説明

支持フィルム

【課題】斜め延伸法によれば、吸収軸がフィルムの幅方向に斜めである偏光膜を得ることができる。しかし薄い偏光フィルムを得ることが難しい。従来の、支持フィルムに液晶化合物を薄膜状に塗布し、液晶化合物を配向させて、薄膜を偏光膜にする製法によれば、薄い偏光膜が容易に得られる。しかし、吸収軸が、支持フィルムの幅方向に斜めの偏光膜を得られない。
【解決手段】支持フィルム11の表面を、2方向に配向処理する。支持フィルム11の表面に、リオトロピック液晶化合物14を含む溶液を塗布する。リオトロピック液晶化合物14のカラム状会合体15は、第一の配向処理方向12と第二の配向処理方向13とのベクトル和方向(配向方向16)に配向する。これにより、吸収軸17が幅方向19と斜めの、薄い偏光膜18を、得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜を支持する支持フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムは、通常、二色性物質を吸着させたフィルムを延伸して、製造される。延伸装置の構造の制限により、延伸方向は、通常、フィルムの長手方向または幅方向である。フィルムを長手方向に延伸したときは、吸収軸が長手方向となり、幅方向に延伸したときは、吸収軸が幅方向になる。いずれの場合も、吸収軸はフィルムの幅方向に平行あるいは垂直となり、吸収軸が幅方向に斜めのものはできない。吸収軸が幅方向に斜めとは、吸収軸が幅方向と平行でも垂直でもない、という意味である。
【0003】
しかし、吸収軸が幅方向に斜めの方が、偏光フィルムの利用率が高い場合がある。そこで、吸収軸が幅方向に斜めの偏光フィルムを得るため、特殊なテンター延伸装置を用いて、斜め延伸する製法が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
このような製法により得られた、吸収軸が幅方向に斜めの偏光フィルムは、打ち抜きの際に廃棄部分が少なく、偏光フィルムの利用率が高い。しかし、従来の斜め延伸法は、延伸時にフィルムが破断しやすいため、薄い(例えば厚み10μmの)偏光フィルムを製造することが難しい。
【0005】
一方、フィルム延伸法とは異なる偏光フィルムの製法として、支持フィルムに液晶化合物を薄膜状に塗布し、液晶化合物を配向させて、薄膜を偏光膜にする製法がある。
【0006】
図2を参照して、この製法を説明する。複数のリオトロピック液晶化合物31は、溶液中で、吸収軸32(分子長軸)を平行にして積み重なり、カラム状会合体33を形成する。
【0007】
溶液中のカラム状会合体33は、支持フィルム35上に薄膜状に塗布されたとき、支持フィルム35の配向処理方向36と、平行に並ぶ性質がある。そのため、カラム状会合体33の配向方向37は、配向処理方向36と平行になる。支持フィルム35の配向処理方向36は、通常、長手方向38なので、カラム状会合体33の配向方向37は、支持フィルム35の長手方向38になる。
【0008】
このとき、リオトロピック液晶化合物31の吸収軸32(分子長軸)は、配向方向37に垂直であるから、支持フィルム35の長手方向38に垂直となる。したがって、吸収軸32は、支持フィルム35の幅方向39と平行になる。
【0009】
偏光膜40は、多数のカラム状会合体33が配向して、薄膜状になったものである。複合フィルム30は、支持フィルム35と偏光膜40を含む積層体である。
【0010】
この製法によれば、薄い(例えば厚み10μm以下の)偏光膜40が容易に得られる。しかし、従来の製法では、吸収軸32が支持フィルム35の幅方向39に斜めであるような偏光膜40を、得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−144838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の斜め延伸法によれば、吸収軸が、フィルムの幅方向に斜めである偏光膜を得ることができる。しかし、延伸時に、フィルムが破断しやすいため、薄い(例えば厚み10μmの)偏光フィルムを得ることが難しい。
【0013】
従来の、支持フィルム35に液晶化合物31を薄膜状に塗布し、液晶化合物31を配向させて、薄膜を偏光膜40にする製法によれば、薄い(例えば厚み10μm以下の)偏光膜40が容易に得られる。しかし、吸収軸32が、支持フィルム35の幅方向39に斜めである偏光膜40を得ることはできない。
【0014】
本発明の目的は、吸収軸が幅方向に斜めで、しかも薄い(例えば厚み10μm以下の)偏光膜を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明は、リオトロピック液晶化合物を含む偏光膜を一主面に支持する支持フィルムである。本発明の支持フィルムは、主面内の同一領域に重複して、この主面内の異なる2方向に配向処理が施される。
(2)本発明の支持フィルムは、2方向の配向処理のなす角度が、30°〜150°である。
(3)本発明の支持フィルムは、2方向のうちの1つの方向が長手方向である。
(4)本発明の支持フィルムは、偏光膜が、フィルムの幅方向に斜めの吸収軸を有する。
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行なった。その成果を、図1を参照して説明する。本発明の製造方法では、まず、支持フィルム11の表面を、異なる2方向に配向処理する。それらを、第一の配向処理方向12および第二の配向処理方向13とする。第一の配向処理方向12と第二の配向処理方向13の、どちらを先に配向処理してもよい。
【0017】
次に、支持フィルム11の表面に、リオトロピック液晶化合物14を含む溶液を塗布する。リオトロピック液晶化合物14は、溶液中でカラム状会合体15を形成する。カラム状会合体15は、第一の配向処理方向12と第二の配向処理方向13とのベクトル和方向(配向方向16)に配向する。リオトロピック液晶化合物14の吸収軸17は、カラム状会合体15の配向方向16に垂直である。
【0018】
カラム状会合体15の、この配向の性質を利用すると、支持フィルム11上に、吸収軸17が幅方向19に斜めの偏光膜18を、形成することができる。吸収軸17は、長手方向20にも斜めである。
【0019】
多数のカラム状会合体15が薄膜状となって、偏光膜18を形成する。本発明の複合フィルム10は、支持フィルム11と偏光膜18とを備えた積層体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法においては、まず、支持フィルム11の表面を、2方向(第一の配向処理方向12および第二の配向処理方向13)に配向処理する。次に、支持フィルム11の表面に、リオトロピック液晶化合物14を含む溶液を塗布する。リオトロピック液晶化合物14のカラム状会合体15は、第一の配向処理方向12と第二の配向処理方向13とのベクトル和方向(配向方向16)に配向する。
【0021】
このようにして、支持フィルム11上に、吸収軸17が幅方向19と斜めの偏光膜18を形成することができる。
【0022】
偏光膜18は、支持フィルム11から剥離して用いることもできる。その場合、従来よりも薄い偏光フィルムとして、種々の光学装置の薄型化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の複合フィルムの模式図
【図2】従来の複合フィルムの模式図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[本発明の製造方法]
本発明は、支持フィルム11上に、支持フィルム11の幅方向19と、異なる方向の吸収軸17を有する偏光膜18が積層された、複合フィルム10の製造方法である。本発明の製造方法は、工程Aと工程Bを含む。
【0025】
工程Aでは、支持フィルム11の表面を、2方向に配向処理する。2方向とは、第一の配向処理方向12および第二の配向処理方向13である。
【0026】
工程Bでは、支持フィルム11の表面に、リオトロピック液晶化合物14を含む溶液を塗布する。リオトロピック液晶化合物14は、溶液中でカラム状会合体15を形成する。カラム状会合体15は、第一の配向処理方向12と第二の配向処理方向13とのベクトル和方向(配向方向16)に配向する。
【0027】
本発明の製造方法は、工程AおよびBのほかに、他の工程を含んでいてもよい。そのような工程として、例えば、工程Bの後、リオトロピック液晶化合物14の配向層(偏光膜18)を乾燥させる工程がある。
【0028】
[工程A]
工程Aでは、支持フィルム11の表面を、2方向に配向処理する。2方向とは、第一の配向処理方向12および第二の配向処理方向13である。
【0029】
支持フィルム11は、偏光膜18を片側から支持する。支持フィルム11の材料は、特に制限はないが、例えば、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。
【0030】
支持フィルム11は単層フィルムでもよいし、単層フィルムの上に、ポリイミドやポリビニルアルコールなどの、高分子膜が塗布された複層フィルムでもよい。支持フィルム11の総厚みは、好ましくは、10μm〜200μmである。
【0031】
配向処理としては、例えば、ラビング処理、斜め蒸着処理、プラズマ処理が挙げられる。これらの配向処理は、例えば、松本正一・角田市良共著「液晶の基礎と応用」(工業調査会、1991年発行)に、解説されている。
【0032】
面内の異なる2方向に配向処理をおこなう方法としては、例えば、以下の方法がある。
(ア)異なる2方向にラビング処理をおこなう。
(イ)斜め蒸着処理をした後、それと異なる方向にラビング処理をおこなう。
(ウ)異なる方向に、それぞれラビング処理された2枚のラビングフィルムを、互いのラビング処理面が対向するように重ね合わせて、一方のラビングフィルムに、他方のラビングフィルムの配向規制力を転写する。
【0033】
支持フィルム11に施す2方向の配向処理を、第一の配向処理(方向12)および第二の配向処理(方向13)としたとき、第一の配向処理12と第二の配向処理13のなす角度θは、30°〜150°が好ましい。
【0034】
[工程B]
工程Bでは、工程Aで得られた支持フィルム11の配向処理表面に、リオトロピック液晶化合物14を含む溶液を塗布して、偏光膜18を形成する。リオトロピック液晶化合物14は、溶液中でカラム状会合体15を形成する。多数のカラム状会合体15が薄膜状となって、偏光膜18を形成する。支持フィルム11と偏光膜18とを備えた積層体が、本発明の複合フィルム10である。
【0035】
本発明において、「リオトロピック液晶化合物」とは、溶媒に溶解して液晶化合物溶液となり、溶液中の濃度変化により、等方相から液晶相へ(またはその逆の)相変化を起こす液晶化合物である。
【0036】
リオトロピック液晶化合物溶液は、等方相状態、あるいは、液晶相状態で、配向処理表面に塗布することによって、一方向に配向させることができる。
【0037】
リオトロピック液晶化合物は、分子長軸(吸収軸17)を横向きにして積み重なることで、カラム状会合体15を形成する。X線回折から求められる、カラム状会合体15の長さL1は、4nm〜9nmであることが好ましい。
【0038】
リオトロピック液晶化合物14は、上記の性質を示すものであれば、特に制限はないが、例えば、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、ペリレン系化合物、キノフタロン系化合物、ナフトキノン系化合物、メロシアニン系化合物が用いられる。
【0039】
本発明に用いられるリオトロピック液晶化合物14として、一般式(1)で表わされるアゾ化合物が好適である。一般式(1)で表わされるアゾ化合物は、溶液中で安定した液晶性を示し、配向性に優れる。
【0040】
【化1】

【0041】
一般式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、または、置換基を有していてもよいフェニル基を表わす。Mは対イオンを表わし、好ましくは、水素原子、アルカリ金属原子、または、アルカリ土類金属原子である。Xは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または、−SOM基を表わす。
【0042】
一般式(1)で表わされるアゾ化合物は、例えば、アニリン誘導体とナフタレンスルホン酸誘導体とを、常法により、ジアゾ化およびカップリング反応させて、モノアゾ化合物としたのち、さらにジアゾ化し、アミノナフトールジスルホン酸誘導体とカップリング反応させて、得ることができる。
【0043】
本発明で用いられる溶液は、リオトロピック液晶化合物14と、それを溶解する溶媒とを含む。リオトロピック液晶化合物14の濃度は、溶液の総重量に対して、1重量%〜15重量%が好ましい。
【0044】
溶液の塗布には、任意のコータが用いられる。前記のコータは、例えば、テンションウェブダイ、スロットダイ、ワイヤーバー、またはカーテンロールを有するコータである。
【0045】
工程Bにより得られる偏光膜18は、リオトロピック液晶化合物14を含み、リオトロピック液晶化合物14のつくるカラム状会合体15が、一方向に配向する。
【0046】
このような偏光膜18は、可視光領域(波長380nm〜780nm)で、吸収二色性を示す。偏光膜18の厚みは、0.1μm〜5μmであることが好ましい。
【0047】
偏光膜18は、溶媒含有率が、50重量%以下になるように乾燥させることが好ましい。この場合の乾燥手段は、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥などである。
【0048】
[複合フィルム]
本発明の製造方法により得られる複合フィルム10は、支持フィルム11と、支持フィルム11の幅方向19に斜め方向の吸収軸17を有する偏光膜18とを備える。複合フィルム10の総厚みは、好ましくは、10μmを超え、250μm以下である。
【実施例】
【0049】
[合成例]
4−ニトロアニリンと、8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを、常法に従って、ジアゾ化およびカップリング反応させ、モノアゾ化合物を得た。「常法」は、細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日 技報堂発行、135ページ〜152ページによる。
【0050】
このモノアゾ化合物を、同様に常法によりジアゾ化し、さらに1−アミノ−8−ナフトール−2,4−ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させて、構造式(2)のアゾ化合物を含む粗生成物を得た。これを塩化リチウムで塩析することにより、構造式(2)のアゾ化合物を得た。
【0051】
【化2】

【0052】
構造式(2)のアゾ化合物を、イオン交換水に溶解させ、20重量%の水溶液を調製した。この水溶液中で、アゾ化合物はカラム状会合体を形成し、室温(23℃)にて、ネマチック液晶相を示す。
【0053】
[実施例]
厚み100μmの、シクロオレフィン系樹脂フィルム(オプテス社製ゼオノア)の表面を、コットン製バフ布(吉川化工社製YA−25−C)で2方向に擦って、ラビング処理を施し、支持フィルムを得た。2方向は、フィルムの幅方向を基準として、左回りに40°および90°である。
【0054】
支持フィルムのラビング処理面に、構造式(2)のアゾ化合物を含む水溶液(濃度7重量%)を塗布し、配向させ、乾燥して、厚み0.5μmの偏光膜を作製した。
【0055】
得られた偏光膜のカラム状会合体の配向方向は、支持フィルムの幅方向を基準として、左回りに65°であった。この方向は、2方向のラビング処理の、ベクトル和方向である。得られた偏光膜の吸収軸は、カラム状会合体の配向方向と垂直であり、左回りに155°であった。
【0056】
[測定方法]
[厚み]
偏光膜の一部を剥離し、三次元非接触表面形状計測システム(菱化システム社製Micromap MM5200)を用いて、段差を測定し、偏光膜の厚みを求めた。
【0057】
[液晶相]
二枚のスライドガラスに、少量のリオトロピック液晶化合物溶液を挟み、顕微鏡用大型試料加熱冷却ステージ(ジャパンハイテック社製10013L)を備えた偏光顕微鏡(オリンパス社製OPTIPHOT−POL)を用いて、液晶相を観察した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の偏光膜および複合フィルムの用途に制限はないが、例えば、液晶テレビ、コンピューターディスプレイ、携帯電話、ゲーム機、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カーナビゲーション、OA機器、FA機器の液晶パネルに、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0059】
10 複合フィルム
11 支持フィルム
12 第一の配向処理方向
13 第二の配向処理方向
14 リオトロピック液晶化合物
15 カラム状会合体
16 配向方向
17 吸収軸
18 偏光膜
19 幅方向
20 長手方向
30 複合フィルム
31 リオトロピック液晶化合物
32 分子長軸
32 吸収軸
33 カラム状会合体
35 支持フィルム
36 配向処理方向
37 配向方向
38 長手方向
39 幅方向
40 偏光膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リオトロピック液晶化合物を含む偏光膜を一主面に支持する支持フィルムであって、
前記主面内の同一領域に重複して、該主面内の異なる2方向に配向処理が施されたことを特徴とする支持フィルム。
【請求項2】
前記2方向のなす角度が、30°〜150°であることを特徴とする、請求項1に記載の支持フィルム。
【請求項3】
前記2方向のうちの1つの方向が長手方向であることを特徴とする、請求項1または2に記載の支持フィルム。
【請求項4】
前記偏光膜が、フィルムの幅方向に斜めの吸収軸を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の支持フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−65023(P2013−65023A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229428(P2012−229428)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【分割の表示】特願2009−165251(P2009−165251)の分割
【原出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】