擁壁及びその施工方法
【課題】高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として発揮せしめて擁壁の転倒を確実に防止し、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減し、擁壁の工期短縮及び工事費低廉化を図る。
【解決手段】コンクリート打設用型枠として使用可能な矢板(10)と、支柱(2)及び矢板(10)の間の間隔を保持するスペーサ用鋼材(20)とを支柱の近傍で高地盤(HG)に埋入する。矢板の低地盤側の土壌(MG)を撤去して壁体(3)の配筋(3a)及び型枠(9)を施工する。矢板及び型枠の間にコンクリート(8)を打設し、支柱の立柱部分(2b)とスペーサ用鋼材とを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の擁壁(1)を構築する。
【解決手段】コンクリート打設用型枠として使用可能な矢板(10)と、支柱(2)及び矢板(10)の間の間隔を保持するスペーサ用鋼材(20)とを支柱の近傍で高地盤(HG)に埋入する。矢板の低地盤側の土壌(MG)を撤去して壁体(3)の配筋(3a)及び型枠(9)を施工する。矢板及び型枠の間にコンクリート(8)を打設し、支柱の立柱部分(2b)とスペーサ用鋼材とを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の擁壁(1)を構築する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁及びその施工方法に関するものであり、より詳細には、大型フーチングの省略を可能にするとともに、高い剛性を発揮する湿式工法の擁壁及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高さ2mを超える切土、或いは、高さ1mを超える盛土等によって生じる崖や、急傾斜地又は水路等の如く高低差が生じる地盤においては、地盤の崩壊を防止する擁壁を設置する必要が生じる。この種の擁壁は、鉄筋コンクリート構造の壁体、或いは、プレキャスト製品又はコンクリートブロックを組積した壁体からなる。
【0003】
このような擁壁は、通常は、全体的にL型断面又はT型断面に設計され、比較的大型の基礎フーチングが、擁壁底部に形成される。基礎フーチングは、擁壁に作用する荷重(土圧)及び擁壁の自重を支持地盤に伝達する広範な接地面積を有するとともに、擁壁の転倒を防止するように機能する。
【0004】
基礎フーチングは、高地盤側に比較的大きく延びるので、擁壁施工時に高地盤を広範囲に掘削し、擁壁施工後に掘削部分を埋戻す必要が生じる。殊に、軟弱地盤に擁壁を構築する場合、非現実的に大きな基礎フーチングを設計・施工しなければならない状況が生じる。しかし、大型の基礎フーチングの施工は、基礎フーチング自体のコンクリート工事に過大な工事費を要するばかりでなく、広範な高地盤の掘削及び埋戻しの必要を生じさせ、これは、多大な掘削工事の労力、移動土量の増加、埋戻し土の非安定性等の問題につながる。また、施工現場の環境、地層、地形、地盤性状又は施工条件等によっては、大型の基礎フーチングを施工し難い状態が生じる。
【0005】
このような基礎フーチング施工の問題を解消すべく、地山側に荷重を付加して親杭に予め非転倒側の曲げモーメントを付与するように構成された乾式工法の擁壁構造が、特許第2824217号掲載公報に開示されている。この擁壁は、地山側に錘構築用の溝を掘削して鉄筋コンクリート構造の錘又は梁を溝内に形成するとともに、この錘と擁壁直下の親杭とを支持梁で連結した構造を有し、親杭の間には、PC版等の土留め壁が形成される。このような擁壁構造によれば、錘の荷重によって親杭に非転倒側(安全側)の曲げモーメントが作用するとともに、地盤に対する支持梁及び錘の粘着力及び摩擦力によって擁壁の耐力を増大し、これにより、基礎フーチングの施工を省略し得るかもしれない。
【特許文献1】特許第2824217号掲載公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の擁壁は、親杭(鋼材)の下端部を地中に埋込み、親杭上部の間に壁体構成要素(PC版等)を掛け渡す乾式工法の擁壁であるにすぎず、高地盤の土圧および壁体構成要素の自重は、壁体の変形と、親杭及び壁体構成要素の係止部に生じる反力とによって、吸収し又は支持し得るにすぎない。
【0007】
殊に、上記特許文献1の擁壁では、親杭の上部から高地盤側に鋼製ブラケットを突出させ、ブラケットの先端部に錘を構築することによって、非転倒側のモーメントを擁壁に与えているが、ブラケットは、線型部材であり、しかも、ブラケット及び親杭の接合部は、ピン支持の支点であるにすぎず、このため、地盤の摩擦力を効果的に利用することはできない。
【0008】
上記特許文献1の擁壁は又、親杭(山留め工事(仮設工事)に使用されるH型鋼材)と、鋼製ブラケットと、PC版等の面材とを組付けた構造を有するにすぎず、各構成要素を剛体として一体化したものではない。このため、このような擁壁の構造によっては、擁壁全体で土圧に耐える効果は、得られない。しかも、軸組部材として鋼材を用いた特許文献1の擁壁では、鋼材の発錆を回避し難く、擁壁の耐用年数の点においても、これを改善すべき必要がある。
【0009】
また、このような擁壁を傾斜地盤に構築する場合、施工時の地盤崩壊等を防止すべく、傾斜地盤に山留め用の矢板を圧入する必要が比較的頻繁に生じる。例えば、このような傾斜地盤に場所打ちコンクリートの湿式擁壁を施工する場合、矢板の外側(低地盤側)にコンクリート打設用の型枠を建込む必要が生じる。矢板及び型枠は、擁壁構築後に地盤から引き抜かれ、或いは、地盤に埋め殺される。このように矢板及び型枠の双方を施工することは、工期を長期化し、工事費を高額化するので、これを改善する対策が望まれる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、擁壁の各構成要素を一体化し、高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として効果的且つ長期に発揮するとともに、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減し、しかも、擁壁の転倒を確実に防止することができる擁壁及びその施工方法を提供することにある。
【0011】
本発明は又、矢板及び型枠の少なくとも一方を省略して、擁壁の工期を短縮し且つ工事費を低廉化することができる擁壁及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成すべく、高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁において、
所定の耐力を有する地盤の支持層に支持された杭部分と、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分とを一体化した中空の鋼製支柱と、
該鋼製支柱の高地盤側に埋入し且つコンクリート打設用型枠として使用される矢板と、
前記支柱及び矢板の間の間隔を保持するように前記鋼製支柱と前記矢板との間に介挿したスペーサと、
複数の前記立柱部分及び前記スペーサを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体とを備え、
前記支柱は、擁壁の壁芯方向に間隔を隔てて配置されたことを特徴とする擁壁を提供する。
【0013】
本発明は又、高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁の施工方法において、
壁芯方向に間隔を隔てて複数の鋼管を前記高地盤に埋入し、前記鋼管の下端部を地盤の支持層に到達せしめ、前記鋼管によって複数の中空支柱を形成する支柱施工工程と、
コンクリート打設用型枠として使用可能な矢板と、支柱及び矢板の間の間隔を保持するスペーサ用鋼材とを前記支柱の近傍で前記高地盤に埋入する矢板・スペーサ施工工程と、
前記矢板の低地盤側の土壌を撤去し、前記擁壁の壁体の配筋を施工するとともに、前記支柱の低地盤側に型枠を建込む配筋・型枠工程と、
前記型枠の上部から前記矢板及び型枠の間にコンクリートを打設し、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分と前記スペーサ用鋼材とを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体を構築するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする擁壁の施工方法を提供する。
【0014】
本発明の上記構成によれば、支柱の下部は、鋼製杭を構成し、支柱の上部は、壁体内の立柱を構成する。高地盤の土圧は、主として壁体に作用し、壁体に作用する荷重は、支柱を介して地盤の支持層に伝達する。壁体は、土壌による腐食に耐え、比較的長期に亘って所望の耐力を維持する。
【0015】
本発明の擁壁は、高地盤側に延びる大型フーチングを省略した構成を備えるので、施工において、支柱及び壁体を施工可能な範囲のみを掘削すれば良く、しかも、矢板の低地盤側の土壌のみを壁体施工のために掘削すれば良い。従って、本発明によれば、地盤掘削の工程及び労力を短縮又は軽減し、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減することができる。掘削土量の削減は、移動土量の減少や、埋戻し土の非安定性に伴う課題を同時に解消するので、実務的に極めて有利である。
【0016】
また、本発明の擁壁は、フーチングを施工困難な地形に適用し得るので、擁壁の適用範囲は、大きく拡大する。また、支柱及び壁体は一体化するので、擁壁は、高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として効果的且つ長期に発揮し、擁壁の転倒は、確実に防止することができる
【0017】
更に、本発明において、矢板は、壁体施工用の高地盤側型枠を兼ねる。従って、高地盤側型枠の施工を省略し得るので、擁壁の工期を短縮するとともに、工事費を低廉化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の擁壁及びその施工方法によれば、擁壁の各構成要素を一体化し、高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として効果的且つ長期に発揮するとともに、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減し、しかも、擁壁の転倒を防止することができる。
【0019】
また、本発明の擁壁及びその施工方法によれば、矢板及び型枠の少なくとも一方を省略して、擁壁の工期を短縮し且つ工事費を低廉化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好適な実施形態において、壁体のコンクリートは、矢板及び型枠の間の領域に充填されるだけではなく、上記支柱の内部中空域にも同時に充填される。コンクリートを充填した支柱は、中空鋼材とコンクリートとの相互拘束効果(コンファインド効果)により、高い軸圧縮耐力、曲げ耐力及び変形性能を発揮する。例えば、中空鋼材の局部座屈が充填コンクリートによって抑制され、その靱性が向上するとともに、充填コンクリートの剛性が中空鋼材に付加され、支柱全体の剛性が向上する。更には、充填コンクリートによって、鋼材内部の防錆効果が得られる。
【0021】
好ましくは、上記支柱は、下端部を板体等で予め閉塞した鋼管からなる。下端部の閉塞により、地中埋入時に土砂が鋼管内に進入するのを防止することができる。所望により、鋼管は、地中埋入を推進する掘削刃を先端部(下端部)に備えた回転貫入式の鋼製埋設杭からなる。
【0022】
更に好ましくは、壁体下部の断面を拡大してなる布基礎又は地中梁が、壁体下部に形成される。布基礎又は地中梁は、壁体に沿って連続し、支柱は、布基礎又は地中梁を垂直に貫通する。
【0023】
好適には、上記スペーサは、上記支柱に固着した鋼材からなる。高地盤の土圧は、矢板及びスペーサ用鋼材を介して、少なくとも部分的に支柱に伝達し、支柱によって支持される。支柱は、地盤側圧を支持する矢板の支保工として機能するので、矢板のための支保工の施工を省略し又は簡略化することができる。所望により、鉄筋挿通孔がスペーサ用鋼材又は支柱鋼管に形成され、壁体の配筋を構成する鉄筋は、鋼材又は支柱の鉄筋挿通孔を貫通する。
【0024】
好ましくは、鋼管の直径は、コンクリート充填時の施工性を考慮し、150mm以上の寸法に設定される。好適には、壁体の壁厚は、200mm以上の寸法に設定される。構造計算上、壁体の壁厚に比べて鋼管の直径が過大な場合には、鋼管を埋設する壁体部分の断面を局所的に拡大しても良い。
【実施例1】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の擁壁の基本構成を示す横断面図であり、図2は、擁壁の側面側及び正面側の部分立面図である。また、図3は、図1のI−I線、II−II線及びIII−III線における断面図である。
【0027】
図1に示す如く、擁壁1は、高地盤HGの地形に相応した平面形態に配置され、左右の端部が高地盤HG側に屈曲している。擁壁1は、高地盤HGを囲み、低地盤LG側への高地盤HGの崩壊又は崩落を阻止する。
【0028】
擁壁1は、壁芯方向に所定間隔を隔てて配置された円形断面の鋼製垂直支柱2と、鉄筋コンクリート構造の壁体3とから構成される。支柱2の上部は、壁体3内に埋設され、支柱2の下部は、地中に貫入する。壁体3の下部は、断面が拡大され、断面拡大部分は、擁壁1の壁芯に沿って壁長方向に延びる鉄筋コンクリート構造の布基礎又は地中梁4(以下、「布基礎等4」という。)を構成する。布基礎等4は、壁体3の基礎を構成するとともに、支柱2を相互連結するように機能する。
【0029】
支柱2、壁体3及び布基礎等4は、高地盤HGの土圧に耐える一体的な土留め壁を構成する。支柱2の下端部は、支持層Sに達する。擁壁1に作用する土圧、地震力等の鉛直荷重及び水平荷重と、擁壁1の自重とは、擁壁1と地盤Gとの間に作用する摩擦力、布基礎等4が接地する地盤Gの地盤耐力、支柱2の地中部分と地盤Gとの摩擦力、更には、支柱2に対する支持層Sの支持力によって支持される。
【0030】
図1に示す如く、擁壁1の屈曲部には、所望により、コンクリート増打ち等のフカシ部5が形成される。図3(C)に示す如く、低地盤LGの地盤面に高低差が生じる場合には、低地盤LGの地盤面に相応するように布基礎等4のレベルを段階的又は連続的に変化させることが望ましい。
【0031】
図4は、擁壁1の断面構造を示す縦断面図、IV−IV線断面図及び支柱部分拡大断面図である。
【0032】
支柱2は、均一な円形断面の鋼管からなり、支柱2の下部(杭部分2a)は、地中に埋入される。支柱2の下端部は、好ましくは、N値10以上の支持層Sに達する。支柱2の下端開口は、円形盲板6によって閉塞される。支柱2の上部(立柱部分2b)は、概ね高地盤Gの地盤面のレベルまで低地盤LGから上方に突出する。支柱2の内部中空域には、コンクリート8が充填される。支柱2を構成する鋼管の直径は、好ましくは、100mm〜300mmの範囲に設定される。コンリクリート充填の施工性を考慮し、鋼管の直径を150mm以上に設定することが望ましい。本例では、鋼管の直径は、約170mmに設定されている。
【0033】
壁体3は、縦横の壁筋3aを配筋した鉄筋コンクリート構造の壁体からなる。壁体3の壁厚は、好ましくは、250mm〜750mmの範囲に設定される。本例では、壁体3の壁厚は、400mmに設定されている。壁筋3aとして、D10〜D25程度の汎用の異形鉄筋が使用され、壁筋間隔は、100mm〜300mm程度に設定される。本例では、壁筋3aとして、D13の異形鉄筋が使用され、壁筋3aの間隔は、250mm に設定されている。壁筋3aを構成する縦筋は、布基礎等4内に延び、布基礎等4のコンクリートに定着する。
【0034】
矢板10が、壁体3の裏面側の土壌に埋め殺される。矢板10は、コンクリート矢板(PC矢板)、木矢板、鋼矢板等の任意の矢板からなる。矢板10は、地盤Gの土留め用面材として使用されるとともに、壁体3及び布基礎4のコンクリート打設用型枠として使用される。所望により、透水マット等を適所に配置しても良い。
【0035】
布基礎等4は、壁芯方向に延びる主筋4aと、主筋4aを囲むスタラップ筋4bとを配筋した鉄筋コンクリート構造の梁型部材からなり、布基礎等4の下面は、捨てコンクリート及び採石等によって整地した掘削地盤面に接地する。主筋4aとして、D13〜D25程度の汎用の異形鉄筋を使用し、スタラップ筋4bとして、D10〜D13程度の汎用の異形鉄筋を使用することができる。本例では、主筋4a及びスタラップ筋4bとして、いずれもD13の異形鉄筋が使用されている。布基礎等4の幅Wは、一般には、400〜1000mm程度に設定され、本例では、500mmに設定されている。布基礎等4の高さDは、一般には、200〜600mm程度に設定され、本例では、250mmに設定されている。
【0036】
かくして、壁体3及び布基礎等4は、一体的な鉄筋コンクリート構造体を構成し、布基礎等4の幅Wは、従来の擁壁におけるフーチングの幅(奥行)と比べ、遥かに小さい寸法に設定される。
【0037】
図5〜図10は、擁壁1の施工方法を示す縦断面図である。
【0038】
図5には、擁壁1の全施工工程が概略的に示されている。
【0039】
図5(A)に示す如く、既存の地盤Gは、高地盤HG及び低地盤LGの間に傾斜地盤MGを有し、傾斜地盤MGは、比較的急勾配の法面(傾斜面)を形成している。オーガ併用の杭打ち機等によって、杭孔が削孔され、鋼管杭15が地盤に圧入される。図6に示すように、鋼管杭15は、その先端部6が支持層Sに若干喰込む位置まで地中に埋入され、垂直な支柱2が土中に形成される。鋼管杭15の杭頭は、その頂面開口を開放した状態で高地盤HGの地盤面から僅かに上方に突出し、或いは、高地盤HGの地盤面と同等のレベルに位置する。鋼管杭15として、図5(A)に示すように先端部に掘削刃(先端スクリュー)16を備えた回転貫入式の埋設杭を使用し、鋼管杭15をパイルドライバ等の重機によって施工しても良い。
【0040】
杭打ち機は、鋼管杭15の外径よりも若干大きい内径を有する杭孔2c(図6に破線で示す)を形成しても良い。これにより、長尺のスペーサ用鋼材20(図5(B))を比較的容易に土中に圧入可能又は挿入可能な脆弱土壌又は間隙が、支柱2廻りに形成される。
【0041】
スペーサ用鋼材20は、図5(B)に示す如く、高地盤HGの地盤面から支柱2に近接して土中に圧入される。更に、山留め用矢板10が、図5(C)に示す如く、支柱2から所定間隔を隔てた位置において高地盤HGの地盤面から地盤Gに圧入される。鋼材20及び矢板10を地盤Gに圧入した状態が図7に示されている。鋼材20には、鉄筋(水平配筋)を挿通可能な複数の円形孔23が予め穿孔されている。なお、図5(B)及び図5(C)には、矢板10を地盤Gに圧入した後に鋼材20を地盤Gに圧入する工程が示されているが、矢板10を地盤Gに圧入した後に鋼材20を地盤Gに圧入しても良い。
【0042】
傾斜地盤MGが低地盤LGの側から掘削され、支柱2、矢板10及び鋼材20は、図5(D)に示すように低地盤LG側に露出する。傾斜地盤MGは、矢板10の土留め効果によって比較的容易に掘削することができる。容易に理解し得るように、擁壁1の施工においては、従来の擁壁施工方法と異なり、フーチング施工のために高地盤HGを大きく掘削することを要しない。
【0043】
図8には、傾斜地盤MGを掘削して矢板10及び鋼材20を露出させた状態が示されている。矢板10及び鋼材20の頂部は、支柱2の頂部から所定寸法だけ上方に突出する。低地盤LGの地盤面は、矢板10及び鋼材20の下端部が低地盤LG側に露出するように溝状に掘削される。矢板10に沿って掘削した溝の底部は、捨てコンクリート及び採石等によって整地される。
【0044】
図9は、鋼材20の構造を部分拡大して示す縦断面図及び横断面図である。
【0045】
鋼材20は、ウェブ部分21及びフランジ部分22を有するCT形鋼材(カットティー形鋼材)からなる。壁筋3a(仮想線で示す)を挿通可能な複数の円形孔23が、所定間隔を隔ててウェブ部分21に穿孔されており、円形孔23の間隔は、壁筋3aの間隔と一致するように設定されている。
【0046】
ウェブ部分21及び支柱2は、スミ肉溶接等の固着手段25によって一体的に接合される。他方、矢板10に接するフランジ部分22の面は、矢板10に作用する土圧Pによって矢板10から受圧するので、矢板10及びフランジ部分22は、実質的に一体化する。所望により、任意の固着手段によって矢板10及びフランジ部分22を一体的に接合しても良い。
【0047】
図10に示す如く、壁体3及び布基礎等4の壁筋3a、主筋4a及びスタラップ筋4bが配筋され、コンクリート工事用の型枠9が低地盤側に建込まれる。水平方向の壁筋(横筋)3aは、鋼材20の円形孔23(図9)に挿通される。所望により、図9に破線で示す如く、コンクリートとの付着強度を増大するスタッド又は垂直リブ等の突出部材27を支柱2に取付け又は形成し、或いは、補強用鉄筋28を垂直又はフープ状に支柱2廻りに配筋しても良い。
【0048】
図5(E)に示すように配筋・型枠の施工が完了した後、流動状態のコンクリート8が支柱2の上方から型枠9及び矢板10の間に流し込まれる。コンクリート8は、型枠9及び矢板10の間に充填されるのみならず、支柱2の頂部開口を介して支柱2内に流入し、支柱2の内部中空域に充填される。
【0049】
コンクリート8の硬化後に型枠9を解体し、掘削土を布基礎等4廻りに埋戻すことにより、図4及び図5(F)に示すように擁壁1が完成する。なお、矢板10は、地盤Gに埋め殺される。
【0050】
図11は、スペーサ用鋼材20の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【0051】
図11に示すスペーサ用鋼材20は、平板状鋼材又は鋼製フラットバーからなり、溶接等の固着手段25によって支柱2に一体的に接合される。壁筋貫通用の円形孔23は、所定間隔を隔てて支柱2の管壁に穿孔される。円形孔23の間隔は、壁筋3aの間隔と一致するように設定される。
【0052】
図12は、スペーサ用鋼材20の他の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【0053】
図12に示すスペーサ用鋼材20は、垂直方向に延びる棒鋼30と、水平方向に延びる等辺山形鋼(アングル形鋼)31とから構成される。棒鋼30は、溶接等の固着手段35によって支柱2に一体的に接合される。山型鋼31は、一方の辺部分が溶接等の固着手段36によって棒鋼30に一体的に接合され、他方の辺部分が、矢板10に接する。
【0054】
山形鋼31は、土圧Pによって矢板10から受圧するので、矢板10及び山形鋼31は、実質的に一体化する。山形鋼31として、50mm×50mm以上の寸法のものを好ましく使用し得る。所望により、任意の固着手段によって矢板10及びフランジ部分22を一体的に接合しても良い。必要に応じて、壁筋3aの縦筋(仮想線で示す)を挿通可能な複数の円形孔33が、所定間隔を隔てて山形鋼31に穿孔される。円形孔33の間隔は、壁筋(縦筋)3aの間隔と一致するように設定される。
【0055】
以上説明した如く、上記構成の擁壁1によれば、擁壁1の自重及び荷重の多くは、支柱2によって支持層Sに伝達することから、従来のような大型フーチングの施工を省略することができ、しかも、施工中の高地盤HGの崩壊は、矢板20の土留め効果によって阻止される。従って、掘削範囲を最小限の範囲に制限し、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減することができる。壁体3及び布基礎等4は、支柱2を相互連結し、擁壁1の剛性を全体的に向上させるとともに、高地盤HGの土圧に耐える一体的な擁壁として働く。
【0056】
殊に、上記擁壁1においては、擁壁1に作用する水平荷重(土圧及び地震力等)の支持に支持層Sの支持力を利用するので、地震時に地盤の液状化が生じ得る軟弱地盤に本発明の擁壁1を構築した場合、従来の擁壁では達成し得なかった高い耐震性が得られるであろう。
【0057】
また、上記構成の擁壁1によれば、矢板10は、高地盤側のコンクリート型枠を兼ねる。従って、コンクリート8を施工するための高地盤側型枠の施工を省略することができる。かくして、擁壁1の工期を短縮するとともに、工事費をかなり低減することができる。
【0058】
更に、高地盤HGの土圧Pは、矢板10及びスペーサ用鋼材20を介して、少なくとも部分的に支柱2に伝達し、支柱2によって支持される。従って、支柱2は、地盤側圧を支持する矢板10の支保工として機能するので、矢板10のための支保工の施工を省略し又は簡略化することができる。
【0059】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0060】
本発明の擁壁は、直線的な擁壁に限定されるものではなく、湾曲した擁壁や、角度をなして複雑に屈曲する擁壁等の各種形態の擁壁として施工することができる。
【0061】
また、擁壁には、水抜孔等を適所に配設しても良い。
【0062】
更に、上記実施例では、円形断面の鋼管を支柱として使用したが、方形、多角形又は楕円形等の断面の鋼管を上記支柱として使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、崖、急傾斜地又は水路等に施工される擁壁に適用される。本発明の擁壁は、大型フーチングの施工を必要とせず、しかも、施工中の地盤崩壊を矢板の土留め効果によって阻止するので、擁壁の施工性は、大きく改善する。また、本発明によれば、矢板は、コンクリート打設用の高地盤側型枠を兼ねる。従って、本発明は、工期短縮及び工事費低減を図る上で有利である。更に、本発明によれば、従来の擁壁では施工困難であった地盤に垂直な擁壁を施工することが可能となる。加えて、地震時に地盤の液状化が生じ得る軟弱地盤に本発明の擁壁を施工した場合、従来の擁壁では達成し得なかった高い耐震性が得られるので、本発明の有益性は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の擁壁の基本構成を例示する横断面図である。
【図2】図1に示す擁壁の側面側及び正面側の部分立面図である。
【図3】図1のI−I線、II−II線及びIII−III線における断面図である。
【図4】擁壁の断面構造を示す縦断面図、IV−IV線断面図及び支柱部分拡大断面図である。
【図5】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、擁壁の全施工工程が概略的に示されている。
【図6】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、支柱施工工程が示されている。
【図7】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、矢板・スペーサ施工工程が示されている。
【図8】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、掘削工程が示されている。
【図9】スペーサ用鋼材の構造を部分拡大して示す縦断面図及び横断面図である。
【図10】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、配筋・型枠工程が示されている。
【図11】スペーサ用鋼材の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【図12】スペーサ用鋼材の他の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 擁壁
2 支柱
3 壁体
4 布基礎等(布基礎又は地中梁)
2a 杭部分
2b 立柱部分
10 矢板
20 スペーサ用鋼材
HG 高地盤
LG 低地盤
MG 傾斜地盤
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁及びその施工方法に関するものであり、より詳細には、大型フーチングの省略を可能にするとともに、高い剛性を発揮する湿式工法の擁壁及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高さ2mを超える切土、或いは、高さ1mを超える盛土等によって生じる崖や、急傾斜地又は水路等の如く高低差が生じる地盤においては、地盤の崩壊を防止する擁壁を設置する必要が生じる。この種の擁壁は、鉄筋コンクリート構造の壁体、或いは、プレキャスト製品又はコンクリートブロックを組積した壁体からなる。
【0003】
このような擁壁は、通常は、全体的にL型断面又はT型断面に設計され、比較的大型の基礎フーチングが、擁壁底部に形成される。基礎フーチングは、擁壁に作用する荷重(土圧)及び擁壁の自重を支持地盤に伝達する広範な接地面積を有するとともに、擁壁の転倒を防止するように機能する。
【0004】
基礎フーチングは、高地盤側に比較的大きく延びるので、擁壁施工時に高地盤を広範囲に掘削し、擁壁施工後に掘削部分を埋戻す必要が生じる。殊に、軟弱地盤に擁壁を構築する場合、非現実的に大きな基礎フーチングを設計・施工しなければならない状況が生じる。しかし、大型の基礎フーチングの施工は、基礎フーチング自体のコンクリート工事に過大な工事費を要するばかりでなく、広範な高地盤の掘削及び埋戻しの必要を生じさせ、これは、多大な掘削工事の労力、移動土量の増加、埋戻し土の非安定性等の問題につながる。また、施工現場の環境、地層、地形、地盤性状又は施工条件等によっては、大型の基礎フーチングを施工し難い状態が生じる。
【0005】
このような基礎フーチング施工の問題を解消すべく、地山側に荷重を付加して親杭に予め非転倒側の曲げモーメントを付与するように構成された乾式工法の擁壁構造が、特許第2824217号掲載公報に開示されている。この擁壁は、地山側に錘構築用の溝を掘削して鉄筋コンクリート構造の錘又は梁を溝内に形成するとともに、この錘と擁壁直下の親杭とを支持梁で連結した構造を有し、親杭の間には、PC版等の土留め壁が形成される。このような擁壁構造によれば、錘の荷重によって親杭に非転倒側(安全側)の曲げモーメントが作用するとともに、地盤に対する支持梁及び錘の粘着力及び摩擦力によって擁壁の耐力を増大し、これにより、基礎フーチングの施工を省略し得るかもしれない。
【特許文献1】特許第2824217号掲載公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の擁壁は、親杭(鋼材)の下端部を地中に埋込み、親杭上部の間に壁体構成要素(PC版等)を掛け渡す乾式工法の擁壁であるにすぎず、高地盤の土圧および壁体構成要素の自重は、壁体の変形と、親杭及び壁体構成要素の係止部に生じる反力とによって、吸収し又は支持し得るにすぎない。
【0007】
殊に、上記特許文献1の擁壁では、親杭の上部から高地盤側に鋼製ブラケットを突出させ、ブラケットの先端部に錘を構築することによって、非転倒側のモーメントを擁壁に与えているが、ブラケットは、線型部材であり、しかも、ブラケット及び親杭の接合部は、ピン支持の支点であるにすぎず、このため、地盤の摩擦力を効果的に利用することはできない。
【0008】
上記特許文献1の擁壁は又、親杭(山留め工事(仮設工事)に使用されるH型鋼材)と、鋼製ブラケットと、PC版等の面材とを組付けた構造を有するにすぎず、各構成要素を剛体として一体化したものではない。このため、このような擁壁の構造によっては、擁壁全体で土圧に耐える効果は、得られない。しかも、軸組部材として鋼材を用いた特許文献1の擁壁では、鋼材の発錆を回避し難く、擁壁の耐用年数の点においても、これを改善すべき必要がある。
【0009】
また、このような擁壁を傾斜地盤に構築する場合、施工時の地盤崩壊等を防止すべく、傾斜地盤に山留め用の矢板を圧入する必要が比較的頻繁に生じる。例えば、このような傾斜地盤に場所打ちコンクリートの湿式擁壁を施工する場合、矢板の外側(低地盤側)にコンクリート打設用の型枠を建込む必要が生じる。矢板及び型枠は、擁壁構築後に地盤から引き抜かれ、或いは、地盤に埋め殺される。このように矢板及び型枠の双方を施工することは、工期を長期化し、工事費を高額化するので、これを改善する対策が望まれる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、擁壁の各構成要素を一体化し、高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として効果的且つ長期に発揮するとともに、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減し、しかも、擁壁の転倒を確実に防止することができる擁壁及びその施工方法を提供することにある。
【0011】
本発明は又、矢板及び型枠の少なくとも一方を省略して、擁壁の工期を短縮し且つ工事費を低廉化することができる擁壁及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成すべく、高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁において、
所定の耐力を有する地盤の支持層に支持された杭部分と、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分とを一体化した中空の鋼製支柱と、
該鋼製支柱の高地盤側に埋入し且つコンクリート打設用型枠として使用される矢板と、
前記支柱及び矢板の間の間隔を保持するように前記鋼製支柱と前記矢板との間に介挿したスペーサと、
複数の前記立柱部分及び前記スペーサを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体とを備え、
前記支柱は、擁壁の壁芯方向に間隔を隔てて配置されたことを特徴とする擁壁を提供する。
【0013】
本発明は又、高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁の施工方法において、
壁芯方向に間隔を隔てて複数の鋼管を前記高地盤に埋入し、前記鋼管の下端部を地盤の支持層に到達せしめ、前記鋼管によって複数の中空支柱を形成する支柱施工工程と、
コンクリート打設用型枠として使用可能な矢板と、支柱及び矢板の間の間隔を保持するスペーサ用鋼材とを前記支柱の近傍で前記高地盤に埋入する矢板・スペーサ施工工程と、
前記矢板の低地盤側の土壌を撤去し、前記擁壁の壁体の配筋を施工するとともに、前記支柱の低地盤側に型枠を建込む配筋・型枠工程と、
前記型枠の上部から前記矢板及び型枠の間にコンクリートを打設し、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分と前記スペーサ用鋼材とを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体を構築するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする擁壁の施工方法を提供する。
【0014】
本発明の上記構成によれば、支柱の下部は、鋼製杭を構成し、支柱の上部は、壁体内の立柱を構成する。高地盤の土圧は、主として壁体に作用し、壁体に作用する荷重は、支柱を介して地盤の支持層に伝達する。壁体は、土壌による腐食に耐え、比較的長期に亘って所望の耐力を維持する。
【0015】
本発明の擁壁は、高地盤側に延びる大型フーチングを省略した構成を備えるので、施工において、支柱及び壁体を施工可能な範囲のみを掘削すれば良く、しかも、矢板の低地盤側の土壌のみを壁体施工のために掘削すれば良い。従って、本発明によれば、地盤掘削の工程及び労力を短縮又は軽減し、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減することができる。掘削土量の削減は、移動土量の減少や、埋戻し土の非安定性に伴う課題を同時に解消するので、実務的に極めて有利である。
【0016】
また、本発明の擁壁は、フーチングを施工困難な地形に適用し得るので、擁壁の適用範囲は、大きく拡大する。また、支柱及び壁体は一体化するので、擁壁は、高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として効果的且つ長期に発揮し、擁壁の転倒は、確実に防止することができる
【0017】
更に、本発明において、矢板は、壁体施工用の高地盤側型枠を兼ねる。従って、高地盤側型枠の施工を省略し得るので、擁壁の工期を短縮するとともに、工事費を低廉化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の擁壁及びその施工方法によれば、擁壁の各構成要素を一体化し、高地盤の土圧に抗する耐力を擁壁全体として効果的且つ長期に発揮するとともに、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減し、しかも、擁壁の転倒を防止することができる。
【0019】
また、本発明の擁壁及びその施工方法によれば、矢板及び型枠の少なくとも一方を省略して、擁壁の工期を短縮し且つ工事費を低廉化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好適な実施形態において、壁体のコンクリートは、矢板及び型枠の間の領域に充填されるだけではなく、上記支柱の内部中空域にも同時に充填される。コンクリートを充填した支柱は、中空鋼材とコンクリートとの相互拘束効果(コンファインド効果)により、高い軸圧縮耐力、曲げ耐力及び変形性能を発揮する。例えば、中空鋼材の局部座屈が充填コンクリートによって抑制され、その靱性が向上するとともに、充填コンクリートの剛性が中空鋼材に付加され、支柱全体の剛性が向上する。更には、充填コンクリートによって、鋼材内部の防錆効果が得られる。
【0021】
好ましくは、上記支柱は、下端部を板体等で予め閉塞した鋼管からなる。下端部の閉塞により、地中埋入時に土砂が鋼管内に進入するのを防止することができる。所望により、鋼管は、地中埋入を推進する掘削刃を先端部(下端部)に備えた回転貫入式の鋼製埋設杭からなる。
【0022】
更に好ましくは、壁体下部の断面を拡大してなる布基礎又は地中梁が、壁体下部に形成される。布基礎又は地中梁は、壁体に沿って連続し、支柱は、布基礎又は地中梁を垂直に貫通する。
【0023】
好適には、上記スペーサは、上記支柱に固着した鋼材からなる。高地盤の土圧は、矢板及びスペーサ用鋼材を介して、少なくとも部分的に支柱に伝達し、支柱によって支持される。支柱は、地盤側圧を支持する矢板の支保工として機能するので、矢板のための支保工の施工を省略し又は簡略化することができる。所望により、鉄筋挿通孔がスペーサ用鋼材又は支柱鋼管に形成され、壁体の配筋を構成する鉄筋は、鋼材又は支柱の鉄筋挿通孔を貫通する。
【0024】
好ましくは、鋼管の直径は、コンクリート充填時の施工性を考慮し、150mm以上の寸法に設定される。好適には、壁体の壁厚は、200mm以上の寸法に設定される。構造計算上、壁体の壁厚に比べて鋼管の直径が過大な場合には、鋼管を埋設する壁体部分の断面を局所的に拡大しても良い。
【実施例1】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の擁壁の基本構成を示す横断面図であり、図2は、擁壁の側面側及び正面側の部分立面図である。また、図3は、図1のI−I線、II−II線及びIII−III線における断面図である。
【0027】
図1に示す如く、擁壁1は、高地盤HGの地形に相応した平面形態に配置され、左右の端部が高地盤HG側に屈曲している。擁壁1は、高地盤HGを囲み、低地盤LG側への高地盤HGの崩壊又は崩落を阻止する。
【0028】
擁壁1は、壁芯方向に所定間隔を隔てて配置された円形断面の鋼製垂直支柱2と、鉄筋コンクリート構造の壁体3とから構成される。支柱2の上部は、壁体3内に埋設され、支柱2の下部は、地中に貫入する。壁体3の下部は、断面が拡大され、断面拡大部分は、擁壁1の壁芯に沿って壁長方向に延びる鉄筋コンクリート構造の布基礎又は地中梁4(以下、「布基礎等4」という。)を構成する。布基礎等4は、壁体3の基礎を構成するとともに、支柱2を相互連結するように機能する。
【0029】
支柱2、壁体3及び布基礎等4は、高地盤HGの土圧に耐える一体的な土留め壁を構成する。支柱2の下端部は、支持層Sに達する。擁壁1に作用する土圧、地震力等の鉛直荷重及び水平荷重と、擁壁1の自重とは、擁壁1と地盤Gとの間に作用する摩擦力、布基礎等4が接地する地盤Gの地盤耐力、支柱2の地中部分と地盤Gとの摩擦力、更には、支柱2に対する支持層Sの支持力によって支持される。
【0030】
図1に示す如く、擁壁1の屈曲部には、所望により、コンクリート増打ち等のフカシ部5が形成される。図3(C)に示す如く、低地盤LGの地盤面に高低差が生じる場合には、低地盤LGの地盤面に相応するように布基礎等4のレベルを段階的又は連続的に変化させることが望ましい。
【0031】
図4は、擁壁1の断面構造を示す縦断面図、IV−IV線断面図及び支柱部分拡大断面図である。
【0032】
支柱2は、均一な円形断面の鋼管からなり、支柱2の下部(杭部分2a)は、地中に埋入される。支柱2の下端部は、好ましくは、N値10以上の支持層Sに達する。支柱2の下端開口は、円形盲板6によって閉塞される。支柱2の上部(立柱部分2b)は、概ね高地盤Gの地盤面のレベルまで低地盤LGから上方に突出する。支柱2の内部中空域には、コンクリート8が充填される。支柱2を構成する鋼管の直径は、好ましくは、100mm〜300mmの範囲に設定される。コンリクリート充填の施工性を考慮し、鋼管の直径を150mm以上に設定することが望ましい。本例では、鋼管の直径は、約170mmに設定されている。
【0033】
壁体3は、縦横の壁筋3aを配筋した鉄筋コンクリート構造の壁体からなる。壁体3の壁厚は、好ましくは、250mm〜750mmの範囲に設定される。本例では、壁体3の壁厚は、400mmに設定されている。壁筋3aとして、D10〜D25程度の汎用の異形鉄筋が使用され、壁筋間隔は、100mm〜300mm程度に設定される。本例では、壁筋3aとして、D13の異形鉄筋が使用され、壁筋3aの間隔は、250mm に設定されている。壁筋3aを構成する縦筋は、布基礎等4内に延び、布基礎等4のコンクリートに定着する。
【0034】
矢板10が、壁体3の裏面側の土壌に埋め殺される。矢板10は、コンクリート矢板(PC矢板)、木矢板、鋼矢板等の任意の矢板からなる。矢板10は、地盤Gの土留め用面材として使用されるとともに、壁体3及び布基礎4のコンクリート打設用型枠として使用される。所望により、透水マット等を適所に配置しても良い。
【0035】
布基礎等4は、壁芯方向に延びる主筋4aと、主筋4aを囲むスタラップ筋4bとを配筋した鉄筋コンクリート構造の梁型部材からなり、布基礎等4の下面は、捨てコンクリート及び採石等によって整地した掘削地盤面に接地する。主筋4aとして、D13〜D25程度の汎用の異形鉄筋を使用し、スタラップ筋4bとして、D10〜D13程度の汎用の異形鉄筋を使用することができる。本例では、主筋4a及びスタラップ筋4bとして、いずれもD13の異形鉄筋が使用されている。布基礎等4の幅Wは、一般には、400〜1000mm程度に設定され、本例では、500mmに設定されている。布基礎等4の高さDは、一般には、200〜600mm程度に設定され、本例では、250mmに設定されている。
【0036】
かくして、壁体3及び布基礎等4は、一体的な鉄筋コンクリート構造体を構成し、布基礎等4の幅Wは、従来の擁壁におけるフーチングの幅(奥行)と比べ、遥かに小さい寸法に設定される。
【0037】
図5〜図10は、擁壁1の施工方法を示す縦断面図である。
【0038】
図5には、擁壁1の全施工工程が概略的に示されている。
【0039】
図5(A)に示す如く、既存の地盤Gは、高地盤HG及び低地盤LGの間に傾斜地盤MGを有し、傾斜地盤MGは、比較的急勾配の法面(傾斜面)を形成している。オーガ併用の杭打ち機等によって、杭孔が削孔され、鋼管杭15が地盤に圧入される。図6に示すように、鋼管杭15は、その先端部6が支持層Sに若干喰込む位置まで地中に埋入され、垂直な支柱2が土中に形成される。鋼管杭15の杭頭は、その頂面開口を開放した状態で高地盤HGの地盤面から僅かに上方に突出し、或いは、高地盤HGの地盤面と同等のレベルに位置する。鋼管杭15として、図5(A)に示すように先端部に掘削刃(先端スクリュー)16を備えた回転貫入式の埋設杭を使用し、鋼管杭15をパイルドライバ等の重機によって施工しても良い。
【0040】
杭打ち機は、鋼管杭15の外径よりも若干大きい内径を有する杭孔2c(図6に破線で示す)を形成しても良い。これにより、長尺のスペーサ用鋼材20(図5(B))を比較的容易に土中に圧入可能又は挿入可能な脆弱土壌又は間隙が、支柱2廻りに形成される。
【0041】
スペーサ用鋼材20は、図5(B)に示す如く、高地盤HGの地盤面から支柱2に近接して土中に圧入される。更に、山留め用矢板10が、図5(C)に示す如く、支柱2から所定間隔を隔てた位置において高地盤HGの地盤面から地盤Gに圧入される。鋼材20及び矢板10を地盤Gに圧入した状態が図7に示されている。鋼材20には、鉄筋(水平配筋)を挿通可能な複数の円形孔23が予め穿孔されている。なお、図5(B)及び図5(C)には、矢板10を地盤Gに圧入した後に鋼材20を地盤Gに圧入する工程が示されているが、矢板10を地盤Gに圧入した後に鋼材20を地盤Gに圧入しても良い。
【0042】
傾斜地盤MGが低地盤LGの側から掘削され、支柱2、矢板10及び鋼材20は、図5(D)に示すように低地盤LG側に露出する。傾斜地盤MGは、矢板10の土留め効果によって比較的容易に掘削することができる。容易に理解し得るように、擁壁1の施工においては、従来の擁壁施工方法と異なり、フーチング施工のために高地盤HGを大きく掘削することを要しない。
【0043】
図8には、傾斜地盤MGを掘削して矢板10及び鋼材20を露出させた状態が示されている。矢板10及び鋼材20の頂部は、支柱2の頂部から所定寸法だけ上方に突出する。低地盤LGの地盤面は、矢板10及び鋼材20の下端部が低地盤LG側に露出するように溝状に掘削される。矢板10に沿って掘削した溝の底部は、捨てコンクリート及び採石等によって整地される。
【0044】
図9は、鋼材20の構造を部分拡大して示す縦断面図及び横断面図である。
【0045】
鋼材20は、ウェブ部分21及びフランジ部分22を有するCT形鋼材(カットティー形鋼材)からなる。壁筋3a(仮想線で示す)を挿通可能な複数の円形孔23が、所定間隔を隔ててウェブ部分21に穿孔されており、円形孔23の間隔は、壁筋3aの間隔と一致するように設定されている。
【0046】
ウェブ部分21及び支柱2は、スミ肉溶接等の固着手段25によって一体的に接合される。他方、矢板10に接するフランジ部分22の面は、矢板10に作用する土圧Pによって矢板10から受圧するので、矢板10及びフランジ部分22は、実質的に一体化する。所望により、任意の固着手段によって矢板10及びフランジ部分22を一体的に接合しても良い。
【0047】
図10に示す如く、壁体3及び布基礎等4の壁筋3a、主筋4a及びスタラップ筋4bが配筋され、コンクリート工事用の型枠9が低地盤側に建込まれる。水平方向の壁筋(横筋)3aは、鋼材20の円形孔23(図9)に挿通される。所望により、図9に破線で示す如く、コンクリートとの付着強度を増大するスタッド又は垂直リブ等の突出部材27を支柱2に取付け又は形成し、或いは、補強用鉄筋28を垂直又はフープ状に支柱2廻りに配筋しても良い。
【0048】
図5(E)に示すように配筋・型枠の施工が完了した後、流動状態のコンクリート8が支柱2の上方から型枠9及び矢板10の間に流し込まれる。コンクリート8は、型枠9及び矢板10の間に充填されるのみならず、支柱2の頂部開口を介して支柱2内に流入し、支柱2の内部中空域に充填される。
【0049】
コンクリート8の硬化後に型枠9を解体し、掘削土を布基礎等4廻りに埋戻すことにより、図4及び図5(F)に示すように擁壁1が完成する。なお、矢板10は、地盤Gに埋め殺される。
【0050】
図11は、スペーサ用鋼材20の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【0051】
図11に示すスペーサ用鋼材20は、平板状鋼材又は鋼製フラットバーからなり、溶接等の固着手段25によって支柱2に一体的に接合される。壁筋貫通用の円形孔23は、所定間隔を隔てて支柱2の管壁に穿孔される。円形孔23の間隔は、壁筋3aの間隔と一致するように設定される。
【0052】
図12は、スペーサ用鋼材20の他の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【0053】
図12に示すスペーサ用鋼材20は、垂直方向に延びる棒鋼30と、水平方向に延びる等辺山形鋼(アングル形鋼)31とから構成される。棒鋼30は、溶接等の固着手段35によって支柱2に一体的に接合される。山型鋼31は、一方の辺部分が溶接等の固着手段36によって棒鋼30に一体的に接合され、他方の辺部分が、矢板10に接する。
【0054】
山形鋼31は、土圧Pによって矢板10から受圧するので、矢板10及び山形鋼31は、実質的に一体化する。山形鋼31として、50mm×50mm以上の寸法のものを好ましく使用し得る。所望により、任意の固着手段によって矢板10及びフランジ部分22を一体的に接合しても良い。必要に応じて、壁筋3aの縦筋(仮想線で示す)を挿通可能な複数の円形孔33が、所定間隔を隔てて山形鋼31に穿孔される。円形孔33の間隔は、壁筋(縦筋)3aの間隔と一致するように設定される。
【0055】
以上説明した如く、上記構成の擁壁1によれば、擁壁1の自重及び荷重の多くは、支柱2によって支持層Sに伝達することから、従来のような大型フーチングの施工を省略することができ、しかも、施工中の高地盤HGの崩壊は、矢板20の土留め効果によって阻止される。従って、掘削範囲を最小限の範囲に制限し、掘削土、廃土及び埋戻し土の量を削減することができる。壁体3及び布基礎等4は、支柱2を相互連結し、擁壁1の剛性を全体的に向上させるとともに、高地盤HGの土圧に耐える一体的な擁壁として働く。
【0056】
殊に、上記擁壁1においては、擁壁1に作用する水平荷重(土圧及び地震力等)の支持に支持層Sの支持力を利用するので、地震時に地盤の液状化が生じ得る軟弱地盤に本発明の擁壁1を構築した場合、従来の擁壁では達成し得なかった高い耐震性が得られるであろう。
【0057】
また、上記構成の擁壁1によれば、矢板10は、高地盤側のコンクリート型枠を兼ねる。従って、コンクリート8を施工するための高地盤側型枠の施工を省略することができる。かくして、擁壁1の工期を短縮するとともに、工事費をかなり低減することができる。
【0058】
更に、高地盤HGの土圧Pは、矢板10及びスペーサ用鋼材20を介して、少なくとも部分的に支柱2に伝達し、支柱2によって支持される。従って、支柱2は、地盤側圧を支持する矢板10の支保工として機能するので、矢板10のための支保工の施工を省略し又は簡略化することができる。
【0059】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0060】
本発明の擁壁は、直線的な擁壁に限定されるものではなく、湾曲した擁壁や、角度をなして複雑に屈曲する擁壁等の各種形態の擁壁として施工することができる。
【0061】
また、擁壁には、水抜孔等を適所に配設しても良い。
【0062】
更に、上記実施例では、円形断面の鋼管を支柱として使用したが、方形、多角形又は楕円形等の断面の鋼管を上記支柱として使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、崖、急傾斜地又は水路等に施工される擁壁に適用される。本発明の擁壁は、大型フーチングの施工を必要とせず、しかも、施工中の地盤崩壊を矢板の土留め効果によって阻止するので、擁壁の施工性は、大きく改善する。また、本発明によれば、矢板は、コンクリート打設用の高地盤側型枠を兼ねる。従って、本発明は、工期短縮及び工事費低減を図る上で有利である。更に、本発明によれば、従来の擁壁では施工困難であった地盤に垂直な擁壁を施工することが可能となる。加えて、地震時に地盤の液状化が生じ得る軟弱地盤に本発明の擁壁を施工した場合、従来の擁壁では達成し得なかった高い耐震性が得られるので、本発明の有益性は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の擁壁の基本構成を例示する横断面図である。
【図2】図1に示す擁壁の側面側及び正面側の部分立面図である。
【図3】図1のI−I線、II−II線及びIII−III線における断面図である。
【図4】擁壁の断面構造を示す縦断面図、IV−IV線断面図及び支柱部分拡大断面図である。
【図5】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、擁壁の全施工工程が概略的に示されている。
【図6】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、支柱施工工程が示されている。
【図7】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、矢板・スペーサ施工工程が示されている。
【図8】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、掘削工程が示されている。
【図9】スペーサ用鋼材の構造を部分拡大して示す縦断面図及び横断面図である。
【図10】擁壁の施工方法を示す縦断面図であり、配筋・型枠工程が示されている。
【図11】スペーサ用鋼材の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【図12】スペーサ用鋼材の他の変形例を示す縦断面図及び横断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 擁壁
2 支柱
3 壁体
4 布基礎等(布基礎又は地中梁)
2a 杭部分
2b 立柱部分
10 矢板
20 スペーサ用鋼材
HG 高地盤
LG 低地盤
MG 傾斜地盤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁において、
所定の耐力を有する地盤の支持層に支持された杭部分と、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分とを一体化した中空の鋼製支柱と、
該鋼製支柱の高地盤側に埋入し且つコンクリート打設用型枠として使用される矢板と、
前記支柱及び矢板の間の間隔を保持するように前記鋼製支柱と前記矢板との間に介挿したスペーサと、
複数の前記立柱部分及び前記スペーサを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体とを備え、
前記支柱は、擁壁の壁芯方向に間隔を隔てて配置されたことを特徴とする擁壁。
【請求項2】
前記支柱の内部中空域にコンクリートを充填したことを特徴とする請求項1に記載の擁壁。
【請求項3】
前記スペーサは、前記支柱に固着した鋼材からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の擁壁。
【請求項4】
前記壁体の下部は、布基礎又は地中梁を構成し、該布基礎又は地中梁は、前記壁体に沿って連続し、前記支柱は、前記布基礎又は地中梁を貫通することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の擁壁。
【請求項5】
高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁の施工方法において、
壁芯方向に間隔を隔てて複数の鋼管を前記高地盤に埋入し、前記鋼管の下端部を地盤の支持層に到達せしめ、前記鋼管によって複数の中空支柱を形成する支柱施工工程と、
コンクリート打設用型枠として使用可能な矢板と、支柱及び矢板の間の間隔を保持するスペーサ用鋼材とを前記支柱の近傍で前記高地盤に埋入する矢板・スペーサ施工工程と、
前記矢板の低地盤側の土壌を撤去し、前記擁壁の壁体の配筋を施工するとともに、前記支柱の低地盤側に型枠を建込む配筋・型枠工程と、
前記型枠の上部から前記矢板及び型枠の間にコンクリートを打設し、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分と前記スペーサ用鋼材とを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体を構築するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする擁壁の施工方法。
【請求項6】
前記コンクリート打設工程において前記矢板及び型枠の間にコンクリートを打設するとき、前記支柱の内部中空域にコンクリートを同時に充填することを特徴とする請求項5に記載の施工方法。
【請求項7】
前記スペーサ用鋼材又は前記鋼管は、壁体の配筋を構成する鉄筋が前記鋼材又は鋼管を貫通するための鉄筋挿通孔を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の施工方法。
【請求項1】
高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁において、
所定の耐力を有する地盤の支持層に支持された杭部分と、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分とを一体化した中空の鋼製支柱と、
該鋼製支柱の高地盤側に埋入し且つコンクリート打設用型枠として使用される矢板と、
前記支柱及び矢板の間の間隔を保持するように前記鋼製支柱と前記矢板との間に介挿したスペーサと、
複数の前記立柱部分及び前記スペーサを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体とを備え、
前記支柱は、擁壁の壁芯方向に間隔を隔てて配置されたことを特徴とする擁壁。
【請求項2】
前記支柱の内部中空域にコンクリートを充填したことを特徴とする請求項1に記載の擁壁。
【請求項3】
前記スペーサは、前記支柱に固着した鋼材からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の擁壁。
【請求項4】
前記壁体の下部は、布基礎又は地中梁を構成し、該布基礎又は地中梁は、前記壁体に沿って連続し、前記支柱は、前記布基礎又は地中梁を貫通することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の擁壁。
【請求項5】
高地盤の土圧を支持し、高地盤の崩壊を阻止する擁壁の施工方法において、
壁芯方向に間隔を隔てて複数の鋼管を前記高地盤に埋入し、前記鋼管の下端部を地盤の支持層に到達せしめ、前記鋼管によって複数の中空支柱を形成する支柱施工工程と、
コンクリート打設用型枠として使用可能な矢板と、支柱及び矢板の間の間隔を保持するスペーサ用鋼材とを前記支柱の近傍で前記高地盤に埋入する矢板・スペーサ施工工程と、
前記矢板の低地盤側の土壌を撤去し、前記擁壁の壁体の配筋を施工するとともに、前記支柱の低地盤側に型枠を建込む配筋・型枠工程と、
前記型枠の上部から前記矢板及び型枠の間にコンクリートを打設し、低地盤の地盤面から上方に延びる立柱部分と前記スペーサ用鋼材とを埋め込んだ鉄筋コンクリート構造の壁体を構築するコンクリート打設工程とを有することを特徴とする擁壁の施工方法。
【請求項6】
前記コンクリート打設工程において前記矢板及び型枠の間にコンクリートを打設するとき、前記支柱の内部中空域にコンクリートを同時に充填することを特徴とする請求項5に記載の施工方法。
【請求項7】
前記スペーサ用鋼材又は前記鋼管は、壁体の配筋を構成する鉄筋が前記鋼材又は鋼管を貫通するための鉄筋挿通孔を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の施工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−308876(P2007−308876A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136071(P2006−136071)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(505132792)有限会社カヌカデザイン (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(505132792)有限会社カヌカデザイン (7)
【Fターム(参考)】
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