説明

撥水撥油性組成物、該組成物からなる紙様シート基材用撥水撥油処理剤、及び該組成物で処理してなる撥水撥油性の紙様シート

【課題】紙様シート基材への水の浸透を防止し、シリコーンの離脱・移行を抑制できる、より優れた撥水性及び撥油性の性能を紙様シート基材に付与することができる撥水撥油組成物を提供する。
【解決手段】(A)分子中のアルキル基は炭素原子数1〜4であり、アルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物100質量部、(B)リン酸3〜40質量部、(C)ポリビニルアルコール系樹脂100〜900質量部、及び(D)水200〜100,000質量部を含む撥水撥油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種紙様シート基材に対し撥水性及び撥油性を付与できるシリコーン組成物及び該組成物からなる紙様シート基材用撥水撥油処理剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
食品用の包装紙や包装容器、クッキングペーパーなどに用いられる紙材料は、食品の油分や水分が浸透して周囲を汚さないように、また食品が粘着あるいは接着して取り出す際に変形や破損する事の無いように、撥水性、撥油性及び非粘着性が付与されている。
【0003】
撥水性、撥油性及び非粘着性を付与するために、従来からパーフルオロアルキル基を有する各種の化合物が好適に利用されている。その一つとして、パーフルオロアルキル基を有する重合性単量体の重合体を利用する方法が知られている。このような化合物は、多くの場合、抄紙する際に水に分散された形態で用いることにより被処理材に添加される内添法に、又は、抄紙した紙をこのような化合物を含む処理液に浸漬させる外添法に、広く用いられてきた。
【0004】
上記のパーフルオロアルキル基を有する化合物を利用する方法に関し、例えば、特開平10−7738号公報(特許文献1)には溶解性の改良、特開2000−169735号公報(特許文献2)には処理法による撥油性低下の防止、特開2001−98033号公報(特許文献3)には二次加工性の改良、特開2002−220539号公報(特許文献4)には密着性の改良が提案されている。
【0005】
別の方法として、パーフルオロアルキル基を有するリン酸エステルのアミン塩を用いる方法が知られており、上述の重合体を利用するものと同様に広く用いられてきた。例えば、特開昭64−6196号公報(特許文献5)及び特開昭56−138197号公報(特許文献6)には分散安定性の改善、特開2000−87013号公報(特許文献7)及び特開2000−144120号公報(特許文献8)には貯蔵安定性の改良の提案がなされている。
【0006】
しかし、フルオロ脂肪族炭化水素は、オゾン層の破壊物質や地球温暖化物質とされ、その使用が規制されている。そのため、フルオロ脂肪族炭化水素と類似の構造を有するフッ素化合物においても、近い将来に環境問題に関連して何らかの規制がなされる可能性は否めない。また、食品用途においては、電子レンジ等による調理の際に僅かではあるがフッ素を含有した有害性物質が生成する可能性が指摘されている。同様の問題は廃棄処分のための焼却に関しても指摘されており、フッ酸などのフッ素を含有する有害性物質を環境に排出する危険性が問題視されている。
【0007】
これらの状況から、パーフルオロアルキル基を有する化合物を利用する事無く、紙材料に撥水性及び撥油性や非粘着性を付与する方法が求められている。パーフルオロアルキル基を代替する1つとして、ポリビニルアルコール(以下PVAと略す)系樹脂がある。該樹脂は古くから目止めなどに紙基材処理に利用されており、その高い親水性は、紙に撥油性を与える効果を有する。しかし、その親水性ゆえに紙に撥水性及び非粘着性を与える事が困難である。
【0008】
一方、シリコーンは撥水性及び非粘着性を付与する加工に利用されている。したがって、シリコーンとPVA樹脂とを併用する事が考えられるが、前者は疎水性で後者は親水性であるので、この両者を単に混合しても均一に混ざり合う事は無く、安定した組成物とする事は困難である。
【0009】
本発明者らは上記事情に鑑み、先に一つの解決手段として、エマルジョン型シリコーン系剥離剤とPVA系樹脂又はセルロース系樹脂とから成り、所望により、加水分解性基含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物をさらに配合してなる組成物を提案した(特開2005−139418(特許文献9)、特開2006−144214(特許文献10)。これらの組成物は撥水性、撥油性、非粘着性に優れたコーティング膜を形成するが、用いる基材の目止め不十分であるなど条件が悪い場合には、コーティング膜形成後に水と長時間接触させると基材へ水が浸透してしまう現象が認められる事、硬化温度が低い場合や硬化時間が短い場合には形成されたコーティング膜表面から微量ではあるがコーティング膜内に化学結合されていないシリコーンが膜表面へ移動して外部に移行することが認められる事などが用途拡大の制約となっていた。
【0010】
【特許文献1】特開平10−7738号公報
【特許文献2】特開2000−169735号公報
【特許文献3】特開2001−98033号公報
【特許文献4】特開2002−220539号公報
【特許文献5】特開昭64−6196号公報
【特許文献6】特開昭56−138197号公報
【特許文献7】特開2000−87013号公報
【特許文献8】特開2000−144120号公報
【特許文献9】特開2005−139418号公報
【特許文献10】特開2006−144214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明の目的は、従来の組成物では十分とは言えなかった紙様シート基材への水の浸透を防止し、シリコーンの移行を抑制できる、より優れた撥水性及び撥油性の性能を紙様シート基材に付与することができる撥水撥油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意努力を行った結果、アルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物、リン酸、PVA樹脂、必要によりオルガノアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、特定構造のオルガノポリシロキサンを所定の割合で混合する事によって、紙様シート基材に優れた撥水性、撥油性及び非粘着性を付与する事ができる事を見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、第一に、
(A)分子中のアルキル基は炭素原子数1〜4であるアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物 100質量部、
(B)リン酸 3〜40質量部、
(C)ポリビニルアルコール系樹脂 100〜900質量部、及び
(D)水 200〜100,000質量部
を含む撥水撥油組成物を提供する。
【0014】
本発明の上記組成物は、その好ましい一実施形態では、さらに、
(E)加水分解性基及び疎水性置換基を含有するオルガノシラン及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物 1〜150質量部を含有する。
【0015】
本発明の上記組成物は、その好ましい別の実施形態では、さらに、
(F)構成単位が主に(CHSiO2/2で示されるジメチルシロキサン単位から成り、25℃での粘度が0.05〜10,000Pa・sであるオルガノポリシロキサン 1〜500質量部を含有する。
【0016】
本発明の組成物は上記の(E)成分と(F)成分とをともに含有することができる。
【0017】
本発明の上記組成物は紙様シート基材に対して優れた撥水性及び撥油性(両特性を合わせて「撥水撥油性」ともいう)を付与する。
【0018】
そこで、本発明は、第二に、上記の撥水撥油組成物からなる紙様シート基材の撥水撥油化用処理剤を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、第三に、紙様シート基材を上記の撥水撥油組成物により処理してなる撥水撥油性紙様シートを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の組成物は紙様シート基材に優れた撥油性と撥水性を付与する事ができる。特に、紙様シート基材への水の浸透を防止し、また、シリコーンの離脱・移行を抑制できる。
【0021】
上記の(E)成分を含有する実施形態では、撥水性がより向上した硬化皮膜を形成する事ができる。また、上記の(F)成分を含有する実施形態では、より非粘着性を改良された硬化皮膜を形成する事ができる。
【0022】
上記本発明の組成物は、パーフルオロアルキル基を有する化合物と比べて、人体に無害であるばかりか緩やかな生分解性を有し環境に対しても害が無いだけでなく、該化合物に劣らない撥水撥油性を紙に付与する事ができる。また、本発明の組成物は有機溶剤を含有する必要がないため、溶剤使用による環境問題や危険性も無い。さらに本発明の組成物で処理された紙様シート基材は、リサイクルが容易で、環境負荷の小さい製品である。したがって、本発明の組成物は優れた撥水撥油性能を有するばかりでなく、より安全でかつ環境負荷が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
―撥水撥油組成物―
本発明の撥水撥油組成物に使用される成分について以下順を追って説明する。
[(A)アルキルシリケート及び/又はその2〜5量体]
(A)成分としては、含まれるアルキル基の炭素原子数が1〜4であるアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が用いられる。ここで、「アルキルシリケート」とは、テトラアルコキシシラン単量体(モノマー)を意味し、その2〜5量体とは該テトラアルコキシシランモノマーを加水分解縮合させて得られる2〜5量体のオリゴシロキサンを意味する。
【0025】
(A)成分のアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が持つアルコキシ基は(D)成分の水との反応で加水分解されシラノール基に変化する。このシラノール基は他の(A)成分及び(E)成分のシラノール基やアルコキシ基と縮合してシロキサン結合を形成し、高度に三次元架橋した樹脂状のシロキサンポリマーとなって硬化皮膜の耐水性を向上させると考えられる。また、このシラノール基は(C)成分のPVA系樹脂の水酸基と結合する事で、PVA分子同士を架橋させて難水溶化したり、硬化皮膜にPVA分子を繋ぎとめて溶け出すのを抑制したりする事でも耐水性のアップに寄与しているものと考えられる。したがって(A)のアルキル基が炭素原子数5以上になると加水分解され難くなって未反応物となる成分が増えてしまうため、また平均重合度が5を超えるとPVA樹脂との相溶性が低下してし反応し難くなってしまうため、いずれも水の浸透を防止する性能が低下すると考えられる。
【0026】
具体的な(A)成分のアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物としては、例えば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラプロピルシリケート、テトラブチルシリケートやこれらの2〜5量体からなる部分加水分解縮合物(オリゴシロキサン)などである。
【0027】
加水分解性基として含まれるアルコキシ基は、本発明の効果を損なわない範囲で珪素に直接結合した他の加水分解性基に置き換わっていてもよい。例えばアセトキシ基などのアシルオキシ基、エチルアミノ基などのアミノ基、アミド基、エチルメチルブタノキシム基などのオキシム基に置き換える事も可能である。即ち、(A)成分のアルキルシリケートにはアルコキシ基以外の加水分解性基を含有するものが包含される。
【0028】
[(B)リン酸]
(B)成分として用いられる「リン酸」とは、HPOで示されるオルトリン酸を意味するが、純水品である必要はなく、その脱水縮合物に相当するピロリン酸や環状又は鎖状のメタリン酸を含んでもよい。純水品でない場合には、リン酸の含有量が60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上(70〜100質量%)である。(B)成分のリン酸としては、市販品が使用でき、水溶液であっても組成物配合に支障の無い濃度であれば用いる事ができる。
【0029】
リン酸の作用は、一つには弱酸として(A)のアルコキシ基を加水分解してシラノールを生成させる触媒として作用し、水の浸透防止性を向上に寄与していると考えられるが、他の種類の酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、カルボン酸、スルホン酸などを(A)成分と組み合わせても同様の効果は得られない。リン酸の酸性度がシラノール基を適度に安定化させ、不揮発性がキュアー時にも縮合触媒として有効に働くのを助け、多塩基酸である事がPVA分子の架橋剤として働くのに有利である事など、リン酸固有の特徴が(A)成分との組み合わせで水の浸透防止性を向上させるには不可欠な要素となっていると考えられる。
【0030】
(B)成分のリン酸の配合量は(A)成分100質量部に対しリン酸として3〜40質量部、好ましくは3〜30質量部である。3質量部未満では水の浸透防止性に向上が見られず、40質量部を超えて配合してもそれ以上の効果の向上は見られなくなる。
【0031】
本発明の組成物が水溶液あるいは水分散物の形態である事から、五酸化二燐P、リン酸アルキル類など、水と反応してリン酸を生成する化合物を(B)成分として用いる事も可能である。
【0032】
[(C)PVA系樹脂]
(C)成分のPVA系樹脂としては、一般に市販されているPVA系樹脂を利用する事ができるが、以下に述べるような特定のPVA系樹脂を選択した方がより有利に本発明の目的を達成できる。
【0033】
PVA系樹脂の大まかな特性は重合度とケン化度で規定されるが、造膜性及び塗工性の観点から、重合度は4%水溶液の20℃での粘度として2〜80mPa・s、特に10〜50mPa・sであることが好ましい。ケン化度は、撥油性及び撥水性のバランスから99.5モル%、特に85〜95モル%であることが好ましい。PVA系樹脂を一種類でも複数種類の組み合わせとしても使用する事ができる。
【0034】
特に好ましくは、4%水溶液の20℃での粘度は後述する(F)成分と良好な分散状態を形成しうる点で10〜50mPa・sであり、かつ撥油性が処理条件などにより左右され難い点でケン化度は85〜95モル%であるPVA系樹脂を選択する。なお、上記の10〜50mPa・sに相当する概略の重合度としては200〜3000、さらに好ましくは500〜2500のものである。
【0035】
本発明の撥水撥油紙様シートを使用する用途にもよるが、熱可塑性を示す温度の高いPVA系樹脂が好ましく利用でき、具体的には150℃以下では明らかな可塑性を示さない方が望ましく、処理時の加熱による悪影響が少ない。
【0036】
本発明に使用するPVA系樹脂には、公知の重合性ビニル系モノマーを5モル%以下を目安に、その撥油性効果を損なわない範囲で、共重合したものも用いる事ができる。重合性ビニル系モノマーとしては、例えば、メチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、アリルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、ブチルビニルエーテル、スチレン、ブテン、ブタジエン、アクリロニトリル、アクリルアミド、無水マレイン酸、塩化ビニル等があげられる。
【0037】
また同じように、側鎖基の5モル%以下を目安に炭素原子数1〜20の炭化水素基、例えばアルキル基、アリール基、及びそれらの水素原子がケイ素含有基で置換したものも用いる事ができる。
【0038】
本発明に用いるPVA系樹脂には、その効果を損なわない範囲で各種添加剤を加えてもよい。例えば、シランカップリング剤をPVA系樹脂に対して0.5〜10質量%添加すれば密着性の向上が期待できる。適当なシランカップリング剤としては3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランシ、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等で良好な結果が得られる。
【0039】
(C)成分のPVA系樹脂の配合量は(A)成分のアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物100質量部に対し100〜400質量部であり、100質量部未満では撥油性が低下し、400質量部を超えると水の浸透を防止する性能が不足してしまう。
[(D)水]
(D)成分の水は、本発明の組成物においてPVA系樹脂の溶媒及びオルガノポリシロキサンなど疎水性成分の分散媒として使用される。水道水程度の不純物濃度であれば十分であるが、強酸、強アルカリ、多量のアルコール、塩類などの混入した水は分散性を低下させるため使用には適さない。
【0040】
水の量は、実際に使用する塗工装置に適した粘度と、目標とする紙材料への塗工量を本発明の組成物が満たすように調整されるものであるが、一般的には有効成分((A)、(B)、(C)、(E)、(F)成分)濃度1〜20質量%となる量が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。水の配合量としては(A)成分の100質量部に対して200〜100,000質量部が好ましい。200質量部未満では諸成分の溶解及び分散が難しくなり、100,000質量部を超えると分散状態が経時で低下し均一性が低下し易い。
【0041】
[(E)加水分解性基及び疎水性置換基を含有するオルガノシラン・その部分加水分解縮合物]
(E)成分は必要に応じて使用される。(E)成分としてのオルガノシランは、1分子あたり1個以上の加水分解性基と1個以上の疎水性置換基を持つもので、加水分解性基は好ましくは2個以上持つものから選ばれる。1分子あたりの加水分解性基が多いほど撥水性を持続させる効果がより大きい。疎水性置換基を持たないシランが(A)成分のアルキルシリケートに相当し、これらは(B)成分と組み合わせる事で水の浸透防止に効果を発揮する。(E)成分も同様に(B)成分の触媒作用で反応するが、水の浸透防止よりも撥水性向上に有効である。高い撥水性が求められる用途では(E)成分を併用する事が好ましい。
【0042】
(E)成分の併用により非粘着性も向上するが、その作用、効果は通常(F)成分程ではない。しかし、(E)成分を用いると、該成分が硬化皮膜中にしっかりと結合されるためシリコーン移行が発生しない長所があり、補助的な非粘着性の付与としては利用価値がある。
【0043】
加水分解性基としては、珪素に直接結合したメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、イソプロペノキシ基などのアルコキシ基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、エチルアミノ基などのアミノ基、アミド基、エチルメチルブタノキシム基などのオキシム基が挙げられる。好ましくはアルコキシ基である。
【0044】
疎水性置換基は形成される硬化皮膜の撥水性を向上させるために、一分子あたり1個以上含まれる必要がある。疎水性置換基は炭素原子数1〜20の一価の炭化水素基から選ばれる。このような炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、ビニル基、プロペニル基などのアルケニル基などの1価炭化水素基が挙げられる。あるいはこれらの基は以下の置換基を持ったものでもよく、例えば水素原子の一部又は全部をハロゲン原子などで置換したクロロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基で置換したシアノエチル基等のシアノアルキル基、アクリロイルオキシ基やメタクリロイルオキシ基で置換した(メタ)アクリロキシプロピル基などのような置換1価炭化水素基などが挙げられる。工業的に好ましくはメチル基である。
【0045】
加水分解性基及び疎水性置換基を含有するオルガノシランの一種あるいは複数種を部分加水分解縮合したオリゴシロキサンとして用いる事もできる。モノマーよりも撥水性を向上させる効果が大きい利点はあるものの、組成物への溶解性の点で平均重合度は5以下が好ましい。
【0046】
(E)成分の具体的な例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルブチルジメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、メチルヘキシルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどと、これらの部分加水分解縮合物である。工業的に好ましくはジメチルジメトキシシランである。
【0047】
(E)成分は必要に応じて配合量されるが、配合する場合は(A)成分のアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物100質量部に対して1〜150質量部、特に5〜100質量部が好ましい。1質量部未満では目立った撥水性の向上が見られず、150質量部を超えて配合すると水の浸透防止性に低下が見られる場合がある。
【0048】
[(F)オルガノポリシロキサン]
(F)成分のオルガノポリシロキサンは、構成シロキサン単位が主に(CHSiO2/2(以下、DMe単位とも略す)で示されるジメチルシロキサン単位から成り、25℃での粘度が0.05〜10,000Pa・sであるオルガノポリシロキサンである。該オルガノポリシロキサンは主にDMe単位からなるので基本的に直鎖状の分子構造を有し、その末端は(CHSiO1/2単位(以下、MMe単位とも略す)及び/又は(HO)(CHSiO1/2単位で封鎖されている。しかし、分子鎖中にCHSiO3/2単位で表される三官能性単位及び/又はSiO4/2単位で表される四官能性単位が存在して分岐が形成されていてもよい。該オルガノポリシロキサンを構成する全シロキサン単位において、DMe単位が50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましい。
【0049】
(F)成分は、硬化皮膜の非粘着性を向上させる作用があり、配合する場合は(A)成分に対して1〜500質量部が好ましく、より好ましくは1〜400質量部である。但し添加量が多すぎると硬化皮膜にシリコーン移行性が見られるようになる。
【0050】
(F)成分としては、官能基を持ち組成物の硬化性に関与するタイプのオルガノポリシロキサンが、硬化皮膜のシリコーン移行性を低減できる点で優れている。特に官能基として水酸基を有するものは(B)成分の触媒作用により(A)成分、(C)成分、(E)成分と反応可能であるので、硬化反応の結果硬化皮膜に結合されて移行性低減効果がより大きくなると考えられ望ましい。一方、官能基を持たず他の成分と反応しないタイプのオルガノポリシロキサンは、少量の添加でも非粘着性向上効果が得られ易く、架橋剤や触媒などの追加成分を必要としない点で優れている。したがって、本発明の組成物に要求される性能に応じて適宜選択すべきである。(F)成分として用いられる好ましい典型的な例として、以下の(F1)〜(F3)の三種類のオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0051】
(F1)官能基を持たないオルガノポリシロキサン
下記平均組成式(1)で示される構造を有するオルガノポリシロキサン。
【0052】
【化1】

【0053】
ここで、式中、Rは互いに同一又は異なってもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、一部はSiに直結した水素原子であってもよい。前記一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部を他の基で置換されていてもよい。該炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、さらに、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した炭化水素基などが例示される。特に好ましくは、オルガノポリシロキサン(F1)に含まれるRの少なくとも80モル%がメチル基である。また、Rで表される炭化水素基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されている場合には、該炭化水素基は好ましくは炭素原子数1〜5である。
【0054】
式(1)において、Xは以下の式で示される基である。
【0055】
【化2】

【0056】
は上述したとおりである。a1、b1、d1はオルガノポリシロキサン(F1)の25℃での粘度が0.05〜10,000Pa・s、好ましくは0.1〜8,000Pa・s、となるような数であり、b1、d1は0であってもよい。粘度が0.05Pa・s未満では、紙に十分な非粘着性を与え難く、10,000Pa・sを超えると組成物中における分散性が低下する。好ましくは28≦a1+b1×(d1+1)≦5,000を満足する値である。
【0057】
(F2)水酸基含有オルガノポリシロキサン
下記平均組成式(2)で示される構造を有し、1分子当たり少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサンである。
【0058】
【化3】

【0059】
式中、Rは前記定義の通りである。Rは水酸基を示し、Xは以下の式で示される基である。
【0060】
【化4】

【0061】
式中、R及びRは前記定義の通りである。a2、b2、c2、d2はオルガノポリシロキサン(F2)の25℃での粘度が0.05〜10,000Pa・s、好ましくは0.1〜8,000Pa・s、となるような数であり、b2、c2、d2は0であってもよい。好ましくは28≦a2+b2×(d2+1)+c2≦5,000を満足する値である。
【0062】
オルガノポリシロキサン(F2)の水酸基は、(F2)成分どうしの縮合反応や、(A)成分のアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物、(C)成分のPVA系樹脂、(E)成分の加水分解性基及び疎水性置換基を含有するオルガノシランと縮合反応による架橋結合を形成する事が可能であるが、後述する架橋剤を介して結合させる事でより架橋結合の形成を確実なものにする事もできる。オルガノポリシロキサン(F2)は、1分子当たり少なくとも2個の水酸基を有する。2個未満では本組成物で処理された紙の非粘着性が経時で低下する傾向が大きくなる。好ましくは、式(2)において、b2及びc2は(F2)成分の1分子が持つ水酸基の数b2+c2+2が2〜150の範囲になるように選ばれ、オルガノポリシロキサン100gあたりの水酸基の含有量としては、0.0001モルから0.1モルである。前記下限値未満では、本組成物で処理された紙の非粘着性が経時で低下し、前記上限値を越えると、組成物のポットライフが短くなる傾向がある。
【0063】
オルガノポリシロキサン(F2)の水酸基は、本発明の水系組成物中において水酸基と同じな役目を果たせると考えられる基、即ちアルコキシ基、アシルオキシ基などの加水分解性基に置きかえられていてもよいし、Siに直結した水素原子も架橋結合を形成する能力がある事から、組成物の保存安定性を損なわない範囲で含有されてもよい。
【0064】
オルガノポリシロキサン(F2)と縮合反応する架橋剤成分は必須成分ではないが、1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン(H1)、もしくは1分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(H2)が使用できる。架橋成分(H1)もしくは(H2)を配合するのであれば、好ましくは、前者のSiH基又は後者の加水分解性基のモル数が、オルガノポリシロキサン(F2)に含まれる水酸基のモル数の5〜200倍に相当する量で用いられ、典型的には、オルガノポリシロキサン(F2)100質量部に対して0.1〜30質量部の範囲で使用される。前記上限値を超える量で配合しても相応する効果の増加は見られずコストパフォーマンスが低下するだけでなく、かえって組成物の経時変化をもたらし得る。
【0065】
(F3)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
平均組成式(3)で示される構造を有し、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を持つオルガノポリシロキサン。
【0066】
【化5】

【0067】
式中、Rは式(1)について定義した通りであり、その少なくとも80モル%がメチル基である事が好ましい。Rは炭素原子数2〜20のアルケニル基を示し、具体的にはビニル基、アリル基、ヘキセニル基などが例示される。特に好ましくはビニル基である。Xは以下の式で示される基である。
【0068】
【化6】

【0069】
式中、Rは式(1)において定義の通りであり、a3、b3、c3、d3、e3はオルガノポリシロキサン(F3)の25℃での粘度が0.05〜10,000Pa・s、好ましくは0.1〜8,000Pa・s、となるような数であり、但しb3、c3、d3、e3は0であってもよい。α及びβは、各々独立に、0〜3の整数である。好ましくは、28≦a3+b3×(d3+e3+1)+c3≦5,000を満足する値である。
【0070】
オルガノポリシロキサン(F3)を硬化反応に関与させるには、含有されるアルケニル基を、後述する架橋剤(H1)と白金触媒下で反応させる必要があり、(F3)を硬化性オルガノポリシロキサンとして用いる場合は(H1)と白金触媒が必須となる。オルガノポリシロキサン(F3)は1分子当たり少なくとも2個のアルケニル基を有する事が望ましい。2個未満では、本組成物で処理された紙の非粘着性が経時で低下する傾向が大きくなる。
【0071】
望ましくは、式(3)において、1分子が持つアルケニル基の数b3×(e3+α)+c3+2×αが2〜150の範囲になるように選ばれ、オルガノポリシロキサン(F3)100gあたり、アルケニル基の含有量が0.001モルから0.1モルとなる。前記下限値未満では本組成物で処理された紙の撥水性が経時で低下し、前記上限値を越えると処理された紙の非粘着性が低下する。
【0072】
(H1)SiH基を有するオルガノポリシロキサン
SiH基を有するオルガノポリシロキサン(H1)は、組成式R1SiO(4−f−g)/2(式中、R1は上述の平均組成式(1)のRと同様の意味を示し、fは0≦f≦3の数、gは0<g≦3の数であり、f+gは1≦f+g≦3を満たす。)で示される。SiH基を有するオルガノポリシロキサン(H1)の構造は、1分子中にSiH基を少なくとも3個有する事が必要である他は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。また、その粘度は、数mPa・s〜数万mPa・sの範囲であってよい。
【0073】
SiH基を有するオルガノポリシロキサン(H1)の例として下記のものを挙げる事ができる。
【0074】
【化7】

【0075】
【化8】

【0076】
但し、上記構造式及び組成式において、YとZは以下の構造式で示される基であり、かつ、hからwは次に示される範囲の数である。h、l、nは3〜500、m、p、sは1〜500、i、j、k、o、q、r、t、u、v、及びwは0〜500である。
【0077】
【化9】

【0078】
架橋剤(H1)に含有されるSiH基のモル数が、上記したオルガノポリシロキサン(F3)に含まれるアルケニル基のモル数の1〜5倍に相当するような量で用いられ、一般的には、オルガノポリシロキサン(F3)100質量部に対して0.1〜30質量部、好ましくは0.1〜20質量部の範囲である。SiH基の量が前記下限値未満では、アルケニル基とSiH基の付加反応による橋架け結合が十分では無く、本組成物で処理された紙の非粘着性の持続性低下やシリコーン移行性が大きくなる一方、前記上限値を超えて配合しても効果の相応の増加は見られずコストパフォーマンスが低下するだけでなく、かえって組成物の経時変化が起こり得る。
【0079】
(H2)加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン
加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(H2)は、組成式RSiO(4−f−g)/2(式中、Rは上述の平均組成式(2)のRと同様であり、Wは加水分解性基を示し、fは0≦f≦3の数、gは0<g≦3の数であり、f+gは1≦f+g≦3を満たす。)で示される。オルガノポリシロキサン(H2)の構造は、1分子中に加水分解性基を少なくとも3個有する事が必要である他は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。粘度も数mPa・s〜数万mPa・sの範囲であってよい。
【0080】
加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、イソプロペノキシ基などのアルコキシ基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、エチルアミノ基などのアミノ基、アミド基、エチルメチルブタノキシム基などのオキシム基が挙げられる。
【0081】
ポリオルガノシロキサン(H2)の例として下記のものを挙げる事ができる。
【0082】
【化10】

【0083】
ここでWはCHCOO−、CH(C)C=NO−、(CN−、
CHCO(C)N−、CH=C(CH)−O−などの加水分解性基を示し、x、y、zは0〜500の範囲の整数である。
【0084】
[組成物の調製]
本発明の組成物の調製は(A)〜(C)の各成分、場合によっては(E)及び/又は、(F)の成分を初めとする任意の成分を(D)成分である水に、公知の方法により溶解あるいは分散させる事で達成される。各成分の水への溶解性あるいは分散性に大きな違いがあるため、均一な溶液あるは分散物を得るには配合する順番などに工夫が必要となる。これに限定される訳ではないが、例えば、最初に(A)成分と(E)成分を混合し、これに攪拌しながら(B)成分を徐々に加えて溶解後、別に用意した(C)成分の水溶液と混合すると均一な溶液を得易い。(F)成分を配合する場合は、予め(D)成分とともに必要により(G)成分や(H)成分を加えてエマルジョンにしておいてから(C)成分の水溶液と混合し、これに(A)成分と(E)成分と(B)成分の溶液を混合する。塗工方法や塗工量に合わせて粘度及び濃度を調整するため(D)成分の希釈水を適宜加えて目的の組成物とする。
【0085】
(F)成分と(H)成分は疎水性であるため、水を含む組成物への分散性をより向上させる目的で、予めエマルジョンとするが、エマルジョンの製造は、公知の方法を用いて上記成分を均一に分散すればよく、例えば(F)成分、(H)成分及び(D)成分の一部をプラネタリーミキサー、コンビミキサーなどの高剪断可能な撹拌装置を用いて混合し、転相法により乳化し、その後に(D)成分の残分を加えて希釈してエマルジョンにする方法が挙げられる。各成分は単一種類で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0086】
エマルジョンの製造をより容易にし、その安定性を向上させるために(G)成分としての界面活性剤を利用する事もできる。好ましい界面活性剤としては、ノニオン系、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のアルキルエーテル型のもの、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型のものが挙げられる。これらのノニオン系乳化剤は1種単独又は2種以上を組み合わせて使用する事ができる。安定なシリコーンエマルジョンを得るには、これらノニオン系乳化剤の単独あるいは混合後のHLBが10〜15である事が望ましい。
【0087】
また、アニオン型界面活性剤やカチオン型界面活性剤も使用できるが、ノニオン系界面活性剤と併用する事が、分散性の点から望ましい。
【0088】
界面活性剤の配合量は、良好な分散状態とその持続性が十分得られる最少の量とする事が望ましい。具体的には(F)成分の100質量部に対し0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜6質量部である。0.1質量部未満では乳化を促進する効果が得られず、10質量部を超えると、撥水性や水の浸透防止性能が低下する場合がある。
【0089】
エマルジョン化する際の(D)成分の水は、(F)成分の100質量部に対して100〜400質量部が好ましい。100質量部未満では分散が難しくなり、400質量部を超えると分散状態の経時での低下が大きくなる。
【0090】
エマルジョン化に代わる方法として、市販されている汎用品のシリコーン系エマルジョンのなかから、水分散型のもので、かつPVA系樹脂と混合して良好な分散状態を形成できるものを選択して使用する事もできる。骨格構造が主にジメチルシロキサンから構成されているシリコーンを主成分とするシリコーン系エマルジョンが撥水性や非粘着性の点から好ましく、例えば撥水処理用、離形処理用、剥離紙用などのシリコーン系エマルジョンで硬化型のものが利用に適している。
【0091】
(F)成分を硬化させるための縮合触媒及び付加反応触媒成分は(F)成分及び(H)成分と同時に乳化せず、使用する直前に添加する事が望ましい。より好ましくは、触媒は添加に先立ち水分散可能なものとするのが好ましく、例えば、界面活性剤と予め混合しておく方法や、上述の方法でエマルジョンにしておく方法などが有効である。
【0092】
(A)及び(E)成分は、本来疎水性の化合物であるが、親水性の(B)と反応あるいは加水分解性基が一部加水分解されてシラノール基となる事で親水性が増して水への溶解性が得られるようになる。しかし化合物の構造によって水への溶解性は左右されるため、溶解性が得られ難い場合には、溶解を助ける処置を採用する事が好ましい。そのためには公知の方法を使用できるが、例えば、界面活性剤あるいは極性溶剤を配合して水への溶解を助ける方法である。用いられる界面活性剤や溶剤については、公知のもの及び方法を採用でき、溶剤としてはアルコールのように水とも有機物とも任意に混合可能なものが効果的であるが、配合量が多くなりすぎるとエマルジョンの安定性を低下させたり撥水性を低下させたりする場合があり好ましくない。他の方法としては、加水分解性基の加水分解を促進してより多くをシラノール基に変えて溶解性を増す方法である。温度を上げたり、微量の酸を用いて水相のpHを2〜4に、必要ならより低く調整したりして加水分解を促す事ができるが、pHを下げ過ぎると縮合も進み逆効果となる。
【0093】
上述した成分以外に、他の任意成分、例えば白金族金属系触媒の触媒活性を抑制する目的で、各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン誘導体、オキシム化合物、有機ハロゲン化物などの触媒活性抑制剤、非粘着性を制御する目的でシリコーンレジン、シリカ、又はケイ素原子に結合した水素原子やアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサン、オルガノシルセスキオキサン、界面活性剤などのレベリング剤、水溶性高分子、例えばメチルセルロースなどのセルロース誘導体、デンプン誘導体、などの増粘剤、造膜性を高める目的でスチレン・無水マレイン酸共重合体等などの公知の改良剤を必要に応じて添加する事ができる。なお、任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とする事ができる。
【0094】
−紙様シート基材の撥水撥油化処理方法−
紙様シート基材を本発明の組成物で処理し、加熱乾燥する。これにより、紙様シート基材の表面に本発明の組成物の硬化皮膜が形成され、撥水撥油性が得られる。
【0095】
本発明に使用される紙様シート基材とは、まず、パルプから製造される所謂「紙」からなる基材が挙げられる。具体的には、周知のように、針葉樹、広葉樹などの木材パルプ、麻、リンター、わら、竹、サトウキビ、バガスや、こうぞ、みつまたなどの非木材パルプから製造された紙がある。紙としての態様は様々で限定されず、例えばクラフト紙、上質紙、ライナー、ダンボールなどが挙げられる。以上は天然繊維からなるものであるが、紙様シート基材としては、さらに、テトロン、ビニロン、アクリルなどの合成繊維を主原料としたものが挙げられる。
【0096】
紙様シート基材を処理剤組成物で処理し濡らすのであるが、その方法は特に限定されず、例えば、組成物を紙様シート基材に塗工してもよいし、シート基材を組成物中に浸漬してもよい。組成物を基材に塗工する方法は、塗工液の粘度、塗工速度等を考慮した通常行われている塗工方法、カレンダー塗工、グラビアコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ワイヤーバーなどの各種コーターを用いた塗工、スプレー塗工等を利用する事ができる。
【0097】
紙様シート基材への本発明の組成物の塗布量は固形分として0.1g/m以上、好ましくは1〜5g/mの範囲でありる。0.1g/m未満では良好な撥油性を維持する事が難しく、5g/mを越えても性能向上は小さくコスト上不利である。
【0098】
塗工後、乾燥機を通過させて加熱乾燥させて撥水撥油紙様シートを得る。加熱乾燥の条件は、例えば140℃以上の温度で10秒以上の条件が一般的である。
【実施例】
【0099】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものでは無い。
【0100】
A.原料の調製
−調製例1−
容器内全体を撹拌できる錨型撹拌装置と、周縁に小さな歯型突起が上下に交互に設けられている回転可能な円板とを有する5リットルの複合乳化装置に、(F2)成分として以下の式で示されるポリオルガノシロキサンを100質量部
【0101】
【化11】

【0102】
(25℃での粘度が2Pa・s、シラノール基含有量=0.01モル/100g)、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルのHLBが13.6のもの1質量部、4質量%水溶液の20℃での粘度30mPa・s、ケン化度90モル%のPVA樹脂5質量部(予め10質量%水溶液に調整したもの50質量部として使用)を仕込み、均一に撹拌混合した。
【0103】
この混合物に水10質量部を添加して転相させ、引き続き30分間撹拌した。追加の水836質量部を加えて希釈して撹拌し、固形分10質量%のO/W型エマルジョンを得た。これを(F2)成分のシリコーンエマルジョンとして用いた。
【0104】
−調製例2−
4質量%水溶液の20℃での粘度30mPa・s、ケン化度90モル%のPVA樹脂100質量部と、水900質量部を混合し、均一な溶液になるまで撹拌して10質量%水溶液を調整した。これを(C)成分のPVA系樹脂として用いた。
【0105】
−調製例3−
4質量%水溶液の20℃での粘度5mPa・s、ケン化度80モル%のPVA樹脂100質量部と、水900質量部を混合し、均一な溶液になるまで撹拌して10質量%水溶液を調整した。これを(C)成分のPVA系樹脂として用いた。
【0106】
B.処理剤組成物の調製
−実施例1−
エチルシリケート(即ち、テトラエトキシシラン、以下同じ)100質量部へ10質量%リン酸水溶液30質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例2のPVA系樹脂水溶液1000質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0107】
−実施例2−
エチルシリケートを100質量部へ10質量%リン酸水溶液100質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例2のPVA系樹脂水溶液4000質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0108】
−実施例3−
メチルシリケート(即ち、テトラメトキシシラン、以下同じ)を100質量部とジメチルジメトキシシラン50質量部へ10質量%リン酸水溶液400質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液9000質量部、水1350質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0109】
−実施例4−
エチルシリケートを100質量部へ10質量%リン酸水溶液150質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例2のPVA系樹脂水溶液4000質量部、調製例1のシリコーンエマルジョンを5000質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0110】
−実施例5−
メチルシリケートを100質量部とジメチルジメトキシシラン50質量部へ10質量%リン酸水溶液200質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例2のPVA系樹脂水溶液4000質量部、調製例1のシリコーンエマルジョンを1000質量部、水1350質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0111】
−実施例6−
メチルシリケートを100質量部とジメチルジメトキシシラン150質量部へ10質量%リン酸水溶液400質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液9000質量部、水2250質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0112】
−実施例7−
メチルシリケートを100質量部とヘキシルトリメトキシシラン100質量部へ10質量%リン酸水溶液400質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液9000質量部、水1800質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0113】
−比較例1−
メチルシリケート100質量部へ10質量%リン酸水溶液20質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液10000質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0114】
−比較例2−
エチルシリケート100質量部へ10質量%リン酸水溶液450質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液4000質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0115】
−比較例3−
エチルシリケート100質量部へ10質量%リン酸水溶液50質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液800質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0116】
−比較例4−
メチルシリケートを100質量部とジメチルジメトキシシラン200質量部へ10質量%リン酸水溶液50質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例3のPVA系樹脂水溶液9000質量部、水2700質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0117】
−比較例5−
エチルシリケートを100質量部へ0.01質量%塩酸100質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例2のPVA系樹脂水溶液4000質量部、調製例1のシリコーンエマルジョンを5000質量部、水800質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0118】
−比較例6−
エチルシリケートを100質量部へ10質量%リン酸水溶液50質量部を攪拌しながら徐々に混合し均一な溶液とした。これと調製例2のPVA系樹脂水溶液4000質量部、調製例1のシリコーンエマルジョンを7000質量部、水900質量部を配合し良く混合したものを処理剤組成物とした。
【0119】
C.撥水撥油紙様シートの作成
上記の各実施例及び各比較例で調製した処理剤組成物を坪量50g/mの市販クラフト紙に、固形分としての塗工量が2g/mになるようにバーコーターを用いて塗工し、乾燥機で140℃×30秒の条件で加熱して撥水撥油紙を作成した。
【0120】
D.評価方法
上記で得られた各例の撥水撥油紙の諸特性を次の測定方法により評価した。結果を表1に示す。
【0121】
・分散状態
外観を目視で観察し、処理剤組成物に水相及び/又はシリコーン相の分離が見られず良好なものを○、分離傾向や処理剤組成物に浮遊物や沈殿物の見られるものを×とした。
【0122】
・撥油性
3Mキットテスト(TAPPI−RC−338)により測定した。3Mキットテスト法は、ヒマシ油、トルエン、ヘプタンが配合された試験油を撥水撥油紙表面におき、浸透を受けるか否かを測定する試験である。浸透を受けなかった最大の試験油のキット番号を評価結果とし、数値が大きいほど撥油性に優れる事を示す。キット番号が12以上を◎、キット番号が8〜11を○、キット番号が7以下を×として示した。
【0123】
・撥水性
撥水撥油紙表面の水に対する接触角で測定した。接触角が大きいほど撥水性が良好である事を示す。接触角が100°を超えるものを◎、100°未満90°以上のものを○、90°未満のものを×として示した。
【0124】
・非粘着性
撥水撥油紙表面にニットー31Bテープ(幅50mm)を貼り、20g荷重で70℃の条件で20時間エージング後、貼り付けたテープの一端を少し剥がしてつかみ、180°の方向に引っ張って剥がす際に必要な力(剥離力)をオートグラフで測定した。剥離力が1N以下のものを○、1Nを超えるものを×として示した。
【0125】
・溶出試験
塗工面が10cm(平方センチメートル)分の撥水撥油紙を20mlの蒸留水に浸し、そのまま60℃で30分間放置後、ろ過して溶出液を得た。三角フラスコに溶出液10ml、硫酸0.5ml、0.002モル/l過マンガン酸カリウム溶液1mlを採り5分間煮沸した。加熱後、0.01モル/lシュウ酸ナトリウム溶液1mlを加えて0.002モル/l過マンガン酸カリウム溶液で微紅色になるまで滴定した。別に、溶出液を蒸留水に替えて滴定しブランクを求め、撥水撥油紙塗工面からの溶出物量を以下の式を用いて過マンガン酸カリウム消費量としてを算出した。
【0126】
過マンガン酸カリウム消費量(ppm)={溶出液の滴定量(ml)−ブランクの滴定量(ml)}×31.6
この値が小さいほど撥水性及び耐水性が良好であり、5ppm以下を◎、10ppm以下を○、10ppmを超えるものを×として示した。
【0127】
・水浸透防止性
撥水撥油紙表面に水滴を載せて放置し、水滴を拭き取っても撥水撥油紙表面に水滴の跡が残っているかどうかを目視で確認した。3時間放置しても跡が残らないものを◎、1時間放置しても跡が残らないものを○、跡が残るものを×として示した。
【0128】
・シリコーン移行性
撥水撥油紙表面にPETフィルムを重ね10kgf/cm2荷重を25℃で1時間かけた後、剥がしたPETフィルムの撥水撥油紙に接触していた面にマジックインキを塗布してハジキの有無を目視で観察した。均一に塗布されているものを○、ハジキが見られるものを×として示した。
【0129】
E.評価結果
【0130】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中のアルキル基は炭素原子数1〜4であるアルキルシリケート及びその2〜5量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物 100質量部、
(B)リン酸 3〜40質量部、
(C)ポリビニルアルコール系樹脂 100〜900質量部、及び
(D)水 200〜100,000質量部
を含む撥水撥油組成物。
【請求項2】
さらに、
(E)加水分解性基及び疎水性置換基を含有するオルガノシラン及びその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物 1〜150質量部
を含む請求項1に係る撥水撥油組成物。
【請求項3】
さらに、
(F)構成シロキサン単位が主に(CHSiO2/2で示されるジメチルシロキサン単位から成り、25℃での粘度が0.05〜10,000Pa・sであるオルガノポリシロキサン 1〜500質量部を含む請求項1または2に係る撥水撥油組成物。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水撥油組成物からなる紙様シート基材の撥水撥油化用処理剤。
【請求項5】
紙様シート基材を請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水撥油組成物により処理してなる撥水撥油性紙様シート。
【請求項6】
紙様シート基材が紙基材である請求項5に係る撥水撥油性紙様シート。

【公開番号】特開2009−256506(P2009−256506A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108997(P2008−108997)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】