説明

摺動式トリポード型等速ジョイント

【課題】外輪の軽量化が可能となる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供する。
【解決手段】本発明は、外輪10と、トリポード20と、外輪10の軌道溝11に転動可能に配置されるローラ30と、を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、軌道溝11の側面は、半径がR0の凹円弧状に形成され、ローラ30の外周面は、凸弧状に形成され軌道溝11の側面との設定接触点Tを含みローラ30の軸方向に設定された幅をもつ設定接触部位31と、凸弧状に形成され設定接触部位31からローラ30の端面に向けてローラ30の軸方向に設定された幅をもつエッジ部位31と、を備え、設定接触部位31の曲率半径をR1とし、エッジ部位32の曲率半径をR2とした場合に、R0>R1>R2の関係となるように設定され、エッジ部位32と軌道溝11の側面との離間距離は、設定接触部位31と軌道溝11の側面との離間距離以上となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動式トリポード型等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
摺動式トリポード型等速ジョイントとして、例えば、特公平3−1528号公報(特許文献1)および実開平3−121228号公報(特許文献2)に開示されたものがある。この等速ジョイントは、トリポード軸部とローラとの間に複数の転動体を介在させた構成からなり、ローラは、外輪の軌道溝に挿入されている。そして、特許文献1、2には、ローラの外周面と外輪の軌道溝との接触状態として、一部位で接触するサーキュラコンタクトと、二位置で接触するアンギュラコンタクトが開示されている。そして、アンギュラコンタクトの方が、サーキュラコンタクトに比べて、外輪の軸方向に生じる誘起スラスト力が低減されると記載されている。なお、この誘起スラスト力は、車体の振動や騒音の発生原因となり、車両のNVH性能に影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平3−1528号公報
【特許文献2】実開平3−121228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今では、摺動式トリポード型等速ジョイントの軽量化が求められており、外輪の軽量化が1つの課題となっている。外輪を軽量化するためには、3つの軌道溝の側面部位および天井部位(底面部位)を薄肉化することが要求される。
【0005】
しかし、軌道溝の上記部位を薄肉化すると、ローラによるトルク伝達時に外輪(軌道溝)が弾性変形しやすくなる。これにより、軌道溝の曲率半径(外輪回転軸方向に直交する方向の断面形状における曲率半径)が小さくなるほうに変形する。その結果、接触しないように設計されているローラの軸方向端部と軌道溝とがエッジ当たりする可能性が高くなる。つまり、外輪を薄肉化すると、外輪がローラとのエッジ当たりにより高面圧負荷を受けてしまい、外輪の耐久性が悪化するという問題がある。また、エッジ当たりが生じる状態で、ローラが軌道溝を転動し続けると、さらに外輪の耐久性は悪化すると考えられる。
【0006】
一方で、ローラの軸方向端部と軌道溝とが接触しないようにするために、ローラ外周面全体の曲率半径を小さくし、ローラの軸方向端部を軌道溝から十分に離間させることが考えられる。しかし、この場合は、トルク伝達におけるローラと軌道溝との接触面積が小さくなり、設定された接触点(設計上弾性変形していない状態での接触点)における面圧が高くなってしまう。この場合も、上記同様、外輪の耐久性を悪化させる虞がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、外輪の耐久性の悪化を防ぎ、外輪の軽量化が可能となる摺動式トリポード型等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、
筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
環状に形成され、それぞれの前記トリポード軸部の外周側に回転可能に軸支され、且つ、前記軌道溝に転動可能に配置されるローラと、
を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記軌道溝の側面は、前記外輪回転軸方向に直交する方向の断面形状において、半径がR0の凹円弧状に形成され、
前記ローラの外周面は、前記ローラの軸方向の断面形状において、凸弧状に形成され前記軌道溝の側面との設定接触点を含み前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ設定接触部位と、凸弧状に形成され前記設定接触部位から前記ローラの端面に向けて前記ローラの軸方向に設定された幅をもつエッジ部位と、を備え、
前記ローラの前記設定接触部位の曲率半径をR1とし、前記ローラの前記エッジ部位の曲率半径をR2とした場合に、R0>R1>R2の関係となるように設定され、
前記エッジ部位と前記軌道溝の側面との離間距離は、前記設定接触部位と前記軌道溝の側面との離間距離以上となることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記ローラの外周面が、前記ローラの軸方向の断面形状において、さらに、前記エッジ部位に連続して前記ローラの軸方向端部に形成された面取り部位を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記面取り部位が、曲率半径R3の凸弧状に形成され、R2>R3の関係となるように設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、ローラ外周面において、エッジ部位の曲率半径R2が設定接触部位の曲率半径R1よりも小さく、且つ、エッジ部位におけるローラと軌道溝との離間距離は設定接触部位以上になっている。これにより、ローラ軸方向端部と軌道溝の離間距離が十分に保たれ、弾性変形した軌道溝の側面とローラの軸方向端部とがエッジ当たりすることが抑制されて、トルク伝達時に外輪がローラから高面圧を受けることは防がれる。また、ローラ外周面において、設定接触点を含む設定接触部位の曲率半径R1は、エッジ部位の曲率半径R2よりも大きく、ローラ外周面において最も軌道溝の曲率半径R0に近い値となる。これにより、トルク伝達時に、ローラと軌道溝との接触面積が小さくなるのが防がれ、設定接触点が高面圧となることは防がれる。
【0012】
このように、請求項1に係る発明によれば、ローラと軌道溝とのエッジ当たり及び接触面圧が高くなることが抑制されるため、外輪の耐久性の悪化が防がれ、外輪の薄肉化による軽量化が可能となる。なお、本発明において「エッジ部位」とは、設定された一定の幅を有するものであり、面取りのような局部的なものを除く概念である。また、本発明において「設定接触点」とは、設計上、ローラ及び外輪が弾性変形していない状態での両者の接触点を意味する。また、ローラ外周面の各部位において、凸弧状とは、単一Rだけでなく複合Rを含む意味である。つまり、曲率半径R1、R2は一定値に限られない。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、ローラの軸方向端部に面取り部位が形成されているため、よりエッジ当たりを抑制できる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、面取り部位は、曲率半径がR2より小さい凸弧状となっているため、エッジ当たりを抑制できる上、仮にエッジ当たりが起きた場合でも丸みのある曲面であるため面圧を小さくできる。
【0015】
ところで、本発明は、サーキュラコンタクトであっても適用でき、以下のようにも記載できる。すなわち、本発明は、
筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
環状に形成され、それぞれの前記トリポード軸部の外周側に回転可能に軸支され、且つ、前記軌道溝に転動可能に配置されるローラと、
を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記軌道溝の側面は、前記外輪回転軸方向に直交する方向の断面形状において、半径がR0の凹円弧状に形成され、
前記ローラの外周面は、前記ローラの軸方向の断面形状において、凸弧状に形成され前記軌道溝の側面との設定接触点を含み前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ設定接触部位と、凸弧状に形成され前記設定接触部位から前記ローラの一端面に向けて前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ第一エッジ部位と、凸弧状に形成され前記設定接触部位から前記ローラの他端面に向けて前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ第二エッジ部位と、を備え、
前記ローラの前記設定接触部位の曲率半径をR1とし、前記ローラの前記第一エッジ部位の曲率半径をR21とし、前記ローラの前記第二エッジ部位の曲率半径をR22とした場合に、R0>R1>R21、且つ、R1>R22の関係となるように設定され、
前記ローラの外周面と前記軌道溝の側面との離間距離は、前記ローラの軸方向端部に向かうほど大きくなることを特徴とする。これにより、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる。
【0016】
また、上記サーキュラコンタクトの摺動式トリポード型等速ジョイントにおいて、さらに、前記ローラの外周面は、前記ローラの軸方向の断面形状において、前記第一エッジ部位に連続して前記ローラの軸方向一端部に形成された第一面取り部位と、前記第二エッジ部位に連続して前記ローラの軸方向他端部に形成された第二面取り部位と、を備えてもよい。これにより、請求項2に係る発明と同様の効果が得られる。
【0017】
また、第一面取り部位および第二面取り部位は、凸弧状に形成されてもよく、第一面取り部位の曲率半径をR31、第二面取り部位の曲率半径をR32とした場合、R21>R31、且つ、R22>R32の関係になるように設定されることが好ましい。これにより、請求項3に係る発明と同様の効果が得られる。
【0018】
一方、本発明がアンギュラコンタクトである場合、以下のようにも記載できる。すなわち、本発明は、
筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
環状に形成され、それぞれの前記トリポード軸部の外周側に回転可能に軸支され、且つ、前記軌道溝に転動可能に配置されるローラと、
を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記軌道溝の側面と前記ローラの外周面とは、アンギュラコンタクトとなる二位置の設定接触点で接触し、
前記軌道溝の側面は、前記外輪回転軸方向に直交する方向の断面形状において、半径がR0の凹円弧状であり、
前記ローラの外周面は、
前記ローラの軸方向の断面形状において、
凸弧状に形成され前記軌道溝の側面との設定接触点のうち一方の設定接触点を含み前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ第一設定接触部位と、
凸弧状であり前記軌道溝の側面との設定接触点のうち他方の設定接触点を含み前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ第二設定接触部位と、
凸弧状であり前記第一設定接触部位から前記ローラの一端面に向けて前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ第一エッジ部位と、
凸弧状であり前記第二設定接触部位から前記ローラの他端面に向けて前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ第二エッジ部位と、
を備え、
前記第一設定接触部位の曲率半径をR11とし、前記第二設定接触部位の曲率半径をR12とし、前記第一エッジ部位の曲率半径をR21とし、前記第二エッジ部位の曲率半径をR22とする場合、R0>R11>R21、且つ、R0>R12>R22の関係となるように設定され、
前記ローラの外周面と前記軌道溝の側面との離間距離は、前記第一設定接触部位内の設定接触点から前記ローラの一端面に向かうほど大きくなり、且つ、前記第二設定接触部位内の設定接触点から前記ローラの他端面に向かうほど大きくなることを特徴とする。これにより、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる。
【0019】
また、上記アンギュラコンタクトの摺動式トリポード型等速ジョイントにおいて、さらに、前記ローラの外周面は、前記ローラの軸方向の断面形状において、前記第一エッジ部位に連続して前記ローラの軸方向一端部に形成された第一面取り部位と、前記第二エッジ部位に連続して前記ローラの軸方向他端部に形成された第二面取り部位と、を備えてもよい。これにより、請求項2に係る発明と同様の効果が得られる。
【0020】
第一および第二面取り部位は、凸弧状に形成されてもよく、第一面取り部位の曲率半径をR31とし、第二面取り部位の曲率半径をR32とする場合、R21>R31、且つ、R22>R32の関係となるように設定することが好ましい。これにより、請求項3に係る発明と同様の効果が得られる。
【0021】
また、本発明は、ダブルローラタイプの摺動式トリポード型等速ジョイントにも適用できる。例えば、内ローラと外ローラとニードルローラ等を備えるローラユニット(本発明における「ローラ」に相当する)の外周面に対して、本発明を適用することができる。この場合も上記同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一実施形態:等速ジョイントの一部の径方向断面図である。
【図2】ローラ30の軸方向の拡大部分断面図である。
【図3】第二実施形態:ローラ130の軸方向の拡大部分断面図である。
【図4】第三実施形態:ローラ230の軸方向の拡大部分断面図である。
【図5】第四実施形態:ローラ330の軸方向の拡大部分断面図である。
【図6】第五実施形態:ローラ430の軸方向の拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第一実施形態>
(摺動式トリポード型等速ジョイントの構成)
第一実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントについて、図1及び図2を参照して説明する。摺動式トリポード型等速ジョイントは、例えば、車両の動力伝達シャフトの連結に用いられる。具体的には、ディファレンシャルギヤに連結された軸部とドライブシャフトとの連結部位に用いられる。なお、図面は、説明の都合上、一部寸法を拡張して表している。
摺動式トリポード型等速ジョイントは、外輪10と、トリポード20と、ローラ30と、複数の軸状転動体40と、リテーナ50と、スナップリング60とから構成される。
【0024】
外輪10は、有底筒状に形成され、外輪10の底面外側は、ディファレンシャルギヤに連結されている。外輪10の内周面には、外輪回転軸方向に延びる軌道溝11が等間隔に3本形成されている。なお、図1においては、1本の軌道溝11のみを示す。この軌道溝11の両側の溝側面(以下、側面と称する)における外輪回転軸に直交する方向の断面形状は、曲率半径R0の凹円弧形状に形成されている。
【0025】
トリポード20は、外輪10の内側に配置されている。このトリポード20は、ボス部21と、3本のトリポード軸部22とを備える。ボス部21は、筒状に形成され、その内周側にはスプライン内歯21aが形成されている。このスプライン内歯21aは、ドライブシャフト(図示せず)の端部のスプライン外歯に噛合される。また、ボス部21の外周面は、ほぼ球面凸状に形成されている。
【0026】
それぞれのトリポード軸部22は、ボス部21の外周面からそれぞれボス部21の径方向外方に延びるように立設されている。これらのトリポード軸部22は、ボス部21の周方向に等間隔(120°間隔)に形成されている。そして、それぞれのトリポード軸部22の少なくとも先端部は、外輪10のそれぞれの軌道溝11内に挿入されている。また、トリポード軸部22の先端側には、周方向全周に亘ってリング溝22aが形成されている。
【0027】
ローラ30は、環状に形成されている。具体的には、ローラ30の内周面は、円筒状内周面を形成している。つまり、ローラ30の内周面におけるローラ軸方向(図1の上下方向)の断面形状は、ローラ軸に平行な直線状に形成されている。ローラ30の外周面におけるローラ軸方向の断面形状は、径方向外方に凸となる凸弧状に形成されている。ローラ30の外周面についての詳細は後述する。
このローラ30は、トリポード軸部22の外周側に複数の軸状転動体40を介して軸支されている。つまり、軸状転動体40は、トリポード軸部22の外周面とローラ30の内周面との間に介在している。そして、軸状転動体40は、トリポード軸部22の外周面とローラ30の内周面とに転動する。
【0028】
従って、ローラ30は、複数の軸状転動体40を介してトリポード軸(トリポード軸部22の中心軸X、図1の上下方向)回りに回転可能に設けられている。さらに、ローラ30は、トリポード軸部22に対してトリポード軸方向に移動可能に設けられ、且つ、トリポード軸部22に対して揺動することを規制されて設けられている。ローラ30は、軌道溝11に嵌挿され、軌道溝11に転動可能に係合している。
【0029】
リテーナ50は、トリポード軸部22の外周側であって、軸状転動体40の図1の上方に積層するように配置される。このリテーナ50は、軸状転動体40の抜け止めの役割を有している。そして、リテーナ50は、トリポード軸部22のリング溝22aに係止されるスナップリング60により、トリポード軸部22から抜け落ちないようにされている。
【0030】
(ローラ30の外周面の詳細形状)
ローラ30の外周面のうちローラ軸方向の断面形状の詳細について、図1に加えて図2を参照して説明する。ローラ30の外周面について、ローラ軸方向の断面形状で説明する。
図2に示すように、ローラ30の外周面は、設定接触部位31と、第一エッジ部位32と、第二エッジ部位33と、を備えている。設定接触部位31は、ローラ30の軸方向中央部に位置し、ローラ30と軌道溝11との設定接触点Tを含んでいる。第一実施形態は、サーキュラコンタクトであり、設定接触点は1つである。設定接触部位31は、ローラ30の軸方向に、設定された幅を有している。当該幅は、例えば、ローラ30の軸方向の幅に対し3/5〜4/5程度に設定される。設定接触部位31は、曲率半径がR1で一定(すなわち半径がR1)の凸円弧状に形成されている。ここで、曲率半径R1は、軌道溝11の側面の半径R0よりも若干小さくなっている(R0>R1)。
【0031】
第一エッジ部位32は、ローラ30の軸方向一端側(図1、2における上端側)に位置し、ローラ30の軸方向に設定された幅を有している。第一実施形態において、第一エッジ部位32は、設定接触部位31の一端(上端)からローラ30の軸方向一端(上端)までの部位である。当該幅としては、例えば、ローラ30の軸方向の幅に対し1/10〜1/5程度に設定される。第一エッジ部位32は、設定接触部位31に連続して、曲率半径がR21で一定(すなわち半径R21)の凸円弧状に形成されている。ここで、曲率半径R21は、設定接触部位31の曲率半径R1よりも小さくなっている(R1>R21)。第一エッジ部位32は、設定接触部位31との境界において、設定接触部位31と接線が共通するように形成されている。つまり、設定接触部位31と第一エッジ部位32は滑らかに連続している。
【0032】
第二エッジ部位33は、ローラ30の軸方向他端側(図1、2における下端側)に位置し、ローラ30の軸方向に設定された幅を有している。第一実施形態において、第二エッジ部位33は、設定接触部位31の他端(下端)からローラ30の軸方向他端(下端)までの部位である。当該幅としては、例えば、ローラ30の軸方向の幅に対し1/10〜1/5程度に設定される。第二エッジ部位33は、設定接触部位31に連続して、曲率半径がR22で一定(すなわち半径R22)の凸円弧状に形成されている。ここで、曲率半径R22は、設定接触部位31の曲率半径R1よりも小さくなっている(R1>R22)。第二エッジ部位33は、設定接触部位31との境界において、設定接触部位31と接線が共通するように形成されている。つまり、設定接触部位31と第二エッジ部位33は滑らかに連続している。なお、各部位31〜33は、設定された一定の幅を有するものである。
【0033】
ローラ30の外周面において、曲率半径は、R0>R1>R21、且つ、R1>R22の関係となっている。ローラ30の外周面と軌道溝11の側面との離間距離は、ローラ30の軸方向端部に向かうほど大きくなっている。なお、離間距離は、ローラ30の軸方向断面において、ローラ30の軸方向に直交する方向における距離である。また、本実施形態では、R21=R22となっているが、これに限られない。また、各部位の境界において、部位同士が滑らかに連続している(接線が共通している)必要はなく、ローラ30の軸方向端部に向けて上記離間距離が大きくなるように形成されていればよい。換言すれば、R0>R1>R21、且つ、R1>R22の関係の上、各エッジ部位32、33と軌道溝11の側面との離間距離が、設定接触部位31と軌道溝11の側面との離間距離以上となっていればよい。
【0034】
(作用効果)
第一実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントによれば、ローラ30の外周面において、曲率半径は、R0>R1>R21、且つ、R1>R22の関係となり、且つ、ローラ30の外周面と軌道溝11の側面との離間距離は、ローラ30の軸方向端部に向かうほど大きくなっている。これにより、トルク伝達時に軌道溝11がローラ30側に弾性変形した際でも、ローラ30の軸方向端部で離間距離を有しているため、軌道溝11とローラ30とのエッジ当たり発生を抑制できる。また、設定接触部位31の曲率半径R1は、エッジ部位32、33の曲率半径より大きく、より軌道溝11の曲率半径R0に近づけることができる。これにより、トルク伝達時の圧力が設定接触点Tに集中することが防がれ、ローラ30と軌道溝11との接触における面圧を小さくすることができる。さらには、仮にエッジ当たりが生じた際でも、各エッジ部位32、33が曲面であるため、軌道溝11(外輪10)に高い面圧がかかることを防止できる。
【0035】
このように、本実施形態によれば、外輪10にエッジ当たりによる高い面圧がかかるのが効果的に防がれ、且つ、設定接触部位における高面圧化が抑制される結果、外輪10の耐久性の悪化が防止される。これにより、外輪10の薄肉化が可能となり、外輪10の軽量化が可能となる。
【0036】
なお、ローラ30の外周面形状(全体または各部位の形状)は、ローラ軸方向断面において、楕円やインボリュートであってもよい。つまり、各曲率半径R1、R21、R22は、一定値に限られず、上記関係を満たすものであれば、所定の関数値であってもよい。また、曲率半径R1と曲率半径R21、R22とは、異なる関数による関数値であってもよい。例えば、設定接触部位31が楕円で、エッジ部位32、33がそれとは別の楕円であってもよく、あるいは、設定接触部位31が単一Rの円弧で、エッジ部位32、33が楕円であってもよい。これにより、設定接触部位31を軌道溝11の側面の円弧に近い形状とすることができ、面圧増加が防止される上、エッジ部位32、33と軌道溝11との離間距離を十分に保つことが可能となる。上記楕円の代わりに、インボリュートであってもよい。
【0037】
<第二実施形態>
第二実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントを構成するローラ130について、図3を参照して説明する。なお、第一実施形態と同一要素については、同一符号を付して説明を省略する。ローラ130の外周面形状については、ローラ130の軸方向の断面形状で説明する。
【0038】
ローラ130の外周面は、設定接触部位31と、第一エッジ部位132と、第二エッジ部位133と、第一面取り部位134と、第二面取り部位135と、を備えている。第一面取り部位134は、第一エッジ部位132に連続してローラ130の軸方向一端部(上端部)に形成されている。第一面取り部位134は、ローラ130の軸方向一端部(上端部)を面取りして形成されている。本実施形態において、面取り形状は、平面状となっている(C面取り)。第一エッジ部位132は、設定接触部位31の一端(上端)から第一面取り部位134までの部位となる。
【0039】
第二面取り部位135は、第二エッジ部位133に連続してローラ130の軸方向他端部(下端部)に形成されている。第二面取り部位135は、ローラ130の軸方向他端部(下端部)を面取りして形成されている。面取り形状は、平面状となっている(C面取り)。第二エッジ部位133は、設定接触部位31の他端(下端)から第二面取り部位135までの部位となる。
【0040】
ローラ130の軸方向端部に面取り部位134、135を形成することで、ローラ130の外周面と軌道溝11の側面との離間距離が、ローラ130の軸方向端部においてより大きくなる。これにより、よりエッジ当たりを抑制することができる。
【0041】
なお、第二実施形態は、第一実施形態のローラ30の外周面のうち軸方向端部に面取りを施したものに相当する。つまり、各エッジ部位132、133(本発明における「エッジ部位」)は、面取りされた部位とは別部位であり、面取りの有無に関わらず、一般の面取りよりも大きな幅を有するものである。
【0042】
<第三実施形態>
第三実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントを構成するローラ230について、図4を参照して説明する。第三実施形態は、第二実施形態の面取り部位134、135の面取り形状を曲面状(R面取り)としたものである。なお、第二実施形態と同一要素については、同一符号を付して説明を省略する。ローラ230の外周面形状については、ローラ230の軸方向の断面形状で説明する。
【0043】
ローラ30の外周面は、設定接触部位31と、第一エッジ部位132と、第二エッジ部位133と、第一面取り部位234と、第二面取り部位235と、を備えている。第一面取り部位234は、第一エッジ部位132に連続してローラ230の軸方向一端部(上端部)に形成されている。第一面取り部位234は、ローラ130の軸方向一端部(上端部)をR面取りして形成されている。第一面取り部位234は、曲率半径がR31の凸円弧状となっている。曲率半径R31は、第一エッジ部位132の曲率半径R21よりも小さくなっている(R21>R31)。
【0044】
第二面取り部位235は、第二エッジ部位133に連続してローラ130の軸方向他端部(下端部)に形成されている。第二面取り部位235は、ローラ130の軸方向他端部(下端部)をR面取りして形成されている。第二面取り部位235は、曲率半径がR32の凸円弧状となっている。曲率半径R32は、第二エッジ部位133の曲率半径R22よりも小さくなっている(R22>R32)。
【0045】
これにより、第二実施形態同様、ローラ130の軸方向端部における上記離間距離が大きくなり、よりエッジ当たりを抑制することができる。また、仮にエッジ当たりが生じた場合でも、ローラ130の軸方向端部が曲面であるため、高面圧となるのを防ぐことができる。なお、エッジ部位の一方をR面取り、他方をC面取りとしてもよい。
【0046】
<第四実施形態>
第四実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントを構成するローラ330について、図5を参照して説明する。なお、第一実施形態と同一要素については、同一符号を付して説明を省略する。第四実施形態では、ローラ330の外周面と軌道溝11の側面とが二位置の設定接触点T1、T2で接するアンギュラコンタクトとなっている。ローラ330の外周面については、ローラ330の軸方向の断面形状で説明する。
【0047】
ローラ130の外周面は、第一設定接触部位331と、第二設定接触部位332と、第一エッジ部位333と、第二エッジ部位334と、を備えている。第一設定接触部位331は、2つの設定接触点T1、T2のうち一方(上側)の設定接触点T1を含み、ローラ330の軸方向に設定された幅を有している。当該幅は、例えば、ローラ330の軸方向の幅に対し3/10〜2/5程度に設定される。第一設定接触部位331は、曲率半径がR11で一定(すなわち半径R11)の凸円弧状に形成されている。この曲率半径R11は、軌道溝11の側面の曲率半径R0よりも小さくなっている(R0>R11)。
【0048】
第二設定接触部位332は、2つの設定接触点T1、T2のうち他方(下側)の設定接触点T2を含み、ローラ330の軸方向に設定された幅を有している。当該幅は、例えば、ローラ330の軸方向の幅に対し3/10〜2/5程度に設定される。第二設定接触部位332は、曲率半径がR12で一定(すなわち半径R12)の凸円弧状に形成されている。この曲率半径R12は、軌道溝11の側面の曲率半径R0よりも小さくなっている(R0>R12)。本実施形態において、第二設定接触部位332は、第一設定接触部位331の他端(下端)に連続して形成されている。
【0049】
第一エッジ部位333は、ローラ330の軸方向において、第一設定接触部位331の一端(上端)からローラ330の軸方向一端(上端)までの部位である。第一エッジ部位333は、曲率半径がR21で一定(すなわち半径R21)の凸円弧状に形成されている。曲率半径R21は、第一設定接触部位331の曲率半径R11よりも小さくなっている(R11>R21)。
【0050】
第二エッジ部位334は、ローラ330の軸方向において、第二設定接触部位332の他端(下端)からローラ330の軸方向他端(下端)までの部位である。第二エッジ部位334は、曲率半径がR22で一定(すなわち半径R21)の凸円弧状に形成されている。曲率半径R22は、第二設定接触部位332の曲率半径R11よりも小さくなっている(R12>R22)。
【0051】
第四実施形態によれば、アンギュラコンタクトであっても、第一実施形態同様、各設定接触部位331、332の曲率半径R11、R12の大きさを軌道溝11の側面の曲率半径R0に近づけることができると共に、ローラ330の軸方向端部における軌道溝11側面との離間距離を大きくすることができる。これにより、第一実施形態同様の効果が得られる。なお、第一設定接触部位331と第二設定接触部位332とは、連続して形成されていなくてもよく、両部位間に別の部位(図示せず)を設けてもよい。
【0052】
<第五実施形態>
第五実施形態の摺動式トリポード型等速ジョイントを構成するローラ430について、図6を参照して説明する。なお、第四実施形態と同一要素については、同一符号を付して説明を省略する。第五実施形態は、第四実施形態のローラ330の軸方向端部に面取りを施したものである。ローラ430の外周面については、ローラ430の軸方向の断面形状で説明する。
【0053】
ローラ430の外周面は、第一設定接触部位331と、第二設定接触部位332と、第一エッジ部位433と、第二エッジ部位434と、第一面取り部位435と、第二面取り部位436と、を備えている。
【0054】
第一面取り部位435は、第一エッジ部位433に連続してローラ430の軸方向一端部(上端部)に形成されている。第一面取り部位435は、ローラ430の軸方向一端部(上端部)をR面取りして形成されている。第一面取り部位435は、曲率半径がR31で一定(すなわち半径R31)の凸円弧状となっている。曲率半径R31は、第一エッジ部位433の曲率半径R21よりも小さくなっている(R21>R31)。
【0055】
第二面取り部位436は、第二エッジ部位434に連続してローラ430の軸方向他端部(下端部)に形成されている。第二面取り部位436は、ローラ430の軸方向他端部(下端部)をR面取りして形成されている。第二面取り部位436は、曲率半径がR32で一定(すなわち半径R32)の凸円弧状となっている。曲率半径R32は、第二エッジ部位434の曲率半径R22よりも小さくなっている(R22>R32)。
これにより、第五実施形態は、第二実施形態と同様の効果が得られる。なお、面取り部位435、436の少なくとも一方が平面状に形成されていてもよい。
【0056】
<その他>
図示しないが、第一〜第五実施形態におけるローラは、ダブルローラタイプ(内ローラ、外ローラ、及び、ニードルローラを有するローラユニット等)のものにも適用できる。この場合、例えば、軌道溝に対する外ローラの外周面形状を、上記本実施形態のローラの外周面と同様に形成することで、本実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0057】
10:外輪、 11:軌道溝
20:トリポード、 21:ボス部、 21a:スプライン内歯
22:トリポード軸部、 22a:リング溝
30,130,230,330,430:ローラ、
31:設定接触部位、 331:第一設定接触部位、 332:第二設定接触部位、
32,132,333,433:第一エッジ部位、
33,133,334,434:第二エッジ部位、
134,234,435:第一面取り部位、
135,235,436:第二面取り部位、
40:軸状転動体、 50:リテーナ、 60:スナップリング、
R0:半径、 R1,R11,R12,R21,R22,R31,R32:曲率半径、
X:トリポード軸部の中心軸、 T,T1,T2:設定接触点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、内周面に外輪回転軸方向に延びる3本の軌道溝が形成された外輪と、
シャフトに連結されるボス部、および、前記ボス部の外周面からそれぞれ前記ボス部の径方向外方に延びるように立設されそれぞれの前記軌道溝に挿入される3本のトリポード軸部を備えるトリポードと、
環状に形成され、それぞれの前記トリポード軸部の外周側に回転可能に軸支され、且つ、前記軌道溝に転動可能に配置されるローラと、
を備える摺動式トリポード型等速ジョイントであって、
前記軌道溝の側面は、前記外輪回転軸方向に直交する方向の断面形状において、半径がR0の凹円弧状に形成され、
前記ローラの外周面は、前記ローラの軸方向の断面形状において、凸弧状に形成され前記軌道溝の側面との設定接触点を含み前記ローラの軸方向に設定された幅をもつ設定接触部位と、凸弧状に形成され前記設定接触部位から前記ローラの端面に向けて前記ローラの軸方向に設定された幅をもつエッジ部位と、を備え、
前記ローラの前記設定接触部位の曲率半径をR1とし、前記ローラの前記エッジ部位の曲率半径をR2とした場合に、R0>R1>R2の関係となるように設定され、
前記エッジ部位と前記軌道溝の側面との離間距離は、前記設定接触部位と前記軌道溝の側面との離間距離以上となることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1において、
前記ローラの外周面は、前記ローラの軸方向の断面形状において、さらに、前記エッジ部位に連続して前記ローラの軸方向端部に形成された面取り部位を備えることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。
【請求項3】
請求項2において、
前記面取り部位は、曲率半径R3の凸弧状に形成され、
R2>R3の関係となるように設定されることを特徴とする摺動式トリポード型等速ジョイント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate