説明

携帯型大気圧プラズマ発生装置

【課題】ガス流量を抑えて大気圧プラズマを安定に維持し、その発光分析により所望のガス励起状態を得る携帯型大気圧プラズマ発生装置の提供。
【解決手段】外部絶縁管8に軸方向移動可能に配した接地電極4及びその先端に固設した補助電極4aと、外部絶縁管8の軸心に配した内部絶縁管9と、その内部に配した電力電極3と、外部絶縁管8の後端に配したガス導入用のラバルノズル1と、外部絶縁管8先端のプラズマガス吹出口とで構成し、ガス供給部A-4から供給されたプラズマ生成ガスをラバルノズル1から外部絶縁管8内に導入し、接地電極4及び補助電極4aと電力電極3との間に、プログラマブル高周波電源部A-1により放電用の高周波電力を供給し、かつ電力電極3と被処理物7との間に、パルスバイアス電源A-2により、パルスバイアス電圧を印加してプラズマを発生させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少ないガス流量でも安定にプラズマを生成できる、小型ボンベの流用を可能とした携帯型大気圧プラズマ発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、大気圧プラズマ発生装置に於いては、プラズマの熱的作用を応用する大電力プラズマトーチや電子温度が高く低密度で熱負荷の少ない、いわゆる、非熱平衡状態を活用したコロナ放電や誘電体バリヤ放電方式のプラズマ発生装置が主流である。
【0003】
中性ガス温度が電子温度より極めて低い非熱平衡状態でも中性ガスの温度は数百度に及ぶため、ノズル内径1cm程度のプラズマトーチの場合、冷却効果をもたせるためヘリウムガスを1分間に数十リットルも流しているのが現状である。
【0004】
非熱平衡状態のプラズマトーチに関しては特許文献1及び2の提案がある。
【0005】
特許文献1の提案する技術は、「電極表面に誘電体を被着あるいは対向させた高圧電極と接地電極間に形成される筒状放電空間を単数または複数配置された筒状放電部を有し、 成膜種に応じたモノマー気体あるいは処理に応じたプラズマ用気体と不活性ガスからなる反応ガスが、筒状放電部上流側のガス導入部から流入し、前記筒状放電空間を通過して放電部の下流側に設けた吹出口より、対向する被処理材表面に噴出する構成からなり、
反応ガスが前記電極間に高電圧を印加して大気圧近傍でグロー放電あるいは無声放電する筒状放電空間を通過するときプラズマにより励起され、被処理材表面に成膜あるいは表面改質を行う吹出型表面処理装置」である。
【0006】
また特許文献2の提案する技術は、特許文献1の技術を改良したもので、「吹出口端縁に突先部を設けた金属筒を高電圧電極とし、この高電圧電極金属筒の吹出口より不活性ガスおよび/または空気、もしくはこれらと反応性ガスとの混合ガスを吹き出して前記の高電圧電極金属筒に電圧を印加し、大気圧下で浮遊容量に対して放電を発生させてプラズマを生成させる大気圧吹き出し型プラズマ反応装置」である。
【0007】
上記特許文献1、2によれば、大気圧でのプラズマ処理に関して、表面改質や堆積の有用性が認められる。
【0008】
しかし、表面改質や堆積の程度は、プラズマ中ガスの励起状態に強く依存するため、処理エネルギー(励起ガスのエネルギー)や処理時間(励起ガスの照射量)を被処理物やガス種及び雰囲気ガスに対して適切に選ばないと、所望の表面処理精度と再現性は得られない。また、過度のプラズマ照射は試料基材をも溶解したり、不必要な反応生成物を発生したりしてしまう。
【0009】
また、持ち運びが容易な大気圧プラズマ源を用いて、処理時間を増やすためには、限られたガスボンベの実効容積に応じてガス流量を減らさなければならない。
【0010】
この場合は、放電部近傍が加熱され、電極構造の変形や放電部の材質から不純物が放出されるなど、プラズマの安定化に悪影響を及ぼし始める。また、プラズマ発生時の放電電圧が大きくなるため電源容量の増加から装置が大きくなり携帯化が困難となる。この問題は、特許文献3により軽減可能であるが、新たな点火用高周波電源が必要となるため高価となる。更に、電力供給構造が複雑となり、携帯型のプラズマ源としてシステムを構成することは難しくなる。
【0011】
また現行の一般の装置に於いては、プラズマ発生用の電力とガスの供給ラインがそれぞれ別系統となっていて、作業性が良いとはいえない状態にある。
【0012】
【特許文献1】特許第2589599号公報
【特許文献2】特許第3207469号公報
【特許文献3】特開2002−008894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来の熱平衡型プラズマトーチ技術を改良しながら、少ないガス流量で所望のガス励起状態を安定にすることができる携帯型大気圧プラズマ発生装置を提供することを解決の課題とする。またプラズマトーチ先端部のみの機械的な改良により点火を容易にし電源容量を低減させてシステムをダウンサイズできる携帯型大気圧プラズマ発生装置を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1は、外部絶縁管の外周部にその軸方向に移動可能に配した接地電極と、前記外部絶縁管の外周部先端に配した、前記接地電極と同電位の補助電極と、前記外部絶縁管の軸心に沿って配した内部絶縁管と、前記内部絶縁管内に配した電力電極であって、後記高速ノズルから導入したガスが電離して生成したプラズマガスに、その一部又は全部を接触させるように構成した電力電極と、前記外部絶縁管の後端に配したガス導入用の高速ノズルと、前記外部絶縁管の先端に開口したプラズマガスの吹出口とで構成し、
前記高速ノズルから前記外部絶縁管内にプラズマ生成用のガスを導入すべく、ガス供給部から該高速ノズルにプラズマ生成用のガスを供給し、かつ前記接地電極及び前記補助電極と前記電力電極との間に、プログラマブル高周波電源により放電用の高周波電力を供給するように構成した携帯型大気圧プラズマ発生装置である。
【0015】
本発明2は、本発明の1の携帯型大気圧プラズマ発生装置に於いて、前記電力電極と導体である被処理物との間に、パルスバイアス電源により、パルスバイアス電圧を印加するように構成したものである。
【0016】
本発明の3は、本発明の1又は2の携帯型大気圧プラズマ発生装置に於いて、前記外部絶縁管の先端まで、該外部絶縁管先端の吹出口近傍の発光状態を観測するために、光ファイバーコンジットを延長したものである。
【0017】
本発明の4は、本発明の3の携帯型大気圧プラズマ発生装置に於いて、前記光ファイバーコンジットを分光分析装置に接続し、該分光分析装置により前記吹出口周辺のガス励起状態を分光モニタし、得られた励起状態データを基準励起状態データと比較し、所望のガス励起状態が得られるように、前記プログラマブル高周波電源の高周波電圧・電流波形、前記ガス供給部の供給するガス種混合割合及び各種のガス流を制御するように構成したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の1の携帯型大気圧プラズマ発生装置によれば、従来と同様の大気圧プラズマ励起電源を用いて、より高エネルギーの正イオンを被処理物の表面に照射することができ、低ガス流量に於いてもプラズマを吹出口からより長く引出すことができる。またこのプラズマトーチを束ねる事により大面積の大気圧プラズマ源を得ることも可能である。
【0019】
本発明の2の携帯型大気圧プラズマ発生装置によれば、被処理物の表面を過度に加熱することなく荒削りしたい場合等の、イオンを加速して被処理物に強く衝撃させる機能が必要な場合に有効である。パルスバイアスは、前記プログラマブル高周波電源の搬送波が休止する間に前記電力電極と導体である被処理物との間に印加すべきであり、これは、半導体素子を利用した無接点リレー等により容易に構成できる。
【0020】
本発明の3の携帯型大気圧プラズマ発生装置によれば、先端の吹出口から吹き出るプラズマの吹出口近傍の発光状態を良好に観測することができ、プラズマの発生及び消滅時には被処理物表面の励起状態も観測できる。
【0021】
本発明の4の携帯型大気圧プラズマ発生装置によれば、前記プログラマブル高周波電源の高周波電圧・電流波形、並びに前記ガス供給部の供給するガス種の混合割合及び各種のガス流等を適切に制御可能であるため、所望のガス励起状態を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の携帯型大気圧プラズマ発生装置及びこれを含むシステム全体を示す説明図である。このシステムは、ガス流の上流方向からみて、プラズマ発生用機器・分光分析系A、マルチフレキシブルフィーダ系B、プラズマ発生−光検出系(携帯型大気圧プラズマ発生装置)Cに大別される。
【0023】
前記プラズマ発生用機器・分光分析系Aは、図1に示すように、プラズマ発生用のプログラマブル高周波電源部A-1と、パルスバイアス電源部A-2と、分光分析部A-3と、ガス供給部A-4と、パーソナルコンピュータ(以下、PCと略称する)部A-5とにより構成される。
【0024】
前記プログラマブル高周波電源部A-1は、図4(a)に示すようなバースト状の電圧波形を発生することができるものを採用する。これは、放電用の電源であり、後記放電部C-1の電力電極3と可動式の接地電極4及び補助電極4aとの間に供給し、プラズマ密度、空間電位及び電子温度を制御する。該波形は、以上のように、バースト状であるが、以上のような観点から、その振幅、搬送周波数、繰返し周波数及びデューティ比を適切に制御可能なものとする。例えば、これらを、各々0〜2kV、1〜20MHz、1kHz〜100kHz、5〜95%の範囲で制御可能なものが適当である。
【0025】
前記パルスバイアス電源部A-2は、バイアス電圧を制御し、これによってイオン衝撃エネルギーを制御するものであり、前記携帯型大気圧プラズマ発生装置Cの後記放電部C-1の電力電極3と導体である被処理物との間に、前者が高電圧となり、後者が低電圧となるパルス電圧を印加するようにする。その出力波形は、上記の趣旨から、振幅0〜6kV、パルス幅0〜100μs、繰返し周波数1kHz〜100kHzの範囲で、それぞれ制御できるように構成するのが適当である。繰返し周波数は、前記したように、前記プログラマブル高周波電源部A-2の搬送波が休止する間に前記電力電極と導体である被処理物との間にこれを印加すべく、前記プログラマブル高周波電源部A-1のそれと対応させる。
【0026】
前記分光分析部A-3は、例えば、回折格子の格子数1024個、CCDアレー1024chを有し、露出時間40ms〜20sの範囲に及ぶものを採用することができる。
【0027】
前記ガス供給部A-4は、ガスボンベとその開口部に配したバルブと、該バルブを制御するコントローラとで構成することができる。該ガスボンベとしては、前記携帯型大気圧プラズマ発生装置Cとの関係で決定すべきものであるが、予定されるそれとの関係で、例えば、外形350・80・80mm以内のサイズで、ガス耐圧20MPaの仕様で用いられる物を採用することができる。該ガスボンベに付属する減圧弁には、一次側と二次側に圧力センサーが付設してあり、各々の圧力値を逐次前記PC部A-5でモニターできるようにするのが適当である。また前記バルブとしては、例えば、ピエゾ型バルブを採用し、コントローラとしてマスフローコントローラを組込み、弁開閉と0.05〜5l/min(1atm、0℃)のガス流量範囲をPC部A-5で制御できるようにする。これらも、当然、予定される携帯型大気圧プラズマ発生装置Cとの関係で決定されるものである。
【0028】
前記PC部A-5は、例えば、CPU:PENTIUM(登録商標)4−3GHz、メモリ:512MB以上の性能を有する一般的なそれを採用することができる。前記プラズマ発生用機器・分光分析系A内の各部は一つのボックス内に組込むシステムとするのが適当であるが、例えば、図1に示すように、PC部A-5のみを該ボックス外に出して、相互をUSB、RS−232C、GP−IB等の通信規格で接続して後記連動リレー10a、10bを含むプラズマ発生用機器・分光分析系A内の他の各構成要素を制御することにすることもできる。
【0029】
前記マルチフレキシブルフィーダ系Bは、プラズマ発生用の電力供給線路部B-1と、ガス供給線路部B-2と、ファイバー光伝送線路部B-3と、パルスバイアス電圧印加線路部B-4とにより構成される。図2に示すように、例えば、それらを同心状に配置して一本のフレキシブルなラインに構成し、使用上の便宜を考慮すると、通常、全長は3m以内、許容曲率10cm程度に構成するのが適当である。
【0030】
前記電力供給線路部B-1は、メッシュ状の接地スリーブB-1aと同様にメッシュ状の電力スリーブB-1bとを前者を外側に後者を内側にして同心状に配置し、その間及びその外周をそれぞれフレキシブルな絶縁材、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)管(絶縁スリーブ)で保持して構成する。各々の寸法は特定のものに限定されないが、上記絶縁材の厚みを0.5mm程度に想定し、供給予定の電力及び後述するガス供給線路部B-2を構成するガス導入管B-2aとの関係を考慮すると、前記接地スリーブB-1aの内径は6mm、その厚さは0.2mm、前記電力スリーブB-1bの内径は3.8mm、その厚さは0.2mmとするのが適当である。
【0031】
なお、前記電力供給線路部B-1の電力スリーブB-1bと接地スリーブB-1aとは、云うまでもなく、それぞれプラズマ発生用放電部C-1の後記電力電極3と後記接地電極4とを前記プラズマ発生用のプログラマブル高周波電源部A-1に電気的に接続するものである。後記補助電極4aは接地電極4と並列に接続する。なおまた電力電極3とプログラマブル高周波電源部A-1とは、図3(b)に示すように、一方の連動リレー10aを介して接続するものである。
【0032】
前記ガス供給線路部B-2を構成するガス導入管B-2aとしては、種々の管材が使用可能であるが、例えば、PTFE管を採用し、前記電力供給線路部B-1の内側にそれらと同心状に密着配置することができる。該電力供給線路部B-1を、前記のように、接地スリーブB-1aと電力スリーブB-1bとその間及びその外周部の絶縁材とで構成した場合は、該ガス導入管B-2aは、最内部の電力スリーブB-1bの内側に密着する態様で配置するのが適当である。
【0033】
前記ファイバー光伝送線路部B-3は、マルチフレキシブルフィーダ系Bに於いて、前記電力供給線路部B-1と前記ガス供給線路部B-2を構成するガス導入管B-2aとの間又はそれらの最外周部のいずれかの部位に配することができる。もっとも上記両者の間に配することにするのが、前記ガス導入管B-2aを構成するPTFE管等の管材の外側面に長さ方向に沿って構成した溝を利用し、この中に光ファイバーコンジットを配列保持させることができるので好都合である。
【0034】
この場合は、前記ガス供給線路部B-2を構成するガス導入管B-2aの外側面に周方向に定角度間隔でかつ長さ方向に沿った向きに複数の溝を形成し、これらの溝に光ファイバーコンジットを埋め込むこととし、これによってファイバー光伝送線路部B-3を構成する。該ガス導入管B-2aとして、前記のように、PTFE管を採用した場合は、該光ファイバーコンジットを上記のように配列する余地を持った物にするため、相応する周側肉厚寸法を持ったものとすべきであるのは云うまでもない。
【0035】
前記パルスバイアス電圧印加線路部B-4は、電力供給線路部B-1の電力スリーブB-1bと兼用することができる。これによって製造工程の簡略化や低コスト化が可能となる。もっともマルチフレキシブルフィーダ系Bの長さが数メートルになると、電力供給線路部B-1の線間容量が大きくなり、これと兼用した場合は、パルス波形がなまってしまうので、専用の導線を用意すべきことになる。この場合は、単線の導体を絶縁被覆して前記マルチフレキシブルフィーダ系Bの電力供給線路部B-1とガス供給線路部B-2を構成したガス導入管B-2aとの間又はそれらの最外周部のいずれかの部位に引き回すことができる。
【0036】
該単線の導体は、或いは、該ガス導入管B-2aの外側面に長さ方向に沿って構成した溝内に、前記ファイバー光伝送線路部B-3と同様に、前記光ファイバコンジットと共に配することとすることも可能である。この場合は、該導線は、周方向に隣接する適宜二本の光ファイバーコンジットの間に、これらと平行に配することとする。
【0037】
なお、前記パルスバイアス電圧印加線路部B-4は、プラズマ発生用放電部C-1の後記電力電極3に前記パルスバイアス電源部A-2の高電圧側を他方の連動リレー10bを介して接続する。被処理物側には、前記パルスバイアス電源部A-2の低電圧側をここから別に延長した導線で接続する。パルスバイアスを併用する場合は、前記連動リレー10aと上記連動リレー10bとは、前記プログラマブル高周波電源A-1と前記パルスバイアス電源部A-2の各々の電圧波形が示す電圧ゼロの区間に、相補的に給電されるようにリレー駆動を適切に設定しておくこととする。以上に於いて、プラズマ生成用の搬送波が休止した直後数μsは、プラズマ状態が維持される。従って、プラズマ生成用の搬送波の休止時間を数μsにすれば、上記のようにしてパルスバイアス電圧が印加される間はプラズマ状態が維持されることになる。なお、前記したように、イオンを加速して被処理物に強く衝撃させる機能が必要な場合に、以上の構成を利用してパルスバイアスを印加するのが有効である。なおまた、これらの連動リレー10a、10bは、半導体素子によって構成し得る。また該連動リレー10a、10bの動作は、前記のように、前記PC部A-5によって制御することができる。
【0038】
なお、以上のパルスバイアスの印加は、以下のような実験結果に基づく。
前記パルスバイアス電源A-2と連動リレー10bとの間及び該パルスバイアス電源A-2と可動式の接地電極4との間にはそれぞれチョークコイルを挿入し、かつ一方の連動リレー10aをコンデンサに代え、同時に前記他方の連動リレー10bを閉じ、直流バイアス(-300V)を後記電力電極3と被処理物(ステンレスSUS304)との間に数秒間にわたって印加したところ、該被処理物の表面に、該直流バイアスの印加直前から継続して生成されていたトーチ状プラズマに含まれる正イオンと思われる粒子の衝撃痕(深さで数μmのオーダ)が観測された。
【0039】
以上の結果から、被処理物の過熱を抑えて高速に表面を荒削りするには、以上の直流バイアスに代えて高電圧パルス(例えば、5kV、20μs、10kHz)を印加するのが最良の手段となるのは自明である。
【0040】
更にまた前記ファイバー光伝送線路部B-3は、前記分光分析部A-3にプラズマ発光を検出する後記光検出部C-2で検出した光を伝送すべく相互を接続するものである。
【0041】
前記プラズマ発生-光検出系である携帯型大気圧プラズマ発生装置Cは、プラズマ発生用の放電部C-1とプラズマ発光を検出する光検出部C-2とにより構成される。これらは、図3(b)に示すように、円筒状の外部絶縁管8及びその軸心に沿って配する小径の内部絶縁管9に配して構成されるようになっている。
【0042】
前記プラズマ発生用の放電部C-1は、電力電極3と、可動式の接地電極4と、補助電極4aと、ガス導入用の高速ノズルとで構成し、前記のように、これらを前記外部絶縁管8及び前記内部絶縁管9に取り付ける。
【0043】
前記電力電極3は、例えば、L型の中心導体に構成し、図3(b)に示すように、その軸方向部3aを、前記内部絶縁管9に挿入し、該中心導体の後端から直角方向に延びる縦方向部3bの外端付近を前記外部絶縁管8にセットする。該外部絶縁管8に後端から軸方向に向けて係止溝を形成しておき、この係止溝に該縦方向部3bの外端付近を挿入すると共に、その下流側端に接するように配置するのが適当である。なお前記内部絶縁管9は、この場合は、以上のように、これに配された電力電極3を構成する中心導体の縦方向部3bを介して外部絶縁管8に同軸状に固定保持されることになる。
【0044】
前記外部絶縁管8及び前記内部絶縁管9は、例えば、石英ガラスによって構成することができる。
【0045】
前記可動式の接地電極4は、環状の導体に構成し、図3(a)、(b)に示すように、前記外部絶縁管8の外周にその軸方向に沿って摺動自在に外装する。該接地電極4の摺動範囲は、前記電力電極3が高温になるのを回避するために必要なだけ前記外部絶縁管8の先端側に移動できるように設定する。例えば、該電力電極3に内外ほぼ対応する部位付近から該外部絶縁管8の先端側に概ね10mm程往復移動可能に構成する。往復移動をさせるための構成は自由である。
【0046】
前記補助電極4aは、前記したように、前記接地電極4と並列に配する。この補助電極4aは、該接地電極4と同様に、環状の導体に構成し、図3(b)に示すように、外部絶縁管8の先端外周部に外装固定する。該補助電極4aは、先端側で前記外部絶縁管8に固設した絶縁ジャケット14で被覆する。この絶縁ジャケット14も石英ガラスで構成するのが適当である。プラズマ吹き出し口の先端で前記外部絶縁管8の先端を細くし、それに伴い、前記補助電極4aのリング外径を該接地電極4のそれに対して小さくして構成することも可能である。
【0047】
前記プラズマ発光を検出する光検出部C-2は、前記外部絶縁管8の後端から先端まで延長する複数本の光ファイバーコンジット5、5…で構成することができる。該外部絶縁管8の外周部に這わせて配置することもできるが、図3(a)、(b)に示すように、その周側肉厚部内に定角度間隔で配する構成とするのがより好ましい。このとき、各光ファイバコンジット5、5…の先端部は該外部絶縁管8の先端にできるだけ近接させる。なお、このような外部絶縁管8の周側肉厚部内への光ファイバコンジット5、5…の配置は、該外部絶縁管8を成形した後に該コンジットをその中に埋め込むことによって行うことができる。
【0048】
前記高速ノズルは、前記外部絶縁管8の後端、即ち、上流側端部中心に構成する。この高速ノズルとしては、種々の超音速ノズルを採用可能である。例えば、図3(b)に示すように、該外部絶縁管8の後端に円柱形のラバルノズル1を填め込むことによって構成することができる。
【0049】
前記外部絶縁管8の先端は、図3(b)に示すように、そのまま開口状態となり、プラズマガスの吹出口となっている。
【0050】
従って本発明の携帯型大気圧プラズマ発生装置を含むこのシステムによれば、前記したように、従来の大気圧プラズマ励起電源と同様の仕様であるプログラマブル高周波電源部A-1を用いて、より高エネルギーの正イオンを被処理物の表面に照射することができる。
【0051】
またプラズマ発生用機器・分光分析系Aのガス供給部A-4からマルチフレキシブルフィーダ系Bを通じて携帯型大気圧プラズマ発生装置Cまで供給されたガスは、その高速ノズルを通じて放電部C-1を構成する外部絶縁管8内に高速で導入される。このようにして外部絶縁管8内に導入されるガスが低流量であっても、その誘電体バリヤ放電部で良好にプラズマ化し、生じたプラズマを該外部絶縁管8先端の吹出口からより長く引出すことができる。即ち、外部絶縁管8の外周途中に移動自在に配した接地電極4に加えてその先端外周に補助電極4aを配置し、これらと電力電極3との間にプログラマブル高周波電源部A-1から出力される高周波電圧を印加することとしたため、該外部絶縁管8の先端付近の電気力線密度を増大させ、その上流部に位置する誘電体バリヤ放電部からのシードプラズマを空間的に増大し前記吹出口外へ大気圧プラズマを引出すことができる。
【0052】
加えて、前記外部絶縁管8の先端まで光ファイバーコンジット5、5…を延長させたため、これによって先端の吹出口近傍のプラズマの発光状態が良好に検出され、これがマルチフレキシブルフィーダ系Bを通じてプラズマ発生用機器・分光分析系Aの分光分析部A-3に伝送され、プラズマ中のガス励起状態及び被処理物表面の励起状態が観測され、この観測結果データがPC部A-5に入力される。PC部A-5では、この観測結果データと所望のガス励起状態のデータである基準状態のデータとを比較し、その比較結果に基づいて、前記プログラマブル高周波電源部A-1の振幅や周波数等の出力波形、並びにガス供給部A-4から供給されるガス種の混合割合と各ガス種の流量等を適切に制御し、所望のガス励起状態を確保するよう動作する。
【0053】
また、前記のように、外部絶縁管8の外周に配した接地電極4を該外部絶縁管8の軸方向に移動可能に構成し、プラズマの点火時に該接地電極4を電力電極3に近づけるべく移動させ、これによって比較的低い放電開始電圧を得ると共に、高速ノズルのノズル径を絞ることにより電力電極3を冷却して低いガス流量で安定にプラズマを維持できる。
【0054】
こうして、プラズマ発生用のプログラマブル高周波電源A-1とガス供給部A-4のガスボンベを小型化でき、小型の携帯型大気圧プラズマ発生装置を含む小型のシステムが提供できる。
【0055】
また本発明の携帯型大気圧プラズマ発生装置を含むこのシステムによれば、パルスバイアスを、前記プログラマブル高周波電源の搬送波が休止する間に、前記電力電極と導体である被処理物との間に印加することにより、イオンを加速して被処理物に強く衝撃させ、
その表面を過度に加熱することなく荒削りするようなことができる。
【実施例】
【0056】
この実施例は、実施例の携帯型大気圧プラズマ発生装置を含むシステムに関し、全体構成の概要は、図1に示す通りである。
【0057】
このシステムは、図1に示すように、ガス流の上流方向から見て、プラズマ発生用機器・分光分析系Aと、マルチフレキシブルフィーダ系Bと、携帯型大気圧プラズマ発生装置Cとで構成したものである。
【0058】
前記プラズマ発生用機器・分光分析系Aは、図1に示すように、プラズマ発生用のプログラマブル高周波電源部A-1と、パルスバイアス電源部A-2と、分光分析部A-3と、ガス供給部A-4と、PC部(パーソナルコンピュータ部)A-5とにより構成される。
【0059】
前記プログラマブル高周波電源部A-1は、図4(a)に示すようなバースト状の電圧・電流波形を発生し、その振幅、搬送周波数、繰返し周波数及びデューティ比を、各々0〜2kV、1〜20MHz、1kHz〜100kHz、5〜95%の範囲で制御可能に構成したものである。
【0060】
これを詳しく説明すると、該プログラマブル高周波電源部A-1は、実効値出力を振幅と称し、これが、前記のように、0〜2kVの範囲で制御可能である。搬送周波数は、図4(a)の(1)に示す周期tの逆数であり、これが、前記のように、1〜20MHzの範囲で制御可能である。繰返し周波数は、図4(a)の(1)に示す搬送波のオンの時間とオフの時間の合計時間(ton+toff)の逆数であり、これが、前記のように、1kHz〜100kHzの範囲で制御可能である。またデューティ比は、前記合計時間(ton+toff)に対するオンの時間(ton)の100分率[100ton/(ton+toff)]であり、これが、前記のように、5〜95% の範囲で制御可能になっている。
【0061】
前記パルスバイアス電源部A-2は、前記携帯型大気圧プラズマ発生装置Cの放電部C-1の電力電極3と導体である被処理物7との間に、前者が高電圧となり、後者が低電圧となるパルス電圧を印加するように接続する。その出力波形は、振幅0〜6kV、パルス幅0〜100μs、繰返し周波数1kHz〜100kHzの範囲で、それぞれ制御できるように構成したものである。
【0062】
前記分光分析部A-3は、回折格子の格子数1024個、CCDアレー1024chを有し、露出時間40ms〜20sの範囲に及ぶものを採用した。
【0063】
前記ガス供給部A-4は、ガスボンベとその開口部に配したバルブと、該バルブを制御するコントローラとで構成したものである。該ガスボンベは、外形350・80・80mmで、ガス耐圧20MPaのそれを採用した。該ガスボンベに付属する減圧弁には、一次側と二次側に圧力センサーが付設してあり、各々の圧力値を逐次前記PC部A-5でモニターできるようにした。また前記バルブとしては、ピエゾ型バルブを採用し、コントローラとしてマスフローコントローラを組込み、弁開閉と0.05〜5l/min(1atm、0℃)のガス流量範囲をPC部A-5で制御できるようにしたものである。
【0064】
前記PC部A-5は、CPU:PENTIUM(登録商標)4−3GHz、メモリ:512MB以上の性能を有する一般的なノート型のそれを採用し、前記プラズマ発生用機器・分光分析系Aの各部とは分離してボックス外に出して置き、USBの通信規格で接続して連動リレー10a、10bを含む該プラズマ発生用機器・分光分析系A内の他の各構成要素を制御することにした。
【0065】
前記マルチフレキシブルフィーダ系Bは、プラズマ発生用の電力供給線路部B-1と、ガス供給線路部B-2と、ファイバー光伝送線路部B-3と、パルスバイアス電圧印加線路部B-4とにより構成される。図2に示すように、それらを同心状に配置して一本のフレキシブルなラインに構成し、全長は3m、許容曲率10cmに構成した。
【0066】
前記電力供給線路部B-1は、メッシュ状の接地スリーブB-1aと同様にメッシュ状の電力スリーブB-1bとを、図2に示すように、前者を外側に後者を内側にして同心状に配置し、その間及びその外周をそれぞれPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)による絶縁スリーブB-1c、B-1cで保持して構成した。該絶縁スリーブB-1cの厚みは0.5mm、前記接地スリーブB-1aの内径は6mm、その厚みは0.2mm、前記電力スリーブB-1bの内径は3.8mm、その厚さは0.2mmとした。いずれも長さは、前記のように、3mである。
【0067】
前記ガス供給線路部B-2としては、PTFEによるガス導入管B-2aを採用し、図2に示すように、前記電力供給線路部B-1の内側、即ち、内径3.8mmの電力スリーブB-1bの内側に装入する態様で、それらと同心状に配置した。このPTFEによるガス導入管B-2aは、内径を2mmに、その周側部の厚みを0.7mmに構成したものである。
【0068】
前記ファイバー光伝送線路部B-3は、前記ガス供給線路部B-2を構成するPTFE製のガス導入管B-2aの外側面に長さ方向に沿って配した溝を利用し、この中に光ファイバーコンジットB-3a、B-3a…を配列保持させて構成した。これらの光ファイバーコンジットB-3a、B-3a…は、図2に示すように、8本のそれを該ガス導入管B-2aの外側面の溝内に周方向に45度の定角度間隔でかつ長さ方向に沿った向きで配列した。これらの光ファイバーコンジットB-3a、B-3a…は、該ガス導入管B-2aを成形した後に、前記配列の溝に埋め込むものである。
【0069】
なお、以上の光ファイバーコンジットB-3aは、直径が200μmで、透過波長が200−950nmのそれを採用した。
【0070】
前記パルスバイアス電圧印加線路部B-4は、単線の導体を、前記ファイバー光伝送線路部B-3と同様に、前記ガス供給線路部B-2を構成するPTFE製のガス導入管B-2aの外側面の溝内に埋め込むことにより、パルスバイアス電圧印加線B-4aとして構成した。該パルスバイアス電圧印加線B-4aを構成する導線は、この場合は、周方向に隣接する二本の光ファイバーコンジットB-3a、B-3aの間に、これらと平行に配するものである。
【0071】
前記携帯型大気圧プラズマ発生装置Cは、プラズマ発生用の放電部C-1とプラズマ発光を検出する光検出部C-2とにより構成したものである。これらは、図3(b)に示すように、円筒状の外部絶縁管8及びその軸心に沿って配する小径の内部絶縁管9に配して構成したものである。
【0072】
前記放電部C-1は、電力電極3と、可動式の接地電極4と、固定式の補助電極4aと、ガス導入用のラバルノズル1とで構成し、前記のように、これらを外部絶縁管8及び内部絶縁管9に取り付けたものである。
【0073】
前記電力電極3は、この実施例では、L型の中心導体に構成し、図3(b)に示すように、その軸方向部3aを、前記内部絶縁管9に挿入し、該中心導体の後端から直角方向に延びる縦方向部3bの外端付近を前記外部絶縁管8にセットしたものである。該外部絶縁管8にはその後端から軸方向に向けて係止溝を形成しておき、この係止溝に該縦方向部3bの外端付近を挿入すると共に、その下流側端に接するように配置したものである。なお前記内部絶縁管9は、以上のように、この実施例では、これに配された電力電極3を構成する中心導体の縦方向部3bを介して前記外部絶縁管8に同軸状に固定保持されることとなっている。
【0074】
また前記外部絶縁管8及び前記内部絶縁管9は、いずれも石英ガラスによって成形したものであり、該外部絶縁管8は、図3(b)に示すように、ストレートな円筒状で前後端(上流側端及び下流側端)のいずれもが開口しており、該内部絶縁管9は、同図に示すように、先端(下流側端)が閉じ、後端(上流側端)が開口した試験管状の構成となっている。この実施例では、該外部絶縁管8の外径は5.3mmに、その周側部の厚みは0.65mmに構成し、該内部絶縁管9の外径は2mmに、その厚みは0.5mmに構成したものである。
【0075】
前記電力電極3を構成するL型の中心導体の直径は0.5mm、その軸方向部3aの長さは10mm、縦方向部3bの長さは3mmである。
【0076】
前記可動式の接地電極4は、図3(a)、(b)に示すように、環状の導体に構成し、前記外部絶縁管8の外周にその軸方向に沿って摺動自在に外装する。該接地電極4の摺動範囲は、前記電力電極3の先端側に内外ほぼ一致する部位付近と、該部位から10mm程該外部絶縁管8の先端(下流端)側の部位との間とし、この範囲を自由に移動可能にしたものである。なお該接地電極4は、その幅を5mmとし、肉厚を0.2mmに構成した。
【0077】
また前記補助電極4aは、前記接地電極4と同様に、環状の導体に構成し、図3(b)に示すように、前記外部絶縁管8の先端外周部に外装固定し、該外部絶縁管8の先端側に固設した石英ガラス製の絶縁ジャケット14で被覆したものである。この補助電極4aは、その下流側端が該外部絶縁管8の下流側端から1mm上流側に後退した位置となるようにする。またこの補助電極4aは、電気的には前記接地電極4と並列に接続される。なお該補助電極4aは、前記接地電極4と同様に、その幅を5mmとし、肉厚を0.2mmに構成した。
【0078】
前記プラズマ発光を検出する光検出部C-2は、前記外部絶縁管8の後端から先端まで延長する8本の光ファイバーコンジット5、5…を、図3(a)、(b)に示すように、該外部絶縁管8の周側肉厚部内に周方向45度の定角度間隔で配する構成としたものである。このとき、各光ファイバコンジット5、5…の先端部は該外部絶縁管8の先端(下流端)に0.3mmまで近接させたものである。なお、このような外部絶縁管8の周側肉厚部内への光ファイバコンジット5、5…の配置は、該外部絶縁管8を成形した後に該光ファイバコンジット5、5…をその中に埋め込むことによって行った。
【0079】
該光ファイバコンジット5、5…は、前記ファイバー光伝送線路部B-3を構成する光ファイバーコンジットB-3aをそのまま延長して使用したので、直径が200μmで、透過波長が200−950nmのそれである。
【0080】
前記ラバルノズル1は、図3(b)に示すように、円柱状の外形を持ち、縦断面凹レンズ状であり、その端面方向から見た中央部に直径が0.2mmφで、深さ(長さ)が0.5mmのノズル孔を開口した物である。そして、前記のように、前記外部絶縁管8の後端、即ち、上流側端部に同心状に填め込んで固定してあるものである。
【0081】
前記外部絶縁管8の後端(上流側端)には、図1に示すように、これより大径のアウターシェルC-3を結合し、該アウターシェルC-3には、ガス流スイッチC-3a及びガス励起スイッチC-3bを配置する。前記ガス流スイッチC-3aは、前記ラバルノズル1の直前に配した図示しない開閉弁を開閉操作するスイッチであり、前記ガス励起スイッチC-3bは、前記プログラマブル高周波電源部A-1及び前記パルスバイアス電源部A-2をオンオフ操作するスイッチである。
【0082】
この携帯型大気圧プラズマ発生装置を含むシステムの各部の構成は以上の通りであるが、そのフレキシブルフィーダ系Bを、以下に示すように、上流のプラズマ発生用機器・分光分析系Aと下流の携帯型大気圧プラズマ発生装置Cとに接続してシステムは完成する。
【0083】
こうして電力供給線路部B-1の電力スリーブB-1bと接地スリーブB-1aとは、それぞれプラズマ発生用放電部C-1の電力電極3と接地電極4及び補助電極4aとをプログラマブル高周波電源部A-1に電気的に接続する。なお電力電極3とプログラマブル高周波電源部A-1とは、図3(b)に示すように、連動リレー10aを介して接続する。この連動リレー10aは後記連動リレー10bも含めて半導体素子によって構成したものである。
【0084】
パルスバイアス電圧印加線路部B-4は、プラズマ発生用放電部C-1の電力電極3とパルスバイアス電源部A-2の高電圧側を連動リレー10bを介して接続する。パルスバイアス電源部A-2の低電圧側は、ここから別に延長した導線で被処理物7側に個別に接続する。パルスバイアスを併用する場合は、前記プログラマブル高周波電源A-1の搬送波が切れた時間に前記一方の連動リレー10aが開き、同時に前記他方の連動リレー10bが閉じることにより、電力電極3へパルス電圧のみが供給される。この場合、パルス幅は搬送波の休止時間より小さく、その繰り返し周期は、バースト電圧波形のそれと一致させている。このようなパルスバイアスは、被処理物7の表面を過度に加熱することなく荒削りしたい場合等のイオンを加速して被処理物7に強く衝撃させる必要がある場合に印加する。なおプログラマブル高周波電源A-1が前記バースト電圧波形に前記のタイミングで重畳されるスルーレートの大きい前記パルスを含むように構成してある場合は、パルスバイアス電源部A-2、バイアス電圧印加線路部B-4及び連動リレー10a、10bは不必要となる。
【0085】
ファイバー光伝送線路部B-3は、その一端で、分光分析部A-3に接続し、他端はそのままプラズマ発光を検出する光検出部C-2として延長する。
【0086】
またガス供給線路部B-2は、その一端でガス供給部A-4に接続し、他端で、前記ラバルノズル1の上流側に接続する。
【0087】
次に、以上の携帯型大気圧プラズマ発生装置を含むシステムによって所望のガス励起状態が得られるメカニズムを、図4(a)〜(d)に沿って説明する。
【0088】
前記ガス流スイッチC-3aを、前記ラバルノズル1の直前の開閉弁を開くべく操作し、かつ前記ガス励起スイッチC-3bをオン操作する。
【0089】
こうして前記ガス供給部A-4のガスボンベからヘリウムガスが供給され、図3(b)中の矢印6に示すように、これが前記ラバルノズル1まで導入され、該ラバルノズル1を通じて、毎分0.5リットル(0.5 l/min)で該ヘリウムガスが外部絶縁管8の上流端の中央部に高速で導入される。このとき、可動式の接地電極4を上流側に移動させて電力電極3であるL型中心導体の軸方向部3aに近づける。こうして比較的低い放電開始電圧を得、小さな電源容量でプラズマの点火を容易にする。点火したプラズマは、前記ラバルノズル1でノズル径を絞ることにより電力電極3を冷却して低いガス流量においても安定に維持できる。
【0090】
また、このとき、プログラマブル高周波電源部A-1では、図4(a)中の(2)に示すような波形、即ち、搬送周波数2MHz、振幅100V、繰返し周波数100kHz、デューティ比30%の電圧・電流波形を生成し、これを、電力電極3と可動式の接地電極4及び補助電極4a間に給電している。この振幅を大きくして行くと、約800Vで、図3(b)に示すように、外部絶縁管8の外周に位置する接地電極4と内部絶縁管9中の電力電極3との間に誘電体バリヤ放電が発生し、その間に誘電体バリヤ放電プラズマ13が生成される。
【0091】
次いで、前記プログラマブル高周波電源部A-1の出力する高周波電圧・電流の振幅を更に大きくすることにより、図3(b)に示すように、誘電体バリヤ放電部で生成されたプラズマを外部絶縁管8の先端外まで引出すことができる。こうして、同図に示すように、トーチ状プラズマ12が生成する。
【0092】
この後、可動式の接地電極4を電力電極3であるL型中心導体の軸方向部3aから遠ざけ、補助電極4aに近づける。こうして該電力電極3が高温になり、不純物が発生するのを抑制することができる。
【0093】
搬送周波数2MHz、振幅900V、繰返し周波数100kHz、デューティ比30%の波形、即ち、図4(a)-(2)の波形によりプラズマが生成されると、図4(a)-(1)に示すデューティ比のより大きな波形で生成された場合に比べて、電子温度の低いプラズマ状態が実現される。
【0094】
この場合には、図4(c)に示すような、窒素ガスの電離や酸素ガスの解離等の化学反応に必要なエネルギーは原子や分子により固有であるため、大気雰囲気の成分である酸素分子と窒素分子では、窒素分子の電離が起こり難い。
【0095】
以上のプラズマ中のガス励起状態は、外部絶縁管8の先端(下流端)まで延長状態に埋め込んだ光ファイバーコンジット5、5…によりガスの発光状態を検出し、それをマルチフレキシブルフィーダ系Bのファイバー光伝送線路部B-3を経由して、分光分析部A-3に導き、これによってモニターすることができる。
【0096】
こうしてモニターすると、図4(d)-2に示すように、プラズマガス中の発光現象として、波長が800nm前後の酸素分子の励起スペクトルがより強く現れるのが分かる。
【0097】
窒素分子ガスの励起状態が必要な場合は、PC部A-5で、プログラマブル高周波電源部A-1が、図4(a)-(1)に示すデューティ比の大きな波形出力を生成すべく制御するように操作すれば良い。これによって、図4(d)-1に示すように、波長が200−400nm程の窒素分子の励起スペクトルがより強く現れるのが分かる。
【0098】
こうして携帯型大気圧プラズマ発生装置Cは、目的に応じて、プログラマブル高周波電源部A-1の出力波形を制御することにより、プラズマ生成ガスの励起状態をある範囲でコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の携帯型大気圧プラズマ発生装置及びこれを含むシステム全体を示す説明図。
【図2】実施例のマルチフレキシブルフィーダの概要を示す断面説明図。
【図3】(a)は実施例の携帯型大気圧プラズマ発生装置の主要部に於けるプラズマ放電構造とファイバー光検出機能を示す断面説明図、(b)は実施例の携帯型大気圧プラズマ発生装置に於けるプラズマ放電構造とファイバー光検出機能を説明する側面説明図。
【図4】(a)は実施例の携帯型大気圧プラズマ発生装置を用いてプラズマを発生させる場合のプログラマブル高周波電源部の出力波形を示す図、(b)は波形に対応するプラズマ電子のエネルギー分布を示す図、(c)はプラズマ中で生じる化学反応の一例を示す図、(d)-1及び(d)-2は生成するプラズマの発光スペクトラムの一例を示す図。
【符号の説明】
【0100】
A プラズマ発生用機器・分光分析系
A-1 プログラマブル高周波電源部
A-2 パルスバイアス電源部
A-3 分光分析部
A-4 ガス供給部
A-5 PC部(パーソナルコンピュータ)部
B マルチフレキシブルフィーダ系
B-1 電力供給線路部
B-1a 接地スリーブ
B-1b 電力スリーブ
B-1c 絶縁スリーブ
B-2 ガス供給線路部
B-2a ガス導入管
B-3 ファイバー光伝送線路部
B-3a 光ファイバーコンジット
B-4 パルスバイアス電圧印加線路部
B-4a パルスバイアス電圧印加線
C 携帯型大気圧プラズマ発生装置
C-1 放電部
C-2 光検出部
C-3 アウターシェル
C-3a ガス流スイッチ
C-3b ガス励起スイッチ
1 ラバルノズル
3 電力電極
3a 軸方向部
3b 縦方向部
4 接地電極
4a 補助電極
5 光ファイバーコンジット
6 ガス流を示す矢印
7 被処理物
8 外部絶縁管
9 内部絶縁管
10a プログラマブル高周波電圧断続用の連動リレー
10b パルスバイアス電圧断続用の連動リレー
14 絶縁ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部絶縁管の外周部にその軸方向に移動可能に配した接地電極と、前記外部絶縁管の外周部先端に配した、前記接地電極と同電位の補助電極と、前記外部絶縁管の軸心に沿って配した内部絶縁管と、前記内部絶縁管内に配した電力電極であって、後記高速ノズルから導入したガスが電離して生成したプラズマガスに、その一部又は全部を接触させるように構成した電力電極と、前記外部絶縁管の後端に配したガス導入用の高速ノズルと、前記外部絶縁管の先端に開口したプラズマガスの吹出口とで構成し、
前記高速ノズルから前記外部絶縁管内にプラズマ生成用のガスを導入すべく、ガス供給部から該高速ノズルにプラズマ生成用のガスを供給し、かつ前記接地電極及び前記補助電極と前記電力電極との間に、プログラマブル高周波電源により放電用の高周波電力を供給するように構成した携帯型大気圧プラズマ発生装置。
【請求項2】
前記電力電極と導体である被処理物との間に、パルスバイアス電源により、パルスバイアス電圧を印加するように構成した請求項1の携帯型大気圧プラズマ発生装置。
【請求項3】
前記外部絶縁管の先端まで、該外部絶縁管先端の吹出口近傍の発光状態を観測するために、光ファイバーコンジットを延長した請求項1又は2の携帯型大気圧プラズマ発生装置。
【請求項4】
前記光ファイバーコンジットを分光分析装置に接続し、該分光分析装置により前記吹出口周辺のガス励起状態を分光モニタし、得られた励起状態データを基準励起状態データと比較し、所望のガス励起状態が得られるように、前記プログラマブル高周波電源の高周波電圧・電流波形、前記ガス供給部の供給するガス種混合割合及び各種のガス流を制御するように構成した請求項3の携帯型大気圧プラズマ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−207475(P2007−207475A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22313(P2006−22313)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(594133858)スターエンジニアリング株式会社 (20)