説明

摺動式トリポード型等速ジョイント

【課題】ニードル循環タイプの摺動式トリポード型等速ジョイントにおいて、ニードルユニットの変形を回避し得るようにしたスライドストッパ構造を実現する。
【解決手段】有底筒状に形成され、内周面に3本の軌道溝16を有する外輪10と、軌道溝16に挿入される3本のトリポード軸部22を備えるトリポード20と、トリポード軸部22に対して揺動可能に設けられ、且つ軌道溝16の側面に沿って転動可能なニードルユニット30とを備える。外輪10は、ニードルユニット30が外輪底部10aに当接しない位置で、ニードルユニット30の外輪底部10a側への移動を規制するストッパ部13、14を有する。ストッパ部13、14は、軌道凹部17、18の外輪底部10a側の端部に設けられた、外輪底部10a側に向かうにつれて軸状転動体50に近づくように傾斜した傾斜面により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式トリポード型等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摺動式トリポード型等速ジョイントとして、例えば、特開2005−98402号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントは、内周面に3本の軌道溝が形成された有底筒状の外輪と、各軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を有するトリポードと、各軌道溝に挿入されたローラと、各トリポード軸部に外嵌されて各ローラを回転自在に支持する中間部材(リング)と、ローラとリングとの間に転動可能に介在された転動体(ボール)と、を備えている。この構成により動力を伝達すると、転動体と中間部材、および転動体とローラの間には転がり抵抗の他に、滑りによって大きな抵抗が発生する。
【0003】
そこで、この抵抗を低減するために、例えば、特許第2763624号公報(特許文献2)に記載されたものがある。特許文献2に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントは、転動体をニードルにするとともに上記のローラを排除することにより、転動体が軌道溝を転動するようにし、且つその転動体が中間部材(ブロック)の外周を循環可能に保持器によって支持されるように構成されている。なお、この場合には、複数のニードルと中間部材と保持器とを組み付けてなるニードルユニットが、トリポード軸部に対して揺動可能に設けられている。これにより、転動体と中間部材、および転動体と軌道溝の間の滑りによる抵抗を大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−98402号公報
【特許文献2】特許第2763624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような摺動式トリポード型等速ジョイントは、トリポード軸部に組み付けられた転動体や中間部材を含むトリポードが、外輪に対して、外輪の軌道溝延伸方向に相対移動可能に構成されている。そのため、車両への組み付けを行う際には、トリポードと外輪の相対移動を規制するスライドストッパが必要となる。
【0006】
そこで、特許文献1に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントの場合には、トリポード軸部に組み付けられたローラを外輪底部に当接させるようにしたストッパ構造が従来より採用されている。この場合、ローラは、強度の高い浸炭部品が用いられるので、破損することもなく、特に問題は生じない。
【0007】
一方、特許文献2に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントの場合、上記従来と同様のストッパ構造を採用すると、トリポード軸部に対して揺動可能に設けられるニードルユニットが外輪底部に当接する構造となる。しかし、ニードルユニットは、通常、浸炭部品に比べて強度の低いプレス鋼板で形成される保持器を含み、しかもローラに比べて頑強な構造を有していないため、外輪底部に当接したときに変形する恐れがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ニードル循環タイプの摺動式トリポード型等速ジョイントにおいて、ニードルユニットの変形を回避し得るようにしたスライドストッパ構造を実現することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
有底筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝を有する外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
前記トリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、且つ、前記軌道溝の側面に沿って転動可能なニードルユニットと、
を備え、
前記外輪は、前記ニードルユニットが外輪底部に当接しない位置で、前記ニードルユニットの前記外輪底部側への移動を規制するストッパ部を有することである。
【0010】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記ニードルユニットは、
前記トリポード軸部の外周に前記トリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、外面に前記軌道溝の側面と対向する外側動力伝達面を有する中間部材と、
前記軌道溝の側面と前記外側動力伝達面との間に、前記軌道溝の側面に沿って転動可能に設けられる複数の軸状転動体と、
前記軸状転動体が前記中間部材の外周を循環可能となるように前記軸状転動体を支持する保持器と、を備え、
前記軌道溝の両側面には、前記軌道溝の延伸方向に延び、前記軸状転動体が転動可能な軌道凹部が形成され、
前記ストッパ部は、それぞれの前記軌道溝の少なくとも一方の前記軌道凹部の外輪底部側に設けられ、前記外輪底部側に向かうにつれて前記軸状転動体に近づくように傾斜した傾斜面により構成されていることである。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、前記傾斜面は、円弧面であることである。
【0012】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項3において、前記円弧面の曲率半径は、前記軸状転動体の半径と同等、若しくは、前記軸状転動体の半径よりも大きくされていることである。
【0013】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項2において、前記傾斜面は、平坦面であることである。
【0014】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項2〜5の何れか一項において、前記ニードルユニットは、前記中間部材と前記軌道凹部との間に位置している前記軸状転動体が前記ストッパ部に接触するように構成されていることである。
【0015】
請求項7に係る発明の特徴は、請求項2〜6の何れか一項において、前記ストッパ部は、それぞれの前記軌道溝の両方の前記軌道凹部に設けられていることである。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、外輪は、ニードルユニットが外輪底部に当接しない位置で、ニードルユニットの外輪底部側への移動を規制するストッパ部を有する。これにより、トリポード軸部に揺動可能に設けられたニードルユニットと共にトリポードを、外輪に対して、外輪底部側にスライドさせると、外輪に設けられたストッパ部により、ニードルユニットが外輪底部側への移動を規制される。このとき、ストッパ部は、ニードルユニットが外輪底部に当接しない位置に設けられているので、ニードルユニットが外輪底部に当接して変形してしまう恐れを回避することができる。これにより、ニードルユニットの変形を回避し得るようにしたスライドストッパ構造を実現することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、ニードルユニットは、トリポード軸部の外周にトリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、外面に軌道溝の側面と対向する外側動力伝達面を有する中間部材と、軌道溝の側面と外側動力伝達面との間に、軌道溝の側面に沿って転動可能に設けられる複数の軸状転動体と、軸状転動体が中間部材の外周を循環可能となるように軸状転動体を支持する保持器と、を備え、軌道溝の両側面には、軌道溝の延伸方向に延び、軸状転動体が転動可能な軌道凹部が形成され、ストッパ部は、それぞれの軌道溝の少なくとも一方の軌道凹部の外輪底部側に設けられ、外輪底部側に向かうにつれて軸状転動体に近づくように傾斜した傾斜面により構成されている。
【0018】
本願発明では、トリポード軸部に揺動可能に設けられたニードルユニットと共にトリポードを、外輪に対して、外輪底部側にスライドさせると、ニードルユニットの軸状転動体が軌道溝に設けられた軌道凹部を転動する。そして、軸状転動体が軌道凹部の外輪底部側に設けられた傾斜面よりなるストッパ部に到達すると、傾斜面の楔効果により、軸状転動体の外輪底部側への転動が規制される。このとき、ストッパ部は、ニードルユニットが外輪底部に当接しない位置に設けられているので、ニードルユニットが外輪底部に当接して変形してしまう恐れを回避することができる。なお、軸状転動体は、通常、強度の高い熱処理部品が用いられるので、ストッパ部の傾斜面に当接したときに変形する恐れは少ない。また、本発明のスライドストッパ構造は、軸状転動体が転動する軌道凹部の外輪底部側に、傾斜面よりなるストッパ部を設けるだけでよいため、単純な構造で安価に実現することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、傾斜面は、円弧面で形成されている。このようにすることで、軸状転動体が転動する軌道凹部の底面と傾斜面を滑らかに接続することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、円弧面の曲率半径は、軸状転動体の半径と同等、若しくは、軸状転動体の半径よりも大きくされている。即ち、円弧面の曲率半径は、軸状転動体の半径よりも小さくされない。このようにすることで、円弧面の外輪底部側端縁に形成される角部に軸状転動体が当接しないようにすることができるため、軸状転動体の損傷を回避することができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、傾斜面は、平坦面で形成されている。このようにすることで、傾斜面が円弧面で形成されている場合に比べて、傾斜面の楔効果による軸状転動体の噛み込みを有利に抑制することができる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、ニードルユニットは、中間部材と軌道凹部との間に位置している軸状転動体がストッパ部に接触するように構成されている。このようにすることで、軸状転動体がストッパ部に接触したときに、その接触した軸状転動体のニードルユニットに対する変位量を少なくすることができるので、ニードルユニットの変形を抑制することができる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、ストッパ部は、それぞれの軌道溝の両方の軌道凹部に設けられている。このようにすることで、ストッパ部が一方の軌道凹部に設けられている場合に比べて、一対の傾斜面により形成される楔角度を大きくすることが可能となるので、楔効果による軸状転動体の噛み込み発生を有利に抑制することができる。また、軌道溝の側面の両側に設けられる軌道凹部の形状が異なると、外輪を製造する際に施される焼き入れパターンが軌道溝の側面の両側で異なるので、軌道溝の両方の軌道凹部にストッパ部を設けるようにすることで、外輪の製造が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】等速ジョイント1の斜視図であり、外輪10を軸方向に切断した状態を示す。
【図2】等速ジョイント1の一部の組み付け状態における、外輪10の開口側から見た図である。
【図3】等速ジョイント1の一部の径方向断面図である。
【図4】等速ジョイント1の一部の軸方向断面図であり、ニードルユニット30が軌道溝16の中間部に位置する状態を示す。
【図5】等速ジョイント1の一部の軸方向断面図であり、ニードルユニット30が軌道溝16の最も外輪底部側に位置する状態を示す。
【図6】中間部材40の分割部材41のみの斜視図である。
【図7】保持器60に軸状転動体50を組み付けた状態の斜視図である。
【図8】(a):保持器60の正面図である。(b):(a)のA−A断面図である。(c):(a)のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の摺動式トリポード型等速ジョイント(以下、単に「等速ジョイント」と称する)を具体化した実施形態について図1〜図8を参照しつつ説明する。ここで、本実施形態の等速ジョイントは、車両の動力伝達シャフトの連結に用いる場合を例に挙げて説明する。例えば、ディファレンシャルギヤに連結された軸部とドライブシャフトの中間シャフトとの連結部位に用いる場合である。
【0026】
図1〜図3に示すように、等速ジョイント1は、外輪10と、トリポード20と、ニードルユニット30とから構成される。
【0027】
図1に示すように、外輪10は、筒状部11と、連結軸部12とから構成される。筒状部11は、有底筒状に形成されている。連結軸部12は、筒状部11の底部から軸方向外方に延びるように、筒状部11と同軸的に且つ一体に形成されている。この連結軸部12は、ディファレンシャルギヤ(図示せず)に連結されている。
【0028】
そして、図1〜図3に示すように、筒状部11の内周面には、外輪回転軸方向(図2の前後方向)に延びる軌道溝16が、外輪回転軸の周方向に等間隔に3本形成されている。各軌道溝16における溝延伸方向に直交する断面形状が、外輪10の回転軸中心に向かって開口するコの字形をなしている。つまり、各軌道溝16は、ほぼ平面状に形成された溝底面161と、溝底面161に直交するようなほぼ平面状に形成され且つそれぞれ平行に対向する側面162、163とを備える。
【0029】
それぞれの側面162、163には、外輪回転軸方向に延びる軌道凹部17、18が形成されている。この軌道凹部17、18は、軌道溝16の側面162、163のうち、外輪10の径方向のほぼ中央部に形成されている。この軌道凹部17、18の開口幅(図2、図3の上下幅)は、開口側に向かって徐々に大きくなるように形成されている。つまり、軌道凹部17、18は、ほぼ平面状の底面17a、18aと傾斜した側面17b、18bとを有している。この軌道凹部17、18には、ニードルユニット30に組み付けられた後述の軸状転動体50が、軌道凹部17、18の底面17a、18aを転動可能に配置される。
【0030】
図4および図5に示すように、それぞれの軌道凹部17、18の外輪底部10a側端部には、軌道凹部17、18の外輪底部10a側へ軸状転動体50がそれ以上転動するのを規制するストッパ部13、14が設けられている。このストッパ部13、14は、図5に示すように、ニードルユニット30が外輪底部10aに当接しない位置に設けられている。このストッパ部13、14は、外輪底部10a側に向かうにつれて軸状転動体50に近づくように傾斜した傾斜面により構成されている。
【0031】
具体的には、本実施形態でのストッパ部13、14の傾斜面は、軌道凹部17、18の延伸方向の断面形状が円弧形状となった円弧面である。図4に示すように、この円弧面の曲率半径R1は、軸状転動体50の転動面部51の半径R2と同等、若しくは、転動面部51の半径R2よりも少し大きくなるように設定されている。これにより、ストッパ部13、14の円弧面は、軌道凹部17、18の底面17a、18aと、段差が無く滑らかに連続するように接続されている。また、円弧面の外輪底部10a側端縁に形成される角部に軸状転動体50が当接しないようにされていることによって、軸状転動体50の損傷が発生しないようにされている。
【0032】
図1および図3に示すように、トリポード20は、外輪10の筒状部11の内側に配置されている。このトリポード20は、ボス部21と、3本のトリポード軸部22とを備える。ボス部21は、環状であり、その内周側には内歯スプライン21aが形成されている。この内歯スプライン21aは、中間シャフト2の端部の外歯スプラインに嵌合連結される。また、ボス部21の外周面は、ほぼ球面凸状に形成されている。
【0033】
それぞれのトリポード軸部22は、ボス部21の外周面からそれぞれボス部21の径方向外方に延びるように立設されている。これらのトリポード軸部22は、ボス部21の周方向に等間隔(120°間隔)に形成されている。そして、それぞれのトリポード軸部22の少なくとも先端部は、外輪10の筒状部11のそれぞれの軌道溝16内に挿入されている。それぞれのトリポード軸部22は、球面凸状に形成されている。それぞれのトリポード軸部22の中心軸(以下、「トリポード軸」とも称する)は、トリポード20の回転軸(中間シャフト2の回転軸)と直交する。
【0034】
ニードルユニット30は、図1に示すように、全体形状としては環状であり、それぞれのトリポード軸部22の外周側に配置されている。さらに、ニードルユニット30は、軌道溝16が延びる方向に移動可能となるように、軌道溝16に嵌合されている。このニードルユニット30は、中間部材40と、複数の転動体50と、保持器60とから構成される。
【0035】
図1および図3〜図5に示すように、中間部材40は、一対の分割部材41、42から構成される。一対の分割部材41、42を一体的に見た場合に、中間部材40の全体形状としての外形はほぼ矩形に形成されている。さらに、中間部材40を全体としてみた場合に、中間部材40の中央には、円形孔に相当する部分が形成されている。
【0036】
一対の分割部材41、42は、トリポード軸(図3の上下方向)および中間シャフト2の回転軸(図3の前後方向)を通る平面に対して、面対称な形状からなるように別体で構成され、それぞれ独立している。そして、一対の分割部材41、42は、図1および図3〜図5に示すように、軌道溝16の側面162、163の両側からトリポード軸部22を挟むように配置されている。つまり、両分割部材41、42は、動力伝達方向(外輪回転軸回りまたは中間シャフト回転軸回りの方向)の両側からトリポード軸部22を挟むように配置されている。そして、一対の分割部材41、42は、トリポード軸部22に対して、トリポード軸部22の軸直交方向の全ての方向から見た場合に、揺動可能に設けられている。
【0037】
ここで、図6を参照して、一方の分割部材41の詳細な形状について説明する。なお、他方の分割部材42は、上述したように、一方の分割部材41と対称形状のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0038】
分割部材41は、矩形ブロック状に形成されている。この分割部材41の周面は、トリポード接触面41aと、動力伝達面41bと、トリポード回転軸方向の端面41c、41dを有している。ここで、中間部材40を一体として見た場合に、トリポード接触面41aが内周面を形成し、動力伝達面41bおよび端面41c、41dが外周面を形成する。
【0039】
トリポード接触面41aは、トリポード軸部22に対して、トリポード軸部22の軸直交方向の全ての方向から見た場合に揺動可能に接触するような部分球面凹状に形成されている。そして、トリポード接触面41aにおける球面中心は、トリポード接触面41aの図3の上下方向幅(分割部材41の厚み)の中央付近であって、トリポード軸部22の図3の前後方向幅(分割部材41の長手方向の長さ)の中央付近に位置している。つまり、トリポード接触面41aは、トリポード軸部22の外周面に嵌合され、嵌合された状態でトリポード軸部22の軸方向に離脱しない形状をなしている。
【0040】
動力伝達面41bは、トリポード接触面41aの裏面側、すなわち図6の右手前側に設けられている。動力伝達面41bは、ほぼ平面状で矩形状に形成されている。この動力伝達面41bの外輪回転軸方向の両端側は、僅かに湾曲するように形成されている。つまり、動力伝達面41bの中央部が、図3の左右方向の外方に最も突出している。
【0041】
そして、一方の分割部材41の動力伝達面41bが軌道溝16の側面163に対してほぼ平行に対向するように、各分割部材41が配置されている。なお、他方の分割部材42についても、同様に、動力伝達面が軌道溝16の側面162に対してほぼ平行に対向するように、分割部材42が配置されている。つまり、外輪10の回転軸と中間シャフト2の回転軸が一致している姿勢(ジョイント角0°)において、動力伝達面41bは、トリポード軸部22の中心軸と中間シャフト2の回転軸を通る平面にほぼ平行となる。そして、動力伝達面41bは、複数(本実施形態では、3〜4個)の軸状転動体50に接触し得る範囲を有している。
【0042】
端面41c、41dは、図6の左手前側および右奥側、すなわち分割部材41の長手方向の両端に位置する部位である。この端面41c、41dは、動力伝達面41bにほぼ直交する平面からなる。つまり、この端面41c、41dは、軌道溝16の側面163にほぼ直交する平面からなる。
【0043】
軸状転動体50は、図1〜図5および図7に示すように、ニードルである。そして、図1に示すように、複数の軸状転動体50が、中間部材40を一体として見た場合の外周を循環するように設けられている。複数の軸状転動体50のうち一部(本実施形態においては、3〜4個)は、軌道溝16の軌道凹部17、18の底面17a、18aと一対の分割部材41、42の動力伝達面41b、42bとの間に、底面17a、18aおよび動力伝達面41b、42bに沿って転動可能に設けられている。つまり、軸状転動体50を介して動力伝達面41b、42bと軌道凹部17、18の底面17a、18aとの間で動力が伝達される。
【0044】
この軸状転動体50は、外周に転動面51aを有する円柱状の転動面部51と、柱延伸直交方向(図2の左右方向)に切断した断面が円形で(図4および図5参照)、転動面部51の軸方向両端面からそれぞれ突出した突起部52とを備える。転動面部51の外周面に形成される転動面51aの柱延伸長さは、軌道凹部17、18の底面17a、18aの幅と同等、若しくは、底面17a、18aの幅よりも僅かに短くなるように設定されている。
【0045】
この転動面部51の両端面は、テーパ状に形成されている。このテーパ状の端面51bは、軌道凹部17、18の側面17b、18bとほぼ同様のテーパ状をなしている。つまり、転動面部51は、転動面部51の軌道凹部17、18の底面17a、18a側に位置する部位が軌道凹部17、18に嵌め込まれるように設けられている。詳細には、テーパ状の端面51bが軌道凹部17、18の側面17b、18bに対して、軸状転動体50の軸方向に係合し得る関係となる。つまり、軸状転動体50は、軌道凹部17、18により軸状転動体50の軸方向への移動が規制されている。そして、転動面部51の外周の転動面51aが、軌道凹部17、18の底面17a、18aに沿って転動可能となる。
【0046】
突起部52は、転動面部51の外径よりも小径に形成されている。そして、両側の突起部52の先端間距離、すなわち、軸状転動体50の軸方向長さは、軌道凹部17、18の開口幅よりも大きく形成されている。つまり、突起部52は、軌道凹部17、18の外部に位置している。
【0047】
保持器60は、図7および図8(a)〜(c)に示すように、全体形状としては環状である。保持器60は、軸状転動体50が中間部材40の外周を循環可能となるように、軸状転動体50を支持している。そして、保持器60は、軌道溝16の内部にほぼ収容されている。この保持器60は、軸状転動体50の循環路を形成する一対の循環路形成部材61、62と、一対の循環路形成部材61、62を連結する一対の連結部63、64とから構成される。
【0048】
一対の循環路形成部材61、62は、保持器60の周縁に位置し、長円形をなしている。この一対の循環路形成部材61、62は、一対の分割部材41、42を囲む形状をなしている。具体的には、循環路形成部材61は、対向する直線部61a、61bと、直線部61a、61bを連結する半円弧状の湾曲部61c、61dとから構成される。また、もう一つの循環路形成部材62は、上記循環路形成部材61と同様に、直線部と湾曲部とから構成される。
【0049】
さらに、一対の循環路形成部材61、62は、軸状転動体50をその軸方向に挟むように、相互に対向して配置されている。この一対の循環路形成部材61、62には、それぞれ、軸状転動体50の突起部52が挿入されるよう、コの字形断面形状に形成されている。このようにして、一対の循環路形成部材61、62は、両突起部52を支持している。つまり、一対の循環路形成部材61、62の径方向幅(内周縁と外周縁との距離)は、軸状転動体50の転動面部51の最大径よりも小さく形成されている。従って、軸状転動体50の転動面部51は、一対の循環路形成部材61、62の外周縁から外側に突出しており、且つ、一対の循環路形成部材61、62の内周縁から内側に突出している。
【0050】
そして、それぞれの循環路形成部材61、62のコの字形の開口側が、軸状転動体50の転動面部51の軸方向長さより僅かに長い距離だけ離間した状態で、対向するように設けられている。従って、一対の循環路形成部材61、62の対向方向の最大幅は、軌道凹部17、18の開口幅より大きく設定されている。そして、一対の循環路形成部材61、62は、軌道溝16の内部に収容されており、且つ、軌道凹部17、18の外部に位置している。
【0051】
さらに、一対の循環路形成部材61、62の直線部61a、61b間の幅は、軌道溝16の溝幅(軌道凹部17の開口部と軌道凹部18の開口部との距離)よりも小さく設定されている。つまり、一対の循環路形成部材61、62は、軌道溝16の側面162、163に対して隙間を隔てて配置されている。
【0052】
一対の連結部63、64は、一対の循環路形成部材61、62の湾曲部61c、61dのうち周方向中央部分(図8(a)の上下端部分)をそれぞれ連結する。つまり、一対の循環路形成部材61、62の間は、連結部63、64以外の部位において開口している。
【0053】
図8(c)に示すように、連結部63、64は、保持器60の外側に開口するコの字形形状に形成されている。連結部63、64のコの字形形状の底部反開口側(保持器60の内側、以下、「底部内側面」という)は、平面状に形成されている。そして、一対の連結部63、64の底部内側面同士が、平行に且つ対向するように設けられている。さらに、この一対の連結部63、64の底部内側面の離間距離は、各分割部材41、42のトリポード回転軸方向の端面41a、41b間の距離とほぼ一致している。また、連結部63、64のコの字形形状の底部開口側(保持器60の外側、以下、「底部外側面」という)は、底部内側面に平行な平面状に形成されている。
【0054】
また、連結部63、64のコの字形の開口側の端部の一方が、循環路形成部材61の湾曲部61c、61dのそれぞれの周方向中央部分に連結され、端部の他方が、循環路形成部材62の湾曲部のそれぞれの周方向中央部分に連結される。
【0055】
そして、軸状転動体50が軌道凹部17、18において最も軌道溝16の溝底側(図3の上側)に位置し、且つ、保持器60が軸状転動体50に対して最も軌道溝16の溝底側に位置する状態において、保持器60と軌道溝16の溝底面161との間に隙間を設けるように設定されている。これは、軌道凹部17、18と転動面部51との軸方向移動量、軸状転動体50と保持器60との軸方向移動量、保持器60の一対の循環路形成部材61、62の軸方向厚みなどに基づいて決定される。
【0056】
さらに、保持器60の外輪10の径方向内方には、軌道溝16の開口部が位置するように設けられている。つまり、保持器60の径方向内方に位置する循環路形成部材62は、外輪10の径方向外方には軸状転動体50に当接するが、外輪10の径方向内方には何ら規制されない。
【0057】
以上のように構成された等速ジョイント1を車両に対して組み付ける際には、作業者が、トリポード20およびニードルユニット30が組み付けられたシャフト2を軸方向に押し込んで外輪底部10a側へスライドさせ、トリポード20およびニードルユニット30が、外輪10内部の最奥側(外輪底部10a側)に位置する状態にする。このとき、ニードルユニット30の軸状転動体50が、外輪10の軌道凹部17、18に沿って転動する。
【0058】
そして、図5に示すように、軸状転動体50が、軌道凹部17、18の外輪底部10a側の端部に設けられたストッパ部13、14に到達すると、ニードルユニット30の中間部材40と軌道凹部17、18との間に位置している軸状転動体50のうち、最も外輪底部10a側に位置している軸状転動体50がストッパ部13、14に接触する。ストッパ部13、14に接触した軸状転動体50は、ストッパ部13、14の楔効果により外輪底部10a側への更なる移動を規制される。このとき、ストッパ部13、14は、ニードルユニット30が外輪底部10aに当接しない位置に設けられているので、ニードルユニット30が外輪底部10aに当接して変形してしまう恐れがない。
【0059】
以上のように、本実施形態の等速ジョイント1によれば、外輪10は、ニードルユニット30が外輪底部10aに当接しない位置で、ニードルユニット30の外輪底部10a側への移動を規制するストッパ部13、14を有するため、ニードルユニット30が外輪底部10aに当接して変形してしまう恐れを回避することができるようにしたスライドストッパ構造を実現することができる。
【0060】
特に、本実施形態のストッパ部13、14は、軌道凹部17、18の外輪底部10a側の端部に設けられた、外輪底部10a側に向かうにつれて軸状転動体50に近づくように傾斜した傾斜面により構成されている。そのため、軌道凹部17、18の外輪底部10a側に、傾斜面を形成するだけでストッパ部13、14を設けることができるので、スライドストッパ構造を、単純な構造で安価に実現することができる。
【0061】
また、本実施形態では、ストッパ部13、14を構成する傾斜面が円弧面であるため、軸状転動体50が転動する軌道凹部17、18の底面17a、18aと傾斜面を滑らかに接続することができる。さらに、ストッパ部13、14を構成する円弧面の曲率半径が、軸状転動体50の半径と同等、若しくは、軸状転動体50の半径よりも大きくなるように設定されている。これにより、円弧面の外輪底部10a側の端縁に形成される角部に軸状転動体50が当接しないようにすることができるため、軸状転動体50の損傷を回避することができる。
【0062】
また、本実施形態のニードルユニット30は、中間部材40と軌道凹部17、18との間に位置している軸状転動体50がストッパ部13、14に接触するように構成されている。これにより、軸状転動体50がストッパ部13、14に接触したときに、その接触した軸状転動体50のニードルユニット30に対する変位量を少なくすることができるので、ニードルユニット30の変形を抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態では、ストッパ部13、14が、それぞれの軌道溝16の両方の軌道凹部17、18に設けられている。これにより、ストッパ部が一方の軌道凹部に設けられている場合に比べて、一対の傾斜面により形成される楔角度を大きくすることが可能となるので、楔効果による軸状転動体50の噛み込み発生を有利に抑制することができる。さらに、軌道溝16の側面の両側に設けられる軌道凹部の形状が異なると、外輪10を製造する際に施される焼き入れパターンが軌道溝16の側面の両側で異なるので、軌道溝16の両方の軌道凹部17、18にストッパ部13、14を設けるようにすることで、外輪10の製造が容易になる。
【0064】
なお、上記実施形態においては、ストッパ部13、14を構成する傾斜面が円弧面であるが、その傾斜面を平坦面にしてもよい。このようにすれば、傾斜面が円弧面の場合に比べて、傾斜面の楔効果による軸状転動体の噛み込みを有利に抑制することができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、ストッパ部13、14が、それぞれの軌道溝16の両方の軌道凹部17、18に設けられているが、それぞれの軌道溝16の一方の軌道凹部17または18にのみストッパ部を設けるようにしてもよい。但し、この場合には、上記した、軌道溝16の両方の軌道凹部17、18にストッパ部13、14を設けることによる効果を奏しない。
【符号の説明】
【0066】
1:等速ジョイント、 2:中間シャフト、 10:外輪、 10a:外輪底部
11:筒状部、 12:連結軸部、 13、14:ストッパ部、 16:軌道溝
161:溝底面、 162、163:側面17、18:軌道凹部
17a、18a:底面、 17b、18b:側面、 20:トリポード、 21:ボス部21a:内歯スプライン、 22:トリポード軸部、 30:ニードルユニット
40:中間部材、 41、42:分割部材、 41a:トリポード接触面
41b:動力伝達面、 41c、41d:端面、 50:軸状転動体、 51:転動面部51a:転動面、 51b:テーパ状端面、 52:突起部、 60:保持器
61、62:循環路形成部材、 61a、61b:直線部、 61c、61d:湾曲部
63、64:連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝を有する外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
前記トリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、且つ、前記軌道溝の側面に沿って転動可能なニードルユニットと、
を備え、
前記外輪は、前記ニードルユニットが外輪底部に当接しない位置で、前記ニードルユニットの前記外輪底部側への移動を規制するストッパ部を有することを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1において、
前記ニードルユニットは、
前記トリポード軸部の外周に前記トリポード軸部に対して揺動可能に設けられ、外面に前記軌道溝の側面と対向する外側動力伝達面を有する中間部材と、
前記軌道溝の側面と前記外側動力伝達面との間に、前記軌道溝の側面に沿って転動可能に設けられる複数の軸状転動体と、
前記軸状転動体が前記中間部材の外周を循環可能となるように前記軸状転動体を支持する保持器と、を備え、
前記軌道溝の両側面には、前記軌道溝の延伸方向に延び、前記軸状転動体が転動可能な軌道凹部が形成され、
前記ストッパ部は、それぞれの前記軌道溝の少なくとも一方の前記軌道凹部の前記外輪底部側に設けられ、前記外輪底部側に向かうにつれて前記軸状転動体に近づくように傾斜した傾斜面により構成されていることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項3】
請求項2において、
前記傾斜面は、円弧面であることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項4】
請求項3において、
前記円弧面の曲率半径は、前記軸状転動体の半径と同等、若しくは、前記軸状転動体の半径よりも大きくされていることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項5】
請求項2において、
前記傾斜面は、平坦面であることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項6】
請求項2〜5において、
前記ニードルユニットは、前記中間部材と前記軌道凹部との間に位置している前記軸状転動体が前記ストッパ部に接触するように構成されていることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項7】
請求項2〜6の何れか一項において、
前記ストッパ部は、それぞれの前記軌道溝の両方の前記軌道凹部に設けられていることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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