説明

摩擦抵抗低減船およびその運転方法

【課題】摩擦抵抗が低減し燃費が向上する摩擦抵抗低減船を提供する。
【解決手段】船体の外側面の上下方向に沿って複数のスタッドボルト4を設け、このスタッドボルト4を介して複数のエアチャンバー3が船体外側面に取り付けられ、各エアチャンバー3には船の航行につれて負圧を発生するウィング6と前記負圧が発生した領域に向けチャンバー内の空気を噴出する開口7が設けられ、更に前記複数のエアチャンバー3は上下方向に連接され、上方のエアチャンバーと下方のエアチャンバーとは連通管11にて内部が連通している

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡(マイクロバブル)を船体の外表面に供給して、船体と水との間の摩擦抵抗を低減した摩擦抵抗低減船およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航行中の船体の表面に気泡を供給することで、水に対する船体の摩擦抵抗が小さくなることが従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、船体外板の表面に、多数の空気吹き出し口を形成した半割パイプ状の空気吹き出し管を上下方向に取り付けた構造が開示されている。
【0004】
特許文献2には、船底の外板(没水表面)に凹部を設け、この凹部に空気を供給する気体導入管を接続するとともに、凹部の上流側に楔状の負圧形成部を取り付け、凹部内にケルビン−ヘルムホルツ不安定性現象を発生させて微小気泡(マイクロバブル)を作り出し、ケルビン−ヘルムホルツ不安定性現象(Kelvin-Helmholtz-Instability)によって微細気泡を発生させることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、船体の外側面に沿って空気供給用のダクトを設け、このダクトを長さ方向に沿って独立した複数のチャンバーに区画し、各チャンバー毎に空気を供給するための配管を導入し、前記チャンバーに形成した開口部に負圧発生用のウイングを備えた微細気泡発生部材を取り付けた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−412555号公報
【特許文献2】特許第4070385号公報
【特許文献3】特許第4183048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先ず、特許文献2に開示される構造では、船体に穴を開ける必要がある。そのため工事の期間が長くなる。
【0008】
特許文献1,3は船体に穴を開ける必要がないので、工期は短くなるが、空気を送り込む配管またはダクトが外部に露出している。一部が航行中に障害物が当って破損した場合に全体を交換しなければならない。
【0009】
特に、特許文献1のパイプの場合には、船底付近まで空気を送り込むことが困難で、喫水に近い箇所から殆んどの空気が出てしまう。これを配管に形成する穴の大きさで解消することは困難である。
【0010】
また特許文献3にあっては1本のダクトが複数のチャンバーに分かれているため、喫水付近から船底まで、満遍なく空気を送り込むことができる。しかしながら、小型船などは、船体表面の曲率が小さくダクトを無理に曲げなければならないことも考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明に係る摩擦抵抗低減船は、船体の外側面の上下方向に沿って複数のスタッドボルトを設け、このスタッドボルトを介して複数のエアチャンバーが船体外側面に取り付けられ、各エアチャンバーには船の航行につれて内側に負圧を発生するウィングなどの負圧発生部材と前記負圧発生部材に向けチャンバー内の空気を噴出する開口が設けられ、更に前記複数のエアチャンバーは上下方向に連接され、上方のエアチャンバーと下方のエアチャンバーとは連通管にて内部を連通させた構造である。
【0012】
喫水線から船底までの深さが大きくなる船では、ウィングによる負圧だけでは空気をエアチャンバーから引き出せない場合がある。そこで、アシストコンプレッサによって不足分に相当する圧力をエアチャンバーに付加することが考えられる。この場合にはアシストコンプレッサからのエアを所定のエアチャンバーに送り込む配管は上方のエアチャンバー内を貫通させる。尚、配管としてはフレキシブルのものであってもよい。
【0013】
因みに、船が走り出すと気液境界面はそれにしたがって下がり、下がった界面から微細気泡発生部の上部までの水柱を押し込めるだけの空気の圧力が有れば足りるため、それほど大きな容量のコンプレッサは必要でなく、例えば、主機関の出力が10,000kwの船の場合はコンプレッサの容量は10〜20kwで充分である。
【0014】
また、上下のエアチャンバーの内部を連通する連通管は、上方のエアチャンバーの底面から下方に向かって突出させることが好ましい。この理由は、船が停止している状態では、上下方向に連接する複数のエアチャンバー内も海水によって満たされる。そして、船が航行することによって負圧が発生し、この負圧によってエアチャンバー内に入り込んでいる海水は排除されるのであるが、連通管を下のエアチャンバーの上面から上方に突出させると、上方のエアチャンバーの底面から上方に連通管が入り込むことになる。この場合、連通管の高さ分だけ、エアチャンバー内の海水が抜けないことになるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る摩擦抵抗低減船によれば、船体に穴をあける必要がないので、取り付け工事が短期間のうちに終了する。
【0016】
また、1本の配管やダクトを船体に取り付けるのではなく、スタッドボルトを介して複数のエアチャンバーを船体に取り付けるようにしたので、取り付け工事が楽になり、また一部が破損してもその部分だけ交換すればよく、メンテナンス性にも優れている。
【0017】
更に複数のエアチャンバーに分けているため、船体表面の曲率が小さく複雑な形状の船舶や漁船などの小型船にも対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る摩擦抵抗低減船の側面図
【図2】摩擦抵抗低減船の側面に取り付けたエアチャンバーを示す図
【図3】船体に対するエアチャンバーの取り付け方法を説明した図
【図4】(a)は上下のエアチャンバーを連結する前の要部拡大図、(b)は連結した後の要部拡大図
【図5】船体に取り付けたエアチャンバーを前方から見た図
【図6】図5のA−A線に沿った拡大断面図
【図7】微細気泡の発生を説明した図6と同様の図
【図8】エアチャンバーの別実施例を示す斜視図
【図9】別実施例に係るエアチャンバーの図6と同様の図
【図10】別実施例に係るエアチャンバーの図7と同様の図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施例を添付図面を参照しつつ説明する。図1及び図2に示すように、本発明に係る摩擦抵抗低減船は、船体先端付近の外側面1に船底2に沿って上下方向に複数のエアチャンバー3を連接している。エアチャンバー3の下流側にはエアチャンバー3からの気泡の発生を確認するためのカメラCが配置されている。
尚、図示例ではエアチャンバー3を1列としているが、2列あるいはそれ以上としてもよい。
【0020】
エアチャンバー3の寸法は例えば厚み40mm、縦600mm、横400mmとする。また図3に示すように、予め船体に溶接などによって固設されたスタッドボルト4にナット5を介して固定される。尚、船体がFRPなどから構成される場合には、スタッドボルトの基部を船体に埋設して固設する。
【0021】
エアチャンバー3の中央部には凹部3aが形成されている。エアチャンバー3を船体に取り付けた状態でこの凹部3aの底部に船体の外側面1が露出する。また凹部3aを跨ぐようにウィング6が一体的に形成されている。
【0022】
ウィング6は図6に示すように、前端部のエアチャンバー上面とのギャップg1より後端部のエアチャンバー上面とのギャップg2の方が大きくなるように傾斜している。その結果、船の航行時にはウィング6の内側即ち凹部3a内に負圧領域が発生する。この負圧領域には凹部3aを形成するエアチャンバー3の壁面に形成した開口7から空気が噴出する。
【0023】
またエアチャンバー3の上面には穴8,9,10が形成されている。穴8は上方に連接されるエアチャンバー3の底面に設けた連通管11が嵌合する穴であり、この連通管11によって上下のエアチャンバー3の内部が連通する。
【0024】
このように、上下のエアチャンバー3が連通管11によって連通することで、最も上方に位置するエアチャンバー3と最も下方に位置するエアチャンバー3が連通する。この場合、最も上方に位置するエアチャンバー3の上面の穴8は大気に開放されるか大気に開放される配管が接続される。また、最も下方に位置するエアチャンバー3の底面の連通管11は閉じられるか省略される。
【0025】
また、連通管11の周囲には比較的厚めのシールリング12が設けられている。船体の外側面形状の曲りが大きくても複数のエアチャンバー3が少しづつ角度を変えることで対処できる。シールリング12は上下のエアチャンバー3の角度を少し変えるときに両者の間に生じる変形を吸収する。
【0026】
また、穴9,10はアシストコンプレッサ13からの配管14,15を貫通させるための穴である。喫水線からの深さが大きくなると、水頭圧も大きくなり航行時にウィング6により発生する負圧だけでは、エアチャンバー3内の空気を凹部3aに引き出せない。
【0027】
そこで、アシストコンプレッサ13からの空気をエアチャンバー3内に送り込むことで、エアチャンバー3内の気液界面を押し下げ、ウィング6により発生する負圧によって空気を凹部3aに引き出せるようにする。
【0028】
尚、個々のエアチャンバー3によってその深さが異なるので、必要なアシストコンプレッサ13からの空気量が異なる。そのためアシストコンプレッサ13からの配管を複数本とし、個々の配管を特定のエアチャンバー内に臨ませるようにしている。本実施例では2本の配管14,15を示しているが、エアチャンバーの数によって更に配管の数を増やすことが可能である。
【0029】
従来技術として船体に設けた穴からコンプレッサによって空気を噴出させる方法が知られている。この方法による場合は気泡が大きくなり摩擦低減が実現できない。即ち、発生する気泡の径が大きいと直ちに水面まで上昇して消失してしまう。気泡の径を小さくすること(好ましくは1mm以下)で、気泡の上昇速度は遅くなり、船体を気泡の膜で包む効果が発揮される。
【0030】
以上において船が航行を開始すると、図7に示すように、ウィング6によって凹部3a内に負圧領域が形成され、この負圧領域に向かってエアチャンバー3内の空気が開口7から引き出される。引き出された空気はケルビン−ヘルムホルツ不安定現象(Kelvin-Helmholtz-Instability)によって微小気泡(マイクロバブル)となって船体表面に貼りつくようにして下流側に相対的に移動する。
【0031】
図8はエアチャンバーの別実施例を示す斜視図、図9は同エアチャンバーの断面図であり、この実施例にあっては前記したエアチャンバーの下流側の半分を省略した形状をしている。
【0032】
この実施例も船体外側面に予め固設したスタッドボルトにエアチャンバー3が取り付けられ、船の航行に伴ってウィング6が発生する負圧によって図10に示すように、微細気泡が発生する。
【0033】
尚、ウィング6の構造としては図示はしていないが、内部を中空とし、この中空部エアチャンバー内とを例えばウィング6の脚部に形成した通路を介して連通し、更にウィング6の内側面に中空部とつながる多数の穴を形成した構成としてもよい。この場合は負圧が発生するウィング6の内側面に直接空気を噴出する穴が形成されていることになるので、確実に空気を噴出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る摩擦抵抗低減船とその運転方法は、コンテナ船などの大型船から漁船などの小型船まで広く利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…船体の外側面、2…船底、3…エアチャンバー、3a…凹部、4…スタッドボルト、5…ナット、6…ウィング、7…開口、8,9,10…穴、11…連通管、12…シールリング、13…アシストコンプレッサ、14,15…アシストコンプレッサからの配管、g1…ウィングの前端縁とエアチャンバー表面との間隔、g2…ウィングの後端縁とエアチャンバー表面との間隔。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の外側面の上下方向に沿って複数のスタッドボルトを設け、このスタッドボルトを介して複数のエアチャンバーが船体外側面に取り付けられ、各エアチャンバーには船の航行につれて負圧を発生するウィングと前記負圧が発生した領域に向けチャンバー内の空気を噴出する開口が設けられ、更に前記複数のエアチャンバーは上下方向に連接され、上方のエアチャンバーと下方のエアチャンバーとは連通管にて内部が連通していることを特徴とする摩擦抵抗低減船。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦抵抗低減船において、少なくとも船底に取り付けられたエアチャンバーには上方のエアチャンバー内を貫通してアシストコンプレッサからのエアを供給する配管が臨んでいることを特徴とする摩擦抵抗低減船。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の摩擦抵抗低減船において、前記連通管はエアチャンバーの底面から下方に向かって突出していることを特徴とする摩擦抵抗低減船。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の摩擦抵抗低減船の運転方法であって、前記ウィングによって発生する負圧がエアチャンバーから空気を引き出すために不足している場合に、当該不足している分だけアシストコンプレッサによってエアチャンバー内の圧力を高めつつ航行することを特徴とする摩擦抵抗低減船の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−51394(P2012−51394A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193175(P2010−193175)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(506376218)ケイ・アンド・アイ有限会社 (14)
【出願人】(501448211)株式会社ジャステックス (4)