改善された特異性を有する新規免疫グロブリン結合タンパク質
【課題】免疫グロブリンに対する改善された結合特異性を有する修飾された免疫グロブリン結合タンパク質の提供。
【解決手段】ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインが、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン若しくはトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質であって、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合するが、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す免疫グロブリン結合タンパク質。
【解決手段】ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインが、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン若しくはトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質であって、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合するが、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す免疫グロブリン結合タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年8月11日に出願された米国仮特許出願61/188,549号および2009年4月16日に出願された米国仮特許出願61/212,812号(これらの各々の内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)の優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、免疫グロブリンに対して改善された結合特異性を有する、修飾された免疫グロブリン結合タンパク質、例えば、ブドウ球菌プロテインA、並びにこれを製造及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ブドウ球菌プロテインA(SpA)は、細菌スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)由来の42kDaのマルチドメインタンパク質である。SpAは、そのカルボキシ末端細胞壁結合領域(Xドメインと称される。)を介して、細菌の細胞壁へ結合されている。SpAは、アミノ末端領域に、E、D、A、B及びCと称される5つの免疫グロブリン結合ドメインを含む(Sjodhal,Eur J Biochem.Sep;78(2):471−90(1977);Uhlen et al.,J Biol Chem.Feb 10;259(3):1695−702(1984))。これらのドメインの各々は、約58アミノ酸残基を含有し、65から90%のアミノ酸配列同一性を共有する。SpAのZドメインは、SpAのBドメインの加工された類縁体であり、29位のグリシン残基の代わりにアラニンを含む。
【0004】
SpAをベースとする試薬には、バイオテクノロジーの分野において、例えば、抗体の捕捉及び精製用のアフィニティークロマトグラフィーにおいて並びに抗体検出法において幅広い用途が見出されている。現在、SpAをベースとするアフィニティー媒体は、おそらく、モノクローナル抗体及びその断片を細胞培養物などの様々な試料から単離するために最も幅広く使用されているアフィニティー媒体である。従って、例えば、ProSep(R)−vAHighCapacity、ProSep(R)−vAUltra及びProSep(R)UltraPlus(Millipore)及びプロテインASepharoseTM、MabSelectTM、MabSelectXtraTM及びMabSelectSuRe(R)(GEHealthcare)などの、プロテインAリガンドを含む様々なマトリックスが市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sjodhal、Eur J Biochem.Sep、78(2)、1977年、pp.471−90
【非特許文献2】Uhlen他、J Biol Chem.、259(3)、1984年2月10日、pp.1695−702
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも1つには、免疫グロブリンのFc部分を結合する能力を保持しながら、以前に公知のSpA変異物と比べて、免疫グロブリンのFab部分への減少した又は増加した結合を示す新規及び改善されたSpA変異物を提供する。
【0007】
幾つかの実施形態において、本発明は、Fabを結合する(時折、望ましくない特性)、プロテインAをベースとする多くの市販の試薬と比べて、低減したFab結合を示す、新規及び改善されたSpA変異物を提供する。
【0008】
一実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合ドメインは、少なくとも29位のアミノ酸を置換するために修飾されたSpAの1つ又はそれ以上のドメイン(すなわち、E、D、A、B、C及びZ)を基礎としている。ドメインE、D、A、B及びCの場合には、29位のアミノ酸はグリシンであり、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換されている。ドメインZの場合には、29位のアミノ酸はアラニンであり、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換されている。特定の実施形態において、29位のグリシンは、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換されており、又は29位のアラニンはグリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換されている。
【0009】
従って、一実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともEドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンの何れかを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Eドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0010】
別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともDドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Dドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0011】
さらに別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともAドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Aドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0012】
別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともBドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Bドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0013】
さらに別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともCドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Cドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0014】
別の実施形態において、少なくとも29位のアラニン残基がグリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともZドメインを少なくとも含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Zドメインの29位のアラニン残基は、グリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0015】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、2以上の修飾されたSpAドメイン又はその公知の変異物(例えば、E、D、A、B、C及び/又はZ並びにこれらのあらゆる組み合わせの2以上)を含み、各ドメインは別のアミノ酸、例えば、アラニン、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された29位のグリシン(すなわち、E、D、A、B及びCドメインの場合)又はアラニン(すなわち、Zドメインの場合)を含む。特定の実施形態において、29位のグリシン又はアラニンは、アラニン、グリシン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている。
【0016】
幾つかの実施形態において、単離されたE、D、A、B及びCドメインの1つ若しくはそれ以上の中の29位のグリシン(G)又は単離されたZドメイン中の29位のアラニンは、ロイシン(L)、リジン(K)、アスパラギン(N)、バリン(V)、イソロイシン(I)、セリン(S)、システイン(C)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、グルタミン酸(E)、グルタミン(Q)、ヒスチジン(H)、プロリン(P)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)又はこれらの機能的変異物若しくは誘導体からなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0017】
特定の実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、ロイシン、リジン及びアルギニン又はこれらの機能的変異物若しくは誘導体からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換された29位のグリシン残基(例えば、E、D、A、B及びCドメインの場合)又は29位のアラニン(例えば、Zドメインの場合)を含む。
【0018】
さらなる実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、SpAのカルボキシ末端領域(Xドメインと表記される。)の少なくとも一部をさらに含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、別のアミノ酸で置換された(例えば、23位の)アスパラギンをさらに含む。
【0020】
別の実施形態において、ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む、単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への増加した結合を示す。)が提供される。
【0021】
幾つかの実施形態において、本発明の単離された免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にトレオニン又はトリプトファンを含み、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への増加した結合を示す。幾つかの実施形態において、Fc部分はFc融合タンパク質の一部であり得る。
【0022】
本明細書に記載されている様々な免疫グロブリン結合タンパク質によって結合され得る免疫グロブリンは、IgG、IgA及びIgMの1つ又はそれ以上を含む。
【0023】
他の実施形態において、免疫グロブリン又は抗体の単離のために有用なクロマトグラフィーマトリックスが提供される。一実施形態において、本発明のクロマトグラフィーマトリックスは、固体支持体に結合された、本明細書中に記載されている単離された免疫グロブリン結合タンパク質を含む。
【0024】
本明細書に記載されている様々な免疫グロブリン結合タンパク質をコードする核酸分子及びこのような核酸分子を含む宿主細胞も本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。
【0025】
さらに、本発明は、本明細書に記載されている1つ又はそれ以上の免疫グロブリン結合タンパク質及びその機能的変異物を含むポリペプチドのライブラリーを包含する。さらに別の実施形態において、本発明は、本発明によって包含される1つ若しくはそれ以上の免疫グロブリン結合タンパク質をコードするか又はその機能的変異物をコードする核酸分子のライブラリーを提供する。
【0026】
本明細書に記載されている免疫グロブリン結合タンパク質を使用する方法も、本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程と、(b)前記1つ又はそれ以上の免疫グロブリンが、免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックスに結合するような条件下で、本明細書に記載されているように、前記クロマトグラフィーマトリックスと前記試料を接触させる工程と、及び適切なpHで溶出することによって、前記1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程とを含む、1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを試料からアフィニティー精製する方法が提供される。
【0027】
本明細書中に記載されている様々な実施形態において、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンが溶出される適切なpHは酸性pHである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、配列番号1から5によって表される、SpAの野生型(wt)IgG結合ドメインに対する核酸配列を図示している。配列番号1は、wtEドメインに対する核酸配列を表す。配列番号2は、wtDドメインに対する核酸配列を表す。配列番号3は、wtAドメインに対する核酸配列を表す。配列番号4は、wtBドメインに対する核酸配列を表す。配列番号5は、wtCドメインに対する核酸配列を表す。
【図2】図2は、配列番号6によって表される、SpAのZドメインに対する核酸配列を図示する。
【図3】図3は、29位にグリシンを含むSpAの野生型(wt)IgG結合ドメイン(E、D、A、B及びC)のアミノ酸配列並置を図示する。配列番号7は、wtEドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号8は、wtDドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号9は、wtAドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号10は、wtBドメインのアミノ酸配列を表し、及び配列番号11は、wtCドメインのアミノ酸配列を表す。
【図4】図4は、配列番号12によって表されるZドメインのアミノ酸配列を図示する。
【図5】図5は、プラスミドpJ56:8620の模式図を表す。
【図6】図6は、29位のグリシンがロイシン、リジン又はアルギニンによって置換されている3つのSpABドメイン変異体に対する核酸配列を図示する。配列番号13は、SpA変異体G29Lに対する核酸配列を表し、配列番号14は、SpA変異体G29Kに対する核酸配列を表し、及び配列番号15は、SpA変異体G29Rに対する核酸配列を表す。
【図7】図7は、29位のグリシンがロイシン、リジン又はアルギニンによって置換されている3つのSpABドメイン変異体に対するアミノ酸配列を図示する。配列番号16は、SpABドメイン変異体G29Lに対するアミノ酸配列を表し、配列番号17は、SpABドメイン変異体G29Kに対するアミノ酸配列を表し、及び配列番号18は、SpABドメイン変異体G29Rに対するアミノ酸配列を表す。
【図8】図8は、ニワトリIgY抗プロテインA抗体を用いて、イー・コリ(E.Coli)BL21(DE3)細胞中のベクターPET11a:8620からのプロテインAの発現が検出された典型的なウェスタンブロット実験を図示している。
【図9】図9は、ニッケル樹脂単独への(陰性対照)又はMabSelectSuRe(R)クロマトグラフィー媒体(陽性対照)への免疫グロブリンのFc及びF(ab)2部分の結合を評価する代表的な実験、これに続く図示されているSDS−PAGE分析の結果を図示している。Eは、溶出液又はクロマトグラフィー後の結合された画分を表し、Sは上清又はクロマトグラフィー後の非結合画分を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2から5は、ニッケル樹脂へのF(ab)2(レーン2(E)、3(S))又はFc(レーン4(E)、5(S))の何れかの結合を表し、レーン6から9はF(ab)2(レーン6(S)、7(E))又はFc(レーン8(S)、9(E))のMabSelectSuRe(R)の結合を表し、並びにレーン10及び11はF(ab)2及びFcのみを表す。F(ab)2は約18kDaと20kDaの二重バンドとしてSDS−PAGE上を走行し、Fcは約22kDaのSDSPAGE上を走行する。それぞれレーン2(E)及び4(E)中に示されているように、F(ab)2及びFcは何れも、ニッケル樹脂(陰性対照)へ弱いないし無結合を示す。また、レーン7(E)に示されているように、F(ab)2はMabSelectSuRe(R)への結合を示すのに対して、FcはMabSelectSuRe(R)(陽性対照)への顕著な結合を示す。
【図10】図10は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーの後に図示されているSDS−PAGE分析を用いて、Hisタグ付加された野生型SpA(wtSpA)又は29位のグリシンの代わりにアラニンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29A)への、免疫グロブリンのF(ab)2及びFc部分の結合を評価する代表的な実験の結果を図示している。FはプロテインAの供給を表している。FTはプロテインA流出画分を表し、SはFc又はFab結合工程後の上清(非結合画分)を表し、及びEは溶出画分(結合された画分)を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2はF(ab)2又はFcへのwtSpAの結合を評価する実験から得られたF画分を図示し、レーン3から5はFT(レーン3)、S(レーン4)及びE(レーン5)画分中のF(ab)2へのwtSpAの結合を図示し、レーン6から8はFT(レーン6)、S(レーン7)及びE(レーン8)画分中のFcへのwtSpAの結合を図示し、レーン9はF(ab)2又はFcへのG29Aの結合を評価する実験から得られたF画分を図示し、レーン10から12はFT(レーン10)、S(レーン11)及びE(レーン12)画分中のF(ab)2へのG29Aの結合を図示し、並びにレーン13から15はFT(レーン13)、S(レーン14)及びE(レーン15)画分中のFcへのG29Aの結合を図示する。
【図11】図11は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーの後に図示されているSDS−PAGEを用いて、29位のグリシンの代わりにロイシンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29L)への、免疫グロブリンのF(ab)2及びFc部分の結合を評価する代表的な実験の結果を図示している。FはプロテインAの供給を表している。FTはプロテインA流出画分を表し、SはFc又はF(ab)2結合工程後の上清(非結合画分)を表し、及びEは溶出画分(結合された画分)を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2はF画分を図示し、レーン3から5はFT(レーン3)、S(レーン4)又はE(レーン5)画分中のG29LへのF(ab)2の結合を図示し、レーン6から8はFT(レーン6)、S(レーン7)及びE(レーン8)画分中のG29LへのFcの結合を図示する。
【図12】図12は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーの後に図示されているSDS−PAGEを用いて、29位のグリシンの代わりにリジンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29K)への及び29位のグリシンの代わりにアルギニンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29R)への、免疫グロブリンのF(ab)2及びFc部分の結合を評価する代表的な実験の結果を図示している。FはプロテインAの供給を表している。FTはプロテインA流出画分を表し、SはFc又はF(ab)2結合工程後の上清(非結合画分)を表し、及びEは溶出画分(結合された画分)を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2はF(ab)2及びFcへのG29Kの結合を評価する実験から得られたF画分を図示し、レーン3から5はFT(レーン3)、S(レーン4)又はE(レーン5)画分中のG29KへのF(ab)2の結合を図示し、レーン6から8はFT(レーン6)、S(レーン7)及びE(レーン8)画分中のG29KへのFcの結合を図示し、レーン9はF(ab)2及びFcへのG29Rの結合を評価する実験から得られたF画分を表し、レーン10から12はFT(レーン10)、S(レーン11)又はE(レーン12)画分中のG29RへのF(ab)2の結合を図示し、並びにレーン13から15はFT(レーン13)、S(レーン14)及びE(レーン15)中のG29RへのFcの結合を図示する。
【図13A】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13B】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13C】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13D】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13E】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図14A】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14B】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14C】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14D】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14E】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図15A】図15Aから15Bは、SpAクロマトグラフィー樹脂に対する代表的なFc及びFabパルス実験の結果を図示する。図15Aでは、Fcの非結合画分は7カラム容積(CV)で出現し、結合されたFcは23カラム容積で溶出する。
【図15B】図15Aから15Bは、SpAクロマトグラフィー樹脂に対する代表的なFc及びFabパルス実験の結果を図示する。図15Bでは、F(ab)2の非結合画分は7カラム容積で出現し、結合されたFcは23から25CVの間で溶出する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、少なくとも1つには、免疫グロブリンのFc部分を結合する能力を保持しながら、野生型SpA及び以前に記載されたSpAの変異物より低い親和性で、免疫グロブリンのFab部分を結合するSpAの変異物を提供する。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されているSpAの変異物は、29位にアラニンを有するSpAより高い親和性で、免疫グロブリンのFab部分を結合する。
【0030】
I.定義
本開示をより容易に理解できるようにするために、まず、ある種の用語を定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通じて記載する。
【0031】
本明細書において使用される「免疫グロブリン結合タンパク質」という用語は、野生型SpA(wtSpA)又はSpAの公知の変異物ドメイン(例えば、Zドメイン)と比べて、免疫グロブリン又はIg分子のFab部分への低下した結合を示す、SpAの1つ又はそれ以上の修飾されたドメイン(例えば、修飾されたE、D、A、B、C又はZの1つ又はそれ以上)を含む「SpA」又は「スタフィロコッカス・オーレウスのプロテインA」のアミノ酸配列変異物を表す。幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は1つ又はそれ以上の修飾されたドメインE、D、A、B、C又はZを含み、各ドメインは29位にアミノ酸置換を含む。ドメインE、D、B、A又はCの場合には、29位のグリシンはアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換され、Zドメインの場合には、29位のアラニンは、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換される。幾つかの実施形態において、29位のグリシンは、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換され、29位のアラニンはグリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換される。幾つかの実施形態において、アミノ酸配列変異物は、親アミノ酸配列内の何れかの場所における1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入において、当該アミノ酸配列変異物が得られた親アミノ酸配列と異なり得、少なくとも29位におけるアミノ酸残基の置換を含む。幾つかの実施形態において、アミノ酸配列変異物は、親配列(すなわち、wtSpAドメイン又はZドメイン)と少なくとも約70%又は少なくとも約80%又は少なくとも約85%又は少なくとも約90%又は少なくとも約95%又は少なくとも約96%又は少なくとも約97%又は少なくとも約98%の同一性を有し、このような変異物は、免疫グロブリンのFc部分を結合するが、29位にグリシン又はアラニンを含むSpAアミノ酸配列と比べて、免疫グロブリンのFab部分へ低下した結合を示す。
【0032】
別の実施形態において、29位のグリシン又はアラニンは、トレオニン又はトリプトファンで置換されており、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含むSpAアミノ酸配列と比べて、免疫グロブリンのFab部分へ増加した結合を示す。
【0033】
「配列同一性」という用語は、初期設定ギャップウエイトを使用して、プログラムGAP又はBESTFITなどによって、最適に並置されたときに、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列が少なくとも70%の配列同一性又は少なくとも80%の配列同一性又は少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性又は少なくとも95%の配列同一性又はそれ以上を共有することを意味する。配列比較のために、典型的には、1つの配列が参照配列(例えば、親配列)として作用し、これに対して、試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験及び参照配列がコンピュータに入力され、必要であれば、サブシーケンス座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列と比較した試験配列に対する%配列同一性を計算する。
【0034】
比較のための配列の最適な並置は、例えば、「Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)」の局所的相同性アルゴリズムによって、「Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)」の相同性並置アルゴリズムによって、「Pearson&Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA85:2444(1988)」の類似性検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575Science Dr.,Madison,Wis.中のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)のコンピュータ化された実装によって、又は視覚的試験(全般的には、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology)によって行うことができる。%配列同一性及び配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの一例は、「Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403(1990)」に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)を通じて、公に入手可能(国立衛生研究所NCBIインターネットサーバを通じて公にアクセス可能)である。典型的には、配列比較を実施するために、初期設定プログラムパラメータを使用することができるが、特別設計されたパラメータを使用することもできる。アミノ酸配列に対して、BLASTプログラムは、3のワード長さ(W)、10の期待値(E)及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを初期設定として使用する(Henikoff & Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915(1989)参照)を使用する。
【0035】
一実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシンアミノ酸残基を含むwtSpAの単離されたドメイン(すなわち、E、D、A、B又はC)を基礎としており、前記免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、Ig分子のFab部分への低下した結合を示す。別の実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニン残基を含むSpAのZドメインを基礎とする。別の実施形態において、29位のグリシン残基(すなわち、E、D、A、B及びCドメインの場合)は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、29位のアラニン残基(すなわち、Zドメインの場合)は、グリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、前記免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、Ig分子のFab部分への低下した結合を示す。
【0036】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、E、D、A、B、C及びZと表記されるドメインの少なくとも2つ若しくはそれ以上又は少なくとも3つ若しくはそれ以上又は少なくとも4つ若しくはそれ以上又は少なくとも5つ若しくはそれ以上を含み、前記ドメインの2つ若しくはそれ以上又は3つ若しくはそれ以上又は4つ若しくはそれ以上又は5つ若しくはそれ以上の各々が、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン(例えば、ドメインE、D、A、B及びCの場合)又はアラニン(Zドメインの場合)を含み、及び免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にグリシン又はアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、Ig分子のFab部分への低下した結合を示す。
【0037】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、同じドメインの多量体(例えば、Eドメインの2つ又はそれ以上、Dドメインの2つ又はそれ以上、Aドメインの2つ又はそれ以上、Bドメインの2つ又はそれ以上、Cドメインの2つ又はそれ以上、及びZドメインの2つ又はそれ以上)を含み、単量体のそれぞれは、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のグリシン又はアラニンを含み、前記免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質に比べて、Ig分子のFab部分へ低下した結合を示す。
【0038】
29位のグリシン又はアラニンを置換するための適切なアミノ酸には、グリシン、アラニン及びトリプトファンを除く(ある種の実施形態では、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニンを除く)、天然に存在する標準的アミノ酸の何れもが含まれる。幾つかの実施形態において、天然に存在するアミノ酸には、リジン、アルギニン及びロイシンの1つが含まれる。他の実施形態において、天然に存在するアミノ酸には、リジン、アルギニン、ロイシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、セリン、バリン及びチロシンの1つが含まれる。29位のグリシン又はアラニンを置換するためにも、本分野において周知である天然に存在しないアミノ酸及びアミノ酸誘導体を使用することができる。
【0039】
典型的なSpAドメインの修飾が表1に示されている。本発明によって包含される免疫グロブリン結合タンパク質は、ドメイン(E、D、A、B、C及びZ)の1つ若しくはそれ以上、2つ若しくはそれ以上、3つ若しくはそれ以上、4つ若しくはそれ以上、5つ若しくはそれ以上又は6つ若しくはそれ以上のあらゆる組み合わせを含み得、各ドメインは29位に修飾を含み、並びに29位のグリシン又はアラニンはグリシン、アラニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、幾つかの実施形態においては、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている。同じ種類の2つ又はそれ以上のドメイン(例えば、2つ又はそれ以上のEドメイン、2つ又はそれ以上のDドメイン、2つ又はそれ以上のAドメイン、2つ又はそれ以上のBドメイン、2つ又はそれ以上のCドメイン及び2つ又はそれ以上のZドメイン)を含み、各ドメインが29位に修飾を含み、29位のアミノ酸残基がグリシン、アラニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、並びに幾つかの実施形態においては、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている、免疫グロブリン結合タンパク質も本発明によって包含される。
【0040】
【表1】
【0041】
本明細書において互換的に使用される、「Eドメイン」、「SpAのEドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのEドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号7に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号1に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Eドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる51アミノ酸のポリペプチドである。「Eドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabを結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のEドメインは、配列番号7に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0042】
本明細書において互換的に使用される、「Dドメイン」、「SpAのDドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのDドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号8に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号2に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Dドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる61アミノ酸のポリペプチドである。「Dドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabを結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のDドメインは、配列番号8に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0043】
本明細書において互換的に使用される、「Aドメイン」、「SpAのAドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのAドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号3に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号9に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Aドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Aドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のAドメインは、配列番号3に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0044】
本明細書において互換的に使用される、「Bドメイン」、「SpAのBドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのBドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号10に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号4に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Bドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Bドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のBドメインは、配列番号10に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0045】
本明細書において互換的に使用される、「Cドメイン」、「SpAのCドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのCドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号11に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号5に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Cドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Cドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のCドメインは、配列番号11に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0046】
本明細書において互換的に使用される、「Zドメイン」、「SpAのZドメイン」及び「プロテインAのZドメイン」という用語は、プロテインAのBドメインの変異物である、三らせんの59アミノ酸のポリペプチドを表す。Zドメインのアミノ酸配列は、配列番号12に記載されている。典型的なZドメインは、「Nilsson et al.,Protein Engng.,1:107−113(1997)」(その内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)に記載されている。
【0047】
「免疫グロブリン」、「Ig」又は「抗体」(本明細書において互換的に使用される。)という用語は、2つの重鎖及び2つの軽鎖からなる基本的な4ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質(前記鎖は、例えば、抗原を特異的に結合する能力を有する鎖間ジスルフィド結合によって安定化されている。)を表す。「一本鎖免疫グロブリン」又は「一本鎖抗体」(本明細書において互換的に使用される。)という用語は、1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる2ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質(前記鎖は、例えば、抗原を特異的に結合する能力を有する鎖間ペプチドリンカーによって安定化されている。)を表す。「ドメイン」という用語は、例えば、β−プリーツシート及び/又は鎖内ジスルフィド結合によって安定化されたペプチドループを含む(例えば、3から4のペプチドループを含む)1つの重鎖及び1つの軽鎖ポリペプチドの球状領域を表す。本明細書において、「定常」ドメインの場合における様々なクラスメンバーのドメイン内での配列変動の相対的欠如又は「可変」ドメインの場合における様々なクラスメンバーのドメイン内での著しい変動に基づいて、ドメインは、さらに、「定常」又は「可変」と称される。本分野において、抗体又はポリペプチド「ドメイン」は、しばしば、抗体又はポリペプチド「領域」と互換的に表記される。抗体軽鎖の「定常」ドメインは、「軽鎖定常領域」、「軽鎖定常ドメイン」、「CL」領域又は「CL」ドメインと互換的に表記される。抗体重鎖の「定常」ドメインは、「重鎖定常領域」、「重鎖定常ドメイン」、「CH」領域又は「CH」ドメインと互換的に表記される。抗体軽鎖の「可変」ドメインは、「軽鎖可変領域」、「軽鎖可変ドメイン」、「VL」領域又は「VL」ドメインと互換的に表記される。抗体重鎖の「可変」ドメインは、「重鎖可変領域」、「重鎖可変ドメイン」、「VH」領域又は「VH」ドメインと互換的に表記される。
【0048】
免疫グロブリン又は抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得、単量体又は多量体の形態(例えば、五量体形態で存在するIgM抗体及び/又は単量体、二量体又は多量体形態で存在するIgA抗体)で存在し得る。「断片」という用語は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖より少ないアミノ酸残基を含む抗体又は抗体鎖の一部又は部分を表す。断片は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖の化学的又は酵素的処置を介して得ることができる。断片は、組換え手段によって取得することも可能である。組換え的に産生される場合、断片は、単独で、又は融合タンパク質と称されるより大きなタンパク質の一部として発現され得る。典型的な断片には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc及び/又はFv断片が含まれる。典型的な融合タンパク質には、Fc融合タンパク質が含まれる。
【0049】
「抗原結合断片」という用語は、抗原を結合する又は抗原結合(すなわち、特異的結合)に関して無傷の抗体と(すなわち、抗原結合断片が由来する無傷の抗体と)競合する、免疫グロブリン又は抗体のポリペプチドの一部を表す。結合断片は、組換えDNA技術によって、又は無傷の免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断によって作製することができる。結合断片には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖及び一本鎖抗体が含まれる。
【0050】
本明細書において互換的に使用される「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」という用語は、あらゆる長さのヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの何れか)のポリマー形態を表す。これらの用語には、一本鎖、二本鎖若しくは三本鎖DNA、ゲノムDNA、cDNA、RNA、DNA−RNAハイブリッド又はプリン及びピリミジン塩基又は他の天然の、化学的に若しくは生化学的に修飾された、非天然の若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。ポリヌクレオチドの骨格は、(RNA又はDNA中に、典型的に見出され得るような)糖及びホスファート基又は修飾された若しくは置換された糖若しくはホスファート基を含むことができる。さらに、二本鎖ポリヌクレオチドは、相補鎖を合成し、適切な条件下で鎖を徐冷することによって、又は適切なプライマーとともにDNAポリメラーゼを使用して、新規に相補鎖を合成することによって、化学的合成の一本鎖ポリヌクレオチド産物から得ることができる。核酸分子は、多くの異なる形態(例えば、遺伝子又は遺伝子断片、1つ又はそれ以上のエキソン、1つ又はそれ以上のイントロン、mRNA、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐したポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離されたDNA、あらゆる配列の単離されたRNA、核酸プローブ及びプライマー)を採ることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化されたヌクレオチド及びヌクレオチド類縁体、ウラシル、フルオロリボース及びチオアートなどの他の糖及び連結基並びにヌクレオチド分岐などの修飾されたヌクレオチドを含み得る。本明細書において使用される「DNA」又は「ヌクレオチド配列」には、塩基A、T、C及びGが含まれるのみならず、メチル化されたヌクレオチド、帯電していない連結及びチオアートなどのヌクレオチド間修飾、糖類縁体の使用並びにポリアミドなどの修飾された及び/又は代替的骨格構造など、これらの塩基の類縁体又は修飾された形態の何れもが含まれる。特定の実施形態において、核酸分子は、SpAの変異物をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0051】
本明細書において使用される「低下した結合」という用語は、29位にアラニン又はグリシンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較した、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質による免疫グロブリン分子のFab(又はF(ab)2)部分への結合におけるあらゆる減少を表す。例えば、Fab部分への結合は、29位にグリシン又はアラニンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較して、約10%又は約20%又は約30%又は約40%又は約50%又は約60%又は約70%又は約80%又は約90%又は約95%又は約96%又は約97%又は約98%又は約99%又はそれ以上減少され得る。幾つかの実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にグリシン又はアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質による結合と比較して、少なくとも50%又はそれ以上低下される。別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、少なくとも70%又はそれ以上低下される。さらに別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、少なくとも90%若しくはそれ以上又は少なくとも95%若しくはそれ以上又は少なくとも99%若しくはそれ以上低下される。一実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、本分野における慣用技術及び本明細書中に記載されている技術を用いて検出することができない。免疫グロブリン分子への結合は、本明細書に記載されているものを含む、並びに例えば、アフィニティークロマトグラフィー及び表面プラズモン共鳴分析を含む(但し、これらに限定されない。)周知の技術を用いて検出することができる。幾つかの実施形態において、本発明によって包含される免疫グロブリン結合タンパク質は、単一のIgG結合ドメインに対して少なくとも約10−8Mの解離定数で、又は5つの直列IgG結合ドメインに対して約10−11Mの解離定数で、免疫グロブリン分子のFc部分を結合する。他の実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、単一の免疫グロブリン結合ドメインに対して約10−5Mの解離定数で、又は5つの直列結合ドメインを有する無傷のプロテインAに対して約10−6Mの解離定数で、免疫グロブリン分子のFab部分に結合する。
【0052】
本明細書において使用される「増加した結合」という用語は、29位にアラニンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較した、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質による免疫グロブリン分子のFab(又はF(ab)2)部分への結合におけるあらゆる増加を表す。例えば、Fab部分への結合は、29位にアラニンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較して、約10%又は約20%又は約30%又は約40%又は約50%又は約60%又は約70%又は約80%又は約90%又は約95%又は約96%又は約97%又は約98%又は約99%又はそれ以上増加され得る。幾つかの実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質による結合と比較して、少なくとも50%又はそれ以上増加される。別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質によるFab結合と比較して、少なくとも70%又はそれ以上増加される。さらに別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質によるFab結合と比較して、少なくとも90%若しくはそれ以上又は少なくとも95%若しくはそれ以上又は少なくとも99%若しくはそれ以上増加される。典型的な実施形態において、29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較して増加したFab結合を示す免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にトレオニン又はトリプトファンを含む。免疫グロブリン分子への結合は、本明細書に記載されているものを含む、並びに例えば、アフィニティークロマトグラフィー及び表面プラズモン共鳴分析を含む(但し、これらに限定されない。)周知の技術を用いて検出することができる。
【0053】
「Fc結合」、「Fc部分へ結合する」又は「Fc部分への結合」という用語は、抗体の結晶化可能部分(Fc)へ結合する、本明細書中に記載されている免疫グロブリン結合タンパク質の能力を表す。幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、少なくとも10−7M又は少なくとも10−8M又は少なくとも10−9Mの親和性で抗体(例えば、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4)Fc部分を結合する。
【0054】
本明細書中において使用される「アフィニティー分離」又は「アフィニティー精製」という用語は、本明細書に記載されているように、その上に免疫グロブリン結合タンパク質を担持する固体支持体へ、標的分析物(例えば、免疫グロブリン)を含有する試料を添加することを含むあらゆる精製又はアッセイ技術を表す。
【0055】
本明細書中において使用される「クロマトグラフィー」という用語は、測定すべき分析物(例えば、免疫グロブリン)を混合物中の他の分子から分離し、分析物の単離を可能とするあらゆる種類の技術を表す。
【0056】
本明細書中において使用される「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、分離されるべき分析物が、分析物と特異的に相互作用する分子(例えば、免疫グロブリン結合タンパク質)とのその相互作用によって単離されるクロマトグラフィーの様式を表す。
【0057】
II.SpA構造及び免疫グロブリン結合部位
SpAは、細菌スタフィロコッカス・オーレウスに由来する約42kDaのタンパク質であり、N末端に5つの直列の高度に相同な細胞外免疫グロブリン(Ig)結合ドメイン(E、D、A、B及びCと表記される。)を含有する。SpAの各細胞外ドメインは、異なるIg結合部位を有する。1つの部位はFcγ(IgのIgGクラスの定常領域)に対するものであり、他の部位は、ある種のIg分子のFab部分(抗原認識に必要なIgの部分)に対するものである。ドメインの各々がFab結合部位を含有すると報告されている。SpAの非Ig結合部分はC末端に位置しており、X領域又はXドメインと表記される。
【0058】
SpAをコードする遺伝子のクローニングは、米国特許第5,151,350号(その内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)中に記載されている。
【0059】
III.SpA変異物の作製及び発現
本発明のSpA変異物は、本分野において公知のあらゆる適切な方法を用いて作製することができる。例えば、Sambrook、Fritsch及びManiatisによるMolecular Cloningという題名の研究室マニュアル中に記載されているものなどの、核酸の部位特異的突然変異誘発のための標準的な技術を例えば使用し得る。さらに、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)突然変異誘発を含む標準的な分子生物学技術を使用し得る。
【0060】
幾つかの実施形態において、SpA変異物は、標準的な遺伝子工学技術を用いて作製される。例えば、適切な宿主細胞中で発現させるために、SpAのドメイン又はその一部をコードする核酸分子を適切なベクター中にクローニングすることができる。適切な発現ベクターは本分野において周知であり、変異物SpAコード配列の転写及び翻訳のために必要な要素を通例含む。
【0061】
本明細書に記載されているSpA変異物は、Boc(tert−ブチルオキシカルボニル)又はFmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)アプローチなどの固相ペプチド合成法(例えば、米国特許第6,060,596号;米国特許第4,879,378号;米国特許第5,198,531号;米国特許第5,240,680号)などの本分野において周知の方法を用いて、断片に対するアミノ酸前駆体から化学的に合成することもできる。
【0062】
SpA変異物の発現は、酵母、昆虫若しくは哺乳動物などの真核生物宿主由来の細胞中で、又は原核生物宿主細胞(例えば、イー・コリなどの細菌)中で達成することができる。
【0063】
幾つかの実施形態において、各ファージがファージ表面上に提示された各SpA変異物をコードするDNA配列を含有するように、SpA変異物は、バクテリオファージの表面上に発現され得る。このアプローチでは、これらの位置に様々なアミノ酸を生成するために選択されるSpA配列中の選択された位置に無作為な又は半無作為なオリゴヌクレオチドを合成することによって、SpA変異物のライブラリーが作製される。コードDNAは、適切なファージベクター中に挿入され、ファージ粒子中にパッケージされ、適切な細菌宿主を感染させるために使用される。従って、配列の各々が1つのファージベクター中にクローニングされ、(例えば、パニングとして知られる方法により)Fcへ結合するが、Fabへ結合しないファージを見出すことによって、(例えば、29位に変異を有する)目的のSpA変異物を選択することができる。このようにして回収されたファージは増幅することができ、この選択は繰り返すことができる。また、ファージを単離し、ヌクレオチド配列決定によって、選択されたSpA変異物をコードするヌクレオチド配列を決定することができる。
【0064】
IV.Fc及びFabへのSpA変異物の結合
SpA変異物の作製に続いて、免疫グロブリンのFab又はFc部分へのSpA変異物の結合特異性は、本分野における標準的な技術及び本明細書中に記載されている技術を用いて決定される。
【0065】
例えば、SpA変異物は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーによる固定化のために、ヒスチジンタグ((His)6−タグ)とともに構築され得る。次いで、適切な断片を樹脂に添加することによって、Fc及びFab結合に関して、ニッケル結合されたSpAを試験することができる。結合されていない材料は洗浄除去され、Fc及びFabは、ゲル電気泳動によって、溶出試料中に検出される。
【0066】
あるいは、Fc及びFab結合は、表面プラズモン共鳴分析によって測定することができる。SpA変異物は、アミン反応性化学を用いてチップ上に固定化され、チップ上にFc又はFab断片が流される。Fc又はFabが結合すれば、表面プラズモン共鳴シグナルの増加が観察される。
【0067】
SpAは、クロマトグラフィービーズ上にも固定化され得る。Fc又はFab結合は、SpA樹脂に対して流出及び溶出ピークを比較することによって観察される。
【0068】
V.クロマトグラフィーマトリックスを作製するためのSpA及びその変異物の使用
本発明は、抗体のFc部分に対する親和性を有し、及び抗体のFab部分に対して低下した親和性を有する又は親和性を有さない少なくとも1つの免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックスを調製する方法も提供する。一実施形態において、このような方法は、(a)単離されたSpAドメイン(例えば、E、D、A、B、C又はZ)をコードする核酸配列を準備すること;(b)アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸によって、少なくとも29位のグリシンが置換されている変異物タンパク質をコードするように前記核酸配列を変異させること;(c)宿主細胞(例えば、適切な原核細胞又は真核細胞)中の変異物タンパク質を発現させること;(d)変異物タンパク質を宿主細胞から回収すること;及び(e)固体支持体へ変異物タンパク質を連結させることを含む。
【0069】
固体支持体マトリックスには、制御細孔ガラス(controlled pore glass)、アガロース、メタクリラート及びポリスチレンが含まれるが、これらに限定されない。タンパク質は、例えば、アミン反応性又はチオール反応性化学によってマトリックスに連結することができる。
【0070】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、以下の実施例は限定的なものと解釈すべきでない。本願を通じて引用されている全ての参考文献、特許及び公開された特許出願の内容並びに図面は、参照により、本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
SpA変異物を含有するベクターの構築
プロテインAの「Bドメイン」をコードする遺伝子は、DNA合成装置を用いた標準的な方法によって合成される。遺伝子の5’末端は、開始メチオニンに対するコドンを含み、及び遺伝子の3’末端に6つのヒスチジンコドンを含む。この遺伝子は、ベクターpJ56:8620中に与えられる。親ベクターpJ56は、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール及びゲンタマイシンに対する耐性を付与する。続いて発現ベクター中に遺伝子をクローニングするための適切な制限酵素部位が、遺伝子の5’末端及び3’末端の両方に導入される。ベクターのプラスミド地図が図5に示されている。
【0072】
29位のグリシンは、PhusionHigh−FidelityDNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Ipswich,MA)を用いるPCRをベースとする方法によって、19の他のアミノ酸のそれぞれへ変異を受ける。リン酸化されたプライマーは、TrisEDTA緩衝液中の100μM溶液として、IDTDNA(Coralville,IA)から購入される。変異原性プライマーは、配列:5’(P)GAAGAACAACGCAACNNNTTCATTCAGA(配列番号19)(NNNは、29位のアミノ酸をコードする3つの塩基を表す。)を有する。非変異原性プライマーは、配列5’(P)GTTCAGGTTCGGCAGATGCAGGAT(配列番号20)を有する。PCRは、dNTP(それぞれ、0.2mM)、各プライマー0.5mM、テンプレートプラスミド10pg及びPhusion酵素1Uを含有する反応物50μL中で行われる。PCRは、表IIに要約されているスキームに従って行われる。
【0073】
【表2】
【0074】
野生型バックグラウンドを低下させるために、PCR反応物は、制限酵素DpnI(New England Biolabs,Ipswich,MA)で処理される。各PCR反応物50μLに、DpnI酵素約1μLを添加し、試料を37℃で約1時間温置する。
【0075】
DpnIで処理されたPCR反応物2μLで、イー・コリNEB5α形質転換受容性細胞(New England Biolabs,Ipswich,MA)を形質転換する。細胞を氷上で溶かし、PCR反応物2μLを細胞25μLに添加する。氷上で約30分の温置後、約42℃で30秒間、細胞に熱ショックを施す。氷上で約5分間、細胞を回復させ、次いで、SOC培地125μL(New England BioLabs)を添加する。37℃で約1時間、細胞を温置し、次いで、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート(Northeast Laboratory Services,Winslow,ME)上に100μLを播種し、約37℃で一晩増殖させる。精製されたDNAを得るために、100μg/mLアンピシリンを含有するLB中で一晩培養するために、各コロニーを拾い上げる。Qiagen(Valencia,CA)のspin mini−prepキットを用いてDNAを精製する。ミニプレップ処理されたDNAを配列決定し、各クローンの正体を確認するために、プライマーpJR(5’GAATATGGCTCATAACACCCCTTG)(配列番号21)を使用する(MWGBiotech,HuntsvilleAL)。
【0076】
様々なクローンの配列確認に続いて、細菌細胞中で変異物を発現させるために、各SpA変異物に対する遺伝子をプラスミド中にサブクローニングする。適切な制限酵素(New England Biolabs,Ipswich,MA)でプラスミドを消化し、1%アガロースReliantFastLaneゲル(LonzaInc.,Allendale,NJ)上で挿入物をゲル精製する。関連するバンドをゲルから切り出し、Qiagen(Valencia,CA)のゲル抽出キットを用いて精製される。T4DNAリガーゼ(New England Biolabs,Ipswich,MA)を用いて、適切な発現ベクターの骨格中に精製された挿入物を連結する。上述のように、イー・コリNEB5α形質転換受容性細胞を形質転換するために、得られたプラスミドを使用する。
【0077】
(実施例2)
プロテインA変異物の発現及び精製
様々なSpA変異物を発現させるために、あらゆる適切な細菌発現系を使用することができる。例えば、タンパク質は、pET11a(Novagen,MadisonWI)などのpETベクターから、株BL21(DE3)(Promega,MadisonWI)などのエシェリヒア・コリ(Eschericia coli)中で発現され得る。プレートから単一コロニーを拾い上げ、100μg/mLアンピシリンを含有するLB培地中において、約37℃で一晩増殖させる。100μg/mLアンピシリンを含有する新鮮なLB培地中に、一晩培養物を100倍希釈し、600nmの光学密度が0.8であるような細胞密度まで増殖させる。1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドの添加後、細胞をさらに2時間増殖させる。SDS−PAGE分析及びウェスタンブロッティングによって発現を確認する。典型的なプロテインAウェスタンブロットが図8に示されており、図8は、イー・コリBL21(DE3)細胞中のベクターPET11a:8620からのプロテインAの発現がニワトリIgY抗プロテインA抗体を用いて検出されることを示している。
【0078】
遠心(4000rpm、4℃、5分)によって細胞を採集し、20mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水の3mL中に再懸濁する。音波処理によって、細胞を溶解し、遠心(4000rpm、4℃、30分)によって、細胞破砕物を沈降させる。NiNTAスピンカラム(Qiagen)を使用し、スピンカラム当り細胞溶解液400μLを適用して、SpA変異物を精製する。20mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水600μLで2回、カラムを洗浄し、200mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水200μL×2中に、SpAを溶出する。PBS中に一晩、SpAを透析する。Dcタンパク質アッセイ(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)を使用し、ウシ血清アルブミンを用いて調製された標準曲線と比較して、タンパク質濃度を確認する。
【0079】
(実施例3)
Fc及びFab断片へのSpA変異物の結合
続いて、NiNTAアガロース樹脂(Qiagen)を用いて、Fc及びFabを結合する能力に関して、各SpA変異物を試験する。JacksonImmunoResearch(WestGrove,PA)から、Fc及びF(ab)2断片を入手する。20mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水中に、0.11mg/mLの濃度まで各SpA変異物を希釈し、0.44mg/mLの濃度までFcを希釈し、0.92mg/mLの濃度までF(ab)2を希釈する。NiNTAアガロース樹脂を再懸濁し、樹脂スラリー約20μLを、0.5mLの微小遠心管中にピペットで分注する。続いて、樹脂を沈降させ、上清を廃棄する。20mMイミダゾールを加えたPBS約100μLで樹脂を洗浄し、室温で約15分間温置し、再度沈降させる。上清を廃棄する。約250μLの0.11mg/mLの各SpA変異物又はPBS対照を、2つ組みで、樹脂カラム上に搭載し、室温で約30分間温置する。樹脂を沈降させ、分析のために上清を保存する。毎回、20mMイミダゾールを加えたPBS100μLで、沈降物を3回洗浄し、5分間温置し、再度沈降させる。上清を廃棄する。樹脂とともに約30分間温置することによって、SpA変異物の各々又はPBS対照との結合に関して、Fc又はF(ab)2の約100μLを試験する。続いて、樹脂を沈降させ、分析のために上清を保存する。毎回、20mMイミダゾールを加えたPBS約100μLで、樹脂を再度3回洗浄し、5分間温置し、沈降させる。今回は、上清を廃棄する。20mMイミダゾールを加えたPBS約100μLで、結合された画分を溶出し、約15分間温置し、沈降させる。さらなる分析のために、上清を保存する。続いて、図9から12に図示されているように、Bio−RadLaboratories,CAから購入した4から15%勾配のゲル上でのSDS−PAGEによって、試料を分析する。
【0080】
表面プラズモン共鳴バイオセンサー分析によって、Fc及びF(ab)2への5つのプロテインA変異物の結合を試験する。全ての実験は、0.005%Tween−20を含有するリン酸緩衝化生理的食塩水(PBS)中で実施する。500RUのレベルまで連結させるアミン化学を介して、ProteOnGLCセンサーチップ(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)上に、プロテインA変異物を固定化する。45nMから185pMの範囲のタンパク質濃度で、Fc及びF(ab)2断片(JacksonImmunoResearchLaboratories,WestGrove,PA)の3倍希釈系列を調製し、各濃度を2つ組みで分析する。Fc又はF(ab)2の各濃度を250秒間注入した後、解離速度を測定するために、PBSを3.5時間注入する。オン速度及びオフ速度(kon及びkoff)を得るために、異種2部位モデルへデータを適合させる。図13Aから13Eに図示されているように、野生型グリシン29タンパク質並びにG29A、G29R、G29K及びG29Lの各々がFcを結合する。図14Aから14Eは、野生型G29がFabを結合することが観察され、及びG29Aが弱いが、検出可能なF(ab)2結合を示すことを示している。G29R、G29K又はG29Lに関しては、F(ab)2結合は観察されない。
【0081】
クロマトグラフィー樹脂上へのSpA変異物の固定化後に、Fc及びFab結合も評価する。国際PCT出願WO90/09237号(その内容全体が、参照により、本明細書中に取り込まれる。)に記載されている、固体支持体へプロテインAを結合させるための方法に従って、制御細孔ガラスビーズ(それぞれ50mL、60μLの平均粒子サイズ、800Åの平均孔直径)をプロテインA又はプロテインA変異物で官能化する。リガンド結合後、それぞれ、(順に)、0.15MNaClを加えた0.1MTris、pH8、続いて0.05M酢酸のそれぞれ150mL容量で、試料を3回洗浄する。その後、試料を平衡化し、アジ化物を加えたPBS中に保存する。
【0082】
対応するリガンドで固定化された制御細孔ガラスアフィニティー樹脂を、6.6mm内径×70mmLOmniFitカラム中に充填する。この実験で使用された緩衝液は、(A)50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2並びに(B)50mMリン酸ナトリウム、pH2であり、流速は1.2mL/分である。開始緩衝液A中にカラムを平衡化させた後、緩衝液A中の1から2mg/mLのF(ab)2又はFc100μL(JacksonImmunoResearch,WestGrove,PA)をカラム中に注入する。緩衝液Aの10カラム容積(CV)後、線形勾配で、20CVにわたって、緩衝液Bを混合する。6M塩酸グアニジンの2CVによってカラムを再生する前に、緩衝液Bの10カラム容積超をカラムに走行させる。図15A及び15Bに図示されているように、野生型グリシン29タンパク質並びにG29A、G29R、G29K及びG29Lの各々がFcを結合する。野生型G29はFabを結合することが観察され、G29Aは、弱いが、検出可能なF(ab)2結合を示す。G29R、G29K又はG29Lに対しては、F(ab)2結合は見られない。
【0083】
別の典型的な実験において、NiNTAアガロース樹脂(Qiagen)上にプロテインA変異物の完全な組を捕捉することによって、Fc及びFab結合に関して、プロテインA変異物の完全な組を試験する。簡潔に述べると、wtSpAの29位にアミノ酸置換を有するHisタグ化プロテインA変異物を樹脂へ過剰に添加し、20mMイミダゾールを含有するPBSで樹脂を洗浄した後、免疫グロブリンのFc又はFab部分を添加する。20mMイミダゾールを含有するPBSで、樹脂を再度洗浄した後、200mMイミダゾールを含有するPBSでSpA及びIgG断片を溶出する。4から20%勾配のゲル(BioRad)後のクマシーブルー染色(Pierce)上で、得られた溶出画分を分析する。プロテインAなしの樹脂を陰性対照として使用する。典型的な実験の結果が、以下の表IIIに要約されている。異なる変異物間に、Fc結合の明白な差は観察されないが、変異物の多くに対して、Fab結合は顕著に低下する。変異物の多くは、野生型と比べて15%未満であるFab結合を示す。変異物の3つ(G29A、G29T及びG29W)に対して、24%又はそれ以上の残存Fab結合が観察される。
【0084】
【表3】
【0085】
本明細書は、参照により本明細書中に組み込まれる、本明細書中に引用されている参考文献の教示に照らして最も完全に理解される。本明細書中の実施形態は、本発明における実施形態の例示を与えるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。多くの他の実施形態が本発明によって包含されることが、当業者に容易に認識される。全ての公報及び発明の全体が、参照により組み込まれる。参照によって組み込まれた資料が本明細書と矛盾し又は不一致である程度まで、本明細書はかかる一切の資料に優先する。本明細書中でのあらゆる参考文献の引用は、かかる参考文献が本発明に対して従来技術であることを認めたものではない。
【0086】
別段の記載がなければ、特許請求の範囲を含む本明細書中において使用される、成分の量、細胞培養、処理条件などを表す全ての数字は、全ての事例で、「約」という用語によって修飾されているものと理解すべきである。従って、別段の記載がなければ、数的パラメータは近似であり、本発明によって得られることが求められる所望の特性に応じて変動し得る。別段の記載がなければ、要素の系列に先行する「少なくとも」という用語は、その系列中のあらゆる要素を表すものと理解される。当業者は、本明細書中に記載されている本発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識し、定型的な実験操作のみを用いて多くの均等物を確認することができる。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるものとする。
【0087】
当業者に自明であるように、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの修飾及び変形を施すことが可能である。本明細書に記載されている具体的な実施形態は例として与えられているものに過ぎず、いかなる意味においても、限定を意味するものではない。本明細書及び実施例は例示に過ぎないと考えられることが意図され、本発明の真の範囲及び精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【0088】
参考文献:
Fab binding: Melissa A. Starovasnik, Mark P. O’connell, Wayne J. Fairbrother, And Robert F. Kelley (1999). Antibody variable region binding by Staphylococal proteinA: Thermodynamic analysis and location of the Fv binding site on E-domain. Protein Science 8, 1423-1431.
Fc binding constant: Susanne Gulich, Mathias Uhlen, Sophia Hober (2000) Protein engineering of an IgG-binding domain allows milder elution conditions during affinity chromatography. Journal of Biotechnology 76, 233-244
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年8月11日に出願された米国仮特許出願61/188,549号および2009年4月16日に出願された米国仮特許出願61/212,812号(これらの各々の内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)の優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、免疫グロブリンに対して改善された結合特異性を有する、修飾された免疫グロブリン結合タンパク質、例えば、ブドウ球菌プロテインA、並びにこれを製造及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ブドウ球菌プロテインA(SpA)は、細菌スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)由来の42kDaのマルチドメインタンパク質である。SpAは、そのカルボキシ末端細胞壁結合領域(Xドメインと称される。)を介して、細菌の細胞壁へ結合されている。SpAは、アミノ末端領域に、E、D、A、B及びCと称される5つの免疫グロブリン結合ドメインを含む(Sjodhal,Eur J Biochem.Sep;78(2):471−90(1977);Uhlen et al.,J Biol Chem.Feb 10;259(3):1695−702(1984))。これらのドメインの各々は、約58アミノ酸残基を含有し、65から90%のアミノ酸配列同一性を共有する。SpAのZドメインは、SpAのBドメインの加工された類縁体であり、29位のグリシン残基の代わりにアラニンを含む。
【0004】
SpAをベースとする試薬には、バイオテクノロジーの分野において、例えば、抗体の捕捉及び精製用のアフィニティークロマトグラフィーにおいて並びに抗体検出法において幅広い用途が見出されている。現在、SpAをベースとするアフィニティー媒体は、おそらく、モノクローナル抗体及びその断片を細胞培養物などの様々な試料から単離するために最も幅広く使用されているアフィニティー媒体である。従って、例えば、ProSep(R)−vAHighCapacity、ProSep(R)−vAUltra及びProSep(R)UltraPlus(Millipore)及びプロテインASepharoseTM、MabSelectTM、MabSelectXtraTM及びMabSelectSuRe(R)(GEHealthcare)などの、プロテインAリガンドを含む様々なマトリックスが市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sjodhal、Eur J Biochem.Sep、78(2)、1977年、pp.471−90
【非特許文献2】Uhlen他、J Biol Chem.、259(3)、1984年2月10日、pp.1695−702
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも1つには、免疫グロブリンのFc部分を結合する能力を保持しながら、以前に公知のSpA変異物と比べて、免疫グロブリンのFab部分への減少した又は増加した結合を示す新規及び改善されたSpA変異物を提供する。
【0007】
幾つかの実施形態において、本発明は、Fabを結合する(時折、望ましくない特性)、プロテインAをベースとする多くの市販の試薬と比べて、低減したFab結合を示す、新規及び改善されたSpA変異物を提供する。
【0008】
一実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合ドメインは、少なくとも29位のアミノ酸を置換するために修飾されたSpAの1つ又はそれ以上のドメイン(すなわち、E、D、A、B、C及びZ)を基礎としている。ドメインE、D、A、B及びCの場合には、29位のアミノ酸はグリシンであり、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換されている。ドメインZの場合には、29位のアミノ酸はアラニンであり、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換されている。特定の実施形態において、29位のグリシンは、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換されており、又は29位のアラニンはグリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換されている。
【0009】
従って、一実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともEドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンの何れかを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Eドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0010】
別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともDドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Dドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0011】
さらに別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともAドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Aドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0012】
別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともBドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Bドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0013】
さらに別の実施形態において、少なくとも29位のグリシン残基がアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともCドメインを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Cドメインの29位のグリシン残基は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0014】
別の実施形態において、少なくとも29位のアラニン残基がグリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されているSpAの少なくともZドメインを少なくとも含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は、免疫グロブリンのFc部分への結合を示すが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す。)が提供される。特定の実施形態において、Zドメインの29位のアラニン残基は、グリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されている。
【0015】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、2以上の修飾されたSpAドメイン又はその公知の変異物(例えば、E、D、A、B、C及び/又はZ並びにこれらのあらゆる組み合わせの2以上)を含み、各ドメインは別のアミノ酸、例えば、アラニン、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された29位のグリシン(すなわち、E、D、A、B及びCドメインの場合)又はアラニン(すなわち、Zドメインの場合)を含む。特定の実施形態において、29位のグリシン又はアラニンは、アラニン、グリシン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている。
【0016】
幾つかの実施形態において、単離されたE、D、A、B及びCドメインの1つ若しくはそれ以上の中の29位のグリシン(G)又は単離されたZドメイン中の29位のアラニンは、ロイシン(L)、リジン(K)、アスパラギン(N)、バリン(V)、イソロイシン(I)、セリン(S)、システイン(C)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、グルタミン酸(E)、グルタミン(Q)、ヒスチジン(H)、プロリン(P)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)又はこれらの機能的変異物若しくは誘導体からなる群から選択されるアミノ酸で置換されている。
【0017】
特定の実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、ロイシン、リジン及びアルギニン又はこれらの機能的変異物若しくは誘導体からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換された29位のグリシン残基(例えば、E、D、A、B及びCドメインの場合)又は29位のアラニン(例えば、Zドメインの場合)を含む。
【0018】
さらなる実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、SpAのカルボキシ末端領域(Xドメインと表記される。)の少なくとも一部をさらに含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、別のアミノ酸で置換された(例えば、23位の)アスパラギンをさらに含む。
【0020】
別の実施形態において、ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む、単離された免疫グロブリン結合タンパク質(該免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への増加した結合を示す。)が提供される。
【0021】
幾つかの実施形態において、本発明の単離された免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にトレオニン又はトリプトファンを含み、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への増加した結合を示す。幾つかの実施形態において、Fc部分はFc融合タンパク質の一部であり得る。
【0022】
本明細書に記載されている様々な免疫グロブリン結合タンパク質によって結合され得る免疫グロブリンは、IgG、IgA及びIgMの1つ又はそれ以上を含む。
【0023】
他の実施形態において、免疫グロブリン又は抗体の単離のために有用なクロマトグラフィーマトリックスが提供される。一実施形態において、本発明のクロマトグラフィーマトリックスは、固体支持体に結合された、本明細書中に記載されている単離された免疫グロブリン結合タンパク質を含む。
【0024】
本明細書に記載されている様々な免疫グロブリン結合タンパク質をコードする核酸分子及びこのような核酸分子を含む宿主細胞も本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。
【0025】
さらに、本発明は、本明細書に記載されている1つ又はそれ以上の免疫グロブリン結合タンパク質及びその機能的変異物を含むポリペプチドのライブラリーを包含する。さらに別の実施形態において、本発明は、本発明によって包含される1つ若しくはそれ以上の免疫グロブリン結合タンパク質をコードするか又はその機能的変異物をコードする核酸分子のライブラリーを提供する。
【0026】
本明細書に記載されている免疫グロブリン結合タンパク質を使用する方法も、本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程と、(b)前記1つ又はそれ以上の免疫グロブリンが、免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックスに結合するような条件下で、本明細書に記載されているように、前記クロマトグラフィーマトリックスと前記試料を接触させる工程と、及び適切なpHで溶出することによって、前記1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程とを含む、1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを試料からアフィニティー精製する方法が提供される。
【0027】
本明細書中に記載されている様々な実施形態において、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンが溶出される適切なpHは酸性pHである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、配列番号1から5によって表される、SpAの野生型(wt)IgG結合ドメインに対する核酸配列を図示している。配列番号1は、wtEドメインに対する核酸配列を表す。配列番号2は、wtDドメインに対する核酸配列を表す。配列番号3は、wtAドメインに対する核酸配列を表す。配列番号4は、wtBドメインに対する核酸配列を表す。配列番号5は、wtCドメインに対する核酸配列を表す。
【図2】図2は、配列番号6によって表される、SpAのZドメインに対する核酸配列を図示する。
【図3】図3は、29位にグリシンを含むSpAの野生型(wt)IgG結合ドメイン(E、D、A、B及びC)のアミノ酸配列並置を図示する。配列番号7は、wtEドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号8は、wtDドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号9は、wtAドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号10は、wtBドメインのアミノ酸配列を表し、及び配列番号11は、wtCドメインのアミノ酸配列を表す。
【図4】図4は、配列番号12によって表されるZドメインのアミノ酸配列を図示する。
【図5】図5は、プラスミドpJ56:8620の模式図を表す。
【図6】図6は、29位のグリシンがロイシン、リジン又はアルギニンによって置換されている3つのSpABドメイン変異体に対する核酸配列を図示する。配列番号13は、SpA変異体G29Lに対する核酸配列を表し、配列番号14は、SpA変異体G29Kに対する核酸配列を表し、及び配列番号15は、SpA変異体G29Rに対する核酸配列を表す。
【図7】図7は、29位のグリシンがロイシン、リジン又はアルギニンによって置換されている3つのSpABドメイン変異体に対するアミノ酸配列を図示する。配列番号16は、SpABドメイン変異体G29Lに対するアミノ酸配列を表し、配列番号17は、SpABドメイン変異体G29Kに対するアミノ酸配列を表し、及び配列番号18は、SpABドメイン変異体G29Rに対するアミノ酸配列を表す。
【図8】図8は、ニワトリIgY抗プロテインA抗体を用いて、イー・コリ(E.Coli)BL21(DE3)細胞中のベクターPET11a:8620からのプロテインAの発現が検出された典型的なウェスタンブロット実験を図示している。
【図9】図9は、ニッケル樹脂単独への(陰性対照)又はMabSelectSuRe(R)クロマトグラフィー媒体(陽性対照)への免疫グロブリンのFc及びF(ab)2部分の結合を評価する代表的な実験、これに続く図示されているSDS−PAGE分析の結果を図示している。Eは、溶出液又はクロマトグラフィー後の結合された画分を表し、Sは上清又はクロマトグラフィー後の非結合画分を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2から5は、ニッケル樹脂へのF(ab)2(レーン2(E)、3(S))又はFc(レーン4(E)、5(S))の何れかの結合を表し、レーン6から9はF(ab)2(レーン6(S)、7(E))又はFc(レーン8(S)、9(E))のMabSelectSuRe(R)の結合を表し、並びにレーン10及び11はF(ab)2及びFcのみを表す。F(ab)2は約18kDaと20kDaの二重バンドとしてSDS−PAGE上を走行し、Fcは約22kDaのSDSPAGE上を走行する。それぞれレーン2(E)及び4(E)中に示されているように、F(ab)2及びFcは何れも、ニッケル樹脂(陰性対照)へ弱いないし無結合を示す。また、レーン7(E)に示されているように、F(ab)2はMabSelectSuRe(R)への結合を示すのに対して、FcはMabSelectSuRe(R)(陽性対照)への顕著な結合を示す。
【図10】図10は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーの後に図示されているSDS−PAGE分析を用いて、Hisタグ付加された野生型SpA(wtSpA)又は29位のグリシンの代わりにアラニンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29A)への、免疫グロブリンのF(ab)2及びFc部分の結合を評価する代表的な実験の結果を図示している。FはプロテインAの供給を表している。FTはプロテインA流出画分を表し、SはFc又はFab結合工程後の上清(非結合画分)を表し、及びEは溶出画分(結合された画分)を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2はF(ab)2又はFcへのwtSpAの結合を評価する実験から得られたF画分を図示し、レーン3から5はFT(レーン3)、S(レーン4)及びE(レーン5)画分中のF(ab)2へのwtSpAの結合を図示し、レーン6から8はFT(レーン6)、S(レーン7)及びE(レーン8)画分中のFcへのwtSpAの結合を図示し、レーン9はF(ab)2又はFcへのG29Aの結合を評価する実験から得られたF画分を図示し、レーン10から12はFT(レーン10)、S(レーン11)及びE(レーン12)画分中のF(ab)2へのG29Aの結合を図示し、並びにレーン13から15はFT(レーン13)、S(レーン14)及びE(レーン15)画分中のFcへのG29Aの結合を図示する。
【図11】図11は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーの後に図示されているSDS−PAGEを用いて、29位のグリシンの代わりにロイシンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29L)への、免疫グロブリンのF(ab)2及びFc部分の結合を評価する代表的な実験の結果を図示している。FはプロテインAの供給を表している。FTはプロテインA流出画分を表し、SはFc又はF(ab)2結合工程後の上清(非結合画分)を表し、及びEは溶出画分(結合された画分)を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2はF画分を図示し、レーン3から5はFT(レーン3)、S(レーン4)又はE(レーン5)画分中のG29LへのF(ab)2の結合を図示し、レーン6から8はFT(レーン6)、S(レーン7)及びE(レーン8)画分中のG29LへのFcの結合を図示する。
【図12】図12は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーの後に図示されているSDS−PAGEを用いて、29位のグリシンの代わりにリジンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29K)への及び29位のグリシンの代わりにアルギニンを含むHisタグ付加されたBドメイン変異物(G29R)への、免疫グロブリンのF(ab)2及びFc部分の結合を評価する代表的な実験の結果を図示している。FはプロテインAの供給を表している。FTはプロテインA流出画分を表し、SはFc又はF(ab)2結合工程後の上清(非結合画分)を表し、及びEは溶出画分(結合された画分)を表す。左から右へ、レーン1は分子量マーカーを表し、レーン2はF(ab)2及びFcへのG29Kの結合を評価する実験から得られたF画分を図示し、レーン3から5はFT(レーン3)、S(レーン4)又はE(レーン5)画分中のG29KへのF(ab)2の結合を図示し、レーン6から8はFT(レーン6)、S(レーン7)及びE(レーン8)画分中のG29KへのFcの結合を図示し、レーン9はF(ab)2及びFcへのG29Rの結合を評価する実験から得られたF画分を表し、レーン10から12はFT(レーン10)、S(レーン11)又はE(レーン12)画分中のG29RへのF(ab)2の結合を図示し、並びにレーン13から15はFT(レーン13)、S(レーン14)及びE(レーン15)中のG29RへのFcの結合を図示する。
【図13A】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13B】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13C】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13D】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図13E】図13Aから13Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのFc部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、野生型プロテインA(図13A)及びG29A(図13B)対照への、並びに構築物G29K(図13C)、G29R(図13D)及びG29L(図13E)への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のFcの結合を図示する。
【図14A】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14B】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14C】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14D】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図14E】図14Aから14Eは、表面プラズモン共鳴分析を用いて、免疫グロブリンのF(ab)2部分への、本発明のSpA変異物の結合をさらに評価する代表的な実験の結果を図示している。これらの図面は、様々なプロテインA構築物への、45nMから185pMの範囲にわたる濃度のF(ab)2の結合を図示する。野生型プロテインAに対して、強力な結合が観察され(図14A)、G29A対照に対して、弱い結合が見られる(図14B)。G29K(図14C)、G29R(図14D)及びG29L(図14E)に対しては、結合が検出されなかった。
【図15A】図15Aから15Bは、SpAクロマトグラフィー樹脂に対する代表的なFc及びFabパルス実験の結果を図示する。図15Aでは、Fcの非結合画分は7カラム容積(CV)で出現し、結合されたFcは23カラム容積で溶出する。
【図15B】図15Aから15Bは、SpAクロマトグラフィー樹脂に対する代表的なFc及びFabパルス実験の結果を図示する。図15Bでは、F(ab)2の非結合画分は7カラム容積で出現し、結合されたFcは23から25CVの間で溶出する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、少なくとも1つには、免疫グロブリンのFc部分を結合する能力を保持しながら、野生型SpA及び以前に記載されたSpAの変異物より低い親和性で、免疫グロブリンのFab部分を結合するSpAの変異物を提供する。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されているSpAの変異物は、29位にアラニンを有するSpAより高い親和性で、免疫グロブリンのFab部分を結合する。
【0030】
I.定義
本開示をより容易に理解できるようにするために、まず、ある種の用語を定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通じて記載する。
【0031】
本明細書において使用される「免疫グロブリン結合タンパク質」という用語は、野生型SpA(wtSpA)又はSpAの公知の変異物ドメイン(例えば、Zドメイン)と比べて、免疫グロブリン又はIg分子のFab部分への低下した結合を示す、SpAの1つ又はそれ以上の修飾されたドメイン(例えば、修飾されたE、D、A、B、C又はZの1つ又はそれ以上)を含む「SpA」又は「スタフィロコッカス・オーレウスのプロテインA」のアミノ酸配列変異物を表す。幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は1つ又はそれ以上の修飾されたドメインE、D、A、B、C又はZを含み、各ドメインは29位にアミノ酸置換を含む。ドメインE、D、B、A又はCの場合には、29位のグリシンはアラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換され、Zドメインの場合には、29位のアラニンは、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換される。幾つかの実施形態において、29位のグリシンは、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換され、29位のアラニンはグリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸で置換される。幾つかの実施形態において、アミノ酸配列変異物は、親アミノ酸配列内の何れかの場所における1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入において、当該アミノ酸配列変異物が得られた親アミノ酸配列と異なり得、少なくとも29位におけるアミノ酸残基の置換を含む。幾つかの実施形態において、アミノ酸配列変異物は、親配列(すなわち、wtSpAドメイン又はZドメイン)と少なくとも約70%又は少なくとも約80%又は少なくとも約85%又は少なくとも約90%又は少なくとも約95%又は少なくとも約96%又は少なくとも約97%又は少なくとも約98%の同一性を有し、このような変異物は、免疫グロブリンのFc部分を結合するが、29位にグリシン又はアラニンを含むSpAアミノ酸配列と比べて、免疫グロブリンのFab部分へ低下した結合を示す。
【0032】
別の実施形態において、29位のグリシン又はアラニンは、トレオニン又はトリプトファンで置換されており、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含むSpAアミノ酸配列と比べて、免疫グロブリンのFab部分へ増加した結合を示す。
【0033】
「配列同一性」という用語は、初期設定ギャップウエイトを使用して、プログラムGAP又はBESTFITなどによって、最適に並置されたときに、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列が少なくとも70%の配列同一性又は少なくとも80%の配列同一性又は少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性又は少なくとも95%の配列同一性又はそれ以上を共有することを意味する。配列比較のために、典型的には、1つの配列が参照配列(例えば、親配列)として作用し、これに対して、試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験及び参照配列がコンピュータに入力され、必要であれば、サブシーケンス座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列と比較した試験配列に対する%配列同一性を計算する。
【0034】
比較のための配列の最適な並置は、例えば、「Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)」の局所的相同性アルゴリズムによって、「Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)」の相同性並置アルゴリズムによって、「Pearson&Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA85:2444(1988)」の類似性検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575Science Dr.,Madison,Wis.中のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)のコンピュータ化された実装によって、又は視覚的試験(全般的には、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology)によって行うことができる。%配列同一性及び配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの一例は、「Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403(1990)」に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)を通じて、公に入手可能(国立衛生研究所NCBIインターネットサーバを通じて公にアクセス可能)である。典型的には、配列比較を実施するために、初期設定プログラムパラメータを使用することができるが、特別設計されたパラメータを使用することもできる。アミノ酸配列に対して、BLASTプログラムは、3のワード長さ(W)、10の期待値(E)及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを初期設定として使用する(Henikoff & Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915(1989)参照)を使用する。
【0035】
一実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシンアミノ酸残基を含むwtSpAの単離されたドメイン(すなわち、E、D、A、B又はC)を基礎としており、前記免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、Ig分子のFab部分への低下した結合を示す。別の実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニン残基を含むSpAのZドメインを基礎とする。別の実施形態において、29位のグリシン残基(すなわち、E、D、A、B及びCドメインの場合)は、アラニン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、29位のアラニン残基(すなわち、Zドメインの場合)は、グリシン、トレオニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、前記免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、Ig分子のFab部分への低下した結合を示す。
【0036】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、E、D、A、B、C及びZと表記されるドメインの少なくとも2つ若しくはそれ以上又は少なくとも3つ若しくはそれ以上又は少なくとも4つ若しくはそれ以上又は少なくとも5つ若しくはそれ以上を含み、前記ドメインの2つ若しくはそれ以上又は3つ若しくはそれ以上又は4つ若しくはそれ以上又は5つ若しくはそれ以上の各々が、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン(例えば、ドメインE、D、A、B及びCの場合)又はアラニン(Zドメインの場合)を含み、及び免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にグリシン又はアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、Ig分子のFab部分への低下した結合を示す。
【0037】
幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、同じドメインの多量体(例えば、Eドメインの2つ又はそれ以上、Dドメインの2つ又はそれ以上、Aドメインの2つ又はそれ以上、Bドメインの2つ又はそれ以上、Cドメインの2つ又はそれ以上、及びZドメインの2つ又はそれ以上)を含み、単量体のそれぞれは、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のグリシン又はアラニンを含み、前記免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質に比べて、Ig分子のFab部分へ低下した結合を示す。
【0038】
29位のグリシン又はアラニンを置換するための適切なアミノ酸には、グリシン、アラニン及びトリプトファンを除く(ある種の実施形態では、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニンを除く)、天然に存在する標準的アミノ酸の何れもが含まれる。幾つかの実施形態において、天然に存在するアミノ酸には、リジン、アルギニン及びロイシンの1つが含まれる。他の実施形態において、天然に存在するアミノ酸には、リジン、アルギニン、ロイシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、セリン、バリン及びチロシンの1つが含まれる。29位のグリシン又はアラニンを置換するためにも、本分野において周知である天然に存在しないアミノ酸及びアミノ酸誘導体を使用することができる。
【0039】
典型的なSpAドメインの修飾が表1に示されている。本発明によって包含される免疫グロブリン結合タンパク質は、ドメイン(E、D、A、B、C及びZ)の1つ若しくはそれ以上、2つ若しくはそれ以上、3つ若しくはそれ以上、4つ若しくはそれ以上、5つ若しくはそれ以上又は6つ若しくはそれ以上のあらゆる組み合わせを含み得、各ドメインは29位に修飾を含み、並びに29位のグリシン又はアラニンはグリシン、アラニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、幾つかの実施形態においては、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている。同じ種類の2つ又はそれ以上のドメイン(例えば、2つ又はそれ以上のEドメイン、2つ又はそれ以上のDドメイン、2つ又はそれ以上のAドメイン、2つ又はそれ以上のBドメイン、2つ又はそれ以上のCドメイン及び2つ又はそれ以上のZドメイン)を含み、各ドメインが29位に修飾を含み、29位のアミノ酸残基がグリシン、アラニン及びトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換されており、並びに幾つかの実施形態においては、グリシン、アラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている、免疫グロブリン結合タンパク質も本発明によって包含される。
【0040】
【表1】
【0041】
本明細書において互換的に使用される、「Eドメイン」、「SpAのEドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのEドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号7に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号1に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Eドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる51アミノ酸のポリペプチドである。「Eドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabを結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のEドメインは、配列番号7に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0042】
本明細書において互換的に使用される、「Dドメイン」、「SpAのDドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのDドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号8に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号2に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Dドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる61アミノ酸のポリペプチドである。「Dドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabを結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のDドメインは、配列番号8に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0043】
本明細書において互換的に使用される、「Aドメイン」、「SpAのAドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのAドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号3に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号9に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Aドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Aドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のAドメインは、配列番号3に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0044】
本明細書において互換的に使用される、「Bドメイン」、「SpAのBドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのBドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号10に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号4に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Bドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Bドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のBドメインは、配列番号10に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0045】
本明細書において互換的に使用される、「Cドメイン」、「SpAのCドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのCドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号11に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号5に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Cドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Cドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のCドメインは、配列番号11に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0046】
本明細書において互換的に使用される、「Zドメイン」、「SpAのZドメイン」及び「プロテインAのZドメイン」という用語は、プロテインAのBドメインの変異物である、三らせんの59アミノ酸のポリペプチドを表す。Zドメインのアミノ酸配列は、配列番号12に記載されている。典型的なZドメインは、「Nilsson et al.,Protein Engng.,1:107−113(1997)」(その内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)に記載されている。
【0047】
「免疫グロブリン」、「Ig」又は「抗体」(本明細書において互換的に使用される。)という用語は、2つの重鎖及び2つの軽鎖からなる基本的な4ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質(前記鎖は、例えば、抗原を特異的に結合する能力を有する鎖間ジスルフィド結合によって安定化されている。)を表す。「一本鎖免疫グロブリン」又は「一本鎖抗体」(本明細書において互換的に使用される。)という用語は、1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる2ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質(前記鎖は、例えば、抗原を特異的に結合する能力を有する鎖間ペプチドリンカーによって安定化されている。)を表す。「ドメイン」という用語は、例えば、β−プリーツシート及び/又は鎖内ジスルフィド結合によって安定化されたペプチドループを含む(例えば、3から4のペプチドループを含む)1つの重鎖及び1つの軽鎖ポリペプチドの球状領域を表す。本明細書において、「定常」ドメインの場合における様々なクラスメンバーのドメイン内での配列変動の相対的欠如又は「可変」ドメインの場合における様々なクラスメンバーのドメイン内での著しい変動に基づいて、ドメインは、さらに、「定常」又は「可変」と称される。本分野において、抗体又はポリペプチド「ドメイン」は、しばしば、抗体又はポリペプチド「領域」と互換的に表記される。抗体軽鎖の「定常」ドメインは、「軽鎖定常領域」、「軽鎖定常ドメイン」、「CL」領域又は「CL」ドメインと互換的に表記される。抗体重鎖の「定常」ドメインは、「重鎖定常領域」、「重鎖定常ドメイン」、「CH」領域又は「CH」ドメインと互換的に表記される。抗体軽鎖の「可変」ドメインは、「軽鎖可変領域」、「軽鎖可変ドメイン」、「VL」領域又は「VL」ドメインと互換的に表記される。抗体重鎖の「可変」ドメインは、「重鎖可変領域」、「重鎖可変ドメイン」、「VH」領域又は「VH」ドメインと互換的に表記される。
【0048】
免疫グロブリン又は抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得、単量体又は多量体の形態(例えば、五量体形態で存在するIgM抗体及び/又は単量体、二量体又は多量体形態で存在するIgA抗体)で存在し得る。「断片」という用語は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖より少ないアミノ酸残基を含む抗体又は抗体鎖の一部又は部分を表す。断片は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖の化学的又は酵素的処置を介して得ることができる。断片は、組換え手段によって取得することも可能である。組換え的に産生される場合、断片は、単独で、又は融合タンパク質と称されるより大きなタンパク質の一部として発現され得る。典型的な断片には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc及び/又はFv断片が含まれる。典型的な融合タンパク質には、Fc融合タンパク質が含まれる。
【0049】
「抗原結合断片」という用語は、抗原を結合する又は抗原結合(すなわち、特異的結合)に関して無傷の抗体と(すなわち、抗原結合断片が由来する無傷の抗体と)競合する、免疫グロブリン又は抗体のポリペプチドの一部を表す。結合断片は、組換えDNA技術によって、又は無傷の免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断によって作製することができる。結合断片には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖及び一本鎖抗体が含まれる。
【0050】
本明細書において互換的に使用される「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」という用語は、あらゆる長さのヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの何れか)のポリマー形態を表す。これらの用語には、一本鎖、二本鎖若しくは三本鎖DNA、ゲノムDNA、cDNA、RNA、DNA−RNAハイブリッド又はプリン及びピリミジン塩基又は他の天然の、化学的に若しくは生化学的に修飾された、非天然の若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。ポリヌクレオチドの骨格は、(RNA又はDNA中に、典型的に見出され得るような)糖及びホスファート基又は修飾された若しくは置換された糖若しくはホスファート基を含むことができる。さらに、二本鎖ポリヌクレオチドは、相補鎖を合成し、適切な条件下で鎖を徐冷することによって、又は適切なプライマーとともにDNAポリメラーゼを使用して、新規に相補鎖を合成することによって、化学的合成の一本鎖ポリヌクレオチド産物から得ることができる。核酸分子は、多くの異なる形態(例えば、遺伝子又は遺伝子断片、1つ又はそれ以上のエキソン、1つ又はそれ以上のイントロン、mRNA、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐したポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離されたDNA、あらゆる配列の単離されたRNA、核酸プローブ及びプライマー)を採ることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化されたヌクレオチド及びヌクレオチド類縁体、ウラシル、フルオロリボース及びチオアートなどの他の糖及び連結基並びにヌクレオチド分岐などの修飾されたヌクレオチドを含み得る。本明細書において使用される「DNA」又は「ヌクレオチド配列」には、塩基A、T、C及びGが含まれるのみならず、メチル化されたヌクレオチド、帯電していない連結及びチオアートなどのヌクレオチド間修飾、糖類縁体の使用並びにポリアミドなどの修飾された及び/又は代替的骨格構造など、これらの塩基の類縁体又は修飾された形態の何れもが含まれる。特定の実施形態において、核酸分子は、SpAの変異物をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0051】
本明細書において使用される「低下した結合」という用語は、29位にアラニン又はグリシンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較した、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質による免疫グロブリン分子のFab(又はF(ab)2)部分への結合におけるあらゆる減少を表す。例えば、Fab部分への結合は、29位にグリシン又はアラニンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較して、約10%又は約20%又は約30%又は約40%又は約50%又は約60%又は約70%又は約80%又は約90%又は約95%又は約96%又は約97%又は約98%又は約99%又はそれ以上減少され得る。幾つかの実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にグリシン又はアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質による結合と比較して、少なくとも50%又はそれ以上低下される。別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、少なくとも70%又はそれ以上低下される。さらに別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、少なくとも90%若しくはそれ以上又は少なくとも95%若しくはそれ以上又は少なくとも99%若しくはそれ以上低下される。一実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、本分野における慣用技術及び本明細書中に記載されている技術を用いて検出することができない。免疫グロブリン分子への結合は、本明細書に記載されているものを含む、並びに例えば、アフィニティークロマトグラフィー及び表面プラズモン共鳴分析を含む(但し、これらに限定されない。)周知の技術を用いて検出することができる。幾つかの実施形態において、本発明によって包含される免疫グロブリン結合タンパク質は、単一のIgG結合ドメインに対して少なくとも約10−8Mの解離定数で、又は5つの直列IgG結合ドメインに対して約10−11Mの解離定数で、免疫グロブリン分子のFc部分を結合する。他の実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、単一の免疫グロブリン結合ドメインに対して約10−5Mの解離定数で、又は5つの直列結合ドメインを有する無傷のプロテインAに対して約10−6Mの解離定数で、免疫グロブリン分子のFab部分に結合する。
【0052】
本明細書において使用される「増加した結合」という用語は、29位にアラニンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較した、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質による免疫グロブリン分子のFab(又はF(ab)2)部分への結合におけるあらゆる増加を表す。例えば、Fab部分への結合は、29位にアラニンアミノ酸残基を含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較して、約10%又は約20%又は約30%又は約40%又は約50%又は約60%又は約70%又は約80%又は約90%又は約95%又は約96%又は約97%又は約98%又は約99%又はそれ以上増加され得る。幾つかの実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質による結合と比較して、少なくとも50%又はそれ以上増加される。別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質によるFab結合と比較して、少なくとも70%又はそれ以上増加される。さらに別の実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、29位にアラニンを含む免疫グロブリンタンパク質によるFab結合と比較して、少なくとも90%若しくはそれ以上又は少なくとも95%若しくはそれ以上又は少なくとも99%若しくはそれ以上増加される。典型的な実施形態において、29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比較して増加したFab結合を示す免疫グロブリン結合タンパク質は、29位にトレオニン又はトリプトファンを含む。免疫グロブリン分子への結合は、本明細書に記載されているものを含む、並びに例えば、アフィニティークロマトグラフィー及び表面プラズモン共鳴分析を含む(但し、これらに限定されない。)周知の技術を用いて検出することができる。
【0053】
「Fc結合」、「Fc部分へ結合する」又は「Fc部分への結合」という用語は、抗体の結晶化可能部分(Fc)へ結合する、本明細書中に記載されている免疫グロブリン結合タンパク質の能力を表す。幾つかの実施形態において、本発明の免疫グロブリン結合タンパク質は、少なくとも10−7M又は少なくとも10−8M又は少なくとも10−9Mの親和性で抗体(例えば、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4)Fc部分を結合する。
【0054】
本明細書中において使用される「アフィニティー分離」又は「アフィニティー精製」という用語は、本明細書に記載されているように、その上に免疫グロブリン結合タンパク質を担持する固体支持体へ、標的分析物(例えば、免疫グロブリン)を含有する試料を添加することを含むあらゆる精製又はアッセイ技術を表す。
【0055】
本明細書中において使用される「クロマトグラフィー」という用語は、測定すべき分析物(例えば、免疫グロブリン)を混合物中の他の分子から分離し、分析物の単離を可能とするあらゆる種類の技術を表す。
【0056】
本明細書中において使用される「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、分離されるべき分析物が、分析物と特異的に相互作用する分子(例えば、免疫グロブリン結合タンパク質)とのその相互作用によって単離されるクロマトグラフィーの様式を表す。
【0057】
II.SpA構造及び免疫グロブリン結合部位
SpAは、細菌スタフィロコッカス・オーレウスに由来する約42kDaのタンパク質であり、N末端に5つの直列の高度に相同な細胞外免疫グロブリン(Ig)結合ドメイン(E、D、A、B及びCと表記される。)を含有する。SpAの各細胞外ドメインは、異なるIg結合部位を有する。1つの部位はFcγ(IgのIgGクラスの定常領域)に対するものであり、他の部位は、ある種のIg分子のFab部分(抗原認識に必要なIgの部分)に対するものである。ドメインの各々がFab結合部位を含有すると報告されている。SpAの非Ig結合部分はC末端に位置しており、X領域又はXドメインと表記される。
【0058】
SpAをコードする遺伝子のクローニングは、米国特許第5,151,350号(その内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)中に記載されている。
【0059】
III.SpA変異物の作製及び発現
本発明のSpA変異物は、本分野において公知のあらゆる適切な方法を用いて作製することができる。例えば、Sambrook、Fritsch及びManiatisによるMolecular Cloningという題名の研究室マニュアル中に記載されているものなどの、核酸の部位特異的突然変異誘発のための標準的な技術を例えば使用し得る。さらに、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)突然変異誘発を含む標準的な分子生物学技術を使用し得る。
【0060】
幾つかの実施形態において、SpA変異物は、標準的な遺伝子工学技術を用いて作製される。例えば、適切な宿主細胞中で発現させるために、SpAのドメイン又はその一部をコードする核酸分子を適切なベクター中にクローニングすることができる。適切な発現ベクターは本分野において周知であり、変異物SpAコード配列の転写及び翻訳のために必要な要素を通例含む。
【0061】
本明細書に記載されているSpA変異物は、Boc(tert−ブチルオキシカルボニル)又はFmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)アプローチなどの固相ペプチド合成法(例えば、米国特許第6,060,596号;米国特許第4,879,378号;米国特許第5,198,531号;米国特許第5,240,680号)などの本分野において周知の方法を用いて、断片に対するアミノ酸前駆体から化学的に合成することもできる。
【0062】
SpA変異物の発現は、酵母、昆虫若しくは哺乳動物などの真核生物宿主由来の細胞中で、又は原核生物宿主細胞(例えば、イー・コリなどの細菌)中で達成することができる。
【0063】
幾つかの実施形態において、各ファージがファージ表面上に提示された各SpA変異物をコードするDNA配列を含有するように、SpA変異物は、バクテリオファージの表面上に発現され得る。このアプローチでは、これらの位置に様々なアミノ酸を生成するために選択されるSpA配列中の選択された位置に無作為な又は半無作為なオリゴヌクレオチドを合成することによって、SpA変異物のライブラリーが作製される。コードDNAは、適切なファージベクター中に挿入され、ファージ粒子中にパッケージされ、適切な細菌宿主を感染させるために使用される。従って、配列の各々が1つのファージベクター中にクローニングされ、(例えば、パニングとして知られる方法により)Fcへ結合するが、Fabへ結合しないファージを見出すことによって、(例えば、29位に変異を有する)目的のSpA変異物を選択することができる。このようにして回収されたファージは増幅することができ、この選択は繰り返すことができる。また、ファージを単離し、ヌクレオチド配列決定によって、選択されたSpA変異物をコードするヌクレオチド配列を決定することができる。
【0064】
IV.Fc及びFabへのSpA変異物の結合
SpA変異物の作製に続いて、免疫グロブリンのFab又はFc部分へのSpA変異物の結合特異性は、本分野における標準的な技術及び本明細書中に記載されている技術を用いて決定される。
【0065】
例えば、SpA変異物は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーによる固定化のために、ヒスチジンタグ((His)6−タグ)とともに構築され得る。次いで、適切な断片を樹脂に添加することによって、Fc及びFab結合に関して、ニッケル結合されたSpAを試験することができる。結合されていない材料は洗浄除去され、Fc及びFabは、ゲル電気泳動によって、溶出試料中に検出される。
【0066】
あるいは、Fc及びFab結合は、表面プラズモン共鳴分析によって測定することができる。SpA変異物は、アミン反応性化学を用いてチップ上に固定化され、チップ上にFc又はFab断片が流される。Fc又はFabが結合すれば、表面プラズモン共鳴シグナルの増加が観察される。
【0067】
SpAは、クロマトグラフィービーズ上にも固定化され得る。Fc又はFab結合は、SpA樹脂に対して流出及び溶出ピークを比較することによって観察される。
【0068】
V.クロマトグラフィーマトリックスを作製するためのSpA及びその変異物の使用
本発明は、抗体のFc部分に対する親和性を有し、及び抗体のFab部分に対して低下した親和性を有する又は親和性を有さない少なくとも1つの免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックスを調製する方法も提供する。一実施形態において、このような方法は、(a)単離されたSpAドメイン(例えば、E、D、A、B、C又はZ)をコードする核酸配列を準備すること;(b)アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸によって、少なくとも29位のグリシンが置換されている変異物タンパク質をコードするように前記核酸配列を変異させること;(c)宿主細胞(例えば、適切な原核細胞又は真核細胞)中の変異物タンパク質を発現させること;(d)変異物タンパク質を宿主細胞から回収すること;及び(e)固体支持体へ変異物タンパク質を連結させることを含む。
【0069】
固体支持体マトリックスには、制御細孔ガラス(controlled pore glass)、アガロース、メタクリラート及びポリスチレンが含まれるが、これらに限定されない。タンパク質は、例えば、アミン反応性又はチオール反応性化学によってマトリックスに連結することができる。
【0070】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、以下の実施例は限定的なものと解釈すべきでない。本願を通じて引用されている全ての参考文献、特許及び公開された特許出願の内容並びに図面は、参照により、本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
SpA変異物を含有するベクターの構築
プロテインAの「Bドメイン」をコードする遺伝子は、DNA合成装置を用いた標準的な方法によって合成される。遺伝子の5’末端は、開始メチオニンに対するコドンを含み、及び遺伝子の3’末端に6つのヒスチジンコドンを含む。この遺伝子は、ベクターpJ56:8620中に与えられる。親ベクターpJ56は、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール及びゲンタマイシンに対する耐性を付与する。続いて発現ベクター中に遺伝子をクローニングするための適切な制限酵素部位が、遺伝子の5’末端及び3’末端の両方に導入される。ベクターのプラスミド地図が図5に示されている。
【0072】
29位のグリシンは、PhusionHigh−FidelityDNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Ipswich,MA)を用いるPCRをベースとする方法によって、19の他のアミノ酸のそれぞれへ変異を受ける。リン酸化されたプライマーは、TrisEDTA緩衝液中の100μM溶液として、IDTDNA(Coralville,IA)から購入される。変異原性プライマーは、配列:5’(P)GAAGAACAACGCAACNNNTTCATTCAGA(配列番号19)(NNNは、29位のアミノ酸をコードする3つの塩基を表す。)を有する。非変異原性プライマーは、配列5’(P)GTTCAGGTTCGGCAGATGCAGGAT(配列番号20)を有する。PCRは、dNTP(それぞれ、0.2mM)、各プライマー0.5mM、テンプレートプラスミド10pg及びPhusion酵素1Uを含有する反応物50μL中で行われる。PCRは、表IIに要約されているスキームに従って行われる。
【0073】
【表2】
【0074】
野生型バックグラウンドを低下させるために、PCR反応物は、制限酵素DpnI(New England Biolabs,Ipswich,MA)で処理される。各PCR反応物50μLに、DpnI酵素約1μLを添加し、試料を37℃で約1時間温置する。
【0075】
DpnIで処理されたPCR反応物2μLで、イー・コリNEB5α形質転換受容性細胞(New England Biolabs,Ipswich,MA)を形質転換する。細胞を氷上で溶かし、PCR反応物2μLを細胞25μLに添加する。氷上で約30分の温置後、約42℃で30秒間、細胞に熱ショックを施す。氷上で約5分間、細胞を回復させ、次いで、SOC培地125μL(New England BioLabs)を添加する。37℃で約1時間、細胞を温置し、次いで、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート(Northeast Laboratory Services,Winslow,ME)上に100μLを播種し、約37℃で一晩増殖させる。精製されたDNAを得るために、100μg/mLアンピシリンを含有するLB中で一晩培養するために、各コロニーを拾い上げる。Qiagen(Valencia,CA)のspin mini−prepキットを用いてDNAを精製する。ミニプレップ処理されたDNAを配列決定し、各クローンの正体を確認するために、プライマーpJR(5’GAATATGGCTCATAACACCCCTTG)(配列番号21)を使用する(MWGBiotech,HuntsvilleAL)。
【0076】
様々なクローンの配列確認に続いて、細菌細胞中で変異物を発現させるために、各SpA変異物に対する遺伝子をプラスミド中にサブクローニングする。適切な制限酵素(New England Biolabs,Ipswich,MA)でプラスミドを消化し、1%アガロースReliantFastLaneゲル(LonzaInc.,Allendale,NJ)上で挿入物をゲル精製する。関連するバンドをゲルから切り出し、Qiagen(Valencia,CA)のゲル抽出キットを用いて精製される。T4DNAリガーゼ(New England Biolabs,Ipswich,MA)を用いて、適切な発現ベクターの骨格中に精製された挿入物を連結する。上述のように、イー・コリNEB5α形質転換受容性細胞を形質転換するために、得られたプラスミドを使用する。
【0077】
(実施例2)
プロテインA変異物の発現及び精製
様々なSpA変異物を発現させるために、あらゆる適切な細菌発現系を使用することができる。例えば、タンパク質は、pET11a(Novagen,MadisonWI)などのpETベクターから、株BL21(DE3)(Promega,MadisonWI)などのエシェリヒア・コリ(Eschericia coli)中で発現され得る。プレートから単一コロニーを拾い上げ、100μg/mLアンピシリンを含有するLB培地中において、約37℃で一晩増殖させる。100μg/mLアンピシリンを含有する新鮮なLB培地中に、一晩培養物を100倍希釈し、600nmの光学密度が0.8であるような細胞密度まで増殖させる。1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドの添加後、細胞をさらに2時間増殖させる。SDS−PAGE分析及びウェスタンブロッティングによって発現を確認する。典型的なプロテインAウェスタンブロットが図8に示されており、図8は、イー・コリBL21(DE3)細胞中のベクターPET11a:8620からのプロテインAの発現がニワトリIgY抗プロテインA抗体を用いて検出されることを示している。
【0078】
遠心(4000rpm、4℃、5分)によって細胞を採集し、20mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水の3mL中に再懸濁する。音波処理によって、細胞を溶解し、遠心(4000rpm、4℃、30分)によって、細胞破砕物を沈降させる。NiNTAスピンカラム(Qiagen)を使用し、スピンカラム当り細胞溶解液400μLを適用して、SpA変異物を精製する。20mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水600μLで2回、カラムを洗浄し、200mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水200μL×2中に、SpAを溶出する。PBS中に一晩、SpAを透析する。Dcタンパク質アッセイ(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)を使用し、ウシ血清アルブミンを用いて調製された標準曲線と比較して、タンパク質濃度を確認する。
【0079】
(実施例3)
Fc及びFab断片へのSpA変異物の結合
続いて、NiNTAアガロース樹脂(Qiagen)を用いて、Fc及びFabを結合する能力に関して、各SpA変異物を試験する。JacksonImmunoResearch(WestGrove,PA)から、Fc及びF(ab)2断片を入手する。20mMイミダゾールを含有するリン酸緩衝化生理的食塩水中に、0.11mg/mLの濃度まで各SpA変異物を希釈し、0.44mg/mLの濃度までFcを希釈し、0.92mg/mLの濃度までF(ab)2を希釈する。NiNTAアガロース樹脂を再懸濁し、樹脂スラリー約20μLを、0.5mLの微小遠心管中にピペットで分注する。続いて、樹脂を沈降させ、上清を廃棄する。20mMイミダゾールを加えたPBS約100μLで樹脂を洗浄し、室温で約15分間温置し、再度沈降させる。上清を廃棄する。約250μLの0.11mg/mLの各SpA変異物又はPBS対照を、2つ組みで、樹脂カラム上に搭載し、室温で約30分間温置する。樹脂を沈降させ、分析のために上清を保存する。毎回、20mMイミダゾールを加えたPBS100μLで、沈降物を3回洗浄し、5分間温置し、再度沈降させる。上清を廃棄する。樹脂とともに約30分間温置することによって、SpA変異物の各々又はPBS対照との結合に関して、Fc又はF(ab)2の約100μLを試験する。続いて、樹脂を沈降させ、分析のために上清を保存する。毎回、20mMイミダゾールを加えたPBS約100μLで、樹脂を再度3回洗浄し、5分間温置し、沈降させる。今回は、上清を廃棄する。20mMイミダゾールを加えたPBS約100μLで、結合された画分を溶出し、約15分間温置し、沈降させる。さらなる分析のために、上清を保存する。続いて、図9から12に図示されているように、Bio−RadLaboratories,CAから購入した4から15%勾配のゲル上でのSDS−PAGEによって、試料を分析する。
【0080】
表面プラズモン共鳴バイオセンサー分析によって、Fc及びF(ab)2への5つのプロテインA変異物の結合を試験する。全ての実験は、0.005%Tween−20を含有するリン酸緩衝化生理的食塩水(PBS)中で実施する。500RUのレベルまで連結させるアミン化学を介して、ProteOnGLCセンサーチップ(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA)上に、プロテインA変異物を固定化する。45nMから185pMの範囲のタンパク質濃度で、Fc及びF(ab)2断片(JacksonImmunoResearchLaboratories,WestGrove,PA)の3倍希釈系列を調製し、各濃度を2つ組みで分析する。Fc又はF(ab)2の各濃度を250秒間注入した後、解離速度を測定するために、PBSを3.5時間注入する。オン速度及びオフ速度(kon及びkoff)を得るために、異種2部位モデルへデータを適合させる。図13Aから13Eに図示されているように、野生型グリシン29タンパク質並びにG29A、G29R、G29K及びG29Lの各々がFcを結合する。図14Aから14Eは、野生型G29がFabを結合することが観察され、及びG29Aが弱いが、検出可能なF(ab)2結合を示すことを示している。G29R、G29K又はG29Lに関しては、F(ab)2結合は観察されない。
【0081】
クロマトグラフィー樹脂上へのSpA変異物の固定化後に、Fc及びFab結合も評価する。国際PCT出願WO90/09237号(その内容全体が、参照により、本明細書中に取り込まれる。)に記載されている、固体支持体へプロテインAを結合させるための方法に従って、制御細孔ガラスビーズ(それぞれ50mL、60μLの平均粒子サイズ、800Åの平均孔直径)をプロテインA又はプロテインA変異物で官能化する。リガンド結合後、それぞれ、(順に)、0.15MNaClを加えた0.1MTris、pH8、続いて0.05M酢酸のそれぞれ150mL容量で、試料を3回洗浄する。その後、試料を平衡化し、アジ化物を加えたPBS中に保存する。
【0082】
対応するリガンドで固定化された制御細孔ガラスアフィニティー樹脂を、6.6mm内径×70mmLOmniFitカラム中に充填する。この実験で使用された緩衝液は、(A)50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2並びに(B)50mMリン酸ナトリウム、pH2であり、流速は1.2mL/分である。開始緩衝液A中にカラムを平衡化させた後、緩衝液A中の1から2mg/mLのF(ab)2又はFc100μL(JacksonImmunoResearch,WestGrove,PA)をカラム中に注入する。緩衝液Aの10カラム容積(CV)後、線形勾配で、20CVにわたって、緩衝液Bを混合する。6M塩酸グアニジンの2CVによってカラムを再生する前に、緩衝液Bの10カラム容積超をカラムに走行させる。図15A及び15Bに図示されているように、野生型グリシン29タンパク質並びにG29A、G29R、G29K及びG29Lの各々がFcを結合する。野生型G29はFabを結合することが観察され、G29Aは、弱いが、検出可能なF(ab)2結合を示す。G29R、G29K又はG29Lに対しては、F(ab)2結合は見られない。
【0083】
別の典型的な実験において、NiNTAアガロース樹脂(Qiagen)上にプロテインA変異物の完全な組を捕捉することによって、Fc及びFab結合に関して、プロテインA変異物の完全な組を試験する。簡潔に述べると、wtSpAの29位にアミノ酸置換を有するHisタグ化プロテインA変異物を樹脂へ過剰に添加し、20mMイミダゾールを含有するPBSで樹脂を洗浄した後、免疫グロブリンのFc又はFab部分を添加する。20mMイミダゾールを含有するPBSで、樹脂を再度洗浄した後、200mMイミダゾールを含有するPBSでSpA及びIgG断片を溶出する。4から20%勾配のゲル(BioRad)後のクマシーブルー染色(Pierce)上で、得られた溶出画分を分析する。プロテインAなしの樹脂を陰性対照として使用する。典型的な実験の結果が、以下の表IIIに要約されている。異なる変異物間に、Fc結合の明白な差は観察されないが、変異物の多くに対して、Fab結合は顕著に低下する。変異物の多くは、野生型と比べて15%未満であるFab結合を示す。変異物の3つ(G29A、G29T及びG29W)に対して、24%又はそれ以上の残存Fab結合が観察される。
【0084】
【表3】
【0085】
本明細書は、参照により本明細書中に組み込まれる、本明細書中に引用されている参考文献の教示に照らして最も完全に理解される。本明細書中の実施形態は、本発明における実施形態の例示を与えるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。多くの他の実施形態が本発明によって包含されることが、当業者に容易に認識される。全ての公報及び発明の全体が、参照により組み込まれる。参照によって組み込まれた資料が本明細書と矛盾し又は不一致である程度まで、本明細書はかかる一切の資料に優先する。本明細書中でのあらゆる参考文献の引用は、かかる参考文献が本発明に対して従来技術であることを認めたものではない。
【0086】
別段の記載がなければ、特許請求の範囲を含む本明細書中において使用される、成分の量、細胞培養、処理条件などを表す全ての数字は、全ての事例で、「約」という用語によって修飾されているものと理解すべきである。従って、別段の記載がなければ、数的パラメータは近似であり、本発明によって得られることが求められる所望の特性に応じて変動し得る。別段の記載がなければ、要素の系列に先行する「少なくとも」という用語は、その系列中のあらゆる要素を表すものと理解される。当業者は、本明細書中に記載されている本発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識し、定型的な実験操作のみを用いて多くの均等物を確認することができる。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるものとする。
【0087】
当業者に自明であるように、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの修飾及び変形を施すことが可能である。本明細書に記載されている具体的な実施形態は例として与えられているものに過ぎず、いかなる意味においても、限定を意味するものではない。本明細書及び実施例は例示に過ぎないと考えられることが意図され、本発明の真の範囲及び精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【0088】
参考文献:
Fab binding: Melissa A. Starovasnik, Mark P. O’connell, Wayne J. Fairbrother, And Robert F. Kelley (1999). Antibody variable region binding by Staphylococal proteinA: Thermodynamic analysis and location of the Fv binding site on E-domain. Protein Science 8, 1423-1431.
Fc binding constant: Susanne Gulich, Mathias Uhlen, Sophia Hober (2000) Protein engineering of an IgG-binding domain allows milder elution conditions during affinity chromatography. Journal of Biotechnology 76, 233-244
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインが、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン若しくはトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質であって、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合するが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す、前記単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項2】
アラニン、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基がロイシン、リジン及びアルギニンからなる群から選択される、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項3】
少なくとも29位のグリシン残基がアラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸残基で置換されており、又は少なくとも29位のアラニンがグリシン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項4】
少なくとも29位のグリシン残基又は29位のアラニンが、リジン、アルギニン、ロイシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、バリン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項5】
ブドウ球菌プロテインAのカルボキシ末端領域の少なくとも一部をさらに含む、請求項1に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項6】
固体支持体へ連結された、請求項1に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックス。
【請求項7】
請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質を含むポリペプチドのライブラリー。
【請求項8】
1つ又はそれ以上の単離されたドメイン中に、別のアミノ酸残基でのアスパラギンの置換をさらに含む、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項9】
前記アスパラギンが23位に存在する、請求項8に記載の免疫グロブリン結合タンパク質
【請求項10】
免疫グロブリンがIgG又はその断片である、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項11】
請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項13】
(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程;
(b)前記1つ又はそれ以上の免疫グロブリンがマトリックスに結合するような条件下で、請求項6に記載のマトリックスと試料を接触する工程;及び
(c)適切な条件下で溶出することによって、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程;
を含む、試料から1つ又はそれ以上の免疫グロブリンをアフィニティー精製する方法。
【請求項14】
ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基を、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質であって、該免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への増加した結合を示す、前記単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項15】
少なくとも29位のグリシン又は29位のアラニンがトレオニン又はトリプトファンで置換されている、請求項14に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項16】
固体支持体へ連結された、請求項14に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックス。
【請求項17】
(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程;
(b)前記1つ又はそれ以上の免疫グロブリンがマトリックスに結合するような条件下で、請求項16に記載のマトリックスと試料を接触する工程;及び
(c)適切な条件下で溶出することによって、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程;
を含む、試料から1つ又はそれ以上の免疫グロブリンをアフィニティー精製する方法。
【請求項18】
免疫グロブリンがIgG、IgA若しくはIgM又はこれらの断片からなる群から選択される、請求項14に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項19】
免疫グロブリンのFc部分がFc融合タンパク質の一部である、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項1】
ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインが、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン若しくはトリプトファン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質であって、前記免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合するが、29位にアラニン又はグリシンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への低下した結合を示す、前記単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項2】
アラニン、グリシン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基がロイシン、リジン及びアルギニンからなる群から選択される、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項3】
少なくとも29位のグリシン残基がアラニン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸残基で置換されており、又は少なくとも29位のアラニンがグリシン、トリプトファン及びトレオニン以外のアミノ酸で置換されている、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項4】
少なくとも29位のグリシン残基又は29位のアラニンが、リジン、アルギニン、ロイシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、バリン及びチロシンからなる群から選択されるアミノ酸で置換されている、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項5】
ブドウ球菌プロテインAのカルボキシ末端領域の少なくとも一部をさらに含む、請求項1に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項6】
固体支持体へ連結された、請求項1に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックス。
【請求項7】
請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質を含むポリペプチドのライブラリー。
【請求項8】
1つ又はそれ以上の単離されたドメイン中に、別のアミノ酸残基でのアスパラギンの置換をさらに含む、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項9】
前記アスパラギンが23位に存在する、請求項8に記載の免疫グロブリン結合タンパク質
【請求項10】
免疫グロブリンがIgG又はその断片である、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項11】
請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項13】
(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程;
(b)前記1つ又はそれ以上の免疫グロブリンがマトリックスに結合するような条件下で、請求項6に記載のマトリックスと試料を接触する工程;及び
(c)適切な条件下で溶出することによって、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程;
を含む、試料から1つ又はそれ以上の免疫グロブリンをアフィニティー精製する方法。
【請求項14】
ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、(i)ドメインがE、D、A、B若しくはCドメインである場合には、アラニン以外のアミノ酸残基で置換された、少なくとも29位のグリシン残基を、又は(ii)ドメインがZドメインである場合には、グリシン以外のアミノ酸で置換された、少なくとも29位のアラニンを含む単離された免疫グロブリン結合タンパク質であって、該免疫グロブリン結合タンパク質は免疫グロブリンのFc部分を結合し、及び29位にアラニンを含む免疫グロブリン結合タンパク質と比べて、免疫グロブリンのFab部分への増加した結合を示す、前記単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項15】
少なくとも29位のグリシン又は29位のアラニンがトレオニン又はトリプトファンで置換されている、請求項14に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項16】
固体支持体へ連結された、請求項14に記載の単離された免疫グロブリン結合タンパク質を含むクロマトグラフィーマトリックス。
【請求項17】
(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程;
(b)前記1つ又はそれ以上の免疫グロブリンがマトリックスに結合するような条件下で、請求項16に記載のマトリックスと試料を接触する工程;及び
(c)適切な条件下で溶出することによって、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程;
を含む、試料から1つ又はそれ以上の免疫グロブリンをアフィニティー精製する方法。
【請求項18】
免疫グロブリンがIgG、IgA若しくはIgM又はこれらの断片からなる群から選択される、請求項14に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【請求項19】
免疫グロブリンのFc部分がFc融合タンパク質の一部である、請求項1に記載の免疫グロブリン結合タンパク質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図15A】
【図15B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図15A】
【図15B】
【公開番号】特開2010−75175(P2010−75175A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−185389(P2009−185389)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185389(P2009−185389)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】
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