撥水性薄膜およびその製造方法
【課題】無機材料を含み、薄く、かつ均質であり、十分な撥水性を有する薄膜材料を提供する。
【解決手段】複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜を含み、当該薄膜は、撥水性材料が露出する第1領域と、無機材料が露出する第2領域と、が混在して分布する撥水性表面を有し、無機材料が、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を示す材料、または半導体材料である撥水性薄膜であり、その撥水性薄膜は、粗表面を有する基材の当該粗表面に対し、気相法により、撥水性材料と無機材料とを同時に堆積させる工程により形成され得る。
【解決手段】複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜を含み、当該薄膜は、撥水性材料が露出する第1領域と、無機材料が露出する第2領域と、が混在して分布する撥水性表面を有し、無機材料が、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を示す材料、または半導体材料である撥水性薄膜であり、その撥水性薄膜は、粗表面を有する基材の当該粗表面に対し、気相法により、撥水性材料と無機材料とを同時に堆積させる工程により形成され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法、蒸着法などの気相法により形成され得る、複合化された撥水性材料と無機材料との堆積膜等からなる撥水性薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で、光触媒を表面に付着させることによりセルフクリーニング機能を付与したプラスチック、金属、セラミックス、ガラス等の材料が実用化されている。光触媒としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛などが知られており、酸化チタンが最も広く用いられている。
【0003】
光触媒は、光照射下において、物質の酸化または還元反応に対する触媒作用を示すことから、空気や水に含まれる有機物を分解し除去する機能性素材として期待されている。しかし、光触媒は、紫外線照射下では親水性を示し、有機物を吸着しにくくなるため、有機物を分解する能力を十分に発揮できない場合がある。
【0004】
そこで、光触媒を撥水性材料と組み合わせて疎水化することが試みられている。具体的には、光触媒粒子と撥水性材料との混合材料等が提案されている。しかし、これらの材料は、その厚さの制御が困難であり、特に均質な薄膜(例えば厚さ1μm以下の薄膜)の形成が困難である。
【0005】
例えば、特許文献1〜3は、光触媒粒子と撥水性粒子(例えばフッ素樹脂)とマトリックス樹脂(例えばシリコーン)とを含有する表面層や被膜を基材表面に設けることを提案している。しかし、このような表面層や被膜は、光触媒粒子と撥水性粒子を含むコーティング組成物を基材表面に塗布することで形成される。そのため、各粒子の粒径よりも薄い膜を形成することができず、かつ均質な膜を形成することも困難である。
【0006】
特許文献4は、光触媒粒子と撥水性粒子との混合物を焼成することにより、光触媒に撥水性を付与することを提案している。また、特許文献5は、シリコーンゴムの表面に光触媒粒子を配置し、プレス処理して埋め込んだ撥水性部材を提案している。しかし、このような材料は、薄膜化に限界があり、用途も限定的である。また、光触媒粒子と撥水性粒子とを混合したり、光触媒粒子をシリコーンゴムに埋め込んだりしても、光触媒自体を疎水化する効果はほとんど得られない。
【0007】
特許文献6は、微小な凹凸を有する基材の表層に、光触媒を分散させ、その後、表層をフルオロアルキルシランに接触させて撥水性を付与することを提案している。また、特許文献7は、基材表面に撥水性被膜を形成し、その上に光触媒層を形成することを提案している。しかし、基材の表層に光触媒を分散させた後に撥水性を付与すると、光触媒の活性が顕著に低下する。一方、撥水性被膜の上に光触媒層を形成すると、撥水性が顕著に低下する。
【0008】
特許文献8は、光触媒を含む無機薄膜の表面をプラズマ処理することにより、光照射の前後における水との接触角の変化を抑制することを提案している。しかし、無機薄膜をプラズマ処理するだけでは、光触媒を十分に疎水化することは困難であり、水との接触角は60度程度であると報告されている。
【0009】
なお、特許文献9は、光触媒に関する報告ではないが、プラスチック基板の撥水性を向上させる技術として、スパッタリング法により、金属酸化物やフッ素樹脂を含む混合層を基板上に形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−237431号公報
【特許文献2】特開平11−300270号公報
【特許文献3】特開平10−130539号公報
【特許文献4】特開平6−385号公報
【特許文献5】特許4318143号公報
【特許文献6】特開2001−152139号公報
【特許文献7】特開2000−135442号公報
【特許文献8】特開2010−37648号公報
【特許文献9】特開平3−153859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、光触媒の疎水化が種々検討されているものの、薄く均質な膜を形成可能であり、かつ十分な撥水性と光触媒活性を両立できる材料は開発途上であり、より優れた材料の開発が課題となっている。また、光触媒として利用される無機材料に限らず、種々の機能性無機材料も同様に、撥水性材料と複合化して疎水化することにより、有機物との相互作用の向上や機能制御の容易化が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜を含み、前記薄膜は、撥水性材料が露出する第1領域と、無機材料が露出する第2領域と、が混在して分布する撥水性表面を有する、撥水性薄膜に関する。
ここで、「混在」の状態としては、第1領域または第2領域が点在するように、撥水性表面の全体に平均的に分布している状態が好ましい。また、所定の分解能のEDS(energy dispersive X-ray spectroscopy)により撥水性表面の元素マップを測定した場合、第1領域と第2領域との区別が付かない程度の高い分散性を有することが好ましい。
【0013】
薄膜は、全体として見ると、均質であることが望ましいが、微視的に見ると、島状に点在する微小粒子で形成されていてもよい。各微小粒子は、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成されている。そして、各微小粒子の表面において、第1領域と第2領域とが混在するように分布していることが好ましい。
【0014】
前記薄膜は、堆積膜(deposition film)であることが好ましい。堆積膜であれば、第1領域または第2領域が点在するように撥水性表面の全体に平均的に分布している状態や、EDSにより撥水性表面の元素マップを測定したときに第1領域と第2領域との区別が付かない状態を、容易に達成することができる。
【0015】
堆積膜とは、気相法により形成され得る膜であり、気相中に発生させた超微小粒子(ナノ粒子)を、基材表面に堆積させることにより形成される。撥水性材料と無機材料との複合化は、気相中に発生させた撥水性材料と無機材料のナノ粒子を、基材表面に、同時に堆積させることで達成することができる。
【0016】
撥水性薄膜において、薄膜もしくは堆積膜の厚さ、すなわち複合化された撥水性材料と無機材料からなる領域の厚さは、例えば、10nm以上、3μm以下であることが好ましい。
撥水性表面の中心線平均粗さ(Ra)は、例えば、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様において、無機材料は、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を示す材料である。ここで、濃度10-5mol/Lのメチレンブルー水溶液を、撥水性薄膜とともに吸光度測定用の石英製セル(10mm×10mm×3mm)に導入し、1mW/cm2の光量で、水銀ランプからの紫外光(250nm以上)をセルの被光照射面に照射してメチレンブルーの分解反応を10時間行ったときに、メチレンブルーに由来する波長664nmの光の吸光度が反応前の50%以下になる場合、無機材料(もしくは撥水性薄膜)は光触媒作用を有すると定義する。ただし、撥水性薄膜には、基材の片面に形成された10mm×10mmの撥水性薄膜を用い、撥水性薄膜全体がメチレンブルー水溶液に浸漬された状態で反応を行う。
【0018】
無機材料が光触媒作用を示す材料である場合、撥水性表面と水との、紫外線非照射下での接触角をθ1、紫外線照射下での接触角をθ2とするとき、100×(θ1−θ2)/θ1で表される接触角の変動量は極めて小さく、例えば10%以下であることが好ましい。
【0019】
光触媒作用を示す材料は、例えば、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、硫化亜鉛、チタノシリケートおよびチタン含有アルミノシリケートよりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0020】
本発明の別の一態様において、無機材料は、半導体材料である。半導体材料は、例えば、酸化チタン、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)および硫化亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0021】
本発明においては、撥水性表面と水との、紫外線照射下での接触角θ2は、130度以上とすることができ、150度以上とすることも可能である。
【0022】
撥水性材料は、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ化黒鉛およびナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1種である。ここで、フッ素樹脂は、−(CF2)n−、ただしnは1以上の整数、またはCF3−で表される構造を有することが好ましい。フッ素樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー単位を含むポリマー材料である。
【0023】
本発明は、また、基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する上記のいずれかの撥水性薄膜と、を含む撥水性部材に関する。
撥水性薄膜の撥水性を高める観点から、撥水性薄膜を形成する前の基材の表面は、凹凸または三次元微細構造を有する粗表面であることが望ましい。撥水性薄膜を形成する前の粗表面の中心線平均粗さ(Ra)は、例えば1μm以上、10μm以下である。
【0024】
本発明の撥水性薄膜は、粗表面を有する基材の前記粗表面に対し、気相法により、撥水性材料と無機材料とを同時に堆積させる工程により形成することができる。ここで、気相法としては、例えば、スパッタリング法または蒸着法が好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、無機材料を含み、薄く、かつ均質であり、無機材料の機能を発揮しつつ、十分な撥水性も有する撥水性薄膜を得ることができる。
【0026】
例えば、本発明の撥水性薄膜が、無機材料として光触媒を含有する場合、紫外線照射下においても撥水性薄膜の高い撥水性が維持される。よって、撥水性薄膜と水が共存する場合であっても、光触媒は有機物の分解に対する高い活性を示す。撥水性薄膜は、薄く形成することが可能であり、微細部品の表面にも形成することが可能である。
【0027】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本願の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1に係る水熱処理を行う前のチタン基板の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】水熱処理により三次元微細構造が形成された同基板の粗表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】チタン基板の三次元微細構造を有する粗表面に形成された実施例1のポリテトラフルオロエチレンと酸化チタンとの複合材料からなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図4】紫外線照射の前後における実施例1の撥水性薄膜上の水滴の状態を示す図である。
【図5】チタン基板の三次元微細構造を有する粗表面に形成された比較例1の酸化チタンからなる薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図6】紫外線照射の前後における比較例1の薄膜上の水滴の状態を示す図である。
【図7】チタン基板の三次元微細構造を有する粗表面に形成された比較例2のポリテトラフルオロエチレンからなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図8】紫外線照射の前後における比較例2の撥水性薄膜上の水滴の状態を示す図である。
【図9】実施例1および比較例2の撥水性薄膜を用いて、メチレンブルーの分解反応を行った場合の、メチレンブルーに由来する波長664nmの光の吸光度の経時変化を示す図である。
【図10】水銀ランプSHL−100UVQ−2の放射スペクトルの分光エネルギー分布を示す図である。
【図11】実施例1で用いたPTFE−酸化チタンの複合ターゲットの外観を示す説明図である。
【図12】別のPTFE−酸化チタンの複合ターゲットの外観を示す説明図である。
【図13】石英基板の表面に形成されたポリテトラフルオロエチレンと酸化チタンとの複合材料からなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例1と同様に作製された別の撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[撥水性薄膜]
本発明の撥水性薄膜は、複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜である。撥水性薄膜は、様々な基材の表面に担持された状態で提供されるものである。撥水性薄膜とは、通常、複合化された撥水性材料と無機材料からなる部分を意味し、基材自体は、撥水性薄膜には含まれない。
【0030】
ただし、基材表面が粗化されている場合には、基材表層部が撥水性薄膜に包含されると考えることもできる。例えば、撥水性薄膜が凹凸または三次元微細構造を有する基材表面に形成されるとき、撥水性薄膜は、基材表層部と協働して、超撥水性を発現し得る。このような場合、機能的にも構造的にも基材表層部が撥水性薄膜の一部を構成しているといえるため、基材表層部を撥水性薄膜に含めることが合理的である。
【0031】
撥水性薄膜は、撥水性材料と無機材料との堆積膜として形成することができる。例えば、撥水性材料と無機材料とを同時に基材表面に堆積させることにより、撥水性材料と無機材料との複合化を容易に達成できる。
【0032】
撥水性薄膜に含まれる撥水性材料と無機材料との合計に占める、無機材料の含有量は、無機材料の分散性を高めるとともに、無機材料の機能を十分に発揮させる観点から、例えば、5〜75質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
【0033】
撥水性薄膜としては、撥水性材料と無機材料との複合材料の微小粒子が島状に点在するような疎な薄膜から、撥水性材料と無機材料とが緻密に充填されている薄膜まで、様々な薄膜が形成され得る。また、いずれの場合にも、第1領域と第2領域とが互いに接触した状態が形成され得る。
【0034】
[撥水性表面]
複合化された撥水性材料と無機材料とを含む撥水性薄膜は、撥水性材料が露出する第1領域と、無機材料が露出する第2領域とが、混在して分布する撥水性表面を有する。撥水性表面は、薄膜の基材表面と接触する側の表面ではなく、外気、有機物等に暴露される表面である。無機材料に由来する様々な機能(例えば光触媒による有機物を分解する機能)を発現するためには、撥水性表面に無機材料が露出していることが必須となる。
【0035】
第1領域および第2領域は、それぞれ、撥水性表面の全体に平均的に分布していることが望ましい。特に、第1領域と第2領域とが、それぞれ点在するように、撥水性表面の全体に平均的に分布している状態(換言すれば、撥水性表面に第1領域と第2領域が斑に配置されている状態)が望ましい。
【0036】
例えば、薄膜が、微視的に見ると、島状に点在する微小粒子で形成されている場合、各微小粒子は、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成されている。この場合、各微小粒子の表面において、第1領域と第2領域とが混在するように分布していることが好ましい。なお、微小粒子同士は、互いに接触していてもよいが、互いに離間していてもよい。微小粒子の平均的な大きさは、例えば、10nm以上、1μm以下であり、100nm以上、1μm以下が好ましい。従って、第1領域と第2領域とはナノレベルで混在していることが好ましい。微小粒子の平均的な大きさは、電子顕微鏡(SEM)により観測される任意の10個の微小粒子の最大径の平均値として求めればよい。
【0037】
無機材料に比べて撥水性材料が薄膜に多く含まれている場合には、第2領域が、撥水性表面の全体に点在するように、平均的に分布していてもよい。また、撥水性材料に比べて無機材料が薄膜に多く含まれている場合には、第1領域が、撥水性表面の全体に点在するように、平均的に分布していてもよい。
【0038】
撥水性表面における第1領域および第2領域の分散性のレベルは、例えば、EDSにより撥水性表面の元素マップを測定した場合、第1領域と第2領域との区別が付かない程度のレベルであることが望ましい。
【0039】
EDSによる測定範囲は、2μm四方とすればよい。EDSの特性X線は1μm以下であり、ミクロサイズの領域の分析が限界となる。一方、第1領域と第2領域とがナノレベルで混在する状態はEDSでも確認できる。各領域はEDSの分解能以下のサイズであるため、薄膜のどこの部分を分析しても撥水性材料と無機材料の両方の存在が確認される。
【0040】
撥水性を向上させる観点から、撥水性表面は、凹凸または三次元微細構造を有することが好ましい。撥水性表面の中心線平均粗さ(Ra)は、例えば1μm以上、10μm以下であることが好ましい。なお、三次元微細構造には、例えば多孔質構造が包含される。
【0041】
[中心線平均粗さ]
中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B0601(1994)に規定されている算術平均粗さであり、粗さ曲線を長さLの中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を、中心線の長さLで割った値である。Raは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定することもできる。AFMによる測定範囲は50μm四方とすればよい。
【0042】
[基材]
撥水性薄膜は、様々な部材(基材)の表面に形成される。撥水性薄膜の撥水性を向上させる観点から、撥水性薄膜を担持する基材表面は、凹凸または三次元微細構造を有する粗表面とすることが好ましい。粗表面の中心線平均粗さ(Ra)は、1μm以上、10μm以下であることが好ましく、超撥水性を発現させる観点からは、より大きい方が好ましい。撥水性表面の表面状態は、基材の粗表面の状態により制御することができる。ただし、撥水性表面の表面状態は、撥水性材料と無機材料からなる複合材料の厚さや、複合材料の形成方法などによっても制御することができる。
【0043】
基材の粗表面の凹凸や三次元微細構造は、基材表面に物理的加工を施すことにより形成してもよく、基材表面にエッチング、水熱処理などの化学的処理を施すことにより形成してもよい。ただし、基材自体が本来的に凹凸や三次元微細構造を有している場合には、物理的加工や化学的処理は必ずしも必要ではない。
【0044】
凹凸や三次元微細構造は、規則的なパターンで形成されていてもよく、不規則に形成されていてもよい。三次元微細構造は、多孔質構造であってもよい。例えば、金属、セラミックスなどの基材表面に、酸性またはアルカリ性の薬剤を接触させて化学的処理を施すことにより、基材表層部に多孔質構造を形成することができる。このような多孔質構造は、網目構造を有する繊維状物質で形成されていてもよい。
【0045】
[撥水性部材]
本発明の撥水性部材は、基材と、その基材の少なくとも一部を被覆するように形成された上記撥水性薄膜とを含むものであれば、特に限定されない。基材は、撥水性が要求される材料であれば特に限定されない。基材の材質は、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、ガラス、木材、パルプなどでもよい。基材の形状や用途は特に限定されない。
【0046】
[第1領域]
撥水性表面には、撥水性材料が露出する第1領域が分布している。第1領域は、撥水性表面の表面エネルギーを低減させる作用を有する。第1領域が撥水性表面の全体に分布することにより、撥水性表面全体の表面エネルギーが低減し、撥水性表面全体に撥水性が付与される。
【0047】
[第2領域]
撥水性表面には、無機材料が露出する第2領域が、第1領域と混在するように分布している。混在の態様は、撥水性表面に水滴が付着しても、水滴が、無機材料が露出する第2領域の影響を受けにくく、撥水性材料による表面エネルギーの低減効果が阻害されにくいような態様であることが望ましい。すなわち、無機材料が露出する第2領域には、水滴が付着しないことが望ましい。
【0048】
無機材料の機能を高める観点から、撥水性表面には、均一かつ満遍なく、無機材料が露出する第1領域が存在している必要がある。仮に、撥水性表面の一部に無機材料が偏在していると、無機材料が偏在する領域には、撥水性材料による表面エネルギーの低減効果がほとんど及ばず、無機材料が偏在する領域に水滴が付着しやすくなる。その結果、無機材料の機能が阻害される。
【0049】
無機材料が露出する第2領域が第1領域に点在している場合、無機材料が露出する第2領域の個々の大きさは、例えば1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。また、大きさの下限は、例えば1nm以上であることが好ましく、10nm以上や、30nm以上であってもよい。
【0050】
撥水性材料が露出する第1領域が第2領域に点在している場合、撥水性材料が露出する第1領域の個々の大きさは、例えば1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。また、大きさの下限は、例えば1nm以上であることが好ましく、10nm以上や、50nm以上であってもよい。なお、第1領域が狭いピッチで連続的に第2領域内に点在することにより、撥水性材料による表面エネルギーの低減効果が発揮され、無機材料が露出する第2領域にも水滴が付着しにくくなると考えられる。
【0051】
第1領域および第2領域の個々の大きさの測定は困難であるが、電子顕微鏡や高分解能のEDSにより、薄膜の表面を観測することにより予測可能である。第1領域と第2領域とは、顕微鏡写真やEDS像の色調等により区別可能である。例えば、測定対象となる領域を内包する円を描き、10個の円の直径の平均値を求めることで、各領域の大きさの平均値を得ればよい。測定は3視野で行い、30個の円の直径の平均値を取得すればよい。
【0052】
無機材料の機能を十分に発揮させるとともに、十分な撥水性を確保する観点から、第1表面の500nm四方の領域においても、第1領域と第2領域とが斑に配置された状態が好ましい。例えば、上記500nm四方の領域内に、第1領域と第2領域とが、それぞれ複数個所、好ましくはそれぞれ3箇所以上存在することが望ましいと考えられる。また、第1領域と第2領域とが斑に配置された状態において、隣接する第1領域と第2領域との中心間距離は、例えば10nm〜400nm程度であると考えられる。ここで、中心間距離とは、各領域を内包する円の中心間距離である。隣接する第1領域を内包する円と第2領域を内包する円は互いに重なっていてもよい。
【0053】
[堆積膜]
堆積膜とは、気相法により形成され得る膜であり、気相中に発生させたナノ粒子を、基材表面に堆積させることにより形成される。不純物が少なく、強固な堆積膜を形成する観点から、薄膜を形成するための気相雰囲気は、減圧雰囲気であることが望ましく、真空に近いことが望ましい。ただし、薄膜の原料となるナノ粒子の他に、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスを気相中に存在させてもよい。
【0054】
気相中に発生させた撥水性材料と無機材料のナノ粒子(クラスター、原子、分子、イオン、ラジカルなど)を、基材表面に同時に堆積させることにより、複合化された撥水性材料と無機材料との堆積膜を形成することができる。堆積膜は、微視的に見ると、微小な撥水性材料の粒子(以下、撥水性微粒子)と、微小な無機材料の粒子(無機微粒子)とで構成されていると考えられる。すなわち、撥水性材料と無機材料の他の成分をほとんど含まない(不純物の含有量は、通常0.05質量%以下である)。また、第1領域または第2領域のサイズが小さく、かつ撥水性微粒子と無機微粒子とが緻密に充填されている。このような膜構造は、本発明の撥水性薄膜に特有の構造であり、従来のコーティング組成物を用いて形成される撥水性薄膜では見られない構造である。
【0055】
気相法により形成される堆積膜は、撥水性微粒子同士が凝集して互いに結合している領域と、無機微粒子同士が凝集して互いに結合している領域と、撥水性微粒子と無機微粒子とが互いに結合している領域とを含んでいると考えられる。このように、堆積膜には、撥水性材料と無機材料とが(例えば複合材料の微小粒子内においても)緻密に充填されているため、第1領域と第2領域とが互いに接触した状態となっている。その結果、無機材料は撥水性材料により固定化(immobilized)された状態となっているため、無機材料の脱落が起りにくい。
【0056】
[薄膜の厚さ]
薄膜の厚さ(撥水性材料と無機材料との複合材料からなる部分の厚さ)は、撥水性薄膜の強度、材料コストなどを考慮すると、例えば10nm以上、3μm以下であることが好ましい。ここで、微細部品のように、極めて薄い薄膜が要求される基材に撥水性薄膜を形成する場合には、堆積膜が適している。気相法により形成され得る堆積膜は、厚さを制御することが比較液容易である。堆積膜の厚さは、基材表面に付着させる微小粒子の量を成膜時間により調整することで制御できる。堆積膜は緻密な構造を有することから、薄くても強度が高く、自動車のフロントガラスなどの用途に最適である。
【0057】
気相法により形成される堆積膜の厚さは、微細部品の機能や外観を損なわないようにする観点からは、やはり薄い方が好ましく、例えば600nm以下が好ましく、300nm以下が特に好ましい。一方、耐衝撃性や耐候性を確保する観点からは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましい。
【0058】
[薄膜の空隙率]
薄膜の空隙率は、成膜方法により依存するところが大きいが、比較的厚さの大きい堆積膜の場合は、緻密な構造を有することから、空隙率が小さくなる。ここで、空隙率とは、薄膜(撥水性材料と無機材料との複合材料からなる部分)の内部に形成され得るボイドなどの空隙の、薄膜の見かけ体積に対する割合である。
【0059】
空隙率は、薄膜が島状に点在する微小粒子で形成されている場合には測定できないが、緻密な膜である場合には、以下の二次元的な方法により測定できる。
まず、薄膜を厚さ方向に切断して断面を形成し、断面を研磨とクロスポリッシャにより処理する。その後、処理された断面を、走査型イオン顕微鏡(SIM)により観察し、断面像(断面SIM像)を取得する。空隙率は、断面SIM像のコントラストを利用して、画像ソフト(ImageJ)を用いて求めることができる。断面SIM像を2値化して分布図を取得すると、空隙部分は黒色領域として表示される。薄膜の断面積に対する黒色領域の面積の割合を、画像ソフトを用いて計算すれば空隙率が得られる。
【0060】
[超撥水性]
撥水性薄膜の撥水性は、水と撥水性表面との接触角で評価される静的撥水性で表される。接触角が大きいほど、撥水性薄膜は静的撥水性に優れている。Raを上記の好ましい範囲に制御することにより、撥水性薄膜の撥水性表面の水との接触角を130度以上、さらには150度以上に制御することが可能である。固体表面における水との接触角が150度以上になる性質は「超撥水性」と称される。
【0061】
超撥水性を示す固体表面は、防水に加え、水滴の付着の抑制による防曇効果などの特徴的な機能を示す。そのため、近年、超撥水性を付与した機能性材料の設計および開発が盛んに行われている。超撥水性を示す固体表面の構築には、表面における微細構造の導入と表面エネルギーの低下が重要である。
【0062】
撥水性材料と複合化される無機材料の中には、酸化チタンのように、紫外線などの光照射下では、高い親水性を示すものがある。このような無機材料であっても、撥水性材料と複合化された薄膜とすることによって、光照射下での親水化を防ぐことが可能である。具体的には、本発明によれば、撥水性表面と水との接触角が、紫外線照射下であっても、130度以上、さらには150度以上である撥水性薄膜を得ることができる。ここで、紫外線とは、波長10〜400nmの電磁波を指す。酸化チタンに限らず、紫外線の照射により親水性が高くなり、疎水性が低くなる無機材料であれば同様の効果が得られる。
【0063】
本発明の撥水性薄膜の場合、紫外線非照射下での接触角をθ1、紫外線照射下での接触角をθ2とするとき、100×(θ1−θ2)/θ1で表される接触角の変動量を、例えば10%以下に制御することが可能であり、5%以下に制御することも可能である。
【0064】
なお、本発明において、水と撥水性表面との接触角は、露点25℃の空気中で測定された場合の値である。また、紫外線非照射下での接触角は、撥水性薄膜の撥水性表面に、蒸留水の水滴(1μL)を滴下し、10秒以内に測定される値である。一方、紫外線照射下における接触角は、撥水性表面への紫外線照射(水銀ランプ使用)を開始してから300分間後に、撥水性表面に蒸留水の水滴(1μL)を滴下し、10秒以内に測定される値である。紫外線の光量は、1000μW/cm2である。
【0065】
[無機材料]
撥水性材料と複合化することが望まれる機能性無機材料としては、例えば、触媒担体として機能する材料、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を有する材料、半導体の性質を有する材料等が挙げられる。このような材料としては、様々な無機酸化物、無機硫化物などが研究、開発され、用いられている。これらの材料は、イオン交換作用を有する材料や分子ふるい効果を有する材料として形成したり、イオン交換作用を有する材料や分子ふるい効果を有する材料と併用したりすることもできる。
【0066】
イオン交換作用を有する材料や、分子ふるい効果を有する材料としては、例えば、ゼオライトが挙げられる。ゼオライトとしては、アルミノシリケートが代表的であるが、ケイ素およびアルミニウム以外の様々な金属元素(例えばチタン等の光触媒作用を発現させる金属)を、その骨格に導入することができる。例えば、チタノシリケートもしくはチタン含有アルミノシリケートなどを無機材料として用いてもよい。また、ゼオライトを含む薄膜を形成した後、様々な金属元素をイオン交換法、担持法などにより導入してもよい。
【0067】
触媒担体として機能する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、メソポーラスシリカなどが挙げられる。また、メソポーラスシリカの骨格には、ケイ素以外の様々な金属元素(例えばチタン等の光触媒作用を発現させる金属)を導入することができ、所望の機能を有するメソポーラス材料を形成することができる。また、メソポーラスシリカもしくはメソポーラス材料を含む薄膜を形成した後、様々な金属元素を担持法などにより導入してもよい。
【0068】
光触媒作用を有する無機材料としては、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、硫化亜鉛、チタノシリケート、チタン含有アルミノシリケートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて、または複合化して用いることもできる。
【0069】
また、光触媒作用を有する無機材料を、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどの光触媒作用を示さない材料のマトリックスに分散させた複合無機材料を用いてもよい。例えば、チタン原子とこれに4配位または6配位する酸素からなるチタン種を含む材料を用いることができる。また、アルミノシリケートと撥水性材料との複合材料からなる薄膜を形成した後、アルミノシリケート部分に、チタン、亜鉛、ジルコニアなどの金属元素を様々な手法で導入して、光触媒作用を持たせるようにしてもよい。
【0070】
半導体の性質を有する無機材料としては、酸化チタン、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)、硫化亜鉛などを含む材料が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて、または複合化して用いることもできる。
【0071】
上記の中でも、酸化チタンは元々半導体材料であるが、光触媒としても有望であり、実用化も進んでいる。酸化チタンは、例えばアナタース型やルチル型の結晶性酸化チタンでもよく、微結晶またはアモルファスの酸化チタンでもよい。結晶性酸化チタンは、有機物を酸化分解する能力が高い点で好ましいが、微結晶またはアモルファスの酸化チタンであっても、微粒子化された場合や高分散状態で他の材料に組み込まれた場合には、有機物に対する高い酸化分解活性を示すことが知られている。また、結晶性酸化チタンであっても、量子サイズ効果が得られる程度に微粒子化することで光触媒活性が高められる。
【0072】
ただし、酸化チタンのような無機材料は、単独では、紫外線照射により、親水性を示す性質がある。有機物の多くは疎水性であるため、紫外線照射下では、無機材料と有機物との接触機会が減少する。一方、本発明の撥水性薄膜が、上記のような複合化された無機材料と撥水性材料とを含む薄膜により形成されている場合、紫外線照射下であっても、水との接触角を150度以上にまで高めることが可能である。
【0073】
[光触媒作用]
本発明においては、下記条件でメチレンブルーの分解反応を10時間行ったときに、メチレンブルーの吸光度が反応前の50%以下になる場合には、無機材料(もしくは撥水性薄膜)が光触媒作用を有すると定義する。
<条件>
(i)試料溶液:メチレンブルー水溶液、10-5mol/L、1mL
(ii)触媒量:基材の片面に形成された10mm×10mmの撥水性薄膜
(iii)光量:1mW/cm2、水銀ランプ(250nm以上のUV光を放射)を使用
(iv)評価法:メチレンブルーに由来する波長664nmの光の吸光度の変化
【0074】
[セルフクリーニング効果]
撥水性材料による超撥水性と無機材料による光触媒作用とを組み合わせることにより、基材に有機物が付着しても、これを分解するとともに洗い流す機能、すなわちセルフクリーニング効果が得られる。超撥水性を有する薄膜には、水滴が付着しないため、撥水性薄膜が形成された材料に雨露が付着した場合には、水滴が光触媒作用により分解された有機物を巻き込んで滑落する。このような効果は、メンテナンスフリーな内装または外装用建材や自動車のフロントガラスなどへの実用化が期待できる。
【0075】
[撥水性材料]
撥水性材料は、気相法により成膜できる材料であることが好ましいが、特に限定されない。例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などの撥水性樹脂材料、フッ化黒鉛などの撥水性炭素材料、ナノカーボン材料などが好ましい。これらは単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることもできる。これらのうちでは、強度の高い堆積膜が得られるという点で、撥水性樹脂材料が好ましく、フッ素樹脂が特に好ましい。なお、フッ素樹脂とは、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称である。
【0076】
フッ素樹脂の中でも、撥水性に優れ、成膜時に変性しにくい性質を有することから、−(CF2)n−、ただしnは1以上の整数、またはCF3−で表される構造を有するフッ素樹脂が特に好ましい。このようなフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー単位を含むポリマー材料が挙げられる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレンなどが特に好ましい。
【0077】
[撥水性薄膜の製造]
撥水性薄膜は、基材表面に、撥水性材料と無機材料とを、気相法により同時に堆積させることにより形成することができる。ここで、気相法としては、スパッタリング法、蒸着法、CVD法(Chemical vapor deposition)、イオンプレーティング法などが挙げられるが、スパッタリング法または蒸着法が好適である。以下では、複合化された撥水性材料と無機酸化物との堆積膜をスパッタリング法により形成する場合を例にとって説明する。
【0078】
具体的には、まず、薄膜を形成するための表面を有する基材を準備する。基材表面には、三次元微細構造を形成しておくことにより、完成後の撥水性薄膜の撥水性を高め、超撥水性を発現させることが可能になる。
【0079】
例えばTi、Zn、Al、Mg、これらの少なくとも1種を含む合金などの金属を基材として用いる場合には、金属の表面に、プレス加工を施したり、酸性またはアルカリ性溶液による化学的エッチングを施したりすることにより、粗化処理を施すことができる。化学的エッチングの手法は、特に限定されないが、例えば、加熱された水酸化ナトリウム水溶液中に金属基材を浸漬することにより、基材表層部を、網目状に発達した繊維状物質からなる多孔質構造に変化させることができる。
【0080】
スパッタリング法としては、RFマグネトロンスパッタリングが好適である。スパッタリングは、例えば1×10-4Pa以下に減圧され、かつ不活性ガス(例えばアルゴン)が導入された処理空間(チャンバー)内で行うことが望ましい。処理空間内には、薄膜の原料となるターゲットと基材とを対向させて配置する。ターゲットの裏側には永久磁石が配置されている。基材とターゲットとの間に電圧を印加するとともに、永久磁石により磁界を発生させることで、不活性ガスのイオン化が促進され、イオンがターゲットに衝突して、薄膜の原料となる微小粒子が生成する。微小粒子は、印加された電圧の作用で基材表面に堆積する。
【0081】
このとき、ターゲットとして、撥水性材料(例えばPTFE)と無機材料(例えば酸化チタン)とを近接して設置することにより、両者を同時に基材表面に堆積させることができる。よって、均質な複合材料としての薄膜を形成することができる。撥水性材料のターゲットとしては、例えば、PTFEの場合、PTFE粒子を圧縮して成形されたペレットや、PTFEのシートを用いることができる。また、無機材料のターゲットとしては、例えば酸化チタンの場合、粉末酸化チタンを圧縮して成形されたペレットを用いることができる。撥水性材料と無機材料の両方を含む混合ターゲットを用いてもよい。混合ターゲットの形態としては、例えば4つ以上の円弧状領域に分割され、かつ中心角に沿って交互に撥水性材料と無機材料の円弧状領域が配置された円形ターゲットが挙げられる。ただし、ターゲットにおける撥水性材料の領域と無機材料の領域の配置の仕方は、特に限定されない。
【0082】
また、酸化ケイ素と、酸化アルミニウムと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と、撥水性材料とを、同時に堆積させることで、アルミノシリケートと撥水性材料との複合材料を堆積させたり、酸化ケイ素と、酸化チタンと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と、撥水性材料とを、同時に堆積させることで、チタノシリケートと撥水性材料との複合材料を堆積させたりすることもできる。形成された薄膜に、その後、望ましい処理(例えば加熱)を施して、ゼオライト様の細孔構造の形成を促進させてもよい。
【0083】
RFマグネトロンスパッタリングを行う際の高周波出力は、特に限定されず、適正な成膜速度を実現する観点から調整すればよい。また、成膜中の基材の温度は室温から100℃程度に制御することが望ましい。厚さ50nm〜500nm程度の撥水性薄膜を形成する場合には、0.5〜3時間程度までで成膜を終えることが望ましい。
【0084】
なお、基材表層部が、網目構造を有する繊維状物質で形成されている場合、撥水性材料を基材表面に堆積させると、複数本の繊維状物質が撥水性材料により巻き込まれる現象が起る。その結果、束ねられた複数本の繊維状物質と、これを被覆する撥水性薄膜からなる、より太い繊維状の複合部材が形成される。同様の現象は、撥水性材料と無機材料とを同時に堆積させる場合にも見られる。このような繊維状の複合部材においては、撥水性材料が複数本の繊維を巻き込んでいることから、薄膜と基材表面との結合力が高くなる。よって、強固な撥水性薄膜が形成される。
【0085】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
[基材の水熱処理]
基材となるチタン基板の表層部に、水熱処理により、三次元微細構造を形成した。具体的には、チタン基板を220℃の1Mの水酸化ナトリウム水溶液中に3時間浸漬し、続いて、0.6Mの塩酸水溶液に2時間浸漬し、その後、蒸留水とエタノールで洗浄した。次に、洗浄後のチタン基板を、500℃で30分間焼成することにより、チタン基板の表層部を、網目構造を有する繊維状物質からなる多孔質構造に変化させた。水熱処理を行う前のチタン基板の表面の電子顕微鏡写真を図1に示す。また、三次元微細構造が形成されたチタン基板の表面の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0086】
[撥水性薄膜の成膜]
チタン基板の三次元微細構造が形成された表面に対して、RFマグネトロンスパッタリングにより、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と酸化チタン(TiO2)を、下記条件で同時にスパッタリングした。その結果、PTFEと酸化チタンとの複合材料が基材の粗表面に堆積し、撥水性薄膜が形成された。三次元微細構造を有する基材表面に形成されたPTFEと酸化チタンとの複合材料からなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0087】
下記複合ターゲットには、直径25.4mm(1インチ)の円形ターゲットを用いた。円形ターゲットは4つ以上の円弧状領域に区分して、中心角に沿ってPTFEと酸化チタンの円弧状領域をそれぞれ2領域ずつ配置した。
【0088】
<スパッタリング条件>
装置:株式会社グリーンテック製のスパッタ装置
アルゴン雰囲気の圧力:1×10-4 Pa〜2×10-4 Paまで減圧した後、アルゴンガスを1Paになるまで導入
出力:10W
ターゲット:PTFE−酸化チタンの複合ターゲット
成膜時間:1時間
【0089】
[薄膜の物性]
スパッタリング条件から計算される撥水性薄膜の厚さは50〜200nmであった。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後では156.6度、紫外線照射後は154.9度であり、いずれも超撥水性を示した。紫外線照射の前後における撥水性薄膜上の水滴の状態を図4に示す。
【0090】
《実施例2》
チタン基板の水熱処理を行わないこと以外、実施例1同様に、スパッタリングにより撥水性薄膜を形成した。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後は110度、紫外線照射後は107度であった。
【0091】
《比較例1》
ターゲットとして、酸化チタンだけを用い、PTFEを用いなかったこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングにより撥水性薄膜を形成した。三次元微細構造を有する基材表面に形成された酸化チタンからなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図5に示す。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後では106.5度、紫外線照射後は1.8度であり、紫外線照射後は明らかに親水性を示した。紫外線照射の前後における撥水性薄膜上の水滴の状態を図6に示す。
【0092】
《比較例2》
ターゲットとして、PTFEだけを用い、酸化チタンを用いなかったこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングにより撥水性薄膜を形成した。三次元微細構造を有する基材表面に形成されたPTFEからなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図7に示す。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後では168.1度、紫外線照射後は165.3度であり、いずれも超撥水性を示した。紫外線照射の前後における撥水性薄膜上の水滴の状態を図8に示す。
【0093】
[薄膜の光触媒作用]
次に、実施例1および比較例2の撥水性薄膜の光触媒としての活性を評価した。
具体的には、濃度10-5mol/Lのメチレンブルー水溶液を1mL秤量し、これを石英製の10mm×10mm×3mmサイズのセルに導入し、同じく10mm×10mmサイズの撥水性薄膜を片面に有するチタン基板をメチレンブルー水溶液に完全に浸漬した。この状態で、紫外線照射(光量:1mW/cm2、水銀ランプ(株式会社東芝製SHL−100UVQ−2)を使用)を行い、1時間毎に、メチレンブルー水溶液のUV−visスペクトル(吸収スペクトル)を測定した。メチレンブルーは波長664nmに吸収ピークを示す。吸収ピーク(吸光度)の経時変化を図9に示す。吸収ピークの減少量はメチレンブルーの分解反応量に比例する。なお、図9中、I0は初期吸収強度、Iは各時間における吸収強度を示す。
なお、水銀ランプSHL−100UVQ−2は、250nm以上のUVスペクトルを利用可能であり、最強スペクトルは546nmである。水銀ランプの分光エネルギー分布を図10に示す。
【0094】
図9より、実施例1の撥水性薄膜を用いた場合(グラフA)には、10時間後にメチレンブルー(MB)の90%以上が酸化分解されており、高い光触媒作用が発揮されていることが理解できる。一方、比較例2の撥水性薄膜を用いた場合(グラフB)には、10時間後にもメチレンブルーの60%以上が残存しており、光触媒作用を有さないことが理解できる。なお、グラフCは、いずれの撥水性薄膜も用いずに、メチレンブルーのみで分解反応を行った場合のブランク試験の結果を示している。
【0095】
なお、実施例1で用いたPTFE−酸化チタンの複合ターゲットの外観を図11に示す。また、PTFE−酸化チタンの複合ターゲットの変形例の外観を図12に示す。
【0096】
さらに、チタン基板の代わりに、石英基板に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と酸化チタン(TiO2)を、同時にスパッタリングして形成された薄膜を図13に示す。図13では、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成された微小粒子が、石英基板の表面に、島状に点在している様子が伺える。
【0097】
さらに、実施例1と同様に作製された別の撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図14に示す。図14においても、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成された微小粒子が、チタン基板の表面に、島状に点在している様子が伺える。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の撥水性薄膜は、様々な機能を有する無機材料を含む薄膜に応用することができる。本発明の撥水性薄膜は、薄く、かつ均質であり、無機材料の機能(例えば光触媒作用)を発揮しつつ、十分な撥水性も発揮する。よって、例えば、水が存在する環境下において防汚効果が必要とされる材料に光触媒作用を付与するのに適している。また、本発明の撥水性薄膜は、薄く形成できるため、厚い薄膜を付与するのに適さない材料、例えば、高い放熱性が要求される部材、光透過性が要求される部材、微細構造を有する部材に形成するのに適している。
【0099】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法、蒸着法などの気相法により形成され得る、複合化された撥水性材料と無機材料との堆積膜等からなる撥水性薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で、光触媒を表面に付着させることによりセルフクリーニング機能を付与したプラスチック、金属、セラミックス、ガラス等の材料が実用化されている。光触媒としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛などが知られており、酸化チタンが最も広く用いられている。
【0003】
光触媒は、光照射下において、物質の酸化または還元反応に対する触媒作用を示すことから、空気や水に含まれる有機物を分解し除去する機能性素材として期待されている。しかし、光触媒は、紫外線照射下では親水性を示し、有機物を吸着しにくくなるため、有機物を分解する能力を十分に発揮できない場合がある。
【0004】
そこで、光触媒を撥水性材料と組み合わせて疎水化することが試みられている。具体的には、光触媒粒子と撥水性材料との混合材料等が提案されている。しかし、これらの材料は、その厚さの制御が困難であり、特に均質な薄膜(例えば厚さ1μm以下の薄膜)の形成が困難である。
【0005】
例えば、特許文献1〜3は、光触媒粒子と撥水性粒子(例えばフッ素樹脂)とマトリックス樹脂(例えばシリコーン)とを含有する表面層や被膜を基材表面に設けることを提案している。しかし、このような表面層や被膜は、光触媒粒子と撥水性粒子を含むコーティング組成物を基材表面に塗布することで形成される。そのため、各粒子の粒径よりも薄い膜を形成することができず、かつ均質な膜を形成することも困難である。
【0006】
特許文献4は、光触媒粒子と撥水性粒子との混合物を焼成することにより、光触媒に撥水性を付与することを提案している。また、特許文献5は、シリコーンゴムの表面に光触媒粒子を配置し、プレス処理して埋め込んだ撥水性部材を提案している。しかし、このような材料は、薄膜化に限界があり、用途も限定的である。また、光触媒粒子と撥水性粒子とを混合したり、光触媒粒子をシリコーンゴムに埋め込んだりしても、光触媒自体を疎水化する効果はほとんど得られない。
【0007】
特許文献6は、微小な凹凸を有する基材の表層に、光触媒を分散させ、その後、表層をフルオロアルキルシランに接触させて撥水性を付与することを提案している。また、特許文献7は、基材表面に撥水性被膜を形成し、その上に光触媒層を形成することを提案している。しかし、基材の表層に光触媒を分散させた後に撥水性を付与すると、光触媒の活性が顕著に低下する。一方、撥水性被膜の上に光触媒層を形成すると、撥水性が顕著に低下する。
【0008】
特許文献8は、光触媒を含む無機薄膜の表面をプラズマ処理することにより、光照射の前後における水との接触角の変化を抑制することを提案している。しかし、無機薄膜をプラズマ処理するだけでは、光触媒を十分に疎水化することは困難であり、水との接触角は60度程度であると報告されている。
【0009】
なお、特許文献9は、光触媒に関する報告ではないが、プラスチック基板の撥水性を向上させる技術として、スパッタリング法により、金属酸化物やフッ素樹脂を含む混合層を基板上に形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−237431号公報
【特許文献2】特開平11−300270号公報
【特許文献3】特開平10−130539号公報
【特許文献4】特開平6−385号公報
【特許文献5】特許4318143号公報
【特許文献6】特開2001−152139号公報
【特許文献7】特開2000−135442号公報
【特許文献8】特開2010−37648号公報
【特許文献9】特開平3−153859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、光触媒の疎水化が種々検討されているものの、薄く均質な膜を形成可能であり、かつ十分な撥水性と光触媒活性を両立できる材料は開発途上であり、より優れた材料の開発が課題となっている。また、光触媒として利用される無機材料に限らず、種々の機能性無機材料も同様に、撥水性材料と複合化して疎水化することにより、有機物との相互作用の向上や機能制御の容易化が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜を含み、前記薄膜は、撥水性材料が露出する第1領域と、無機材料が露出する第2領域と、が混在して分布する撥水性表面を有する、撥水性薄膜に関する。
ここで、「混在」の状態としては、第1領域または第2領域が点在するように、撥水性表面の全体に平均的に分布している状態が好ましい。また、所定の分解能のEDS(energy dispersive X-ray spectroscopy)により撥水性表面の元素マップを測定した場合、第1領域と第2領域との区別が付かない程度の高い分散性を有することが好ましい。
【0013】
薄膜は、全体として見ると、均質であることが望ましいが、微視的に見ると、島状に点在する微小粒子で形成されていてもよい。各微小粒子は、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成されている。そして、各微小粒子の表面において、第1領域と第2領域とが混在するように分布していることが好ましい。
【0014】
前記薄膜は、堆積膜(deposition film)であることが好ましい。堆積膜であれば、第1領域または第2領域が点在するように撥水性表面の全体に平均的に分布している状態や、EDSにより撥水性表面の元素マップを測定したときに第1領域と第2領域との区別が付かない状態を、容易に達成することができる。
【0015】
堆積膜とは、気相法により形成され得る膜であり、気相中に発生させた超微小粒子(ナノ粒子)を、基材表面に堆積させることにより形成される。撥水性材料と無機材料との複合化は、気相中に発生させた撥水性材料と無機材料のナノ粒子を、基材表面に、同時に堆積させることで達成することができる。
【0016】
撥水性薄膜において、薄膜もしくは堆積膜の厚さ、すなわち複合化された撥水性材料と無機材料からなる領域の厚さは、例えば、10nm以上、3μm以下であることが好ましい。
撥水性表面の中心線平均粗さ(Ra)は、例えば、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様において、無機材料は、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を示す材料である。ここで、濃度10-5mol/Lのメチレンブルー水溶液を、撥水性薄膜とともに吸光度測定用の石英製セル(10mm×10mm×3mm)に導入し、1mW/cm2の光量で、水銀ランプからの紫外光(250nm以上)をセルの被光照射面に照射してメチレンブルーの分解反応を10時間行ったときに、メチレンブルーに由来する波長664nmの光の吸光度が反応前の50%以下になる場合、無機材料(もしくは撥水性薄膜)は光触媒作用を有すると定義する。ただし、撥水性薄膜には、基材の片面に形成された10mm×10mmの撥水性薄膜を用い、撥水性薄膜全体がメチレンブルー水溶液に浸漬された状態で反応を行う。
【0018】
無機材料が光触媒作用を示す材料である場合、撥水性表面と水との、紫外線非照射下での接触角をθ1、紫外線照射下での接触角をθ2とするとき、100×(θ1−θ2)/θ1で表される接触角の変動量は極めて小さく、例えば10%以下であることが好ましい。
【0019】
光触媒作用を示す材料は、例えば、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、硫化亜鉛、チタノシリケートおよびチタン含有アルミノシリケートよりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0020】
本発明の別の一態様において、無機材料は、半導体材料である。半導体材料は、例えば、酸化チタン、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)および硫化亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0021】
本発明においては、撥水性表面と水との、紫外線照射下での接触角θ2は、130度以上とすることができ、150度以上とすることも可能である。
【0022】
撥水性材料は、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ化黒鉛およびナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1種である。ここで、フッ素樹脂は、−(CF2)n−、ただしnは1以上の整数、またはCF3−で表される構造を有することが好ましい。フッ素樹脂は、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー単位を含むポリマー材料である。
【0023】
本発明は、また、基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する上記のいずれかの撥水性薄膜と、を含む撥水性部材に関する。
撥水性薄膜の撥水性を高める観点から、撥水性薄膜を形成する前の基材の表面は、凹凸または三次元微細構造を有する粗表面であることが望ましい。撥水性薄膜を形成する前の粗表面の中心線平均粗さ(Ra)は、例えば1μm以上、10μm以下である。
【0024】
本発明の撥水性薄膜は、粗表面を有する基材の前記粗表面に対し、気相法により、撥水性材料と無機材料とを同時に堆積させる工程により形成することができる。ここで、気相法としては、例えば、スパッタリング法または蒸着法が好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、無機材料を含み、薄く、かつ均質であり、無機材料の機能を発揮しつつ、十分な撥水性も有する撥水性薄膜を得ることができる。
【0026】
例えば、本発明の撥水性薄膜が、無機材料として光触媒を含有する場合、紫外線照射下においても撥水性薄膜の高い撥水性が維持される。よって、撥水性薄膜と水が共存する場合であっても、光触媒は有機物の分解に対する高い活性を示す。撥水性薄膜は、薄く形成することが可能であり、微細部品の表面にも形成することが可能である。
【0027】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本願の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1に係る水熱処理を行う前のチタン基板の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】水熱処理により三次元微細構造が形成された同基板の粗表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】チタン基板の三次元微細構造を有する粗表面に形成された実施例1のポリテトラフルオロエチレンと酸化チタンとの複合材料からなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図4】紫外線照射の前後における実施例1の撥水性薄膜上の水滴の状態を示す図である。
【図5】チタン基板の三次元微細構造を有する粗表面に形成された比較例1の酸化チタンからなる薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図6】紫外線照射の前後における比較例1の薄膜上の水滴の状態を示す図である。
【図7】チタン基板の三次元微細構造を有する粗表面に形成された比較例2のポリテトラフルオロエチレンからなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図8】紫外線照射の前後における比較例2の撥水性薄膜上の水滴の状態を示す図である。
【図9】実施例1および比較例2の撥水性薄膜を用いて、メチレンブルーの分解反応を行った場合の、メチレンブルーに由来する波長664nmの光の吸光度の経時変化を示す図である。
【図10】水銀ランプSHL−100UVQ−2の放射スペクトルの分光エネルギー分布を示す図である。
【図11】実施例1で用いたPTFE−酸化チタンの複合ターゲットの外観を示す説明図である。
【図12】別のPTFE−酸化チタンの複合ターゲットの外観を示す説明図である。
【図13】石英基板の表面に形成されたポリテトラフルオロエチレンと酸化チタンとの複合材料からなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例1と同様に作製された別の撥水性薄膜の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[撥水性薄膜]
本発明の撥水性薄膜は、複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜である。撥水性薄膜は、様々な基材の表面に担持された状態で提供されるものである。撥水性薄膜とは、通常、複合化された撥水性材料と無機材料からなる部分を意味し、基材自体は、撥水性薄膜には含まれない。
【0030】
ただし、基材表面が粗化されている場合には、基材表層部が撥水性薄膜に包含されると考えることもできる。例えば、撥水性薄膜が凹凸または三次元微細構造を有する基材表面に形成されるとき、撥水性薄膜は、基材表層部と協働して、超撥水性を発現し得る。このような場合、機能的にも構造的にも基材表層部が撥水性薄膜の一部を構成しているといえるため、基材表層部を撥水性薄膜に含めることが合理的である。
【0031】
撥水性薄膜は、撥水性材料と無機材料との堆積膜として形成することができる。例えば、撥水性材料と無機材料とを同時に基材表面に堆積させることにより、撥水性材料と無機材料との複合化を容易に達成できる。
【0032】
撥水性薄膜に含まれる撥水性材料と無機材料との合計に占める、無機材料の含有量は、無機材料の分散性を高めるとともに、無機材料の機能を十分に発揮させる観点から、例えば、5〜75質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
【0033】
撥水性薄膜としては、撥水性材料と無機材料との複合材料の微小粒子が島状に点在するような疎な薄膜から、撥水性材料と無機材料とが緻密に充填されている薄膜まで、様々な薄膜が形成され得る。また、いずれの場合にも、第1領域と第2領域とが互いに接触した状態が形成され得る。
【0034】
[撥水性表面]
複合化された撥水性材料と無機材料とを含む撥水性薄膜は、撥水性材料が露出する第1領域と、無機材料が露出する第2領域とが、混在して分布する撥水性表面を有する。撥水性表面は、薄膜の基材表面と接触する側の表面ではなく、外気、有機物等に暴露される表面である。無機材料に由来する様々な機能(例えば光触媒による有機物を分解する機能)を発現するためには、撥水性表面に無機材料が露出していることが必須となる。
【0035】
第1領域および第2領域は、それぞれ、撥水性表面の全体に平均的に分布していることが望ましい。特に、第1領域と第2領域とが、それぞれ点在するように、撥水性表面の全体に平均的に分布している状態(換言すれば、撥水性表面に第1領域と第2領域が斑に配置されている状態)が望ましい。
【0036】
例えば、薄膜が、微視的に見ると、島状に点在する微小粒子で形成されている場合、各微小粒子は、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成されている。この場合、各微小粒子の表面において、第1領域と第2領域とが混在するように分布していることが好ましい。なお、微小粒子同士は、互いに接触していてもよいが、互いに離間していてもよい。微小粒子の平均的な大きさは、例えば、10nm以上、1μm以下であり、100nm以上、1μm以下が好ましい。従って、第1領域と第2領域とはナノレベルで混在していることが好ましい。微小粒子の平均的な大きさは、電子顕微鏡(SEM)により観測される任意の10個の微小粒子の最大径の平均値として求めればよい。
【0037】
無機材料に比べて撥水性材料が薄膜に多く含まれている場合には、第2領域が、撥水性表面の全体に点在するように、平均的に分布していてもよい。また、撥水性材料に比べて無機材料が薄膜に多く含まれている場合には、第1領域が、撥水性表面の全体に点在するように、平均的に分布していてもよい。
【0038】
撥水性表面における第1領域および第2領域の分散性のレベルは、例えば、EDSにより撥水性表面の元素マップを測定した場合、第1領域と第2領域との区別が付かない程度のレベルであることが望ましい。
【0039】
EDSによる測定範囲は、2μm四方とすればよい。EDSの特性X線は1μm以下であり、ミクロサイズの領域の分析が限界となる。一方、第1領域と第2領域とがナノレベルで混在する状態はEDSでも確認できる。各領域はEDSの分解能以下のサイズであるため、薄膜のどこの部分を分析しても撥水性材料と無機材料の両方の存在が確認される。
【0040】
撥水性を向上させる観点から、撥水性表面は、凹凸または三次元微細構造を有することが好ましい。撥水性表面の中心線平均粗さ(Ra)は、例えば1μm以上、10μm以下であることが好ましい。なお、三次元微細構造には、例えば多孔質構造が包含される。
【0041】
[中心線平均粗さ]
中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B0601(1994)に規定されている算術平均粗さであり、粗さ曲線を長さLの中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を、中心線の長さLで割った値である。Raは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定することもできる。AFMによる測定範囲は50μm四方とすればよい。
【0042】
[基材]
撥水性薄膜は、様々な部材(基材)の表面に形成される。撥水性薄膜の撥水性を向上させる観点から、撥水性薄膜を担持する基材表面は、凹凸または三次元微細構造を有する粗表面とすることが好ましい。粗表面の中心線平均粗さ(Ra)は、1μm以上、10μm以下であることが好ましく、超撥水性を発現させる観点からは、より大きい方が好ましい。撥水性表面の表面状態は、基材の粗表面の状態により制御することができる。ただし、撥水性表面の表面状態は、撥水性材料と無機材料からなる複合材料の厚さや、複合材料の形成方法などによっても制御することができる。
【0043】
基材の粗表面の凹凸や三次元微細構造は、基材表面に物理的加工を施すことにより形成してもよく、基材表面にエッチング、水熱処理などの化学的処理を施すことにより形成してもよい。ただし、基材自体が本来的に凹凸や三次元微細構造を有している場合には、物理的加工や化学的処理は必ずしも必要ではない。
【0044】
凹凸や三次元微細構造は、規則的なパターンで形成されていてもよく、不規則に形成されていてもよい。三次元微細構造は、多孔質構造であってもよい。例えば、金属、セラミックスなどの基材表面に、酸性またはアルカリ性の薬剤を接触させて化学的処理を施すことにより、基材表層部に多孔質構造を形成することができる。このような多孔質構造は、網目構造を有する繊維状物質で形成されていてもよい。
【0045】
[撥水性部材]
本発明の撥水性部材は、基材と、その基材の少なくとも一部を被覆するように形成された上記撥水性薄膜とを含むものであれば、特に限定されない。基材は、撥水性が要求される材料であれば特に限定されない。基材の材質は、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、ガラス、木材、パルプなどでもよい。基材の形状や用途は特に限定されない。
【0046】
[第1領域]
撥水性表面には、撥水性材料が露出する第1領域が分布している。第1領域は、撥水性表面の表面エネルギーを低減させる作用を有する。第1領域が撥水性表面の全体に分布することにより、撥水性表面全体の表面エネルギーが低減し、撥水性表面全体に撥水性が付与される。
【0047】
[第2領域]
撥水性表面には、無機材料が露出する第2領域が、第1領域と混在するように分布している。混在の態様は、撥水性表面に水滴が付着しても、水滴が、無機材料が露出する第2領域の影響を受けにくく、撥水性材料による表面エネルギーの低減効果が阻害されにくいような態様であることが望ましい。すなわち、無機材料が露出する第2領域には、水滴が付着しないことが望ましい。
【0048】
無機材料の機能を高める観点から、撥水性表面には、均一かつ満遍なく、無機材料が露出する第1領域が存在している必要がある。仮に、撥水性表面の一部に無機材料が偏在していると、無機材料が偏在する領域には、撥水性材料による表面エネルギーの低減効果がほとんど及ばず、無機材料が偏在する領域に水滴が付着しやすくなる。その結果、無機材料の機能が阻害される。
【0049】
無機材料が露出する第2領域が第1領域に点在している場合、無機材料が露出する第2領域の個々の大きさは、例えば1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。また、大きさの下限は、例えば1nm以上であることが好ましく、10nm以上や、30nm以上であってもよい。
【0050】
撥水性材料が露出する第1領域が第2領域に点在している場合、撥水性材料が露出する第1領域の個々の大きさは、例えば1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。また、大きさの下限は、例えば1nm以上であることが好ましく、10nm以上や、50nm以上であってもよい。なお、第1領域が狭いピッチで連続的に第2領域内に点在することにより、撥水性材料による表面エネルギーの低減効果が発揮され、無機材料が露出する第2領域にも水滴が付着しにくくなると考えられる。
【0051】
第1領域および第2領域の個々の大きさの測定は困難であるが、電子顕微鏡や高分解能のEDSにより、薄膜の表面を観測することにより予測可能である。第1領域と第2領域とは、顕微鏡写真やEDS像の色調等により区別可能である。例えば、測定対象となる領域を内包する円を描き、10個の円の直径の平均値を求めることで、各領域の大きさの平均値を得ればよい。測定は3視野で行い、30個の円の直径の平均値を取得すればよい。
【0052】
無機材料の機能を十分に発揮させるとともに、十分な撥水性を確保する観点から、第1表面の500nm四方の領域においても、第1領域と第2領域とが斑に配置された状態が好ましい。例えば、上記500nm四方の領域内に、第1領域と第2領域とが、それぞれ複数個所、好ましくはそれぞれ3箇所以上存在することが望ましいと考えられる。また、第1領域と第2領域とが斑に配置された状態において、隣接する第1領域と第2領域との中心間距離は、例えば10nm〜400nm程度であると考えられる。ここで、中心間距離とは、各領域を内包する円の中心間距離である。隣接する第1領域を内包する円と第2領域を内包する円は互いに重なっていてもよい。
【0053】
[堆積膜]
堆積膜とは、気相法により形成され得る膜であり、気相中に発生させたナノ粒子を、基材表面に堆積させることにより形成される。不純物が少なく、強固な堆積膜を形成する観点から、薄膜を形成するための気相雰囲気は、減圧雰囲気であることが望ましく、真空に近いことが望ましい。ただし、薄膜の原料となるナノ粒子の他に、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスを気相中に存在させてもよい。
【0054】
気相中に発生させた撥水性材料と無機材料のナノ粒子(クラスター、原子、分子、イオン、ラジカルなど)を、基材表面に同時に堆積させることにより、複合化された撥水性材料と無機材料との堆積膜を形成することができる。堆積膜は、微視的に見ると、微小な撥水性材料の粒子(以下、撥水性微粒子)と、微小な無機材料の粒子(無機微粒子)とで構成されていると考えられる。すなわち、撥水性材料と無機材料の他の成分をほとんど含まない(不純物の含有量は、通常0.05質量%以下である)。また、第1領域または第2領域のサイズが小さく、かつ撥水性微粒子と無機微粒子とが緻密に充填されている。このような膜構造は、本発明の撥水性薄膜に特有の構造であり、従来のコーティング組成物を用いて形成される撥水性薄膜では見られない構造である。
【0055】
気相法により形成される堆積膜は、撥水性微粒子同士が凝集して互いに結合している領域と、無機微粒子同士が凝集して互いに結合している領域と、撥水性微粒子と無機微粒子とが互いに結合している領域とを含んでいると考えられる。このように、堆積膜には、撥水性材料と無機材料とが(例えば複合材料の微小粒子内においても)緻密に充填されているため、第1領域と第2領域とが互いに接触した状態となっている。その結果、無機材料は撥水性材料により固定化(immobilized)された状態となっているため、無機材料の脱落が起りにくい。
【0056】
[薄膜の厚さ]
薄膜の厚さ(撥水性材料と無機材料との複合材料からなる部分の厚さ)は、撥水性薄膜の強度、材料コストなどを考慮すると、例えば10nm以上、3μm以下であることが好ましい。ここで、微細部品のように、極めて薄い薄膜が要求される基材に撥水性薄膜を形成する場合には、堆積膜が適している。気相法により形成され得る堆積膜は、厚さを制御することが比較液容易である。堆積膜の厚さは、基材表面に付着させる微小粒子の量を成膜時間により調整することで制御できる。堆積膜は緻密な構造を有することから、薄くても強度が高く、自動車のフロントガラスなどの用途に最適である。
【0057】
気相法により形成される堆積膜の厚さは、微細部品の機能や外観を損なわないようにする観点からは、やはり薄い方が好ましく、例えば600nm以下が好ましく、300nm以下が特に好ましい。一方、耐衝撃性や耐候性を確保する観点からは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましい。
【0058】
[薄膜の空隙率]
薄膜の空隙率は、成膜方法により依存するところが大きいが、比較的厚さの大きい堆積膜の場合は、緻密な構造を有することから、空隙率が小さくなる。ここで、空隙率とは、薄膜(撥水性材料と無機材料との複合材料からなる部分)の内部に形成され得るボイドなどの空隙の、薄膜の見かけ体積に対する割合である。
【0059】
空隙率は、薄膜が島状に点在する微小粒子で形成されている場合には測定できないが、緻密な膜である場合には、以下の二次元的な方法により測定できる。
まず、薄膜を厚さ方向に切断して断面を形成し、断面を研磨とクロスポリッシャにより処理する。その後、処理された断面を、走査型イオン顕微鏡(SIM)により観察し、断面像(断面SIM像)を取得する。空隙率は、断面SIM像のコントラストを利用して、画像ソフト(ImageJ)を用いて求めることができる。断面SIM像を2値化して分布図を取得すると、空隙部分は黒色領域として表示される。薄膜の断面積に対する黒色領域の面積の割合を、画像ソフトを用いて計算すれば空隙率が得られる。
【0060】
[超撥水性]
撥水性薄膜の撥水性は、水と撥水性表面との接触角で評価される静的撥水性で表される。接触角が大きいほど、撥水性薄膜は静的撥水性に優れている。Raを上記の好ましい範囲に制御することにより、撥水性薄膜の撥水性表面の水との接触角を130度以上、さらには150度以上に制御することが可能である。固体表面における水との接触角が150度以上になる性質は「超撥水性」と称される。
【0061】
超撥水性を示す固体表面は、防水に加え、水滴の付着の抑制による防曇効果などの特徴的な機能を示す。そのため、近年、超撥水性を付与した機能性材料の設計および開発が盛んに行われている。超撥水性を示す固体表面の構築には、表面における微細構造の導入と表面エネルギーの低下が重要である。
【0062】
撥水性材料と複合化される無機材料の中には、酸化チタンのように、紫外線などの光照射下では、高い親水性を示すものがある。このような無機材料であっても、撥水性材料と複合化された薄膜とすることによって、光照射下での親水化を防ぐことが可能である。具体的には、本発明によれば、撥水性表面と水との接触角が、紫外線照射下であっても、130度以上、さらには150度以上である撥水性薄膜を得ることができる。ここで、紫外線とは、波長10〜400nmの電磁波を指す。酸化チタンに限らず、紫外線の照射により親水性が高くなり、疎水性が低くなる無機材料であれば同様の効果が得られる。
【0063】
本発明の撥水性薄膜の場合、紫外線非照射下での接触角をθ1、紫外線照射下での接触角をθ2とするとき、100×(θ1−θ2)/θ1で表される接触角の変動量を、例えば10%以下に制御することが可能であり、5%以下に制御することも可能である。
【0064】
なお、本発明において、水と撥水性表面との接触角は、露点25℃の空気中で測定された場合の値である。また、紫外線非照射下での接触角は、撥水性薄膜の撥水性表面に、蒸留水の水滴(1μL)を滴下し、10秒以内に測定される値である。一方、紫外線照射下における接触角は、撥水性表面への紫外線照射(水銀ランプ使用)を開始してから300分間後に、撥水性表面に蒸留水の水滴(1μL)を滴下し、10秒以内に測定される値である。紫外線の光量は、1000μW/cm2である。
【0065】
[無機材料]
撥水性材料と複合化することが望まれる機能性無機材料としては、例えば、触媒担体として機能する材料、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を有する材料、半導体の性質を有する材料等が挙げられる。このような材料としては、様々な無機酸化物、無機硫化物などが研究、開発され、用いられている。これらの材料は、イオン交換作用を有する材料や分子ふるい効果を有する材料として形成したり、イオン交換作用を有する材料や分子ふるい効果を有する材料と併用したりすることもできる。
【0066】
イオン交換作用を有する材料や、分子ふるい効果を有する材料としては、例えば、ゼオライトが挙げられる。ゼオライトとしては、アルミノシリケートが代表的であるが、ケイ素およびアルミニウム以外の様々な金属元素(例えばチタン等の光触媒作用を発現させる金属)を、その骨格に導入することができる。例えば、チタノシリケートもしくはチタン含有アルミノシリケートなどを無機材料として用いてもよい。また、ゼオライトを含む薄膜を形成した後、様々な金属元素をイオン交換法、担持法などにより導入してもよい。
【0067】
触媒担体として機能する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、メソポーラスシリカなどが挙げられる。また、メソポーラスシリカの骨格には、ケイ素以外の様々な金属元素(例えばチタン等の光触媒作用を発現させる金属)を導入することができ、所望の機能を有するメソポーラス材料を形成することができる。また、メソポーラスシリカもしくはメソポーラス材料を含む薄膜を形成した後、様々な金属元素を担持法などにより導入してもよい。
【0068】
光触媒作用を有する無機材料としては、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、硫化亜鉛、チタノシリケート、チタン含有アルミノシリケートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて、または複合化して用いることもできる。
【0069】
また、光触媒作用を有する無機材料を、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどの光触媒作用を示さない材料のマトリックスに分散させた複合無機材料を用いてもよい。例えば、チタン原子とこれに4配位または6配位する酸素からなるチタン種を含む材料を用いることができる。また、アルミノシリケートと撥水性材料との複合材料からなる薄膜を形成した後、アルミノシリケート部分に、チタン、亜鉛、ジルコニアなどの金属元素を様々な手法で導入して、光触媒作用を持たせるようにしてもよい。
【0070】
半導体の性質を有する無機材料としては、酸化チタン、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)、硫化亜鉛などを含む材料が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて、または複合化して用いることもできる。
【0071】
上記の中でも、酸化チタンは元々半導体材料であるが、光触媒としても有望であり、実用化も進んでいる。酸化チタンは、例えばアナタース型やルチル型の結晶性酸化チタンでもよく、微結晶またはアモルファスの酸化チタンでもよい。結晶性酸化チタンは、有機物を酸化分解する能力が高い点で好ましいが、微結晶またはアモルファスの酸化チタンであっても、微粒子化された場合や高分散状態で他の材料に組み込まれた場合には、有機物に対する高い酸化分解活性を示すことが知られている。また、結晶性酸化チタンであっても、量子サイズ効果が得られる程度に微粒子化することで光触媒活性が高められる。
【0072】
ただし、酸化チタンのような無機材料は、単独では、紫外線照射により、親水性を示す性質がある。有機物の多くは疎水性であるため、紫外線照射下では、無機材料と有機物との接触機会が減少する。一方、本発明の撥水性薄膜が、上記のような複合化された無機材料と撥水性材料とを含む薄膜により形成されている場合、紫外線照射下であっても、水との接触角を150度以上にまで高めることが可能である。
【0073】
[光触媒作用]
本発明においては、下記条件でメチレンブルーの分解反応を10時間行ったときに、メチレンブルーの吸光度が反応前の50%以下になる場合には、無機材料(もしくは撥水性薄膜)が光触媒作用を有すると定義する。
<条件>
(i)試料溶液:メチレンブルー水溶液、10-5mol/L、1mL
(ii)触媒量:基材の片面に形成された10mm×10mmの撥水性薄膜
(iii)光量:1mW/cm2、水銀ランプ(250nm以上のUV光を放射)を使用
(iv)評価法:メチレンブルーに由来する波長664nmの光の吸光度の変化
【0074】
[セルフクリーニング効果]
撥水性材料による超撥水性と無機材料による光触媒作用とを組み合わせることにより、基材に有機物が付着しても、これを分解するとともに洗い流す機能、すなわちセルフクリーニング効果が得られる。超撥水性を有する薄膜には、水滴が付着しないため、撥水性薄膜が形成された材料に雨露が付着した場合には、水滴が光触媒作用により分解された有機物を巻き込んで滑落する。このような効果は、メンテナンスフリーな内装または外装用建材や自動車のフロントガラスなどへの実用化が期待できる。
【0075】
[撥水性材料]
撥水性材料は、気相法により成膜できる材料であることが好ましいが、特に限定されない。例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などの撥水性樹脂材料、フッ化黒鉛などの撥水性炭素材料、ナノカーボン材料などが好ましい。これらは単独で用いることも、複数種を組み合わせて用いることもできる。これらのうちでは、強度の高い堆積膜が得られるという点で、撥水性樹脂材料が好ましく、フッ素樹脂が特に好ましい。なお、フッ素樹脂とは、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称である。
【0076】
フッ素樹脂の中でも、撥水性に優れ、成膜時に変性しにくい性質を有することから、−(CF2)n−、ただしnは1以上の整数、またはCF3−で表される構造を有するフッ素樹脂が特に好ましい。このようなフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー単位を含むポリマー材料が挙げられる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレンなどが特に好ましい。
【0077】
[撥水性薄膜の製造]
撥水性薄膜は、基材表面に、撥水性材料と無機材料とを、気相法により同時に堆積させることにより形成することができる。ここで、気相法としては、スパッタリング法、蒸着法、CVD法(Chemical vapor deposition)、イオンプレーティング法などが挙げられるが、スパッタリング法または蒸着法が好適である。以下では、複合化された撥水性材料と無機酸化物との堆積膜をスパッタリング法により形成する場合を例にとって説明する。
【0078】
具体的には、まず、薄膜を形成するための表面を有する基材を準備する。基材表面には、三次元微細構造を形成しておくことにより、完成後の撥水性薄膜の撥水性を高め、超撥水性を発現させることが可能になる。
【0079】
例えばTi、Zn、Al、Mg、これらの少なくとも1種を含む合金などの金属を基材として用いる場合には、金属の表面に、プレス加工を施したり、酸性またはアルカリ性溶液による化学的エッチングを施したりすることにより、粗化処理を施すことができる。化学的エッチングの手法は、特に限定されないが、例えば、加熱された水酸化ナトリウム水溶液中に金属基材を浸漬することにより、基材表層部を、網目状に発達した繊維状物質からなる多孔質構造に変化させることができる。
【0080】
スパッタリング法としては、RFマグネトロンスパッタリングが好適である。スパッタリングは、例えば1×10-4Pa以下に減圧され、かつ不活性ガス(例えばアルゴン)が導入された処理空間(チャンバー)内で行うことが望ましい。処理空間内には、薄膜の原料となるターゲットと基材とを対向させて配置する。ターゲットの裏側には永久磁石が配置されている。基材とターゲットとの間に電圧を印加するとともに、永久磁石により磁界を発生させることで、不活性ガスのイオン化が促進され、イオンがターゲットに衝突して、薄膜の原料となる微小粒子が生成する。微小粒子は、印加された電圧の作用で基材表面に堆積する。
【0081】
このとき、ターゲットとして、撥水性材料(例えばPTFE)と無機材料(例えば酸化チタン)とを近接して設置することにより、両者を同時に基材表面に堆積させることができる。よって、均質な複合材料としての薄膜を形成することができる。撥水性材料のターゲットとしては、例えば、PTFEの場合、PTFE粒子を圧縮して成形されたペレットや、PTFEのシートを用いることができる。また、無機材料のターゲットとしては、例えば酸化チタンの場合、粉末酸化チタンを圧縮して成形されたペレットを用いることができる。撥水性材料と無機材料の両方を含む混合ターゲットを用いてもよい。混合ターゲットの形態としては、例えば4つ以上の円弧状領域に分割され、かつ中心角に沿って交互に撥水性材料と無機材料の円弧状領域が配置された円形ターゲットが挙げられる。ただし、ターゲットにおける撥水性材料の領域と無機材料の領域の配置の仕方は、特に限定されない。
【0082】
また、酸化ケイ素と、酸化アルミニウムと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と、撥水性材料とを、同時に堆積させることで、アルミノシリケートと撥水性材料との複合材料を堆積させたり、酸化ケイ素と、酸化チタンと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と、撥水性材料とを、同時に堆積させることで、チタノシリケートと撥水性材料との複合材料を堆積させたりすることもできる。形成された薄膜に、その後、望ましい処理(例えば加熱)を施して、ゼオライト様の細孔構造の形成を促進させてもよい。
【0083】
RFマグネトロンスパッタリングを行う際の高周波出力は、特に限定されず、適正な成膜速度を実現する観点から調整すればよい。また、成膜中の基材の温度は室温から100℃程度に制御することが望ましい。厚さ50nm〜500nm程度の撥水性薄膜を形成する場合には、0.5〜3時間程度までで成膜を終えることが望ましい。
【0084】
なお、基材表層部が、網目構造を有する繊維状物質で形成されている場合、撥水性材料を基材表面に堆積させると、複数本の繊維状物質が撥水性材料により巻き込まれる現象が起る。その結果、束ねられた複数本の繊維状物質と、これを被覆する撥水性薄膜からなる、より太い繊維状の複合部材が形成される。同様の現象は、撥水性材料と無機材料とを同時に堆積させる場合にも見られる。このような繊維状の複合部材においては、撥水性材料が複数本の繊維を巻き込んでいることから、薄膜と基材表面との結合力が高くなる。よって、強固な撥水性薄膜が形成される。
【0085】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
[基材の水熱処理]
基材となるチタン基板の表層部に、水熱処理により、三次元微細構造を形成した。具体的には、チタン基板を220℃の1Mの水酸化ナトリウム水溶液中に3時間浸漬し、続いて、0.6Mの塩酸水溶液に2時間浸漬し、その後、蒸留水とエタノールで洗浄した。次に、洗浄後のチタン基板を、500℃で30分間焼成することにより、チタン基板の表層部を、網目構造を有する繊維状物質からなる多孔質構造に変化させた。水熱処理を行う前のチタン基板の表面の電子顕微鏡写真を図1に示す。また、三次元微細構造が形成されたチタン基板の表面の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0086】
[撥水性薄膜の成膜]
チタン基板の三次元微細構造が形成された表面に対して、RFマグネトロンスパッタリングにより、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と酸化チタン(TiO2)を、下記条件で同時にスパッタリングした。その結果、PTFEと酸化チタンとの複合材料が基材の粗表面に堆積し、撥水性薄膜が形成された。三次元微細構造を有する基材表面に形成されたPTFEと酸化チタンとの複合材料からなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0087】
下記複合ターゲットには、直径25.4mm(1インチ)の円形ターゲットを用いた。円形ターゲットは4つ以上の円弧状領域に区分して、中心角に沿ってPTFEと酸化チタンの円弧状領域をそれぞれ2領域ずつ配置した。
【0088】
<スパッタリング条件>
装置:株式会社グリーンテック製のスパッタ装置
アルゴン雰囲気の圧力:1×10-4 Pa〜2×10-4 Paまで減圧した後、アルゴンガスを1Paになるまで導入
出力:10W
ターゲット:PTFE−酸化チタンの複合ターゲット
成膜時間:1時間
【0089】
[薄膜の物性]
スパッタリング条件から計算される撥水性薄膜の厚さは50〜200nmであった。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後では156.6度、紫外線照射後は154.9度であり、いずれも超撥水性を示した。紫外線照射の前後における撥水性薄膜上の水滴の状態を図4に示す。
【0090】
《実施例2》
チタン基板の水熱処理を行わないこと以外、実施例1同様に、スパッタリングにより撥水性薄膜を形成した。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後は110度、紫外線照射後は107度であった。
【0091】
《比較例1》
ターゲットとして、酸化チタンだけを用い、PTFEを用いなかったこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングにより撥水性薄膜を形成した。三次元微細構造を有する基材表面に形成された酸化チタンからなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図5に示す。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後では106.5度、紫外線照射後は1.8度であり、紫外線照射後は明らかに親水性を示した。紫外線照射の前後における撥水性薄膜上の水滴の状態を図6に示す。
【0092】
《比較例2》
ターゲットとして、PTFEだけを用い、酸化チタンを用いなかったこと以外、実施例1と同様に、スパッタリングにより撥水性薄膜を形成した。三次元微細構造を有する基材表面に形成されたPTFEからなる撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図7に示す。
撥水性薄膜と水との接触角は、成膜直後では168.1度、紫外線照射後は165.3度であり、いずれも超撥水性を示した。紫外線照射の前後における撥水性薄膜上の水滴の状態を図8に示す。
【0093】
[薄膜の光触媒作用]
次に、実施例1および比較例2の撥水性薄膜の光触媒としての活性を評価した。
具体的には、濃度10-5mol/Lのメチレンブルー水溶液を1mL秤量し、これを石英製の10mm×10mm×3mmサイズのセルに導入し、同じく10mm×10mmサイズの撥水性薄膜を片面に有するチタン基板をメチレンブルー水溶液に完全に浸漬した。この状態で、紫外線照射(光量:1mW/cm2、水銀ランプ(株式会社東芝製SHL−100UVQ−2)を使用)を行い、1時間毎に、メチレンブルー水溶液のUV−visスペクトル(吸収スペクトル)を測定した。メチレンブルーは波長664nmに吸収ピークを示す。吸収ピーク(吸光度)の経時変化を図9に示す。吸収ピークの減少量はメチレンブルーの分解反応量に比例する。なお、図9中、I0は初期吸収強度、Iは各時間における吸収強度を示す。
なお、水銀ランプSHL−100UVQ−2は、250nm以上のUVスペクトルを利用可能であり、最強スペクトルは546nmである。水銀ランプの分光エネルギー分布を図10に示す。
【0094】
図9より、実施例1の撥水性薄膜を用いた場合(グラフA)には、10時間後にメチレンブルー(MB)の90%以上が酸化分解されており、高い光触媒作用が発揮されていることが理解できる。一方、比較例2の撥水性薄膜を用いた場合(グラフB)には、10時間後にもメチレンブルーの60%以上が残存しており、光触媒作用を有さないことが理解できる。なお、グラフCは、いずれの撥水性薄膜も用いずに、メチレンブルーのみで分解反応を行った場合のブランク試験の結果を示している。
【0095】
なお、実施例1で用いたPTFE−酸化チタンの複合ターゲットの外観を図11に示す。また、PTFE−酸化チタンの複合ターゲットの変形例の外観を図12に示す。
【0096】
さらに、チタン基板の代わりに、石英基板に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と酸化チタン(TiO2)を、同時にスパッタリングして形成された薄膜を図13に示す。図13では、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成された微小粒子が、石英基板の表面に、島状に点在している様子が伺える。
【0097】
さらに、実施例1と同様に作製された別の撥水性薄膜の電子顕微鏡写真を図14に示す。図14においても、撥水性材料と無機材料との複合材料により形成された微小粒子が、チタン基板の表面に、島状に点在している様子が伺える。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の撥水性薄膜は、様々な機能を有する無機材料を含む薄膜に応用することができる。本発明の撥水性薄膜は、薄く、かつ均質であり、無機材料の機能(例えば光触媒作用)を発揮しつつ、十分な撥水性も発揮する。よって、例えば、水が存在する環境下において防汚効果が必要とされる材料に光触媒作用を付与するのに適している。また、本発明の撥水性薄膜は、薄く形成できるため、厚い薄膜を付与するのに適さない材料、例えば、高い放熱性が要求される部材、光透過性が要求される部材、微細構造を有する部材に形成するのに適している。
【0099】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜を含み、
前記薄膜は、前記撥水性材料が露出する第1領域と、前記無機材料が露出する第2領域と、が混在して分布する撥水性表面を有し、
前記無機材料が、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を示す材料、または半導体材料である、撥水性薄膜。
【請求項2】
前記薄膜が、前記撥水性材料と前記無機材料との堆積膜である、請求項1記載の撥水性薄膜。
【請求項3】
前記薄膜の厚さが、10nm以上、3μm以下である、請求項1または2記載の撥水性薄膜。
【請求項4】
前記撥水性表面と水との、紫外線非照射下での接触角をθ1、紫外線照射下での接触角をθ2とするとき、100×(θ1−θ2)/θ1で表される接触角の変動量が10%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項5】
前記光触媒作用を示す材料が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、硫化亜鉛、チタノシリケートおよびチタン含有アルミノシリケートよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項6】
前記半導体材料が、酸化チタン、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)および硫化亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項7】
前記撥水性表面の水との、紫外線照射下での接触角θ2が、130度以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項8】
前記撥水性表面と水との、紫外線照射下での接触角θ2が、150度以上である、請求項7記載の撥水性薄膜。
【請求項9】
前記撥水性材料が、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ化黒鉛およびナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項10】
前記フッ素樹脂が、−(CF2)n−、ただしnは1以上の整数、またはCF3−で表される構造を有する、請求項9記載の撥水性薄膜。
【請求項11】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー単位を含む、請求項10記載の撥水性薄膜。
【請求項12】
基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆するように形成された請求項1〜11のいずれか1項に記載の撥水性薄膜と、を含む、撥水性部材。
【請求項1】
複合化された撥水性材料と無機材料とを含む薄膜を含み、
前記薄膜は、前記撥水性材料が露出する第1領域と、前記無機材料が露出する第2領域と、が混在して分布する撥水性表面を有し、
前記無機材料が、光照射により有機物を酸化または還元する光触媒作用を示す材料、または半導体材料である、撥水性薄膜。
【請求項2】
前記薄膜が、前記撥水性材料と前記無機材料との堆積膜である、請求項1記載の撥水性薄膜。
【請求項3】
前記薄膜の厚さが、10nm以上、3μm以下である、請求項1または2記載の撥水性薄膜。
【請求項4】
前記撥水性表面と水との、紫外線非照射下での接触角をθ1、紫外線照射下での接触角をθ2とするとき、100×(θ1−θ2)/θ1で表される接触角の変動量が10%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項5】
前記光触媒作用を示す材料が、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、硫化亜鉛、チタノシリケートおよびチタン含有アルミノシリケートよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項6】
前記半導体材料が、酸化チタン、硫化カドミウム、チタン酸ストロンチウム、酸化ニオブ、硫化カドミウム、テルル化カドミウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)および硫化亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項7】
前記撥水性表面の水との、紫外線照射下での接触角θ2が、130度以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項8】
前記撥水性表面と水との、紫外線照射下での接触角θ2が、150度以上である、請求項7記載の撥水性薄膜。
【請求項9】
前記撥水性材料が、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フッ化黒鉛およびナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の撥水性薄膜。
【請求項10】
前記フッ素樹脂が、−(CF2)n−、ただしnは1以上の整数、またはCF3−で表される構造を有する、請求項9記載の撥水性薄膜。
【請求項11】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー単位を含む、請求項10記載の撥水性薄膜。
【請求項12】
基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆するように形成された請求項1〜11のいずれか1項に記載の撥水性薄膜と、を含む、撥水性部材。
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−99706(P2013−99706A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243722(P2011−243722)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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