説明

撥水性多孔質ガラスおよび光学部材

【課題】多孔質ガラスにおける不均一な吸水による失透を防止し、ガラス表面や内部におけるクラックの発生を抑制することができる撥水性多孔質ガラスおよびそれを用いた光学部材を提供する。
【解決手段】平均空孔径が10nm以上100nm以下の空孔を有する多孔質ガラスにおいて、少なくとも前記多孔質ガラスの表面および内部に存在する空孔の表面に撥水剤を有する撥水性多孔質ガラスおよびそれを用いた光学部材。多孔質ガラスは、スピノーダル型多孔構造を有することが好ましい。撥水剤は、フルオロアルキルシランあるいはフッ素樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性多孔質ガラスおよびそれを用いた光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質ガラスを含む多孔質材料では吸水による課題として耐候性の悪化や分離能などの機能低下が挙げられる。
特許文献1には、珪酸塩ガラス基材の表面上にある多孔質の変性層の上に撥水層を形成させ、ガラスの汚染防止などの耐候性を有する多孔質ガラスが開示されている。
【0003】
特許文献2には、表面にナノサイズの微細構造を有するガラス基板に撥水膜を形成させ、超撥水ガラス基板を作製する方法が開示されている。
特許文献3には、多孔質無機基材の表面に疎水処理を施すことにより、分離性能を向上させた浸透気化分離膜が開示されている。
【0004】
また、特許文献4には、多孔体の外側表面に疎水層を設け、測定環境の湿度の影響による検出阻害の問題を解消したガス検知素子が開示されている。
また、特許文献5には、多孔質材料のひとつであるメソポーラスシリカに疎水性基を導入した分離膜材料が開示されている。
【0005】
多孔質ガラスにおいて吸水に伴う課題は上記だけでなく、不均一な吸水により多孔質ガラスは割れやひびにつながるクラックが発生したり、失透するといった問題がある。しかし、これらの課題に対し解決手段を明示した報告例はない。また、上記の公知文献では、細孔径が数nmの多孔質材料を用いており、撥水処理は表面のみで材料内部にまで施されていないため、多孔質ガラスの不均一な吸水によるクラックの発生を抑制することができない。また、上記の公知文献では、不均一な吸水による失透を防ぐことができないため、光学特性を安定に維持することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−97478号公報
【特許文献2】特開2008−105887号公報
【特許文献3】特開2003−53165号公報
【特許文献4】特開2009−180521号公報
【特許文献5】特開2002−241124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の技術では多孔質ガラスは、不均一に吸水させると失透し、またガラス表面あるいは内部においてクラックが発生することがある。
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、多孔質ガラスにおける不均一な吸水による失透を防止し、ガラス表面や内部におけるクラックの発生を抑制することができる撥水性多孔質ガラスおよびそれを用いた光学部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する撥水性多孔質ガラスは、平均空孔径が10nm以上100nm以下の空孔を有する多孔質ガラスにおいて、少なくとも前記多孔質ガラスの表面および内部に存在する空孔の表面に撥水剤を有することを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決する光学部材は、上記の撥水性多孔質ガラスを用いたことを特徴とする光学部材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多孔質ガラスにおける不均一な吸水による失透を防止し、ガラス表面や内部におけるクラックの発生を抑制することができる撥水性多孔質ガラスおよびそれを用いた光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1の多孔質ガラス表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1において、吸水試験後の多孔質ガラスの表面の状態を表しているデジタルマイクロスコープで観察した写真である。
【図3】比較例1において、吸水試験後の多孔質ガラスの表面の状態を表しているデジタルマイクロスコープで観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る撥水性多孔質ガラスは、平均空孔径が10nm以上100nm以下の空孔を有する多孔質ガラスにおいて、少なくとも前記多孔質ガラスの表面および内部に存在する空孔の表面に撥水剤を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の撥水性多孔質ガラスは、多孔質ガラスの表面および内部の空孔の表面を撥水剤で覆うことにより、不均一な吸水に対し失透せずガラス表面や内部においてクラックの発生を抑制することができる。
【0014】
本発明における多孔質ガラスは、酸化ケイ素、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含むことが好ましい。多孔質ガラスの材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化ケイ素系多孔質ガラスI(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物)、酸化ケイ素系多孔質ガラスII(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(アルカリ土類金属酸化物,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム))、酸化ケイ素系多孔質ガラスIII(母体ガラス組成:酸化ケイ素−リン酸塩−アルカリ金属酸化物)、酸化チタン系多孔質ガラス(母体ガラス組成:酸化ケイ素−酸化ホウ素−酸化カルシウム−酸化マグネシウム−酸化アルミニウム−酸化チタン)、希土類系多孔質ガラス(母体ガラス組成:酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物−(酸化セリウム,酸化トリウム,酸化ハフニウム,酸化ランタン))などが挙げられる。それらの中でも、酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物の硼珪酸系ガラスを母体ガラスに用いることが好ましい。また、これらの母体ガラスを適宜多孔化処理したものを用いることができる。
【0015】
分相性母体ガラスの製造方法は、上記組成となるように原料を調製するほかは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、各成分の供給源を含む原料を加熱溶融し、必要に応じて所望の形態に成形することにより製造することができる。加熱溶融する場合の加熱温度は、原料組成等により適宜設定すれば良いが、通常は1350から1450℃、特に1380から1430℃の範囲とすることが好ましい。
【0016】
例えば、上記原料として炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を均一に混合し、1350から1450℃に加熱溶融すれば良い。この場合、原料は、前記のとおりアルカリ金属酸化物、酸化ホウ素及び酸化ケイ素の成分を含むものであればどのような原料を用いても良い。
【0017】
また、多孔質ガラスを所定の形状にする場合は、分相性母体ガラスを合成した後、概ね1000から1200℃の温度下で管状、板状、球状等の各種の形状に成形すれば良い。例えば、上記原料を溶融して分相性母体ガラスを合成した後、溶融温度から温度を降下させて1000から1200℃に維持した状態で成形する方法を好適に採用することができる。本発明では、前記のとおり、所定の組成を用いているので、成形時における結晶性物質の生成を効果的に抑制ないしは防止することができ、所望の成形体をより確実に得ることができる。
【0018】
分相性母体ガラスを熱処理することにより、分相性母体ガラスを分相させることができる。「分相」とは、たとえば母体ガラスに酸化ケイ素−酸化ホウ素−アルカリ金属酸化物の硼珪酸系ガラスを用いた場合、ガラス内部で酸化ケイ素リッチ相とアルカリ金属酸化物−酸化ホウ素リッチ相とに、数nmスケールで分相を起こさせることを意味する。熱処理温度は400から800℃とし、好ましくは450から750℃とする。熱処理時間は、通常20から100時間の範囲内において、得られる多孔質ガラスの細孔径等に応じて適宜設定することができる。
【0019】
このように熱処理工程より得られる分相性ガラスを酸溶液と接触させることにより酸可溶成分を溶出除去させる。酸溶液としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸等を好ましく用いることができ、酸溶液は通常は水を溶媒とした水溶液の形態で好適に使用することができる。酸溶液の濃度は、通常は1から2mol/L(0.1から2規定)の範囲内で適宜設定すれば良い。酸処理工程では、その溶液の温度を室温から100℃の範囲とし、処理時間は1から50時間程度とすれば良い。その後、水洗浄処理を経て酸化ケイ素による骨格を持つ多孔質ガラスが得られる。水洗浄処理工程における洗浄水の温度は、特に限定的でないが、一般的には室温から100℃の範囲内とすれば良い。水洗浄処理工程の時間は、対象となるガラスの組成、大きさ等に応じて適宜定めることができるが、通常は1から50時間程度とすれば良い。
【0020】
相分離にはスピノーダル型とバイノーダル型に分類される。スピノーダル相分離により得られる多孔質ガラスの細孔は、表面から内部にまで連結した貫通細孔であり、バイノーダル相分離ではクローズ孔のものが得られる。細孔径およびこの分布が、製造中の熱処理条件により制御できることがよく知られている。相分離現象のなかでも表面から内部にまで連結した貫通細孔を有する多孔質構造が得られるスピノーダル型多孔構造を有することが好ましい。
【0021】
本発明における多孔質ガラスの空孔の平均空孔径は10nm以上100nm以下、好ましくは15nm以上90nm以下が望ましい。10nmより小さいと、撥水剤が空孔内に入るのが難しいため吸水性を抑えることが難しい。一方、100nmより大きいと光学材料としては可視光の散乱が大きくなるため適さない。
【0022】
多孔質ガラスの形状は、特に制限されず、例えば管状、板状等の膜状成形体が挙げられる。これらの形状は、多孔質ガラスの用途等に応じて適宜選択することができる。
本発明における撥水剤は、フルオロアルキルシランあるいはフッ素樹脂であることが好ましい。また、本発明の撥水性多孔質ガラスは、濃度1g/L以上の撥水剤を含有する溶液に多孔質ガラスを含浸させることにより得られる。
【0023】
撥水剤としてはフルオロアルキルシランあるいはフッ素樹脂以外に、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンといったアルコキシシラン縮合体などの撥水剤が挙げられる。初期撥水性能、撥水性能の耐久性の観点から、フルオロアルキルシランあるいはフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
上記フルオロアルキルシランには、アルコキシ基およびフルオロアルキル基を有するシラン化合物である限り、公知の全ての化合物が含まれる。特に加水分解可能な官能基を有し、さらに分子中にフルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が1から12であるパーフルオロアルキル基(CF(CF−)またはパーフルオロアルキレン基(−(CF−)を有するもの(xおよびyは0から11の整数)が挙げられる。例えばヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリクロロシランなどを挙げることができる。これらの化合物の中から、単独または複数の物質を組み合わせて使用することができる。
【0025】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ビニルフルオライドなどのフルオロオレフィン類の単独重合体もしくは共重合体、またはこれらと重合可能なエチレン系不飽和化合物との共重合体である。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの重合体、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体、テトラフルオロエチレンとパ−フルオロアルキルビニルエ−テルの共重合体、クロロトリフルオロエチレンとエチレンの共重合体、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルアクリルの共重合体などが挙げられる。
【0026】
多孔質ガラスに撥水剤を付与する方法として、真空蒸着法に代表される乾式プロセスや撥水剤を含む液を用いディッピング法やスピンコート法により塗布したり、含浸させたりする湿式プロセスがある。多孔質ガラスの表面だけでなく、内部に存在する空孔までも空孔の表面に撥水剤を存在させるためには撥水剤を含む液中に多孔質ガラスを含浸させる方法が好ましい。
【0027】
上記撥水剤を溶解または分散させる有機溶剤としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類を挙げることができる。これらの有機溶剤は単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0028】
またフルオロアルキルシランは上記有機溶剤に溶解させた上で、必要に応じて水を添加して加水分解させ、さらに縮合させたものを用いても良い。水の添加量はフルオロアルキルシランに対して3から5倍等量であることが好ましい。また必要に応じてフルオロアルキルシランの加水分解のための触媒として適宜の酸触媒やアルカリ触媒などを適宜量含有させても良い。酸触媒としてはたとえば塩酸、アルカリ触媒としてはアンモニアが挙げられる。
【0029】
上記撥水剤を溶解または分散させた液中の撥水剤の含有量は適宜設定されるが、1g/L以上、好ましくは1g/L以上50g/L以下である。さらには3g/L以上40g/L以下であることがより好ましい。この含有量が少ないと撥水効果が十分発揮されず、多孔質ガラスにクラックが発生したり、また失透する傾向がある。含有量が多い場合は液の調製が難しかったり、液の安定性が良くない傾向がある。前記濃度の撥水剤を含む溶液中に多孔質ガラスを含浸させ、必要に応じて加熱、還流し、30分から24時間含浸させておく。含浸後は液から引上げ、多孔質ガラスを60℃から200℃で、数時間程度乾燥もしくは熱処理する。このようにすることにより、多孔質ガラスの表面および内部の空孔の
表面が撥水剤で覆われる。
空孔表面に覆われている撥水剤は、空孔表面に存在する官能基(シラノール基など)と静電的相互作用により吸着していたり、または乾燥や熱処理により空孔表面の官能基と化学結合を形成して存在していても良い。
【0030】
本発明に係る光学部材は、上記の撥水性多孔質ガラスを用いたことを特徴とする。光学部材として、テレビやコンピュータなどの各種ディスプレイ、液晶表示装置に用いる偏光板、カメラ用ファインダーレンズ、プリズム、フライアイレンズ、トーリックレンズなどの光学部材、さらにはそれらを用いた撮影光学系、双眼鏡などの観察光学系、液晶プロジェクターなどに用いる投射光学系、レーザービームプリンターなどに用いる走査光学系などの各種レンズなどが挙げられる。
【実施例1】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
各実施例および比較例の多孔質ガラスの評価は下記の方法で行った。
(1)表面観察
走査電子顕微鏡(FE−SEM S4800、日立製作所製)を用いて多孔質ガラスの表面観察(加速電圧;5kV、倍率;15万倍)を行った。
【0032】
(2)空孔径の評価
水銀圧入法(マイクロメリテックス社製、ポアサイザー9320)を用いて多孔質ガラスの空孔径を算出した。測定は圧力の関数として水銀の侵入容積を記録し、圧力を細孔径に換算、侵入容積を細孔容積として細孔分布を求めた。
【0033】
(3)ガラス内の撥水剤の確認
ガラス内の撥水剤の確認をXPS測定により行った。XPS測定には、ESCA LAB220i−XLを用いた。
【0034】
(4)吸水試験
各実施例および比較例で得られた多孔質ガラスについて、吸水試験前後の光学特性およびクラック発生有無の評価を下記の方法で行った。吸水試験は各実施例および比較例で得られた多孔質ガラスをイオン交換水中に1分間浸漬させた。
(4−1)全光線透過率およびヘーズ値評価
濁度計(日本電色工業製、NDH2000)を用い、吸水試験前後の多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ測定を行った。
(4−2)クラック発生有無の評価
目視観察およびデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−100)観察(倍率;200倍)により、吸水試験によるクラック発生有無の確認を行った。
【0035】
実施例1
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素、アルミナを用い、それらをNaO:B:SiO:Al=6:28:63:3(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し、厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0036】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、6NaO・28B・63SiO・3Al(重量%)組成の母体ガラスを580℃、30時間熱処理した。その後、80℃の1mol/L(1規定)の硝酸水溶液中に24時間浸漬した後、80℃のイオン交換水中に3時間浸漬した。得られたガラスの表面SEM観察を行った。図1は、実施例1
の多孔質ガラス表面の電子顕微鏡写真である。図1のようにスピノーダル型の多孔質構造が形成されていることがわかる。
【0037】
水銀圧入法により該多孔質ガラスの空孔径を測定すると、平均空孔径は15nmであった。
上記で作製した多孔質構造が形成された多孔質ガラスを、別途調製した撥水剤を含む液に室温で24時間含浸させた後、取り出し60℃で乾燥させた。前記撥水剤を含む液は、フルオロアルキルシランとしてヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン、溶剤にエタノール、さらに希塩酸と水を用いたものである。フルオロアルキルシランの濃度は3g/Lとした。この撥水処理した多孔質ガラスについて、XPS測定を行った。その結果、ガラス表面および内部においてフッ素元素が検出された。フッ素元素は撥水剤に帰属されるため、多孔質ガラス表面だけでなく内部にも撥水剤が存在していることがわかった。
【0038】
上記撥水処理した多孔質ガラスについて、吸水試験を行い吸水試験前後の光学特性およびクラック発生有無の評価を下記の方法で行った。
【0039】
[全光線透過率およびヘーズ値の評価]
吸水試験前後における多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ値の結果を表1に示す。
全光線透過率については、実施例1の撥水処理した多孔質ガラスでは、吸水試験前は96.7%であり、吸水試験後は96.1%であり、ほとんど透過率が低下しなかった。
また、ヘーズ値については、実施例1の撥水処理した多孔質ガラスでは吸水試験前は2.0%であり、吸水試験後は4.3%であった。
以上のことから、撥水処理した多孔質ガラスでは吸水による多孔質ガラスの失透がかなり抑制されていることがわかった。
【0040】
[クラック発生有無の評価]
実施例1の撥水処理した多孔質ガラスについて吸水試験を行った。クラック発生有無については目視観察およびデジタルマイクロスコープ観察により確認した結果を図2に示す。吸水試験後においてもクラックの発生は確認されなかった。
【0041】
実施例2
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素、アルミナを用い、それらをNaO:B:SiO:Al=9:30.5:59:1.5(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0042】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、9NaO・30.5B・59SiO・1.5Al(重量%)組成の母体ガラスを600℃50時間熱処理した。その後、80℃の1mol/L(1規定)の硝酸水溶液中に24時間浸漬した後、80℃のイオン交換水中に3時間浸漬した。得られたガラスの表面SEM観察を行ったところ、スピノーダル型の多孔質構造が形成されていた。
【0043】
水銀圧入法により該多孔質ガラスの空孔径を測定すると、平均空孔径は60nmであった。
上記で作製した多孔質構造が形成されたガラス体を、別途調製した撥水剤を含む液に室温で24時間含浸させた後取り出し60℃で乾燥させた。前記撥水剤を含む液とは、フルオロアルキルシランとしてヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン、溶剤にエタノール、さらに希塩酸と水を用いたものである。フルオロアルキルシランの濃度は10g/Lとした。この撥水処理した多孔質ガラスについて、XPS測定を行った。その結果、実
施例1と同様にガラス表面および内部に撥水剤に含まれるフッ素元素が検出された。このことから、多孔質ガラス表面だけでなく内部にも撥水剤が存在していることがわかった。
上記撥水処理した多孔質ガラスについて、吸水試験を行い吸水試験前後の光学特性およびクラック発生有無の評価を下記の方法で行った。
【0044】
[全光線透過率およびヘーズ値評価]
吸水試験前後における多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ値の結果を表1に示す。
【0045】
全光線透過率については、実施例2の撥水処理した多孔質ガラスでは吸水試験前は76.3%であり、吸水試験後は75.8%であり、ほとんど透過率が低下しなかった。
また、ヘーズ値については実施例2の撥水処理した多孔質ガラスでは吸水試験前は31.4%であり、吸水試験後は32.6%であった。
以上のことから、撥水処理した多孔質ガラスでは吸水による多孔質ガラスの失透がかなり抑制されていることがわかった。
【0046】
[クラック発生有無の評価]
実施例2の撥水処理した多孔質ガラスについて吸水試験を行った。クラック発生有無については目視観察およびデジタルマイクロスコープ観察により確認した。実施例1と同様に吸水試験後においてもクラックの発生は確認されなかった。
【0047】
実施例3
ガラス原料として、炭酸ナトリウム、ホウ酸及び二酸化珪素を用い、それらをNaO:B:SiO=8:27:65(重量%)組成比で均一に混合し、1350から1450℃で加熱溶融し、その後板状に成形した状態で自然冷却し厚み約1mmの板状ガラスを得た。
【0048】
上記板状ガラスを約1cm角に切断した、8NaO・27B・65SiO(重量%)組成の母体ガラスを630℃120時間熱処理した。その後、80℃の1mol/L(1規定)の硝酸水溶液中に24時間浸漬した後、80℃のイオン交換水中に3時間浸漬した。得られたガラスの表面SEM観察を行ったところ、スピノーダル型の多孔質構造が形成されていた。
【0049】
水銀圧入法により該多孔質ガラスの空孔径を測定すると、平均空孔径は90nmであることがわかった。
上記で作製した多孔質構造が形成されたガラス体を、別途調製した撥水剤を含む液に室温で24時間含浸させた後取り出し60℃で乾燥させた。前記撥水剤を含む液とは、フッ素樹脂としてパーフルオロアルキルアクリル樹脂を主成分とし、これを有機溶剤に溶解させたものである。フッ素樹脂の濃度は約20g/Lとした。この撥水処理した多孔質ガラスについて、XPS測定を行った。その結果、実施例1と同様にガラス表面および内部に撥水剤に含まれるフッ素元素が検出された。このことから、多孔質ガラス表面だけでなく内部にも撥水剤が存在していることがわかった。
上記撥水処理した多孔質ガラスについて、吸水試験を行い吸水試験前後の光学特性およびクラック発生有無の評価を下記の方法で行った。
【0050】
[全光線透過率およびヘーズ値評価]
吸水試験前後における多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ値の結果を表1に示す。
全光線透過率については、実施例3の撥水処理した多孔質ガラスでは吸水試験前は27.0%であり、吸水試験後は27.3%であり、ほとんど透過率が低下しなかった。
また、ヘーズ値については実施例3の撥水処理した多孔質ガラスでは吸水試験前は82.9%であり、吸水試験後は82.7%であった。
以上のことから、撥水処理した多孔質ガラスでは吸水による多孔質ガラスの失透がかなり抑制されていることがわかった。
【0051】
[クラック発生有無の評価]
実施例3の撥水処理した多孔質ガラスについて吸水試験を行った。クラック発生有無については目視観察およびデジタルマイクロスコープ観察により確認した。実施例1と同様に吸水試験後においてもクラックの発生は確認されなかった。
【0052】
比較例1
実施例1で、撥水処理を施していない多孔質ガラスを用いて吸水試験を行った。
[全光線透過率およびヘーズ値評価]
吸水試験前後における多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ値の結果を表1に示す。
【0053】
吸水試験前における、比較例1の撥水処理を行っていない多孔質ガラスの全光線透過率は98.3%であったが、吸水試験後には80.7%となり大幅に透過率が低下した。
また、ヘーズ値については、比較例1の撥水処理を行っていない多孔質ガラスの吸水試験前におけるヘーズ値は1.9%であったが、吸水試験後には66.0%となり大幅にヘーズ値が増加した。以上のことから、撥水処理を施していないガラスでは吸水による多孔質ガラスの失透がみられた。
【0054】
[クラック発生有無の評価]
比較例1の撥水処理を行っていない多孔質ガラスについて吸水試験を行った。クラック発生有無については目視観察およびデジタルマイクロスコープ観察により確認した。試験前の試料にはクラックは確認されなかったが、試験後には図3に示すようにクラックの発生が確認された。
【0055】
比較例2
実施例2で、撥水処理を施していない多孔質ガラスを用いて吸水試験を行った。
[全光線透過率およびヘーズ値評価]
吸水試験前後における多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ値の結果を表1に示す。吸水試験前における、比較例2の撥水処理を行っていない多孔質ガラスの全光線透過率は75.5%であったが、吸水試験後には49.5%となり大幅に透過率が低下した。
【0056】
また、ヘーズ値については比較例1の撥水処理を行っていない多孔質ガラスの吸水試験前におけるヘーズ値は32.4%であったが、吸水試験後には91.7%となり大幅にヘーズ値が増加した。以上のことから、比較例1と同様に撥水処理を施していないガラスでは吸水による多孔質ガラスの失透がみられた。
【0057】
[クラック発生有無の評価]
比較例2の撥水処理を行っていない多孔質ガラスについて吸水試験を行った。クラック発生有無については目視観察およびデジタルマイクロスコープ観察により確認した。試験前の試料にはクラックは確認されなかったが、試験後には比較例1と同様にクラックの発生が確認された。
【0058】
比較例3
実施例3で、撥水処理を施していない多孔質ガラスを用いて吸水試験を行った。
[全光線透過率およびヘーズ値評価]
吸水試験前後における多孔質ガラスの全光線透過率およびヘーズ値の結果を表1に示す。吸水試験前における、比較例3の撥水処理を行っていない多孔質ガラスの全光線透過率は29.3%であったが、吸水試験後には25.5%となり透過率が低下した。
【0059】
また、ヘーズ値については比較例1の撥水処理を行っていない多孔質ガラスの吸水試験前におけるヘーズ値は79.5%であったが、吸水試験後には89.4%となりヘーズ値が増加した。以上のことから、比較例1と同様に撥水処理を施していないガラスでは吸水による多孔質ガラスの失透がみられた。
【0060】
[クラック発生有無の評価]
比較例3の撥水処理を行っていない多孔質ガラスについて吸水試験を行った。クラック発生有無については目視観察およびデジタルマイクロスコープ観察により確認した。試験前の試料にはクラックは確認されなかったが、試験後には比較例1と同様にクラックの発生が確認された。
【0061】
【表1】

【0062】
(注1)空孔径は平均空孔径を表す。
(注2)吸水試験後のクラック発生有無
○:クラックの発生は無し。
×:クラックの発生は有り。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の撥水性多孔質ガラスは、不均一な吸水に対して透明でかつクラックフリーな光学部材として用いることができる。このため光学分野において極めて有用な材料を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均空孔径が10nm以上100nm以下の空孔を有する多孔質ガラスにおいて、少なくとも前記多孔質ガラスの表面および内部に存在する空孔の表面に撥水剤を有することを特徴とする撥水性多孔質ガラス。
【請求項2】
前記多孔質ガラスは、スピノーダル型多孔構造を有することを特徴とする請求項1記載の撥水性多孔質ガラス。
【請求項3】
前記多孔質ガラスは、酸化ケイ素、酸化ホウ素、アルカリ金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1または2記載の撥水性多孔質ガラス。
【請求項4】
前記撥水剤は、フルオロアルキルシランあるいはフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の撥水性多孔質ガラス。
【請求項5】
前記撥水性多孔質ガラスは、濃度1g/L以上の撥水剤を含有する溶液に多孔質ガラスを含浸させることにより得られることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の撥水性多孔質ガラス。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の撥水性多孔質ガラスを用いたことを特徴とする光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251870(P2011−251870A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126327(P2010−126327)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】