説明

擬調節可能な眼内メニスカスレンズ

擬調節を可能とする眼内レンズであって、調節性眼内レンズを配置するために構成された触覚組立体と、凸面及び凹面を有するメニスカス形光学部と、を有する眼内レンズ。メニスカス形光学部は、毛様筋が弛緩したときの眼内の非圧縮状態と、毛様筋が収縮したときの眼内の圧縮状態と、を有する。非圧縮状態のメニスカス形光学部の主面は、圧縮状態のメニスカス形光学部の主面の前方にある。メニスカス形光学部の球面収差は、非圧縮状態と比べ、圧縮状態において実質的に異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年1月25日に出願された米国仮出願シリアル番号61/298,096の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は眼内レンズに関する。更に詳細には、本発明は、擬調節可能な眼内メニスカスレンズに関する。
【背景技術】
【0003】
人間の眼は、角膜と呼ばれる透明な球状の前部を有した、強膜と呼ばれる外壁で画成される略球状体である。人間の眼の水晶体は、角膜の後ろにある略球状体の内部に位置し、水晶体嚢で覆われている。虹彩は、水晶体と角膜との間に位置し、眼を虹彩の前の前房と、虹彩の後ろの後房と、に分ける。瞳孔と呼ばれる虹彩の中央の開口部は、水晶体に到達する光の量を調節する。光は、角膜及びレンズによって屈折させられ、眼の後部の網膜へと届けられる。水晶体は両凸状であり、薄い水晶体嚢に囲まれた透明性の高い構造である。水晶体嚢は、その外周を、毛様筋と連結した小帯と呼ばれる提靱帯によって支持されている。「調節」として知られる行程内で、毛様筋によって小帯を引っ張ったり解放したりすることにより、水晶体嚢及び水晶体の形状を変化させ、水晶体の焦点距離が変化する。小帯の直前の、毛様筋と虹彩との間は、毛様溝と呼ばれる領域である。
【0004】
白内障状態は、水晶体の物質が白濁したときに生じ、それによって光の通過が遮られる。この状態を治療するためには、嚢内摘出、嚢外摘出、及び水晶体超音波乳化吸引として知られる3つの外科手術形式のいずれかが概して施される。嚢内白内障摘出において、水晶体嚢の外周全体の小帯は切断され、こうして水晶体嚢を含む全体の水晶体構造体が取り除かれる。嚢外白内障摘出及び水晶体超音波乳化吸引において、小帯と同様に、透明な後部の水晶体嚢の壁を、その外周部において、眼内の所定の位置に残したままで、水晶体嚢内の白濁物質のみが取り除かれる。
【0005】
嚢内摘出、嚢外摘出及び水晶体超音波乳化吸引は、白内障状態による、光の遮断物を排除する。しかしながら、眼に入る光は、その後、水晶体の欠如のため焦点が合わなくなる。コンタクトレンズを眼の外部表面に装着することができるが、コンタクトレンズを外したときに患者は実質的に有効な視力を有しないため、この手法は不利である。好適な別の手段は、眼内レンズ(IOL)として知られる人工水晶体を直接眼内に挿入することである。概して眼内レンズは、ディスク形状の、透明な光学レンズと、触覚と呼ばれる二つの曲がった取付けアームとを具備する。レンズは角膜の外周辺りに作られた切開口を通して挿入され、該切開口は、白内障を取り除くために使用された切開口と同じ切開口であってもよい。眼内レンズは、虹彩の前の眼の前房に挿入されてもよく、又は、虹彩の後ろの後房に挿入されてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
眼内レンズを使用する1つの欠点は、概してサイズ及び形状が自然の水晶体と大きく異なるため、レンズの調整行程が、もはや焦点距離を変化させるために機能しない点である。これは、レンズが、近くにある物の鮮明な映像を得ることができないことになり、老眼として知られる状態となる。例えば眼内レンズを前方へ動かすことによって又は毛様筋の収縮及び弛緩に応じた正パワー光学部と負パワー光学部との間の空間を増すことによって、ある程度の擬調節を可能とするために様々な構造が提案された。しかし、これらの装置は、特に、効果的にレンズを収縮包囲するために水晶体嚢が眼内レンズの周りを潰すという点において有効性が疑わしい。従って、新しいレンズに、「調節性眼内レンズ」としても知られる擬調節を可能とするニーズが依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
擬調節を可能とする眼内レンズは、調節性眼内レンズを配置するために構成された触覚組立体と、凸面及び凹面を備えるメニスカス形光学部と、を有する。メニスカス形光学部は、毛様筋が弛緩したときの眼内非圧縮状態と、毛様筋が収縮したときの眼内圧縮状態と、を有する。非圧縮状態のメニスカス形光学部の主面は、圧縮状態のメニスカス形光学部の主面よりも前方にある。メニスカス形光学部の球面収差は、圧縮状態よりも、非圧縮状態において実質的に差が大きい。
【0008】
本発明のより完全な理解及びその利点は、同様の参照番号が同様の構成を示す添付図面と共に以下の説明を参照することによって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】特に本発明に係る実施形態によるメニスカス形眼内レンズ(IOL)を示す。
【図2A】特に本発明に係る実施形態による、図1の光学部が変化した形状を示す。
【図2B】特に本発明に係る実施形態による、図1の光学部が変化した形状を示す。
【図3A】本発明に係る特定の実施形態による、球面収差の変化を表した例示的波面を示す。
【図3B】本発明に係る特定の実施形態による、球面収差の変化を表した例示的波面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示された様々な実施形態は、様々な図面の任意の部分及び関連部分を参照するために通常使用される数字のように図に示されている。ここで使用されているように、「具備する」、「具備している」、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」又は他の任意のその活用形の語は、排他的ではない意味を含むことを意図している。例えば、要素の記載を含む行程、物品又は装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明確に記載されていない他の要素、又は、こうした行程、物品又は装置に本来備わっている他の要素を有してもよい。更に、明確に正反対のことを記載しない限り、「又は(or)」は、論理和を意味し、排他的論理和を意味するものではない。
【0011】
加えて、ここで示されたいかなる例示又は図も、そこで使用された用語に対する何らかの制約、制限又は定義付けとみなされるべきではない。むしろ、これらの例示又は図は、一つの特定の実施形態について記載されており、一例にすぎないものとみなされるべきである。当業者であれば、これらの例示又は図が使用しているいかなる用語も、そこに又は明細書中の他の箇所に、記載され又は記載されていない他の実施形態を包含し、且つ、こうした全ての実施形態は、それらの用語の範囲内に含まれることを意図するものと理解することができる。こうした限定しない例示及び図を示す言語としては、限定するものではないが、「例えば」、「例として」、「例を挙げると」、「一つの実施形態において」がある。
【0012】
図1は、本発明に係る一つの実施形態によるメニスカス形眼内レンズ(IOL)100を示す。メニスカス形状のIOL100は、曲率半径R1を有する前方凸面104と、曲率半径R2を有する後方凹面106と、を備える光学的部分(「光学部」)102を有する。この明細書において、「前方の」及び「後方の」は、それぞれ、IOL100の網膜の反対に面する方向及び網膜に面する方向を意味する。「光学的軸線」は、前後方向に前方面104の中心(頂点)へと横断して延在する軸線を意味する。
【0013】
光学部102は、光を眼の網膜へ透過させることのできる略透明な材質で形成されている。多種多様の生体適合性ポリマー材を含む任意の適切な材料が使用され得る。シリコーン、アクリル、メタクリル酸2ヒドロキシエチル(HEMA)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)及び他の多くの材料を含む適切な材料の例が技術的に公知である。光学部102は、眼組織を光の毒性から守るため、及び/又は、IOL100の視機能を向上させるため、紫外線、青色光又は他の波長を吸収する材料を有してもよい。
【0014】
更にIOL100は、触覚組立体108を有する。触覚組立体108は、IOL100が眼内に配置されるときにIOL100の位置を固定する。本発明108に係る様々な実施形態において、触覚組立体108は、眼の後房の水晶体嚢内又は毛様溝内への配置のために構成されてもよい。1つの実施形態において、触覚組立体108は、光学部102から延在し、ジョイントによって水晶体嚢又は毛様溝と接する遠位部と連結した近位部を備える、多数の触覚アームを有することができる。別の実施形態において、触覚組立体108は、水晶体嚢又は毛様溝と直接連結されたIOL100の、形成された外周を有することができる。
【0015】
眼内に配置されたとき、IOL100は、毛様筋の収縮に応じて形状を変化させることによって、擬調節を可能とする。前方面104の頂点及び外周縁を、他方に対して光学的軸線に平行な方向に動かすため、特に、IOL100の外周縁は、光学的軸線に対して圧縮される。この圧縮は、主面が後方へシフトさせられるため、IOL100の形状係数を変化させ、且つ、IOL100による球面収差が実質的に変化する。光学部102内の形状変化は、図2A及び図2Bに示されている。
【0016】
効果的な視覚的変化は、図3A−3Bに図示された像面の波面によって示され得る。図3Aにおいて、本発明に係る特定の実施形態によるIOL100の例示的波面像が示されている。この例において、瞳孔のサイズは1mmから4mm以内に設定されており、波面は無限遠の光源から波長550nmで送波される。像面の中央ピークは、シャープにフォーカスされた像で図示されており、球面収差のPV値は、0.5波長(RMS値0.135波長)以内である。図3Bは、圧縮されたときの、同じレンズを示す。波面の曲率は、ここでPV値が3波長(RMS値約.905波長)以上の球面収差のイントロダクションを示している。無限遠から140cmまでの対象距離の変化は、角膜面における0.71D、又は、IOL面における0.92Dの屈折率の変化に対応する。概して、無限遠の目的から送波された550nmの波面の少なくとも1波長のPV値の波面における球面収差の変化は、この仕様の目的の実施的変化のために十分なものと考えられる。
【0017】
IOL100のメニスカス形光学部において形状変化を生じるメカニズムは、変化し得る。1つの実施形態において、触覚組立体108は、毛様溝に配置されることができ、且つ毛様筋の収縮から光学部102へと力を伝達することができる。他の実施形態において、触覚組立体108は、毛様筋の弛緩及び収縮に応じて、眼の小帯が、それぞれ緊張又緩和するにつれて水晶体嚢の平坦化又は膨張に応じるように水晶体嚢内に配置され得る。こうした実施形態において、触覚組立体108は、機械的付勢を呈するために形成されてもよく、それによって例えば、触覚組立体108のばねのような反応から水晶体嚢の低減された張力へと形状変化を生じさせることができる。光学部102も同様に、触覚組立体108からの力を減ずるためにばねのような反応を呈する。触覚組立体108は、より良い機械的安定性、及び/又は、より効率的な毛様筋の収縮に対する機械的応答性を提供するため、光学部を湾曲させるように適合されてもよい。概して、光学部102において形状変化を生じさせる任意の機械的構成は、当業者によって本発明に係る様々な実施形態との結合で実施されるものと考えられる。
【0018】
本発明に係る一つの光学部の実施形態を説明してきたが、本発明に係る技術は、複数の光学部及び/又は複数のレンズシステムに適用できるものと理解すべきである。こうして、例えばメニスカス形状のIOL100は、水晶体嚢の両凸のIOLの前方の毛様溝に配置することができる。別の例において、フェイキックIOLは、前房に配置することができ、メニスカス形状のIOL100は、後房に配置することができる。メニスカス形状のIOL100は、こうした組合せにおいて凸面104が前方に面するように適合することもでき、且つ、こうした実施形態において、毛様筋の収縮に応じた形状変化も、光学的効果を一致させるために逆調節され得る。なお、メニスカス形状のIOL100は、いわゆる「逆調節」を可能とするために適合することができ、患者の脳は、毛様筋が収縮したときに距離をおいた像に集中し、且つ、毛様筋が弛緩したときに近くの像に集中するように訓練することができ、こうして調節の逆調節効果が反映される。
【0019】
ここまで実施形態を詳細に説明してきたが、説明は、例示的なものにすぎず、限定的なものだと解釈されるものではないことを理解すべきである。従って、実施形態の詳細についての様々な変形例及び付加的実施形態は、この説明を参照することにより当業者にとって明白であり、製作可能であるということも理解すべきである。全てのこうした変形例及び付加的実施形態は、以下の特許請求の範囲内及びそれらの法的均等物だと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬調節可能な眼内レンズであって、
調節性眼内レンズを配置するように構成された触覚組立体と、
凸面及び凹面を有するメニスカス形光学部と、を具備し、
前記メニスカス形光学部が、毛様筋が弛緩したときの眼内の非圧縮状態と、毛様筋が収縮したときの眼内の圧縮状態と、を有し、前記非圧縮状態の前記メニスカス形光学部の主面は、前記圧縮状態の前記メニスカス形光学部の前記主面の前方にあり、前記メニスカス形光学部の球面収差が、前記非圧縮状態と比べ、前記圧縮状態において実質的に異なる眼内レンズ。
【請求項2】
前方凸面の頂点が、眼の光学的軸線に沿って固定されたまま、前記メニスカス形光学部が前記圧縮状態へと圧縮されたとき、外周縁が、前記光学的軸線に沿って前方移動するように眼内レンズが適合された請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前方凸面の頂点が、眼の光学的軸線に沿って前方に動き、且つ、外周縁が、前記光学的軸線に沿って固定されたままであるように眼内レンズが適合された請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
圧縮状態から非圧縮状態への球面収差の変化が、無限遠からの550nm波面となる請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
圧縮状態から非圧縮状態への屈折率の変化が、0.5D以下である請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
前記触覚組立体が、毛様筋が収縮するときに当該触覚組立体がメニスカス形光学部の外周縁に力を伝達するように、眼の毛様溝へ配置されるように適合された請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記触覚組立体が、眼の水晶体嚢内に配置されるように適合された請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項8】
前記触覚組立体の大きさが、毛様筋が収縮するときに当該触覚組立体がメニスカス形光学部の外周縁に力を伝達するように、眼の毛様筋を収縮するように決められた請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
メニスカス形光学部の光学部領域が、少なくとも径4mmである請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
凸面が眼内レンズの前方側である請求項1に記載の眼内レンズ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2013−517833(P2013−517833A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549992(P2012−549992)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/059924
【国際公開番号】WO2011/090591
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】