説明

支援システム及び支援方法

【課題】被験者の歩行動作の改善を簡易な構成でかつ正確に行うこと。
【解決手段】支援システム100は、被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得する床反力データ取得部126と、歩行動作に伴う、少なくとも1つの関節の角度の変化を示す関節角度データ及び当該関節のモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方を含む角度・モーメントデータについて、被験者の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点パターンを、床反力データに基づいて推定する、主成分得点推定部132と、主成分得点推定パターンに基づいて、被験者の歩行動作に関する角度・モーメントデータを推定する、角度・モーメントデータ推定部134と、主成分得点推定パターン及び角度・モーメントデータ推定値に基づいて、被験者の歩行動作を評価する、評価実行部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の歩行動作の改善を支援する支援システム及び支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の生活習慣病の問題や健康へ関心の高まりにより、ウォーキング人口が増加している。すなわち、人々の「歩行」に関する関心が高まってきている。従来においては、歩行動作の評価を行うために歩行動作の様子を計測することが知られているが、例えば特開2008−173250号公報に代表されるように、被験者の歩行動作の評価を行うたびに、歩行動作をモーションキャプチャ等の高価かつ複雑な装置を使用して計測せざるを得ず、人々の「歩行」に関する関心の高まりに反して、歩行動作を評価するための簡易かつ正確なシステムについては普及してはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−173250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、被験者の歩行動作の改善を簡易な構成でかつ正確に行うことができる支援システム及び支援方法を提供することが求められている。
【0005】
よって、本発明の目的は、上記の課題を解決することができる支援システム及び支援方法を提供することを目的とする。この目的は特許請求の範囲における独立項に記載の特徴の組み合わせにより達成される。また従属項は本発明の更なる有利な具体例を規定する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る支援システムは、被験者の歩行動作の改善を支援する支援システムであって、前記被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得する床反力データ取得部と、歩行動作に伴う、少なくとも1つの関節の角度の変化を示す関節角度データ及び当該関節のモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方を含む角度・モーメントデータについて、前記被験者の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点パターンを、前記床反力データに基づいて推定する、主成分得点推定部と、推定された前記主成分得点パターンである主成分得点推定パターンに基づいて、前記被験者の歩行動作に関する前記角度・モーメントデータを推定する、角度・モーメントデータ推定部と、前記主成分得点推定パターン及び推定された前記角度・モーメントデータである角度・モーメントデータ推定値に基づいて、前記被験者の歩行動作を評価する、評価実行部とを備える。
【0007】
上記構成によれば、被験者の歩行動作に関する主成分得点パターンを床反力データに基づいて推定し、被験者の歩行動作に関する角度・モーメントデータを推定し、これらに基づいて被験者の歩行動作の評価を行うので、非常に簡易な構成で被験者の歩行動作を評価することができる。また、主成分得点及び角度・モーメントデータという異なる観点から評価するので、被験者の歩行動作をより正確に評価することができる。よって、被験者の歩行動作の改善を簡易な構成でかつ正確に行うことができる。
【0008】
上記支援システムにおいて、前記主成分得点推定パターンを算出するための第1の推定式を予め格納する第1の推定式格納部をさらに備え、前記主成分得点推定部は、前記第1の推定式格納部から前記第1の推定式を読み出して、前記床反力データに基づいて前記主成分得点推定パターンを算出してもよい。
【0009】
上記支援システムにおいて、前記角度・モーメントデータ推定値を算出するための第2の推定式を予め格納する第2の推定式格納部をさらに備え、前記角度・モーメントデータ推定部は、前記第2の推定式格納部から前記第2の推定式を読み出して、前記主成分得点推定パターンに基づいて前記角度・モーメントデータ推定値を算出してもよい。
【0010】
上記支援システムにおいて、前記角度・モーメントデータについて、標本の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点標本パターンを取得する主成分得点標本パターン取得部をさらに備え、前記評価実行部は、前記主成分得点推定パターンと前記主成分得点標本パターンとを比較する主成分得点比較部を備えてもよい。
【0011】
上記支援システムにおいて、前記主成分得点標本パターンに対応する、前記標本の歩行動作に関する前記角度・モーメントデータを、角度・モーメントデータ標本値として取得する角度・モーメントデータ標本値取得部をさらに備え、前記評価実行部は、前記角度・モーメントデータ推定値と前記角度・モーメントデータ標本値とを比較する角度・モーメントデータ比較部をさらに備えてもよい。
【0012】
上記支援システムにおいて、前記角度・モーメントデータ比較部は、前記角度・モーメントデータ推定値と前記角度・モーメントデータ標本値との間の距離及び連関測度の少なくとも一方に基づいて、前記角度・モーメントデータ推定値と前記角度・モーメントデータ標本値とを比較してもよい。
【0013】
上記支援システムにおいて、前記主成分得点推定パターン及び前記角度・モーメントデータ推定値に基づいて、前記被験者の歩行動作について、総合指標推定値を算出する総合指標推定値算出部と、前記主成分得点標本パターン及び前記角度・モーメントデータ標本値に基づいて、前記標本の歩行動作について、総合指標標本値を算出する総合指標標本値算出部とをさらに備え、前記評価実行部は、前記総合指標推定値と前記総合指標標本値とを比較する総合指標比較部をさらに備えてもよい。
【0014】
上記支援システムにおいて、前記評価実行部は、前記主成分得点比較部、前記角度・モーメント比較部及び前記総合指標比較部の少なくとも1つによる比較結果に基づいて、評価指標値を算出する評価指標値算出部をさらに備えてもよい。
【0015】
上記支援システムにおいて、前記主成分得点推定パターン及び前記主成分得点標本パターンは、前記被験者の歩行動作を特徴付ける項目である歩行特徴項目に基づいて決定されてもよい。
【0016】
上記支援システムにおいて、前記評価指標値算出部は、前記歩行特徴項目について、前記標本の歩行動作に対する前記被験者の歩行動作の類似度を、前記評価指標値として算出してもよい。
【0017】
上記支援システムにおいて、前記評価実行部は、複数の前記歩行特徴項目について前記被験者の歩行動作を評価してもよい。
【0018】
上記支援システムにおいて、前記評価指標値算出部は、前記複数の歩行特徴項目から、前記類似度が最大である歩行特徴項目及び前記類似度が最小である歩行特徴項目の少なくとも一方を、前記評価指標値として算出してもよい。
【0019】
上記支援システムにおいて、前記評価指標値算出部は、前記複数の歩行特徴項目のそれぞれの前記類似度の比率を算出してもよい。
【0020】
上記支援システムにおいて、前記被験者の歩行動作についてアドバイスを提供するアドバイス提供部をさらに備えてもよい。
【0021】
上記支援システムにおいて、前記歩行特徴項目と、前記被験者の歩行動作に関する変更対象を示す変更対象項目とが予め対応付けられた変更対象項目データベースをさらに備え、前記アドバイス提供部は、前記評価実行部の評価結果及び前記変更対象項目データベースに基づいて、前記アドバイスを提供してもよい。
【0022】
上記支援システムにおいて、前記変更対象項目と、前記被験者の歩行動作に関するアドバイスを示すアドバイス候補とが予め対応付けられたアドバイス候補データベースをさらに備え、前記アドバイス提供部は、前記評価実行部の評価結果、前記変更対象項目データベース及び前記アドバイス候補データベースに基づいて、前記アドバイスを提供してもよい。
【0023】
上記支援システムにおいて、前記アドバイス提供部は、予め決められた優先順位に基づいて前記変更対象項目及び前記アドバイス候補を決定することを含んでもよい。
【0024】
上記支援システムにおいて、前記アドバイス提供部は、前記評価実行部の評価結果によって決められた優先順位に基づいて前記変更対象項目及び前記アドバイス候補を決定することを含んでもよい。
【0025】
上記支援システムにおいて、前記被験者の属性データを取得する属性データ取得部をさらに備え、前記評価実行部は、前記属性データに基づいて、前記被験者の歩行動作を評価してもよい。
【0026】
上記支援システムにおいて、前記被験者の歩行動作によって得られたデータを格納する被験者データベースをさらに備えてもよい。
【0027】
上記支援システムにおいて、前記角度・モーメントデータは、前記関節角度データ及び前記関節モーメントデータを含んでもよい。
【0028】
上記支援システムにおいて、前記角度・モーメントデータは、前記被験者の股関節、膝関節及び足首関節の少なくとも1つの関節についてのデータであってもよい。
【0029】
上記支援システムにおいて、前記床反力データは、前記被験者が歩行動作を行う歩行誘導装置に設けられたセンサの検出結果に基づいて得られてもよい。
【0030】
上記支援システムにおいて、前記床反力データ取得部は、前記床反力データを通信ネットワークを介して取得してもよい。
【0031】
本発明の一態様に係る支援方法は、被験者の歩行動作の改善を支援する支援方法であって、前記被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得するステップと、歩行動作に伴う、少なくとも1つの関節の角度の変化を示す関節角度データ及び当該関節のモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方を含む角度・モーメントデータについて、前記被験者の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点推定パターンを、前記床反力データに基づいて推定するステップと、推定された前記主成分得点パターンである主成分得点推定パターンに基づいて、前記被験者の歩行動作に関する前記角度・モーメントデータを推定するステップと、前記主成分得点推定パターン及び推定された前記角度・モーメントデータである角度・モーメントデータ推定値に基づいて、前記被験者の歩行動作を評価するステップとを含む。
【0032】
上記構成によれば、被験者の歩行動作に関する主成分得点パターンを床反力データに基づいて推定し、被験者の歩行動作に関する角度・モーメントデータを推定し、これらに基づいて被験者の歩行動作の評価を行うので、非常に簡易な構成で被験者の歩行動作を評価することができる。また、主成分得点及び角度・モーメントデータという異なる観点から評価するので、被験者の歩行動作をより正確に評価することができる。よって、被験者の歩行動作の改善を簡易な構成でかつ正確に行うことができる。
【0033】
上記支援方法において、前記被験者の歩行動作の評価結果に基づいて、前記被験者の歩行動作について当該被験者へアドバイスを提供するステップをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る支援システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る支援システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【図3】図1の被験者装置の一例を示す図である。
【図4】図1の支援システムの構成の一部を示す図である。
【図5】図1の支援システムの構成の一部を示す図である。
【図6】図1の支援システムの構成の一部を示す図である。
【図7】図1の支援システムの構成の一部を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る支援方法の準備段階のフローチャートを示す図である。
【図9】図8のフローチャートの一部を示す図である。
【図10】図10(A)は複数の標本の主成分得点標本値を示し、図10(B)は図10(A)の第1の主成分得点の正規化データG1〜G3のそれぞれに対応する角度・モーメントデータ標本値を示す図であり、図10(C)は第4の主成分得点の正規化データG1´〜G3´のそれぞれに対応する角度・モーメントデータ標本値を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る足にかかる床反力の変化を示すデータの一例を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る標本1人分の角度・モーメントデータを示す図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る支援方法のフローチャートを示す図である。
【図14】図13のフローチャートの一部を示す図である。
【図15】図13のフローチャートの一部を示す図である。
【図16】図13のフローチャートの一部を示す図である。
【図17】本発明の一実施形態に係る評価指標値を算出する具体例を示す図である。
【図18】本発明の一実施形態に係る総合指標標本値を算出する具体例を示す図である。
【図19】本発明の一実施形態に係る総合指標標本値を算出する具体例を示す図である。
【図20】本発明の一実施形態に係る評価結果の表示例を示す図である。
【図21】本発明の一実施形態に係る変更対象項目データベース及びアドバイス候補データベースの具体例を示す図である。
【図22】本発明の一実施形態に係るアドバイス結果の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、発明の実施形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0036】
図1〜図7を参照して本発明の一実施形態に係る支援システムを説明する。
【0037】
図1は本実施形態に係る支援システムの概略図である。この支援システム100は、それを利用する被験者の歩行動作の改善を支援するものであり、被験者の歩行動作について評価及び必要に応じてアドバイス(以下「評価等」という)を行うものである。この支援システム100は、被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データに基づいて様々な評価等を行う。なお、本出願において「歩行動作」とは歩く動作のみならず走る動作をも含むものとする。
【0038】
支援システム100は、歩行動作の改善を支援するために必要な制御を行う制御部110と、かかる必要な制御を行うために必要な情報を格納するDB(データベース)群200とを備える。支援システム100は、データ送受信可能なように通信ネットワーク300に接続され、この通信ネットワーク300を経由して、被験者がその歩行動作について評価等を受けることができるよう支援するものである。なお、通信ネットワーク300は、インターネットのような通信網のみならず、ローカルエリアネットワーク(LAN)やその他通信回線などを介した通信網を含むことができる。
【0039】
支援システム100には、本実施形態に係る被験者の歩行動作の改善を支援するために必要な所定のプログラムが予めインストールされており、図2にそのハードウェア構成の一例が示されている。具体的には、支援システム100は、CPU101、ROM102、RAM103、外部記憶装置104、ユーザインタフェース105、ディスプレイ106、プリンタ107、及び通信インタフェース108を備える汎用又は専用のコンピュータを適用することができる。支援システム100は、単一のコンピュータより構成されるものであっても、ネットワーク上に分散した複数のコンピュータより構成されるものであってもよい。支援システム100は、例えばCPUが、上記したROM、RAM、外部記憶装置などに記憶された又は通信ネットワーク300を介してダウンロードされた所定のプログラム(本実施形態に係る支援方法を規定したプログラム)を実行することにより、支援システム100を後述の各種機能ブロック又は各種ステップとして機能させることができる。
【0040】
図1に示すように、支援システム100が接続されている通信ネットワーク300には、複数の被験者装置400,402が接続されている。各被験者装置400,402は、通信ネットワーク300にデータ送受信可能なように接続され、通信ネットワーク300を経由して支援システム100に対してデータ送受信を行うことができる。なお、変形例として、通信ネットワーク300を使用することなく、支援システム100と被験者装置400,402とがデータ送受信可能なように接続されていてもよい。
【0041】
被験者装置400,402は、支援システム100による歩行動作の評価等を受けようとする被験者が利用する装置である。被験者装置400,402には、被験者から得られる各種データが入力される。また、被験者装置400,402には、支援システム100による評価等の結果が表示されるようにしてもよい。図1に示すように、被験者装置400は、例えば、各種データを通信ネットワーク300に送受信可能である端末410と、被験者の歩行動作に伴う各種データを計測する計測装置420とを備える。なお、図3は、このような被験者装置400の一例を示す図である。
【0042】
端末410は、被験者の属性データを入力することができる属性データ入力部412と、被験者の歩行動作についての情報を表示する表示部414とを備える。属性データ入力部412は、被験者の体重・身長・歩幅等の身体情報、年齢、性別及びその他被験者の特徴を示す情報等を、属性データとして入力するためのものである。また、かかる属性データのうち身体情報等(例えば体重、歩幅、歩行速度及び歩行周期等)は、計測装置420による被験者に対する計測によって取得してもよい。表示部414は、支援システム100による被験者の歩行動作についての評価等結果を表示する。また、表示部414は、被験者が歩行動作を行いながら当該評価等結果を視認できる位置に設けられ、例えば図3に示すように被験者の歩行前方位置に設けられる。図3に示す例では、属性データ入力部412がタッチパネルセンサとして、表示部414のディスプレイと一体的に構成されている。
【0043】
計測装置420は、被験者が歩行動作を行うための歩行誘導装置(例えばトレッドミル)422と、被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを検出するセンサ(例えばロードセル)424とを備える。センサ424は、歩行誘導装置422の歩行面(例えば床面に水平な面)423に垂直方向にかかる床反力データを検出し、当該床反力データを電気信号に変換する。この場合、歩行誘導装置422の歩行面423に垂直方向にかかる力に加えて、当該垂直方向に水平な方向(歩行の前後及び左右方向を含む)にかかる力も、床反力データとして検出することが好ましく、これにより床反力データに基づくより精度の高い推定が可能になる。図3に示すように、複数のセンサ424a〜fが、歩行誘導装置422の歩行面423に分散して設けられてもよい。ただし、センサの構成、種類、個数及び配置等は図3に示す例に限定されるものではなく、被験者の歩行動作に伴う床反力データが検出できればその態様は問わない。また、センサ424は、図3に示すように歩行誘導装置422とは別体で構成されていてもよいし、歩行誘導装置422と一体で構成されていてもよい。
【0044】
なお、属性データ入力部412、歩行誘導装置422及びセンサ424によって取得された被験者データは、例えば端末410によって通信ネットワーク300を介して支援システム100に送信される。
【0045】
次に、支援システム100の各構成について具体的に説明する。
【0046】
図1に示すように、支援システム100の制御部110は、主な構成として、被験者データ取得部120、被験者データ推定部130、標本データ取得部140、評価実行部150及びアドバイス提供部170を備える。また、支援システム100のDB群200は、主な構成として、被験者DB群210、標本DB群220、評価DB群230及びアドバイスDB群240を備える。制御部110の各構成は、それぞれが通信ネットワーク300及びDB群200の各構成とデータ送受信可能なように接続されており、これにより制御部110によって制御される必要なデータを、被験者装置400,402との間又はDB群200との間で送受信可能とする。なお、DB群200は、制御部110としてのサーバの内部又は外部に設けられた記憶媒体である。
【0047】
図4は、支援システムの構成の一部として、被験者データ取得部120、被験者データ推定部130及び被験者DB群210の各構成を示す図である。被験者データ取得部120は、通信ネットワーク300を介して被験者装置400に入力された被験者データを取得するものであり、主な構成として、歩行特徴項目取得部122、属性データ取得部124及び床反力データ取得部126を備える。また、被験者データ推定部130は、取得した被験者データに基づいて推定データを算出するものであり、主な構成として、主成分得点推定部132、角度・モーメントデータ推定部134及び総合指標推定値算出部136を備える。また、被験者DB群210は、被験者データ取得部120及び被験者データ推定部130に用いられるデータ及び必要に応じてこれらの構成によって得られたデータを格納するものであり、主な構成として、被験者DB212、第1の推定式格納部の一例である第1の推定式DB214及び第2の推定式格納部の一例である第2の推定式DB216を備える。
【0048】
歩行特徴項目取得部122は、被験者の歩行動作についての評価等の基準となる歩行特徴項目を取得する。例えば、予めDB群200(例えば後述の歩行特徴DB224)に複数の歩行特徴項目を格納しておき、歩行特徴項目取得部122が被験者装置400を介して被験者に当該複数の歩行特徴項目を提示し、被験者が任意の1つ以上の歩行特徴項目を選択して、歩行特徴項目取得部122が、当該選択された1つ以上の歩行特徴項目を取得してもよい。選択された1つ以上の歩行特徴項目は、例えば被験者の目標歩行動作に対応する目標歩行特徴項目とすることができる。
【0049】
歩行特徴項目は、歩行動作を特徴付ける項目であり、主として歩行動作に伴い顕在化する特徴を示すものである。歩行特徴項目は、例えば被験者が直感的に把握することができるような主観的又は客観的な表現であってもよい。歩行特徴項目の具体例としては、「ガシガシ歩き」、「スタスタ歩き」、「後足駆動型歩き」又は「前足駆動型歩き」等が挙げられる。例えば、「ガシガシ歩き」及び「スタスタ歩き」においては、主成分得点標本パターンは第1の主成分である主成分得点標本値からなり、「後足駆動型歩き」及び「前足駆動型歩き」においては、主成分得点標本パターンは第2の主成分である主成分得点標本値からなる。このような歩行特徴項目の内容及びそれに対応する主成分得点標本値の組み合わせについては様々に設定することができる。
【0050】
属性データ取得部124は被験者の属性データを取得する。また、属性データ取得部124は、被験者の属性データとして、被験者ID及びパスワード等の被験者識別情報もあわせて取得してもよい。
【0051】
床反力データ取得部126は、歩行誘導装置422上を歩行する被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得する。この床反力データは、歩行誘導装置422に取り付けられたセンサ424a〜fが検出した生データであってもよいし、あるいはセンサ424a〜fが検出した後、所定の処理を行った処理済みデータ(例えば図11参照)であってもよい。例えば後者の場合、床反力データ取得部126は、図3に示す6個のセンサ424a〜fの各々が検出した床反力データから、歩行動作に伴う被験者の少なくとも一方の足にかかる床反力の変化を示すデータを抽出し、当該データを床反力データとして取得してもよい。
【0052】
被験者データ取得部120の上記各構成が取得した複数のデータはそれぞれが対応付けられ、被験者データとして被験者IDごとに被験者DB212に格納される。被験者DB212は、これらの被験者データが、計測日時又は期間(すなわち取得日時又は期間)及び属性データ(例えば性別及び年齢等)に基づいて分類された複数のテーブルを有していてもよい。また、被験者DB212は、これらの計測日時又は期間並びに属性データを検索語として、特定のデータを適宜取り出せるように構成されている。
【0053】
主成分得点推定部132は、床反力データ取得部126が取得した床反力データに基づいて、角度・モーメントデータについて主成分得点を推定する(以下、推定された主成分得点を「主成分得点推定値」という)。ここで、角度・モーメントデータとは、少なくとも1つの関節についての歩行動作に伴う角度の変化を示す関節角度データ、及び、当該関節についての歩行動作に伴うモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方を含む。また、角度・モーメントデータの主成分得点とは、角度・モーメントデータの相関関係のある複数の要因を合成(圧縮)して得られる総合的指標を示すものである。
【0054】
角度・モーメントデータは、関節角度データ及び関節モーメントデータの両方を含むことが好ましい。これにより、被験者の関節角度及び関節モーメントの2つの異なる観点から総合的指標を示すことができる。
【0055】
また、角度・モーメントデータは、被験者の1つの関節についてのデータであってもよいが、複数の異なる関節についてのデータであることが好ましい。これにより、被験者についての複数の異なる関節という複数の異なる観点からの総合的指標を示すことができる。具体的には、角度・モーメントデータは、例えば、被験者の股関節、膝関節及び足首関節についてのデータであることが好ましい。これらの関節は、歩行動作の特徴を支配する重要な要因であるため、かかる関節についてのデータを適用することで、歩行動作について重要な総合的指標を示すことができる。
【0056】
主成分得点は、元データである角度・モーメントデータが有する要因の個数に応じて、第1〜第n(nは2以上の整数)の主成分についてそれぞれ求めることができる。例えば、3つの各関節についてそれぞれ、関節角度データ及び関節モーメントデータをそれぞれ時間軸で101のフレーム数に分割した場合には、全体で606の要因となるので、理論上は最大で606個の主成分を求めることができる。
【0057】
主成分得点推定部132は、角度・モーメントデータの第1〜第nの主成分得点のうち、任意の歩行特徴項目に対応付けられた1つ以上の主成分得点からなる主成分得点パターンを推定してもよい(以下、推定された主成分得点パターンを「主成分得点推定パターン」という)。具体的には、複数の歩行特徴項目を格納する歩行特徴DB224が、各歩行特徴項目に対応付けられた1つ以上の主成分の組み合わせをさらに格納しており、主成分得点推定部132が、歩行特徴項目取得部122が取得した歩行特徴項目に対応する組み合わせに基づいて、主成分得点推定パターンを算出してもよい。
【0058】
主成分得点推定部132は、第1の推定式DB214に予め格納された第1の推定式を読み出して、床反力データに基づいて主成分得点推定パターンを算出してもよい。ここで、第1の推定式DB214は、第1〜第nの主成分得点推定値のそれぞれを算出するための複数の第1の推定式を格納する。この場合、第1の推定式DB214は、1つの主成分について、属性データ(例えば性別及び年齢等)に基づいて分類された複数のテーブルを有していてもよい。すなわち、属性データが異なることにより、1つの主成分について異なる複数の第1の推定式を格納してもよい。これによれば、被験者の属性データに応じてより適切な推定式を用いることができ、より正確な主成分得点パターンを推定することができる。なお、第1の推定式の具体例については後述する。
【0059】
角度・モーメントデータ推定部134は、主成分得点推定パターンに基づいて、被験者の歩行動作について角度・モーメントデータを推定する(以下、推定された角度・モーメントデータを「角度・モーメントデータ推定値」という)。主成分得点推定パターンが複数の主成分得点推定値を有する場合には、主成分得点推定パターンの複数の主成分得点推定値に基づいて、角度・モーメントデータ推定値を算出する。具体的には、第2推定式の説明において記載する数式2(後述する)において、当該式の複数の主成分得点に複数の主成分得点推定値を代入することでその主成分得点推定パターンをもつ角度・モーメントデータ推定値を算出することができる。角度・モーメントデータ推定値は、主成分得点推定パターンの主成分分析の元データである角度・モーメントデータに対応しており、少なくとも1つの関節についての歩行動作に伴う角度の変化を示す関節角度データ、及び、当該関節についての歩行動作に伴うモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方の推定値を含む。
【0060】
角度・モーメントデータ推定部134は、第2の推定式DB216に予め格納された第2の推定式を読み出して、主成分得点推定パターンに基づいて角度・モーメントデータ推定値を算出してもよい。ここで、第2の推定式DB216は、関節角度データ、関節モーメントデータ及びそれらについての複数の関節(例えば股関節、膝関節及び足首関節)のそれぞれを算出するための複数の第2の推定式を格納する。この場合、第1の推定式DB214と同様に、第2の推定式DB216が、1つの項目について、属性データ(例えば性別及び年齢等)に基づいて分類された複数のテーブルを有していてもよい。すなわち、属性データが異なることにより、1つの項目について異なる複数の第2の推定式を格納してもよい。これによれば、被験者の属性データに応じてより適切な推定式を用いることができ、より正確な角度・モーメントデータを推定することができる。なお、第2の推定式の具体例については後述する。
【0061】
総合指標推定値算出部136は、主成分得点推定パターン及び角度・モーメントデータ推定値に基づいて、被験者の歩行動作について、総合指標推定値を算出する。ここで、総合指標推定値とは、被験者が選択した歩行特徴項目に対応した被験者の歩行動作についての総合的な指標となる値である。総合指標推定値の表現形式は限定されるものではないが、例えば点数又はランクのように簡易的な指標として表現してもよい。
【0062】
図5は、支援システムの構成の一部として、標本データ取得部140及び標本DB群220の各構成を示す図である。標本データ取得部140は、被験者の歩行動作を比較するための基準となる標本データを取得するものであり、主な構成として、主成分得点標本パターン取得部142、角度・モーメントデータ標本値取得部144及び総合指標標本値算出部146を備える。また、標本DB群220は、標本データ取得部140に用いられるデータ及び必要に応じてこの構成によって得られたデータを格納するものであり、主な構成として、標本DB222及び歩行特徴DB224を備える。
【0063】
主成分得点標本パターン取得部142は、標本の歩行動作について角度・モーメントデータの第1〜第nの主成分得点のうち、任意の歩行特徴項目に対応付けられた1つ以上の主成分得点標本値からなる主成分得点標本パターンを取得する。具体的には、主成分得点標本パターン取得部142は、歩行特徴項目取得部122が取得した歩行特徴項目に対応して、歩行特徴DB224に格納された当該歩行特徴項目に対応付けられた1つ以上の主成分の組み合わせに基づいて、主成分得点標本パターンを算出する。なお、主成分得点標本パターンを構成する1つ以上の主成分得点標本値は、標本DB222に予め格納されている。
【0064】
主成分得点標本パターンは、歩行動作を特徴付ける1つ以上の主成分の組み合わせにより構成され、かかる主成分得点標本パターンによって、歩行動作が主としてどのような特徴を有するかを数値化することができる。また、主成分得点標本値は様々な態様を採ることができる。すなわち、主成分得点標本値は1つの主成分についての主成分得点の標本値であるところ、かかる主成分得点標本値は、ある1点によって画定される第1態様を採ってもよいし、ある範囲によって画定される第2態様を採ってもよいし、又は、それらの組み合わせによって画定される第3態様を採ってもよい。ここで、主成分得点標本値は、当該主成分得点標本値が属する主成分において、複数の標本データが正規化された値であってもよい。例えば、1つの主成分について複数の標本データからなるヒストグラムを作成し、要約統計量に基づいて標準偏差を用いて階級分けを行い、当該階級分けに基づいて歩行特徴のレベルを設定し、これらの処理結果に基づいて、第1〜第3態様の主成分得点標本値の正規化データを生成してもよい。すなわち、主成分得点標本値の正規化データは、例えば+2σ、+1σ、平均値、−1σ又は−2σ等の代表値、及び/又は、これらの代表値によって画定される少なくとも1つの範囲を有してもよい。あるいは、主成分得点標本値は、1つの主成分についてのヒストグラムから、四分位、中央値又は確率分布等に基づいて、ある1点及び/又はある範囲によって画定されていてもよい。なお、主成分得点標本値の第1態様〜第3態様を採る場合の比較及び評価の具体例については後述する。
【0065】
角度・モーメントデータ標本値取得部144は、主成分得点標本パターンの主成分得点標本値に対応する、標本についての角度・モーメントデータである角度・モーメントデータ標本値を取得する。ここで、角度・モーメントデータ標本値は、標本DB222に予め格納された実測データであってもよいし、あるいは第2の推定式DB216に予め格納されている第2の推定式を読み出して、主成分得点標本パターンに基づいて角度・モーメントデータ標本値を算出してもよい。また、角度・モーメントデータ標本値取得部144は、主成分得点標本値に対応する1つの角度・モーメントデータ標本値を取得してもよいし、主成分得点標本値に対応する複数の角度・モーメントデータ標本値を取得してもよい。例えば、主成分得点標本値がある範囲を有する場合、角度・モーメントデータ標本値取得部144は、かかる範囲の上限及び下限に対応する複数の角度・モーメントデータ標本値を標本DB222から取得してもよい。
【0066】
総合指標標本値算出部146は、主成分得点標本パターン及び角度・モーメントデータ標本値に基づいて、標本の歩行動作について、総合指標標本値を算出する。ここで、総合指標標本値とは、被験者が選択した歩行特徴項目に対応した標本の歩行動作についての総合的な指標となる値である。総合指標標本値の表現形式は限定されるものではないが、例えば総合指標推定値に対応する表現形式であることが好ましく、例えば点数又はランクのように簡易的な指標として表現してもよい。
【0067】
標本DB222は複数の標本データを格納する。標本DB222は、これらの複数の標本データが属性データ(例えば性別及び年齢等)に基づいて分類された複数のテーブルを有していてもよい。また、標本DB222は、この属性データを検索語として、特定のデータを適宜取り出せるように構成されている。
【0068】
歩行特徴DB224は、複数の歩行特徴項目と、各歩行特徴項目に対応付けられた1つ以上の主成分の組み合わせを格納するものである。なお、歩行特徴DB224は、属性データ(例えば性別及び年齢等)に基づいて分類された複数のテーブルを有していてもよい。すなわち、属性データが異なることにより、当該歩行特徴項目に対して異なる1つ以上の主成分の組み合わせが対応付けられていてもよい。
【0069】
図6は、支援システムの構成の一部として、評価実行部150及び評価DB群230の各構成を示す図である。評価実行部150は、被験者データ推定部130及び標本データ取得部140から得られるデータに基づいて被験者の歩行動作を評価するものであり、主な構成として、主成分得点比較部152、角度・モーメントデータ比較部154、総合指標比較部156、評価指標値算出部158及び評価結果提供部160を備える。また、評価DB群230は、評価実行部150に用いられるデータ及び必要に応じてこの構成によって得られたデータを格納するものであり、主な構成として、連関測度DB232、比較対象DB234及び結果表示DB236を備える。
【0070】
主成分得点比較部152は、主成分得点推定パターンと主成分得点標本パターンとを比較する。主成分得点推定パターンが複数の主成分得点推定値から構成され、これに対応する主成分得点標本パターンが複数の主成分得点標本値から構成されている場合には、それぞれの主成分得点について両者を比較する。
【0071】
角度・モーメントデータ比較部154は、角度・モーメントデータ推定値と角度・モーメントデータ標本値とを比較する。角度・モーメントデータ比較部154は、角度・モーメントデータの任意の1つ以上の点に基づいて算出された距離(例えば平均距離)に基づいて角度・モーメントデータ推定値と角度・モーメントデータ標本値とを比較してもよいし、連関測度DB232に予め格納された連関測度データ(すなわち変化量の相関係数データ)に基づいてそれらを比較してもよい。また、角度・モーメントデータ比較部154は、比較対象DB234に予め格納された比較対象データに基づいて、比較すべき関節種類、関節パラメータ、及び、歩行動作地点又は歩行動作フェーズを決定する。比較対象DB234は、歩行特徴項目ごとに、特徴が顕在化すると想定される各種比較対象データを予め格納する。また、比較対象データは、属性データごとに分類された複数のテーブルとして比較対象DB234に格納されていてもよい。
【0072】
総合指標比較部156は、総合指標推定値と総合指標標本値とを比較する。例えば、総合指標推定値と総合指標標本値がいずれも点数又はランクのように簡易的に表現される場合には、両者の点数又はランクの差分により、総合指標推定値と総合指標標本値とを比較することができる。
【0073】
評価指標値算出部158は、主成分得点比較部152、角度・モーメントデータ比較部154及び総合指標比較部156の少なくとも1つによる比較結果に基づいて、評価指標値を算出する。ここで、評価指標値とは、ある歩行特徴項目について、被験者の歩行動作が標本の歩行動作に対してどのように評価できるかを指標値として表したものである。かかる評価指標値は、ある歩行特徴項目について、標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度であってもよい。あるいは、複数の歩行特徴項目について評価指標値が算出される場合には、当該評価指標値は、標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度が最大及び/又は最小である歩行特徴項目であってもよいし、又は、当該複数の歩行特徴項目ごとに算出した類似度の比率であってもよい。
【0074】
なお、主成分得点比較部152、角度・モーメントデータ比較部154及び総合指標比較部156の比較の具体例、並びに、評価指標値算出部158の評価指標値の算出の具体例については、図17〜図19等を参照して後述する。
【0075】
評価結果提供部160は、被験者データ取得部120、被験者データ推定部130、標本データ取得部140及び評価実行部150の各構成によって得られるデータを、評価結果として被験者に提供する。例えば結果表示DB236に予め格納された結果表示のためのデータベースに基づいて、評価結果提供部160が、上記各構成によって得られるデータを処理して被験者に提供してもよい。結果表示DB236には、例えば被験者に提示するための表示のレイアウトデータ、波形データ、文字データ、音声データ、グラフデータ、静止画又は動画データ等の評価結果を表示するためのデータベースが格納されている。なお、評価結果の表示についての具体例は図20を参照して後述する。
【0076】
評価結果提供部160は、上記評価結果を通信ネットワーク300にアップロードし、当該通信ネットワーク300を介して被験者装置400(例えば表示部414)に提供してもよい。例えば、被験者の歩行動作中に評価結果を表示部414に出力することによって、被験者が歩行動作を続けながらリアルタイムで当該歩行動作の評価結果を知ることができる。あるいは、評価結果提供部160は上記評価結果を紙媒体で被験者に提供してもよい。
【0077】
図7は、支援システムの構成の一部として、アドバイス提供部170及びアドバイスDB群240の各構成を示す図である。アドバイス提供部170は、被験者の歩行動作についてアドバイスを提供するものであり、主な構成として、類似度判定部172、変更対象項目取得部174、アドバイス候補取得部176及び結果提供部178を備える。また、アドバイスDB群240は、アドバイス提供部170に用いられるデータ及び必要に応じてこの構成によって得られたデータを格納するものであり、主な構成として、変更対象項目DB242、アドバイス候補DB244、優先順位DB246及び結果表示DB248を備える。
【0078】
類似度判定部172は、評価実行部150の各構成によって得られた評価結果に基づいて、被験者の目標歩行動作に対応する1つ以上の目標歩行特徴項目について、標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度を判定する。例えば、類似度判定部172は、評価実行部150の評価指標値算出部158が算出した評価指標値が、予め決定しておいたしきい値に対して大きいか又は小さいかによって上記類似度を判定してもよい。類似度判定部172が、上記類似度が小さいと判定した場合には、アドバイス提供部170は、被験者の歩行動作を目標歩行動作に類似するように被験者にアドバイスを提供する。
【0079】
変更対象項目取得部174は、変更対象項目DB242に予め格納された複数の変更対象項目から、被験者の歩行動作を変更するために必要な1つ以上の変更対象項目を取得する。変更対象項目DB242に格納される複数の変更対象項目は、それぞれが目標歩行特徴項目に対応付けられており、1つの目標歩行特徴項目について、変更歩行動作地点、変更歩行動作フェーズ、変更部位(例えば股関節、膝関節又は足首関節)、変更パラメータ(例えば角度又はモーメント)、目標値(すなわち変更量)等を含む。
【0080】
アドバイス候補取得部176は、アドバイス候補DB244に予め格納された複数のアドバイス候補から、被験者の歩行動作を変更するために好適な1つ以上のアドバイス候補を取得する。アドバイス候補DB244に格納される複数のアドバイス候補は、それぞれが目標歩行特徴項目又は変更対象項目に対応付けられている。なお、変更対象項目及びアドバイス候補についての具体例については、図21の変更対象項目DB及びアドバイス候補DBの一例を参照することができる。
【0081】
変更対象項目取得部174及びアドバイス候補取得部176は、優先順位DB246に予め格納された変更対象項目又はアドバイス候補の優先順位に基づいて、変更対象項目及びアドバイス候補を取得してもよい。あるいは、変更対象項目取得部174及びアドバイス候補取得部176は、評価実行部150の評価結果、具体的には標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度に基づいて、変更対象項目及びアドバイス候補を取得してもよい。
【0082】
結果提供部178は、被験者データ取得部120、被験者データ推定部130、標本データ取得部140、評価実行部150及びアドバイス提供部170によって得られるデータを、アドバイス結果として被験者に提供する。例えば結果表示DB248に予め格納された結果表示のためのデータベースに基づいて、結果提供部178が、上記各構成によって得られるデータを処理して被験者に提供してもよい。結果表示DB248には、例えば被験者に提示するための表示のレイアウトデータ、文字データ、音声データ、グラフデータ、静止画又は動画変換データ等のアドバイス結果を表示するためのデータベースが格納されている。なお、アドバイス結果の表示についての具体例は図22を参照して後述する。
【0083】
結果提供部178は、上記アドバイス結果を通信ネットワーク300にアップロードし、当該通信ネットワーク300を介して被験者装置400(例えば表示部414)に提供してもよい。例えば、被験者の歩行動作中にアドバイス結果を表示部414に出力することによって、被験者が歩行動作を続けながらリアルタイムで当該歩行動作についてアドバイスを受けることができる。あるいは、結果提供部178は上記アドバイスを紙媒体で被験者に提供してもよい。
【0084】
次に、図8〜図22を参照して本発明の一実施形態に係る支援方法を説明する。
【0085】
本実施形態に係る支援方法は、本実施形態に係る支援システム100によって行うことができる。なお、以下に説明する各ステップ(図面上符号が付されたステップ及び当該ステップの部分的なステップを含む)は処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更して又は並列に実行することができる。
【0086】
まず、図8〜図12を参照して本実施形態に係る支援方法の準備段階を説明する。かかる準備段階は、第1の推定式DB214、第2の推定式DB216、標本DB222及び歩行特徴DB224を作成することを含み、これらのDBは、標本が計測装置上を歩行することによって得ることができる。標本の歩行動作を計測する計測装置としては、例えば、図3に示す歩行誘導装置422及びセンサ424に加えて、さらにモーションキャプチャMC又はカメラ(図示しない)を備える。なお、モーションキャプチャMC又はカメラは、標本の関節角度データ及び関節位置データを画像認識によって実測データとして取得するためのものである。
【0087】
図8に示すように、まず、標本について属性データを取得する(S100)。取得した属性データは、標本DB222に格納される。次に、標本が計測装置上を歩行するよう標本に対して促し、標本の歩行動作に伴う角度・モーメントデータ標本値を取得する(S102)。
【0088】
図9に示すように、角度・モーメントデータ標本値の取得においては、まず、標本の歩行動作に伴う関節の角度の変化を示す股関節データ、膝関節データ及び足首関節データを含む関節角度データを取得し(S118)、標本の歩行動作に伴う関節の位置の変化を示す、股関節データ、膝関節データ及び足首関節データを含む関節位置データを取得し(S106)、また、標本の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得する(S108)。なお、図11に示すように、この床反力データは、標本の少なくとも一方の足に係る床反力の変化を示すデータとして、少なくとも1歩分について取得することが好ましい。
【0089】
次に、関節位置データ及び床反力データに基づいて、標本について関節モーメントデータを取得する(S110)。かかる関節モーメントデータは既に知られている算出方法により求めることができる。この関節モーメントデータは、股関節データ、膝関節データ及び足首関節データを含む。
【0090】
こうして、少なくとも1つの関節について、関節角度データ及び関節モーメントデータの少なくとも一方を含む角度・モーメントデータ標本値を取得する(S112)。なお、図12に示すように、この角度・モーメントデータ標本値は、標本の股関節、膝関節及び足首関節のそれぞれについて、関節角度データ及び関節モーメントデータの両方を含むデータとして、少なくとも1歩分について取得することが好ましい。
【0091】
複数の標本についてS100〜S112を繰り返し行い、複数の標本の歩行動作について、複数の角度・モーメントデータ標本値を取得する。こうして得られた角度・モーメントデータ標本値は、標本の属性データごとに分類された複数のテーブルとして、標本DB222に格納される。
【0092】
次に、角度・モーメントデータの第1〜第nの主成分について、第1〜第nの主成分得点標本値を取得する(S114)。かかる主成分得点標本値は、角度・モーメントデータから、既に知られている算出方法により求めることができる。例えばN人分の標本について主成分得点標本値を算出する場合には、N人分の各標本ごとに第1〜第nの主成分得点標本値を算出するので、合計でN人分×n個の主成分得点標本値を取得する。こうして得られた主成分得点標本値は、標本の属性データごとに分類された複数のテーブルとして、標本DB222に格納される。
【0093】
こうして得られた角度・モーメントデータ標本値及び主成分得点標本値は、標本の歩行動作についての実測データであるところ、この実測データを正規化データとして、標本DB222に格納してもよい。すなわち、複数の標本の第1〜第n主成分得点標本値について正規化データを取得し(S116)、かかる主成分得点標本値の正規化データに対応する角度・モーメントデータ標本値について、正規化データを取得する(S118)。こうして得られた角度・モーメントデータ標本値の正規化データ及び主成分得点標本値の正規化データについても、標本の属性データごとに分類された複数のテーブルとして、標本DB222に格納される。
【0094】
次に、主成分得点標本値の正規化データと歩行特徴項目とを対応付けし(S120)、また、角度・モーメントデータ標本値の正規化データと歩行特徴項目とを対応付けする(S122)。こうして得られた歩行特徴項目についてのデータベースは、標本の属性データごとに分類された複数のテーブルとして、歩行特徴DB224に格納される。
【0095】
例えば図10(A)に示すように、第1の主成分についての複数の主成分得点標本値について、第1のグループG1(平均+2σの付近)に対応する標本値と、第2のグループG2(平均付近)に対応する標本値と、第3のグループG3(平均−2σの付近)に対応する標本値とを取得し、当該取得された各標本値に対応する角度・モーメントデータ標本値のそれぞれを比較する。
【0096】
第1の主成分については、例えば図10(B)に示すように膝関節モーメントデータに着目すると、歩行動作の1歩分において足を床面に着地した後のt1において膝関節モーメントに大きな差が生じていることがわかる。すなわち、G1においては足の着地後において膝関節モーメントが小さく、他方、G3においては足の着地後において膝関節モーメントが大きいことがわかる。したがって、G1においては足の着地後の衝撃を膝で吸収していないため膝の負担が大きく、他方、G3においては足の着地後の衝撃を膝で吸収しているため膝の負担が小さいことがわかる。こうして、例えばG1に対応する主成分得点標本値に対して、例えば「膝の負担が大きい歩行動作である」という歩行特徴項目を対応付けることができる。
【0097】
上記は関節モーメントデータに着目した例を説明したが、関節角度データに着目して歩行特徴項目を対応付けることもできる。例えば第4の主成分について、第1のグループG1´(平均+2σの付近)に対応する標本値と、第2のグループG2´(平均付近)に対応する標本値と、第3のグループG3´(平均−2σの付近)に対応する標本値とを取得し、当該取得された各標本値に対応する角度・モーメントデータ標本値のそれぞれを比較する。
【0098】
第4の主成分については、例えば図10(C)に示すように足首関節角度データに着目すると、歩行動作の1歩分において足を床面に着地してから床面を蹴るときのt2において、足首関節角度に大きな差が生じていることがわかる。すなわち、G1´においては足が床面を蹴るとき足首関節角度が大きく、他方、G3´においては足が床面を蹴るとき足首関節角度が小さいことがわかる。したがって、G1´においては足が床面を蹴るときに足首をよく曲げているため床面を蹴る力(例えば下腿の筋力)をあまり使っておらず、他方、G3´においては足が床面を蹴るときに足首を伸ばしているため床面を蹴る力(例えば下腿の筋力)をよく使っていることがわかる。こうして、例えばG1´に対応する主成分得点評価値に対して、例えば「下腿の筋力をよく使用する歩行動作である」という歩行特徴項目を対応付けることができる。
【0099】
こうして、複数の主成分得点標本値の正規化データ及び当該正規化データに対応する角度・モーメントデータ標本値の正規化データに対して、歩行特徴項目を対応付けることができる。
【0100】
図8に戻り、主成分得点標本値に基づいて第1の推定式を作成し(S124)、また主成分得点標本値に基づいて第2の推定式を作成する(S126)。
【0101】
具体的には、まず、第1の推定式については、属性データ(S100)、角度・モーメントデータ標本値(S102)及び第1〜第nの主成分得点標本値(S114)に基づいて取得する。かかる第1の推定式は、標本の属性データごとに分類された複数のテーブルとして、第1の推定式DB214に格納される。
【0102】
第1の推定式は、例えば、評価等の対象となる被験者の床反力データ(具体的には足にかかる床反力の変化を示す床反力データ)、被験者の属性データである、体重「W(kg)」、歩行速度「Sp(m/s)」、歩幅「St(m)」及び周期「T(sec)」等のパラメータを含む。ここで、被験者の床反力データのパラメータとしては、変化点「(x1,y1),(x2,y2),(x3,y3)」(図11参照)、及び、当該床反力データについての第1〜第m(mは2以上の整数)の主成分のそれぞれについての主成分得点である「αCP1〜αCPm」を用いることができる。
【0103】
ここで、上記変化点(図11参照)については、例えば、足を床面に着地した後に床反力が最大となる第1の変化点(x1,y1)付近、足が床面に着地している間に床反力が最小となる第2の変化点(x2,y2)付近、及び、足を床面が蹴るときに床反力が最大となる第3の変化点(x2,y2)付近の少なくとも1つを適用することができる。また、上記した床反力の主成分得点については、足にかかる床反力の変化を示すデータを時間軸でk個に分割して、当該k個の主成分について第1〜第mの主成分得点を求めればよい。
【0104】
具体例として、第1〜第6の主成分についての第1の推定式は、下記のように表すことができる。なお、下記式において、a10〜a63については、項目における実測値と推定値との間の相関関係や、複数の項目の相関関係を鑑みて重み付けした重回帰係数である。なお、下記式は一例にすぎず、本実施形態に係る第1の推定式は下記式に限定されるものではない。
【0105】
【数1】

【0106】
次に、第2の推定式については、角度・モーメントデータ標本値(S102)及び第1〜第nの主成分得点標本値(S114)に基づいて取得する。具体的には、下記式において、第1〜第6の主成分得点CP1〜CP6は、角度・モーメントデータについての関節及び時間で分割された6つの要因(Angl.1,Angl.2,Angl.3,Mom.1,Mom.2,Mom.3)×固有ベクトル行列(a11〜a66)によって求められるところ、逆に言えば、角度・モーメントデータの6つの要因は、第1〜第6の主成分得点CP1〜CP6×固有ベクトルの逆行列によって求めることができる。
【数2】

【0107】
すなわち、第2の推定式は、角度・モーメントデータ標本値から主成分得点標本値を算出するときに用いられる固有ベクトルの逆行列に基づいて算出することができる。かかる第2の推定式は、標本の属性データごとに分類された複数のテーブルとして、第2の推定式DB216に格納される。
【0108】
次に、図13〜図22を参照して本実施形態に係る支援方法を説明する。
【0109】
図13に示すように、まず、例えば歩行特徴項目取得部122が、被験者の目標動作に対応する少なくとも1つの目標歩行特徴項目を取得する(S200)。例えば被験者装置400の表示部414に複数の目標歩行特徴項目を提示し、当該複数の目標歩行特徴項目の中から少なくとも1つを被験者に選択するよう促してもよい。なお、被験者がM(Mは2以上の整数)個の目標歩行特徴項目を選択することによって、歩行特徴項目取得部122がM個の目標歩行特徴項目を取得した場合には、ステップS206以降のステップはM回繰り返し行われる。
【0110】
次に、例えば属性データ取得部124が、被験者の属性データを取得する(S202)。取得した属性データは、被験者IDとともに被験者DB212に格納される。そして、被験者が計測装置420上で歩行するよう被験者に対して促し、例えば床反力データ取得部126が、被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得する(S204)。取得した床反力データは、一旦、被験者DB212に格納してもよい。また、床反力データは、歩行動作に伴う被験者の少なくとも一方の足にかかる床反力の変化を示すデータとして取得することが好ましい。また、第1の推定式によって主成分得点推定パターンを算出するために、例えば床反力データ取得部126によって床反力データの主成分得点についても取得する。
【0111】
次に、例えば主成分得点推定部132が、床反力データに基づいて、目標歩行特徴項目に対応する主成分得点推定パターンを取得する(S206)。具体的には、ステップS120によって取得した歩行特徴DB224及びステップS124によって取得した第1の推定式DB214から、それぞれ被験者の属性データに対応付けられたデータを読み出すことによって、床反力データに基づいて主成分得点推定パターンを算出する。次に、例えば角度・モーメントデータ推定部134が、主成分得点推定パターンに基づいて、被験者の歩行動作について角度・モーメントデータ推定値を取得する(S208)。具体的には、ステップS126によって取得した第2の推定式DB216から、被験者の属性データに対応付けられたデータを読み出すことによって、主成分得点推定パターンに基づいて角度・モーメントデータ推定値を算出する。次に、例えば総合指標推定値算出部136が、主成分得点推定パターン及び角度・モーメントデータ推定値に基づいて、被験者の歩行動作について、総合指標推定値を算出する(S210)。こうして、被験者の歩行動作について評価等の判断材料となる複数の推定データを算出する。
【0112】
他方、図14に示すように、被験者の歩行動作についての主成分得点推定パターン、角度・モーメントデータ推定値及び総合指標推定値のそれぞれと比較するための標本データを取得する(S212)。かかる標本データは、図8及び図9の準備段階において予め格納された標本DB222から取得される。まず、例えば主成分得点標本パターン取得部142が、ステップS200及びS202によって取得された目標歩行特徴項目及び属性データに基づいて、主成分得点標本パターンを取得する(S214)。次に、例えば角度・モーメントデータ標本値取得部144が、ステップS214によって取得された主成分得点標本パターンに対応する角度・モーメントデータ標本値を取得する(S216)。そして、例えば総合指標標本値算出部146が、主成分得点標本パターン及び角度・モーメントデータ標本値に基づいて、標本の歩行動作について、総合指標標本値を算出する(S218)。こうして、標本の歩行動作について評価等の基準となる複数の標本データを取得する。
【0113】
次に、図15に示すように、被験者の歩行動作を評価する(S220)。まず、例えば主成分得点比較部152が主成分得点推定パターンと主成分得点標本パターンとを比較し(S222)、角度・モーメントデータ比較部154が角度・モーメントデータ推定値と角度・モーメントデータ標本値とを比較し(S224)、総合指標比較部156が総合指標推定値と総合指標標本値とを比較することによって、目標歩行特徴について、被験者の歩行動作と標本の歩行動作とを比較する。そして、これらのうちの1つの比較結果に基づいて、例えば評価指標値算出部158が評価指標値を算出し(S228)、少なくともこの評価指標値に基づいて評価結果を提供する(S230)。その後、図13に戻り、被験者の歩行動作についてアドバイスを提供する(S232)。
【0114】
ここで、被験者の歩行動作評価について具体例を説明する。
【0115】
まず、主成分得点推定パターンと主成分得点標本パターンとを比較して評価指標値を算出する場合において、主成分得点標本パターンの主成分得点標本値の態様にわけて具体例を説明する。
【0116】
主成分得点標本値がある1点によって画定されている第1態様の場合、主成分得点推定パターンの主成分得点推定値と、それに対応する主成分得点標本パターンの主成分得点標本値との間の距離を求めることで両者を比較してもよい。各パターンが複数の主成分得点から構成される場合には、それぞれの主成分ごとに主成分得点推定値と主成分得点標本値との間の距離を求める。また、M個の目標歩行特徴項目について評価する場合には、第Mの目標歩行特徴項目についての主成分得点推定パターンと主成分得点標本パターンとの類似度(又は乖離度)SMは以下の式により求めることができる。ここで、nは目標歩行特徴項目ごとのパターンを構成する主成分得点の個数であり、aMは主成分得点標本パターンに対する重み付け係数、bnは各主成分得点標本値に対する重み付け係数、Dnは各主成分ごとの主成分得点推定値と主成分得点標本値との間の距離である。
【0117】
【数3】

【0118】
また、主成分得点標本値がある範囲によって画定されている第2態様の場合、主成分得点推定パターンの主成分得点推定値が、それに対応する主成分得点標本パターンの主成分得点標本値の範囲内又は範囲外であるかを求めることで両者を比較してもよい。各パターンが複数の主成分得点から構成される場合には、それぞれの主成分ごとに主成分得点推定値が、対応する主成分得点標本値の範囲内又は範囲外であるかを求める。また、M個の目標歩行特徴項目について評価する場合には、第Mの目標歩行特徴項目についての主成分得点推定パターンと主成分得点標本パターンとの類似度(又は乖離度)SMは以下の式により求めることができる。ここで、aMは主成分得点標本パターンに対する重み付け係数、bnは主成分得点標本パターンを構成する基本得点、各主成分得点標本値に対する重み付け係数である。
【0119】
M=aM×(主成分得点推定値が対応する主成分得点標本値の範囲内に含まれる主成分得点標本値の個数)/(主成分得点標本パターンを構成する主成分得点標本値の個数)
【0120】
また、主成分得点標本値が上記第1態様及び上記第2態様の組み合わせによって画定されている第3態様の場合、上記第1態様及び上記第2態様による方法で両者を比較してもよい。また、M個の目標歩行特徴項目について評価する場合には、第Mの目標歩行特徴項目についての主成分得点推定パターンと主成分得点標本パターンとの類似度(又は乖離度)SMは以下の式により求めることができる。ここで、aMは主成分得点標本パターンに対する重み付け係数、Lnはある範囲に含まれるかを段階的に表現したもの(例えば基本得点)、bnは主成分得点標本パターンを構成する各主成分得点標本値に対する重み付け係数である。
【0121】
【数4】

【0122】
なお、Lnは、例えば主成分得点推定値が主成分得点標本値のうち第1の範囲(例えば+σ1以上+2σ未満、又は、−σ以下−2σ未満)内であれば「1点」、第2の範囲(例えば+2σ以上、又は、−2σ以下)内であれば「2点」としてもよい。
【0123】
こうして求められる評価指標値によって、M個の目標歩行特徴項目において類似度が最大及び/最小である1個の目標歩行特徴項目を算出してもよいし、又は、各M個の目標歩行特徴項目のそれぞれについて類似度の比率を算出してもよい。
【0124】
次に、図17を参照して評価指標値を算出する具体例を説明する。図17に示すように、ある目標歩行特徴項目において、例えば膝関節角度の立脚期に当該目標歩行特徴が顕在化することが予めわかっている場合、角度・モーメントデータ比較部154は、比較対象DB234の比較対象データに基づいて、少なくとも「膝関節」、「角度」及び「立脚期」において、被験者の角度・モーメントデータ推定値と標本の角度・モーメントデータ標本値とを比較する。あるいは、複数の関節(股関節、膝関節及び足首関節)についての複数のパラメータ(角度及びモーメント)のそれぞれについて、角度・モーメントデータ推定値と角度・モーメントデータ標本値との間の第1の平均距離を算出し、こうして得られる複数の第1の平均距離から、1つの目標歩行特徴項目について第2の平均距離を算出し、複数の目標歩行特徴項目の間において複数の第2の平均距離を比較することによって、評価指標値を算出してもよい。こうして得られる評価指標値は、標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度が最大及び/又は最小である歩行特徴項目であってもよいし、又は、複数の目標歩行特徴項目のそれぞれの類似度の比率であってもよい。また、関節、関節パラメータ、歩行動作地点又は歩行動作フェーズごとの比較対象の項目間で重み付けしてもよい。この重み付けの具体例は図18を参照して後述する。
【0125】
図18に示すように、この具体例においては、歩行特徴項目として「ガシガシ歩き」(又は「スタスタ歩き」)が選択され、この歩行特徴項目に対応する主成分得点標本パターンは、第1の主成分である主成分得点標本値からなるところ、角度・モーメントデータ標本値の複数のデータのうち、t3(「膝関節」、「角度」及び「立脚期」)又はt4(「膝関節」、「モーメント」及び「立脚期」)において、歩行特徴が顕在化していることがわかる。したがって、この部分の評価指標への関与度を大きくするために重み付けして、例えば、総合指標標本値X=a×(立脚期の膝関節角度値)+b×(立脚期の膝関節モーメント値)+(残りの歩行動作フェーズにおける残りの関節角度値及び関節モーメント値)により求めることができる。なお、a及びbは重み付け係数である。
【0126】
また、総合指標標本値は、関節角度データ及び関節モーメントデータから算出される関節パワーデータ等の第3のデータに基づいて算出することができる。例えば図19の具体例においては、歩行特徴項目として「後足駆動型歩き」(又は「前足駆動型歩き」)が選択され、この歩行特徴項目に対応する主成分得点標本パターンは、第2の主成分である主成分得点標本値からなるところ、角度・モーメントデータ標本値の複数のデータのうち、t5(「股関節」、「パワー」及び「立脚期」)又はt6(「足首関節」、「パワー」及び「蹴り出し期」)において、歩行特徴が顕在化していることがわかる。したがって、かかる部分の評価指標値への関与度を大きくするために重み付けして、例えば、指標評価値Y=a×(立脚期の股関節パワー値)+b×(蹴り出し期の足首関節パワー値)+(残りの歩行動作フェーズにおける残りの関節角度値、関節モーメント値及び関節パワー値)により求めることができる。なお、a及びbは重み付け係数である。
【0127】
図20は、本実施形態に係る評価結果の表示の具体例を示す図である。被験者の歩行動作の評価結果は様々な態様によって表示することができる。例えば、被験者の角度・モーメントデータ推定値と標本の角度・モーメントデータ標本値とを比較した波形データ500として表示してもよいし、評価指標値として類似度の最大又は最小である歩行対象項目とその大きさを示した文字データ502として表示してもよい。また、被験者の過去データ(例えば初期状態)、過去から現在までのデータ(例えば変化履歴プロット)、現状データ(例えば現状態)及び目標(例えば目標エリア)に対する位置情報を、グラフデータ504として表示してもよい。また、複数の歩行特徴項目(例えば、ひざ負担、ダイエット効果及び筋使用量)の類似度の比率に基づいて、複数の歩行特徴項目についてのバランスをグラフデータ506にして表示してもよい。あるいは、静止画又は動画データ(例えばアニメーション)によって表示してもよい(図22参照)。
【0128】
図16を参照して本実施形態に係る支援方法のアドバイス提供について説明する。まず、例えば類似度判定部172が被験者の目標歩行動作に対応する少なくとも1つの目標歩行特徴項目について、標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度を判定する(S234)。そして、例えば類似度判定部172がアドバイス必要と判定すると(S236 YES)、例えば変更対象項目取得部174及びアドバイス候補取得部176が、被験者の歩行動作についての評価結果、変更対象項目DB242及びアドバイス候補DB244を参照する(S238)。ここで、変更対象項目DB242及びアドバイス候補DB244の具体例については、図21を参照することができる。他方、類似度判定部172がアドバイス不要と判定すると(S236 NO)、本実施形態に係る支援方法は終了する。ステップS238に戻り、参照の結果、変更対象項目DB242及びアドバイス候補DB244の少なくとも1つのデータベースについて、例えば優先順位DB246によって優先順位が予め設定されている場合には(S240 YES)、当該優先順位に基づいて、変更対象項目(S248)及び/又はアドバイス候補を取得する(S250)。他方、ステップS240に戻り、変更対象項目DB242及びアドバイス候補DB244の両方ともに優先順位が予め設定されていない場合には(S240 NO)、被験者の歩行動作の評価結果に基づいてアドバイスを提供する(S246)。この場合、目標歩行特徴項目について、標本の歩行動作に対する被験者の歩行動作の類似度が最小である変更対象項目からアドバイス候補を取得してもよい。こうして取得された変更対象項目やアドバイス候補に基づいて、例えば結果提供部178が被験者に当該被験者の歩行動作についてのアドバイスを提供する。アドバイス提供後、当該アドバイスに基づいて被験者の歩行動作が改善されているかのアドバイス効果を取得するために、再び同一の目標歩行特徴項目についてステップS202以降の各ステップを行ってもよい。
【0129】
図22は、本実施形態に係るアドバイス結果の表示の具体例を示す図である。被験者へのアドバイス結果は様々な態様によって表示することができる。例えば、被験者の歩行動作についてのアニメーション600、各種アイコン602,604、ある関節のあるパラメータについて目標歩行動作に対する被験者の歩行動作の差分を示すグラフ606、及び、角度・モーメントデータ推定値と角度・モーメントデータ標本値との比較データ608,610等を表示してもよい。また、アニメーション600は、
目標歩行動作612とそれに重ね合わせられる位置に表示される被験者の歩行動作614が示されており、関節ごとのあるパラメータにおいて類似度(又は乖離度)の大きさに従って、形状が大きい又は点滅速度が速いブリンク616,618,620が表示されていてもよい。また、関節ごとにアドバイス候補を文字データ622,624として表示してもよい。
【0130】
以上のとおり、本実施形態に係る歩行動作評価方法によれば、上記システムの構成について説明したように、被験者の歩行動作を非常に簡易かつ正確に評価することができる。
【0131】
上記発明の実施形態を通じて説明された実施例や応用例は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施形態の記載に限定されるものではない。そのような組み合わせ又は変更若しくは改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0132】
100・・・支援システム
122・・・歩行特徴項目取得部
124・・・属性データ取得部
126・・・床反力データ取得部
132・・・主成分得点推定部132
134・・・角度・モーメントデータ推定部
136・・・総合指標推定値算出部
142・・・主成分得点標本パターン取得部
144・・・角度・モーメントデータ標本値取得部
146・・・総合指標標本値算出部
150・・・評価実行部
152・・・主成分得点比較部
154・・・角度・モーメントデータ比較部
156・・・総合指標比較部
158・・・評価指標値算出部
170・・・アドバイス提供部
212・・・被験者DB
242・・・変更対象項目DB
244・・・アドバイス候補DB
422・・・歩行誘導装置
424・・・センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の歩行動作の改善を支援する支援システムであって、
前記被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得する床反力データ取得部と、
歩行動作に伴う、少なくとも1つの関節の角度の変化を示す関節角度データ及び当該関節のモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方を含む角度・モーメントデータについて、前記被験者の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点パターンを、前記床反力データに基づいて推定する、主成分得点推定部と、
推定された前記主成分得点パターンである主成分得点推定パターンに基づいて、前記被験者の歩行動作に関する前記角度・モーメントデータを推定する、角度・モーメントデータ推定部と、
前記主成分得点推定パターン及び推定された前記角度・モーメントデータである角度・モーメントデータ推定値に基づいて、前記被験者の歩行動作を評価する、評価実行部と
を備える、支援システム。
【請求項2】
前記主成分得点推定パターンを算出するための第1の推定式を予め格納する第1の推定式格納部をさらに備え、
前記主成分得点推定部は、前記第1の推定式格納部から前記第1の推定式を読み出して、前記床反力データに基づいて前記主成分得点推定パターンを算出する、請求項1記載の支援システム。
【請求項3】
前記角度・モーメントデータ推定値を算出するための第2の推定式を予め格納する第2の推定式格納部をさらに備え、
前記角度・モーメントデータ推定部は、前記第2の推定式格納部から前記第2の推定式を読み出して、前記主成分得点推定パターンに基づいて前記角度・モーメントデータ推定値を算出する、請求項1又は2記載の支援システム。
【請求項4】
前記角度・モーメントデータについて、標本の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点標本パターンを取得する主成分得点標本パターン取得部をさらに備え、
前記評価実行部は、前記主成分得点推定パターンと前記主成分得点標本パターンとを比較する主成分得点比較部を備える、請求項1から3のいずれかに記載の支援システム。
【請求項5】
前記主成分得点標本パターンに対応する、前記標本の歩行動作に関する前記角度・モーメントデータを、角度・モーメントデータ標本値として取得する角度・モーメントデータ標本値取得部をさらに備え、
前記評価実行部は、前記角度・モーメントデータ推定値と前記角度・モーメントデータ標本値とを比較する角度・モーメントデータ比較部をさらに備える、請求項4記載の支援システム。
【請求項6】
前記角度・モーメントデータ比較部は、前記角度・モーメントデータ推定値と前記角度・モーメントデータ標本値との間の距離及び連関測度の少なくとも一方に基づいて、前記角度・モーメントデータ推定値と前記角度・モーメントデータ標本値とを比較する、請求項5記載の支援システム。
【請求項7】
前記主成分得点推定パターン及び前記角度・モーメントデータ推定値に基づいて、前記被験者の歩行動作について、総合指標推定値を算出する総合指標推定値算出部と、
前記主成分得点標本パターン及び前記角度・モーメントデータ標本値に基づいて、前記標本の歩行動作について、総合指標標本値を算出する総合指標標本値算出部と
をさらに備え、
前記評価実行部は、前記総合指標推定値と前記総合指標標本値とを比較する総合指標比較部をさらに備える、請求項5又は6記載の支援システム。
【請求項8】
前記評価実行部は、前記主成分得点比較部、前記角度・モーメント比較部及び前記総合指標比較部の少なくとも1つによる比較結果に基づいて、評価指標値を算出する評価指標値算出部をさらに備える、請求項7記載の支援システム。
【請求項9】
前記主成分得点推定パターン及び前記主成分得点標本パターンは、前記被験者の歩行動作を特徴付ける項目である歩行特徴項目に基づいて決定される、請求項8記載の支援システム。
【請求項10】
前記評価指標値算出部は、前記歩行特徴項目について、前記標本の歩行動作に対する前記被験者の歩行動作の類似度を、前記評価指標値として算出する、請求項9記載の支援システム。
【請求項11】
前記評価実行部は、複数の前記歩行特徴項目について前記被験者の歩行動作を評価する、請求項10記載の支援システム。
【請求項12】
前記評価指標値算出部は、前記複数の歩行特徴項目から、前記類似度が最大である歩行特徴項目及び前記類似度が最小である歩行特徴項目の少なくとも一方を、前記評価指標値として算出する、請求項11記載の支援システム。
【請求項13】
前記評価指標値算出部は、前記複数の歩行特徴項目のそれぞれの前記類似度の比率を算出する、請求項11記載の支援システム。
【請求項14】
前記被験者の歩行動作についてアドバイスを提供するアドバイス提供部をさらに備える、請求項10から13のいずれかに記載の支援システム。
【請求項15】
前記歩行特徴項目と、前記被験者の歩行動作に関する変更対象を示す変更対象項目とが予め対応付けられた変更対象項目データベースをさらに備え、
前記アドバイス提供部は、前記評価実行部の評価結果及び前記変更対象項目データベースに基づいて、前記アドバイスを提供する、請求項14記載の支援システム。
【請求項16】
前記変更対象項目と、前記被験者の歩行動作に関するアドバイスを示すアドバイス候補とが予め対応付けられたアドバイス候補データベースをさらに備え、
前記アドバイス提供部は、前記評価実行部の評価結果、前記変更対象項目データベース及び前記アドバイス候補データベースに基づいて、前記アドバイスを提供する、請求項15記載の支援システム。
【請求項17】
前記アドバイス提供部は、予め決められた優先順位に基づいて前記変更対象項目及び前記アドバイス候補を決定することを含む、請求項16記載の支援システム。
【請求項18】
前記アドバイス提供部は、前記評価実行部の評価結果によって決められた優先順位に基づいて前記変更対象項目及び前記アドバイス候補を決定することを含む、請求項17記載の支援システム。
【請求項19】
前記被験者の属性データを取得する属性データ取得部をさらに備え、
前記評価実行部は、前記属性データに基づいて、前記被験者の歩行動作を評価する、請求項1から18のいずれかに記載の支援システム。
【請求項20】
前記被験者の歩行動作によって得られたデータを格納する被験者データベースをさらに備える、請求項1から19のいずれかに記載の支援システム。
【請求項21】
前記角度・モーメントデータは、前記関節角度データ及び前記関節モーメントデータを含む、請求項1から20のいずれかに記載の支援システム。
【請求項22】
前記角度・モーメントデータは、前記被験者の股関節、膝関節及び足首関節の少なくとも1つの関節についてのデータである、請求項1から21のいずれかに記載の支援システム。
【請求項23】
前記床反力データは、前記被験者が歩行動作を行う歩行誘導装置に設けられたセンサの検出結果に基づいて得られる、請求項1から22のいずれかに記載の支援システム。
【請求項24】
前記床反力データ取得部は、前記床反力データを通信ネットワークを介して取得する、請求項1から23のいずれかに記載の支援システム。
【請求項25】
被験者の歩行動作の改善を支援する支援方法であって、
前記被験者の歩行動作に伴う床反力の変化を示す床反力データを取得するステップと、
歩行動作に伴う、少なくとも1つの関節の角度の変化を示す関節角度データ及び当該関節のモーメントの変化を示す関節モーメントデータの少なくとも一方を含む角度・モーメントデータについて、前記被験者の歩行動作に関する少なくとも1つの主成分得点を含む主成分得点推定パターンを、前記床反力データに基づいて推定するステップと、
推定された前記主成分得点パターンである主成分得点推定パターンに基づいて、前記被験者の歩行動作に関する前記角度・モーメントデータを推定するステップと、
前記主成分得点推定パターン及び推定された前記角度・モーメントデータである角度・モーメントデータ推定値に基づいて、前記被験者の歩行動作を評価するステップと
を含む、支援方法。
【請求項26】
前記被験者の歩行動作の評価結果に基づいて、前記被験者の歩行動作について当該被験者へアドバイスを提供するステップをさらに含む、支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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