説明

擁壁

【課題】ブロック単位での移動を容易にすることで補修作業を効率よく行えるようにし、壁幅方向に傾斜した地盤に対しても簡単に設置可能にする。
【解決手段】擁壁10は、コンクリートからなるパネル形ブロック12およびキューブ形ブロックとを備える。キューブ形ブロック13の左右側面には、パネル形ブロック12の厚さよりも僅かに広い溝幅をもって高さ方向に延び左凹溝13Lおよび右凹溝13Rがそれぞれ形成される。一対のキューブ形ブロック13の間にパネル形ブロック12を支持するとき、パネル形ブロック12の左側に2以上積み上げられたキューブ形ブロック13の右凹溝13Rにパネル形ブロック12の左側端が着脱可能に嵌め込まれる一方、パネル形ブロック12の右側に2以上積み上げられたキューブ形ブロック13の左凹溝13Lにパネル形ブロック12の右側端が着脱可能に嵌め込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリートブロックからなる擁壁に関し、詳しくは、コンクリートブロックの積み上げ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農地や宅地などの傾斜地を階段状に造成する場合、段差上部の土砂の崩落を防止するために擁壁が用いられる。例えば図11に示すように、この種の擁壁1は、コンクリートからなるキューブ形ブロック2を積み上げて形成される。キューブ形ブロック2は、概ね直方体状で、その寸法は高さ1m、幅1m、奥行き50cm程度に設定される。図11でキューブ形ブロック2の正面側には2箇所の凹部が設けられ、これらの凹部に鉄筋からなるフックFが埋め込まれる。
【0003】
擁壁1を設置する場合、基礎となる地盤に1段目のキューブ形ブロック2を並べ、次いで、この1段目のキューブ形ブロック2の上に2段目のキューブ形ブロック2を高さ方向に揃えて積み上げる。各段のキューブ形ブロック2を一列に並べた後、正面側に向けられたフックFに補強用の鉄骨材3を鉄筋4等を用いて溶接する。これにより、壁高2m程度、壁厚50cm程度の擁壁1となる。
【0004】
なお、コンクリートブロックを積み上げるタイプの擁壁の先行技術としては、特許文献1、2等が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3817676号公報
【特許文献2】特開平6−108483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の擁壁1は、各キューブ形ブロック2が鉄骨材3で壁幅方向に一体的に連結される構成であるため、ブロック単位での移動が困難となる。このため、壁面にキズや亀裂などの欠陥が生じた場合に、このような欠陥部分のブロックを交換することができず、補修作業に手間がかかることがある。
また、図12に示すように、壁幅方向に傾斜した地盤に擁壁1を設置する場合、鉄骨材3が固定可能な位置に各ブロック2を置く必要があり、地盤の基礎工事が煩雑になってしまう。凸凹な傾斜面などでは鉄骨材3の取付けができないために擁壁1を設置することができないことも起こりうる。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みなされたもので、ブロック単位での移動を容易にすることで補修作業を効率よく行えるようにし、しかも、壁幅方向に傾斜した地盤に対しても簡単に設置することを可能にした擁壁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[第1発明]
前記課題を解決するために本発明の擁壁は、以下の構成を採用することとした。
すなわち、本発明の擁壁は、
ほぼ一定の厚さをもって矩形に形成されたコンクリートからなるパネル形ブロックと、
このパネル形ブロックの厚さより大きい高さ・幅・奥行きをもって形成されたコンクリートからなるキューブ形ブロックとを備え、
一対の前記キューブ形ブロックの間に前記パネル形ブロックを起立姿勢に支持するように構成された擁壁であって、
さらに、
前記キューブ形ブロックの左側面の高さ方向に延び、前記パネル形ブロックの厚さよりも僅かに広い溝幅をもって開口する左凹溝と、
前記キューブ形ブロックの右側面の高さ方向に延び、前記パネル形ブロックの厚さよりも僅かに広い溝幅をもって開口する右凹溝とを備え、
一対の前記キューブ形ブロックの間に前記パネル形ブロックを支持するとき、同パネル形ブロックの左側に2以上積み上げられた前記キューブ形ブロックの前記右凹溝に同パネル形ブロックの左側端が着脱可能に嵌め込まれる一方、同パネル形ブロックの右側に2以上積み上げられた前記キューブ形ブロックの前記左凹溝に同パネル形ブロックの右側端が着脱可能に嵌め込まれる構成とした。
【0009】
このような構成によれば、キューブ形ブロックの高さ方向に連なる凹溝(左凹溝および右凹溝)にパネル形ブロックの左右側端が嵌まることにより、各ブロック間の前後左右のズレが防止される。これにより、補強用の鉄骨材で各ブロックを連結しなくとも擁壁の耐久性を十分に確保することができる。
加えて、キューブ形ブロックまたはパネル形ブロックのいずれについても、水平に保って吊り上げることで、キューブ形ブロックの凹溝(左凹溝および右凹溝)からパネル形ブロックの左右側端を抜き出してブロック単位で移動することが可能となる。この結果、キズや亀裂などの欠陥部分をブロック単位で交換することができ、補修作業を効率よく行うことが可能になる。
【0010】
また、壁幅方向に傾斜した地盤に擁壁を設置する場合には、キューブ形ブロックの凹溝(左凹溝および右凹溝)に沿ってパネル形ブロックの高さ位置をズラしながら各ブロックを階段状に連結することができる。補強用の鉄骨材を取り付けるために隣り合うブロック間の傾斜や段差を均一にする必要はなく、ブロック毎にその基礎部分を水平にしていけばよい。これにより、凸凹に傾斜した地盤であっても簡単な基礎工事により擁壁を設置することができる。
【0011】
さらに、本発明の構成では、パネル形ブロックの軽量化が容易な上に、キューブ形ブロックの高さを抑えて軽量化を図ることができるため、各ブロックの運搬や積み上げなどの取り扱いを容易にすることもできる。
【0012】
[第2発明]
第2発明の擁壁は、前記パネル形ブロックおよび前記キューブ形ブロックを形成するコンクリート材料に、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等の破砕物を分級して得られる増量材が配合される構成とした。
【0013】
このような構成によれば、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等の廃棄物をコンクリート材料として再利用することができ、資源の有効利用に役立つ。
また、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等の破砕物を分級して得られる増量材は、骨材として機能するため、本来のコンクリート材料である砂(細骨材)や砂利(粗骨材)の配合量を減らすことができる。この結果、擁壁の製造コストを抑えることが可能となる。
【0014】
なお、「がれき類」には、工作物の新築、改築または除去により生じたコンクリート破片、アスファルト破片等が含まれる。
「ガラスくず」、「コンクリートくず」および「陶磁器くず」には、ガラス類(板ガラス等)、製品の製造過程等で生じるコンクリートくず、インターロックキングブロックくず、レンガくず、廃石膏ボード、セメントくず、モルタルくず、スレートくず、陶磁器くずが含まれる。
【0015】
前記増量材の製法としては、例えば分級選別機を用いてがれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等の破砕物の大きさを揃える。具体的には、粒径9mm未満の粒子を細骨材とし、粒径9mmを超えるものを粗骨材として利用する。もちろん必要に応じて細骨材または粗骨材の粒径を変更することもできる。
【0016】
分級選別機には篩い機と送風機とを組み合わせたものを使用することができる。この場合、まず、コンベア等を用いて破砕物を篩い機に送り、一定の粒径以下のものを下方に落下させて細骨材として回収する。篩い機で回収されなかった破砕物は、送風機で細かな塵やゴミを吹き飛ばして取り除いた上で粗骨材として回収する。
このように分級選別機を用いて粒径を選別することにより、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等からなる破砕物を細骨材と粗骨材とに分けて有効利用することができる。
【0017】
[第3発明]
第3発明の擁壁は、第1発明または第2発明の構成において、前記パネル形ブロックおよび前記キューブ形ブロックがそれぞれ2以上高さ方向に積み上げられており、かつ、壁幅方向に隣り合うブロック間で積み上げ面の高さが全て異なる高さになるように設定される構成とした。
【0018】
第1発明の構成において、擁壁の高さを十分に確保するには、パネル形ブロックおよびキューブ形ブロックの積み上げ数を増やすことで対応することができる。しかしながら、パネル形ブロックおよびキューブ形ブロックの積み上げ数を増やす場合、壁幅方向に隣り合うブロック間で積み上げ面の高さが一致すると、このような部分に前後方向の負荷に対してせん断応力が集中し、壁面の耐久性が低下するおそれがある。
【0019】
第3発明の構成によれば、壁幅方向に隣り合うブロック間で積み上げ面の高さが全て異なる高さに設定されるため、前後方向の負荷に対して特定の積み上げ部分にせん断応力が集中するのを回避することができる。この結果、積み上げ数を増やして擁壁を高くしても、各ブロックの積み上げ状態を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態による擁壁の概略構成を示す斜視図である。
【図2】同擁壁を示すもので、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【図3】同擁壁のパネル形ブロックを示すもので、(A)は斜視図、(B)は背面図である。
【図4】同擁壁のキューブ形ブロックを示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は右側面図である。
【図5】同擁壁の一列に並べた使用状態を示す正面図である。
【図6】同擁壁を壁幅方向に傾斜する地盤に設置した状態を示す正面図である。
【図7】同擁壁の曲線上に一列に並べた使用状態を示す平面図である。
【図8】本発明の第2実施形態による擁壁を示す正面図である。
【図9】本発明の第3実施形態による擁壁を示す正面図である。
【図10】本発明の第4実施形態による擁壁を示す正面図である。
【図11】従来例による擁壁を示す斜視図である。
【図12】従来例による擁壁を壁幅方向に傾斜する地盤に設置した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
第1実施形態の擁壁10を図1および図2に示した。擁壁10は、農地や宅地などの傾斜地を階段状に造成するのに用いられる。各図の二点鎖線に示すように、造成地の広さに応じて壁幅方向に拡張される。
【0022】
図1および図2に示すように、擁壁10は、主な構成として、コンクリートからなるパネル形ブロック12およびキューブ形ブロック13とを備えている。2段積みのキューブ形ブロック13,13が左右対になって1個のパネル形ブロック12を支持するようになっている。
【0023】
図3に示すように、パネル形ブロック12は、ほぼ均一の厚さで横長矩形に形成される。パネル形ブロック12の高さは、2段積みのキューブ形ブロック13,13よりも若干低くなるように設定されており、その寸法は図3で概ね高さ1m、幅2m、奥行き(壁厚)10〜30cm程度に設定される。
【0024】
パネル形ブロック12の壁面には貫通孔H,Hが形成される。これらの貫通孔H,Hは、ブロック製造時に鉄鋼等からなるパイプ材を型枠内に配置して形成される。貫通孔H,Hの位置は、パネル形ブロック12の重心位置よりもやや上方で左右対称な位置関係にある。クレーン等でパネル形ブロック12を吊り上げる際、貫通孔H,Hにワイヤを通すことでパネル形ブロック12がほぼ水平に保たれる。
【0025】
図3(B)に示すように、パネル形ブロック12の背面には切り欠きK,Kが設けられる。切り欠きK,Kは、ブロック上端から中間付近までほぼ一定の深さで平行線上に延びている。切り欠きK,Kを下にしてパネル形ブロック12を置くと、これらの切り欠きK,Kをフォークリフトの2本の爪が入る。つまり、これらの切り欠き切り欠きK,Kによってパネル形ブロック12の移動時の作業性が高められる。
【0026】
切り欠きK,Kと貫通孔H,Hとの位置関係については、両者が互いに交叉するように配置される。つまり、切り欠きK,Kの途中に貫通孔H,Hが開口する関係にある。これにより、切り欠きK,Kを下にしてパネル形ブロック12を置いた状態で、貫通孔H,Hにワイヤを通して切り欠きK,Kから取り出し、クレーン等で吊り上げることが可能になる。
【0027】
図4に示すように、キューブ形ブロック13は、直方体の角部を面取りした形状になっている。ブロック幅および奥行きは概ね1m程度に設定される。キューブ形ブロック13を2段積みにしたときの高さは、パネル形ブロック12の高さを超えるように設定される。
【0028】
キューブ形ブロック13の左右側面には、それぞれ左凹溝13Lと右凹溝Rが高さ方向に延びる。これらの凹溝は、キューブ形ブロック13の上端から下端まで一定の深さを保って平行に連なっている。左凹溝13Lおよび右凹溝13Rの溝幅は共に等しく、パネル形ブロックの厚さよりも若干広い。
【0029】
左凹溝13Lおよび右凹溝13Rの溝壁には、外側に溝幅が拡大するように傾斜する逃し面13aが設けられている。これらの逃し面13aは、各溝内にパネル形ブロックの左右側端を嵌める際に溝壁との干渉を少なくする。また、後述するように、パネル形ブロック12とキューブ形ブロック13を曲線状に並べるときに(図7参照)、両ブロックの連結部に角度を付けやすくする役割を果たす。
【0030】
キューブ形ブロック13の上端面には、前後に並んだ矩形の凹部に鉄筋等からなるフックF,Fが埋め込まれる。これらのフックF,Fは、キューブ形ブロック13の上端面よりも低い位置にあり、ブロック積み上げの際に邪魔になることはない。キューブ形ブロック13を移動する場合、これらのフックF,Fにワイヤを引っ掛けてクレーン等で吊り下げる。これにより、キューブ形ブロック13の積み上げ等の作業性が高められる。
なお、図4において、キューブ形ブロック13の底面は、図4(A)の正面図から2個の凹部およびフックF,Fを省略した図と上下対称に表れる。キューブ形ブロック13の左側面は、図4(C)の右側面と左右対称に表れる。
【0031】
パネル形ブロック12およびキューブ形ブロック13を形成するコンクリート材料には、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等の破砕物を分級して得られる増量材が配合される。粉砕物のうち、粒径9mm未満のものは細骨材、粒径9mmを超えるものは粗骨材として砂および砂利に混ぜて使用される。これらの増量材の配合量は、ブロック強度を十分に維持することができれば特に限定されない。増量材の品質が優れる場合には砂および砂利を省くことも可能である。
【0032】
このようにコンクリート材料に、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等からなる増量材を配合することで、廃材の再利用を図ることができる。コンクリート材料としての砂(細骨材)や砂利(粗骨材)の使用量を減らすことができ、パネル形ブロック12の製造コストを抑えることができる。
【0033】
擁壁10を設置する場合、例えばまず、基礎となる地盤に1番目のキューブ形ブロック13,13を前後の向きを揃えて積み上げる。これらの2段積みのキューブ形ブロック13,13の右側にパネル形ブロック12を起立姿勢で並べ、同ブロック13,13の高さ方向に連なる右凹溝13Rにパネル形ブロック12の左端を嵌める。その後、このパネル形ブロック12の右側に2番目のキューブ形ブロック13,13を前後の向きを揃えて積み上げ、これらの左凹溝13Lにパネル形ブロック12の右側端を嵌める。このように2段積みのキューブ形ブロック13,13の左右一対の間で左凹溝13Lおよび右凹溝13Rにパネル形ブロック12の左右側端が嵌まることにより、各ブロック間の前後左右のズレが防止される。これにより、補強用の鉄骨材等で各ブロックを連結しなくても、擁壁10の耐久性を十分に確保することができる。
【0034】
擁壁10を壁幅方向に拡張する場合には、2段積みのキューブ形ブロック13,13の左右に同様な手順でパネル形ブロック12を連結していき、図5に示すように、パネル形ブロック12とキューブ形ブロック13,13とを壁幅方向に交互に並べる。
このように擁壁10を必要な長さに拡張した後、その片側に盛り土を行って段差の造成を完了する。
【0035】
擁壁10の設置後に、パネル形ブロック12またはキューブ形ブロック13を移動する場合には、クレーン等で必要なブロックを吊り上げる。パネル形ブロック12を吊り上げるときには貫通孔H,Hにワイヤを通し、キューブ形ブロック13を吊り上げるときにはフックF,F(図1参照)にワイヤを通す。こうすることで、各ブロックをほぼ水平に保ちながらキューブ形ブロック13の凹溝(左凹溝13Lおよび右凹溝13R)からパネル形ブロック12の左右側端を抜き出すことができる。
パネル形ブロック12またはキューブ形ブロック13を元に戻す場合は、必要なブロックをクレーン等で吊り上げ、前述と逆の手順でブロック間の空いたスペースに上方から落とし込む。
【0036】
壁幅方向に傾斜する地盤に擁壁10を設置する場合には、図6に示すように、パネル形ブロック12とキューブ形ブロック13とを壁幅方向に階段状に並べる。このとき、各ブロック毎に地盤を水平にならして交互に並べ、キューブ形ブロック13,13の各凹溝(右凹溝13Rまたは左凹溝13L)にパネル形ブロック12の左右いずれかの側端を嵌める。各ブロック間に段差が生じても、隣り合うブロック同士が互いに支持し合うため、擁壁10が倒れることはない。
【0037】
このように擁壁10によれば、パネル形ブロック12またはキューブ形ブロック13を上方に抜き出してブロック単位で移動することができる。この結果、キズや亀裂などの欠陥部分をブロック単位で交換し、その補修作業を効率よく行うことができる。土砂崩れなどで崩壊した擁壁10を修理する場合にも、パネル形ブロック12またはキューブ形ブロック13をブロック単位で撤去または移動し、その復旧の作業を迅速に行うことが可能となる。
また、上段のキューブ形ブロック13のうち、特定箇所を取り除いて植栽用の空間(窓枠)として利用してもよい。このように擁壁10の一部をブロック単位で取り扱うことで、種々の用途に対応することができる。
【0038】
また、擁壁10では、壁幅方向に傾斜する地盤に簡単な基礎工事でパネル形ブロック12とキューブ形ブロック13とをブロック毎に連結することができる。図6に示すような傾斜が一様ではない地盤であっても、同様に対応することでき、従来に比べ幅広い形状の地盤に擁壁10を設置することが可能となる。凸凹な傾斜面であっても同様である。
さらに、擁壁10では、パネル形ブロック12の厚さよりもキューブ形ブロック13の左右の凹溝(左凹溝13Lおよび右凹溝13R)の溝幅が広くとられているため、各溝の隙間の範囲内で角度を付けて各ブロックを連結することもできる(図7参照)。これにより、上方から見て曲線状の段差を造成するといった使い方にも対応することができる。
【0039】
さらに、擁壁10では、パネル形ブロック12とキューブ形ブロック13の重量を抑えて軽量化を図ることができるため、各ブロックの運搬や積み上げなどの取り扱いを容易にすることもできる。
【0040】
次に、第2実施形態の擁壁を図8に示した。第2実施形態の擁壁20は、第1実施形態の擁壁10を2倍の高さに積み上げたものである。
図8に示すように、擁壁20では、パネル形ブロック12が2段に積み上げられ、キューブ形ブロック13が4段に積み上げられる。4段積みのキューブ形ブロック13の左右側面に右凹溝13Rおよび左凹溝13Lが高さ方向に連なる。そして、4段積み一対のキューブ形ブロック13の右凹溝13Rと左凹溝13Lに2段積みのパネル形ブロック12の左右の側端が嵌る。
【0041】
第2実施形態の擁壁20では、2段積みのパネル形ブロック12と、4段積みのキューブ形ブロック13とのすべての積み上げ面Sに段差が生じるようになっている。つまり、隣り合うブロック同士で積み上げ面の高さが一致することはない。これにより、擁壁20の前後方向に負荷がかかったとき、特定の積み上げ部分にせん断応力が集中しにくくなり、その積み上げ状態を安定的に保つ。これにより、擁壁20の壁面の耐久性を向上させることができる。
【0042】
第3実施形態の擁壁の図9に示した。第3実施形態の擁壁30は、第2実施形態の擁壁20の変形例であって、キューブ形ブロック13αおよび13βをそれぞれ異なる高さに設定したものである。
図9に示すように、キューブ形ブロック13αは、キューブ形ブロック13βよりも十分に小さい高さ寸法に設定される。同ブロック13αまたは同ブロック13βをそれぞれ2段に積んだ高さは、いずれもパネル形ブロック12の高さ寸法に一致しないように設定される。
【0043】
パネル形ブロック12の左側では、下から2段目までキューブ形ブロック13α,13α、その上から最上段(4段目)までキューブ形ブロック13β,13βが積み上げられる。パネル形ブロック12の右側では、下から2段目までキューブ形ブロック13β,13β、その上から最上段(4段目)までキューブ形ブロック13α,13αが積み上げられる。つまり、パネル形ブロック12の左右両側でキューブ形ブロック13αおよび13βの積み上げ順序を異なるようにしてこれらの積み上げ面Sの高さが同じ位置にならないようにしている。
【0044】
このように第3実施形態の擁壁30によれば、パネル形ブロック12とキューブ形ブロック13αおよび13βとの積み上げ面Sの高さに加え、パネル形ブロック12の左右両側のキューブ形ブロック13αおよび13βの積み上げ面Sの高さにも段差が生じるように設定されるため、擁壁30の前後方向に負荷に対して特定の積み上げ部分にさらにせん断応力が集中しにくくなる。これにより、この結果、擁壁30の壁面の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0045】
第4実施形態の擁壁を図10に示す。図10は、第4実施形態の擁壁40を背面側から見たものである。
図10に示すように、擁壁40は、2段積みのパネル形ブロック12の左右両側にキューブ形ブロック13がそれぞれ4段に積み上げられる。同パネル形ブロック12の左右側端は、それぞれ左側のキューブ形ブロック13の右凹溝13R、および右側のキューブ形ブロック13の左凹溝13Lに嵌る。
【0046】
パネル形ブロック12の背面には、同ブロックの上端から下端まで一定幅で切り欠きK,Kが形成される。これらの切り欠きK,Kは、パネル形ブロック12,12の上下に平行線上に並んで連なる。上下に並んだ切り欠きK,Kには、鋼鉄等からなる帯板41,41が取り付けられる。帯板41,41は、貫通孔Hに重なる部分にボルトナットを通して締め付けることにより、パネル形ブロック12,12に固定される。
【0047】
第4実施形態の構成によれば、2段積みのパネル形ブロック12,12が帯板41,41によって一体的に固定されるため、同ブロックの積み上げ状態をより安定させることができる。また、切り欠きK,Kの末端がパネル形ブロック12の両端面(図10では上下端)に開口するため、フォークリフトでパネル形ブロック12を運搬する際に、2方向からリフト爪を挿入することが可能となり、作業性をさらに良好にすることができる。
【0048】
以上、第1〜4実施形態の擁壁を説明したが、本発明の擁壁は、これらの構成に限定されることなく、種々の変形や変更を伴ってもよい。
例えば第1〜4実施形態において、本発明の効果を損なわない範囲でパネル形ブロック12またはキューブ形ブロック13の一方または両方の積み上げ数を変更してもよい。各ブロックのサイズ(高さ・幅・奥行き)を変更してもよい。
前記第1実施形態では、キューブ形ブロック13の凹溝(左凹溝13Lおよび右凹溝13R)が前寄り(正面側)の位置にあるが、前後の中間位置に凹溝(左凹溝13Lおよび右凹溝13R)を配置してもよい。このような構成では、キューブ形ブロック13が前後左右で対称な形状になるため、積み上げ等の作業性を高めることができる。
また、本発明によるパネル形ブロックおよびキューブ形ブロック13は、擁壁としての用途の他、工場や事業所などの敷地を仕切る間仕切り壁としても用いてもよい。その他、倉庫や車庫の側壁としても使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10・・擁壁 12・・パネル形ブロック 13・・キューブ形ブロック
13a・・逃し面
13L・・左凹溝 13R・・右凹溝
F,F・・フック
H,H・・貫通孔
K,K・・切り欠き
S・・積み上げ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ一定の厚さをもって矩形に形成されたコンクリートからなるパネル形ブロックと、
このパネル形ブロックの厚さより大きい高さ・幅・奥行きをもって形成されたコンクリートからなるキューブ形ブロックとを備え、
一対の前記キューブ形ブロックの間に前記パネル形ブロックを起立姿勢に支持するように構成された擁壁であって、
さらに、
前記キューブ形ブロックの左側面の高さ方向に延び、前記パネル形ブロックの厚さよりも僅かに広い溝幅をもって開口する左凹溝と、
前記キューブ形ブロックの右側面の高さ方向に延び、前記パネル形ブロックの厚さよりも僅かに広い溝幅をもって開口する右凹溝とを備え、
一対の前記キューブ形ブロックの間に前記パネル形ブロックを支持するとき、同パネル形ブロックの左側に2以上積み上げられた前記キューブ形ブロックの前記右凹溝に同パネル形ブロックの左側端が着脱可能に嵌め込まれる一方、同パネル形ブロックの右側に2以上積み上げられた前記キューブ形ブロックの前記左凹溝に同パネル形ブロックの右側端が着脱可能に嵌め込まれることを特徴とする擁壁。
【請求項2】
請求項1記載の擁壁であって、前記パネル形ブロックを形成するコンクリート材料に、がれき類、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず等の破砕物を分級して得られる増量材が配合される、擁壁壁。
【請求項3】
請求項1または2記載の擁壁であって、前記パネル形ブロックおよび前記キューブ形ブロックがそれぞれ2以上高さ方向に積み上げられており、かつ、壁幅方向に隣り合うブロック間で積み上げ面の高さが全て異なる高さになるように設定される、擁壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−108330(P2013−108330A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256307(P2011−256307)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(511213661)株式会社中京再資源 (2)
【出願人】(511213672)株式会社セージツ (2)
【Fターム(参考)】