説明

撥水性塗膜形成用樹脂組成物

【課題】プライマーを用いず基材に対する優れた密着性と表面機能を有する塗膜を形成する撥水性塗膜形成用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記A〜Dの全ての成分を含有する。
A.式(1)で示す基及びパーフルオロアルキル基から選択される第一の官能基と、第一の官能基よりも表面エネルギーの高い第二の官能基とを備えた第一のマトリックス形成用アクリル樹脂。B.樹脂Aが備える第一の官能基より高い表面エネルギーを有する第三の官能基及び第四の官能基を備えた第二のマトリックス形成用アクリル樹脂。C.基材表面に存在する官能基と反応性を有する第五の官能基と、樹脂Bが備える第三の官能基と反応性を有する第六の官能基とを備える第一の架橋剤。D.樹脂Bが備える第四の官能基と反応性を有する第七の官能基と、樹脂Aが備える第二の官能基と反応性を有する第八の官能基とを備える第二の架橋剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性塗膜形成用樹脂組成物に関し、特に基材との密着性に優れ、且つ防汚性を兼ね備える撥水性塗膜を形成することができる撥水性塗膜形成用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素樹脂やシリコーン樹脂等の撥水性樹脂は優れた防汚性能を有することから、例えば自動車窓ガラスや調理器具の表面処理等に応用されている。
【0003】
しかし、このような撥水性樹脂は優れた非粘着性を有することから、基材との密着性が十分に得られない場合がある。このため、基材上に撥水性のフッ素樹脂の被膜を塗布する場合、例えば、ポリアミドイミドやポリエーテルスルホン等の耐熱性樹脂によるバインダを含有させた樹脂プライマーを下塗りに使用することがなされている(特許文献1,2参照)。また、金属アルコキシドを中間層として先に形成し、その上にフッ素樹脂被膜を形成するという方法も採られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001−219122号公報
【特許文献2】特開2006−175824号公報
【特許文献3】特許第3092434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来は基材に対する撥水性塗膜の密着性を確保するために、プライマーを設ける工程と撥水塗膜を形成する工程とが別途に必要な2コート方式を採用する必要があったが、工程の簡略化によりコストダウンを図るためには1コート方式で密着性の高い撥水性塗膜を形成することが望ましい。
【0005】
しかし、防汚性等の表面機能を確保しつつ、基材に対して優れた密着性を有する撥水性塗膜を形成することは未だなされていない。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、プライマーを用いることなく基材に対する優れた密着性を確保し、且つ防汚性等の表面機能も確保することができる撥水性膜を形成するための撥水性塗膜形成用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る撥水性塗膜形成用樹脂組成物は、基材9の表面に塗布して撥水性塗膜を形成する樹脂組成物であって、下記A〜Dの全ての成分を含有することを特徴とする。
A.下記式(1)で表される基及びパーフルオロアルキル基から選択される第一の官能基1と、前記第一の官能基1よりも表面エネルギーの高い第二の官能基2とを備えた第一のマトリックス形成用アクリル樹脂。
B.第一のマトリックス形成用アクリル樹脂Aが備える第一の官能基1よりも共に高い表面エネルギーを有する第三の官能基3及び第四の官能基4を備えた第二のマトリックス形成用アクリル樹脂。
C.基材9表面に存在する官能基と反応性を有する第五の官能基5と、第二のマトリックス形成用アクリル樹脂が備える第三の官能基3と反応性を有する第六の官能基6とを備える第一の架橋剤。
D.第二のマトリックス形成用アクリル樹脂が備える第四の官能基4と反応性を有する第七の官能基7と、第一のマトリックス形成用樹脂が備える第二の官能基2と反応性を有する第八の官能基8とを備える第二の架橋剤。
【0008】
【化1】

【0009】
〔nは4〜1100の数。Rは炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖を有するアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリル基、炭素数6〜10のアリール置換炭化水素基から選ばれる有機基。〕
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記樹脂Bが備える第三の官能基3がSiOR基(Rは炭化水素基を表す)であると共に、上記架橋剤Cがシリコンアルコキシドであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2において、表面に水酸基を有する基材9に対して撥水性塗膜を形成するためのものであることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一項において、上記樹脂Aが備える第二の官能基2と上記樹脂Bが備える第四の官能基4とが水酸基であり、上記架橋剤Dがメラミン樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撥水性塗膜形成用樹脂組成物を基材9に塗布成膜すると、表面エネルギーの低い第一の官能基1が塗膜の上層側に移動して層を形成すると共に、前記第一の官能基1が塗膜の表面側に配置され、官能基の表面エネルギーが高い樹脂Bは前記樹脂Aの層の下層側に層を形成し、この状態で架橋剤Cの第六の官能基6が樹脂Bの第五の官能基5と反応すると共に、架橋剤Cの第五の官能基5が基材9表面の官能基と反応する架橋反応が進行し、また架橋剤Dの第七の官能基7が樹脂Bの第四の官能基4と反応すると共に架橋剤Dの第八の官能基8が樹脂Aの第二の官能基2と反応する架橋反応が進行して、撥水性塗膜が形成され、これにより、基材9との密着性が高いと共に優れた撥水性を有する撥水性塗膜を形成することができるものである。
【0013】
また、請求項2に係る発明では、第三の官能基3として水酸基を有する樹脂Bに対してはこの水酸基に架橋剤Cが反応して強固に結合し、撥水性塗膜の密着性を更に向上することができるものである。
【0014】
また、請求項3に係る発明では、水酸基を有する基材9表面には、この水酸基が僅かであってもこの水酸基と架橋剤Cが反応して、基材9と強固に結合し、撥水性塗膜の密着性を更に向上することができるものである。
【0015】
また、請求項4に係る発明では、撥水性塗膜の表面を高硬度にすることができ、この撥水性塗膜の耐汚染性を向上することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1を示して説明する。
【0017】
本発明に係る撥水性塗膜形成用樹脂組成物は、次のA〜Dの全ての成分を含有する。
A.下記式(1)で表される基及びパーフルオロアルキル基から選択される第一の官能基1と、前記第一の官能基1よりも表面エネルギーの高い第二の官能基2とを備えた第一のマトリックス形成用アクリル樹脂。
B.第一のマトリックス形成用アクリル樹脂Aが備える第一の官能基1よりも高い表面エネルギーを有する第三の官能基3及び第四の官能基4を備えた第二のマトリックス形成用アクリル樹脂。
C.基材9表面に存在する官能基と反応性を有する第五の官能基5と、第二のマトリックス形成用アクリル樹脂が備える第三の官能基3と反応性を有する第六の官能基6とを備える第一の架橋剤。
D.第二のマトリックス形成用アクリル樹脂が備える第四の官能基4と反応性を有する第七の官能基7と、第一のマトリックス形成用樹脂が備える第二の官能基2と反応性を有する第八の官能基8とを備える第二の架橋剤。
【0018】
上記樹脂Aは、アクリル樹脂骨格に、上記式(1)で表される基及びパーフルオロアルキル基から選択される第一の官能基1が結合していると共に、この第一の官能基1とは異なる他の官能基が結合している。
【0019】
第一の官能基1は撥水性塗膜形成用樹脂組成物を構成する成分A〜Dが有する官能基のうち、最も低い表面エネルギーを有する。
【0020】
式(1)で表される基におけるRは炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖を有するアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリル基、炭素数6〜10のアリール置換炭化水素基から選ばれる有機基を示す。また式(1)中のnは4〜1100の数を示す。
【0021】
また、パーフルオロアルキル基は、末端が−Cn2n+1(nは2〜20の整数)で示される構造を有するものが挙げられ、これは直鎖状、分岐状のいずれでも良い。
【0022】
樹脂Aにおける上記第一の官能基1以外の官能基の表面エネルギーは、第一の官能基1よりも高いものとなっている。この第一の官能基1以外の官能基には、架橋剤Dが備える第八の官能基8と反応して結合する第二の官能基2が含まれる。この第二の官能基2としては適宜のものが挙げられるが、例えば水酸基、アルコキシ基、グリシジル基、アミノ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0023】
この樹脂Aは、重量平均分子量(Mw)が1000〜1000000の範囲であることが好ましい。樹脂Aの分子量が高すぎると、溶剤や他の架橋剤との相溶性が悪くなる傾向があり、分子量が低すぎると、得られる塗膜の物性が低下する傾向がある。
【0024】
上記樹脂Bは、アクリル樹脂骨格に、少なくとも二種類の官能基が結合されている。この樹脂Bの有する前記二種の官能基は、樹脂Aの有する官能基のうち最も表面エネルギーが低い第一の官能基1よりも、高い表面エネルギーを有するものである。
【0025】
この樹脂Bの有する官能基のうち第三の官能基3は、架橋剤Cが備える第六の官能基6と反応して結合する基である。この第三の官能基3としては適宜のものが挙げられるが、例えばエポキシ基、アルコキシシリル基(SiOR基)等が挙げられる。アルコキシシリル基(SiOR基)におけるRは炭化水素基を示す。この炭化水素基としては炭素数1〜8の置換または非置換の炭化水素基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基、及び、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基等の置換炭化水素基が挙げられる。なかでも合成の容易さ、または、入手の容易さから炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0026】
また、樹脂Bの有する官能基のうちの第四の官能基4は、架橋剤Dが備える第七の官能基7と反応して結合する基である。この第四の官能基4としては適宜のものが挙げられるが、例えば水酸基、アルコキシ基、グリシジル基、アミノ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0027】
この樹脂Bは、重量平均分子量(Mw)が1000〜1000000の範囲のであることが好ましい。樹脂Aの分子量が高すぎると、溶剤や他の架橋剤との相溶性が悪くなる傾向があり、分子量が低すぎると、得られる塗膜の物性が低下する傾向がある。
【0028】
架橋剤Cは、上記の通り、撥水性塗膜が形成される基材9の表面に存在する官能基と反応して結合する第五の官能基5と、樹脂Bが備える第三の官能基3と反応して結合する第六の官能基6とを備える。
【0029】
第五の官能基5は、基材9表面の官能基の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、ステンレス板饕の基材9表面に水酸基を有する場合はエトキシ基等が挙げられ、アクリル板等の基材9表面にエステル基を有する場合はイソシアネート基等が挙げられる。
【0030】
また、樹脂Bにおける第三の官能基3と反応する第六の官能基6としても、樹脂Bの第三の官能基3に応じて適宜選択されるが、例えば、樹脂Bの第三の官能基3がエポキシ基である場合には第六の官能基6として硫黄系やアミン系のものを挙げることができる。おのとき、アミン系化合物としては、具体的には、例えば、メタキシリレンジアミン(MXDA)、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3−BAC)、ノルボルナンジアミン(NBDA)、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン(IPDA)、ジシアンジアミド、ジメチルベンジルアミン、ケチミン化合物等のアミン系化合物、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド骨格のポリアミン等が挙げられ、中でも、メタキシリレンジアミン(MXDA)、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3−BAC)、ノルボルナンジアミン(NBDA)、トリエチレンテトラミン等が、室温で液状であり、作業性が良く、硬化性も高いという点から好ましい。また、硫黄系硬化剤としては、具体的には、例えば、1,3−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(トリメルカプト−トリアジン)、1,5−ナフタレンジチオール、1,2−ベンゼンジメタンチオール、1,3−ベンゼンジメタンチオール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、等のジチオールが挙げられる。
【0031】
また、樹脂Bの第三の官能基3がアルコキシシリル基(SiOR基)である場合には第六の官能基6としてアルコキシ基を有する金属アルコキシドを用いることができる。
【0032】
特に基材9表面の官能基が水酸基である場合や、樹脂Bの第三の官能基3がアルコキシシリル基(SiOR基)である場合は、架橋剤Cとしては、第五の官能基5及び第六の官能基6としてアルコキシ基を有する金属アルコキシドを用いることが好ましく、この金属アルコキシドとしてはシリコンアルコキシドを用いることが好ましい。この場合、第三の官能基3として水酸基を有する樹脂Bに対してはこの水酸基に架橋剤Cが反応して強固に結合し、また、水酸基を有する基材9表面には、ステンレス等の金属などのように水酸基が僅かであってもこの水酸基と架橋剤Cが反応して、基材9と強固に結合するものである。
【0033】
ここで、シリコンアルコキシドを用いる場合には、シリケート加水分解物の形態で用いることができる。シリケート加水分解物を形成するモノマーとしては、テトラエトキシシランやメチルトリメトキシシランを好適に用いることができる。塗膜に高い強度などを付与するためには、これらのモノマーを重合したオリゴマー化したものを用いることが好ましい。このオリゴマー材料としては、エチルシリケート40(多摩化学株式会社製、テトラエトキシシランの5量体)やメチルシリケート51(三菱化学株式会社製、テトラメトキシシランの5量体)などを用いることができる。
【0034】
そしてこれらの加水分解性混合物を適当な溶剤で希釈し、硬化剤としての水および必要に応じて触媒(例えば塩酸、硝酸、酢酸、ハロゲン化シラン、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸や、無機酸等の、1種または2種以上)などを必要量添加し、必要に応じて例えば40〜100℃で加温し、加水分解および重縮合反応を行わせてプレポリマー化させることにより、シリケート加水分解物を調製することができる。その際、得られるシリケート加水分解物(加水分解重縮合物)の重量平均分子量(Mw)がポリスチレン換算で900以上、好ましくは1000以上になるように調整するものである。シリケート加水分解物の分子量分布(重量平均分子量(Mw))が900より小さいときは、縮重合の際の硬化収縮が大きくなり、塗膜が硬化した後にクラックが発生し易くなるなどの傾向がある。
【0035】
シリケート加水分解物は、加水分解重縮合時に末端のアルコキシ基が加水分解されてシラノール基を生じるものであり、このシラノール基は、塗膜形成時に特にステンレスやアルミニウムといった金属製の基材9中に存在する水酸基と反応する。このため、架橋剤Cとしてシリケート加水分解物を用いることによって、塗膜を特に金属製の基材9に強固に密着させることができるものである。
【0036】
架橋剤Dは、上記の通り、樹脂Bが備える第四の官能基4との反応して結合する第七の官能基7と、樹脂Aが備える第二の官能基2と反応して結合する第八の官能基8とを備える。
【0037】
樹脂Bの第七の官能基7、並びに第八の官能基8は、樹脂Bの有する第四の官能基4と樹脂Aの有する第二の官能基2の種類に応じて適宜選択されるが、例えば樹脂Aの第二の官能基2と樹脂Bの第四の官能基4が水酸基、アミノ基等の場合に架橋剤Dとして第七の官能基7及び第八の官能基8としてイソシアネート基を有するイソシアネート樹脂を、樹脂Aの第二の官能基2と樹脂Bの第四の官能基4が水酸基の場合に架橋剤Dとして第七の官能基7及び第八の官能基8としてアミノ基を有するアミノ樹脂を、樹脂Aの第二の官能基2と樹脂Bの第四の官能基4が水酸基、アミノ基、カルボキシル基等である場合に架橋剤Dとして第七の官能基7及び第八の官能基8としてエポキシ基を有するものを、用いることができる。
【0038】
ここで、イソシアネート樹脂を用いる場合、ヘキサメチレンジイソシアネートやトリレジンジイソシアネートを挙げることができるが、取り扱い作業性などの観点からイソシアネート基を活性水素などでブロック(マスキング)したブロックイソシアネートを使用するのが好ましい。ブロックイソシアネートは、アミノ樹脂と比較して硬化速度は遅いが、アミノ樹脂を架橋剤として用いたものよりも耐酸性に優れ柔軟性に富んだ塗膜を形成することができる。
【0039】
また、アミノ樹脂としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などを挙げることができるが、なかでもメラミン樹脂を好適に用いることができる。メラミン樹脂はブチル化メラミン樹脂とメチル化メラミン樹脂に大別され、分子骨格の構造により、完全アルキル型、イミノ型、メチロール型、メチロールイミノ型に分類されるが、いずれのものも用いることができる。特に、樹脂Aの第二の官能基2と樹脂Bの第四の官能基4とが共に水酸基である場合に、架橋剤Dとして、第七の官能基7及び第八の官能基8がアミノ基であるメラミン樹脂を用いると、撥水性塗膜の表面を高硬度にすることができ、撥水性塗膜の耐汚染性を向上することができる。
【0040】
上記樹脂A、樹脂B、架橋剤C及び架橋剤Dを混合して撥水性塗膜形成用樹脂組成物を得ることができる。この場合、樹脂A、樹脂B、架橋剤C及び架橋剤Dを所望量混合し、必要に応じてイソプロパノール等の希釈溶媒を加えることで、撥水性塗膜形成用樹脂組成物を調製することができる。
【0041】
撥水性塗膜形成用樹脂組成物中の各成分の含有量は適宜設定されるものであるが、樹脂A、樹脂B、架橋剤C及び架橋剤Dは、それぞれこれらの総量に対して1〜80重量%の範囲内で、好ましくは10〜40重量%の範囲内で、所望の特性が得られるよう配合する。なお、基本的に樹脂Bが多めになるよう配合することが好ましく、樹脂Aの比率が低い場合には、それに応じて架橋剤Dも少ない比率で配合する。
【0042】
このようにして得られる撥水性塗膜形成用樹脂組成物を、適宜の基材9に塗布し、組成に応じた適宜の条件で加熱成膜することにより撥水性塗膜を形成することができる。
【0043】
この撥水性塗膜の形成の過程では、湿潤状態の塗膜中で表面エネルギーの低い第一の官能基1が塗膜の上層側に移動して層を形成すると共に、前記第一の官能基1が塗膜の表面側に配置される。一方、官能基の表面エネルギーが高い樹脂Bは前記樹脂Aの層の下層側に層を形成する。
【0044】
この状態で架橋剤Cの第六の官能基6が樹脂Bの第五の官能基5と反応すると共に、架橋剤Cの第五の官能基5が基材9表面の官能基と反応する架橋反応が進行し、また架橋剤Dの第七の官能基7が樹脂Bの第四の官能基4と反応すると共に架橋剤Dの第八の官能基8が樹脂Aの第二の官能基2と反応する架橋反応が進行して、撥水性塗膜が形成される。
【0045】
このように形成された撥水性塗膜は、架橋剤Cにより樹脂Bから構成される層が基材9と結合し、樹脂Bから構成される層が架橋剤Dにより樹脂Aと結合していることから、基材9に対する密着性が非常に高くなる。また、この撥水性塗膜の表面には上記樹脂Aにおける表面エネルギーの低い第一の官能基1が配置されることから、撥水性塗膜の優れた撥水性が維持され、防汚性等の表面機能が確保されるものである。
【0046】
次に、上記のような撥水性塗膜形成用樹脂組成物を塗装する基材9について説明する。基材9は特に制限されることなく任意のものを用いることができるが、本発明において特に適用して好ましい基材9としては、ステンレス、アルミ、亜鉛めっき鋼板、鉄などの金属、タイル、ホウロウなどのセラミック、ガラスなどを挙げることができる。これらの基材9は表面に酸化物による水酸基を保持しており、架橋剤Cとして特にシリコンアルコキシドを用いている場合には、基材9に強固に密着した撥水性塗膜を形成することが可能になるものである。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に詳述する。尚、官能基の表面エネルギーは理論値を用いた
(実施例1)
樹脂A、樹脂B、架橋剤C及び架橋剤Dとして、次のものを用いた。
【0048】
樹脂A;第一の官能基1として上記式(1)で示すもの(Rはメチル基)(表面エネルギー約25mJ/m2)、第二の官能基2として水酸基(表面エネルギー約85mJ/m2、水酸基価120KOHmg/g)を有するアクリル樹脂(富士化成工業株式会社製「ZX−022」)
樹脂B;第三の官能基3としてグリシジル基(表面エネルギー約50mJ/m2、エポキシ当量600(g/eq))、第四の官能基4として水酸基(表面エネルギー約85mJ/m2、水酸基価53KOHmg/g)を有するアクリル樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「A−244」)
架橋剤C;第五の官能基5及び第六の官能基6としてブロックイソシアネート基を有するメチレンジイソシアネートMEKオキシムブロック樹脂(大日本ポリウレタン株式会社製「コロネート2507」)
架橋剤D;第七の官能基7及び第八の官能基8としてブトキシ基(表面エネルギー30〜40mJ/m2程度)を有するブチル化尿素樹脂(三井科学株式会社製「ユーバン10S60」)
また、基材9として、表面に官能基として表面エネルギー約85mJ/m2の水酸基を有するステンレス板を用いた。
【0049】
そして、上記の樹脂Aを30g、樹脂Bを60g、架橋剤Cを15g、架橋剤Dを15g混合すると共に触媒としてジブチルスズジラウレート1gを加えし、これに希釈溶媒としてイソプロパノールを100g添加し、これを10分間攪拌することで撥水性塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
【0050】
この撥水性塗膜用樹脂組成物を基材9にスプレー塗布し、200℃で10分間加熱することにより塗膜を形成した。
【0051】
(実施例2)
樹脂A、樹脂B、及び架橋剤Dとして、次のものを用いた。
【0052】
樹脂A;第一の官能基1としてパーフルオロ基(表面エネルギー7〜18mJ/m2程度)、第二の官能基2として水酸基表面エネルギー約85mJ/m2、水酸基価58KOHmg/g)を有するアクリル樹脂(関東電化工業株式会社製「KD−220」)
樹脂B;第三の官能基3として水酸基(表面エネルギー約85mJ/m2、水酸基価120KOHmg/g)、第四の官能基4としてアルコキシ基(表面エネルギー約85mJ/m2)を有するアクリル樹脂(富士化成工業株式会社製「ZX−220H」)
架橋剤D;第七の官能基7及び第八の官能基8としてアミノ基を有する完全アルキル型のメラミン樹脂(三井サイアナミット株式会社製「サイメル303」)
また、架橋剤Cとしては次のように調製されたものを用いた。
【0053】
まず、テトラエトキシシラン(東芝シリコーン株式会社製「8124」)140gとイソプロパノール260gを混合し、これに0.1N(0.1mol/L)の塩酸90gをゆっくりと添加し、攪拌した。得られた液を60℃恒温層中で5時間加熱した。これにより、第五の官能基5及び第六の官能基6としてエトキシ基を有する加水分解重縮合物(架橋剤C)のアルコール溶液を得た。
【0054】
また、基材9として、表面に官能基として表面エネルギー約50mJ/m2の−COOR(Rはアルキル基)を有するアクリル板を用いた。
【0055】
そして、上記の樹脂Aを30g、樹脂Bを70g、架橋剤Cのアルコール溶液を20g、架橋剤Dを15g混合し、これに希釈溶媒としてイソプロパノールを100g添加し、これを10分間攪拌することで撥水性塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
【0056】
この撥水性塗膜用樹脂組成物を基材9にスプレー塗布し、180℃で30分間加熱することにより塗膜を形成した。
【0057】
(比較例1)
樹脂組成物の原料として、アクリルハイブリッド硬化型樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「A−244」)、ブチル化尿素樹脂(三井科学株式会社製「ユーバン10S60」)、及びヘキサメチレンジイソシアネートMEKオキシムブロック樹脂(日本ポリウレタン株式会社製「コロネート2507」)を用いた。
【0058】
また、基材9としては実施例2と同様のアクリル板を用いた。
【0059】
そして、上記アクリルハイブリッド硬化型樹脂60g、ブチル化尿素樹脂15g、ヘキサメチレンジイソシアネートMEKオキシムブロック樹脂15gに、更に触媒としてジブチルスズジラウレート1gを混合し、これに希釈溶媒としてイソプロパノールを100g添加し、これを10分間攪拌することで樹脂組成物を調製した。
【0060】
この樹脂組成物を基材9にスプレー塗布し、200℃で10分間加熱することにより塗膜を形成した。
【0061】
(比較例2)
樹脂組成物の原料として、撥水性樹脂(富士化成工業株式会社製「ZX−022」)及びヘキサメチレンジイソシアネートMEKオキシムブロック樹脂(日本ポリウレタン株式会社製「コロネート2507」)を用いた。
【0062】
また、基材9としては実施例2と同様のアクリル板を用いた。
【0063】
そして、上記撥水性樹脂30g、ヘキサメチレンジイソシアネートMEKオキシムブロック樹脂15gに、更に触媒としてジブチル錫ラウリレート1gを混合し、これに希釈溶媒としてイソプロパノールを100g添加し、これを10分間攪拌することで樹脂組成物を調製した。
【0064】
この脂組成物を基材9にスプレー塗布し、200℃で10分間加熱することにより塗膜を形成した。
【0065】
(撥水性評価)
各実施例及び比較例にて基材9に形成された塗膜表面の、イオン交換水の接触角を接触角測定装置(協和界面化学株式会社製、型式CA−A)
(密着性評価)
各実施例及び比較例にて基材9に形成された塗膜に対し、JIS K5600−5−6に規定のクロスカット法による付着性試験を行った。
【0066】
また、各実施例及び比較例で得られた塗膜形成後の基材9を、容量20Lのステンレス製の容器に水道水を入れて80℃に保温したものに48時間浸漬した後、上記と同様に塗膜に対して付着性試験を行った。
【0067】
以上の結果を表1に示す。尚、密着性評価の結果は、クロスカットにて形成されたマス目の総数に対する、剥離が生じなかったマス目の数で示す。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0070】
A 第一のマトリックス形成用アクリル樹脂
B 第二のマトリックス形成用アクリル樹脂
C 第一の架橋剤
D 第二の架橋剤
1 第一の官能基
2 第二の官能基
3 第三の官能基
4 第四の官能基
5 第五の官能基
6 第六の官能基
7 第七の官能基
8 第八の官能基
9 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に塗布して撥水性塗膜を形成する樹脂組成物であって、下記A〜Dの全ての成分を含有することを特徴とする撥水性塗膜形成用樹脂組成物。
A.下記式(1)で表される基及びパーフルオロアルキル基から選択される第一の官能基と、前記第一の官能基よりも表面エネルギーの高い第二の官能基とを備えた第一のマトリックス形成用アクリル樹脂。
B.第一のマトリックス形成用アクリル樹脂Aが備える第一の官能基よりも共に高い表面エネルギーを有する第三の官能基及び第四の官能基を備えた第二のマトリックス形成用アクリル樹脂。
C.基材表面に存在する官能基と反応性を有する第五の官能基と、第二のマトリックス形成用アクリル樹脂が備える第三の官能基と反応性を有する第六の官能基とを備える第一の架橋剤。
D.第二のマトリックス形成用アクリル樹脂が備える第四の官能基と反応性を有する第七の官能基と、第一のマトリックス形成用樹脂が備える第二の官能基と反応性を有する第八の官能基とを備える第二の架橋剤。
【化1】

〔nは4〜1100の数。Rは炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖を有するアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリル基、炭素数6〜10のアリール置換炭化水素基から選ばれる有機基。〕
【請求項2】
上記樹脂Bが備える第三の官能基がSiOR基(Rは炭化水素基を表す)であると共に、上記架橋剤Cがシリコンアルコキシドであることを特徴とする請求項1に記載の撥水性塗膜形成用樹脂組成物。
【請求項3】
表面に水酸基を有する基材に対して撥水性塗膜を形成するためのものであることを特徴とする請求項2に記載の撥水性塗膜形成用樹脂組成物。
【請求項4】
上記樹脂Aが備える第二の官能基と上記樹脂Bが備える第四の官能基とが水酸基であり、上記架橋剤Dがメラミン樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撥水性塗膜形成用樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156533(P2008−156533A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348545(P2006−348545)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】