実施例の圧力コンタ図を図9に示す。図9は、1つのベルト穴21が凹部31上の開口端31E付近にあるときの圧力分布を示す。図9に示すように、実施例では、開口端31E付近のベルト穴21を含む各ベルト穴21の開口付近の領域40において、圧力勾配が大きくなっている。このため、実施例では、大きな負圧および吸着力が得られた。
【0068】
これに対し、比較例1の圧力コンタ図を図10に示す。図10は、図9と同様に、1つのベルト穴21が凹部31上の開口端31E付近にあるときの圧力分布を示す。図10に示すように、比較例1では、凹部31内の領域41において、圧力勾配が大きくなっている。このため、凹部31の開口端31E付近のベルト穴21の開口付近の領域40における負圧が大きくならない。この結果、比較例1では、実施例に比べて吸着力が小さかった。
【0069】
また、比較例2の圧力コンタ図を図11に示す。図11では、凹部31の開口端31Eと吸引穴32の開口端32Eとの間に、2つのベルト穴21A,21Bが位置している。図11に示すように、比較例2では、吸引穴32の開口端32Eに近い方のベルト穴21Bから、ベルト穴21Aよりも空気が吸引されやすいため、ベルト穴21B付近の領域42で圧力勾配が大きくなっている。この結果、ベルト穴21Aの開口付近の領域40における負圧が大きくならない。このため、比較例2においても、実施例に比べて吸着力が小さかった。
【0070】
比較例3は、比較例2に対して、S2>S3である点で異なる。また、比較例3は、比較例2に対して、Sall>S3である点でも異なる。ここで、Sallは、凹部31の形成された領域内に入るベルト穴21の平面視面積の総和の最大値である。例えば、比較例3では、L1=27.2mmであることから、凹部31の形成された領域内にベルト穴21は最大で4つ入る。このため、比較例3におけるSall=S1×4=12.6mmである。なお、比較例2でも、Sall=12.6mmである。上記のような比較例3においても、実施例に比べて吸着力が小さかった。
【0071】
エア吸着方式の搬送装置において吸着力が不足する場合、例えば、エア吸引用に大型のファンを使用したり、電圧dutyの大きい設定で動作静圧を上げたりする対応が必要になる。そのような状況を仮定し、実施例および比較例1〜3で同等の吸着力を得るための流量を基準化流量として求め、これを比較した。表2の結果から分かるように、実施例では、比較例1〜3に対して、基準化流量が大きくならないことが確認できた。
【符号の説明】
【0072】
1 搬送装置
2 搬送ベルト
3 プラテンプレート
4 チャンバ
5 サクションファン
21 ベルト穴
31 凹部
32 吸引穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベルト穴を有し、シートを所定の搬送方向に搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトを前記搬送方向に摺動可能に支持し、前記ベルト穴が通過する箇所において前記搬送ベルトに対向する一方の面から前記一方の面に対向する他方の面に向かって掘り下げられた凹部、および前記凹部の底面の一部から前記他方の面に貫通する吸引穴を有する支持板と、
前記吸引穴、前記凹部、および前記ベルト穴を介して空気を吸引し、シートを前記搬送ベルトに吸着させる吸引部とを備え、
前記ベルト穴の平面視面積は、前記搬送方向に略直交する断面における前記凹部の断面積よりも小さく、かつ、前記搬送方向における前記吸引穴の開口端から前記凹部の開口端までの距離は、前記ベルト穴のピッチよりも小さいことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記搬送方向に略直交する断面における前記凹部の断面積は、前記ベルト穴の平面視面積の2倍以下であり、かつ、前記ベルト穴のピッチは、前記搬送方向における前記吸引穴の開口端から前記凹部の開口端までの距離の1.2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−111616(P2012−111616A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263633(P2010−263633)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】