説明

摩擦低減シートユニット、ケーソン躯体及び該ケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法

【課題】例えばケーソン躯体の圧入沈降に際して効果的で安定した摩擦低減作用が得られ、且つ、材料、施工コストの削減、施工労力の軽減及び工期の短縮が図れる摩擦低減シートユニット、ケーソン躯体及び該ケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法を提供する。
【解決手段】少なくともその内面31には摩擦低減材層30が設けられた長尺の摩擦低減シート21がロール状に巻き取られ、該ロール状摩擦低減シート21がボックス230に繰り出し可能に収容され、前記ボックス230内に水と接触すると膨潤して止水性を発現する粉粒状の止水剤28が充填されている摩擦低減シートユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともその片面には摩擦低減材層が設けられた長尺の摩擦低減シートがロール状に巻き取られ、該ロール状摩擦低減シートがボックスに繰り出し可能に収容されて成る摩擦低減シートユニットに関するものである。
【0002】
更に、本発明は、先端に内刃状をしたケーソン刃口が形成されたケーソン躯体を地中に所定ストロークずつ圧入沈降させ、該ケーソン躯体内部の泥土を掘削しながら外部に排出すると共に、更にケーソン躯体の上方に後続の躯体を設置足して行くことによって所定深さのケーソン立坑を構築する圧入ケーソン工法において使用されるケーソン躯体及び該ケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
例えば、地中や海底に橋脚を建設する場合や、シールド工事における発進ないし到達用の立坑を掘削する場合には、従来から「ケーソン」と呼ばれる先端に内刃状の刃口が形成された構造躯体が使用され、この「ケーソン」を使用した「圧入ケーソン工法」が実施されている。尚、「圧入ケーソン工法」にはケーソン等の自重を利用してケーソンを地盤中に圧入沈降させる「オープン式圧入ケーソン工法」、油圧ジャッキ等を使用してケーソンを地盤中に圧入沈降させる「油圧式圧入ケーソン工法」、エアを利用してケーソンを地盤中に圧入沈降させる「エア式圧入ケーソン工法(圧入併用ニューマチックケーソン工法)」と呼ばれる圧入ケーソン工法、あるいはこれらの幾つかを組み合わせた構成の圧入ケーソン工法がある。
【0004】
このうち「油圧式圧入ケーソン工法」を例に採れば、掘削部位外方において予め打ち込んでおいた「圧入反力用アンカー」と呼ばれる棒状の支持部材を油圧ジャッキ等によって支持させ、該油圧ジャッキ等を油圧駆動することによって上記「ケーソン」を地中ないし海底に所定ストローク圧入沈降させる。そして、クラムシェルバケット等を使用してケーソン内部の地盤を掘削・排土していた。また、所定ストローク圧入沈降されたケーソン上にプレキャストされた後続の躯体を載置して上述のケーソンの圧入、泥土の掘削及び排出、後続の躯体の増設を繰り返すことによって最終的に所定深さのケーソン立坑を構築していた。
【0005】
そして、このような圧入ケーソン工法において問題になるのが、ケーソン躯体の圧入沈降時に生ずる地盤とケーソン躯体との間、あるいは地盤と後続の躯体との間の摩擦抵抗である。下記の特許文献1には、主に鋼矢板等の打設の際に使用される摩擦抵抗の低減を目的とした工法が開示されている。即ち、地盤と摺接する沈設体の表面に摩擦低減樹脂材を塗布するようにした工法である。しかし、当該摩擦低減樹脂材を沈設体の表面に単に薄く塗っただけでは、沈設体の圧入沈降に伴って徐々に剥離して行くため、所望の摩擦低減作用が発揮し得ない場合が生じ得る。また、上記摩擦低減樹脂材は沈設体と共に恒久的あるいは長期に亘って地盤中に留まることになるため、摩擦低減樹脂材中の有機溶剤等が地盤中に滲透して周辺環境に悪影響を及ぼすおそれも懸念される。
【0006】
また、下記の特許文献2には、ケーソンの圧入沈降の際に使用される摩擦抵抗の低減を目的とした工法が開示されている。即ち、地盤と摺接するケーソンの外周面に摩擦係数の小さな摩擦低減金属シートの繰出し先端部を密着状態で取り付け、ケーソンの圧入沈降に伴って徐々に摩擦低減金属シートを地盤中に引き下げるようにした工法である。しかし、このような摩擦低減金属シートのみの使用では地盤とケーソンの摺接抵抗は回避できるが摩擦低減金属シートとケーソン間の摺接抵抗は回避できないため、必ずしも十分な摩擦低減作用が得られない場合がある。このような場合には地盤と摩擦低減金属シートとの間に圧縮空気を送って摩擦抵抗の低減を図るという付随的且つ補助的な措置が講じられていた。
【0007】
【特許文献1】特開2003−55982号公報
【特許文献2】特許第788314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、例えばケーソン躯体の圧入沈降に際して効果的で安定した摩擦低減作用が得られ、且つ、材料、施工コストの削減、施工労力の軽減及び工期の短縮が図れる摩擦低減シートユニット、ケーソン躯体及び該ケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様は、摩擦低減シートがロール状に巻き取られ、その巻き取られた状態における前記シートの少なくとも片面には摩擦低減材層が設けられて成るロール状摩擦低減シートがボックスに繰り出し可能に収容され、前記ボックス内に水と接触すると膨潤して止水性を発現できる粉粒状の止水剤が充填されていることを特徴とする摩擦低減シートユニットである。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、摩擦低減シートはその表面に摩擦低減材層が設けられている。従って、例えば地盤と摺接するケーソンの先端外周面に当該摩擦低減シートユニットを取り付け、ケーソンの圧入沈降に伴って前記ロール状摩擦低減シートを巻き解いて当該摩擦低減シートを徐々に地盤中に繰り出すように用いることで、地盤とケーソンとの間の摺接抵抗を完全に回避できると共に、摩擦低減シートとケーソン間の摺接抵抗も当該摩擦低減材層によって大幅に低減することができる。
【0011】
更に、前記ロール状摩擦低減シートが収容される前記ボックス内には、水と接触すると膨潤して止水性を発現できる粉粒状の止水剤が充填されている。従って、摩擦低減シートの繰り出し口から水が浸入すると、その浸入と同時に前記繰り出し口付近で粉粒状止水剤と接触して反応して膨潤し、これにより前記繰り出し口を封止して外部と遮断し、すなわち止水性が発現されて、当該ボックス内への水の浸入が防止される。
摩擦低減シートが前記繰り出し口から繰り出されると前記膨潤による封止状態が壊れてそこから水が入り込むが、直ちに未反応状態の止水剤と反応して新たに膨潤し、前記繰り出し口は再び封止される。
【0012】
ボックス内に止水剤が充填されていないとボックス内に容易に水が入る。すると前記ロール状摩擦低減シートの摩擦低減材層が水と接触することになる。そうなると摩擦低減材層は、その素材の種類にも因るが、水との接触によって劣化してしまい、ボックス外に繰り出されて摩擦低減機能を発揮すべき時点では、前記劣化によってその摩擦低減機能を確実には発揮できなくなる虞がある。
【0013】
本発明によれば、ボックス内に充填された前記止水剤によって、当該ボックス内への水の浸入が防止されるので、摩擦低減材層が水によって劣化する虞が無くなり、当該摩擦低減シートがボックス外に繰り出されて摩擦低減機能を発揮すべき時点において、その摩擦低減機能を確実に発揮させることができる。

本発明の第2の態様は、前記第1の態様の摩擦低減シートユニットにおいて、前記摩擦低減シートの前記摩擦低減材層は水と接触すると膨潤し、この膨潤によって摩擦低減機能を発現する材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、このような特性の摩擦低減材層を備えた摩擦低減シートを用いる場合に特に得られるその効果は顕著である。すなわち、この種の摩擦低減材層は、ケーソンとの摺接摩擦の低減効果に優れているが、それは摩擦低減シートがボックス外に繰り出されてから地盤中の水と接触して膨潤しつつケーソンと摺接する場合に得られる効果である。摩擦低減シートがボックス外に繰り出される前にボックス内で水と接触すると、そこで反応して膨潤してしまい、ボックスから繰り出される際に摩擦低減材層は剥落し、本来の摩擦低減機能を発揮すべき時点ではその機能を発揮できなくなる虞がある。本発明によれば、前記の如く、この虞を確実に低減することができる。

本発明の第3の態様は、前記第1の態様又は第2の態様の摩擦低減シートユニットにおいて、前記ボックスには耐圧強化部が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
地盤中ではボックスの外部から土水圧を受けるが、ボックス内には当該止水剤によって水は浸入しないので、ボックス内の圧力は外部の土水圧より小さくなり、圧力バランスが崩れる。そのため、ボックスが土水圧で押し潰れる虞がある。
本発明によれば、前記ボックスに耐圧強化部が設けられているので、その虞を低減できる。この耐圧強化部としては、ボックス内壁面に補強リブを一体に形成するのが簡単に作れて好ましい。
【0016】
本発明の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれかの摩擦低減シートユニットにおいて、前記ボックスは内ボックスと外ボックスの二重管構造に形成され、前記ロール状摩擦低減シートは前記内ボックスに収容され、前記止水剤は前記内ボックスと前記外ボックスの間の空間に充填されていることを特徴とするものである。
【0017】
摩擦低減シートはロール状に巻き取られてボックス内に収容されている。従って、使用に供されて摩擦低減シートが繰り出されていくと、ロールの大きさが小さくなる。すると、ボックス内の止水剤はロールが小さくなるに連れてその上面が急激に下がり、水が繰り出し口からボックス内に浸入し易くなる問題がある。
【0018】
本発明によれば、前記ボックスは内ボックスと外ボックスの二重管構造に形成され、前記ロール状摩擦低減シートは前記内ボックスに収容され、前記止水剤は前記内ボックスと前記外ボックスの間の空間に充填されている。よって、使用に供されて摩擦低減シートのロールが小さくなっても、該摩擦低減シートは内ボックスの中に収容されており、一方止水剤は、前記内ボックスと前記外ボックスの間の空間に充填されているのでその影響を受けない。従って、止水剤はロール状の摩擦低減シートのロールの大きさに影響されること無くボックス内の存在することができるので、繰り出し口の封止を確実に行うことができる。
【0019】
本発明の第5の態様は、前記第1の態様から第4の態様のいずれかの摩擦低減シートユニットにおいて、前記止水剤は異なる種類の多層で構成され、ボックスの繰り出し開口部側に積層される止水剤は奥側に積層される止水剤より水との接触による膨潤量が多い材料で形成されていることを特徴とするものである。ここで、前記多層は2層に限定されない。3層以上であってもよい。
【0020】
ボックスの奥側にまで水が浸入することは通常ほとんどない。本発明によれば、ボックス内の奥側には水との接触による膨潤量が前記繰り出し開口部側より少ない材料を用いることで、用いる止水剤コストの低減を図ることができる。
【0021】
本発明の第6の態様は、先端に内刃状をしたケーソン刃口が形成されたケーソン躯体を地中に所定ストロークずつ圧入沈降させ、該ケーソン躯体内部の泥土を掘削しながら外部に排出すると共に、更にケーソン躯体の上方に後続の躯体を設置足して行くことによって所定深さのケーソン立坑を構築する圧入ケーソン工法において使用されるケーソン躯体であって、前記ケーソン躯体には、第1の態様から第5の態様のいずれかに記載された摩擦低減シートユニットが該ケーソン躯体の外周面に沿うように複数個所に亘ってほぼ連接した状態で配されており、ケーソン躯体の圧入沈降に伴って上記摩擦低減シートが徐々に繰り出されるように構成されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、前記第1の態様から第5の態様のいずれかの効果と同様の効果をえることができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、先端に内刃状をしたケーソン刃口が形成されたケーソン躯体を地中に所定ストロークずつ圧入沈降させ、該ケーソン躯体内部の泥土を掘削しながら外部に排出すると共に、更にケーソン躯体の上方に後続の躯体を設置足して行くことによって所定深さのケーソン立坑を構築する圧入ケーソン工法であって、前記ケーソン躯体として前記第6の態様のケーソン躯体が使用され、上記摩擦低減シートは、その繰出し先端部を保持した状態でケーソン躯体を圧入沈降させることによって徐々に下方に繰り出されて行き、該ケーソン躯体あるいはその上方に打ち足される後続の躯体は前記摩擦低減材層を介して前記摩擦低減シートに対して摺接することを特徴とするものである。
本発明によれば、前記第1の態様から第5の態様のいずれかの効果と同様の効果をえることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前記ロール状摩擦低減シートが収容される前記ボックス内には、水と接触すると膨潤して止水性を発現できる粉粒状の止水剤が充填されている。従って、摩擦低減シートの繰り出し口から水が浸入すると、その浸入と同時に前記繰り出し口付近で粉粒状止水剤と接触して反応して膨潤し、これにより前記繰り出し口を封止して外部と遮断し、すなわち止水性が発現されて、当該ボックス内への水の浸入が防止される。このように、当該ボックス内への水の浸入が防止されるので、摩擦低減材層が水によって劣化する虞が無くなり、当該摩擦低減シートがボックス外に繰り出されて摩擦低減機能を発揮すべき時点において、その摩擦低減機能を確実に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本願発明に係るケーソン躯体及び該ケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法について下記の実施例1と実施例2を例にとって説明する。最初に本願発明の圧入ケーソン工法の概要と、圧入ケーソン工法を実行する場合に必要となる機械設備について説明する。
【0025】
図1は本発明のケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法の実行に使用する機械設備の一例を示す側断面図、図2は本発明のケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法の実行に使用する機械設備の一例を示す平面図である。
【0026】
圧入ケーソン工法には上述したような3種類の工法があるが、ここではオープン式圧入ケーソン工法と油圧式圧入ケーソン工法を組み合わせた圧入ケーソン工法について説明する。この圧入ケーソン工法には先端に内刃状に傾斜したケーソン刃口2が形成されたケーソン躯体1が使用され、該ケーソン躯体1の圧入沈降手段として自重を利用した加圧桁9と、圧入装置である油圧ジャッキ13とが使用されている。
【0027】
この圧入ケーソン工法では、上記ケーソン躯体1を地中(海底、河川下を含む)の地盤G中に所定ストロークずつ圧入沈降させ、更にケーソン躯体1内部の泥土(土砂を含む)Rを掘削しながらケーソン躯体1の外部(例えば地上)に排出する。そして、ケーソン躯体1の上方にプレキャストされた一例としてコンクリート製の後続の躯体4を打ち足して行くことによって所定深さのケーソン立坑5を構築する。尚、圧入ケーソン工法は、橋脚を建設するための立坑や地下にシールドトンネル15を建設する場合の発進ないし到達用の立坑等を構築する場合等に利用される。
【0028】
そして、このような圧入ケーソン工法を実施するためには、図示のような機械設備6や後続の躯体4をプレキャストするための型枠10及び作業用の足場8等が使用される(図5)。機械設備6としては、ケーソン立坑5を構築する部位の周囲の地面に据え付けられ、固定されるクレーン7と、クレーン7の吊持アーム先端から垂下されている吊持ワイヤーの下端に取り付けられる吊下げフック16(図5)ないしグラブバケット14等が存在する。尚、図示のクレーン7は、自由な方向に移動できるクローラタイプのクレーンであるが、地面に完全に固定状態で据え付けられる固定式のクレーンや更に大型の門型の機枠によって支持される大型クレーン等を採用することも勿論可能である。
【0029】
油圧ジャッキ13は、ケーソン立坑5を構築する部位の地中に予め打設され、上方に立ち上げられている棒状の支持部材であるアースアンカー17との協働作用によってケーソン躯体1を地中の地盤G中に圧入沈降させる装置である。図示の機械設備6では、アースアンカー17は、図2に示すように12本設けられており、そのうち2本ずつのアースアンカー17を使用して1本の加圧桁9と2基の油圧ジャッキ13とによって一組の圧入沈降手段が構成されている。また、本発明で使用される油圧ジャッキ13は、中心にグリッパーロッドを受け入れるための穴が形成されたセンターホールジャッキであり、グリッパーロッド下端に設けられるアンカーチャック18によってアースアンカー17を挟持した時に油圧ジャッキ13とアースアンカー17は接続状態、アンカーチャック18の挟持状態が解除された時に油圧ジャッキ13とアースアンカー17は非接続状態になるようになっている。
【0030】
また、グラブバケット14は、先端に地盤Gを掘削するための櫛歯状の爪部を備えた開閉自在に回動する一対のバケット要素によって構成されており、地盤Gの掘削、掘削した泥土Rの捕獲及び捕獲した泥土Rの排出ができるようになっている。また、吊下げフック16は、ケーソン躯体1や後続の躯体4、あるいは後続の躯体4の要素となるピース19等(図8)を吊り下げ、移動、設置する際に使用される吊下げ具である。
【0031】
[実施例1]
次に、このような機械設備6を使用して構築される本発明のケーソン躯体1と該ケーソン躯体1を使用した本発明の圧入ケーソン工法、更に本発明に係る摩擦低減シートユニット29について図3〜図12に示す実施例1を例に採って説明する。
図3は本発明のケーソン躯体の一例を示す側断面図、図4は本発明のケーソン躯体の一例を示す横断面図(a)と、その部分拡大図(b)である。図5は本発明の圧入ケーソン工法の一例を工程別に示す前半部分(a)〜(d)の側断面図、図6は本発明の圧入ケーソン工法の一例を工程別に示す後半部分(a)〜(d)の側断面図である。図7はケーソン躯体の圧入沈降に伴って繰り出される摩擦低減シートの伸展状態を示す側断面図、図8は本発明のケーソン躯体によって構築されるケーソン立坑の種々の態様を示す斜視図である。また図9は摩擦低減シートの巻取り基端部の係止状態を段階的に示す斜視図、図10は円環状に配設されたシートユニットの一部を拡大して示す斜視図である。
図11は本発明に係る摩擦低減シートユニットの一例を示す側断面図であり、図12は同水平断面図である。
【0032】
図示のケーソン躯体1は、図8(b)、(d)に示すような円筒状のケーソン立坑5を構築される場合に使用される。従って、円筒状の躯体部20(図4)を有しており、該躯体部20の先端(圧入沈降側の端部)に内刃状をしたケーソン刃口2が円環状に形成されている(図3)。更に、躯体部20の中央より幾分上方の位置の外周部には、ロール状に巻き取られた長尺の摩擦低減シート21を収容した摩擦低減シートユニット29を設置するためのシート設置部22が設けられている。
【0033】
摩擦低減シートユニット29は、長尺な摩擦低減シート21がロール状に巻き取られ、その巻き取られた状態における前記シートの少なくとも内面31には摩擦低減材層30が設けられて成るロール状摩擦低減シート21がボックス230に繰り出し可能に収容されている。
【0034】
図3と図11に示したように、該ボックス230内には水と接触すると膨潤して止水性を発現する粉粒状の止水剤28が充填されている。そして、前記摩擦低減シート21の前記摩擦低減材層30は水と接触すると膨潤し、この膨潤によって摩擦低減機能を発現する材料で形成されている。
【0035】
更に図11と図12に示したように、この実施例では、前記ボックス230は、内ボックス25と外ボックス23の二重管構造に形成され、前記ロール状摩擦低減シート21は内ボックス25に収容され、前記止水剤28は内ボックス25と外ボックス23の間の空間に充填されている。摩擦低減シート21は内ボックス25に遊転自在に保持されている。すなわち、内ボックス25の対向する左右の側板間には、巻き取られた状態のロール状の摩擦低減金属シート21の回転軸となる巻取り軸24が水平に架け渡されている。
更に、外ボックス23にはその内壁面に耐圧強化部として補強リブ231が一体的に設けられている。
【0036】
本実施例では、摩擦低減シート21として金属製(鉄製)のシートを用いた場合(以下「摩擦低減金属シート」という)を説明するが、この材料に限定されないことは勿論である。
【0037】
外ボックス23は、図11及び図12に示したように、金属製薄板を適宜折り曲げて加工される略角箱状の部材であり、その外方端面は躯体部20の外周面からはみ出さないようにほぼ面一に設定されている。摩擦低減シート21は内ボックス25の一部に形成されているスリット26、そして外ボックス23に形成されている繰出し開口部27を通ってケーソン躯体1及びその上方に設置される後続の躯体4の外周面を沿うようにして地上に導かれている。該繰り出し開口部27にはゴム板233が設けられ、シール性が高められている。
【0038】
このような外ボックス23、巻取り軸24、内ボックス25、止水剤28、摩擦低減金属シート21およびゴム板233を備えた摩擦低減シートユニット29は、図4、図10に示したように、ケーソン躯体1の外周面に沿うように複数個所に亘ってほぼ連接した状態で複数ユニット設けられている。
【0039】
本発明で使用する摩擦低減金属シート21としては、厚さ0.2mm〜0.3mm程度の薄鉄板が採用でき、その表面は滑らかに加工されており、所望の摩擦低減作用と次に述べる摩擦低減材層30の良好な塗工性ないし貼設性を発揮し得ると共に、繰り出し及び引き抜きに耐えられるだけの機械的強度を摩擦低減金属シート21は有している。
【0040】
このような摩擦低減金属シート21の内面31には、既述のように、摩擦低減材層30が塗布ないし貼設により設けられている。そして本実施例では、摩擦低減金属シート21の内面31に対して摩擦低減金属シート21の巻取り基端側から繰出し先端側に向けて段階的に厚さが増加するように溶融状態の摩擦低減材層の原料を塗工し、複数の層からなる積層状態の摩擦低減材層30を形成している。ここで、原料としては吸水性樹脂(a)、親水性バインダー樹脂(b)及び溶剤(c)を必須成分とする摩擦低減樹脂塗料を基材に予め塗布することにより当該摩擦低減材層30が形成されている。
【0041】
また、前記止水剤28としては、具体的には前記吸水性樹脂(a)が使われている。
【0042】
以下、止水剤28と摩擦低減材層30に使われる材料について説明する。
摩擦低減樹脂塗料に用いられる吸水性樹脂(a)は、水を吸水することによって膨潤し、かつ、自重に対するイオン交換水の吸水倍率が3倍以上(25℃、1時間)の樹脂であれば特に限定されない。ただし、以下に例示する、水溶性親水性化合物(モノマーおよび/またはポリマー)を架橋剤で架橋させた合成吸水性樹脂は、天然水膨潤性物(ゼラチン、寒天など)よりも膨潤倍率、水可溶分、吸水速度、強度などのバランスが良好であり、かつその調整も容易であるので、これらの方が天然水膨潤性物(ゼラチン、寒天など)よりも好ましい。
【0043】
上記のような吸水性樹脂(a)としては、具体的には、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸架橋体、ポリ(メタ)アクリル酸塩架橋体、スルホン酸基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリオキシアルキレン基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体、ポリジオキソラン架橋体、架橋ポリエチレンオキシド、架橋ポリビニルピロリドン、スルホン化ポリスチレン架橋体、架橋ポリビニルピリジン、デンプン−ポリ(メタ)アクリロニトリルグラフト共重合体のケン化物、デンプン−ポリ(メタ)アクリル酸(塩)グラフト架橋共重合体、ポリビニルアルコールと無水マレイン酸(塩)との反応生成物、架橋ポリビニルアルコールスルホン酸塩、ポリビニルアルコール−アクリル酸グラフト共重合体、ポリイソブチレンマレイン酸(塩)架橋重合体等が挙げられる。これら吸水性樹脂(a)は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0044】
本発明では、吸水性樹脂(a)として、耐塩性吸水性樹脂を用いることが好ましい。耐塩性吸水性樹脂が好ましい理由は、耐塩性吸水性樹脂は、多価金属を含む硬水の吸水倍率が比較的高く、摩擦低減樹脂塗料に用いた場合、土中の水質にあまり影響を受けず、摩擦低減効果を発揮できるからである。
【0045】
本発明での耐塩性吸水性樹脂は、人工海水での吸水倍率(25℃、24時間)が10倍以上のものであれば、特に限定されないが、例えば、上記例示の吸水性樹脂(a)のうち、ノニオン性基および/またはスルホン酸(塩)基を有するものがより好ましく、アミド基またはヒドロキシアルキル基を有するものは、さらに好ましい。前記のような耐塩性吸水性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体等が挙げられる。さらに、ポリオキシアルキレン基を有するものが特に好ましい。このような吸水性樹脂(a)としては、例えば、メトキシポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体等が挙げられる。
【0046】
これらの耐塩性吸水性樹脂は該吸水性樹脂を用いる事により、土中の水の性質(軟水、硬水など)に関係なく一定倍率まで膨潤し、より確実に、摩擦低減機能を発揮することができる。
【0047】
さらに、摩擦低減樹脂塗料に使用する吸水性樹脂(a)の製造方法は特に限定されないが、例えば、水溶性を有するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて架橋剤とを含む単量体成分を重合する方法が挙げられる。エチレン性不飽和単量体を(共)重合してなる吸水性樹脂(a)は、水に対する吸水性により優れており、かつ、一般的に安価である。尚、上記の架橋剤は、特に限定されるものではない。
【0048】
上記のエチレン性不飽和単量体としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、並びに、これら単量体のアルカリ金属塩やアンモニウム塩;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、並びに、その四級化物;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類、並びに、これら単量体の誘導体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルスクシンイミド等のN−ビニル単量体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド等のN−ビニルアミド単量体;ビニルメチルエーテル;等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらエチレン性不飽和単量体は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0049】
上記例示のエチレン性不飽和単量体のうち、ノニオン性基および/またはスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体からなるものは耐塩性が高いのでより好ましい。該単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、ポリオキシアルキレン基を有するエチレン性不飽和単量体が特に好ましい。
【0050】
単量体成分としてエチレン性不飽和単量体を二種類以上併用する場合における、より好ましい組み合わせとしては、例えば、アクリル酸ナトリウム等の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とアクリルアミドとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートとの組み合わせ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0051】
上記の単量体成分を重合することにより、吸水性樹脂(a)が得られる。また、吸水性樹脂(a)の平均分子量や形状、平均粒子径等は、摩擦低減剤用塗料の組成やバインダーの種類、物性、作業環境等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、吸水性樹脂(a)の平均粒子径は30〜800μmが好ましく、30〜600μmが更に好ましく、30〜400μmが最も好ましい。
【0052】
摩擦低減樹脂塗料に使用する吸水性樹脂(a)の平均粒子径が800μmを超えると、粒子径が大き過ぎ、親水性バインダー樹脂(b)の溶剤(c)溶液に吸水性樹脂(a)を混合した時に吸水性樹脂(a)の粒子が沈降し易くなるので好ましくない。
【0053】
また一方、吸水性樹脂(a)の平均粒子径が30μm未満になると、取扱いが非常に困難になる(微粉として飛び散り易いなど)ので好ましくない。
【0054】
次に摩擦低減樹脂塗料を構成する親水性バインダー樹脂(b)について説明する。
摩擦低減樹脂塗料に利用される親水性バインダー樹脂(b)は、(i)水溶性または水膨潤性であり、(ii)バインダーとして、吸水性樹脂(a)を基材に定着させる機能を有し、かつ(iii)溶剤(c)に溶解するものであれば、他には特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニルの部分加水分解物、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体などが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0055】
親水性バインダー樹脂(b)は、親水性が低すぎると、吸水性樹脂(a)の膨潤を阻害してしまい、土中水分の吸収が低下し、摩擦低減剤用塗料の摩擦低減機能が低下してしまうので、好ましくない。一方、親水性バインダー樹脂(b)の親水性が高すぎると、土中にある水分吸水時に、バインダーの基材に対する密着力が低下しすぎ、塗膜全体が早く剥がれすぎるので好ましくない。以上の様な理由より、親水性バインダー樹脂(b)は、適度な親水性を有すことが好ましい。
【0056】
親水性バインダー樹脂(b)の酸価は、適度な親水性を有するために40mgKOH/g以上である事が好ましく、50mgKOH/g以上である事がより好ましく、70mgKOH/g以上である事がさらに好ましい。
【0057】
親水性バインダー樹脂(b)の酸価が40mgKOH/g未満になると、親水性が低くなりすぎて好ましくない。また、吸水時のバインダー機能を保持するためには500mgKOH/g以下である事が好ましく、300mgKOH/g以下である事がより好ましく、200mgKOH/g以下である事がさらに好ましい。親水性バインダー樹脂(b)の酸価が500mgKOH/gを超えると、親水性が高くなりすぎて好ましくない。
【0058】
次に、親水性バインダー樹脂(b)のガラス転移温度としては特に限定はないが、基材となる摩擦低減金属シート21への密着性及び基材を地盤G中へ埋設する際の作業性や、摩擦低減樹脂塗料の塗膜の強靭性の両立という観点から、−20℃〜120℃にガラス転移温度を有する事が好ましい。ガラス転移温度が−20℃以下であると摩擦低減樹脂塗料の塗膜がべたつきやすくなり、特に塗布後の基材をすぐに巻き取って放置した場合にはブロッキングを生じる恐れがある。また摩擦低減樹脂塗料の強度が不足するために、基材を地盤G中へ埋設する際に剥離し易くなるため好ましくない。この事からガラス転移温度が0℃以上であると更に好ましい。
【0059】
また、親水性バインダー樹脂(b)のガラス転移温度が120℃以上であると接着防止材層が硬くなり過ぎ、基材への密着性、摩擦低減樹脂塗料の塗膜の柔軟性が乏しくなり、やはり基材を地盤G中に埋設する際に剥離および吸水性樹脂(a)の脱落が生じ易くなり好ましくない。この事からガラス転移温度が100℃以下であるとさらに好ましく、0℃〜20℃の間と、20℃〜100℃の間のそれぞれにガラス転移温度を有すると柔軟化成分と形状保持成分とのバランスが良くさらに好ましい。
【0060】
また、親水性バインダー樹脂(b)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定はないが、30,000〜300,000の範囲が好ましく、50,000〜200,000の範囲がより好ましい。前述の重量平均分子量の樹脂を用いる事により、強靭性と溶解性のバランスを取ることが容易となる。
【0061】
親水性バインダー樹脂(b)としては、酸価調節などにより、容易に親水性を調節できるので、アルカリ水可溶性樹脂あるいは酸価が40〜500mgKOH/gの樹脂を用いることが好ましい。
【0062】
以下に、アルカリ水可溶性樹脂について説明する。摩擦低減樹脂塗料を構成する親水性バインダー樹脂(b)の1種であるアルカリ水可溶性樹脂は、0.4重量%濃度のNaOH水溶液に溶解し、中性あるいは酸性の水には溶解しない樹脂である。アルカリ水可溶性樹脂は、上で規定した溶解性を有するものであれば特に限定はなく、たとえば、α,β−不飽和カルボン酸単量体と、それと共重合できる他の単量体の共重合体を挙げることができる。
【0063】
なお、上述のアルカリ水への溶解性であるが、溶解性の度合いは特に限定しないが、後述に好ましく使用できるバインダー樹脂としてのアルカリ水可溶性樹脂の、好ましい溶解度合いを示す。またアルカリ水可溶性樹脂という言葉であるが、別の表現ではアルカリ可溶性樹脂と表現される場合もある。アルカリ水可溶性樹脂とした方が、より明確であるので、本明細書ではアルカリ水可溶性樹脂とした。
【0064】
また、好ましく用いることのできるアルカリ水可溶性樹脂のアルカリ水への溶解性であるが、所望の摩擦低減作用を阻害しない限り、特に限定されることはない。
【0065】
アルカリ水可溶性樹脂としては、この値が、好ましくは、50%−100%である。より好ましくは、60−100%である。さらに好ましくは、70−100重量%である。ろ別しても樹脂分が残らなかった場合は溶解している事になる。
【0066】
アルカリ水可溶性樹脂および酸価が40〜500mgKOH/gの親水性バインダー樹脂の製造方法は特に限定されないが、下記のα,β−不飽和カルボン酸単量体と、それと共重合できるα,β−不飽和カルボン酸単量体以外の単量体からなる不飽和単量体成分を用いて重合して得る事のできる共重合体が好ましい。
【0067】
例えば、アルカリ水可溶性樹脂および酸価が40〜500mgKOH/gの親水性バインダー樹脂の製造に用いられる、α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のα,β−不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸無水物;マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル等のα,β−不飽和ジカルボン酸モノエステル等を挙げることができる。上記α,β−不飽和カルボン酸単量体は、1種類のみでもよく、2種類以上であってもよい。これらのうちアクリル系α,β−不飽和カルボン酸であるアクリル酸および/またはメタクリル酸は、安価でかつ他の不飽和単量体との共重合性が良好であるため、好ましく用いられる。
【0068】
次に、α,β−不飽和カルボン酸単量体と共重合できる他の単量体としては、たとえば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等の、炭素数1〜18の一価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有ビニル系単量体;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有ビニル系単量体;アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛等のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;酢酸ビニル等の脂肪族ビニル系単量体;塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有ビニル系単量体;アリルエーテル類;マレイン酸のジアルキルエステル等のマレイン酸誘導体;フマル酸のジアルキルエステル等のフマル酸誘導体;マレイミド、N−メチルマレイミド、ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;イタコン酸のモノおよびジアルキルエステル、イタコンアミド類、イタコンイミド類、イタコンアミドエステル類等のイタコン酸誘導体;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類等;ビニルエーテル類;2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸(塩)、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(塩)等のスルホン酸(塩)基を有する不飽和単量体、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類等を挙げることができ、この中の1種または2種以上で使用することができる。
【0069】
またこれらの中では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、種々の性質を有するエステルが容易に入手することができ、それを適宜組み合わせることによってバインダー樹脂のTg(硬さ、柔らかさ)、基材への密着性などが容易に調節でき、また、α,β−不飽和カルボン酸単量体との共重合性も比較的良好なので好ましい。
【0070】
上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、α,β−不飽和カルボン酸単量体と共重合できる他の単量体全量を100重量%として、30重量%〜100重量%用いられることが好ましく、50重量%以上〜100重量%用いられることが更に好ましい。より好ましくは60〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%である。すなわち、他の単量体としてアクリル系の単量体を使用する事は、親水性バインダー樹脂(b)としてのアルカリ水可溶性樹脂の形態として、好ましい実施形態である。
【0071】
上記のα,β−不飽和カルボン酸単量体と、それと共重合できる他の単量体からなる不飽和単量体成分の割合は特に限定されないが、例えば、α,β−不飽和カルボン酸単量体と、それと共重合できる他の単量体からなる不飽和単量体成分を100重量%とした場合、全単量体成分中のα,β−不飽和カルボン酸の割合は、好ましくは不飽和単量体全成分中の7〜80重量%。より好ましくは7〜50重量%である。さらに好ましくは、9〜30重量%である。
【0072】
アルカリ水可溶性樹脂中の全単量体中のα,β−不飽和カルボン酸単量体の割合が7重量%未満であると、酸価が低くなることにより親水性が低くなりすぎやすい。また、割合が80重量%を超えると、親水性が高くなりすぎることにより問題が生じやすい。
【0073】
酸価が40mgKOH/g以上、500mgKOH/g以下の親水性バインダー樹脂、つまり上記の不飽和単量量体成分を重合してなるバインダー樹脂を製造する場合の原料として使用するα,β−不飽和カルボン酸単量体以外の共重合可能な単量体の量は、上記のα,β−不飽和カルボン酸単量体と、それと共重合可能な他の単量体からなる不飽和単量体全成分を100重量%として、好ましくは不飽和単量体全成分中の93〜20重量%。より好ましくは93〜50重量%である。さらに好ましくは、91〜70重量%である。
【0074】
α,β−不飽和カルボン酸単量体の割合が20%未満になると親水性が低くなり、また93%を超えると親水性が高くなりすぎたりして共に好ましくない。
【0075】
アルカリ水可溶性樹脂の製法は、特に限定されず、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合など通常公知の重合方法が利用できるが、その中でも、有機溶媒中での溶液重合で製造することが好ましい。
【0076】
これは、溶液重合で得られたアルカリ水可溶性樹脂を含む溶液あるいは分散液にそのまま吸水性樹脂を混合することにより、摩擦低減樹脂塗料を製造することが可能となるからである。
【0077】
また、重合形態としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合などが挙げられるが、工業的な製法としてはラジカル重合が好ましい。
【0078】
原料重合体の製造に使用される反応容器としては、槽型反応器のほか、ニーダーや、スタティックミキサー等の管式反応器等を挙げることができる。これらの反応器を必要に応じ併用することもできる。滴下槽も必要に応じて用いる。反応容器内の圧力は減圧、常圧、加圧のいずれであってもよい。
【0079】
次に、ラジカル重合で使用されるラジカル重合開始剤については、特に限定されないが、その具体例として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤等を挙げることができる。これらのラジカル重合開始剤は2種類以上を併用してもよい。
【0080】
溶液重合で使用される溶媒としては、ラジカル重合反応を妨げない溶媒であれば特に制限はなく、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導品、プロピレグリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導品等を挙げることができる。これらの溶媒は2種類以上を併用してもよい。
【0081】
次に摩擦低減樹脂塗料に使用される溶剤(c)に関して説明する。溶剤(c)は、通常の塗料などに用いられる公知の溶剤であれば、特に限定なく用いることができ、例えば、前記アルカリ水可溶性樹脂の製造方法の説明で例示した溶媒などを、1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0082】
また、溶剤(c)の選定方法としては、基材へ塗布するのに適した沸点、安全性等を有する溶媒を選定する事が好ましい。低沸点の溶媒を選定すれば速乾性があり、短時間で塗膜が形成できるために厚塗り等が容易となり、高沸点の溶媒を選定すれば作業時間を長くすることができる。媒体として有機溶剤を使用することにより、水を含む媒体を用いた場合に生じる吸水性樹脂の吸水による膨潤はなく、ゲル状にならないために塗布作業が容易になる。また、メチルエチルケトンやメタノール等の揮発性の大きな溶媒を用いると10分程度で乾燥し、水を媒体として用いる場合よりも非常に早く乾燥するために次の作業あるいは工程に迅速に移行する事ができ、工期あるいは、基材への塗布に要する時間を著しく短縮することができる。
【0083】
本発明の摩擦低減樹脂塗料は、これまでに説明した吸水性樹脂(a)、親水性バインダー樹脂(b)および溶剤(c)を必須成分として含んでいれば、その特徴を阻害しない範囲で、その他の添加剤(h)として他の樹脂、顔料、各種安定剤、各種充填材などを含んでいてもかまわない。
【0084】
吸水性樹脂(a)、親水性バインダー(b)および溶剤(c)とその他の添加剤(h)の比率は特に限定されないが、摩擦低減樹脂塗料の特徴を遺憾なく発揮するためには、吸水性樹脂(a)、親水性バインダー(b)および溶剤(c)を合わせたものの全体に対する重量比([(a)+(b)+(c)]/[(a)+(b)+(c)+(h)]×100(%)で表される。)が、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が最も好ましい。
【0085】
また、吸水性樹脂(a)、親水性バインダー(b)、溶剤(c)およびその他の添加剤(h)の比率も特に限定されないが、摩擦低減樹脂塗料の特徴を遺憾なく発揮するためには、吸水性樹脂(a)は5〜60重量%、親水性バインダー(b)は10〜70重量%、溶剤(c)は5〜70重量%、その他の添加剤(h)は0〜50重量%が好ましく、吸水性樹脂(a)は10〜50重量%、親水性バインダー(b)は10〜60重量%、溶剤(c)は10〜60重量%、その他の添加剤(h)は0〜30重量%がより好ましい。
【0086】
摩擦低減樹脂塗料の各種基材への塗布方法は、公知の塗料塗布の方法であれば、特に限定されないが、例えば、はけ、ローラー等を用いても良いし、リシンガン等のスプレー器具を用いて吹き付け塗装しても良い。
【0087】
本実施例では、摩擦低減金属シート21の外面にも摩擦低減材層300を成す摩擦低減樹脂塗料が塗布ないし貼設されている。そして、このような摩擦低減樹脂塗料が塗布された摩擦低減金属シート21は、ケーソン躯体1の圧入沈降に伴って徐々に下方に繰り出され、ケーソン躯体1の圧入沈降終了後に上方に引き抜くことができるように構成されている。即ち、図9(a)に示すように、巻取り軸24には係止スリット32が軸に直交する方向に貫通状態で設けられており、図9(b)に示すように摩擦低減金属シート21の巻取り基端部33を上記係止スリット32に挿し込み、図9(c)に示すように巻取り軸24の周りに摩擦低減金属シート21を巻いて行くことによって摩擦低減金属シート21は巻取り軸24に取り付けられている。
【0088】
そして、摩擦低減金属シート21の繰出し先端部34を地上において保持した状態でケーソン躯体1が圧入沈降されることによって巻取り軸24に巻き取られていた摩擦低減金属シート21が徐々に繰り出されて行く(図7)。そして、最終的に摩擦低減金属シート21の巻取り基端部33が係止スリット32を擦り抜けることによって巻取り軸24との接続状態が解除されるため、摩擦低減金属シート21を上方に引き抜くことができるようになっている。
【0089】
次に、このようなケーソン躯体1を使用することによって実行される本発明の圧入ケーソン工法について説明する。本発明の圧入ケーソン工法には、上述した本発明のケーソン躯体1が使用され、巻き取られた状態の摩擦低減金属シート21がケーソン躯体1を圧入沈降させることによって徐々に下方に繰り出されて行き、地盤Gとケーソン躯体1あるいはその上方に打ち足される後続の躯体4との摺接を防止すると共に、ケーソン躯体1の圧入沈降終了後は巻取り基端部33のケーソン躯体1との係合が解除されて上方に引き抜くことができるように構成されている点に特徴を有している。
【0090】
以下、図5乃至図7に従って本発明の圧入ケーソン工法の具体的な構成について説明する。即ち、本発明の圧入ケーソン工法は図示のように(1)縁切り・マウンド設置工程、(2)一次圧入準備工程、(3)一次圧入・掘削工程、(4)二次圧入準備工程、(5)二次圧入・掘削工程、(6)圧入・掘削完了工程、(7)摩擦低減金属シート引抜き工程、(8)底版コンクリート打設工程を順次実行することによって構成されている。
【0091】
(1)縁切り・マウンド設置工程(図5(a)参照)
本工程ではケーソン立坑5を構築する地盤Gと周辺地盤とを縁切りするために鋼矢板3等を地盤G中に打設する。因みに鋼矢板3等を打設した場合には周辺地盤に与える振動等の伝搬が防止され、該伝搬によって引き起こされる種々の影響が遮断される。またケーソン躯体1の設置に備えてマウンド(置換砂)Mを設ける。
【0092】
(2)一次圧入準備工程(図5(b)参照)
本工程ではアースアンカー17を打設し、アースアンカー17に加圧桁9を架け渡す。そして加圧桁9上に油圧ジャッキ13を設置してアンカーチャック18によりアースアンカー17の上部をチャックする。また加圧桁9の下面にケーソン刃口2を下にしてケーソン躯体1をセットしてケーソン躯体1の圧入に備える。
またこの時、摩擦低減金属シート21の繰出し先端部34を加圧桁9等に保持させておく。
【0093】
(3)一次圧入・掘削工程(図5(c)、図7(a)参照)
本工程では加圧桁9及びケーソン躯体1の自重と油圧ジャッキ13の油圧を利用した圧入作用によってケーソン躯体1を地盤G中に圧入沈降させる。そしてケーソン躯体1の圧入沈降を先行させながらケーソン躯体1内部の地盤Gの掘削をクレーン7及びグラブバケット14等を利用して進めて行く。
【0094】
またこの時、ケーソン躯体1の圧入沈降に伴ってケーソン躯体1に取り付けられたシートユニット29も下方に移動するため、巻き取られた状態の摩擦低減金属シート21は少しずつ巻き解かれて行く。
【0095】
(4)二次圧入準備工程(図5(d)参照)
本工程ではケーソン躯体1の圧入沈降が完了した後、その上方に打ち足される後続の躯体4の圧入沈降の準備を行う。この場合には設置した加圧桁9や油圧ジャッキ13等をクレーン7と吊下げフック16等を利用して一旦取り外す。そして足場8及び型枠10を設置して地盤G中に圧入されたケーソン躯体1の上方の型枠10内に原料を流し込み後続の躯体4をプレキャストする。そして後続の躯体4の固化を確認後、上記足場8と型枠10を取り外す。
【0096】
(5)二次圧入・掘削工程(図6(a)、図7(b)(c)参照)
本工程では、再びアースアンカー17に加圧桁9を架け渡し、加圧桁9上に油圧ジャッキ13を設置してアンカーチャック18によりアースアンカー17の上部をチャックする。そして上記(3)一次圧入・掘削工程と同様にケーソン躯体1と後続の躯体4の圧入沈降を先行させながらケーソン躯体1内部の地盤Gの掘削を進めて行く。
【0097】
またこの時、ケーソン躯体1及び後続の躯体4の外周面と外側の地盤Gとの間には摩擦低減材層30が塗布された摩擦低減金属シート21が位置しているから、両者の間の摩擦抵抗は極めて低く押えられており、ケーソン躯体1と後続の躯体4は円滑に無理なく地盤G中に圧入されて行く。
【0098】
すなわち、地盤Gと摺接するケーソン躯体1の先端外周面に当該摩擦低減シートユニットを取り付け、ケーソン1の圧入沈降に伴って前記ロール状摩擦低減シート21を巻き解いて当該摩擦低減シート21を徐々に地盤G中に繰り出すように用いることで、地盤Gとケーソン1との間の摺接抵抗を完全に回避できる。さらに摩擦低減シート21とケーソン1間の摺接抵抗も当該摩擦低減材層30によって大幅に低減することができる。
【0099】
さらに、当該摩擦低減シートユニット29の作用を説明する。前記ロール状摩擦低減シート21が収容されるボックス230内には、水と接触すると膨潤して止水性を発現する粉粒状の止水剤28が充填されている。従って、摩擦低減シート21の繰り出し開口部27から水が浸入すると、その浸入と同時に前記繰り出し開口部27付近で粉粒状止水剤28と接触して反応して膨潤し、これにより前記繰り出し開口部27を封止部280によって封止して外部と遮断し、すなわち止水性が発現されて、当該ボックス230内への水の浸入が防止される(図11)。
【0100】
摩擦低減シート21が前記繰り出し開口部27から繰り出されると前記膨潤による封止状態が壊れてそこから水が入り込むが、直ちに未反応状態の止水剤28と新たに反応して新たに膨潤し、前記繰り出し開口部27は再び封止される。
【0101】
本実施例によれば、ボックス230内に充填された前記止水剤28によって、当該ボックス230内への水の浸入が防止されるので、摩擦低減材層30が水によって劣化する虞が無くなり、当該摩擦低減シート21がボックス230外に繰り出されて摩擦低減機能を発揮すべき時点において、その摩擦低減機能を確実に発揮させることができる。
【0102】
本実施例ではさらに、摩擦低減シート21の前記摩擦低減材層30は水と接触すると膨潤し、この膨潤によって摩擦低減機能を発現する材料で形成されている。この種の摩擦低減材層30は、ケーソン1との摺接摩擦の低減効果に優れている。それは摩擦低減シート21がボックス230外に繰り出されてから地盤G中の水と接触して膨潤しつつケーソン1と摺接する場合に得られる効果である。摩擦低減シート21がボックス230外に繰り出される前にボックス230内で水と接触すると、そこで反応して膨潤してしまい、ボックス230から繰り出される際に摩擦低減材層30は剥落し、本来の摩擦低減機能を発揮すべき時点ではその機能を発揮できなくなる虞がある。本実施例によれば、前記の如く、この虞を確実に低減することができる。
【0103】
本実施例では更に、前記ボックス230は内ボックス25と外ボックス23の二重管構造に形成され、前記ロール状摩擦低減シート21は内ボックス25に収容され、前記止水剤28は内ボックス25と外ボックス23の間の空間に充填されている。よって、使用に供されて摩擦低減シート21のロールが小さくなっても、該摩擦低減シート21は内ボックス25の中に収容されており、一方止水剤28は、内ボックス25と外ボックス23の間の空間に充填されているのでその影響を受けない。従って、止水剤28はロール状の摩擦低減シート21のロールの大きさに影響されること無くボックス230内の存在することができるので、繰り出し開口部27の封止を確実に行うことができる。
【0104】
本実施例では更に、外ボックス23の内壁面に補強リブ233を一体に形成して成る耐圧強化部が設けられている。地盤G中では外ボックス23の外部から土水圧を受けるが、外ボックス23内には止水剤28によって水は浸入しないので、外ボックス23内の圧力は外部の土水圧より小さくなり、圧力バランスが崩れる。そのため、外ボックス23が土水圧で押し潰れる虞があるが、本実施例によれば、前記外ボックス23に補強リブ233が設けられているので、押し潰されることを防止することができる。
【0105】
更にまた、本実施例によれば、ケーソン躯体1の圧入沈降時に徐々に繰り出されて長尺に延設される摩擦低減金属シート21の繰り出し時において摩擦抵抗を最も長い時間にわたって受ける繰出し先端側で摩擦低減材層30の厚さが最も厚くなり、摩擦抵抗を最も短い時間受ける巻取り基端側に向かって摩擦低減材層30の厚さが徐々に薄くなるように構成されている。従って、摩擦低減材層30の使用量を過剰に増やすことなく、摩擦低減材層30の剥離ないし摩耗に伴う摩擦低減作用の低下を防止することができる。
【0106】
(6)圧入・掘削完了工程(図6(b)参照)
以下、上記(4)二次圧入準備工程と(5)二次圧入・掘削工程を繰り返すことによってケーソン躯体1と所定の数の後続の躯体4すべての圧入沈降とケーソン躯体1内部の地盤Gの掘削を完了させる。また地盤Gの掘削を進める中で、途中地下水W等が流れる部位に到達する場合もあるが、そのような場合にはケーソン躯体1及び後続の躯体4内に流入した地下水W等は図示しないポンプ等を使用して地上に汲み上げるようにする。
【0107】
(7)摩擦低減金属シート引抜き工程(図6(c)参照)
ケーソン躯体1の圧入沈降が終了すると摩擦低減金属シート21の巻取り基端部33は係止されていた巻取り軸24の係止スリット32から外れるため当該摩擦低減金属シート21を上方に引き抜くことが可能となる。これに伴い、摩擦低減金属シート21を上方に引き抜き、アースアンカー17、加圧桁9、油圧ジャッキ13および鋼矢板3等を撤去する。
【0108】
その際、本実施例では摩擦低減金属シート21の外面にも摩擦低減材層300が塗布ないし貼設されているので、摩擦低減金属シート21の引抜き時に該摩擦低減金属シート21の外面が地盤Gに対して摺接するが、この摺接による摩擦抵抗を効果的に低減することができる。また、摩擦低減金属シート21の内面がケーソン躯対1および増設躯対4の外周面に対して摺接するが、この摺接による摩擦抵抗は前記摩擦低減材層30により効果的に低減することができる。更に、摩擦低減金属シート21は上方に引き抜くことができるように構成されているため、一旦使用した摩擦低減金属シート21を回収することが可能であり、部材の有効利用を通じて材料コストの削減が図れ、摩擦低減材層の地盤中への残留の防止を通じて自然環境等に及ぼす悪影響を防止することができる。
【0109】
(8)底版コンクリート打設工程(図6(d)参照)
そして、圧入沈降したケーソン躯体1の内部に水中コンクリート12と底版コンクリート11を打設することによって所定深さのケーソン立坑5が完成する。そして当該ケーソン立坑5をシールドトンネル15の発進立坑や到達立坑として利用する。
【0110】
尚、以上の説明では、外ボックス23内に一種類の止水剤28が充填される場合を示したが、該止水剤28は複数種類の組み合わせで用いることも可能である。たとえば、外ボックス23内の底部から内ボックス25がほぼ埋没する程度の高さまでベントナイト等の粉末を充填し、その上に上記吸水性樹脂(a)を繰り出し開口部27まで一杯に充填した2層構造にしてもよいボックス内の底部側は水の浸入が通常はほとんどないので、その膨潤量が繰り出し開口部27側のものより少ない材料を用いて低コストかを測ることが望ましい。勿論3層以上に構成してもよい。3層以上の場合も前記膨潤量の傾向は外ボックス23の奥側ほど前記膨潤量の少ない材料を用いることが材料の低コスト化を図る上で望ましい。
【0111】
[実施例2]
次に、図13乃至図15に示す摩擦低減シートユニット29の構成を異ならせた実施例2に係るケーソン躯体1について説明する。図13は円環状上下2段に配設された摩擦低減シートユニットの一部を拡大して示す斜視図、図14はボックスの形状及び巻取り軸の軸径を異ならせた2種類の摩擦低減シートユニット(a)(b)を示す側断面図である。また図15はメインシートとジョイントシートとの間に適用される密着手段の種々の態様(a)〜(c)を示す横断面図である。尚、実施例2に係るケーソン躯体1は、摩擦低減シートユニット29の配設態様と、摩擦低減シートユニット29及び摩擦低減金属シート21の一部の構成の違いを除いて前記実施例1に係るケーソン躯体1と同様であるので、ここでは実施例2に係るケーソン躯体1の特有の構成に絞って説明する。
【0112】
本実施例2では、摩擦低減金属シート21は、ケーソン躯体1の外周面に沿うようにほぼ連接した状態で設けられるメインシート35と、隣接するメインシート35間の間隙部36に配設されるジョイントシート37とを備えることによって構成されている。そして、これらメインシート35とジョイントシート37は、互いに干渉しないように巻き取られた状態で一部オーバーラップされ、上下に取付位置をずらした状態で設けられている。具体的には、図13に示すように、メインシート35用のシートユニット29Aが上方に位置し、ジョイントシート37用のシートユニット29Bが円周方向に半ピッチずらして下方に位置するようになっている。従って、隣接するメインシート35間に存在していた間隙部36は、図示のようにジョイントシート37によって閉塞されるため外部からの泥土Rや地下水Wの流入が起こり難い構造になっている。
【0113】
また、図13では個々のシートユニット29毎にボックス230(外ボックス23と内ボックス25)を設けたが、図14に示すように、上方に位置するメインシート35と下方に位置するジョイントシート37を同時に収容できるような縦長のボックス230(外ボックス23と内ボックス25)とすることも可能である。因みに図14(a)では、外ボックス23の内側、中央付近の高さにメインシート35とジョイントシート37とを仕切る仕切板38を有し、メインシート35とジョイントシート37のそれぞれの巻取り軸24を同径としたものが図示されている。一方、図14(b)では、上記仕切板38は存在せず、メインシート35側の巻取り軸24を小径とし、ジョイントシート37側の巻取り軸24を大径とすることでメインシート35とジョイントシート37の繰り出しを円滑にしたものが図示されている。
【0114】
更に、メインシート35とジョイントシート37の接合面には、使用状態においてメインシート35とジョイントシート37を密着状態にする図15に示すような密着手段39を設けたり、密着手段39が作用するように構成することも可能である。因みに図15(a)では、メインシート35のジョイントシート37に対する接合面及びジョイントシート37のメインシート35に対する接合面に互いに係合する凹凸係合部40を設けた密着手段39が図示されている。
【0115】
また、図15(b)では、上記接合面の密着性を向上させるシール部材41をメインシート35とジョイントシート37との間に設け、ケーソン躯体1の内部から噴射される摩擦低減用のエアAの圧力を利用してメインシート35とジョイントシート37の密着性を高めるようにした密着手段39が図示されている。また、この場合において、上記シール部材41を摩擦低減金属シート21の表面に塗布される摩擦低減樹脂材30によって代用することも可能である。更に、図15(c)に示すように、摩擦低減樹脂材30を筋状に塗工することによって凹凸係合部40としても機能するように構成することも可能である。
【0116】
[他の実施例]
本願発明に係る摩擦低減シートユニット29、ケーソン躯体1及び該ケーソン躯体1を使用した圧入ケーソン工法は、以上述べたような構成を一例とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的な構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。例えば、ケーソン躯体1の形状は、円筒形に限らず、角筒形でもよく、角筒形のケーソン躯体1を使用すれば、図8(a)、(c)に示すような角筒形のケーソン立坑5を構築することが可能である。また、本発明のケーソン躯体1によって構築できるケーソン立坑5は、当初から筒状に形成された後続の躯体4を打ち足して行く図8(a)、(b)に示すような構造に限らず、板状のピース19をボルトジョイント42を利用して接合して行く図8(c)、(d)に示すような構造も含まれる。
【0117】
また、ケーソン躯体1の上に打ち足されて行く後続の躯体4は、コンクリート製の躯体に限らずスチール製等、他の材料によって形成された躯体であっても構わない。また、メインシート35とジョイントシート37の幅寸法は、必ずしも同一寸法である必要はなく、ジョイントシート37の幅寸法を間隙部36を閉塞できる範囲で短くすることも可能である。
【0118】
また、摩擦低減金属シート21の表面に設けられる摩擦低減材層30、300は溶融状態の摩擦低減材層の原料を塗工し、その後乾燥させて硬化させた上記実施例に係るものに限定されないのは勿論であり、更に当初から固形状態のシート状の摩擦低減材層30を接着剤等を使用して貼設したものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、橋脚の建設現場やシールド工事の施工現場等においてケーソン躯体を使用してケーソン立坑を構築する場合に利用でき、特にケーソン躯体を圧入沈降する際の摩擦抵抗が大きい時、摩擦抵抗を低減して効率良く圧入ケーソン工法を実行したい場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明のケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法の実行に使用する機械設備の一例を示す側断面図である。
【図2】本発明のケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法の実行に使用する機械設備の一例を示す平面図である。
【図3】本発明のケーソン躯体の一例を示す側断面図である。
【図4】本発明のケーソン躯体の一例を示す横断面図である。
【図5】本発明の圧入ケーソン工法の一例を工程別に示す前半部分(a)〜(d)の側断面図である。
【図6】本発明の圧入ケーソン工法の一例を工程別に示す後半部分(a)〜(d)の側断面図である。
【図7】ケーソン躯体の圧入沈降に伴って繰り出される摩擦低減金属シートの伸展状態を示す側断面図である。
【図8】本発明のケーソン躯体によって構築されるケーソン立坑の種々の態様を示す斜視図である。
【図9】摩擦低減金属シートの巻取り基端部の係止状態を段階的に示す斜視図である。
【図10】円環状に配設されたシートユニットの一部を拡大して示す斜視図である。
【図11】本発明に係る摩擦低減シートユニットの一例を示す側断面図である。
【図12】同摩擦低減シートユニットの水平断面図である。
【図13】円環状上下2段に配設されたシートユニットの一部を拡大して示す斜視図である。
【図14】シートマガジンの形状及び巻取り軸の軸径を異ならせた2種類のシートユニット(a)(b)を示す側断面図である。
【図15】メインシートとジョイントシートとの間に適用される密着手段の種々の態様(a)〜(c)を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0121】
1 ケーソン躯体、2 ケーソン刃口、3 鋼矢板、4 後続の躯体、 5 ケーソン立坑 6 機械設備、7 クレーン、8 足場、9 加圧桁、10 型枠11 底版コンクリート、12 水中コンクリート、13 油圧ジャッキ(圧入装置)、14 グラブバケット、15 シールドトンネル、16 吊下げフック、17 アースアンカー、18 アンカーチャック、19 ピース、20 躯体部、21 摩擦低減金属シート、22 シート設置部、23 外ボックス、24 巻取り軸、25 内ボックス、26 スリット、27 繰出し開口部、28 止水剤、29 摩擦低減シートユニット、29A シートユニット(メインシート用の)、29B シートユニット(ジョイントシート用の)、30 摩擦低減材層、31 内面、32 係止スリット、33 巻取り基端部、34 繰出し先端部、35 メインシート、36 間隙部、37 ジョイントシート、38 仕切板、39 密着手段、40 凹凸係合部、41 シール部材、42 ボルトジョイント、230 ボックス、231 補強リブ、233 ゴム板、280 封止部、300 摩擦低減材層、A エア、G 地盤、R 泥土(土砂)、M マウンド(置換砂)、W 地下水、a 吸水性樹脂、b 親水性バインダー樹脂、c 溶剤、h 添加剤、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦低減シートがロール状に巻き取られ、その巻き取られた状態における前記シートの少なくとも片面には摩擦低減材層が設けられて成るロール状摩擦低減シートがボックスに繰り出し可能に収容され、前記ボックス内に水と接触すると膨潤して止水性を発現できる粉粒状の止水剤が充填されていることを特徴とする摩擦低減シートユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦低減シートユニットにおいて、前記摩擦低減シートの前記摩擦低減材層は水と接触すると膨潤し、この膨潤によって摩擦低減機能を発現する材料で形成されていることを特徴とする摩擦低減シートユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦低減シートユニットにおいて、前記ボックスには耐圧強化部が設けられていることを特徴とする摩擦低減シートユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦低減シートユニットにおいて、前記ボックスは内ボックスと外ボックスの二重管構造に形成され、前記ロール状摩擦低減シートは前記内ボックスに収容され、前記止水剤は前記内ボックスと前記外ボックスの間の空間に充填されていることを特徴とする摩擦低減シートユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦低減シートユニットにおいて、前記止水剤は異なる種類の多層で構成され、ボックスの繰り出し開口部側に積層される止水剤は奥側に積層される止水剤より水との接触による膨潤量が多い材料で形成されていることを特徴とする摩擦低減シートユニット。
【請求項6】
先端に内刃状をしたケーソン刃口が形成されたケーソン躯体を地中に所定ストロークずつ圧入沈降させ、該ケーソン躯体内部の泥土を掘削しながら外部に排出すると共に、更にケーソン躯体の上方に後続の躯体を設置足して行くことによって所定深さのケーソン立坑を構築する圧入ケーソン工法において使用されるケーソン躯体であって、
前記ケーソン躯体には、請求項1〜5のいずれか1項に記載された摩擦低減シートユニットが該ケーソン躯体の外周面に沿うように複数個所に亘ってほぼ連接した状態で配されており、ケーソン躯体の圧入沈降に伴って上記摩擦低減シートが徐々に繰り出されるように構成されていることを特徴とするケーソン躯体。
【請求項7】
先端に内刃状をしたケーソン刃口が形成されたケーソン躯体を地中に所定ストロークずつ圧入沈降させ、該ケーソン躯体内部の泥土を掘削しながら外部に排出すると共に、更にケーソン躯体の上方に後続の躯体を設置足して行くことによって所定深さのケーソン立坑を構築する圧入ケーソン工法であって、
前記ケーソン躯体として前記請求項6に記載のケーソン躯体が使用され、上記摩擦低減シートは、その繰出し先端部を保持した状態でケーソン躯体を圧入沈降させることによって徐々に下方に繰り出されて行き、該ケーソン躯体あるいはその上方に打ち足される後続の躯体は前記摩擦低減材層を介して前記摩擦低減シートに対して摺接することを特徴とするケーソン躯体を使用した圧入ケーソン工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−332554(P2007−332554A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162327(P2006−162327)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(594019149)株式会社ヤマハ化工東京 (5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)