説明

摩擦構造体

【課題】潤滑剤層を充分に保護することにより、高い摩擦低減能力を発揮し、作業を更に簡便かつ効率的に行うことができる摩擦構造体を提供する。
【解決手段】被摩擦構造体(1)が摩擦面を介して移動する摩擦構造体であって、該摩擦構造体は、保護層(3)、潤滑剤層(2)及び被摩擦構造体(1)を必須として構成される摩擦構造体、前記摩擦構造体は、(i)被摩擦構造体(1)、潤滑剤層(2)、保護層(3)の順に積層された形態、(ii)被摩擦構造体(1)、保護層(3)、潤滑剤層の順に積層された形態、及び、(iii)被摩擦構造体(1)、保護層(3)、潤滑剤層(2)、保護層(3)の順に積層された形態の少なくとも1つである摩擦構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦構造体に関する。より詳しくは、土木建築分野、物品等の搬送分野、摺動構造体等の各種機器を用いる分野において、好適に用いることができる摩擦構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野や土木分野の基礎工事等において、地盤中に土留め擁壁等の構造物を埋設する場合や、ケーソン等に代表される構造物を埋設する場合は、鋼矢板等の鋼材(支持体)や構造物を直接地盤に埋設する方法が一般に利用されている。構造物を埋設する場合には、構造物の沈下に伴い土砂との摩擦が増大し、多大な埋設力を要するだけでなく、特に構造物の規模が大きい場合、構造物全体に均等に沈降力を与えることがより困難になることから、構造物を所望の位置に、所望の角度で埋設するためにも、構造物と土砂との間の摩擦力を小さくすることが求められていた。
【0003】
埋設構造物と土砂との間の摩擦力を小さくするために、ケーソン等の埋設構造物の周面に摩擦低減シートを被覆させる方法が提案されている。具体的には、ケーソンその他類似構造物を地中に沈設するに当りその構造物の外周下部に強靱且つ柔軟な滑り易いシートを収納し、そのシートの上端を地表面に固定し構造物が沈下するにつれて上記収納されたシートが繰り出されて構造物の外周壁面と土砂との間にシートが布設される事によって構造物と土砂との周面摩擦を減少させることを特徴としたケーソンその他類似構造物の地中沈設促進工法が開示されており、シートとして補強された延伸ポリエチレンフィルムが記載されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このようなシートは、摩擦抵抗が少ないものであるうえに、収納が可能な柔軟性と充分な引っ張り強度を有する強靱さとを有することが必要であることから、摩擦をより充分に低減させることのできる種々の材料を用いることができるものとする工夫の余地があった。
【0004】
また地盤中に土留め擁壁等の構造物(鋼矢板等の鋼材(支持体)等)を埋設する場合には、借地のため、又は、後年に地下を再び工事(開発)する際の障害とならないようにしたり、鋼材を再度使用したりするために、地盤等から引き抜かれることが望まれることがある。
このような基礎工事等においては、鋼材を地盤に埋設した後に、基礎工事を行う周囲の地下水の状況等により、必要に応じ、セメントミルクや生コンクリート等の水硬性組成物を地盤中に圧入したり、掘削孔を形成し水硬性組成物を注入後にH型鋼を鋼材(芯材)として埋め込んだりすることが行われている。水硬性組成物を使用すると、水硬性組成物が硬化し、地盤や水硬性組成物中から鋼材を引き抜く作業には相当の労力(引張力)が必要となる。
【0005】
そこで、従来、鋼材表面にワックスやグリース等の潤滑油を予め塗布したり、吸水性樹脂を含む処理剤等を鋼材表面に塗布したりすることによって、鋼材の引抜き作業を容易に行う技術が種々提案されている。例えば、シート状基材に特定のアルカリ水可溶性樹脂を含む樹脂層が形成された被覆材が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この被覆材を水硬性組成物の硬化物から鋼材等の仮埋設物の引抜き作業に用いることにより、水硬性組成物に含まれる水に溶解したアルカリ水可溶性樹脂によってシート状基材と水硬性組成物の硬化物との間に易剥離層が形成されるため、引抜き作業における労力(引張力)を低減することができ、該作業の作業性を向上させることができることとなる。しかしながら、この被覆材においては、水硬性組成物の硬化物からの鋼材の引抜き性を更に向上させ、現場作業を更に簡便かつ効率的に行うことができるようにするための工夫の余地があった。
【0006】
また特定の引張強度のシート状基材に、潤滑剤がワックスおよび/またはグリースである潤滑剤層が形成されている被覆材を含む被覆構造体が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この被覆材を用いることにより、潤滑剤層を容易に形成することができ、引抜き作業における労力(引張力)を低減することができることとなる。しかしながら、潤滑剤の効果が充分に発揮され、水硬性組成物の硬化物からの鋼材の引抜き性を更に向上させるようにするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特公昭50−1291号公報(第2、3頁)
【特許文献2】特許第3274421号公報(第1、3頁)
【特許文献3】特開第3253923号公報(第1、3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、潤滑剤層を充分に保護することにより、高い摩擦低減能力を発揮し、作業を更に簡便かつ効率的に行うことができる摩擦構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、被摩擦構造体を移動させるための技術について種々検討したところ、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須として構成される摩擦構造体とすると、保護層が潤滑剤層を効果的に保護し、その潤滑効果を充分に発揮することができることから、被摩擦構造体と構造体との摩擦力を低減させることができ、被摩擦構造体を移動させる作業の作業性向上に非常に有用であることを見いだした。また、摩擦構造体を特定の形態としたり、保護層及び/又は潤滑剤層を特定の構成としたりすることにより、保護層による潤滑剤層の保護効果がより充分に発揮され、高い摩擦低減性を実現することができ、取り扱い性、作業性に優れた摩擦構造体とできることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、土木建築分野、物品等の搬送分野、摺動構造体等の各種機器を用いる分野において、種々の用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、被摩擦構造体が摩擦面を介して移動する摩擦構造体であって、該摩擦構造体は、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須として構成される摩擦構造体である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の摩擦構造体は、被摩擦構造体が摩擦面を介して移動するものであり、土木建築分野、物品等の搬送分野、摺動構造体等の各種機器を用いる分野において、好適に用いることができるものである。本発明の摩擦構造体は、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須として構成され、被摩擦体に対して被摩擦構造体を移動させる場合に生じる摩擦を低減することができる。
【0011】
上記摩擦構造体は、種々の分野において用いることができるため、各種用途に応じて、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体の配置を適宜設定することができる。具体的には、摩擦低減効果が充分に発揮され、取り扱いが容易である配置とすることが好適である。例えば、摩擦構造体は、(i)被摩擦構造体、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態、(ii)被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層の順に積層された形態、及び、(iii)被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の少なくとも1つであることが好ましい。以下、摩擦構造体の配置について、図を参照して説明する。なお、図1〜6に示すように、杭、荷物、軸を「被摩擦構造体」といい、地盤、地面、搬送シートを「被摩擦体」という。
【0012】
図1及び3は、上記(i)の形態を模式的に表したものである。上記(i)の形態は、被摩擦構造体と保護層との間に潤滑剤層が介在する形態であり、被摩擦本体の移動時においても、潤滑剤層が高強度の保護層に保護されるため、潤滑剤層の変形・シワ等による摩擦低減能力の低下を防止でき、摩擦が増大することなく、高い摩擦低減性を実現できる。したがって、柔らかい材質の潤滑剤層であっても均一で安定した潤滑剤層を維持することができ、特にレキ層等の凹凸面や引っ掛かり易い面上を、移動させる場合に、被摩擦構造体と該面との摩擦を充分に低減することができる。具体的には、土木建築分野において、例えば、基礎工事等に用いられる鋼材を地盤等から引き抜く場合や、物品等の搬送分野において、例えば、砕いた石、尖った石等の凸凹の地盤上を、荷物等の被摩擦構造体を移動させる場合等に好適に用いることができる。
【0013】
図5は、上記(ii)の形態を模式的に表したものである。上記(ii)の形態は、被摩擦構造体と潤滑剤層との間に保護層が介在する形態であり、上記(i)の形態の場合と同様に、潤滑剤層が保護層に保護され、摩擦低減効果を充分に発揮することができる。このように、保護層と、潤滑剤層と、被摩擦構造体とから少なくともなり、被摩擦構造体と潤滑剤層との間に保護層が介在された摩擦構造体もまた、本発明の好ましい形態の一つである。上記(ii)の形態としては、例えば、摺動構造体等の各種機器を用いる分野において、好適に用いることができる。
【0014】
図2、4及び6は、上記(iii)の形態を模式的に表したものである。上記(iii)の形態は、2以上の保護層で潤滑剤層を挟む(又は包む)形態であり、潤滑剤層が保護層により両面(又は複数面)から保護されるため、潤滑剤層を充分に保護することができる。このような形態は、土木建築分野、物品等の搬送分野、摺動構造体等の各種機器を用いる分野等の種々の分野において好適に用いることができる。
【0015】
上記(i)〜(iii)の形態は、用途に応じて適宜用いることができ、いずれの形態であっても摩擦による潤滑剤層の磨耗・消耗・破壊を低減、防止し、潤滑材の脱落・飛散・拡散・汚染を充分に防止することができるが、潤滑剤層が2以上の保護材に挟まれた状態で存在する(iii)の形態とすると、このような潤滑剤層を保護する機能をより充分に発揮することができることから、(i)〜(iii)の中でも(iii)の形態がより好ましい。
上記(i)〜(iii)の形態としては、被摩擦構造体を移動させるときに上記配置(形態)であればよく、例えば、施工時、組立時又は稼動時に、上記配置とすることができる。
【0016】
本発明の摩擦構造体は、摩擦面を介して移動するものであるが、摩擦面とは摩擦が生じる面をいい、被摩擦構造体と潤滑剤層との接触面、潤滑剤層と保護層との接触面、保護層と被摩擦体との接触面、又は、被摩擦構造体と保護層との接触面を指す。上記摩擦面は、摩擦構造体を構成する材料によって生じる摩擦力が異なり、摩擦力を効果的に低減するために、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体の配置を適宜設定することが好ましい。具体的には、摩擦構造体は、摩擦面の中でも摩擦が最も大きな面に保護層が形成された形態であることが好ましい。
【0017】
上記摩擦が最も大きな面に保護層が形成された形態としては、例えば、物品等の搬送分野において、図7の模式図に示すように、被摩擦体がレキ層等の凹凸面である場合等、被摩擦体と摩擦構造体との接触面が摩擦面の中でも摩擦が最も大きな面である場合、摩擦構造体の被摩擦体に接触する面に保護層を配置することが好ましい。また、図8の模式図に示すように、被摩擦構造体が凹凸面を有する等により、被摩擦構造体との接触面が摩擦面の中でも摩擦が最も大きな面である場合、被摩擦構造体に接触する面に保護層を配置することが好ましい。このような形態とすることにより、従来では摩擦を充分に低減させることが困難であったレキ層等の凹凸面上で被摩擦構造体を移動させる様な場合においても、潤滑剤層を充分に保護することができ、優れた摩擦低減効果を発揮することができる。なお、上記形態は、摩擦が最も大きな面に保護層が形成されたものであればよく、その他の層等を有するものであってもよい。例えば、潤滑剤層を保護層で挟む形態は、保護層がより充分に保護されることから好ましい形態の一つである。具体的には、図7の模式図では潤滑剤層と被摩擦構造体との間に更に保護層を有する形態や、図8の模式図では潤滑剤層と被摩擦体との間に更に保護層を有する形態であることが好ましい。
【0018】
本発明の摩擦構造体は、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須として構成されるものであるが、中でも、保護層及び潤滑剤層を必須としてなる摩擦低減材が、被摩擦構造体を移動させる際に生じる摩擦、すなわち、被摩擦構造体と被摩擦体の間に生じる摩擦を低減させる効果を発揮するものである。このように、保護層及び潤滑剤を必須として構成される摩擦低減材であって、該摩擦低減材は、摩擦を伴って移動する接触した被摩擦構造体と被摩擦体の間に介在する摩擦低減材もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0019】
上記摩擦低減材は、保護層及び潤滑剤層を必須として構成されるものであり、保護層と潤滑剤層の配置は、潤滑剤層が摩擦低減効果を充分に発揮する形態であれば特に限定されないが、潤滑剤層は少なくとも一つの保護層と組み合わされて、潤滑剤層と保護層とが複合された形態(複合摩擦低減材)であることが好ましい。このような複合摩擦低減材は、潤滑剤層と保護層とが組み合わされている形態であればよく、例えば、保護層に潤滑剤層を貼り付ける等して一体化してもよい。また、潤滑剤層の脱落を充分に防いだり、潤滑剤層の形成を容易にさせるために、後述する基材を用いてもよい。すなわち、基材に潤滑剤層を塗工等によって形成したものを用いて摩擦構造体に潤滑剤層をつけるようにしてもよい。潤滑剤層は、基材の両面又は片面に形成されてもよく、2以上の基材(シート基材)で挟まれていてもよい。
上記複合摩擦低減材は、被摩擦構造体を移動させるときに上記配置(形態)であればよく、例えば、施工時、組立て時または稼動時に、上記配置とすることができる。なお、このような複合摩擦低減材は、上述した形態(図1〜8で示す形態等)のいずれにも適応することができる。
【0020】
上記摩擦構造体を上述の複合摩擦低減材の形態として、摩擦を伴って移動する接触した被摩擦構造体と被摩擦体の間に介在させて用いることにより、摩擦低減効果が充分に発揮することができる。また、上述の複合摩擦低減材の形態とすることにより、潤滑剤層に可燃性の材料を用いた場合であっても、摩擦低減材に耐火性を付与することができる。例えば、潤滑剤層の潤滑材として、吸水性樹脂、グリース、ワックス、PE等を用いる場合は、単独では、いずれも可燃物であり、火を着けると燃焼するおそれがあるが、保護層として金属シートを用い、潤滑剤層と保護層とが複合された形態とすると、高耐火性が増し、火を着けても燃えにくくなる。つまり、潤滑剤層と保護層(中でも、金属シートを用いた保護層)とを複合した摩擦低減材(複合摩擦低減材)は、火災時にも不燃材料となり、安全性が増し、種々の用途に好適に用いることができる。
【0021】
本発明の保護層としては、潤滑剤層を保護し、潤滑剤層の高い摩擦低減能力を発揮させるものであれば特に限定されず、保護層を構成する材料としては、例えば、鉄・ステンレス・アルミ等の金属、アクリル・Fiber Reinforced Plastics(FRP)等のプラスチック、繊維強化樹脂、炭素繊維材料、セラミック、ゴム、木材、織布、不織布、割繊維不織布、紙、接着剤、粘着剤等の1種又は2種以上が好適である。中でも、金属、プラスチックが好ましく、強度・加工性・経済性の面から、金属がより好ましい。このように、上記保護層は、金属製である摩擦構造体もまた、本発明の好ましい形態の一つである。保護層としては、潤滑剤層及び/又は被摩擦構造体を保護する限り、滑り性が充分でなくてもよいが、保護層として金属を用いると、金属は一般的に滑り性がよいことから、該保護層がフリクションカットとしても機能することができる。また、金属の高い放熱効果が発揮することが可能となり、摩擦により生じた熱を保護層である金属(例えば、金属シート)が吸収・放熱するため、摩擦熱による潤滑剤層の劣化や周辺部品への悪影響を防止することができる。
上記保護層を構成する金属としては、鉄系金属、ステンレスが好ましい。
【0022】
本発明においては、用途に応じて上記形態(i)〜(iii)のうちの少なくとも一つを好適に用いることができるが、上記保護層が、金属製であって、上記(iii)の形態の摩擦構造体が好ましい。すなわち、潤滑剤層が二つ以上の保護材で挟まれた摩擦低減材であって、少なくとも一つの保護材が、金属製である摩擦低減材もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
上記保護層の形状としては、層状であることが好ましいが、本発明の作用効果を発揮する限り特に限定されず、層状以外の形状であってもよい。形状としては、例えば、フィルム、シート、板等のいずれであってもよく、また、必要に応じて、例えば、格子状等の孔を有する形状や、メッシュシートの形状や、金属製等の箔の形状であってもよい。
【0023】
上記保護層が金属である場合、該保護層の厚みとしては、0.01〜10mmであることが好適である。潤滑剤層の防護性、摩擦低減性の観点から、好ましくは、0.05〜5mmであり、より好ましくは、0.1〜4mmであり、更に好ましくは、0.1〜3mmである。このように、前記保護層は、厚みが0.1〜3mmである摩擦構造体もまた、本発明の好ましい形態の一つである。このような範囲とすることにより、摩擦による潤滑剤層の磨耗・消耗・破壊を低減、防止し、潤滑材の脱落・飛散・拡散・汚染を充分に防止することができる。上記厚みとして更に好ましくは、0.2〜3mmであり、特に好ましくは、0.3〜3mmであり、最も好ましくは、0.4〜2mmである。このような範囲とすることにより、加工性に優れた保護層とすることができるが、加工・取り扱い性をより重視する場合、0.02〜0.5mmであることが好ましい。より好ましくは、0.03〜0.2mmであり、更に好ましくは、0.04〜0.16mmである。
なお、保護層が潤滑剤層を挟む形態である場合、下層保護層(被摩擦体と潤滑剤層との間の保護層)と、上層保護層(潤滑剤層と被摩擦構造体との間の保護層)の厚みとしては、潤滑剤層を保護でき、摩擦を充分に低減できる範囲であれば特に限定されず、下層保護層及び上層保護層が、共に上述した範囲であることが好ましい。また、上層保護層をより薄くする形態とすることもできる。
【0024】
本発明の保護層は、上記材料を用い、厚みを上記範囲とすることにより、容易に任意の寸法・形状に加工できることから、運搬・移動に好適な形状とすることができ、取り扱い作業性に優れたものである。
なお、これらの保護層の坪量は、材質や厚さ等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、その下限は1g/m、上限は10000g/mであることが好ましい。より好ましい下限は10g/m、上限は1000g/mである。
【0025】
上記保護層は、耐ウォータージェット値が1秒以上であることが好ましい。このような強度とすることで、潤滑剤層を保護するという作用効果を充分に発揮することができる。本発明の摩擦構造体が土木建築分野において用いられる場合、例えば、高圧噴射攪拌等による外力等が摩擦構造体に加わる場合、これまでの現場施工の実績から、高圧噴射攪拌(例えば、ジェット・セメント水流による地盤改良)を受けると、水硬成物質等が摩擦構造体の一部又は全部の周囲で硬化してアンカーのような作用をして被摩擦構造体の引き抜きに支障が生じることになる。また、潤滑剤層が破損されることによって、被摩擦構造体の引抜きに支障がでることになる。耐ウォータージェット値が1秒以上であると、このような高圧噴射攪拌(隣接噴射)等による外力等が摩擦構造体に加わっても、潤滑剤層及び/又は被摩擦構造体を充分に保護することができる。
【0026】
耐ウォータージェット値の測定条件は、以下のとおりである。
スギノマシーン株式会社製ウォータージェット切削機(以下、WJ機)を用いて行った。
基本条件:噴射圧力=1000kg/cm、ノズル径=0.26mm、ノズル高さ=2〜10cm、ノズル固定or走査。
試料(保護層、例えば、防護シート、板等)をWJ機にセットし、ジェットが試料を貫通するまでの時間を測定した。
【0027】
また高圧噴射攪拌等においては、通常、高圧噴射される水硬成物質等は、回転しながら上昇し、同一の箇所に耐ウォータージェット値(耐WJ値)が1秒以上曝されることはなく、現場ではおよそ半分の圧力に曝されることとなる。したがって、耐ウォータージェット値が1秒以上であると、外力等による潤滑剤層の損傷を防止し、潤滑剤層及び/又は被摩擦構造体を充分に保護することができる。例えば、H型鋼を鋼材(芯材)として地盤等に直接埋設し、芯材を埋設中又は埋設後にセメントミルクや生コンクリート等の水硬性組成物を高圧噴射して注入し、その後地盤等から該芯材を引き抜く場合には、当該芯材を被摩擦構造体として、図1又は2のような上記(i)や(iii)の形態の摩擦構造体とすると、保護層が当該高圧噴射される水硬成物質から潤滑剤層を充分に保護し、潤滑剤層が脱落することなく、摩擦低減効果を充分に発揮することができる。また、保護層が高圧噴射される水硬成物質から被摩擦構造体である芯材をも保護し、芯材が水硬性物質や土等の付着を充分に抑制できることから、水硬性物質が芯材と被摩擦体である地盤とともに硬化して、芯材を引き抜く際に大きな引っ張り力が必要となる事態を避けることができる。また土木建築分野以外の分野においても、上記耐WJ値を満たす保護層とすることにより、潤滑剤層を保護するために充分な強度を発揮し、物品等の搬送や摺動構造体等の各種機器を用いる用途においても好適に用いることができる。例えば、物品等を搬送する形態においては、物品等の荷重に耐えるとともに、ゴツゴツした地盤に対して物品の設置面を平らにして摩擦を低減することができる。また、摺動構造体等の各種機器に用いる形態においては、摺動による摩擦に充分に耐えて長期にわたって使用することが可能となる。
【0028】
耐WJ値としてより好ましくは、2秒以上であり、更に好ましくは、5秒以上であり、特に好ましくは、48秒以上である。
本発明の保護層は、上記厚みと耐WJ値とを有するものであることが好ましく、この中でも、耐WJ値を有し、より薄い厚さのものであることが好ましい。厚みがより薄いと、取り扱い性に優れ、種々の用途に好適に用いることができる。更に、上記保護層は、平滑であることが好ましい。
【0029】
本発明の潤滑剤層とは、潤滑剤(潤滑剤組成物)を含有する層であり、被摩擦構造体が移動する際に生じる摩擦を低減・抑制する作用効果を有するものである。
上記潤滑剤層の膜厚(厚み)としては、その成分等に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、0.001〜5mmであることが好ましい。0.001mm未満であると、潤滑剤層の作用効果を充分に発揮できないおそれがあり、5mmを超えると、運搬・移動・加工等の潤滑剤層の取り扱い性や保存性が充分に優れたものとはならないおそれがある。より好ましくは、0.005〜2mmであり、さらに好ましくは、0.01〜1mm、特に好ましくは、0.02〜0.5mmである。
【0030】
本発明の摩擦構造体は、上述のような厚みの保護層及び潤滑剤層から構成されていることが好適であり、このような保護層及び潤滑剤層を必須としてなる摩擦低減材はハサミ類で簡単に任意の寸法・形状に切断が可能である。上記摩擦低減材を製品として取り扱う場合や、保護層及び潤滑剤層等を原材料として取り扱う場合に、これらの製品や原材料をロール状(巻物)等の運搬・移動・加工等に好適な形状とすることができることから、取り扱い作業性に優れるものとなる。また、上記厚みの金属板は、通常、曲げたり折ったりして変形させて任意の形状とすることができることから、同様に、薄い金属シートを保護層の保護材として用いる場合においても、得られた摩擦低減材を自由に任意に曲げたり、折ったりして変形させ、任意の形状の摩擦低減材を提供でき、施工条件や機器の条件等に合わせた設計・製品とすることができる。
【0031】
上記潤滑剤としては、潤滑性を発揮でき、摩擦を低減する材料であれば特に限定されないが、例えば、吸水性樹脂(Super Absorbing Polymer、含水ゲル)や、オイル、ワックス、グリース、ろう、タール、アスファルト等の油類や、ベントナイト等の鉱物(吸水性無機物)、吸水性樹脂と基材(例えば、シート基材)との複合体、吸水性繊維、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系材料、PE発泡体などの発泡体、フッ素系材料(テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂等)、フリクションカッターシート(登録商標、FRCシート)等の潤滑効果を発揮し得る層を有するシート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。また、吸水性樹脂と水とを含む樹脂組成物や、吸水性樹脂と、これを鋼材等に密着させるためのバインダー樹脂とを含む樹脂組成物もまた好適である。バインダー樹脂としては、アルカリ水可溶性樹脂であることが特に好ましく、上記潤滑剤層が、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物を含有するものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。なお、必要に応じて溶剤を含んでもよい。
【0032】
上記潤滑剤の中でも、摩擦低減性・加工性(例えば、粘性の低い液体のように流動しないものが好ましい。)・経済性の面から、SAP、オレフィン系樹脂、オレフィン系発泡体、グリース及びワックスであることが好ましい。このように、上記潤滑剤層は、吸水性樹脂、オレフィン系樹脂、オレフィン系発泡体、グリース及びワックスからなる群より選ばれる少なくとも一つの材料によって構成されるものである摩擦構造体もまた、本発明の好ましい形態の一つである。上記潤滑剤としてより好ましくは、摩擦低減性の面から、SAP、オレフィン、オレフィン発泡体である。なお、水分が供給されることにより、潤滑剤としての機能を発揮するSAP等を用いる場合には、例えば、保護層に適宜孔を設ける等して水分が供給されるようにすることが好ましい。
【0033】
上記潤滑剤層の材料の形態としては、固体(粉体)、液体等のどの形態でも使用可能である。潤滑剤層の材料が粉体の場合は、例えば、バインダー樹脂や溶剤等と混合して塗料化し、保護層、被摩擦構造体等に塗布して潤滑剤層を形成させることが好適である。また、潤滑剤(潤滑材)を容易に形成したり、潤滑剤層の脱落を充分に防いだりすることにより、潤滑剤の性能を充分に維持・発揮するために、基材を用いてよく、基材に潤滑剤層を形成させてもよい。なお、基材については、後述する。
【0034】
本発明の摩擦構造体において、潤滑剤層を形成する方法としては、潤滑剤層や保護層、被摩擦構造体、基材等の材質等に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば、塗布機による塗布、噴霧(スプレー)塗り、刷毛塗り、ローラー塗りの他、保護層、被摩擦構造体、基材等(以下、単に「基材等」ともいう。)に潤滑剤を含む溶液を含浸させる方法等が挙げられる。具体的には、例えば、アルカリ水可溶性樹脂と吸水性樹脂とを含む樹脂組成物を用いる場合においては、両者を有機溶剤や水等の分散媒に分散(又は溶解)してなる分散液(樹脂溶液)を基材等の表面に、噴霧(スプレー)する方法;樹脂溶液を刷毛塗り又はローラーを用いて塗布する方法;基材等に樹脂溶液を含浸させる方法等;アルカリ水可溶性樹脂を含む溶液又は分散液を基材等の表面に噴霧又は塗布した後、該表面に吸水性樹脂を均一に撒布し、更にこの上に該溶液又は分散液を噴霧又は塗布する方法等が挙げられる。
【0035】
上記基材等に対する潤滑剤層の割合、すなわち基材等の単位面積当たりに対する潤滑剤の付着量は、両者の組成や組み合わせ、作業環境等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、1〜10000g/mの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、10〜5000g/mであり、更に好ましくは、20〜1000g/mである。なお、基材等100重量部に対する潤滑剤の割合としては、1〜10000重量部であることが好ましい。より好ましくは、10〜1000重量部であり、更に好ましくは、20〜500重量部である。
【0036】
上記摩擦構造体は、土木建築用摩擦低減構造体、高圧噴射工法用摩擦低減構造体、搬送用摩擦構造体又は摺動用摩擦構造体として用いられる摩擦構造体であることが好ましい。
本発明の摩擦構造体は、例えば、地盤、道路等の被摩擦体に対し、床、壁、畳、軸、H形鋼・鋼矢板・鋼管・コンクリート杭・コンクリート中空杭等の各種杭や鋼管、ボックスカルバート等の土木建築物等(被摩擦構造体)を移動させる場合等に適用することができる。具体的には、H型鋼や杭を鋼材(芯材)として地盤等に直接埋設し、その後地盤等から該芯材を引き抜く場合に、好適に適応することができ、保護層と潤滑剤層とを被摩擦構造体である芯材に形成する等により、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須とする摩擦構造体とすることができ、芯材を引き抜く際の摩擦を効果的に低減することができる。また、ネガティブフリクション(負の摩擦:遮断工、仮設、本設)対策として、又は、シールドや推進工法において、建物、ボックスカルバート等の構造物を移動させる場合等に上記摩擦構造体を土木建築用摩擦低減構造体として用いることができる。
【0037】
上記摩擦構造体は、被摩擦構造体及び/又は潤滑剤層を種々の外力から保護する必要がある場合に好適に用いることができる高圧噴射工法用摩擦低減構造体であることが好ましい。例えば、H型鋼や杭を鋼材(芯材)として地盤等に直接埋設し、芯材を埋設中又は後にセメントミルクや生コンクリート等の水硬性組成物を高圧噴射して注入する等の高圧噴射(攪拌)工法において、その後地盤等から該芯材を引き抜く場合に、好適に適応することができる。上記摩擦構造体を適用することにより、土やセメント等の水硬性物質の付着を充分に防止し、被摩擦構造体(芯材)の周辺に水硬性物質が硬化してアンカーのように作用し、被摩擦構造体の引き抜きが困難となることを充分に防止することができる。また、潤滑剤層を高圧噴射される水硬性物質から保護し、その作用効果を発揮することができ、芯材(杭)の引抜きにおいて、摩擦を充分に低減することができる。なお、芯材(杭)の引抜き後、保護層及び/又は潤滑剤層は、地中(地盤)に残る場合があるが、これらの残存量は通常芯材を引き抜かない場合の残存量に比べて極めて少量であり、例えば、保護層として金属を用いた場合であっても、芯材に比べて容易に破壊できることから、後年に地下を再び工事(開発)する際の障害となる可能性が低く、地下を再開発する際の障害物をなくしたり、芯材を再利用したりする等の芯材を引き抜く目的を充分に達成することができる。
【0038】
上記高圧噴射工法用摩擦低減構造体としては、図1の模式図に示すように、埋設杭(芯材)の引抜き撤去工事の場合、地盤側からの外力(高圧噴射等)による潤滑剤層の損傷を防ぐため、「地盤(被摩擦体)/保護層/潤滑剤層/被摩擦構造体(芯材)」の構成(形態)が好ましい。また、図2のように、潤滑剤層が保護層に挟まれる形態であることがより好ましい。
上記摩擦構造体の施工方法としては、例えば、(I)埋設する杭表面に潤滑剤層を形成(塗布、貼付等)させ、さらにその上から保護層を形成(当てる、覆う、貼る等)させて、その杭を地中に埋設することで、地盤(被摩擦体)側からの損傷を防ぐ方法、(II)施工時に、保護に必要な量だけ、事前に作製した潤滑剤層を保護層表面に形成させ、地盤に対して保護層側が内側になるように杭表面に形成(当てる、覆う、貼る等)させて、その杭を埋設する方法等が好適である。なお、目的とする保護性、摩擦低減性が発現する範囲であれば、保護層、潤滑剤層は、必ずしも被摩擦構造体の全面でなく部分的に形成させてもよい。具体的には、上記高圧噴射(攪拌)工法において、高圧噴射される水硬性物質は、より深い深度においてより高圧で噴射されることから、深い深度(芯材の先端部分)を重点的に水硬性物質から保護することが好ましい。このため、例えば、タテ杭を用いる場合には、深い深度の部分のみに保護層を形成させることで、保護層及び/又は被摩擦構造体を充分に保護することができる場合には、部分的に保護層を形成してもよい。また、保護層、潤滑剤層は、必ずしも平面的に形成されてなくてもよく、例えば、波板状のような変形した積層構造であってもよい。
【0039】
上記摩擦構造体は、家具(例えば、タンス等)、自動車等の荷物を移動させる場合に、該荷物を被摩擦構造体として、潤滑剤層及び保護層からなる摩擦低減材を移動用滑り材として適用することができる搬送用摩擦構造体であることが好ましい。このような搬送装置においては、地面(被摩擦体)との摩擦による潤滑剤層の磨耗・消耗・破壊・飛散・拡散・汚染を防止するため、図3に示すように、「地面(被摩擦体)/保護層/潤滑剤層/荷物(被摩擦構造体)」の構成(形態)が好ましい。施工方法としては、例えば、地面(被摩擦体)の上に保護層を置き、その上に潤滑剤層を形成し、さらにその上に荷物を置いて、荷物を滑らせ移動させる方法とすることができる。より好ましくは、図4に示すように、潤滑剤層が保護層に挟まれる形態である。
【0040】
上記摩擦構造体は、軸受等の摺動材、ベアリング等、摺動構造体等の各種機器を用いる分野において、好適に用いることができる摺動用摩擦構造体であることが好ましい。摺動用摩擦構造体として用いる場合、図5に示すように、軸(被摩擦構造体)との摩擦による潤滑剤層の磨耗・消耗・破壊・飛散・拡散・汚染を防止するため、「軸(被摩擦構造体)/保護層/潤滑剤層/被摩擦体(搬送シート)」の構成が好ましい。施工方法としては、保護層の表面に潤滑剤層を形成させ、保護層が内側になるように丸めて円筒管を作り、軸(被摩擦構造体)と一体化しベアリングを作製する方法が好適である。摩擦構造体の形態としてより好ましくは、図4に示すように、潤滑剤層が保護層に挟まれる形態である。このような形態とすることにより、従来の摺動材では、耐久性が充分でなく、脱落のおそれがあるため用いることが困難であった柔らかい材質の潤滑剤層を用いることができ、例えば、軟らかいグリース等であっても均一で安定した潤滑剤層を形成することができる。また、保護層として金属を用いた場合、放熱効果が発揮されることから、ベアリング材、搬送材等として好適に用いることができる。
【0041】
本発明の摩擦構造体は、土木建築用摩擦低減構造体、高圧噴射工法用摩擦低減構造体、搬送用摩擦構造体又は摺動用摩擦構造体として用いられるものであり、摩擦面を介して移動する被摩擦構造体を移動させる場合に好適に適用することができる。すなわち、摩擦面を介して移動する被摩擦構造体を移動させる方法であって、該被摩擦構造体の移動方法は、被摩擦構造体、保護層及び潤滑剤層を必須として構成されるものとして移動させる被摩擦構造体の移動方法もまた、本発明の好ましい形態(方法)の一つである。
【0042】
次に、本発明の摩擦構造体における好適な潤滑剤層について詳しく説明する。なお、主に、本発明の摩擦構造体が土木建築用摩擦低減構造体として用いられる場合について説明するが、土木建築用摩擦低減構造体以外の用途に用いてもよい。
上記潤滑剤としては、上述したように、吸水性樹脂を含む樹脂組成物が好適であり、吸水性樹脂と、これを鋼材等に密着させるためのバインダー樹脂とを含む樹脂組成物もまた好適である。バインダー樹脂としては、アルカリ水可溶性樹脂であることが特に好ましく、上記潤滑剤層が、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物を含有するものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。なお、必要に応じて溶剤を含んでもよい。
上記吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物を用いることにより、本発明の摩擦構造体がアルカリ性を示す水硬性組成物と鋼材等との間に介在した場合には、吸水性樹脂が水を吸収して膨潤する際の体積膨張を阻害するおそれが低減され、吸水性樹脂の吸水性能を充分に発揮させることが可能となり、吸水性樹脂が水で充分に膨潤することとなる。その結果、鋼材等と水硬性組成物の硬化物との接着がより充分に抑制される。その一方で、アルカリ水可溶性樹脂が水硬性組成物との接触面でセメントの硬化遅延をおこすことに起因して、樹脂組成物と地盤や水硬性組成物の硬化物との間に易剥離層を形成することができるため、鋼材等を地盤や水硬性組成物の硬化物中から引き抜く作業における労力(引張力)を更に充分に低減することができ、該作業の作業性をより一層向上させることが可能となる。
【0043】
上記吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂とを含む樹脂組成物において、吸水性樹脂とアルカリ水可溶性樹脂との質量比(吸水性樹脂/アルカリ水可溶性樹脂)としては、これらの組成や組み合わせ、作業環境等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1/99〜99/1であることが好ましい。より好ましくは、10/90〜90/10であり、更に好ましくは、25/75〜75/25である。
【0044】
上記吸水性樹脂としては、水を吸水することによって膨潤し、かつ、自重に対するイオン交換水の吸水倍率が3倍以上(25゜C、1時間)の樹脂であることが好適である。より好ましくは、吸収倍率が10倍以上のものである。このような吸水性樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸架橋体、ポリ(メタ)アクリル酸塩架橋体、スルホン酸基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリオキシアルキレン基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体、ポリジオキソラン架橋体、架橋ポリエチレンオキシド、架橋ポリビニルピロリドン、スルホン化ポリスチレン架橋体、架橋ポリビニルピリジン、デンプン−ポリ(メタ)アクリロニトリルグラフト共重合体のケン化物、デンプン−ポリ(メタ)アクリル酸(塩)グラフト架橋共重合体、ポリビニルアルコールと無水マレイン酸(塩)との反応生成物、架橋ポリビニルアルコールスルホン酸塩、ポリビニルアルコール−アクリル酸グラフト共重合体、ポリイソブチレンマレイン酸(塩)架橋重合体等の水溶性又は親水性化合物(単量体及び/又は重合体)を架橋剤で架橋させた合成吸水性樹脂;ゼラチン、寒天等の天然水膨潤性物等の1種又は2種以上が好適である。中でも、水溶性又は親水性化合物を架橋剤で架橋させた合成吸水性樹脂を用いることが好ましく、これにより、膨潤倍率、水可溶分、吸水速度、強度等のバランスが良好となり、更にそのバランスの調整も容易に行うことが可能となる。
【0045】
上記吸水性樹脂の好ましい形態としては、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有する吸水性樹脂である。より好ましくは、アミド基又はヒドロキシアルキル基を有する吸水性樹脂であり、例えば、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体等が挙げられる。これらの形態では、アルカリ水や海水等の金属イオンを含む水に対する吸水性が向上することになり、引抜き作業を極めて容易に行ったり、地盤との摩擦を低減したりすることが可能となるためより好適である。
【0046】
上記吸水性樹脂としてはまた、水溶性を有するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて架橋剤とを含む単量体成分を重合することにより得られる樹脂を用いることができる。エチレン性不飽和単量体を(共)重合してなる吸水性樹脂は、水に対する膨潤性により優れ、かつ一般的に安価であるため、このような吸水性樹脂を用いることにより、鋼材等を引き抜く作業を極めて容易かつ経済的に行うことができる。なお、上記架橋剤は、特に限定されるものではない。また、直鎖状の高分子に架橋剤を添加して架橋することにより、又は、電子線を照射して架橋することにより、吸水性樹脂を形成することもできる。
【0047】
上記エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、並びに、これら単量体のアルカリ金属塩やアンモニウム塩;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、並びに、その四級化物;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類、並びに、これら単量体の誘導体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルスクシンイミド等のN−ビニル単量体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド等のN−ビニルアミド単量体;ビニルメチルエーテル;等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0048】
上記エチレン性不飽和単量体の中でも、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の1種又は2種以上を使用することができる。これらを含む単量体成分を重合して得られる吸水性樹脂は、アルカリ水や海水等の金属イオンを含む水に対する膨潤性に特に優れているため好ましく、該吸水性樹脂を用いることにより、引抜き作業を更に容易に行ったり、地盤との摩擦を低減したりすることが可能となる。
【0049】
上記吸水性樹脂において、単量体成分としてエチレン性不飽和単量体を2種類以上併用する場合においては、全単量体成分に占める、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体の割合を1質量%以上にすることが好適である。1質量%未満であると、鋼材等の引抜き作業の作業性を更に向上することができないおそれがある。より好ましくは、10質量%以上である。
なお、単量体成分としてエチレン性不飽和単量体を2種類以上併用する場合における好適な組み合わせとしては、例えば、アクリル酸ナトリウム等の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とアクリルアミドとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートとの組み合わせ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0050】
上記吸水性樹脂としては、上述した単量体成分を(共)重合することにより得ることができるが、その(共)重合方法は特に限定されず、通常用いられている方法により行うことができる。また、吸水性樹脂の平均分子量や形状、平均粒子径、更に、このような吸水性樹脂等を有する潤滑剤層の厚みや塗布量は、本発明の摩擦構造体の使用用途や作業環境、潤滑剤層や保護層、被摩擦構造体、基材等との組み合わせ等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、平均粒子径としては、上限が1000μmであることが好ましい。1000μmを超えると、潤滑剤層を形成させるための塗布性(コーティング性)が充分とはならず、また、潤滑剤層における吸水性樹脂の分布が均一とはならず、潤滑性能に優れたものとすることができないおそれがある。より好ましい上限は500μmであり、更に好ましい上限は200μmである。また、下限は1μmであることが好ましい。より好ましい下限は5μmであり、更に好ましい下限は10μmである。
【0051】
上記潤滑剤層の好適な形態の樹脂組成物において、アルカリ水可溶性樹脂としては、酸性又は中性を呈する水には溶解せず、アルカリ性を呈する水には溶解する樹脂を意味する。ここで、「中性を呈する水」とは、pH値が6〜8の範囲内の水であり、「酸性を呈する水」とは、pH値が該中性の範囲未満の水であり、「アルカリ性を呈する水」とは、pH値が該中性の範囲よりも大きい水である。
なお、上記アルカリ水可溶性樹脂としては、アルカリ水への溶解性の程度として、下記評価試験によって求められる減少率が50〜100%のものが好ましい。より好ましくは、60〜100%であり、更に好ましくは、70〜100%である。
【0052】
(アルカリ水への溶解性の評価試験)
二軸押出機を用いて得ることができるバインダー樹脂を、直径5mm、長さ5mmの円筒状のペレット形状に成形したものを用いて測定する。この成形体10gを、1Lのビーカーに入れた0.4質量%濃度のNaOHの水溶液500gに投入し、25℃にて、直径が40mm、4枚はねを用い、300rpmで24時間攪拌を行う。その後のバインダー樹脂の成形体におけるアルカリ水へ溶解した質量の、元の成形体からの減少率で評価する。すなわち、24時間攪拌後に溶解せずに残った樹脂分について、ろ別等を行い、水で洗浄し、乾燥後の質量を求め、溶解性試験にかける前における元のバインダー樹脂の質量からの減少率(%);(元の質量−溶解性試験後の質量)/(元の質量)で評価する。
また、ペレット化されていなくても、5mm角以下の任意の形状の成形品であっても、アルカリ水への溶解性を示す場合には、上記アルカリ水可溶性樹脂の範囲である。
【0053】
上記アルカリ水可溶性樹脂としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の置換基を有する樹脂;フェノール性ヒドロキシル基を含むノボラック樹脂;ポリビニルフェノール樹脂等の1種又は2種以上を用いることができる。中でも、アルカリ水に対する溶解性や経済性、樹脂組成物の各種物性等に優れる点で、α,β−不飽和カルボン酸系単量体と、α,β−不飽和カルボン酸系単量体以外のビニル系単量体とを共重合して得られる樹脂が好適である。
なお、カルボン酸基を有する樹脂であるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレート等のセルロース誘導体を用いることもできる。
【0054】
上記α,β−不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物;マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル等のα,β−不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。中でも、柔軟性や靭性や密着性に優れることから、アクリル酸及び/又はメタクリル酸が好適である。
【0055】
上記ビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ステアリル等の炭素数1〜18の一価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有ビニル系単量体;メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有ビニル系単量体;アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛等のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;酢酸ビニル等の脂肪族ビニル系単量体;塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン基含有ビニル系単量体;アリルエーテル類;無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル等のマレイン酸誘導体;フマル酸モノアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル等のフマル酸誘導体;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、イタコンアミド類、イタコンイミド類、イタコンアミドエステル類等のイタコン酸誘導体;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0056】
これらのビニル系単量体の中でも、柔軟性、耐候性及び靭性に優れる点で、アクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルが好適である。より好ましくは、これら炭素数1〜18の一価アルコールと(メタ)アクリル酸とをエステル化して得られる(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量を、用いられるビニル系単量体全量100質量%に対して、30〜100質量%とすることが好ましく、これにより、樹脂組成物の柔軟性や耐候性、靭性、密着性を更に向上できることとなる。より好ましくは、50〜100質量%である。
【0057】
上記α,β−不飽和カルボン酸系単量体とビニル系単量体との質量比としては、これらの合計量100質量%に対して、α,β−不飽和カルボン酸系単量体が9質量%以上であることが好ましく、これにより、アルカリ水に対する溶解性をより向上することが可能となる。また、α,β−不飽和カルボン酸系単量体の範囲としては、9〜40質量%であることが好適であり、この場合には、アルカリ水に対する溶解性のみならず、柔軟性や耐候性、靭性に特に優れたアルカリ水可溶性樹脂を得ることができる。
上記アルカリ水可溶性樹脂としては、上述したα,β−不飽和カルボン酸系単量体及びビニル系単量体等の単量体成分を(共)重合することにより得ることができるが、(共)重合方法は、通常用いられている方法により行うことができる。
【0058】
上記アルカリ水可溶性樹脂等のバインダー樹脂において、重量平均分子量(Mw)としては、地盤を構成する土壌や水硬性組成物の組成、アルカリ水のpH、作業環境等に応じて適宜設定すればよいが、下限が1万、上限が200万であることが好ましい。この範囲においては、鋼材への密着性及び作業性がより充分に発揮されることとなる。より好ましい下限は3万であり、更に好ましい下限は5万であり、特に好ましい下限は10万である。また、より好ましい上限は150万であり、更に好ましい上限は100万であり、特に好ましい上限は90万である。
なお、上記重量平均分子量(Mw)は、分子量校正用標準物質としてTSK標準ポリスチレンPS−オリゴマーキット(東ソー社製)を使用し、溶媒としてテトラヒドロフラン(安定剤含有(和光純薬工業社製、試薬特級)を使用して、高速GPC装置・HLC−8120GPC(東ソー社製)にて測定した値である。
【0059】
上記バインダー樹脂の酸価(mgKOH/g)としては、15以上であることが好ましい。15未満であると、アルカリ水に対する溶解性が低下するので、杭の引抜き性や摩擦低減効果が低下するおそれがあり、また、引抜き作業をより容易化することができないおそれがある。より好ましくは、30以上であり、更に好ましくは、50以上であり、特に好ましくは、70以上である。また、500以下であることが好ましい。500を超えると、バインダー樹脂の耐水性が充分とはならず、雨等の中性域又は酸性域のpHを示す水と接触すると溶解して損傷するおそれがあり、鋼材埋設作業や引抜き作業等をより効率的に行うことができないおそれがある。
【0060】
上記バインダー樹脂のガラス転移温度としては、鋼材表面への密着性及び鋼材を土中へ埋設する際における樹脂組成物の強靭性の両立という点から、−80〜120℃にガラス転移温度(Tg)を少なくとも1つ有することが好ましく、より好ましくは、2つ以上有することである。ガラス転移温度を上記範囲内に設定することにより、潤滑剤層の強度や柔軟性を充分なものとすることが可能となり、作業効率をより高めることができる。上記バインダー樹脂の特に好ましい形態としては、−30〜20℃の範囲内に低温側のTgを有し、併せて40〜100℃の範囲内に高温側のガラス転移温度の2つ以上のTgを有することが好適であり、これにより、柔軟化成分と形状保持成分とのバランスをより向上することができる。
なお、ガラス転移温度とは、示差走査熱量測定(DSC;differential scanning calorimetry)によって得られるDSC微分曲線のピークトップ(DSC曲線の変曲点)である。
【0061】
上記潤滑剤層の好適な形態の樹脂組成物において、含有してもよい溶剤としては特に限定されず、例えば、通常の塗料等に用いられる溶剤を使用すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導体等の1種又は2種以上を用いることができる。なお、溶剤として、バインダー樹脂中に含まれる溶媒を使用することもできる。
【0062】
上記溶剤(溶媒)としてはまた、バインダー樹脂を溶解する性質を有することが好ましく、溶剤がバインダー樹脂を溶解することにより、バインダー樹脂が樹脂組成物中により均一に分散することができ、バインダー樹脂としての性能を好ましく発現することができることとなる。バインダー樹脂を溶解する溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましい。より好ましくは、バインダー溶解性の点から、アルコール、ケトン、脂肪族エステル、アルキレングリコールから選択される少なくとも1種である。
上記樹脂組成物としてはまた、その作用効果を阻害しない範囲内で、他の樹脂や、顔料、界面活性剤、各種安定剤、各種充填材等の添加剤を含んでもよい。
【0063】
次に、本発明の摩擦構造体に含まれていてもよい基材について説明する。
本発明の摩擦構造体は、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須として構成されるものであり、潤滑剤層の脱落を充分に防いだり、潤滑剤層の形成を容易にさせたりするために基材を用いてもよい。基材としては、潤滑剤層の形成を容易にし、潤滑剤層の脱落を充分に防ぐためのものであればよく、例えば、潤滑剤層として吸水性樹脂とバインダー樹脂を用いる場合、これらが付着し易いことから、後述する合成樹脂や布を用いることが好適である。他の潤滑剤層の場合においても、合成樹脂や布を基材とすれば、潤滑剤層の形成が容易である。
このように、潤滑剤層に基材を用いる場合には、通常では柔軟性に富み、潤滑剤層が付着し易い合成樹脂や布等が使用されることになる。したがって、通常では、基材として金属を用いることは適さないが、本発明においてはそれを排除するものではない。この場合、上述したような保護層に要求されるような強度や耐久性は基材に要求されないことから、基材として金属を用いるとしても、上述した保護層に好適であるような金属とは異なるような、更に柔軟性に富み、潤滑剤層が付着し易いということを満たすことができるようにすることになる。通常では、保護層に好適であるような金属は、潤滑剤層作製のための基材としての使用に適さない。例えば、厚みのある保護性の高い鉄板への潤滑剤層の加工(形成)は、取り扱い性が充分とはいえず、量産は困難である。
なお、潤滑剤層を形成するための基材に用いられる布等は、一般的に本願発明の保護層とはならないものである。本発明においては、このような基材を設ける場合でも、更に保護層を設けることによって潤滑剤層を保護し、耐久性を向上させる等の作用効果を発揮するとともに、潤滑剤層と保護層との相乗効果によって本来潤滑剤層が発揮する作用効果を更に飛躍的に向上させる等といった特徴を有することになる。
【0064】
上記基材は、潤滑剤層に両面又は片面を接触していてもよく、2以上の基材(例えば、シート基材)で潤滑剤層を挟む構成とすることにより、摩擦構造体からの潤滑剤の脱落を充分に防ぐことができる。このため、潤滑剤の性能を充分に維持・発揮でき、例えば、鋼材等の土木・建築構造物等の被摩擦構造体を移動させる場合に、引抜き時の滑り性を向上することができる。
【0065】
上記基材の材質としては、例えば、(I)合成樹脂のフィルム又はシート、紙、木材、割繊維不織布、ニードルパンチ不織布、フラットヤーンの繊維織物、綿織物、麻織物、帯状織物、合成樹脂織物、湿紡織物、金属体、水硬性組物の硬化体、塗膜体等が挙げられる。また、例えば、(II)ナイロン(ポリアミド)、ポリアセタール、テフロン(登録商標)(ポリフッ化エチレン)、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。これらの中でも、合成樹脂のフィルム又はシート、ポリエチレンを用いることが好適である。
【0066】
上記基材としては、2以上の基材(例えば、シート基材)で潤滑剤層を挟む構成の場合、(1)基材の少なくとも1つが、動表面摩擦係数(μ)が0.45以下のものである形態(以下、「形態(1)」ともいう。)、又は、(2)基材の少なくとも1つが格子状基材である形態(以下、「形態(2)」ともいう。)のものであることが好適である。なお、これらを組み合わせた形態、すなわち、基材の少なくとも1つが、動表面摩擦係数(μ)が0.45以下の格子状基材である形態であってもよい。なお、上記基材の材質としては、上述したものを好適に用いることができるが、上記(1)の形態の基材としては、上述の(I)の材料の基材が好ましく、上記(2)の形態の基材としては、上述の(II)の材料の基材が好ましい。
上記形態(1)及び/又は(2)を満たす少なくとも1つの基材としては、鋼材等の土木・建築構造物(被摩擦構造体)と接触する側の基材、すなわち該構造物表面に貼り付けられる基材であることが好適である。
【0067】
上記形態(1)において、少なくとも1つの基材が有する動表面摩擦係数(μ)は0.45以下であることが適当であるが、このような範囲に設定することにより、摩擦構造体の滑り性がより向上され、引抜き時の作業が格段に改善されることとなる。好ましくは、0.3以下であり、より好ましくは、0.2以下であり、更に好ましくは、0.15以下である。
上記動表面摩擦係数(M)とは、M=F/W(F:平均抵抗力(g)、Wは:垂直荷重(g))で表される値であり、下記測定条件により求めることができる。
(動表面摩擦係数の測定条件)
測定機:表面性測定機(HEIDON−14、新東科学社製)
平面圧子の仕様:ASTM規格
垂直荷重:100g
移動速度:75mm/分
移動台に取り付けた鉄板の仕様:JIS G3141−1996、冷間圧延鋼板、厚0.6×70×150mm、日本テストパネル大阪社製
平面圧子に試験片をたるみのないように巻き付け固定し、移動台に鉄板を取り付ける。
【0068】
上記形態(2)において、少なくとも1つの基材は格子状であることが適当であるが、このような形態とすることにより、潤滑剤層と鋼材等との接触面積が適切なものとなり、また、孔がいわゆるアンカー効果を発揮するため、鋼材等との密着性や滑り性を充分なものとすることができる。その結果、鋼材等への貼付時には鋼材等へ充分に密着できるとともに、引抜き作業時には滑り性を発揮して作業効率の著しい改善を図ることが可能となる。
【0069】
本発明において、「格子状基材」とは、繊維(好ましくは細長の繊維)を縦横に連続的に積層することによって格子状に孔が形成された基材であり、具体的には、平均の繊維幅(h:mm)を平均の繊維厚み(t:mm)で除した値である格子繊維係数(k;k=h/t)が2〜10000であるものを意味する。kが2未満であると、格子状基材の摩擦低減効果が低下し、杭の引抜き性等が低下するおそれがあり、10000を超えると、潤滑剤層との接着力が低下し、潤滑剤層の脱落による引抜き性等の低下が起こったり、本発明の土木建築シートの製造・加工が困難となるおそれがある。好ましい下限は3であり、上限は5000であり、より好ましい下限は4であり、上限は500であり、特に好ましい下限は5であり、上限は50である。
上記格子状基材の製造方法としては特に限定されず、例えば、厚み1mm以下の繊維(フィルム)を0.1〜10mm幅の範囲で割った細長フィルムを縦・横に連続的に積層接着することによって得ることができる。具体的には、ポリエチレンフィルムを数mm単位に割って細長フィルムにしたものを、縦・横に連続的に積層熱融着することによって得ることができる(日石プラスト社製、LX14、坪量39g/m、厚み0.11mm)。また、平滑なフィルムから多数の孔を連続的又は逐次的に打ち抜くことによっても作製することができる。
【0070】
上記格子状基材において、格子孔(孔)の形状としては、四角形が基本であるが、その他の多角形や星型、丸型(円型)、楕円形であってもよく、四角形としては、菱形や平行四辺形も含む。
また格子孔サイズ(格子幅)としては、孔の辺の幅が、下限が0.1mm、上限が10mmであることが好ましい。0.1mm未満であると、引抜き性が充分とはならないおそれがあり、10mmを超えると、剥がれ易くなるおそれがある。より好ましい下限は0.5mm、上限は5mmであり、更に好ましい下限は1mm、上限は3mmである。
上記格子状基材を得るために好適に用いられる細長の繊維の幅としては、格子孔サイズが上記範囲になるように適宜設定すればよいが、例えば、下限は0.1mm、上限は10mmであることが好適である。より好ましい下限は0.5mm、上限は5mmであり、更に好ましい下限は1mm、上限は3mmである。
【0071】
上記格子状基材としてはまた、動表面摩擦係数(μ)が0.45以下であることが好適である。より好ましくは、0.3以下であり、更に好ましくは、0.2以下であり、特に好ましくは、0.15以下である。なお、このような低摩擦係数基材と潤滑剤層との複合化は通常困難であると考えられるが、格子状基材とすることで複合化を実現することができ、土木・建築分野における作業性をより充分に向上することが可能となる。
【0072】
本発明の摩擦構造体においては、少なくとも1つの基材が、上記形態(1)及び/又は(2)を満たすものであればよく、その他の基材は特に限定されるものではないが、土木・建築分野での基礎工事等における施工時にかかる種々の外力、例えば、鋼材や水硬性組成物の重量がかかることによって生じる引張力や剪断力;鋼材を埋設するときに生じる衝撃力や引張力、水硬性組成物との間の摩擦力等に対して耐え得る強度を有するもの、すなわち、このような外力がかかっても破損しない強度を備える材質からなるものであることが好ましい。このようなその他の基材としては、例えば、上述した動表面摩擦係数を満たす基材や格子状基材を使用してもよいし、また、合成樹脂フィルム、紙、木材、割繊維不織布、ニードルパンチ不織布、フラットヤーンの繊維織物、綿織物、麻織物、帯状織物、合成樹脂織物、湿紡織物等を用いることもできる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用(複合)してもよい。中でも、後述する製法の効率性の観点からは、繊維織物や綿織物を用いることが好適である。上記材料においては、必要に応じて、切り目や孔等を形成してもよく、切り目や孔等の形状、大きさ、個数、形成位置としては、上述した外力がかかっても基材が破損しない強度を維持することができる範囲内で設定すればよい。
なお、上記その他の基材としては、鋼材等の土木・建築構造物と接触する側と潤滑剤層を介して反対側の基材であることが好適である。
【0073】
上記その他の基材としてはまた、透水性が高いものであることが好適である。これにより、例えば、潤滑剤層として吸水性樹脂を用いる場合には、吸水性樹脂がより膨潤し易くなるため、鋼材等と地盤や水硬性組成物の硬化物等との接着がより防止されるとともに、引抜き作業時には潤滑効果をより充分に発揮できることとなる。透水性が高い基材としては、その基材を構成する材料自体が透水性の高いものであってもよいし、上述したように切り目や孔等を形成することにより透水性を向上させたものであってもよい。
【0074】
本発明の摩擦構造体に使用される基材(上記形態(1)又は(2)を満たす基材並びにその他の基材)において、その厚さとしては、材質(材料)等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、その下限は0.01mm、上限は10mmであることが好ましい。0.01mm未満であると、外力に耐え得る強度を充分に維持することができないおそれがあり、10mmを超えると、シートに充分な柔軟性を付与できないおそれがあり、また、シートが嵩高くなるため、取り扱い性や保管性に優れたものとはならないおそれがある。より好ましい下限は0.05mm、上限は8mmであり、更に好ましい下限は0.2mm、上限は5mmである。
なお、これらの基材の坪量は、材質や厚さ等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、その下限は1g/m、上限は10000g/mであることが好ましい。より好ましい下限は10g/m、上限は1000g/mである。
【0075】
上記基材において、引張強度としては特に限定されず、例えば、1kgf/2.5cm以上であることが好ましい。1kgf/2.5cm未満であると、外力に耐え得る強度を充分に維持することができないおそれがある。より好ましくは、10kgf/2.5cm以上であり、更に好ましくは、30kgf/2.5cm以上である。
なお、上記引張強度としては、例えば、基材を幅2.5cm、長さ20cmの大きさに裁断し、イオン交換水に30分間浸漬して充分に濡らしたものを試験片とし、JIS L 1096−1999(一般織物試験方法)の引張試験方法(引張強さ)に基づく低速伸長引張試験機を使用して、引張速度20mm/min、つかみ間隔10cmの条件下で測定することができる。なお、試験機によって得た測定値(単位:kgf/2.5cm)が大きいほど、基材の引張強度が大きいと判断できる。
また、上記基材が潤滑剤層を挟む形態である場合、潤滑剤層を挟む基材の少なくとも一つが、摩擦係数が0.45μm以下の基材又は格子状基材であれば、もう一方の基材は特に限定されない。もう一つの基材としては、例えば、各種鋼材(杭)等であってもよい。つまり、潤滑剤層は施行前の段階から2つの基材に必ずしも挟まれている必要はなく、施行段階で潤滑剤層が2つの基材に挟まれていることが好ましい。この場合、潤滑剤層は、摩擦係数が0.45μm以下の基材又は格子状基材と、各種鋼材(杭)等の摩擦低減を実現したい本体表面との間に介在される。
【0076】
本発明の潤滑剤層を基材を用いて調製する場合、例えば、2つ以上の基材で潤滑剤層を挟む形態である場合、その製造方法としては特に限定されないが、連続的に製造することが好適である。例えば、基材を2つ用いる場合において、一方の基材(基材a)に潤滑剤組成物を付着させると同時に又は該組成物が乾燥する前に、もう一方の基材(基材b)を潤滑剤組成物上に連続的に合わせて潤滑剤層が基材aと基材bとの間に挟まれた摩擦構造体を製造することが好ましい。なお、格子状基材を用いる場合には、基材bを格子状基材とすることが好適である。この方法によると、潤滑剤層形成工程と基材貼り合わせ工程とを同時に行うことができるため、連続的に製造することが可能となり、生産性を向上することができる。また、格子状基材を用いる場合には、孔のアンカー効果により、バインダー無しで格子状基材貼り合わせ工程を行うことが可能である。このように、上記摩擦構造体の製造方法であって、該製造方法は、一方の基材に潤滑剤組成物を付着させると同時に又は該組成物が乾燥する前に、もう一方の基材を潤滑剤組成物上に連続的に合わせる工程を含む摩擦構造体の製造方法は、本発明の好適な形態の1つである。
【0077】
本発明の摩擦構造体としては、例えば、基礎工事等に用いられる鋼材に使用されることが好適である。ここで、「鋼材」とは、土木・建築分野の基礎工事において、土留め擁壁や土台等の地盤基礎構造体を施工する際に用いられ、使用後に地盤や水硬性組成物中から分離することが好ましい埋設物(地盤に埋設される基材)であればよく、例えば、鋼管、ヒューム管、H型鋼、I型鋼、鋼管杭、鉄柱、コンクリート杭、ポール、筒状のパイル(中空パイル)、長尺板状の杭である鋼矢板(シートパイル)、波板等が挙げられる。中でも、H型鋼や鋼矢板に用いることが好適である。なお、鋼材の形状、長さ、材質、表面の粗度等は特に限定されず、表面に錆びや汚れが付着したものであっても、汚れ等のない平滑な表面を有するものであってもよい。また、コンクリート二次製品の生産工程等に使用される型枠等にも好適に用いられる。型枠に使用した場合には、硬化物等を型枠から容易かつ効率的に脱型することができるため、型枠のリサイクル性が向上され、生産効率をより高めることが可能となる。また、ボックスカルバートや水門等を水平移動させる際に使用される滑り材や、地盤に埋設されるH型鋼、鋼矢板、鋼管、コンクリートパイル等の各種杭等の表面に貼り付けて用いられるネガティブフリクションカット用のシート材料等としても好適に用いられる。更に、推進工法等において地盤との摩擦を低減する材料としても好適に用いられる。中でも、杭に対する引抜き性(摩擦低減性)に優れることから、杭の引抜き撤去又はネガティブフリクション対策用途のシート材料として特に好適に用いられる。
【0078】
上記摩擦構造体は、このような種々の構造物に貼付することによって、土やセメント(水硬性組成物の硬化体)等に対する、摩擦低減材又は付着防止材として好適に用いられることとなるが、本発明の摩擦構造体が摩擦低減材及び/又は付着防止材として用いられる形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
上記摩擦構造体を使用する場合においては、摩擦構造体の貼付前に鋼材や型枠等の対象物に接着剤や粘着剤を塗布してもよいし、予め貼付側の基材表面に接着剤層や粘着剤層を形成しておくこととしてもよい。接着剤や粘着剤としては特に限定されず、通常使用されるものを使用すればよいが、塗布作業の効率化の観点から、合成ゴム系の溶剤型接着剤を用いることが好適である。また、作業環境の観点から、無臭タイプ(無溶剤タイプ、水系タイプ)の接着剤を用いてもよい。なお、本発明は、シート形状のものであるため、塗布剤よりも溶剤型接着剤から発生し得る溶剤臭を低減することができ、しかも接着剤の塗布作業に比べてより簡便に行うことが可能である。
【0079】
本発明の摩擦構造体は、上述のような構成であるので、引抜き性(摩擦低減性)が著しく改善され、すなわち従来品の2〜3倍以上もの引抜き性(摩擦低減性)を発揮できることから、土木・建築分野の基礎工事等に用いられる各種の杭や、各種生産工程で使用される型枠等に貼付することにより、これらにおける作業効率を格段に向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0080】
本発明の摩擦構造体は、上述の構成よりなり、潤滑剤層を充分に保護することにより、高い摩擦低減能力や付着防止能力を発揮し、作業を更に簡便かつ効率的に行うことができ、土木建築分野、物品等の搬送分野、摺動構造体等の各種機器を用いる分野等において好適に用いることができる摩擦構造体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
(ウォータージェット切削機試験)
本発明の摩擦構造体が土木建築分野において用いられる場合、例えば、高圧(隣接)噴射攪拌等による外力等が摩擦構造体に加わる場合の隣接・高圧噴射対策として、潤滑剤層(例えば、FRC塗布膜、FRC材、塗布剤)や被摩擦構造体(被覆材)を防護する材料の検討を、ラボ試験として、表1に示す金属、プラスチック等の材料について、ウォータージェット切削機(WJ機)を用いて行った。なお、測定条件は、上述のとおりである。
【0082】
【表1】

【0083】
(結果)
試験の結果、保護層の材料(防護材)としては、材質的には金属シートが最も好ましく、厚みは、金属シートで0.1mm以上、プラスチック板では3mm以上が好ましいことがわかった。これらの好ましい形態においては、貫通までの時間が2秒以上となる。通常、土木建築用、高圧噴射工法用においては、摩擦構造体の一箇所に2秒以上にわたってセメントミル等が噴射されることはなく、またこの試験における噴射の圧力はセメントミル等の噴射の圧力よりもかなり高いものであることから、貫通までの時間として2秒もつことができれば潤滑剤層を充分に保護することができるものと考えられる。また搬送用又は摺動用においても、貫通までの時間が2秒以上であれば充分な強度を有することになることから、潤滑剤層を充分に保護したり、摩擦が大きな面に充分に対応したりすることが可能となる。更に、金属シートの厚さを0.3mmとすると、貫通までの時間が48秒となり、更に充分な強度を有し、本発明の作用効果にとって更に有利であることがわかった。
【0084】
(凹凸面摩擦試験)
保護層の有無、及び、保護層の配置と潤滑剤層の保護能力、摩擦低減効果について比較検討した。
以下の実施例等において用いた潤滑剤層等を下記に示す。
(潤滑剤層)
ポリエチレンフィルムは、厚み0.04mm、耐冷温度−30℃の株式会社セイニチ製を用いた。グリースは、シリコングリース、FS高真空用グリース、ダウ コーニング アジア株式会社製を用いた。
吸水性樹脂は、織布(90g/m、材質:レーヨン100%)に、SAP(株式会社日本触媒製の吸水性樹脂)/ASP(アルカリ可溶性樹脂)を塗布したシート形状で用いた。測定時、織布に付着した樹脂(SAP/ASP)重量の28倍の脱イオン水を吸水させた。
【0085】
(保護層(保護材))
厚み0.18mmの鉄製シート、0.5mmのステンレスシートを用いた。
(被摩擦構造体)
重り:12cm×12cm×高さ9cmの鉄製直方体、重量10kgを用いた。
(被摩擦体)
砂:JIS R 5201 標準砂 700gを用いた。
砕石:最小径1.5cm〜最大径3.5cmの砕石、1300gを用いた。
(測定容器)
幅20cm×26cm×高さ5cmの開口容器を用いた。
(最大摩擦力測定機)
プッシュプルゲージ:デジタルプッシュプルゲージRX−20、アイコーエンジニアリング株式会社製、計測範囲=200N、最小表示=0.1Nを用いた。
【0086】
<試験方法>
実施例1〜7
測定容器内に砂を所定量敷き詰め、その上から砕石を所定量敷き詰め、できるだけ表面が平らになるようにして被摩擦体を作成した。次に保護層(保護材)を砂と砕石表面(被摩擦体表面)に置き、更にその上から潤滑剤層(潤滑材)を乗せ、更に被摩擦構造体(重り)を置いた。被摩擦構造体(重り)を水平に5mm移動させ、その間の最大摩擦力をプッシュプルゲージを使って測定した。結果を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
実施例8〜10
潤滑剤層と被摩擦構造体との間に更に別の保護層(保護材)を置く以外は、実施例1〜7と同様にして最大摩擦力を測定した。なお、被摩擦体と潤滑剤層との間の保護層を下層保護層といい、潤滑剤層と被摩擦構造体との間の保護層を上層保護層という。実施例8及び9は、上層保護層及び下層保護層とも同一の保護層であり、実施例8がポリエチレンフィルム、実施例9が吸水性樹脂を用いた。一方、実施例10は、実施例9において、上層の保護層を織布(帝国繊維株式会社製:THN5MJ 質量256g/m、厚さ0.4mm、100%ポリエステル製織布)に代えて、同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
実施例2と実施例8を比較すると、二つの保護層で潤滑剤層を挟む効果を見ることができる。試験後の潤滑剤層の状態を比較すると、保護層が一つである実施例2の潤滑剤層には擦り傷のような損傷が見られたが、潤滑剤層が二つの保護層で挟まれた実施例8の潤滑剤層は全く損傷は見られなかった。
同様に、実施例4と実施例9の試験後の状態を比較すると、保護層が一つである実施例4の場合、被摩擦構造体(重り)の重みで押し出された潤滑材が重り表面に付着し、被摩擦体(砂、砕石)等周辺も汚染した。一方、潤滑剤層が二つの保護層で挟まれた実施例9の場合は、被摩擦構造体(重り)表面に付着した潤滑材は全く無く清潔状態を保っていた。
【0091】
比較例1〜5
潤滑剤層及び/又は保護層を置かない以外は、実施例1〜7と同様にして最大摩擦力を測定した。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
上述した実施例及び比較例から、次のようにいえることがわかった。すなわち、保護層又は潤滑剤層を設けることで、被摩擦構造体を移動させる際の摩擦力が41から30〜34Nに低減し(比較例1〜5)、保護層及び潤滑剤層を設けることで、該摩擦力が更に4〜27Nに低減した(実施例1〜10)。すなわち、保護層又は潤滑剤層を単独で用いるよりも、保護層と潤滑剤層とを組み合わせたほうが、摩擦力の低減効果が顕著になることがわかった。具体的には、潤滑剤層としてポリエチレンフィルムを用いた場合、保護層を設けることで31から15又は16Nに摩擦力が半減し(比較例3及び実施例1、2)、グリースを用いた場合、30から25Nに摩擦力が低減した(比較例4及び実施例3)。特に、潤滑剤層として吸水性樹脂を用いた場合、31から5Nに摩擦力が4分の1以下に著しく低減し(比較例5及び実施例4)、これらの実施例においては、本発明の効果が顕著に現れることになる。なお、例えば、建築分野や土木分野の基礎工事等において、地盤中に土留め擁壁等の構造物を埋設して引き抜く場合を考えると、少しでも摩擦力が低減すれば、工事の作業効率は向上し、容易に行うことが可能となる。このような効果、すなわち摩擦力を低減させることによって工事の作業効率を向上し、容易に行うことを可能とするという効果は、際立ったものであるということができる。また、その他の用途においても、摩擦力が低減させるということはきわめて重要であり、作業効率、動作効率、耐久性といった面で際立った効果を発揮することとなる。
また保護層が潤滑剤層を挟む形態とすると、潤滑剤層の損傷や、被摩擦構造体及び/又は被摩擦体の汚染が抑制され、摩擦力も15から13N(実施例2と実施例8)、5から4N(実施例4と実施例9、10)に低減し(実施例1〜10)、これらの実施例においては、更に本発明の効果が顕著に現れることになる。
【0094】
なお、上述した実施例及び比較例では、潤滑剤層としてポリエチレンフィルム、グリース、吸水性樹脂を用いているが、これらの結果から、潤滑性があるといえる材料であれば被摩擦構造体が移動する際に生じる摩擦を低減・抑制する機構は同様であるといえる。したがって、吸水性樹脂、オレフィン系樹脂(ポリエチレンフィルム)、それと同等であるオレフィン系発泡体、グリース、グリースと同等であるワックス以外であっても、本発明の効果(性能)を発揮することになる。少なくとも、吸水性樹脂、オレフィン系樹脂(ポリエチレンフィルム)、それと同等であるオレフィン系発泡体、グリース、グリースと同等であるワックスについては、上述した実施例及び比較例で明確に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、被摩擦構造体、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の摩擦構造体を示す概念図である。なお、被摩擦構造体、潤滑剤層、保護層は、若干離れて記載されているが、これらは接地されるものである。以下の図面においても同様である。
【図2】図2は、被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の摩擦構造体を示す概念図である。
【図3】図3は、被摩擦構造体、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の摩擦構造体を示す概念図である。
【図4】図4は、被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の摩擦構造体を示す概念図である。
【図5】図5は、被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層の順に積層された形態の摩擦構造体を示す概念図である。
【図6】図6は、被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の摩擦構造体を示す概念図である。
【図7】図7は、摩擦面の中でも摩擦が最も大きな面に保護層が形成された形態の摩擦構造体を示す概念図である。なお、図において、被摩擦体の上面が摩擦が大きい面であることを概念的に示している。
【図8】図8は、摩擦面の中でも摩擦が最も大きな面に保護層が形成された形態の摩擦構造体を示す概念図である。なお、図において、被摩擦構造体の下面が摩擦が大きい面であることを概念的に示している。
【符号の説明】
【0096】
1:被摩擦構造体(杭、荷物、軸等)
2:潤滑剤層(FRC、PE、グリース等)
3:保護層(金属シート等)
4:被摩擦体(地盤、搬送シート等)
5:凹凸面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被摩擦構造体が摩擦面を介して移動する摩擦構造体であって、
該摩擦構造体は、保護層、潤滑剤層及び被摩擦構造体を必須として構成されることを特徴とする摩擦構造体。
【請求項2】
前記摩擦構造体は、(i)被摩擦構造体、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態、(ii)被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層の順に積層された形態、及び、(iii)被摩擦構造体、保護層、潤滑剤層、保護層の順に積層された形態の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦構造体。
【請求項3】
前記摩擦構造体は、摩擦面の中でも摩擦が最も大きな面に保護層が形成された形態であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦構造体。
【請求項4】
前記保護層は、金属製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦構造体。
【請求項5】
前記保護層は、厚みが0.1〜3mmであることを特徴とする請求項4に記載の摩擦構造体。
【請求項6】
前記保護層は、耐ウォータージェット値が1秒以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦構造体。
【請求項7】
前記潤滑剤層は、吸水性樹脂、オレフィン系樹脂、オレフィン系発泡体、グリース及びワックスからなる群より選ばれる少なくとも一つの材料によって構成されるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦構造体。
【請求項8】
前記摩擦構造体は、土木建築用摩擦低減構造体、高圧噴射工法用摩擦低減構造体、搬送用摩擦構造体又は摺動用摩擦構造体として用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−231578(P2007−231578A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53507(P2006−53507)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】