説明

摺動式トリポード型等速ジョイント

【課題】トリポード軸部の強度を低下させず、部品点数を増加させることなく、トリポード軸部基端部と転動体端部との干渉を回避することができる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供する。
【解決手段】本発明の摺動式トリポード型等速ジョイントは、トリポード軸部22が、台座部221と、円柱軸部222と、台座部221と円柱軸部222とをつなぎ台座部222に近づくほど拡径する拡径部223と、を備え、軸状転動体40は、台座部221に当接する一端部42と、他端部43と、一端部42と他端部43をつなぐ胴体部41と、を備え、一端部42は、胴体部41の径よりも小さい径である小径形状に形成され、一端部42の端面が台座部221に当接しかつ胴体部41が円柱軸部222に当接した状態で、拡径部223との間に隙間Aを形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式トリポード型等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
摺動式トリポード型等速ジョイントは、例えば特開昭62−233522号公報(特許文献1)に記載のように、外輪の軌道溝とシャフトに連結されたトリポード軸部との間に、軸状からなる転動体を介して回転可能にローラを配置している。トリポード軸部の側面(外周面)と転動体の側面(外周面)とは、駆動時に当接し、トルクが伝達される。トリポード軸部の側面は、研磨処理により研磨されている。トリポード軸部の基端部には、転動体の端面を当接させるための段差(台座部)が形成されている。
【0003】
ここで、研磨処理は、研磨工具を用いて行われる。トリポード軸部の基端部では、段差が存在するため最端部まで研磨ができず、基端ほど拡径する湾曲状の研磨残りが形成される。この状態で転動体を配置すると、駆動時に、研磨残りと転動体が当接して干渉することで不具合が発生するおそれがある。
【0004】
そこで、従来では、研磨残りの部分を別の研磨工具等で削り取って、トリポード軸部基端部全周に凹状の窪み(以下、研磨逃しと称する)を形成していた。あるいは、研磨逃しを形成せずに、転動体とトリポード軸部の段差との間に下リテーナを介在させていた。これらの措置により、転動体端部とトリポード軸部基端部との干渉が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−233522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、研磨逃しを形成すると、トリポード軸部基端部の径が小さくなり且つ小さな凹形状が形成されるため、基端部が細くなるうえ凹形状部分に応力集中が起こり、トリポード軸部の強度が低くなる。トリポード軸部は、トルク伝達による負荷を集中的に受ける部位であり、強度の低下によって耐久寿命も低下してしまう。
【0007】
また、転動体と段差との間に下リテーナを介在させる方法をとると、部品点数が増加し、製造コストが増加してしまう。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、トリポード軸部の強度を低下させず、部品点数を増加させることなく、トリポード軸部基端部と転動体端部との干渉を回避することができる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、シャフトに連結されるボス部、および、各前記軌道溝に挿入されるように前記ボス部の外周面から前記ボス部の径方向外方にそれぞれ延びるように立設された3本のトリポード軸部を有するトリポードと、前記軌道溝に回転可能に挿入されるローラと、前記ローラの内周面と前記トリポード軸部の外周面との間に転動可能に介在する複数の軸状転動体と、を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、前記トリポード軸部は、前記ボス部の外周面に設けられ前記軸状転動体の端面が当接する台座部と、前記ボス部の径方向外方に延び前記軸状転動体の側面が当接する円柱状の円柱軸部と、前記台座部と前記円柱軸部とをつなぎ前記台座部に近づくほど拡径する拡径部と、を備え、前記軸状転動体は、前記台座部側の端部であり端面が前記台座部に当接する一端部と、前記一端部と反対側の端部である他端部と、前記一端部と前記他端部をつなぐ胴体部と、を備え、前記一端部は、前記胴体部の径よりも小さい径である小径形状に形成され、前記一端部の端面が前記台座部に当接しかつ前記胴体部が前記円柱軸部に当接した状態で、前記拡径部との間に隙間を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、トリポード軸部に研磨逃しが形成されておらず、研磨残りに相当する拡径部は形成されたままである。このため、トリポード軸部の強度は維持される。あるいは、拡径部により、トリポード軸部の強度強化が可能となる。また、トリポード軸部の拡径部と軸状転動体の一端部との間には隙間が形成されているため、両者の干渉は回避される。また、本発明によれば、下リテーナが必要なく、部品点数の増加が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】等速ジョイント1の一部の径方向断面図である。
【図2】トリポード軸部22の基端部を示す径方向断面図である。
【図3】トリポード軸部22の基端部の変形態様を示す径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の摺動式トリポード型等速ジョイント(以下、単に「等速ジョイント」と称する。)を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。ここで、本実施形態の等速ジョイントは、車両の動力伝達シャフトの連結に用いる場合を例に挙げて説明する。例えば、ディファレンシャルギヤに連結された軸部とドライブシャフトの中間シャフトとの連結部位に用いる場合である。
【0013】
本実施形態の等速ジョイント1について、図1、図2を参照して説明する。図1は、等速ジョイント1の一部の径方向断面図である。図2は、トリポード軸部22の基端部を示す径方向断面図である。
【0014】
等速ジョイント1は、図1に示すように、外輪10と、トリポード20と、ローラ30と、軸状転動体40と、リテーナ50と、スナップリング60とから構成される。また、上記の中間シャフトは、ドライブシャフトを構成し、等速ジョイント1により図示しないディファレンシャルギヤに連結された軸部と連結される軸部材である。
【0015】
外輪10は、筒状(例えば、有底筒状)に形成されており、一端側において一体的に形成された連結軸部がディファレンシャルギヤに連結されている。そして、外輪10の筒状部分の内周面には、外輪回転軸方向(図1の前後方向)に延びる3本の軌道溝11が形成されている。これら3本の軌道溝11は、筒状部分の内周面において、外輪10の回転軸の周方向に等間隔(120deg間隔)に形成されている。なお、図1においては、1本の軌道溝11のみを示す。各軌道溝11の溝延伸方向に直交する断面形状は、外輪10の回転軸中心に向かって開口するコの字形状をなしている。つまり、各軌道溝11は、ほぼ平面状に形成された溝底面と、相互に対向し深さ方向中央部における対向距離が最も大きくなるように円弧凹状に形成される両側の溝側面とから構成される。
【0016】
トリポード20は、外輪10の筒状部分の内側に配置されている。このトリポード20は、ボス部21と、3本のトリポード軸部22とから構成される。ボス部21は、筒状に形成されており、その内周側には内歯スプライン21aが形成されている。この内歯スプライン21aは、図示しない中間シャフトの端部に形成された外歯スプラインに嵌合連結される。また、ボス部21の外周面は、ほぼ球面凸状に形成されている。
【0017】
それぞれのトリポード軸部22は、ボス部21の外周面からボス部21の径方向外方にそれぞれ延びるように立設されている。これらのトリポード軸部22は、ボス部21の周方向に等間隔(120deg間隔)に形成されている。そして、それぞれのトリポード軸部22の少なくとも先端部は、外輪10の各軌道溝11に挿入されている。
【0018】
さらに詳細に、トリポード軸部22は、台座部221と、円柱軸部222と、拡径部223と、先端部224と、を備えている。台座部221は、円盤状であって、端面の垂線がボス部21の径方向外方に延びるように、ボス部21の外周面に形成されている。台座部221の端面縁部には、軸状転動体40の端面が当接する。
【0019】
円柱軸部222は、円柱状であって、後述する拡径部223からボス部21の径方向外方に延びるように形成されている。円柱軸部222は、軸状転動体40の側面に当接する。
【0020】
拡径部223は、図1および図2に示すように、台座部221と円柱軸部222をつなぐ部位である。拡径部223は、トリポード軸部22の軸方向直交断面が円形状であって、径が台座部221に近づくほど徐々に大きくなるように形成されている。
【0021】
拡径部223の最小径は、拡径部223先端位置(ボス部21の径方向外方端)であって、円柱軸部222とほぼ同径である。拡径部223の最大径は、拡径部223基端位置であって、台座部221の径よりも小さい。拡径部223の基端は、台座部221の端面中央に位置する。
【0022】
トリポード軸部22の軸方向断面において、拡径部223の側面形状は、弧凹状となっている。本実施形態において、拡径部223は、トリポード軸部22側面を研磨した際、円柱軸部222基端と台座部221端面の間で研磨しきれず残った部分に相当する。
【0023】
先端部224は、円柱軸部222の先端から同軸にボス部21の径方向外方に延びるように形成されている。先端部224は、円柱形状の外周面に周方向全周に亘って、スナップリング60を嵌装するための環状溝224aが形成されたものである。
【0024】
ローラ30は、環状に形成されている。このローラ30の外周面は、軌道溝11に対応する形状、即ち軌道溝11の溝側面を反転した円弧凸状からなるそして、ローラ30は、その中心軸が外輪回転軸に直交する姿勢で、外輪10の軌道溝11の溝側面に回転可能に且つ揺動可能に挿入される。また、ローラ30の内周面は、ほぼ円筒状、即ちローラ30の中心軸方向に亘ってほぼ同径に形成されている。このローラ30の内周面は、例えば、ローラ30の中心軸方向の幅中央部で内径が最小となるように円弧凸状に形成されるものとしてもよい。
【0025】
軸状転動体40は、ローラ30の内周面とトリポード軸部22の外周面との間に転動可能に介在するニードルローラである。つまり、軸状転動体40は、トリポード軸部22の外周を循環するように転動する。そして、この軸状転動体40は、トリポード軸部22の基端に形成された台座部221に対してトリポード軸方向に係合している。このような軸状転動体40がトリポード軸部22の外周に複数配置されている。これにより、ローラ30は、複数の軸状転動体40を介して、トリポード軸部22の中心軸(以下、「トリポード軸」とも称する)回りに回転可能に、且つ、トリポード軸方向に摺動可能に軸支される。
【0026】
詳細に、軸状転動体40は、胴体部41と、一端部42と、他端部43と、からなっている。胴体部41は、円柱状であって、軸状転動体40の軸方向中央部分を構成している。胴体部41は、円柱軸部222と当接する。
【0027】
一端部42は、軸状転動体40の台座部221側の端部であって、胴体部41の台座部221側端から同軸に延びている。一端部42は、軸状転動体40の軸方向直交断面が円形状であって、径が胴体部41の径よりも小さく形成された小径形状となっている。本実施形態における一端部42の小径形状は、台座部221に近づくほど徐々に縮径するように形成されている。軸状転動体40の軸方向断面において、一端部42の側面形状は、弧凸状となっている。
【0028】
一端部42の端面は、台座部221の端面に当接する。一端部42が延在する高さ(台座部221端面からの垂直高さ)は、拡径部223が延在する高さ以上となっている。
【0029】
一端部42は、軸状転動体40(一端部42)の端面を台座部221の端面に当接させ且つ軸状転動体40(胴体部41)の側面を円柱軸部222の側面に当接させた状態で、拡径部223との間に隙間Aを形成する。換言すると、上記状態において、一端部42と拡径部223の間には隙間Aが形成されている。つまり、上記状態において、拡径部223は、軸状転動体40と当接しない。
【0030】
他端部43は、軸状転動体40のうち一端部42と反対側の端部である。他端部43は、一端部42と対称の形状であって、台座部221から遠ざかるほど縮径している。
【0031】
リテーナ50は、トリポード軸部22の外周側であって、軸状転動体40よりもトリポード軸部22の先端側に配置される。このリテーナ50は、トリポード軸部22の外周に配置された複数の軸状転動体40を全周に亘り抜け止めする部材である。そして、リテーナ50は、後述するスナップリング60によりトリポード軸部22の先端側に移動する方向に係止される。つまり、軸状転動体40は、トリポード軸部22の台座部221とリテーナ50との間に挟まれるように配置されている。
【0032】
スナップリング60は、C字形状の止め輪であり、本実施形態では断面が円形状に形成されている。スナップリング60は、その弾性力に抗して拡径され、トリポード軸部22の先端側から挿入された後に縮径し、トリポード軸部22の環状溝224aに嵌装される。この時、スナップリング60の断面円形状の中心が環状溝224aの外部となるように嵌装される。つまり、スナップリング60は、トリポード軸部22の外周面から突起し、リテーナ50がトリポード軸部22の先端側に移動する方向にリテーナ50を係止している。
【0033】
本実施形態によれば、トリポード軸部22の拡径部223と、軸状転動体40の一端部42との間に隙間Aが形成されている。このため、拡径部223と軸状転動体40との干渉は回避される。また、台座部221と円柱軸部222の間に研磨逃しが設けられておらず、トリポード軸部22の強度は低下せずに維持される。さらに、下リテーナなどの他の部材を用いる必要がなく、部品点数の増加を防止することができる。
【0034】
(変形態様)
本発明は、上記実施形態に限らない。一端部42の小径形状は、以下のような形状でもよい。例えば、図3に示すように、一端部42側面の軸方向断面形状は、弧凹状であってもよい。ただし、図2に示す小径形状のほうが、一端部42と胴体部41との境目のエッジが小さくなり、トルク伝達時の応力集中を抑制することができる。また、一端部42側面は、テーパ状に形成されてもよい。また、一端部42は、胴体部41の径よりも小さい径の円柱状に形成されてもよい。また、一端部42は、上記形状を組み合わせたもの、例えば円柱部分(台座部221側)と断面弧状部分(胴体部41側)とを組み合わせた形状であってもよい。
【0035】
また、他端部42は、胴体部41と略同径の円柱状であってもよい。これによれば、本実施形態よりも円柱軸部222と軸状転動体40の接触面積が大きくなり、駆動時の面圧をさらに小さく保つことができる。ただし、本実施形態のほうが、軸状転動体40を組み付ける際に組み付け方向を注意する必要がなく、作業性は高くなる。
【0036】
また、軸状転動体40は、クラウニング処理が施されていてもよい。この場合、例えば胴体部41は、端部に向かうほど縮径する形状となっている。一端部42の小径形状は、胴体部41の最小径よりも小さい径に形成される。また、拡径部223の軸方向断面形状は、弧凸状であっても、テーパ状であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1:等速ジョイント
10:外輪、 11:軌道溝
20:トリポード、 21:ボス部、 22:トリポード軸部
221:台座部、 222:円柱軸部、 223:拡径部、 224:先端部
224a:環状溝
30:ローラ
40:軸状転動体、 41:胴体部、 42:一端部、 43:他端部
50:リテーナ、 60:スナップリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、各前記軌道溝に挿入されるように前記ボス部の外周面から前記ボス部の径方向外方にそれぞれ延びるように立設された3本のトリポード軸部を有するトリポードと、
前記軌道溝に回転可能に挿入されるローラと、
前記ローラの内周面と前記トリポード軸部の外周面との間に転動可能に介在する複数の軸状転動体と、
を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記トリポード軸部は、前記ボス部の外周面に設けられ前記軸状転動体の端面が当接する台座部と、前記ボス部の径方向外方に延び前記軸状転動体の側面が当接する円柱状の円柱軸部と、前記台座部と前記円柱軸部とをつなぎ前記台座部に近づくほど拡径する拡径部と、を備え、
前記軸状転動体は、前記台座部側の端部であり端面が前記台座部に当接する一端部と、前記一端部と反対側の端部である他端部と、前記一端部と前記他端部をつなぐ胴体部と、を備え、
前記一端部は、前記胴体部の径よりも小さい径である小径形状に形成され、前記一端部の端面が前記台座部に当接しかつ前記胴体部が前記円柱軸部に当接した状態で、前記拡径部との間に隙間を形成することを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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