説明

摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物及びそれを用いた摺動部品

【課題】 従来よりも高荷重、あるいは高速度の摺動条件においても優れた摺動性を示す、PBN樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリブチレンナフタレート樹脂97〜92質量部とポリエチレン系樹脂3〜8質量部とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記ポリエチレン系樹脂が(A)高密度ポリエチレン樹脂および(B)酸変性ポリエチレン樹脂からなり、かつそれぞれの含有量が(A)<(B)であることを特徴とする摺動性に優れた熱可塑性ポリブチレンナフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンナフタレート(以下、PBNとも表記する)樹脂組成物に関し、詳しくは該ポリブチレンナフタレート樹脂組成物で成形した成形品が摺動性、摩擦摩耗特性に優れていることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、数多くの樹脂がOA機器やAV機器等の電気電子部品や自動車・機械部品等の摺動部品として使用されている。樹脂が摺動部材に採用されている理由として、その優れた摺動性に加え、部品の軽量化がはかれること、形状の自由度が大きいこと、耐蝕性が優れていること、静音性が優れていること等があげられる。樹脂の中でも熱可塑性樹脂は射出成形による量産化が可能なことから汎用的に用いられている。
また、熱可塑性樹脂の中でも摺動性の点から結晶性樹脂が好まれ、摺動部品用途における代表的な結晶性樹脂として古くより、ポリアセタール(以下、POMと略す)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略す)が知られている。しかしながら、POMは優れた摺動性を有しているものの、成形条件による寸法の変化が大きいため厳格な成形条件の管理を必要とするとともに、摩擦摩耗特性(ざらつき摩耗性)に劣る欠点があり、摩擦摩耗で樹脂が削れた場合、他部品に影響を与えたり、摺動性が変化する欠点がある。また、PBTはガラス転移温度が低い(約23℃)こともあり、摺動性の温度依存性が大きく、性能としてもPOMには劣る。一方、PBNが摺動性に優れ、かつ摩擦摩耗特性、寸法安定性にも優れた樹脂として提案されている(特許文献1)。しかしながら、PBNはその摺動時の荷重、速度が比較的小さい場合には、優れた摺動性を有するものの、より高荷重やより高速度の領域になるにつれ摺動性が低下する問題があることがわかった。
ところで、PBNに対してオレフィン系樹脂を添加して耐衝撃性を改善する提案がなされているものの(特許文献2)、摺動性の改善についての検討はなされていない。
【0003】
【特許文献1】:特許第2599853号公報
【特許文献2】:特開平5−339478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような背景をもとに、より高荷重、あるいはより高速度の摺動条件においても優れた摺動性を示す、PBN樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成する本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1) ポリブチレンナフタレート樹脂97〜92質量部とポリエチレン系樹脂3〜8質量部とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記ポリエチレン系樹脂が(A)高密度ポリエチレン樹脂および(B)酸変性ポリエチレン樹脂からなり、かつそれぞれの含有量が(A)<(B)であることを特徴とする摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物。
(2)(A)高密度ポリエチレン樹脂が1〜3質量部、(B)酸変性ポリエチレン樹脂が3〜5質量部である前記(1)に記載の摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物。
(3)(B)酸変性ポリエチレン樹脂が、無水マレイン酸変性されたポリエチレンである前記(1)又は(2)に記載の、摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリブチレンナフタレート樹脂組成物を用いた摺動部品。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、少量の高結晶性のポリエチレン樹脂と少量の酸変性ポリエチレンとが併用されてPBN中に高結晶性のポリエチレン樹脂が酸変性ポリエチレンの相溶化剤的な役割によって良好に分散しているため、本来相溶性が悪い系の組成物でありながら、成形品の表層剥離を抑制することができ、PBN樹脂単独に比べて、より高荷重、あるいは高速度の摺動条件においても優れた耐摩擦磨耗性を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、PBNとはナフタレンジカルボン酸、好ましくはナフタレン−2.6−ジカルボン酸を主たる酸成分とし、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステル、すなわち繰り返し単位の全部または大部分(通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上)がブチレンナフタレートであるポリエステルである。
【0008】
また、このPBNには物性を損なわない範囲で、次の成分の共重合が可能である。すなわち、酸成分としてはナフタレンジカルボン酸以外の芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフィドジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、脂環族ジカルボン酸、例えばシクロへキサンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸が例示される。
【0009】
グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロへキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、カテコール、レゾルシンノール、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルケトン、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシジフェニルスルフォン等が例示される。
【0010】
オキシカルボン酸成分としては、オキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシジフェニルカルボン酸、ω−ヒドロキシカプロン酸等が例示される。
また、PBNが実質的に成形性能を損なわない範囲で三官能以上の化合物、例えばグリセリン、トリメチルプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸等を共重合しても良い。
【0011】
かかるPBNはナフタレンジカルボン酸および/またはその機能的誘導体とテトラメチレングリコールおよび/またはその機能的誘導体を、従来公知の芳香族ポリエステル製造法を用いて重縮合して得られる。
【0012】
本発明のPBNの製造には、公知の任意の方法が適用できる。例えば、溶融重合法、溶液重合法、固相重合法などいずれも適宜用いられる。溶融重合法の場合、エステル交換法でも直接重合法であても良い。樹脂の粘度を向上させるため、溶融重合後に固相重合を行うことはもちろん望ましいことである。また、ポリエステルの重合後、エポキシ化合物等で鎖延長させても良い。
【0013】
反応に用いる触媒としては、アンチモン触媒、ゲルマニウム触媒、チタン触媒が良好である。特にチタン触媒、詳しくはテトラブチルチタネート、テトラメチルチタネートなどのテトラアルキルチタネート、シュウ酸チタンカリなどのシュウ酸金属塩などが好ましい。またその他の触媒としては公知の触媒であれば特に限定されないが、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウリレートなどのスズ化合物、酢酸鉛などの鉛化合物が挙げられる。
【0014】
本発明で用いる(A)高密度ポリエチレン樹脂は、エチレン単独重合体あるいはエチレンとα−オレフィンとの共重合体である。α−オレフィンとしては、直鎖または分岐鎖状の炭素数3〜20のオレフィンが好ましく、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンを挙げることができる。またそれらを2種類以上組み合わせて使用しても良い。これら共重合体の中でも、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が経済性の観点から好適である。
(A)高密度ポリエチレン樹脂の密度は、0.94以上であれば特に限定されるものではない。ここで、密度は、JIS K6922−2に準拠し測定する値である。
【0015】
本発明の組成物を構成する酸変性ポリエチレン樹脂は、酸無水物基を変性成分として含有するものである。用いる変性成分としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられるが、特に無水マレイン酸が好ましい。
酸変性ポリエチレン樹脂における酸変性率(ポリエチレンに対する酸無水物基の結合率)は、0.05〜1質量%が好ましい。0.05質量%未満ではPBNとの反応性が低く、1質量%を超えると反応性が過度に高くなり、溶融粘度が上昇してゲル状化する可能性がある。
一方、変性されたポリエチレン樹脂として、メタクリル酸グリシジルエステルやアクリル酸グリシジルエステル等に代表されるグリシジルエステル基を有する不飽和モノマーを共重合させたものも一般によく用いられるが、これらの変性ポリエチレン樹脂を使用した場合、耐衝撃性などの特性向上に大きく寄与するものの、摺動性の改良には寄与度が低いため本発明の熱可塑性樹脂組成物には好ましくない。
【0016】
上述のようなPBN樹脂と(A)高密度ポリエチレン樹脂及び(B)酸変性ポリエチレン樹脂の配合割合は、PBNが97〜92質量部、(A)+(B)が3〜8質量部であり、かつ配合量は、(A)<(B)である。(A)+(B)は好ましくは3〜5質量部である。(A)+(B)が3質量部未満の場合、摺動性の改良効果が低く、8質量部より多くなると樹脂組成物の強度や耐熱性の低下が大きくなり好ましくない。また、(A)≧(B)の場合はPBNとの相溶性が悪くなり、層間剥離等の問題が発生する可能性があるため好ましくない。
【0017】
また、本発明に用いる熱可塑性PBN樹脂組成物には、更にその目的に応じ所望の特性を付与するために、その物性を著しく損なわない範囲で、他の添加剤、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタンカリ繊維等の繊維状強化材、カーボンブラック、シリカ、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどの粉状充填材、マイカ、ガラスフレーク等の板状充填材、難燃剤、難燃助剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、結晶化促進剤、衝撃性改良剤等を添加することができる。
【0018】
さらに、本発明に用いる熱可塑性PBN樹脂組成物はそれ自体で優れた摺動特性をもっているが、用途によってさらに改良された摺動特性が要求されるときには他の樹脂の改良の場合と同様に各種の摺動性改良剤を添加することができる。かかる摺動性改良剤としてはポリテトラフルオロエチレンや潤滑油、滑剤などが挙げられる。これらの摺動性改良剤は2種以上の併用も可能である。通常これらの摺動性改良剤は0.5〜20質量部の範囲で樹脂に添加される。
【0019】
本発明の熱可塑性PBN樹脂組成物を用いた摺動部品とは特に限定されるものではないが、代表的な部品例としては各種の家電製品、事務機器や自動車部品で用いられるギア、カム、軸受け、ロールなどが挙げられる。
【0020】
本発明の熱可塑性PBN樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、一般の製造装置で製造することができる。例えば、PBN樹脂、ポリエチレン系樹脂、さらには必要に応じて添加剤等を配合した混合物を溶融・混練する方法を挙げることができる。溶融・混練装置としては単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー等が例示されるが、モルフォロジー構造の点から二軸押出機が好ましい。
【0021】
本発明の熱可塑性PBN樹脂組成物よりなる成形品は摺動性が優れているだけではなく、良好な摩擦摩耗特性、耐熱性を有している。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<評価方法>
1.スラスト摩耗試験(摺動性)
摺動性の評価として、
JISK7218A法にしたがって測定した。相手材としてS45Cを用い、すべり距離:1kmで、以下の3種の条件(面圧、すべり速度)で摩擦係数を測定した。
条件1:面圧 7.5kgf/cm、すべり速度10cm/s
条件2:面圧17.9kgf/cm、すべり速度10cm/s
条件3:面圧17.9kgf/cm、すべり速度30cm/s
【0023】
2.ざらつき摩耗試験(摩擦摩耗特性)
摩擦摩耗特性の評価として、下記の装置、条件にて摩耗量を測定した。
株式会社マイズ試験機製テーバー摩耗試験機
ホイール:H−22ホイール
荷重 :1kg重
回転 :1000回転
【0024】
3.表層状態
ISO規格に準じて成形、引張試験をおこなったサンプルの、試験後の破断面を目視により観察し、 表層剥離全くなし(○)、層間剥離やや発生あり(△)、層間剥離発生著しい(×)を判定した。
表層剥離なしの場合は、混合樹脂の分散性が非常に良好なことがわかり、層間剥離発生ありの場合は、混合樹脂の分散性(相溶性)が悪いことがわかる。
<原材料>
使用した原材料樹脂は以下のものである。
・PBN樹脂 : 東洋紡積(株)製 還元粘度ηsp/c=0.80
・(A)高密度ポリエチレン樹脂 : プライムポリマー(株)製 HiZEX6203B
・(B)酸変性ポリエチレン樹脂 : 日本ポリエチレン(株)製 アドテックスDH0200
・ポリエチレン-メタクリル酸グリシジルエステル-アクリル酸エステル共重合体
: 住友化学(株)製 ボンドファーストBF−7M
・ポリブチレンテレフタレート樹脂 : 東洋紡績社製 PBT N1000
・ポリアセタール樹脂 : ポリプラスチックス(株)製 ジュラコンM90−44
【0025】
実施例1、2、比較例1〜6
PBN樹脂とポリエチレン系樹脂をそれぞれ表1に示す割合で均一に混合し、35mm押出機で溶融混練した。得られたペレットを水分率が0.05%以下に十分に乾燥後、射出成形機にて摺動特性、摩擦摩耗特性測定評価用の試験片及び表層状態確認用の試験片を成形した。得られた成形品の評価結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、実施例1、2は、摩擦係数が低く、摩耗量が少なく、表層状態が良好であるのに対し、比較例は摩擦係数、摩耗量、表層状態のいずれかで劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の熱可塑性PBN樹脂組成物は、摺動特性、摩擦摩耗特性に優れた成形品を得ることができ、より幅広い範囲でのPBN樹脂の使用が可能となり、産業上寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンナフタレート樹脂97〜92質量部とポリエチレン系樹脂3〜8質量部とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記ポリエチレン系樹脂が(A)高密度ポリエチレン樹脂および(B)酸変性ポリエチレン樹脂からなり、かつそれぞれの含有量が(A)<(B)であることを特徴とする摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(A)高密度ポリエチレン樹脂が1〜3質量部、(B)酸変性ポリエチレン樹脂が3〜5質量部である、請求項1に記載の摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(B)酸変性ポリエチレン樹脂が、無水マレイン酸変性されたポリエチレンである請求項1又は2に記載の摺動性に優れたポリブチレンナフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリブチレンナフタレート樹脂組成物を用いた摺動部品。

【公開番号】特開2010−111759(P2010−111759A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285114(P2008−285114)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】