説明

撥水撥油防汚処理液とその製造方法およびそれを用いた撥水撥油防汚処理方法

【課題】
従来のクロロシラン系の撥水撥油防汚化学吸着剤を用いた撥水処理方法は、非水系の有機溶媒しか利用できなかったため、処理液が高価であり且つ環境面でも推奨できるものではなかった。
【解決手段】
少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を混合して超音波分散機で分散させる工程により、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油防汚処理液とその製造方法およびそれを用いた撥水撥油防汚処理方法に関するものである。さらに詳しくは、基材表面と化学結合した撥水撥油防汚膜の作製に用いる撥水撥油防汚処理液とその製造方法およびそれを用いた撥水撥油防汚処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にフッ化炭素基含有クロロシラン系の吸着剤と非水系の有機溶媒よりなる化学吸着液を用い、液相で化学吸着して単分子膜状の撥水撥油防汚性化学吸着膜を形成できることはすでによく知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような溶液中での化学吸着単分子膜の製造原理は、基材表面の水酸基などの活性水素とクロロシラン系の吸着剤のクロロシリル基との脱塩酸反応を用いて単分子膜を形成することにある。
【特許文献1】特開平05−193056号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のクロロシラン系の撥水撥油防汚化学吸着剤を用いた撥水処理方法は、非水系の有機溶媒しか利用できなかったため、処理液が高価であり且つ環境面でも負荷が大きく推奨できるものではなかった。
【0005】
また、製膜に基材表面の活性水素基とクロロシリル基の脱塩酸反応を用いているため塩酸が発生して、大気中で使用できないという大きな欠点があった。
【0006】
本発明は、従来のような非水系の有機溶媒を用いることなく耐摩耗性や耐水性に優れた撥水撥油防汚膜が形成可能な撥水撥油防汚処理液とその製造方法および撥水撥油防汚処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、被膜形成時に塩酸ガスの発生が無く、通常の空気雰囲気中での製膜が可能な撥水撥油防汚処理液とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、具体的に提供される第1の発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含むことを特徴とする撥水撥油防汚処理液である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤に、さらにアルコキシシリル基を主成分とする物質が添加されていることを特徴とする撥水撥油防汚処理液である。
【0010】
第3の発明は、第1および第2の発明に於いて、界面活性剤としてアルコールまたは下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を用いることを特徴とする撥水撥油防汚処理液である。
【0011】
【化1】

【0012】
第4の発明は、第1乃至第3の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3または[CF3−(CF2−(CH−Si(OA)、[CF3−(CF2−(CH−SiOA(nは0又は16以下の整数、Aはアルキル基)を用いることを特徴とする撥水撥油防汚処理液である。
【0013】
第5の発明は、第2乃至第3の発明に於いて、アルコキシシリル基を主成分とする物質としてSi(OA)、または(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)(nは、0または1、2の整数、Aはアルキル基)を用いることを特徴とする撥水撥油防汚処理液である。
【0014】
第6の発明は、第1乃至第5の発明に於いて、処理液のpHが5乃至11であることを特徴とする撥水撥油防汚処理液である。
【0015】
第7の発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を混合して分散させることを特徴とする撥水撥油防汚処理液の製造方法である。
【0016】
第8の発明は、第7の発明に於いて、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤にさらにアルコキシシリル基を主成分とする物質を添加混合して分散させることを特徴とする撥水撥油防汚処理液の製造方法である。
【0017】
第9の発明は、第7および第8の発明に於いて、界面活性剤としてアルコールまたは下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を用い、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いて分散させることを特徴とする撥水撥油防汚処理液の製造方法である。
【0018】
【化1】

【0019】
第10の発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液と基材を接触させて、基材表面に基材表面と共有結合した撥水撥油防汚性被膜を形成することを特徴とする撥水撥油防汚処理方法である。
【0020】
さらに、具体的に説明すると、本発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤、あるいは、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を混合して分散させる工程により、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液、あるいは、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液を提供するものである。
【0021】
ここで、アルコールとしては、いわゆるアルコール類なら全て可能であるが、特に、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコールがフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質やアルコキシシリル基を主成分とする物質を水中に効率よく分散できて好ましい。一方、界面活性剤としては、下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を用いると、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質やアルコキシシリル基を主成分とする物質を水中に効率よく分散できて都合がよい。
【0022】
【化1】

【0023】
また、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3または[CF3−(CF2−(CH−Si(OA)、[CF3−(CF2−(CH−SiOA(nは0又は16以下の整数、Aはアルキル基)を用いると、撥水撥油防汚効果を向上する上で都合がよい。
【0024】
一方、アルコキシシリル基を主成分とする物質としてSi(OA)、または(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)(nは、0または1、2の整数、Aはアルキル基)を用いると、撥水撥油防汚膜の耐摩耗性等の耐久性を向上できて都合がよい。
【0025】
また、処理液のpHを5乃至11に制御しておくと、被膜を高密度に形成する上で都合がよい。
【0026】
また、このとき、アルコールとしてアルコール類、界面活性剤として下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を使用して、ホモジナイザーや超音波分散機を用いて分散させると、処理液を均一且つ安定にする上で都合がよい。
【0027】
【化1】

【0028】
さらにまた、前記処理液と基材を接触させた後、必ずしも行う必要はないが、余分な処理液を有機溶媒を用いて洗浄すると、基材表面に基材表面と共有結合した均一厚みの撥水撥油防汚性被膜を形成できて都合がよい。
【発明の効果】
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、有機溶媒を用いないで耐摩耗性や耐水性に優れた撥水撥油防汚性膜が形成可能な撥水撥油防汚処理液を提供できる効果がある。
【0030】
また、被膜形成時に塩酸ガスの発生が無く、通常の空気雰囲気中での製膜が可能な撥水撥油防汚処理方法を提供きる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、耐久性が高く且つ撥水撥油防汚機能が高い撥水撥油防汚処理液とその製造方法およびそれを用いた撥水撥油防汚処理方法を提供するものである。
【0032】
少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤、あるいは、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を混合して超音波分散機で分散させる工程により、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液、あるいは、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液を提供する。
【0033】
また、前記処理液を用いれば、非水系の有機溶媒を用いないで耐摩耗性や耐水性に優れた撥水撥油防汚性膜の形成が可能な撥水撥油防汚処理液を提供できる作用がある。
【0034】
さらに、被膜形成時に塩酸ガスの発生が無く、通常の空気雰囲気中での製膜が可能な撥水撥油防汚処理方法を提供できる作用がある。
【0035】
以下、本発明の具体的な実施例を説明するが、以下の実施例においては、とくに記載していない限り分子組成比はモル比を意味する。また、%は重量%を意味する。
【実施例1】
【0036】
まず、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質として、例えば、CF3(CF27(CH22Si(Si(OCH3)とアルコキシシリル基を主成分とする物質としてSi(OCHを分子組成比で2:1になるように秤量し、体積比で10%のエタノールを含む水溶媒に0.01mol/Lなるように混合し、超音波分散機(いわゆるホモジナイザーを用いてもよい。)で10分間程度処理すると、それぞれの−Si(OCH3基の一部が加水分解され−Si(OH)3基、=Si(OH)基、あるいは≡SiOH基に変換された物質を含む完全に透明な複合膜形成溶液を作成できた。
【0037】
なお、ここで、スターラーによる単なる撹拌では、多少濁った液が得られのみで、放置するとフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質がすぐに分離してしまい、安定した処理液は得られなかった。
【0038】
次に、よく洗浄して乾燥した磁器製の皿1を用意し、この複合膜形成溶液を、空気中で(相対湿度57%、別の実験では70%でも問題なかった。)前記磁器製の皿表面に塗布し、1時間程度放置した。このとき、水−アルコール溶媒は大部分蒸発するが、磁器製の皿表面は水酸基が多数含まれているので、前記フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質やアルコキシシリル基を主成分とする物質の≡SiOH基に変換した部分と前記磁器製の皿表面の水酸基が脱水反応して、磁器製の皿表面全面に亘り表面と化学結合したフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質2とシロキサン基を主成分とする物質3を含む複合膜を前記磁器製の皿表面に形成できる。(図1(a))
【0039】
そこで引き続いて、表面に残った複合膜形成溶液の水エタノール溶媒が完全に蒸発してしまう前、すなわち被膜が完全に硬化してしまう前にエタノールで未反応の余分なフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質やアルコキシシリル基を主成分とする物質を洗浄除去すると、略5nm程度の厚みのフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質2とシロキサン基を主成分とする物質3を含む複合膜が前記磁器製の皿表面に形成できた。なお、エタノールを含むウエスでふき取った場合には、略15nm厚みとなった。
【0040】
このとき、複合膜形成溶液中のフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質やアルコキシシリル基を主成分とする物質は、水とアルコールの混合溶媒中でアルコキシシリル基の一部が加水分解して−Si(OH)3基に変換されており、窯業製品製の皿1の表面は水酸基すなわち活性水素を多数含む(ガラス製の製品でも同じ)ので、前記−Si(OH)3基と磁器製の皿表面の水酸基が脱水反応して、フッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質2と、シロキサン基を主成分とする物質3が混合した状態で−SiO−結合を介して前記磁器製の皿1の表面に結合する。
【0041】
しかしながら、この状態では、−SiOH基の一部4が脱水反応せずに膜中にのこる。(図1(a))そこで、さらに複合膜が形成されたそれぞれの磁器製の皿5を空気中で120〜300℃30分程度の加熱処理を行うと、未反応の−SiOH基が完全に脱水反応して、ポリシロキサン結合を形成し網目状のシリカ膜6に変化して、耐摩耗性、且つ離水性(滑水性ともいう)に優れたフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質2とシロキサン基を主成分とする物質3よりなる水滴接触角が116度の撥水撥油防汚性の複合膜7で被われた磁器製の皿を製造できた。(図1(b))
【0042】
なお、ここで、不活性ガスである窒素ガス雰囲気中で300〜400℃30分程度の加熱処理を行うと、被膜が酸化されることもなく、さらに耐摩耗製に優れた撥水撥油防汚性の複合膜で被われた磁器製の皿を製造できた。
【実施例2】
【0043】
実施例1に於いて、未反応の余分なフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質やアルコキシシリル基を主成分とする物質を洗浄除去する、あるいはふき取り除去する工程を省くと、表面の水滴接触角が略113度で膜厚が数十ナノメートルの被膜が得られた。なお、この条件でも、透明度はそれほど損なわれず、下地が磁器製の皿のような不透明なものの場合には、実用上光沢も全く問題なかった。
【0044】
なお、実施例1および2に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシシリル基を主成分とする物質の分子組成比を、好ましくは1:10〜1:0(より好ましくは1:3〜3:1)にしておくと、被膜の表面エネルギーを20〜5mN/mの間で制御できた。
【0045】
また、このときの防汚性磁器製の皿の水滴接触角は、物質2と物質3の組成に依存するので、例えば、組成を1:10〜1:0の範囲で変えれば、臨界表面エネルギーを20〜至5mN/mに制御できて、水滴接触角は105±13度の範囲で制御できた。また、1:3〜3:1の場合、0.02mol/Lの水滴に対する転落角は25〜12度に制御でき、洗浄時の水切りが良くなった。
さらにまた、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質の総濃度が0.05mol/Lでも同様の被膜が得られたが、0.01〜0.0001mol/Lになるように調製しておくと、処理液のゲル化を防止でき、寿命を1ヶ月程度まで確保できた。
【実施例3】
【0046】
実施例1において、アルコキシシリル基を主成分とする物質Si(OCHを除き同様の条件で撥水撥油防汚磁器製の皿を試作した。この場合に得られた被膜の基本性能である水に対する接触角を測定すると、118度であった。また、水切り特性能や高耐久性は、実施例1に比べてやや劣るが、その他の物性値は、実施例1とほぼ同等であり、実用に供し得る防汚性の磁器製の皿を製造できた。
【実施例4】
【0047】
一方、実施例1に於いて、水−アルコール溶媒を陽イオン界面活性剤である下記化学式(化2)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩が0.0005mol/Lになるように調製された水−界面活性剤溶媒に代えて同様の実験を行ってみたが、ほぼ同様の被膜が形成できた。
【0048】
【化2】

【実施例5】
【0049】
さらに、実施例1に於いて、水−アルコール溶媒にさらに陽イオン界面活性剤である下記化学式(化2)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩が0.005mol/Lになるように添加して同様の実験を行ってみたが、ほぼ同様の被膜が形成できた。
【0050】
【化2】

【0051】
なお、実施例1、2、3、5に於いて、アルコールには、いわゆるアルコール類が全て使用できたが、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコールで好結果が得られた。
【0052】
また、界面活性剤としては、中性乃至弱アルカリ性の界面活性剤であれば使用できるが、中でも調合処理液のpHが5乃至11になるものでないと高性能の被膜を形成できなかった。pHが5未満の場合、密度の高い被膜が形成できなかった。一方、pHが12を超えると、被膜の一部が破壊された。
なお、下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩の内、特に好ましいものは、Rの炭素数が12〜16であった。
【化1】

【0053】
さらにまた、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基のみを主成分とする物質として、一般には、以下のような物質が挙げられる。
CF3−(CF2n−(R)mSiXp(OA)3-p
(但し、nは0または16以下の整数、Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エチニル基、シリコン若しくは酸素原子を含む置換基、mは0又は1、XはH,アルキル基,アルコキシ基,含フッ素アルキル基又は含フッ素アルコキシ基の置換基、pは0、1または2、Aは、CH、C、C等のアルキル基)
【0054】
具体的には、一般式CF3−(CF2−(CH−Si(OA)3または[CF3−(CF2−(CH−Si(OA)、[CF3−(CF2−(CH−SiOA(nは0又は16以下の整数、Aはアルキル基)で表される物質が挙げられる。
【0055】
さらに、具体的には、以下に示す物質(1)-(18)が挙げられる。
(1) CF3CH2O(CH215Si(OCH3
(2) CF3(CH22Si(CH32(CH215Si(OCH3
(3) CF3(CH26Si(CH32(CH29 Si(OCH3
(4) CF3COO(CH215Si(OCH3
(5) CF3(CF27(CH22Si(OCH3
(6) CF3(CF2(CH22Si(OCH3
(7) CF3(CF2764Si(OCH3
(8) CF3CH2O(CH215Si(OC3
(9) CF3(CH22Si(CH32(CH215Si(OC3
(10) CF3(CH26Si(CH32(CH29 Si(OC3
(11) CF3COO(CH215Si(OC3
(12) CF3(CF27(CH22Si(OC3
(13) CF3(CF25(CH22Si(OCH3
(14) CF3(CF2764Si(OC3
(15)[CF3(CF2(CH22Si(OCH
(16)[CF3(CF2(CH22SiOCH
(17)[CF3(CF2(CH22Si(OC
(18)[CF3(CF2(CH22SiOC
また、アルコキシシリル基のみを主成分とする物質として、一般には、Si(OA)、または(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)(nは、0または1、2の整数、Aはアルキル基)表される物質が挙げられる。
【0056】
さらに、具体的には、以下に示す物質(1)-(8)が挙げられる。
(1)Si(OCH
(2)SiH(OCH3
(3)SiH2(OCH2
(4)(CHO)3SiOSi(OCH2OCH
(5)Si(OC
(6)SiH(OC3
(7)SiH2(OC2
(8)(HO)3SiOSi(OC2OC
【産業上の利用可能性】
【0057】
なお、本願発明の処理液は、基材に何ら限定されるものではない。一般に、表面が水に濡れる材料(表面は塗料などで塗装されていても良い。)、例えば、金属、セラミックス、木材、石材、繊維、毛皮、または皮革などからなる材料の撥水撥油防汚処理に適用できる。さらに、表面が水に濡れない材料、例えば、水をはじく塗装面あるいはプラスチック類等は、表面をプラズマ処理、あるいはコロナ処理して親水性に加工しておけば同様に適用できる。
【0058】
さらに具体的には、
(a)刃物の例:
包丁、鋏、ナイフ、カッター、彫刻刀、剃刀、バリカン、鋸、カンナ、ノミ、錐、千枚通し、バイト、ドリルの刃、ミキサーの刃、ジューサーの刃、製粉機の刃、芝刈り機の刃、パンチ、押切り、ホッチキスの刃、缶切りの刃、または手術用メス等。
【0059】
(b)針の例:
鍼術用の針、縫い針、ミシン針、畳針、注射針、手術用針、安全ピン等。
【0060】
(c)窯業製品の例:
陶磁器製、ガラス製、セラミックス製またはほうろうを含む製品等。例えば衛生陶磁器(例えば便器、洗面器、風呂等)、食器(例えば、茶碗、皿、どんぶり、湯呑、コップ、瓶、コーヒー沸かし容器、鍋、すり鉢、カップ等)、花器(水盤、植木鉢、一輪差し等)、水槽(養殖用水槽、鑑賞用水槽等)、化学実験器具(ビーカー、反応容器、試験管、フラスコ、シャーレ、冷却管、撹拌棒、スターラー、乳鉢、バット、注射器)、瓦、タイル、ほうろう製食器、ほうろう製洗面器、ほうろう製鍋等。
【0061】
(d)鏡の例:
手鏡、姿見鏡、浴室用鏡、洗面所用鏡、自動車用鏡(バックミラー、サイドミラー)、ハーフミラー、ショーウィンドー用鏡、デパートの商品売り場の鏡等。
【0062】
(e)成形用部材の例:
プレス成形用金型、注型成形用金型、射出成形用金型、トランスファー成形用金型、真空成形用金型、吹き込み成形用金型、押し出し成形用ダイ、インフレーション成形用口金、繊維紡糸用口金、カレンダー加工用ロールなど。
【0063】
(f)装飾品の例:
腕時計、メガネフレームや真珠、真珠、ルビー、エメラルド、ガーネット、キャッツアイ、ダイヤモンド、トパーズ、ブラッドストーン、アクアマリン、サードニックス、トルコ石、瑪瑙、大理石、アメジスト、カメオ、オパール、水晶、ガラス等の宝石、さらに白金、金、銀、銅、アルミ、チタン、錫あるいはそれらの合金やステンレス製の指輪、腕輪、ブローチ、ネクタイピン、イヤリング、ネックレス等の貴金属装飾製品等。
【0064】
(g)食品成形用型の例:
ケーキ焼成用型、クッキー焼成用型、パン焼成用型、チョコレート成形用型、ゼリー成形用型、アイスクリーム成形用型、オーブン皿、製氷皿等。
【0065】
(h)調理器具の例:
鍋、釜、やかん、ポット、フライパン、ホットプレート、焼き物調理用網、油切り、タコ焼きプレート等。
【0066】
(i)紙の例:グラビア紙、撥水撥油紙、ポスター紙、高級パンフレット紙等。
【0067】
(j)樹脂の例:
ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、アラミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ケイ素樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリアセタール、ポリフェンレンオキサイド等。
【0068】
(k)家庭電化製品の例:
テレビジョン、ラジオ、テープレコーダー、オーディオ、CD、冷凍関係機器の冷蔵庫、冷凍庫、エアコン、ジューサー、ミキサー、扇風機の羽根、照明器具、文字盤、パーマ用ドライヤー等。
【0069】
(l)スポーツ用品の例:
スキー、釣竿、棒高跳び用のポール、ボート、ヨット、ジェットスキー、サーフボード、ゴルフボール、ボーリングのボール、釣糸、魚網、釣り浮き等。
【0070】
(m)乗り物部品に適用する例:
(1) ABS樹脂:ランプカバー、インストルメントパネル、内装部品、オートバイのプロテクター、(2) セルロースプラスチック:自動車のマーク、ハンドル(3) FRP(繊維強化樹脂):外板バンパー、エンジンカバー、(4)フェノール樹脂:ブレーキ(5) ポリアセタール:ワイパーギヤ、ガスバルブ、キャブレター部品(6) ポリアミド:ラジエータファン(7) ポリアリレート:方向指示レンズ、計器板レンズ、リレーハウジング(8) ポリブチレンテレフタレート:リヤエンド、フロントフェンダ(9) ポリアミノビスマレイミド:エンジン部品、ギヤボックス、ホイール、サスペンジョンドライブシステム(10)メタクリル樹脂:ランプカバーレンズ、計器板とカバー、センターマーク(11)ポリプロピレン:バンパー(12)ポリフェニレンオキシド:ラジエーターグリル、ホイールキャップ(13)ポリウレタン:バンパー、フェンダー、インストルメントパネル、ファン(14)不飽和ポリエステル樹脂:ボディ、燃料タンク、ヒーターハウジング、計器板等。
【0071】
(n)事務用品の例:
万年筆、ボールペン、シャ−プペンシル、筆入れ、バインダー、机、椅子、本棚、ラック、電話台、物差し、製図用具等。
【0072】
(o)建材の例:
屋根材、外壁材、内装材。屋根材として窯瓦、スレート瓦、トタン(亜鉛メッキ鉄板)など。外壁材としては木材(加工木材を含む)、モルタル、コンクリート、窯業系サイジング、金属系サイジング、レンガ、石材、プラスチック材料、アルミ等の金属材料など。内装材としては木材(加工木材を含む)、アルミ等の金属材料、プラスチック材料、紙、布、毛皮など。
【0073】
(p)石材の例:
花コウ岩、大理石、御影石等。たとえば建築物、建築材、芸術品、置物、風呂、墓石、記念碑、門柱、石垣、歩道の敷石など。
【0074】
(q)楽器および音響機器の例:
打楽器、弦楽器、鍵盤楽器、木管楽器、金管楽器などの楽器、およびマイクロホン、スピーカなどの音響機器等。具体的には、ドラム、シンバル、バイオリン、チェロ、ギター、琴、ピアノ、フルート、クラリネット、尺八、ホルンなどの打楽器、弦楽器、鍵盤楽器、木管楽器、金管楽器などの楽器、およびマイクロホン、スピーカ、イヤホーンなどの音響機器等。
【0075】
(r)その他:
魔法瓶、真空系機器、電力送電用碍子またはスパークプラグ等の撥水撥油防汚効果の高い高耐電圧性絶縁碍子等からなる基材に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の撥水撥油防汚処理液を用いた撥水撥油防汚性磁器製の皿の製造工程を示したものであり、(a)は実施例1における複合被膜形成後の磁器製の皿表面、(b)は実施例1における焼成後の複合膜が形成された防汚性の磁器製皿の表面をそれぞれ分子レベルまで拡大した断面概念図。
【符号の説明】
【0077】
1 磁器製の皿
2 フッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質
3 シロキサン基を主成分とする物質
4 水酸基
5 水酸基4を多数含む複合膜
6 網目状のシリカ膜
7 撥水撥油防汚性の複合膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含むことを特徴とする撥水撥油防汚処理液。
【請求項2】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤に、さらにアルコキシシリル基を主成分とする物質が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の撥水撥油防汚処理液。
【請求項3】
アルコールとして、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、あるいは界面活性剤として下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を用いることを特徴とする請求項1および2に記載の撥水撥油防汚処理液。
【化1】

【請求項4】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3または[CF3−(CF2−(CH−Si(OA)、[CF3−(CF2−(CH−SiOA(nは0又は16以下の整数、Aはアルキル基)を用いることを特徴とする請求項1乃至3に記載の撥水撥油防汚処理液。
【請求項5】
アルコキシシリル基を主成分とする物質としてSi(OA)、または(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)(nは、0または1、2の整数、Aはアルキル基)を用いることを特徴とする請求項2乃至4に記載の撥水撥油防汚処理液。
【請求項6】
処理液のpHが5乃至11であることを特徴とする請求項1乃至5に記載の撥水撥油防汚処理液。
【請求項7】
少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を混合して分散させることを特徴とする撥水撥油防汚処理液の製造方法。
【請求項8】
少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤にさらにアルコキシシリル基を主成分とする物質を添加混合して分散させることを特徴とする請求項7に記載の撥水撥油防汚処理液の製造方法。
【請求項9】
界面活性剤としてアルコールまたは下記化学式(化1)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を用い、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いて分散させることを特徴とする請求項7および8に記載の撥水撥油防汚処理液の製造方法。
【化1】

【請求項10】
少なくともフッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質と水とアルコール及び/または界面活性剤を含む撥水撥油防汚処理液と基材を接触させて、基材表面に基材表面と共有結合した撥水撥油防汚性被膜を形成することを特徴とする撥水撥油防汚処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−138109(P2008−138109A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326726(P2006−326726)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(503002662)
【Fターム(参考)】