説明

撥水剤組成物

【課題】 撥水性が良好であり、組成物および処理物の経時による着色を防止できるシリコーン系の撥水剤組成物を提供する。
【解決手段】 (A)以下の一般式 [R13SiO1/2]a[SiO2]b (1)(R1はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基、a/b=0.5〜1.5)で示されるトリアルキルシロキシシリケート100質量部と、(B)以下の一般式
【化1】


(R2はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基; nは10〜3000の自然数)で示されるオルガノポリシロキサン10〜500質量部と、(C)以下の一般式Zr(OX)4 (3)(Xはそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基)で示されるテトラアルコキシジルコニウム及び/又はその部分加水分解縮合物を総量で10〜300質量部と、(D)有機溶剤100〜300000質量部とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば、繊維、皮革、紙などの表面に塗布して乾燥させることにより、良好な撥水性を付与できるシリコーン系の撥水剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然繊維、合成繊維、皮革、紙などに撥水性を付与する方法として、シリコーン系撥水剤が使用されてきた。特に、シリコーン系撥水剤のうち撥水性能が良好なものとしてトリアルキルシリケートとアルコキシチタンを含有したものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
又、加水分解性基含有ポリオルガノシロキサンと、テトラアルコキシチタンやテトラアルコキシジルコニウム等の金属アルコキシドとを含有したシリコーン系撥水剤がある(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特公昭31-3798号公報
【特許文献2】特開2000-186279号公報
【特許文献3】特開平7-305053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2記載の撥水剤の場合、架橋剤としてアルコキシチタンを使用しているため、経時により撥水剤組成物や撥水剤による処理物が着色する問題がある。
又、特許文献3記載の撥水剤は、撥水剤や処理物の着色を防止するものではなく、テトラアルコキシジルコニウムの記載はあるが、具体的な使用例の記述はない。
従って、本発明の目的は、撥水性が良好であり、組成物および処理物の経時による着色を防止できるシリコーン系の撥水剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、上記の目的を達成するために、本発明の撥水剤組成物は、(A)以下の一般式 [R13SiO1/2]a[SiO2]b (1)(R1はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基、a/b=0.5〜1.5)で示されるトリアルキルシロキシシリケート100質量部と、(B)以下の一般式
【化1】

(R2はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基; nは10〜3000の自然数)で示されるオルガノポリシロキサン10〜500質量部と、(C)以下の一般式Zr(OX)4 (3)(Xはそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基)で示されるテトラアルコキシジルコニウム及び/又はその部分加水分解縮合物を総量で10〜300質量部と、(D)有機溶剤100〜300000質量部
とからなる。
前記(C)成分がテトラプロポキシジルコニウム及び/又はテトラブトキシジルコニウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、撥水性が良好であり、組成物および処理物の経時による着色を防止できるシリコーン系の撥水剤組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態に係る撥水剤組成物について説明する。本発明の撥水剤組成物は、以下の(A)〜(D)成分を必須として含む。
【0008】
[(A)成分]
(A)成分は、本発明の撥水剤組成物に撥水作用を付与し、一般式
[R13SiO1/2]a[SiO2]b (1)
(R1はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基、a/b=0.5〜1.5)で示されるトリアルキルシロキシシリケートからなる。
R1としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル基が挙げられる。これらのうち、メチル基が撥水性の面から好ましい。
a/b=0.5〜1.5とし、好ましくは0.6〜1.4とする。a/bが0.5未満であると、(D)成分である有機溶剤に対する溶解性が乏しくなり、a/bが1.5を超えると撥水性が低下する。
(A)成分は、例えばトリオルガノクロロシラン、トリオルガノヒドロキシシラン、ヘキサオルガノジシロキシシラン、水ガラス、アルキルポリシリケート等を加水分解させる公知の方法で得ることができる。
【0009】
[(B)成分]
(B)成分は、撥水剤組成物に造膜性を付与し、一般式
【化1】

(R2はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基; nは10〜3000の自然数)で表されるオルガノポリシロキサンからなる。
【0010】
R2は炭素数1〜10の1価アルキル基であれば特に制限されないが、撥水性を向上させる点からR2の全量のうち90mol%以上はメチル基であることが好ましい。なお、R2がヒドロキシ基やアルコキシ基等の加水分解性基を含むと、(C)成分であるテトラアルコキシジルコニウムと架橋してしまい、造膜付与効果が消失するため、アルキル基である必要がある。
nは10〜3000の自然数であり、より好ましくは15〜2,000の自然数である。nが10未満であると揮発成分が多くなり、組成物の処理乾燥時に(B)成分が揮発してしまうので、(B)成分を添加する効果が低減する。nが3,000を超えると造膜効果が低下する。
【0011】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し10〜500質量部であり、より好ましくは20-400質量部である。(B)成分の配合量が10質量部未満であると造膜効果が低下し、500質量部を超えると撥水性が低下する。
【0012】
[(C)成分]
(C)成分は、以下の一般式
Zr(OX)4 (3)
(Xはそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基)で示されるテトラアルコキシジルコニウム及び/又はその部分加水分解縮合物である。
(C)成分は、空気中の水分と反応し、アルコールを放出しながら速やかに縮合して処理対象物表面に被膜を形成する。(C)成分それ自体は撥水性が高くないが、この被膜中に(A)成分が共存することによって、撥水性に優れた被膜となる。
Xとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。これらのうち、安定性の面からプロピル基、ブチル基が好ましい。
(C)成分としてジルコニウム系化合物を用いることにより、組成物および処理物の経時による着色を防止できる。
【0013】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し10〜300質量部であり、好ましくは20〜200質量部である。(C)成分の配合量が10質量部未満であると、架橋効果が弱くなって撥水性が低下する。(C)成分の配合量が300質量部を超えると組成物の保存安定性が低下する。
【0014】
[(D)成分]
(D)成分である有機溶剤は、上記(A)、(B)、(C)成分を均一溶解させるものである。(D)成分としては、プロパノール、ブタノール等の1価アルコール類;プロピレングリコール等の2価アルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等の揮発性オルガノポリシロキサン類があげられる。これらは単独又は2種類以上を併用することができる。これらのうち、安全性、乾燥性の面から、イソフ゜ロハ゜ノール、n-ヘキサン、n-ヘフ゜タン、又は沸点200℃以下のイソハ゜ラフィンが好ましい。
【0015】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し100〜300,000質量部であり、好ましくは200〜100,000質量部である。(D)成分の配合量が100質量部未満であると組成物の保存安定性が低下し、300,000質量部を超えると処理物の撥水性が低下する。
【0016】
[その他の成分]
本発明の撥水剤組成物に、本発明の特性を損なわない範囲で他の撥水剤、撥油剤、防虫剤、柔軟剤、帯電防止剤、着色剤、縮合反応触媒などを添加してもよい。
【0017】
本発明の撥水剤組成物を用いた撥水処理方法としては、浸漬、スフ゜レー塗布、ローラ塗布、はけ塗り、さらにはLPGや炭酸カ゛スなどの噴射カ゛スによるエアソ゛ール化によって処理することがあげられる。
なお、本発明の撥水剤組成物は、上記撥水処理によって溶媒が蒸発して被膜を形成する。
【0018】
<実施例>
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。又、実施例において示す「部」及び「%」は特に明示しない限り、質量部及び質量%を示す。
【実施例1】
【0019】
(A)成分として[(CH3)3SiO1/2]0.43[SiO2]0.57であるトリメチルシリケート(A1)100部と、(B)成分として(CH3) 3Si-[(CH3) 2SiO] 80-Si(CH3) 3であるシ゛メチルホ゜リシロキサン(B1)150部と、(C)成分であるテトラアルコキシジルコニウム1としてZr(OC4H9) 4(オルカ゛チックスZA60:松本製薬工業製、有効成分85%)150部と、(D)成分としてイソプロパノール(D1)3600部とを配合し、撥水性組成物を得た。
【実施例2】
【0020】
(A)成分として、上記A1に代えて[(CH3)3SiO1/2]0.55[SiO2]0.45であるトリメチルシリケート(A2)100部を用い、(D)成分としてD1に代え、D1を3530部とトルエン(D2)70部との混合物を用いたこと以外は、実施例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【実施例3】
【0021】
(B)成分として、上記B1に代えて(CH3) 3Si-[(CH3) 2SiO] 2000-Si(CH3) 3であるシ゛メチルホ゜リシロキサン(B2)150部を用いたこと以外は、実施例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【実施例4】
【0022】
(C)成分として、上記テトラアルコキシジルコニウム1に代え、テトラアルコキシジルコニウム2としてZr(OC3H7) 4(オルカ゛チックスZA40:松本製薬工業製、有効成分74%)150部を用いたこと以外は、実施例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【実施例5】
【0023】
(C)成分であるテトラアルコキシジルコニウム1の配合量を250部に変更したこと以外は、実施例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【0024】
<比較例1>
(C)成分のテトラアルコキシジルコニウム1に代え、テトラアルコキシチタンであるTi(OC4H9) 4(B−1:日本曹達製、有効成分99%) 150部を用いたこと以外は、実施例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【0025】
<比較例2>
(C)成分のテトラアルコキシジルコニウム1に代え、テトラアルコキシチタンTi(OC4H9) 4の部分加水分解縮合物(B−4:日本曹達製、有効成分95%) 150部を用いたこと以外は、実施例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【0026】
<比較例3>
テトラアルコキシチタンの配合量を30部に変更し、(D)成分の配合量を3720部に変更したこと以外は、比較例1とまったく同様にして撥水性組成物を得た。
【0027】
<評価>
得られた硬化物の撥水性および着色防止性を以下のように評価した。
(1)撥水性
綿フ゛ロート゛布を撥水剤組成物に浸漬後、マンク゛ルで絞り室温で12時間乾燥させて処理布を作成した。処理布の撥水性をJIS L1092のスフ゜レー法に準拠して評価した。
評価の値が高い程、撥水性が良好である。
【0028】
(2)着色防止性
(2−1)撥水性組成物の着色防止性
各実施例及び比較例の撥水剤組成物を無色透明カ゛ラス瓶に入れた直後(初期)、及びこのガラス瓶を屋内の南側窓際に2ヶ月放置後の外観の着色状態をそれぞれ目視評価した。
撥水性組成物が無色のものを評価〇とした。
(2−2)処理物の着色防止性
上記撥水性の評価の場合と同様にして処理布を作成した。この処理布を屋内の南側窓際に2ヶ月放置後、測色色差計(日本電色工業製:ZE2000)を用いて布表面のb値を測定した。b値が小さいほど白色度が高く、黄変色が少ないことを示し、未処理の綿フ゛ロート゛布のb値は-0.1である。
試料のb値とブランクのb値との差が少ないほど、着色防止性に優れているといえる。
【0029】
得られた結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、各実施例の場合、撥水性、撥水性組成物の着色防止性、及び処理物の着色防止性がいずれも優れていた。
【0032】
一方、(C)成分の代わりにテトラアルコキシチタン又はその部分加水分解縮合物を用いた比較例1、2の場合、撥水性組成物が経時により変色し、又、処理物も変色した。又、(C)成分の代わりにテトラアルコキシチタンを用い、その配合量も少ない比較例3の場合、撥水性及び着色防止性が共に劣化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)以下の一般式
[R13SiO1/2]a[SiO2]b (1)
(R1はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基、a/b=0.5〜1.5)で示されるトリアルキルシロキシシリケート100質量部と、
(B)以下の一般式
【化1】

(R2はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜10の1価アルキル基;nは10〜3000の自然数)で示されるオルガノポリシロキサン10〜500質量部と、
(C)以下の一般式
Zr(OX)4 (3)
(Xはそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜8のアルキル基)で示されるテトラアルコキシジルコニウム及び/又はその部分加水分解縮合物を総量で10〜300質量部と、
(D)有機溶剤100〜300000質量部
とからなる撥水剤組成物。
【請求項2】
前記(C)成分がテトラプロポキシジルコニウム及び/又はテトラブトキシジルコニウムである請求項1記載の撥水剤組成物。

【公開番号】特開2007−217575(P2007−217575A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40229(P2006−40229)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】