説明

撮像装置

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、ビデオカメラ,電子スチルカメラ等の光量調節手段及びモワレ抑制の為の光学的ローパスフィルターを備えた撮像装置に関し、特に回折格子形の光学的ローパスフィルターを用いて効果的に機能させるようにした撮像装置に関するものである。
〔従来の技術〕
ビデオカメラ,電子スチルカメラ等の画像情報を離散的に採取する撮像装置で被写体を撮影した場合、被写体が非常に細かな絵柄のものであれば、該被写体に無かった構造や該被写体と異なる色あいが撮影画像に出ることがある。
これは、対象とする被写体の空間周波数が使用している撮像装置の標本化周波数の限界値(ナイキスト周波数)に対し高すぎるために起こる現象である。
つまり、撮像装置によって採取することのできないナイキスト周波数を越える周波数成分は画像情報として得ることができず、しかも採取できない周波数成分がノイズとして、採取された撮影画像の高周波数成分に悪影響を与え、偽信号発生の原因となる。この悪影響は、所謂エイリアシス(波形歪み)と呼ばれるものであり、該エイリアシスが起こると撮影画像に本来無かった縞(モワレ縞)や色あい(偽色)が形成されることになる。
従来より、上記エイリアシスを抑制する為に光学的ローパスフィルターが用いられており、該光学的ローパスフィルターを撮影光学レンズ系中に配置し、被写体に含まれる不要な高周波成分を抑制することにより、エイリアシスの影響を小さくしている。この光学的ローパスフィルターとしては、水晶板の複屈折を利用したものが多く用いられてきた。これは、水晶の複屈折を利用して入射光束を常光線と異常光線とに分離してローパスフィルターの効果を得ようとするもので、分離される光線の間隔をD、その伝達関数(MTF)をHC(f)とすると、次式のような関係が成立する。
HC(f)=|cosπDf| ……(I)
(I)式により、所望の方向の空間周波数成分を抑制することが可能となる。
ところで、上記光学的ローパスフィルターに使用する水晶板はコストが高く、又分離後の光線は直線偏光となる為、入射光束を2方向以上に分離したい場合には偏光状態を変換する位相板が必要となるが、該位相板にも一般に水晶板が用いられる為、コストが重むことになる。従って、大量生産を行う点でも障害となっている。
そこで、上記問題点を解決する為に、位相型回折格子を利用した光学的ローパスフィターが種々提案されている。例えば、特開昭53−119063号公報や特開昭61−126532号公報等においては、回折格子の凸部を円弧状や三角形状に構成した光学的ローパスフィルターが提案されている。
第7図は従来の撮像装置に使用されている三角波形状の位相格子の光学的ローパスフィルターの形状を示す斜視図である。この光学的ローパスフィルターは、例えばアクリル樹脂を三角形のプリズム状に加工したもので、上記水晶板に比べ、かなり安価なコストで製作することができる。そして、この光学的ローパスフィルターは、その回折作用によって上記水晶板と同様の効果が得られ、被写体中の不要な高周波成分を抑制することができる。
ここで、上記のような回折格子形の光学的ローパスフィルターは、充分な回折を生じさせる為には通過する光束の径が回折格子の格子ピッチ以上十分あることが必要であり、該格子ピッチ以下では充分なローパス効果を得ることはできない。
特に、近年光学系のコンパクト化が進んでおり、これに伴って絞りの径も小さくなっている。例えば、絞り値が16以上あるいは22以上となると絞り径が1mm以下となってしまう撮影レンズもある。このような撮影レンズ系の中に回折格子形の光学的ローパスフィルターを使用すると、絞り値を例えば16以上に絞り込んだときには充分なローパス効果が得られなくなる。
第8図に従来のスチルビデオカメラのプログラム線図を示す。図に示されるように、露光量EVが17以上の明るい被写体に対し、絞り値(Fメンバー)AVが16以上となる。従って、このような露光制御が行われるカメラに回折格子形の光学的ローパスフィルターを用いると、EV17以上の明るい被写体に対して充分なローパス効果が得られなくなる。この為、絞りを絞り込まずに露光量を制御しようとすると、露光時間(シャッタースピード)TVを短くしなければならない。しかし、機械的シャッターではシャッタースピードに限界があり、特にカメラ全体の構成をコンパクトにする為レンズシャッター機構を用いた場合には、1/500秒程度のシャッタースピードが限界である。
一方、近年の半導体技術の進歩により、電子的シャッターの機能を有した固体撮像素子が種々開発されている。一般に、これらの固体撮像素子は、露光時間が長い時に電子シャッター撮影を行うと暗電流,白キズ等の影響により良好な画像が得られないが、露光時間が1/500秒以下の短い時には良好な画像を得ることができる。特に、FITタイプのCCDでは、露光時間を1/10000秒程度まで短くすることができ、しかもスミアのない良好な画像が得られることが知られている。
〔発明が解決しようとする課題〕
従来の撮像装置は以上のように構成されている為、回折格子形の光学的ローパスフィルターを使用した場合、被写体が比較的明るい時に絞り値を大きく絞り込むと充分なローパス効果が得られないという問題点があった。
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、固体撮像素子と回折格子形の光学的ローパスフィルターを備えたものにおいて、被写体が明るい時でも充分なローパス効果が得られ、しかも安価でコンパクトな撮像装置を得ることを目的としている。
〔課題を解決するための手段〕
本発明の撮像装置は、光学像を電気信号に変換する撮像手段と、該撮像手段の前面に配置された回折格子型光学的ローパスフィルターと、前記光学的ローパスフィルターの前面に設けられた可変絞り部材と、被写体の明るさを検出する検出手段と、該検出手段の出力に応じて被写体が明るいほど前記可変絞り部材の絞り径を小さくするように制御すると共に、被写体が所定の明るさよりも明るい場合には前記可変絞り部材を介して前記回折格子型光学ローパスフィルターに入射する光束の径が前記回折格子型ローパスフィルターの格子のピッチに対して十分に大きい所定の絞り値より小さくならないように前記可変絞り部材を制御し、代わりに撮像時間を短くするように制御する露出制御手段と、を有するようにしたものである。
〔作用〕
本発明の撮像装置においては、機械的シャッター及び電子的シャッターが備えられ、露光量に応じてこれらのシャッターが選択され、光量調節手段の開口値が制限される。従って、被写体が比較的明るい時でも、回折格子形の光学的ローパスフィルターの充分なローパス効果が得られる。
〔実施例〕
第1図は本発明の一実施例による撮像装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、1は撮影レンズ、2はこの撮影レンズ1の光学レンズ系の中に設けられた回折格子形の光学的ローパスフィルター、3は被写体からの撮影光を光電変換して画像信号を出力する固体撮影素子で、露光時間を電子的に制御する電子的シャッター機能を備えている。4は固体撮像素子3に入射する光量を調節する光量調節手段(絞り)、5は固体撮像素子3の露光時間を機械的に制御する機械的シャッター、6は露光量に応じて上記電子的シャッターと機械的シャッター5を選択して露光制御を行うことにより上記光量調節手段4の開口値を制限する露光制御部である。
次に第2図及び第3図について上記構成の撮像装置の動作を説明する。第2図は露光制御の流れを示すフローチャート、第3図はプログラム線図である。
第3図に示すように、この装置では、撮影レンズ1の開放絞り値(Fメンバー)AVは約2.8にし、11より暗い絞り値にならないようにしてある。そして、露光制御部6により露光時間(シャッター速度)TVの制御が行われ、測光した露光量EVが所定の値より小さい時は機械的シャッター5が選択され、露光量が所定の値より大きい時は固体撮像素子3に具備された電子的シャッターが選択される。
すなわち、第2図のフローチャートに示すように、先ず装置内に設けられた不図示の測光手段により露光量EVが決定され(ステップS1)、この露光量EVの値が所定の値EV0と比較(EV>EV0)される(ステップS2)。そして、測光した露光量EVが所定の値EV0より小さければ、その露光量EVに従って第3図のプログラム線図から絞り値AVと露光時間TVが決定された後(ステップS3a)、機械シャッター撮影が行われる(ステップS4a)。また、測光した露光量EVが所定の値EV0より大きければ、その露光量EVに従って絞り値AVと露光時間TVが決定された後(ステップS3b)、電子シャッター撮影が行われる(ステップS4b)。
ここで、第3図では上記所定の値EV0を15.5としており、この時絞り値AVが11であれば露光時間TVは約1/360秒となる。そして、これより明るい被写体に対しては電子シャッター撮影が行われる。従って、回折格子形の光学的ローパスフィルター2を備えていても、被写体が明るい時でも充分なローパス効果が得られ、しかも安価でコンパクトな構成とすることができる。
第4図は本発明の他の実施例を示す構成図であり、光学配置関係を示している。すなわち、この実施例は、撮影レンズ1の光学レンズ系の中で回折格子形の光学的ローパスフィルター2を絞りである光量調節手段4の直後に配置し、また被写体のカラーバランスを変えることなく光の通過強度を抑えるフィルター7を着脱自在に光量調節手段4の前面に設けたものである。なお、このフィルター7は光の強度を1/8にするものを選択してあり、他の構成は第1図と同様である。
第5図は上記構成の装置における露光制御の流れを示すフローチャート、第6図はプログラム線図である。
第6図に示すように、撮影レンズ1の開放絞り値AVは約2.8にしてあり、また光量調節手段4により8より暗い絞り値AVにならないようにしてある。そして、露光制御の際、第5図に示すように、先ず装置内に設けられた測光手段により露光量EVが決定され(ステップS11)、この露光量EVが所定の値EV1と比較される(ステップS12)。ここでは、所定の値EV1を14.2としている。そして、測光した露光量EVが所定の値EV1より小さければ、その露光量EVに従って絞り値AVと露光時間TVが決定された後(ステップS13a)、機械シャッター撮影が行われる(ステップS14a)。
上記ステップS12で測光した露光量EVが所定の値EV1より大きければ、第4図のフィルター7が光量調節手段4の前面に装着され、光の通過強度が1/8、つまり3段下げられる(ステップS15)。この状態で、第6図のプログラム線図で露光量EVはカッコ内で示される数値となる。そして、再度フィルター7を通過した露光量EVが所定の値EV0と比較され(ステップS16)、露光量EVが所定の値EV0より小さければ、第6図のプログラム線図に従って絞り値AVと露光時間TVが決定された後(ステップS13b)、機械シャッター撮影が行われる(ステップS14b)。また、露光量EVが所定の値EV0より大きければ、同様に絞り値AVと露光時間TVが決定された後(ステップS13c)、電子シャッター撮影が行われる(ステップS14c)。なお、ここでは上記所定の値EV0を15.5としている。
このような構成であっても、上記実施例と同様の効果が得られる。なお、第4図のフィルター7は1枚の構成としたが、複数枚を組み合わせた構成としても良い。
〔発明の効果〕
以上のように、本発明によれば、機械的シャッターと電子的シャッターを備え、露光量に応じてこれらのシャッターを選択し、光量調節手段の開口値を制限するようにしたため、被写体が比較的明るい時でも回折格子形の光学的ローパスフィルターの充分なローパス効果が得られ、しかも安価でコンパクトにすることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例の構成を示すブロック図、第2図2図は一実施例の露光制御の流れを示すフローチャート、第3図は一実施例のプログラム線図、第4図は本発明の他の実施例を示す構成図、第5図は他の実施例の露光制御の流れを示すフローチャート、第6図は他の実施例のプログラム線図、第7図は従来装置の光学的ローパスフィルターの形状を示す斜視図、第8図は従来装置のプログラム線図である。
1……撮影レンズ
2……光学的ローパスフィルター
3……固体撮像素子
4……光量調節手段
5……機械的シャッター
6……露光制御部
7……フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】光学像を電気信号に変換する撮像手段と、該撮像手段の前面に配置された回折格子型光学的ローパスフィルターと、前記光学的ローパスフィルターの前面に設けられた可変絞り部材と、被写体の明るさを検出する検出手段と、該検出手段の出力に応じて被写体が明るいほど前記可変絞り部材の絞り径を小さくするように制御すると共に、被写体が所定の明るさよりも明るい場合には前記可変絞り部材を介して前記回折格子型光学ローパスフィルターに入射する光束の径が前記回折格子型ローパスフィルターの格子のピッチに対して十分に大きい所定の絞り値より小さくならないように前記可変絞り部材を制御し、代わりに撮像時間を短くするように制御する露出制御手段と、を有することを特徴とする撮像装置。

【第1図】
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【第3図】
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【第2図】
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【第4図】
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【第7図】
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【第5図】
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【第6図】
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【第8図】
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【特許番号】第2579224号
【登録日】平成8年(1996)11月7日
【発行日】平成9年(1997)2月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−306493
【出願日】平成1年(1989)11月28日
【公開番号】特開平3−167534
【公開日】平成3年(1991)7月19日
【出願人】(999999999)キヤノン株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平1−231480(JP,A)
【文献】特開 昭60−143073(JP,A)
【文献】特開 昭63−239429(JP,A)