説明

摩擦抵抗低減船の運転方法

【課題】喫水面の位置変動、航行速度の変動があっても、必要なだけの圧力で空気をリザーバタンクから微細気泡発生部材まで送り込むことができ、安定して摩擦抵抗を低減できる摩擦抵抗低減船を提供する。
【解決手段】航行に伴って負圧を発生するウイング7を備えた複数の微細気泡発生部材を喫水面下の外側面から船底に沿って取り付け、発生する負圧のみでは微細気泡を発生することができない微細気泡発生部材については、リザーバタンクから加圧空気を送り込むことで微細気泡を発生させる摩擦抵抗低減船において、リザーバタンクからの配管に、速度センサと喫水センサからの信号に基づき調整する調整バルブを設けた。また、気液の界面がチャンバー5内まで下がっていると、ウイング7が発生する負圧によって、比重の大きな水が比重の小さな空気よりも下に潜り込む現象(ケルビンヘルムホルツ不安定現象)が発生し、100μm〜1mm程度の微細気泡が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡(マイクロバブル)を船体の外表面に供給して、船体と水との間の摩擦抵抗を低減した摩擦抵抗低減船の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航行中の船体の表面に気泡を供給することで、水に対する船体の摩擦抵抗が小さくなることが従来から知られている。
【0003】
特許文献1には航行に伴って負圧を発生するウイングを備えた複数の微細気泡発生部材を、船体の喫水面よりも下方となる外側面から船底に沿って取り付け、前記航行に伴って発生する負圧のみでは微細気泡を発生することができない微細気泡発生部材については、リザーバタンクからの加圧空気を送り込むことで微細気泡を発生せしめるようにした摩擦抵抗低減船が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−115942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にあっては、リザーバタンクと微細気泡発生部材とを結ぶ配管には調整バルブ(減圧弁)が設けられている。しかしながら、この調整バルブは下方に位置する微細気泡発生部材ほど高圧の空気を供給するためのものでありバルブの取り付け位置に応じて予め設定した開度に固定し、調整する場合には手動操作を必要とする。
【0006】
穏やかな海を一定の速度で航行する場合には、上記の設定でも問題はないが、外洋などを航行すると船体は大きくローリング及びピッチングするため、微細気泡発生部材と喫水面との距離は大きく変化する。
また、風向きや積荷によって航行速度も変化し、これによって微細気泡発生部材のウイングが発生する負圧も変化する。
【0007】
このように、喫水面からの距離が大きく変動すると微細気泡発生部材までリザーバタンクから送り込むのに必要な圧力も変動する。この圧力とウイングが発生する負圧との合計が微細気泡発生部材まで空気を送り込む圧力になるが、ウイングが発生する負圧も航行速度に応じて変動する。このように喫水面からの距離及び速度は航行中に変動するため、リザーバタンクと微細気泡発生部材とを結ぶ配管に設けたバルブの開度を一定にしておくと、圧力不足によって微細気泡発生部材が微細気泡を発生しない現象が発生する、これを防止するには、リザーバタンク内の圧力を高めておけばよいが、これでは消費エネルギーが大きくなる。
また、いちいち手動でバルブを操作することは設置する微細気泡発生部材の数を考慮すると、現実的ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、航行に伴って負圧を発生するウイングを備えた複数の微細気泡発生部材を、船体の喫水面よりも下方となる外側面から船底に沿って取り付け、前記航行に伴って発生する負圧のみでは微細気泡を発生することができない微細気泡発生部材については、リザーバタンクからの加圧空気を送り込むことで微細気泡を発生せしめるようにした摩擦抵抗低減船の運転方法において、前記加圧空気はリザーバタンクからの配管を介して送り込まれ、この配管には調整バルブを設け、この調整バルブの開度を船体に設けた速度センサと喫水センサからの信号に基づき調整するようにした。
【0009】
例えば、前記調整バルブの全開に対する開度をD(%)、速度をV(ノット)、喫水深さをH(m)とした場合、開度を以下の式によって決めることも可能である。D=k×H/V (kは船の形状で決まる定数)
【0010】
また、微細気泡発生部材の取付角度によっては、速度センサと喫水センサからの信号による調整のみでは微細気泡の発生に不十分な場合がある。そこで、微細気泡発生部材の近傍にCCDカメラなどの微細気泡発生の有無を検知する検知部材を設け、微細気泡の発生量が不足の場合は前記速度センサと喫水センサからの信号に基づく開度を更に開く信号を発するようにすることも可能である。
【0011】
更に、船舶のピッチング及びローリングは一定の間隔で繰り返される特徴がある。そこで、バルブの開度の制御方法としてある程度の先の喫水面を予測したアクティブ制御を行うことも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る摩擦抵抗低減船によれば、喫水面の位置変動、航行速度の変動があっても、必要なだけの圧力で空気をリザーバタンクから微細気泡発生部材まで送り込むことができる。
したがって、リザーバタンクの容量も小さくでき、このリザーバタンクに空気を送り込むコンプレッサの駆動力も小さくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る摩擦抵抗低減船の側面図
【図2】リザーバタンクと微細気泡発生部材との間の配管系統図
【図3】微細気泡発生部材の断面図
【図4】微細気泡発生部材の微細気泡(マイクロバブル)発生のメカニズムを説明した図3と同様の図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る摩擦抵抗低減船は喫水面(L.W.L.)よりも下方の船体の外側面1から船底2に沿って複数の微細気泡発生部材3を取り付けている。複数の微細気泡発生部材3の配列は図示例では側方から見て直線状をなすように配列しているが、千鳥状や斜めでもよい。
【0015】
微細気泡発生部材3はウイングユニット4とチャンバー5からなる。ウイングユニット4は船体の外側面1に形成した開口6に嵌め込まれ、ウイング7が船体の外側面1よりも外側に突出し、ウイング7とチャンバー5との間には混合部8が形成されている。またウイング7は船舶の航行に伴って混合部8に負圧を発生せしめるべく航行方向にそって前端部のギャップg1が後端部のギャップg2よりも小さくなるように傾斜している。
【0016】
チャンバー5はウイングユニット4の背面側(船体内側)に取り付けられている。尚、ウイングユニット4とチャンバー5を一体成形してもよい。チャンバー5は配管を介してリザーバタンク9につながっており、このリザーバタンク9にはコンプレッサ10から加圧空気が供給される。
【0017】
前記チャンバー5とリザーバタンク9をつなぐ配管は、主配管11とこれから分岐して各微細気泡発生部材3のチャンバー5に結合する分岐管11a、11b、11c、11dからなる。
【0018】
各分岐管11a、11b、11c、11dには圧力調整または流量調整を行う調整バルブVa、Vb、Vc、Vdが設けられ、これら調整バルブVa、Vb、Vc、Vdのバルブの開度は制御装置12からの信号によって調整される。
【0019】
制御装置12には速度センサ及び喫水センサからの信号が送られ、これらセンサからの信号を処理し最適なバルブ開度を各調整バルブVa、Vb、Vc、Vdに出力する。
【0020】
即ち、仮にリザーバタンク9内が大気圧であったとすると、配管内の気液の界面は喫水面と等しくなる。この状態から、気液の界面がチャンバー5内まで下がっていないと、船舶の航行に伴ってウイング7が負圧を発生しても、ケルビンヘルムホルツ不安定現象によって微細気泡を発生することができない。
【0021】
そこで、制御装置12からの信号は、速度センサからの信号によってウイング7が発生する負圧を計算し、喫水センサからの信号によって配管内の気液の界面の位置を割り出し、各調整バルブの二次側圧がどれだけになれば気液の界面がチャンバー5内まで下がるかを計算し、それに応じた開度信号を各調整バルブに出力する。
【0022】
開度計算の一例を示せば、全開に対する開度をD(%)、速度をV(ノット)、喫水深さをH(m)とした場合、開度(D)=k×H/V(kは船の形状で決まる定数)で求めることができる。
【0023】
このように気液の界面がチャンバー5内まで下がっていると、図4に示すように、ウイング7が発生する負圧によって、比重の大きな水が比重の小さな空気よりも下に潜り込む現象(ケルビンヘルムホルツ不安定現象)が発生し、100μm〜1mm程度の微細気泡が発生する。
【0024】
また、チャンバー5にはCCDカメラなどの微細気泡発生の有無を検知する検知部材13を設けることが好ましい。制御装置12の計算は速度センサと喫水センサからの信号に基づいているが、配管内の状況や実際の取付角度などは考慮していないため、計算通りにはいかないことも考えられる。
そこで、検知部材13によって微細気泡が発生を発生していないことを検知した場合には、更に開度を大きくするフィードバック制御を行うことが好ましい。
【0025】
また、信号の出力と微細気泡の発生との間にはタイムラグが生じる。一方船舶の特徴として、ピッチングやローリングは一定の間隔で上下動を繰り返す。そこで、微細気泡発生部材3が下降行程にあるときは更に喫水面からの距離が大きくなることを見越して開度を計算値よりも大きくし、逆に微細気泡発生部材3が上昇行程にあるときは更に喫水面からの距離が小さくなることを見越して開度を計算値よりも小さく設定するアクティブ制御を行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る摩擦抵抗低減船の運転方法は、あらゆる船舶に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…船体の外側面、2…船底、3…微細気泡発生部材、4…ウイングユニット、5…チャンバー、6…船体の外側面に形成した開口、7…ウイング、8…混合部、9…リザーバタンク、10…コンプレッサ、11…主配管、11a、11b、11c、11d…分岐管、12…制御装置、13…検知部材、g1…ウイングの前端部分の隙間、g2…ウイングの後端部分の隙間、Va〜Vd…調整バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航行に伴って負圧を発生するウイングを備えた複数の微細気泡発生部材を、船体の喫水面よりも下方となる外側面から船底に沿って取り付け、前記航行に伴って発生する負圧のみでは微細気泡を発生することができない微細気泡発生部材については、リザーバタンクからの加圧空気を送り込むことで微細気泡を発生せしめるようにした摩擦抵抗低減船の運転方法において、
前記加圧空気はリザーバタンクからの配管を介して送り込まれ、この配管には調整バルブを設け、この調整バルブの開度を船体に設けた速度センサと喫水センサからの信号に基づき調整することを特徴とする摩擦抵抗低減船の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦抵抗低減船において、前記調整バルブの開度は、全開に対する開度をD(%)、速度をV(ノット)、喫水深さをH(m)とした場合、開度を以下の式によって決めることを特徴とする摩擦抵抗低減船の運転方法。
D=k×H/V kは船の形状で決まる定数
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の摩擦抵抗低減船の運転方法において、前記微細気泡発生部材の近傍にはCCDカメラなどの微細気泡発生の有無を検知する検知部材を設け、微細気泡の発生量が不足の場合は前記速度センサと喫水センサからの信号に基づく開度を更に開く信号を発することを特徴とする摩擦抵抗低減船の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−176637(P2012−176637A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39292(P2011−39292)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(506376218)ケイ・アンド・アイ有限会社 (14)
【出願人】(501448211)株式会社ジャステックス (4)