説明

摺動式トリポード型等速ジョイント

【課題】非負荷側の軌道溝とローラユニットとの接触荷重を低減することにより、結果として誘起スラスト力を低減することができる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供することを目的とする。
【解決手段】摺動式トリポード型等速ジョイント1は、3本の軌道溝11が形成された外輪10と、ボス部21の外周面からそれぞれボス部21の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの軌道溝11に挿入される3本のトリポード軸部22を備えるトリポード20と、ローラユニット30を備える。内ローラ32は、トリポード軸部22との間でトルク伝達を行う際に、係止部22a,22bが係止溝32a,32bに係止することにより、外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動を規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式トリポード型等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
摺動式トリポード型等速ジョイントは、例えば特許文献1〜3に記載されたものがある。この摺動式トリポード型等速ジョイントは、3本の軌道溝が形成された筒状の外輪と、径方向に延びる3本のトリポード軸部を有するトリポードと、それぞれのトリポード軸部に軸支されるダブルローラタイプのローラユニットを備える。ダブルローラタイプのローラユニットは、外輪の軌道溝を転動可能な外ローラと、トリポード軸部の外周面に軸支される内ローラと、外ローラと内ローラとの間に転動可能に介在するニードルと、外ローラに固定され内ローラおよびニードルの軸方向移動を規制するスナップリングを有している。そして、トリポード軸部は、このローラユニットに対して首振り運動可能となるように構成されている。これにより、ジョイント角を付加した状態でトルク伝達を行うと、ローラユニットが軌道溝を転動しようとする方向と軌道溝の延びる方向とが一致することになる。よって、ローラユニットと軌道溝との間に発生する滑りを抑制し、誘起スラスト力の発生を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−246241号公報
【特許文献2】特開2004−125175号公報
【特許文献3】特開2006−162056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1〜3に記載の摺動式トリポード型等速ジョイントにおいては、ジョイント角を付加した状態でトルク伝達を行った際に、トリポード軸部がローラユニットに対して、トリポード軸部の軸方向に摺動する。そのため、ローラユニットがトリポード軸部から力を受ける位置がローラユニットの軸方向に変化する。これにより、特許文献3に記載されているように、外輪回転軸と平行な軸線回りにローラユニットを回転させようとするモーメントが発生する。そうすると、外輪回転軸の軸線方向(即ち、外輪の軌道溝が延びる方向)からローラユニットを見た場合に、ローラユニットが外輪回転軸に直交する平面内においてトリポード軸部に対する首振り運動をすることになる。そのため、ローラユニットのうち外輪の軌道溝とトルク伝達を行っている負荷側の反対側である非負荷側(背面側)が、軌道溝に接触し、ローラユニットと軌道溝との間にて摩擦力が発生するおそれがある。このことが、誘起スラスト力の発生に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、非負荷側の軌道溝とローラユニットとの接触荷重を低減することにより、結果として誘起スラスト力を低減することができる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明によると、筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、前記軌道溝に転動可能に配置される外ローラと、前記トリポード軸部の外周側に軸支され、前記シャフトの軸線と前記トリポード軸部の軸線を含む平面内において前記トリポード軸部に対する首振り運動および前記トリポード軸部の軸線方向への摺動を許容される内ローラと、前記外ローラの内周面と前記内ローラの外周面との間に転動可能に介在するニードルと、前記外ローラに固定され、前記外ローラに対する前記内ローラおよび前記ニードルの軸方向移動を規制するスナップリングと、を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記トリポード軸部の外周面と当該外周面に対向する前記内ローラの内周面とのうち一方に前記トリポード軸部の軸線方向に延びる係止溝が形成され、他方に前記係止溝に係止する係止部が形成され、前記内ローラは、前記トリポード軸部との間でトルク伝達を行う際に、前記係止部が前記係止溝に係止することにより、前記外輪回転軸に直交する平面内において前記トリポード軸部に対する首振り運動を規制される。
【0007】
請求項2に係る発明によると、請求項1において、前記係止溝および前記係止部は、前記トリポード軸部と前記内ローラとの間でトルク伝達を行う際に、前記トリポード軸部の外周面と前記内ローラの内周面との接触範囲の外部に形成されている。
【0008】
請求項3に係る発明によると、請求項1または2において、前記係止溝および前記係止部は、前記トリポード軸部の軸線に直交する平面での断面形状が角形に形成されている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、内ローラがトリポード軸部との間でトルク伝達を行う際に、係止部が係止溝に係止する。これにより、内ローラは、外輪回転軸に直交する平面内においてトリポード軸部に対する首振り運動を規制される構成となっている。即ち、内ローラは、外輪回転軸と平行な軸線回りの回転を規制される。ここで、内ローラおよびニードルは、外ローラに固定されるスナップリングによって外ローラに対する軸方向移動を規制され、外ローラと一体的なダブルローラタイプのローラユニットを構成している。つまり、トルク伝達を行う際に、内ローラが上記のように一部の首振り運動を規制されることにより、内ローラを含むローラユニットも同様に、外輪回転軸に直交する平面内においてトリポード軸部に対する首振り運動を規制されることになる。
【0010】
これにより、ジョイント角を付加した状態でトルク伝達を行った際に、ローラユニットを外輪回転軸と平行な軸線回りに回転させようとするモーメントが発生しても、ローラユニットの姿勢を維持させることができる。よって、ローラユニットを構成する外ローラのうち外輪の軌道溝とトルク伝達を行っている負荷側の反対側である非負荷側(背面側)が、軌道溝に接触することを防止し、非負荷側の軌道溝とローラユニットとの接触荷重を低減することができる。結果として、誘起スラスト力を低減することができるとともに、背面側の接触による動力損失や振動発生を抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、係止溝および係止部は、トリポード軸部の外周面と内ローラの内周面との接触範囲の外部に形成される。トルク伝達を行う際に、係止溝および係止部は、外輪回転軸に直交する平面内においてトリポード軸部に対する内ローラの首振り運動を規制しつつ、その他の首振り運動およびトリポード軸部の軸線方向への摺動を許容する。そのため、例えば、係止溝を内ローラに形成し係止部をトリポード軸部に形成する構成、或いは、係止溝をトリポード軸部に形成し係止部を内ローラに形成する構成としてもよい。さらに、トリポード軸部の軸線回りの何れの位相に設ける構成としてもよい。
【0012】
ここで、トリポード軸部と内ローラとの間でトルク伝達を行う際には、トリポード軸部の外周面と内ローラの内周面が楕円形状の接触範囲で接触することになる。この接触範囲は、伝達されるトルクの大きさによっても変動するが、接触範囲の面積が小さくなると、その分だけ面圧(単位面積あたりの荷重)が高まることになる。また、トリポード軸部と内ローラに設けられる係止溝および係止部は、トルク伝達には直接的に寄与しないため、上記の接触範囲の内部に形成されると接触範囲の面積を小さくすることになる。そこで、本発明のように、係止溝と係止部を接触範囲の外部に形成することにより、接触範囲の面積を確保し、トルク伝達を行う際に接触範囲における面圧が高まることを抑制できる。よって、確実にトルク伝達を行うことができるとともに、効率的にローラユニットの姿勢を維持することができる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、係止溝および係止部の断面形状が角形に形成されている。ここで、ジョイント角を付加した状態でトルク伝達を行った際に、ローラユニットには、外輪回転軸と平行な軸線を中心とモーメントが発生する。この時、係止溝に係止部が係止することにより、ローラユニットの姿勢が維持される。また、トリポード軸部に対する内ローラの首振り運動の一部および摺動を許容する機能上、またはトリポード軸部に内ローラを組付ける製造上、係止溝と係止部の間には所定の隙間が設けられることがある。このような場合に、上記のようなモーメントが発生すると、モーメントの中心との関係から係止溝に対して係止部が相対的に回転しようとする。そこで、係止溝および係止部の断面形状を角形に形成すると、係止溝に対して係止部が回転すると、係止部の角部が係止溝の側面に当接するように両者の間に設けられた隙間が詰められる。これにより、係止溝に係止部を確実に係止することができるので、モーメントが発生してもローラユニットの姿勢を好適に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態:摺動式トリポード型等速ジョイントの径方向部分断面図であって、3本の軌道溝のうち1本の軌道溝の部分を示す。
【図2】トリポード軸部の軸線方向から見たトリポードを示す図である。
【図3】内ローラを示す図であり、(a)は内ローラの斜視図であり、(b)は内ローラの軸方向から見た図である。
【図4】図2のトリポードにおいて、トリポード軸部に内ローラのみを組付けた状態を示す図である。
【図5】トルク伝達時における接触範囲を示す図であり、(a)はトリポード軸部の先端部の外周面における接触範囲、(b)は内ローラの内周面における接触範囲を示す。
【図6】トリポード軸部とローラを示す図4のA−A断面図であり、(a)は両部材の軸線が一致している状態を示し、(b)はトリポード軸部に対してローラが首振り運動している状態を示す。
【図7】第二実施形態:トリポード軸部とローラを示す断面図であり、(a)は両部材の軸線が一致している状態を示し、(b)はトリポード軸部に対してローラが首振り運動している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の摺動式トリポード型等速ジョイントを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。ここで、実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントは、車両の動力伝達シャフトの連結に用いる場合を例に挙げて説明する。例えば、自動車のドライブシャフトのインボードジョイントとして好適に使用されるものである。すなわち、この場合には、当該等速ジョイントは、ディファレンシャルギヤに連結された軸部とドライブシャフトシャフトの中間シャフトとの連結部位に用いる場合である。
【0016】
<第一実施形態>
(摺動式トリポード型等速ジョイント1の構成)
第一実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイント1について、図1〜図5を参照して説明する。本実施形態における摺動式トリポード型等速ジョイント1は、ディファレンシャルギヤ側の軸部(図示せず)に連結される外輪10と、他方側の中間シャフト2に連結されるトリポード20と、外輪10とトリポード20との間に介在するローラユニット30とを備えて構成される。
【0017】
外輪10は、筒状(例えば、有底筒状)に形成されており、一端側に一体的に形成された連結軸部がディファレンシャルギヤに連結されている。そして、外輪10の筒状部分の内周面には、外輪回転軸Ao方向(図1の前後方向)に延びる軌道溝11が、外輪軸の周方向に等間隔に3本形成されている。なお、図1においては、1本の軌道溝11のみを示している。各軌道溝11の溝延伸方向に直交する断面形状は、外輪10の回転中心である外輪回転軸Aoに向かって開口するコの字形状をなしている。つまり、各軌道溝11は、ほぼ平面状に形成され溝底面と、相互に対向し深さ方向中央部における対向距離が最も大きくなるように円弧凹状に形成される両側の溝側面とから構成される。
【0018】
トリポード20は、外輪10の筒状部分の内側に配置されている。このトリポード20は、ボス部21と、3本のトリポード軸部22とを備える。ボス部21は、円環状に形成されており、ボス部21の内周側には内歯スプライン21aが形成されている。この内歯スプライン21aは、中間シャフト2の端部に形成された外歯スプライン(図示せず)に連結される。それぞれのトリポード軸部22は、ボス部21の外周面からそれぞれのボス部21の径方向外方に向かって延びるように立設されている。これらのトリポード軸部22は、ボス部21の周方向に等間隔(120°間隔)に形成されている。そして、それぞれのトリポード軸部22の少なくとも先端部は、外輪10のそれぞれの軌道溝11内に挿入されている。それぞれのトリポード軸部22は、全体としては円柱状に近似した形状に形成されている。詳細には、トリポード軸部22の外周面は、部分球面状をなしている。
【0019】
また、トリポード軸部22は、外周面にトリポード軸部22の軸線At方向(図1の上下方向)に延びる2本の突条部22a,22bを有している。本実施形態において、突条部22a、22bは、図2に示すように、トリポード軸部22の軸線At方向から見て、トリポード軸部22の外周面のうち中間シャフト2の回転中心であるシャフト回転軸Asと一致する位相に配置されている。つまり、トリポード20が外輪10の内側に配置された際に、突条部22aが外輪10の開口側に位置し、突条部22bが外輪10の筒底側に位置する。
【0020】
突条部22a,22bは、全体形状としては、部分球面状に形成されたトリポード軸部22の先端部の外周面に沿った凸弧状となっている。そして、トリポード軸部22の先端部において部分球面が形成された上部から下部に亘って形成されている。また、突条部22a,22bは、トリポード軸部22の軸線Atに直交する平面での断面形状が角形に形成されている。さらに、突条部22a,22bの幅方向中央部は、トリポード軸部22の軸線At方向から見て、シャフト回転軸Asおよびトリポード軸部22の軸線Atを含む平面内に存するように形成されている。この突条部22a,22bは、後述する内ローラ32の内周面に形成された凹状溝32a,32bと係止する部位であって、本発明の「係止部」に相当する。
【0021】
ローラユニット30は、全体としては、円環状となるように構成されている。ローラユニット30は、トリポード軸部22の外周側に軸支されている。このローラユニット30は、シャフト回転軸Asとトリポード軸部22の軸線Atを含む平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動およびトリポード軸部22の軸線At方向への摺動を許容され、外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部に対する首振り運動を規制されている。さらに、ローラユニット30は、軌道溝11の溝側面に沿って転動可能に配置されている。このローラユニット30は、外ローラ31と、内ローラ32と、ニードルローラ33と、スナップリング34,35とから構成されたダブルローラタイプのローラである。
【0022】
外ローラ31は、円環状に形成されている。外ローラ31の外周面の軸方向断面形状は、大凡、軌道溝11の溝側面に対応する形状、即ち軌道溝11の溝側面を反転した形状に形成されている。詳細には、外ローラ31の外周面の軸方向断面形状は、単一の曲率半径により表される凸円弧形状に形成されている。そして、外ローラ31は、その中心軸が外輪回転軸に直交する姿勢で、軌道溝11に転動可能に嵌挿されている。また、外ローラ31の内周面は、円筒内周面形状、即ち外ローラ31の軸方向に亘ってほぼ同径に形成されている。ただし、外ローラ31の内周面のうち両開口側には、全周に亘ってリング溝31a,31bが形成されている。
【0023】
内ローラ32は、図3(a)および図3(b)に示すように、円筒状に形成されている。この内ローラ32は、トリポード軸部22の外周側に配置され、トリポード軸部22の先端部により軸支される。ここで、内ローラ32の中心軸線であるローラ回転軸Arがトリポード軸部22の軸線Atと一致する姿勢を基準姿勢とした場合に、内ローラ32の内周面には、トリポード軸部22の軸線At方向に延びる2本の凹状溝32a,32bが形成されている。凹状溝32a,32bは、全体形状としては、内ローラ32の円筒内面において、ローラ回転軸Arに沿った直線状に形成されている。
【0024】
また、凹状溝32a,32bは、上記の基準姿勢において、トリポード軸部22の軸線Atに直交する平面での断面形状が角形に形成されている。つまり、内ローラ32は、図4に示すように、トリポード軸部22の突条部22aが凹状溝32aに、トリポード軸部22の突条部22bが凹状溝32bに、所定の隙間をもって嵌合される。よって、内ローラ32は、トリポード軸部22の軸線At方向から見て、中間シャフト2のシャフト回転軸Asと一致する位相に凹状溝32a,32bが位置するように、トリポード軸部22の外周側に配置される。
【0025】
このような構成により、図4に示すように、トリポード軸部22の外周側に内ローラを組付けた状態において、凹状溝32a,32bがトリポード軸部22の軸線At方向に延びるように形成されていることから、所定の隙間をもって嵌合する突条部22a,22bが凹状溝32a,32bの延伸方向にスライド可能となっている。そのため、内ローラ32は、中間シャフト2のシャフト回転軸Asとトリポード軸部22の軸線Atを含む平面においてトリポード軸部22に対する首振り運動を許容される。同様に、内ローラ32は、トリポード軸部22に対してトリポード軸部22の軸線At方向への摺動を許容される。
【0026】
一方で、内ローラ32がトリポード軸部22に対して、トリポード軸部22の軸線At方向とは異なる方向に移動しようとした際には、突条部22a,22bが凹状溝32a,32bの溝側面と接触することになる。つまり、内ローラ32は、突条部22a,22bが凹状溝32a,32bに係止することにより、外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動を規制される。このように、内ローラ32の凹状溝32a,32bは、トリポード軸部22の突条部22a,22bと係止する部位であって、本発明の「係止溝」に相当する。
【0027】
また、内ローラ32の軸方向長さ(ローラ回転軸Ar方向の幅)は、図1に示すように、外ローラ31に形成された両側のリング溝31a,31b間の離間距離に相当する。内ローラ32の外径は、外ローラ31の内径より小さく形成されている。そして、内ローラ32は、外ローラ31の径方向内方に離隔して、且つ外ローラ31と同軸上に配置されている。この内ローラ32と外ローラ31との径方向隙間には、全周に亘って、複数のニードルローラ33が配置されている。そして、このニードルローラ33を介することで、外ローラ31は、内ローラ32に対して相対回転可能とされている。
【0028】
スナップリング34,35は、縮径可能となるように、切り込み部分を有するC字型形状に形成されている止め輪である。これらのスナップリング34,35は、外ローラ31のリング溝31a,31bにそれぞれ嵌め込まれる。そして、スナップリング34,35は、内ローラ32およびニードルローラ33に対して、ローラユニット30の軸方向に引っ掛かるようにされている。つまり、スナップリング34,35は、内ローラ32およびニードルローラ33が、外ローラ31に対して、軸方向に相対的に移動することを規制している。
【0029】
このようなローラユニット30において、内ローラ32およびニードルローラ33は、外ローラ31に固定されるスナップリング34,35によってと共に、外ローラ31と一体的なダブルローラタイプのローラユニット30を構成している。従って、内ローラ32がトリポード軸部22の突条部22a,22bとの係止により一部の首振り運動を規制されると、内ローラ32を含むこのローラユニット30も同様に、外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動を規制されることになる。
【0030】
上述した摺動式トリポード型等速ジョイント1において、トルク伝達を行うと、トリポード軸部22の外周面と内ローラの内周面が楕円形状の接触範囲で接触することになる。図5(a)ではトリポード軸部22の外周面における接触範囲Tr1を示し、図5(b)ではこの範囲に対向する内ローラ32の内周面における接触範囲Tr2を示している。この接触範囲Tr1,Tr2は、伝達されるトルクの大きさによっても変動するものである。また、伝達するトルクの大きさ等しい場合に、接触範囲Tr1,Tr2の面積が小さくなると、その分だけ面圧(単位面積あたりの荷重)が高まることになる。また、トリポード軸部22の突条部22a,22bおよび内ローラ32の凹状溝32a,32bは、トルク伝達には直接的に寄与しない。そのため、本実施形態において、突条部22a,22bおよび凹状溝32a,32bは、図5(a)および図5(b)に示される接触範囲Tr1,Tr2の外部に形成されている。
【0031】
(摺動式トリポード型等速ジョイント1の作用および効果)
次に、上述した摺動式トリポード型等速ジョイント1の作用について図1および図6を参照して説明する。ここで、図1において、トリポード20がシャフト回転軸Asを中心として右回りに回転した場合に、外輪10の軌道溝11のうち図1の右側の溝側面がトルクの負荷側となり、軌道溝11のうち図1の左側の溝側面がトルクの非負荷側となる。例えば、軌道溝11の溝側面をゴシックアーチ形状に形成し、外ローラ31の外周面を単一の曲率半径からなる凸円弧形状に形成しているものとする。この場合に、外ローラ31は、軌道溝11の溝側面と接触箇所が2箇所となるアンギュラコンタクトすることになる。
【0032】
ここで、ジョイント角が付加されていない場合には、外輪回転軸Aoとシャフト回転軸Asが一致することになり、図6(a)に示すように、トリポード軸部22の先端部が内ローラ32の軸方向幅の中央部分に位置している。一方で、ジョイント角を付加してトルク伝達を行うと、トリポード20は、シャフト回転軸Asを中心として回転しながら、外輪回転軸Aoに対して相対的に偏心回転する。この偏心回転は、外輪回転軸Ao方向から見た場合に、隣り合うトリポード軸部22同士がなす角度が中間シャフト2の位相によって変化することから、各トリポード軸部22が外輪10の軌道溝11にそれぞれ収まるために構造上生じるものである。
【0033】
そのため、トリポード軸部22は、図6(b)に示すように、ジョイント角を付加してトルク伝達を行った際に、軸支するローラユニット30に対して、トリポード軸部22の軸線At方向への摺動することになる。さらに、トリポード軸部22は、付加されたジョイント角の分だけ、ローラユニット30に対して、シャフト回転軸Asとトリポード軸部22の軸線Atを含む平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動をする。この時、トリポード軸部22の突条部22a,22bが内ローラ32の凹状溝32a,32bに対してスライドすることにより、これらの摺動および首振り運動を許容している。
【0034】
また、トリポード軸部22がローラユニット30に対して摺動すると、両部材の接触範囲における荷重中心も移動することになる。そうすると、図1に示すように、軌道溝11の溝側面と外ローラ31の外周面におけるアンギュラコンタクトの旋回中心Oaを中心とした図1の左回りのモーメントが発生する。このアンギュラコンタクトの旋回中心Oaは、軌道溝11の延伸方向、即ち外輪回転軸Aoと平行な軸線となっている。つまり、ローラユニット30には、発生したこのモーメントにより外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動をする力が加えられる。そのため、ローラユニット30の姿勢を維持しない場合には、ローラユニット30は、軌道溝11のトルクの非負荷側でも接触し、ローラユニット30と軌道溝11との間にて摩擦力が発生するおそれがある。
【0035】
これに対して、本実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイント1では、図6(b)に示すように、ローラユニット30を旋回中心Oaの回りに回転させようとするモーメントが発生した場合に、トリポード軸部22の突条部22a,22bが内ローラ32の凹状溝32a,32bに係止する。これにより、内ローラ32が外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動を規制されるので、ローラユニット30は、旋回中心Oa回りの回転を規制され、その姿勢を維持される。
【0036】
よって、ローラユニット30を構成する外ローラ31のうち外輪10の軌道溝11とトルク伝達を行っている負荷側の反対側である非負荷側(背面側)が、軌道溝11に接触することを防止することができる。従って、非負荷側の軌道溝11とローラユニット30との接触荷重を低減することができる。結果として、誘起スラスト力を低減することができるとともに、背面側の接触による動力損失や振動発生を抑制することができる。
【0037】
また、凹状溝32a,32bおよび突条部22a,22bは、トリポード軸部22の外周面と内ローラ32の内周面との接触範囲Tr1,Tr2の外部に形成される構成とした。凹状溝32a,32bおよび突条部22a,22bは、トルク伝達には直接的に寄与しないため、接触範囲Tr1,Tr2の内部に形成されると接触範囲Tr1,Tr2の面積を小さくすることになる。そうすると、接触範囲Tr1,Tr2の面積が小さくなった分に応じて面圧(単位面積あたりの荷重)が高まることになる。そこで、上記のような構成にすることにより、接触範囲Tr1,Tr2の面積を確保し、トルク伝達を行う際に接触範囲Tr1,Tr2における面圧が高まることを抑制できる。
【0038】
ここで、凹状溝32a,32bおよび突条部22a,22bは、所定の動作を許容する機能上、または組付ける製造上、両者の間には所定の隙間が設けられることがある。しかし、凹状溝32a,32bに突条部22a,22bが係止する位置と、モーメントの旋回中心Oaとの位置関係によっては、設けられた隙間に応じた分だけローラユニット30の旋回中心Oa回りの回転を許容してしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、凹状溝32a,32bおよび突条部22a,22bの断面形状を角形に形成する構成とした。これにより、突条部22a,22bの角部が凹状溝32a,32bの側面に当接するように両者の間に設けられた隙間が詰められる。これにより、凹状溝32a,32bに突条部22a,22bを確実に係止することができるので、モーメントが発生してもローラユニット30の姿勢を好適に維持することができる。
【0039】
<第二実施形態>
(摺動式トリポード型等速ジョイント101の全体構成)
第二実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイント101について、図7を参照して説明する。本実施形態における摺動式トリポード型等速ジョイント101は、主として、第一実施形態と係止部の構成が相違する。その他の構成については、第一実施形態と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。摺動式トリポード型等速ジョイント101は、外輪10と、中間シャフト2に連結されるトリポード120と、外輪10とトリポード20との間に介在するローラユニット30とを備えて構成される。
【0040】
トリポード120は、ボス部21と、3本のトリポード軸部122とを備える。トリポード軸部122は、図7(a)に示すように、外周面にトリポード軸部122の軸線At方向(図7(a)の上下方向)に沿って上下2箇所ずつ配置された計4個の突起部122a,122bを有している。本実施形態において、突起部122a,122bは、第一実施形態と同様に、トリポード軸部122の軸線At方向から見て、トリポード軸部122の外周面のうちシャフト回転軸Asと一致する位相に配置されている。つまり、トリポード120が外輪10の内側に配置された際に、突起部122aが外輪10の開口側に位置し、突起部122bが外輪10の筒底側に位置する。
【0041】
突起部122a,122bは、全体形状としては、部分球面状に形成されたトリポード軸部122の先端部の外周面から球面中心から径方向外方に向かって突出するように形成されている。また、突起部122a,122bは、トリポード軸部122の軸線Atに直交する平面での断面形状が半円状に形成されている。さらに、突起部122a,122bの幅方向中央部は、トリポード軸部122の軸線At方向から見て、シャフト回転軸Asおよびトリポード軸部122の軸線Atを含む平面内に存するように形成されている。この突起部122a,122bは、内ローラ32の内周面に形成された凹状溝32a,32bと係止する部位であり、本発明の「係止部」に相当する。
【0042】
(摺動式トリポード型等速ジョイント101の作用および効果)
上述したように、本実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイント101における係止部は、第一実施形態における係止部がトリポード軸部22の軸線At方向に延びるように形成された突条部22a,22bであったのに対して、複数の突起部122a,122bとしている点が相違する。
【0043】
ここで、ジョイント角を付加してトルク伝達を行うと、図7(b)に示すように、トリポード軸部122は、軸支するローラユニット30に対して、トリポード軸部122の軸線At方向へ摺動する。さらに、トリポード軸部122は、付加されたジョイント角の分だけ、ローラユニット30に対して、シャフト回転軸Asとトリポード軸部122の軸線Atを含む平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動をする。この時、トリポード軸部122の突起部122a,122bがローラユニット30の凹状溝32a,32bに対してスライドすることにより、これらの摺動および首振り運動を許容している。
【0044】
そして、ローラユニット30を旋回中心Oaの回りに回転させようとするモーメントが発生した場合に、図7(b)に示すように、2個の突起部122aのうち下側の突起部122aが凹状溝32aと係止し、2個の突起部122bのうち上側の突起部122bが凹状溝32bと係止する。これにより、内ローラ32が外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22に対する首振り運動を規制されるので、ローラユニット30は、旋回中心Oa回りの回転を規制され、その姿勢を維持される。よって、ローラユニット30を構成する外ローラ31のうち外輪10の軌道溝11とトルク伝達を行っている負荷側の反対側である非負荷側(背面側)が、軌道溝11に接触することを防止することができる。従って、第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0045】
<第一、第二実施形態の変形態様>
第一、第二実施形態では、係止溝として内ローラ32の内周面に凹状溝32a,32bが形成され、係止部としてトリポード軸部22,122の外周面に突条部22a,22bまたは突起部122a,122bが形成されるものとした。これに対して、係止溝と係止部の配置関係を入れ換えてもよい。具体的には、係止溝としてトリポード軸部22の外周面に凹状溝が形成され、係止部として内ローラ32の内周面に突条部または突起部が形成されるものとしてもよい。このような構成においても第一、第二実施形態と同様に作用すると共に、同様の効果を奏する。
【0046】
また、第一、第二実施形態では、トリポード軸部22の軸線At方向から見て、トリポード軸部22,122の外周面のうちシャフト回転軸Asと一致する2箇所の位相に突条部22a,22bまたは突起部122a,122bを形成するものとした。さらに、内ローラ32の内周面には、トリポード軸部22,122の軸線At方向に延びる2本の凹状溝32a,32bが形成されるものとした。これに対して、突条部22a,22b(突起部122a,122b)および凹状溝32a,32bは、何れか一対のみとするものとしてもよい。このような構成においても第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0047】
さらに、係止部は、第一実施形態ではトリポード軸部22の先端部において部分球面が形成された上部から下部に亘って形成された突条部22a,22bとし、第二実施形態ではトリポード軸部122の外周面に上下2箇所ずつ配置された計4個の突起部122a,122bとした。これに対して、係止部は、トリポード軸部22,122の外周面のうち上側または下側のみに配置されるものとしてもよい。具体的には、第一実施形態では、トリポード軸部22の先端部において部分球面が形成された上部または下部のみに突条部22a,22bが形成されるものとしてもよい。また、第二実施形態では、トリポード軸部122の先端部において上側または下側のみの計2個の突起部が形成されるものとしてもよい。このような構成においても第一、第二実施形態と同様の効果を奏する。
【0048】
第一、第二実施形態において、係止溝(凹状溝32a,32b)と、これに係止する係止部(突条部22a,22b、突起部122a,122b)は、トリポード軸部22,122の軸線At方向から見て、シャフト回転軸Asと一致する位相に配置されるものとした。上述したように、係止溝および係止部は、トルク伝達を行う際に、外輪回転軸Aoに直交する平面内においてトリポード軸部22,122に対する内ローラ32の首振り運動を規制しつつ、その他の首振り運動およびトリポード軸部22の軸線方向への摺動を許容する構成であればよい。そのため、係止溝および係止部が配置される位相は、上記の位相に限られず、トリポード軸部22,122の軸線At回りの何れの位相に設ける構成としてもよい。
【0049】
但し、係止溝および係止部は、ローラユニット30がシャフト回転軸Asとトリポード軸部22の軸線Atを含む平面内においてトリポード軸部22,122に対する首振り運動を許容する必要がある。そのため、何れの位相に配置された場合においても、係止部の幅方向中央部は、トリポード軸部22,122の軸線At方向から見て、シャフト回転軸Asとトリポード軸部22,122の軸線Atを含む平面に平行な平面内に存するように形成される必要がある。
【0050】
さらに、トリポード軸部22,122と内ローラ32の接触範囲Tr1,Tr2における面圧の上昇を防止する観点からは、接触範囲Tr1,Tr2の外部となる位相に配置することが好適である。また、ローラユニット30に発生するモーメントは、外輪回転軸Aoと平行な軸線である旋回中心Oaを中心とするものである。そのため、係止溝である凹状溝32aと係止部である突条部22aが係止する位置は、モーメントの旋回中心Oaから離間しているほどローラユニット30の姿勢を好適に維持することができる。そこで、凹状溝32aと突条部22aをシャフト回転軸Asの上に位置するトリポード軸部22の軸線At回りの位相に設けることにより、係止する位置と旋回中心Oaとの距離を確保し、負荷側および非負荷側が入れ代わってもローラユニット30の姿勢を好適に維持することができる。
【符号の説明】
【0051】
1,101:摺動式トリポード型等速ジョイント、 2:中間シャフト
10:外輪、 11:軌道溝
20:トリポード、 21:ボス部、 21a:内歯スプライン
22,122:トリポード軸部、 22a,22b:突条部(係止部)
122a,122b:突起部(係止部)
30:ローラユニット、 31:外ローラ、 31a,31b:リング溝
32:内ローラ、 32a,32b:凹状溝(係止溝)
33:ニードルローラ(ニードル)、 34,35:スナップリング
Ao:外輪回転軸、 As:シャフト回転軸
At:トリポード軸の軸線、 Ar:ローラ回転軸
Tr1,Tr2:接触範囲、 Oa:旋回中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
前記軌道溝に転動可能に配置される外ローラと、
前記トリポード軸部の外周側に軸支され、前記シャフトの軸線と前記トリポード軸部の軸線を含む平面内において前記トリポード軸部に対する首振り運動および前記トリポード軸部の軸線方向への摺動を許容される内ローラと、
前記外ローラの内周面と前記内ローラの外周面との間に転動可能に介在するニードルと、
前記外ローラに固定され、前記外ローラに対する前記内ローラおよび前記ニードルの軸方向移動を規制するスナップリングと、
を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記トリポード軸部の外周面と当該外周面に対向する前記内ローラの内周面とのうち一方に前記トリポード軸部の軸線方向に延びる係止溝が形成され、他方に前記係止溝に係止する係止部が形成され、
前記内ローラは、前記トリポード軸部との間でトルク伝達を行う際に、前記係止部が前記係止溝に係止することにより、前記外輪回転軸に直交する平面内において前記トリポード軸部に対する首振り運動を規制される摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1において、
前記係止溝および前記係止部は、前記トリポード軸部と前記内ローラとの間でトルク伝達を行う際に、前記トリポード軸部の外周面と前記内ローラの内周面との接触範囲の外部に形成されている摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記係止溝および前記係止部は、前記トリポード軸部の軸線に直交する平面での断面形状が角形に形成されている摺動式トリポード型等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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