説明

支線式地盤崩落予知装置

【課題】 地盤の崩落の予知を、崩落危険現場に立ち入ることなく、行なうことができる装置を安価に且つ小型に製作できるようにする。
【解決手段】 崩落が予想される地盤に固定する測定点設定部10と、安定している地盤に設置される変位検知装置12との間に検知ワイヤー14を張り渡し、検知ワイヤーの伸縮による変位により地盤の崩落を予知する。変位検知装置は、定張力バネ50を用いて常時検知ワイヤーに拡大された張力を間接的に与えつつ、検知ワイヤーの伸縮により得られた直線的変位を回転運動に変換し、自身の自重によって初期位置を常に回復するようなセンサー板44に、定時間間隔でその結合が解除されるようなクラッチ機構を介してその回転を伝達し、回転力を与えられたセンサー板が、定時間間隔で零点復帰しつつ、一定時間内に限度以上の回転を行なった場合のみこれを検出し、危険予知信号として発信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地滑り発生の恐れがある軟弱急傾斜面や、落下の危険がある不安定状態の岩石などの崩落を事前に予知し、落盤や崩落による人命や物質的被害を最小限にとどめるために供される、崩落予知装置の構造に関する発明である。
【0002】
崩落の危険がある土砂または岩石が、崩落を起こす場合、崩落現象が起こる前から崩落部分に地滑りなどの部分的移動現象がみられ、さらに崩落直前において、その移動量が加速的に増大するのが一般的である。本発明は、このような地盤崩落にかかわる一般的な現象を利用して、崩落部の加速的変移量を検出し、この変移量の変化を観測することによって、地盤崩落の予知を行なう装置の構造に関するものである。
【0003】
崩落の危険を知る具体的手段としては、安定地盤に固定された警報装置と崩落の危険がある不安定地盤との間に敷設された支線の伸縮を変移検知装置内で検知し、この伸縮によって感知された不安定地盤の変移量が一定時間内に定量を越えると危険を報知する方法がとられる。これらの目的とおおまかな手段の概要は、特許文献1に示すとおりである。しかしながら、現実に地盤崩落の検知と警報を行うためには、特許文献1のみの方法では実用化が困難であり、本発明はこれらの欠陥を克服し、現実的で有効な装置を実用化するためになされたものである。
【特許文献】特願2004−100016
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
崩落の危険予知のために検知されなければならない不安定地盤の移動の態様は、一義的には定常的変化の累積量ではなく、変化の加速度である。このため崩落を予知する検知装置内における計測には、単位時間内における変化量を検知する必要を生じる。例えば特許文献1の例では、単位時間ごとにリセットボタンを手動で押圧することによって、対向するスイッチを、地盤変移に直結して直線的に移動するアクチュエータに定時間間隔をもって追随移動させ、これによってスイッチ作動点に至る空隙を一定に保ち、この空隙を単位時間当たりの許容移動量とすることによって単位時間内の変移量の限界を設定している。
【0005】
しかしのような方法では、単位時間毎に手動でリセット作業を行なわなければならず、崩落の危険が予想される危険域で、定期的に操作する必要を生じるという実用上の問題点があり、また電気信号によって遠隔制御をする場合は、その構造上リセット動作に要する動作は、強力かつ長行程であることが求められるために、モーターなどの動力やその回転力を往復運動に変換するなどの機構を要し、実用的ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特許文献1の例では、不安定地盤の移動に直結されたアクチュエータの直線運動を直接検出する構造であるが、本発明では、ラック歯車とピニオンの組合せやワイヤー巻取りドラムなどの動作により、不安定地盤の移動から得られる直線運動を回転運動に変換し、この回転力をクラッチ機構を介して回転検出板に伝達し、回転検出板の回転角度によって、地盤の移動量を検出する構造とした。
【0007】
例えば、特許文献1の変位検知装置では、崩落地盤の変移量を、等価的に検知器の内部で再現する構造であったために、地盤変移という微小な変位の検知感度の向上をはかるため、時には崩落地盤との間に敷設される支線を滑車を介して往復させるなどの手段によって、変位量を拡大するなどの方法がとられなければならなかった。本発明は、直線的な変移を回転角度に変換することとしたので、この変換過程で回転側の回転直径を任意に選択する方法により、角度として検出される変移量を任意に拡大することが可能となり、支線を二重に敷設するなどの方法を用いなくとも、容易に検出精度の向上をはかることができるようになった。
【0008】
直線的変位を回転運動に変換された回転検出板はその円周上に非接触光学センサー等により回転角度を検出するための欠損部や部分的無反射面を設けるとともに、その重心を回転中心から外れた位置におき、回転軸からの回転力を伝達するクラッチ機構の拘束が解除されると、回転途中からその自重により、振り子のごとく回転中心直下にその重心が位置するような自然位置に戻る構造とし、重力という自然現象によって、自動復帰がなされる構造とすることで、簡易なリセット機構を得ることができた。
【0009】
クラッチ機構は、バネ力によって摩擦板を押圧し、この摩擦板の摩擦力によって回転軸のトルクを回転検出板に伝達する構造であり、回転検出板を軽量化することによって、クラッチ制動力を小さく設定することが可能である。クラッチ機構は、摩擦板にバネ圧を付加するなどの方法がとられるが、このクラッチの結合力を解除する方法としては、摩擦板を押圧しているバネ圧を電磁ソレノイドなどの吸引力で引き戻すなどの方法が現実的である。いずれにせよ、求められる作用力は比較的小さく作用行程も小さくて済み、リセット構造は、特許文献1に示す手動リセット機構を自動化する場合と比較して、重力復帰という自然現象を活用しただけ簡易になり実用的なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
不安定地盤と検知装置間に敷設される支線には常に一定張力が加えられることによって支線の弛みの影響を受けることなく伸縮量をそのまま地盤の相対距離の変位として観測することが可能になる。特許文献1の例では、定張力バネの復元力によって支線への張力が付加されることになっている。ここに用いられている定張力バネは、同一半径に焼入れされた鋼帯の復元力を用いたものであるが、こうした定張力ばねは、動作行程は比較的長くとれるものの、強力な復元力は得にくい。これに対して本装置に用いられる支線に起こり得る伸縮量は、地盤の変移という微小距離でしかなく、これに対して支線に付加される風圧や着雪した雪の荷重、滞留した野鳥の重量などの荷重の影響を最小限に止めるためには、強い張力が加えられることが求められる。
【0011】
本発明は、前記
【0010】
において記述したような定張力バネの特性を、本装置に適切に応用するために、等張力バネの力を直接支線に付加せず、その動力を動滑車や異径ドラムを介して伝達し、動作行程の長さを半減させる代わりに作用力を倍加した上で、その作用力を、支線の張力として用いる構造である。なお、実施例1としては、作用力倍加の例を示すが、必要によって動滑車の数を増加させることもでき、実施例2における構造例では、異径ワイヤー巻きドラムの径比を任意に選択することによって、作用力の増幅比は任意に選択できる。
【0012】
本発明にかかわる変位検知装置を、実際の崩落危険現場に敷設する場合、例えば崩落危険域の上方に変位検知装置を設置した場合、支線は地盤移動によって引き伸ばされ、検知装置に対して引き出される方向に作動し、崩落危険域より下方に変位検知装置を設置した場合、支線は地盤移動によって収縮し、検知装置に対して引き込まれる側に作動することになる。変位検知装置内では崩落地盤の移動に見合う直線運動が再現されるが、その運動が伸びる方向となるか、収縮する方向となるかは、装置の設置場所によって決定づけられる。したがって、装置内に設定される累積移動を受容するスペースは、変位検知装置内の初期設定位置を任意に選択できる構造であれば、その変位受容空間は、変位が起り得方向にだけ設ければよく、双方向移動を想定した、特許文献1の例の構造の長さの半分で済むことになる。
【0013】
崩落の危険が予想される地盤や不安定岩石の累積変位量が、想定範囲を超えても崩落が起こらなかった場合、検知装置内の変位受容空間が変移によって飽和状態になり、検知装置としての機能を果たし得なくなる。本発明はかかる事態になっても、装置に再び初期設定状態を回復させ、ひきつづき観測することを可能にするために、観測地点の累積移動量が変位受容範囲の限界に達したことを感知するリミットスイッチを設けるとともに、支線長を調整することによって、観測点から定張力バネに至る張力伝達線の総長を調整し、定張力バネを初期設定位置に戻せる構造とし、ひきつづき観測を持続して行なうことを可能としている。
【0014】
前記のリミットスイッチの信号は有線または無線によって、別の場所に設置された警報装置に送信され、監視者もしくは設備の保守者に報知される。比較的保守が簡単にできる設置場所では手動で支線長の調整を行なうことができるが、保守が困難な設置場所では、警報装置からの遠隔操作によって、変位検知装置内の支線長調整機構をモーターなどで遠隔操作することも可能となる構造としている。
【0015】
地滑りや岩石の崩落の危険が見込まれる地形は、必然的に急傾斜地形であり、本発明に関わる変位検知装置はこのような急傾斜地形に設置される。したがって不安定地盤と検知装置の間に敷設される支線は、急傾地形に沿って傾斜をもって敷設される一方、検知装置自体は流水などの影響排除のための台座などの上に平面的に設置され、不安定地盤の傾斜とは異った角度で取り付けられることとなる。いずれにせよ、支線と検知装置の傾斜角は一致しないことを前提としなければならず、このことは、検知装置に対して、支線が不特定の角度をもって検知装置から引き出されることを意味する。
【0016】
急傾角度をもって敷設された支線は、降雨や降雪に曝されることになるが、変移検知装置が傾斜面の下方に設置された場合、支線に付着した雨水や融雪水は、支線を伝い、変移検知装置内に導かれる。通常、こうした支線は、表面に凹凸を形成する、複数の線材を拠り線が用いられるので、ゴムパッキン等でその防水を行なうこと困難であり、また不特定の角度をもって引き出さなければならないという、構造上の要求を満たさなければならないため、通常このような場所に用いられるゴムパッキンなどでは、防水効果が期待できない。
【0017】
本発明の変位検知装置では、支線引き出し部に密接対向する二個の滑車を配置し、この密接対向する滑車の間を外側から引き込まれた支線を、更に他の滑車によって、少なくとも水平よりも上向きに導いた後に装置内に導入する構造となっている。支線は、二個の密接対向する滑車の間を通り抜けることによって、上下方向のいかなる角度に向かっても抵抗なく出し入れすることが可能になるとともに、支線を伝わって落下してきた水滴は、反転して上方に導かれる支線に追随できず、滑車間において水切りが行なわれる構造となっている。
【0018】
本発明の変位検知装置では、上記水切り用の滑車は、装置の下側の一部に形成された凹部の壁面に配列されている。これによって、滑車は直接風雨に曝されない下面開放の空間に装備され、水切りが理想的に行なわれるとともに、水切り部と装置本体機構とは装置壁で遮蔽され、弾性体より成るブッシュを挿通して支線が装置内に導かれることによって、装置内への浸水が防御される。また、変位検知装置の下部に形成された支線導入用凹部は、必要によってカバー等で遮蔽することによって更に防水効果を上げることができる。
【0019】
以上記述してきたような変位検知装置が据え付けられなければならない危険現場は、峻険な地形にあり、常時監視できる条件にはない。変位検知装置によって検出された危険信号を受信し、非常灯や危険信号音により、危険を報知する警報装置は、崩落を検知する変位検知装置とは別の場所に設置されることによってはじめて実用的な設備となり、またこれらを別体にすることによって、複数の変位検知装置を一個の警報装置で監視できる利点がある。これらの構成に関する基本的考え方は、特許文献1に示すとおりであるが、本発明はこれら個別に設置される、変位検出装置と警報装置の間で応答する電気信号の内容が、その構造の改良にともなって異なったものになっている。特許文献1の場合は、単に定時間内に定量以上の変位が起った信号だけを変位検出装置から警報装置に送信することになっているが、本発明の場合はこのほかに、定時間をもって電磁ソレノイドなどを駆動するリセット電源を警報装置側から変位検知装置に送電する構造となる。
【0020】
また本発明の地盤崩落予知装置では、地盤変位の累積が定量以上になった場合のリミット信号を変位検知装置から警報装置に送信する機能を有する。現実には、変位検知装置の設計時において、必然的に崩落が起こる累積移動距離を想定してその構造が決定されているので、リミット信号が発せられるのは想定外の事態が起こった稀有な事態と考えられる。しかし、例えば保守者が近づくことができない場所に設置される変位検知装置においては、稀有な事態にも対応しなければならず、変位検知装置内の初設定回復を遠隔操作で行う必要を生じる。これら遠隔操作は警報装置から送電されて駆動するモーター等で行なわれることになるが、これらは本発明の発展的形態である。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明に係る変位検知装置の実施例1を示す説明図であり、Aは上蓋を除き、その一部を破断した平面図であり、Bはその側断面図で、重なり合った主要部品を点線で示している。またCはクラッチ部分の拡大詳細図である。本装置は、地盤の測定点(崩落が予想される地点)に固定する測定点設定部10と、地盤の他の設定点(安定していると考えられる地点)に固定した変位検知装置を有し、両者の間に検知ワイヤー14を張り渡し、該検知ワイヤー14の一端に、間接的に張力を伝達される定張力バネ50により張力を与えつつ、検知ワイヤー14の変位量によって、地盤の崩落を予知する構造である。
【0022】
測定点設定部10は、ワイヤー終端部を固定する、ワイヤー固定具16及び平面方向に回転できるヒンジ金具18を介して測定ボルト(アンカーボルト)20で地盤にワイヤーを固定される構造である。ワイヤーは、本装置が設置される斜面に対して、概ね平行に張り渡されることになるので、同じく斜面に対して概ね直角に打ち込まれる測定ボルト20とは直角になり、水平方向に旋回可能な、ヒンジ金具18の働きによって、変移検知装置12への向きを一致させることができる。
【0023】
検知ワイヤー14は変位検知装置12の底面に形成された凹部に設けられた複数の導入滑車22に導かれ、変位検知装置12の壁に設けられた弾性体で製作されたブッシュ24を挿通して、検知装置内に引き込まれる。導入滑車22の内の二個は、検知ワイヤー14の引き出し出口に垂直に対向して取り付けられ、該検知ワイヤー14が変位検知装置12に対する上下方向の角度差を生じても抵抗なく挿通できるとともに、該対向滑車の間を通過した検知ワイヤー14が他の導入滑車によって、上方に導かれることによって、前述のブッシュ24の働きと相まって、検知ワイヤー14によって導かれた雨水や、付着した結露水などの水切りをする構造になっている。
【0024】
検知ワイヤー14は、変位検知装置12内に設けられた、位置決め滑車26の間を通過して、巻き取りドラム28に巻き取り固定され、余長が収納される構造になっているが、位置決め滑車26の働きによって、巻き取り数増減にともなう巻き位置の変動に係わらず、検知ワイヤー14が常にブッシュ24の中心を通過する構造になっている。また、巻き取りドラム28における巻取り量を任意に選択することによって、ワイヤーの余長の調整を行なうことが可能となり、最終的にはこれによって崩落が予想される地点に固定された、測定点設定部10から、定張力バネ50に至る総長を調整することが可能となり、測定点設定部10の予想を上回る変位の後も崩落が起こらず、ひきつづき監視を要する場合に、定張力バネ50を初期設定状態に復帰させることを可能とする構造となっている。
【0025】
検知ワイヤー14には、最終的には定張力バネ50の張力が恒常的に加えられているが、定張力バネ50の張力は、動滑車30と固定滑車32を周回する伝動ワイヤー34によって、作用行程を半減しつつ作用力を倍増させて、間接的に検知ワイヤー14に伝動されている。
【0026】
動滑車30はガイドレール36上の直動ステージ37に、巻き取りドラム28や、後述のピ二オン歯車38やセンサー板44などとともに取り付けられ、測定点設定部10の変移によって検知ワイヤー14と定張力バネ50の張力とが均衡する位置に移動する構造になっているが、この移動時に、ガイドレール36と平行に固定設置されているラック歯車35と噛み合ったピニオン歯車38に回転力が与えられ、この回転力を、(以下C参照)回転軸39やクラッチ板40の摩擦力を介して伝達されたセンサー板44が、移動しつつ回転する構造となっている。
【0027】
センサー板44は、自由状態においては、クラッチバネ41によって押圧力を与えられたクラッチ板40によって、回転軸39の回転力が伝達されているが、電磁ソレノイド42によって、クラッチ板40に押圧力を加えているクラッチバネ41のバネ力が引き戻されると、ピ二オン軸39との結合が解かれる。回転中心とは異なる位置が重心となるように形成されているセンサー板44は、回転軸39との結合が解かれると、その自重により、回転中心の直下に重心が位置するような角度に自律的に自己復帰する。
【0028】
センサー板44の外周(以下B参照)には非接触の位置センサー46が検知できるような欠損部や励磁部などが設けられており、測定点設定部10の変移を反映したセンサー板44の回転角が定量以上になった場合にのみこれを感知し、その信号が送信コネクタ52によって取り出され、別体で別の場所に設置された警報装置60(図4参照、後述)に、通信ケーブルによって、崩落危険信号として送信される構造である。また、直動ステージ37の両サイドにはリミントスイッチ47、48が取り付けられ、直動ステージ37の動作限界を感知するとともに、その信号を危険崩落信号と同じく、警報装置60に送信する構造であり、このような手段により、危険地域に近づくことなく、安全地帯から危険監視を行なうことができる構造となっている。
【0029】
図2は、本発明に係わる変位検知装置の実施例1の反対側の側断面を示す図で、Aは全体図、Bは巻き取りドラム部分の拡大詳細図である。巻き取りドラム28(図1に図示)の端面には、旋回を容易に行なうためのボルトノブ54が設けられ、検知ワイヤー14が引き戻されるのを阻止するために、回り止め歯車56と板バネ58の組み合わせによる逆回転防止機構が設けられている。板バネ58を対称形とすることによって、回転阻止方向を逆方向に設定できるので、装置全体が、測定点設定部10の移動により、定張力バネ50が引き伸ばされる方向に据付けられているか、収縮する方向に据付けられているかによって、対応を任意に選択することができる。また、ボルトノブ54の旋回を、モーター等によって行なうことによって、保守のために変位監視装置を直接操作する必要はなくなる。
【0030】
図3は本発明に係わる変位検知装置の実施例2を示す図で、Aは上蓋を除きその一部を破断した平面図であり、Bはその側断面図で、重なり合う主要部品は点線で示している。実施例1の場合は、定張力バネ50の作用力を、動滑車を介在させることにより倍加していたが、本案では同一軸に段差を以って設けられた、径の異なる巻き取りドラムを介して、測定点設定部10からの検知ワイヤー14を定張力バネ50への張力の伝達を間接的に行うことによって、定張力バネ50の作用力を倍加する構造である。
【0031】
実施例1の場合は、センサー板44の回転力を得るために、ラック歯車と噛み合うピ二オン歯車を移動回転させていたが、本案では伝動ワイヤー34をワイヤープーリー64の外周を周回させ、検知ワイヤー14から伝達された直線動作を回転運動に変換する構造となっている。変換された回転動力が、クラッチ機構によって、センサー板44に伝えられ、自動的にリセット運動を繰り返す構造は、実施例1の構造と同じである。固定滑車32とワイヤープーリー64の間には、対向する二個のガイド滑車66を介在させ、伝動ワイヤー34の脱落を防ぐと共に、伝動ワイヤー34のワイヤープーリー62に対する巻き方向を任意に選択し、変移の方向如何に係わらず、センサー板44に対する位置センサー46の位置を一定位置に設置できる構造となっている。
【0032】
伝動ワイヤー34の終端は、定張力バネ50の張力を受けつつ、駆動ドラム62に巻き取られ、定張力バネ50の張力はトルク変換されて、比較径が小さい巻取りドラム28に働く構造になっている。巻き取りドラム28に巻き取られている検知ワイヤー14には、駆動ドラム62と巻き取りドラム28の直径比に逆比例して拡大された張力がかかる構造となっている。また、定張力バネ50が、初期設定時と許容変移量いっぱいまで変形した各々の場合において、リミットスイッチ47、48を設け、使用限界を検知すると共に、初期設定回復が確認できる構造となっている。
【0033】
通常状態において、駆動ドラム62と巻き取りドラム28は、回り止め歯車56と板バネ58の噛み合いによって結合されて、同一方向に同一回転数で回転するが、例えば測定点設定部10の変移により、検知センサー14が過剰に引き込まれた場合に例をとると、巻き込みドラム28における検知ワイヤー14の巻き数は増加し、駆動ドラム62における伝動ワイヤー34の巻き数は減少する。ワイヤー長の調整は、巻き込みドラム28を固定しながら、駆動ドラム62のみを旋回することによって行なうが、この場合に巻き込みドラム28を固定するために、固定フック68を装備している。板バネ58と固定フック68の形状は、測定点設定部10の変移により、検知ワイヤー14が引き出されるような装置の据付が行なわれた場合は、対称形のものが用いられることによって対処できる構造である。
【0034】
本発明では、上記のような変位検知装置及と、ここから発信される警報信号を受信して地盤崩落警報を発報する警報装置と組み合わせて地盤予知システムを構成する。警報装置の一例を図4に示す。Aは平面を表し、Bは側面を表している。警報装置70は,筺体72の視認し易い上面に警報ランプ74を設け、操作し易い上面に表示を兼ねたランプスイッチ80と共に、その側壁に電源コード76と、監視を要する変移検知装置の台数に等しい数の受信コネクタ78が装備されている。表示を兼ねたスイッチの機能は、崩落危険信号や、飽和信号を発信している変移検知装置を個別に点灯によって表示し、必要がある場合は監視下にある変移検知装置内の電磁ソレノイド駆動電源の投入や、その他の電気信号の状態を個別に監視し、その制御を行なう。
【0035】
変位検知装置から発信される信号は、一定時間内に測定点設定部の移動を感知して発信される危険予知信号と、測定点設定部の累積移動量が、変位検知装置の許容移動量を越えたことによって発信される飽和信号である。警報装置は、これらの信号を受信し、地盤崩落の危険を警報灯や警報音により監視者に報知し、また飽和信号を受信して変移検知装置の適正な保守を行なうと共に、一定時間間隔を以ってリセット操作のための電磁ソレノイド駆動電力を送電し、測定点設定部の累積変移量が許容変移量に達した変移検知装置内の累積移動の初期設定状態への回復を自動で行なう場合はこのためのモーター駆動電源を送電する。
【0036】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこのような構成のみに限定されるものではなく、通信線の敷設が困難な地勢に対応して、通信の無線化が行われる場合や、電源が得られ難い地勢に対応して、太陽電池などを用いた自己電源化などの発展的なシステムが考えられる。このような場合も、二点間に張り渡されたワイヤーの伸縮により、地滑りの兆候を感知する、これまで記述したような検知構造を持つ変位感知装置をシステムの基本構成機器として、これを安全地帯で保守しつつ監視できる監視装置を組み入れた地盤崩落監視システムは、本発明の基本概念を逸脱するものではなく、この範疇に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係わる支線式地盤崩落予知装置の一実施例を示す説明図。
【図2】図1に示した支線式地盤崩落予知装置の他の説明図。
【図3】本発明に係わる支線式地盤崩落検知装置の他の実施例を示す図。
【図4】本発明に係わる支線式地盤崩落予知装置の警報装置の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0038】
各図共通番号
10測定点設定部
12変位検知装置
14検知ワイヤー
16ワイヤー固定具
18ヒンジ金具
20測定ボルト
22導入滑車
24ブッシュ
26位置決め滑車
28巻き取りドラム
30動滑車
32固定滑車
34伝動ワイヤー
35ラック歯車
36ガイドレ−ル
37直動ステージ
38ピ二オン歯車
39回転軸
40クラッチ板
41クラッチバネ
42電磁ソレノイド
44センサー板
46位置センサー
47,47リミットスイッチ
50定張力バネ
52送信コネクタ
54ボルトノブ
56回り止め歯車
58板バネ
以下図3の番号
62駆動ドラム
64ワイヤープーリー
66ガイド滑車
68固定フック
以下図4の番号
70警報装置
72きょう体
74警報ランプ
76電源コード
78受信コネクタ
80ランプスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数地点間に敷設した支線の伸縮によって、支線固定点相互の位置変化を検出し、これにより地盤崩落を予知する地盤崩落予知装置において、安定地盤に固定された変位検知装置内に、敷設された支線の一端を引き込み、該支線端の伸縮直線動作から変換して得られる回転力によって回転する回転体の回転角度によって、測定地点間の変位を検出する変位検知機構を装備した地盤崩落予知装置。
【請求項2】
上記請求項1の変位検知装置における回転体の形状を、その重心が回転中心とは異なる位置にあるような偏心回転板とし、支線移動から得られる回転力をクラッチ装置を介して伝達すると共に、その回転規制力が定期的に解除されることによって、偏心回転体がその自重により、動作途中から定期的に自然位置に回帰し、回帰した零点から定時間内における変位が、あらかじめ設定した値を越えることを以って危険信号を発信する変移検知機構を有する地盤崩落予知装置。
【請求項3】
上記請求項1の変位検知装置の内部に、変形量に関わりなく、一定の復元力を働かせる定張力バネと、当該バネとの組み合わせによりバネ力を拡大する動滑車または異径滑車の組み合わせ等のバネ力拡大機構を有し、該定張力バネを不安定地盤と安定地盤に張り渡された支線にバネ力拡大機構を介して接続させ、拡大された定張力バネ力によって、伸縮量に関わりなく、支線に一定の張力が付加されていることを特徴とする地盤崩落予知装置。
【請求項4】
上記請求項1の変位検知装置の支線引き込み部に複数の滑車を配し、当該検知装置に対する支線の角度が変化しても当該支線の出入が抵抗なく行なわれるとともに、複数の滑車に導かれた支線が最下点より上向きに反転した後に、装置内に引き込まれるような経路を形成することによって、支線を伝わって流入する雨水の水切りを行なう構造を有する地盤崩落予知装置。
【請求項5】
上記請求項1より請求項4の地盤変位検出機構を内臓する変位検知装置と、当該検知装置に定時間隔でクラッチ解除機構を駆動する電気信号を送信するとともに、該検知装置内の偏心回転体が定時間内に所定幅を越える回転をした場合に発信される警報信号を受信し、警報音やランプ点灯により危険を報知する、該検知装置とは別体の警報装置とによって構成される地盤崩落予知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−24852(P2007−24852A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237980(P2005−237980)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【出願人】(505312268)有限会社宮崎設計事務所 (1)
【Fターム(参考)】