説明

改変型カリクレイン及びこれを用いる機能型カリクレインの製造方法

【課題】効率よく且つ大量に機能型カリクレインを製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、制御配列からなるアミノ酸配列が欠失したカリクレインアミノ酸配列を含む、改変型カリクレインポリペプチドを利用した機能型カリクレインの製造方法を提供する。上記改変型カリクレインポリペプチドをコードする発現ベクターが導入された形質転換体を培養することにより、培養上清中に機能型カリクレインが分泌される。本発明の方法を用いれば、エンドプロテアーゼによる汚染のリスクを有さない高活性の機能型カリクレインを、効率よく且つ大量に製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変型カリクレイン、及びこれを用いる機能型カリクレインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セリンプロテアーゼであるカリクレインファミリーは癌の発症への関与が指摘されている。ファミリーメンバーであるニューロプシン(NP, KLK8)は、子宮癌に加え、神経可塑性作用、皮膚疾患及び創傷治癒にも関与していると考えられている。特に皮膚での発現局在は興味深く、ヒトとマウス皮膚で、ヒト・ニューロプシン(ヒトNP)とマウス・ニューロプシン(マウスNP)は上側の有棘層から角質層まで局所化する。さらにニューロプシンのmRNAとタンパク質の増加が、尋常性乾癬、扁平苔癬、アトピーなどの皮膚疾患で観察され、ニューロプシンが正常な皮膚代謝に関与している事が明らかにされている(非特許文献1及び2)。ニューロプシンの更なる解明と皮膚疾患の治療への応用を図るために、大量にニューロプシンを生産する技術が必要である。
【0003】
他のカリクレインファミリーと同様、ニューロプシンは、細胞から分泌された状態では不活性なプロ・ニューロプシンとして存在する。生体ではこれを活性化するメカニズムが存在するが、in vitroでは、リジルエンドペプチダーゼ処理によって機能型(活性化)ニューロプシンを得る必要があった。ラボスケールではこれで良いが、産業スケールで機能型ニューロプシンを製造する際には、この段階(プロテアーゼ処理)が律速となり、またプロテアーゼの使用によってニューロプシンが汚染されるという懸念がある。従って、ニューロプシンを治療などに応用する為には、効率よく且つ大量に機能的ニューロプシンを得る事、プロテアーゼ処理に頼らず不純物の混合の恐れが少ない製造プロセスを開発することが必要である。
【0004】
本発明者らは以前よりニューロプシンに注目しており、これに関するいくつかの特許出願がなされている(特許文献1〜3)。
【0005】
ニューロプシンに限らず、カリクレインファミリーは、多くの組織及び体液中で不活性化型(プレプロカリクレイン)として生産される。プレプロカリクレインは、N末端側にシグナル配列、C末端側に活性ドメイン、そしてその二者の間に制御配列を有している(図1)。プレプロカリクレインはシグナル配列の作用により細胞外に分泌され、シグナル配列が切断をうけてプロカリクレインとなり、さらに活性化プロテアーゼによって制御配列が切断を受けることにより活性化される(機能型カリクレイン)と考えられている。
【0006】
ヒトカリクレインファミリーに関しては、シグナル配列および制御配列の長さや切断位置について、コンピューターを用いた推定がなされている。しかし、これらのうち実証されているものは少ない(非特許文献3)。
【0007】
カリクレインファミリーの中でもっともよく研究されているものが、PSA(prostate-specific antigen)であり、非特許文献4には、PSAの成熟型タンパク質の遺伝子配列に、酵母の細胞外分泌シグナル配列を付加することで、活性化型PSAを酵母内で産生させることができたという報告がなされている。しかし、PSAは霊長類特異的なカリクレインであり、構造もニューロプシンやその他の多くのカリクレインとは異なっている。PSAはKLK1,KLK2と共にClassical Kallikreinに分類されており、これらは酵素活性を持つ触媒ドメインにClassical Loopと呼ばれる構造を有している(非特許文献5)。
【0008】
PSAタンパク質はまた、酵母系、昆虫細胞系、哺乳類細胞系などのさまざまな細胞培養系で生産することが可能であるが、他のカリクレインファミリーについてはin vitroでの発現系の確立例は少ない。
【0009】
【特許文献1】特開平08-245700号公報
【特許文献2】特許第3684431号明細書
【特許文献3】特許第3663228号明細書
【非特許文献1】Kuwae, K. et al., (2002) J. Clin. Pathol. 55,235-241
【非特許文献2】Komatsu, N. et al., (2005) J. Investig. Dermatol. 125,1182-1189
【非特許文献3】Yousef G.M, et al., (2001) Endocrine Reviews 22(2), 184-204,
【非特許文献4】Habeck L.L., et al., (2001) The Prostate, 46, 298-306
【非特許文献5】Obiezu C.V., et al., (2005) Cancer Letters, 224, 1-22
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、効率よく且つ大量に機能型カリクレインを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、マウスプレプロニューロプシンから独自に予測した制御アミノ酸配列であるQGSK相当部分の配列を除くことにより得られる改変型ニューロプシン(図1)をコードするDNAを昆虫細胞系で発現させると、リジルエンドペプチダーゼ処理を要することなく、活性化型ニューロプシンが効率よく且つ大量に細胞外へ産生されることを見出した。更に、この改変型ニューロプシンをコードするDNAをCOS-7にトランスフェクトすると、同様に、培養上清中に活性化型ニューロプシンが効率よく且つ大量に産生され、この方法が哺乳動物細胞系でも有効に機能することが示された。
以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0012】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]制御配列からなるアミノ酸配列が欠失したカリクレインアミノ酸配列を含む、改変型カリクレインポリペプチド。
[2]カリクレインがニューロプシンである、[1]記載のポリペプチド。
[3]ポリペプチドに含まれるアミノ酸配列が以下の(1)又は(2)のアミノ酸配列である、[2]記載のポリペプチド:
(1)QGSKからなるアミノ酸配列が欠失したマウスニューロプシンアミノ酸配列;
(2)QEDKからなるアミノ酸配列が欠失したヒトニューロプシンアミノ酸配列。
[4]ポリペプチドに含まれるアミノ酸配列が配列番号53又は55で表されるアミノ酸配列である、[3]記載のポリペプチド。
[5][1]〜[4]のいずれか1つに記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[6][5]記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[7][6]記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
[8][7]記載の形質転換体を培養すること、及び培養物から機能型カリクレインを単離することを含む、機能型カリクレインの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改変型カリクレインを用いれば、形質転換体から培養上清中に、直接、機能型カリクレインが分泌されるので、エンドペプチダーゼ処理をすることなく、高い活性を有する機能型カリクレインを得ることができる。従って、本発明の方法を用いれば、エンドプロテアーゼによる汚染のリスクを有さない高活性の機能型カリクレインを、効率よく且つ大量に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.改変型カリクレインポリペプチド
本発明は、制御配列からなるアミノ酸配列が欠失したカリクレインアミノ酸配列を含む、改変型カリクレインポリペプチドを提供するものである。
【0015】
カリクレインは、公知のプロテアーゼであり、そのアミノ酸配列やcDNA配列も公知である。カリクレインは、「カリクレインファミリー」と称する酵素ファミリーを形成している。カリクレインファミリーメンバーは、例えば、ヒトにおいて15種類、マウスにおいて26種類が知られている。これらのメンバーのいずれもが本発明において用いられるカリクレインに含まれる。例えば、ヒトカリクレインファミリーメンバーについては、Clinical Chemistry 46: 1855-1858(2000)に記載されている。ここで、カリクレイン8はニューロプシンと同義である。本発明において用いられるカリクレインは、好ましくはニューロプシンである。
【0016】
本発明において用いられるカリクレインは、哺乳動物由来のものであれば特に限定されない。該哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくはげっ歯類(例えば、マウス)又は霊長類(例えば、ヒト)である。
【0017】
具体的には、カリクレインファミリーのメンバーとして以下の表1に列挙されたものを例示することができる。
【0018】
【表1】

【0019】
カリクレインは、通常、生体内においてまず不活性化型(プレプロカリクレイン)として生産される。プレプロカリクレインは、N末端側のシグナル配列、C末端側の活性ドメイン、及び二者の間に位置する制御配列からなる(図1)。シグナル配列は、カリクレインのN末端に位置し、疎水性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン又はプロリン)に富み、且つカリクレインを細胞外へ分泌させる機能を有する部位である。制御配列は、シグナル配列のC末端に隣接し、且つ塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン又はヒスチジン)に富む、比較的短い(通常4〜38アミノ酸、好ましくは4〜9アミノ酸)部位である。制御部位のC末端のアミノ酸は塩基性アミノ酸(好ましくは、アルギニン又はリジン)である。制御部位のC末端の塩基性アミノ酸は、通常、カリクレインの活性ドメインのN末端の疎水性アミノ酸(好ましくは、バリン、ロイシン又はイソロイシン)に隣接している。活性ドメインは、プレプロカリクレインからシグナル配列及び制御配列を除いた残りの部分をいい、固有のプロテアーゼ活性を有する。
【0020】
生体内においては、通常、プレプロカリクレインは、シグナル配列の作用により細胞外に分泌され、シグナル配列が切断されてプロカリクレインとなる。プロカリクレインは、プレプロカリクレインと同様に、プロテアーゼとして不活性である。プロカリクレインは、さらに活性化プロテアーゼ(例えば、リジルエンドペプチダーゼ)によって制御配列が切断されることにより、活性ドメインからなり、且つプロテアーゼ活性を有する機能型カリクレインとなる。
【0021】
上述のようなカリクレインの構造や、活性化機構は公知であり(例えば、J. Biol. Chem., Vol. 273, 11189-11196, 1998等参照)、各カリクレインのシグナル配列、制御配列及び活性部位の予測がすでになされている(Yousef G.M. and Diamandis E.P., Endocrine Review (2001), 22(2), pp.184-204)。しかし、この予測が実証されている例はPSAのみである。また、公知のシグナル配列解析プログラム;
Signal IP(WEB; http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)
を用いることによっても、カリクレインのシグナル配列、制御配列及び活性ドメインを推定することができる。さらに、本発明者らはこれまでの研究から、((S/A)-(Q/H)-P-(W/Y)-Q) のN末端側およそ10アミノ酸に活性化のための切断部位が存在する事を見いだしている。この独自の知見に基づいて、前期プログラムによる制御配列領域の予測を行なうことで、例えば、マウスニューロプシンの制御配列はQGSK(配列番号35)であり、ヒトニューロプシンの制御配列はQEDK(配列番号36)であると推定できる。その他、カリクレインの制御配列の具体例を表1に示す。各カリクレインの制御配列を全長アミノ酸配列と照らし合わせることにより、シグナル配列及び活性ドメインを推定することができる。
【0022】
本明細書において、「カリクレイン」は、特に明示した場合を除き、プレプロカリクレインを意味する。また、本明細書において、「機能型カリクレイン」とは、カリクレインの活性ドメインを含み、且つそれに対応するプロテアーゼ活性を有するポリペプチドをいう。例えば機能型ニューロプシンはエンドペプチダーゼ活性を有しており、合成基質Val−Pro−Arg−(4−メチルクマリル−7−アミド)(VPR−MCA)を切断し、AMCを生じる。
【0023】
本発明の改変型カリクレインポリペプチドは、制御配列からなるアミノ酸配列が欠失したカリクレインアミノ酸配列を含む。即ち、本発明の改変型カリクレインポリペプチドは、カリクレインのシグナル配列及び活性ドメインを有しており、このシグナル配列は制御配列を介さずに直接活性ドメインに連結している。
【0024】
好ましくは、本発明の改変型カリクレインポリペプチドにおいて、シグナル配列が最もN末端側に位置する。
【0025】
本発明の改変型カリクレインポリペプチドは、カリクレインのシグナル配列及び活性ドメインに加え、1または2個以上(例えば1〜500個、好ましくは1〜100個程度、より好ましくは1〜15個程度)の付加的なアミノ酸を含んでいてもよい。このようなアミノ酸付加は、本発明の改変型カリクレインポリペプチドからシグナル配列を除去した部分が、機能型カリクレインとしてのプロテアーゼ活性を有する限り許容される。付加されるアミノ酸配列は、特に限定されないが、例えばポリペプチドの検出や精製等を容易にならしめるためのタグを挙げることが出来る。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を例示することが出来る。アミノ酸配列が付加される位置は、好ましくは、活性ドメインのC末端側である。
【0026】
一つの好ましい態様において、本発明は以下の(1)または(2)のアミノ酸配列を含む、改変型ニューロプシンポリペプチドを提供する:
(1)QGSKからなるアミノ酸配列が欠失したマウスニューロプシンアミノ酸配列;
(2)QEDKからなるアミノ酸配列が欠失したヒトニューロプシンアミノ酸配列。
【0027】
上記(1)のアミノ酸配列としては、配列番号53として表されるアミノ酸配列を挙げることができる。上記(2)のアミノ酸配列としては、配列番号55として表されるアミノ酸配列を挙げることができる。
【0028】
本発明のポリペプチドは修飾されていてもよい。該修飾としては、脂質鎖の付加(脂肪族アシル化(パルミトイル化、ミリストイル化等)、プレニル化(ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化等)等)、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(Nグリコシル化、Oグリコシル化)等を挙げることが出来る。
【0029】
また、本明細書において用語「本発明のポリペプチド」は、その塩をも含む意味として用いられる。ポリペプチドの塩としては生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
【0030】
本発明のポリペプチドの製造方法については特に制限はなく、該ポリペプチドを公知のペプチド合成法に従って製造してもよく、また公知の遺伝子組み換え技術を用いて製造してもよい。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明のポリペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするポリペプチドを製造することができる。
【0031】
遺伝子組み換え技術を用いて本発明のポリペプチドを製造する場合には、先ず後述するような本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで宿主を形質転換し、得られる形質転換体を培養することによって、該ポリペプチドを製造することができる。本発明のポリペプチドは形質転換体の細胞内に産生された後、細胞外に分泌される。該ポリヌクレオチド、遺伝子組み換え技術を用いた本発明のポリペプチドの製造方法については本明細書中後述する。
【0032】
本発明のポリペプチドは、後述の機能型カリクレインの製造方法において、機能型カリクレインを生じうる前駆体として有用である。
【0033】
2.ポリヌクレオチド
本発明は上記本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供するものである。該ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAが挙げられる。また、該ポリヌクレオチドは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
【0034】
本発明のポリヌクレオチドとしては、配列番号52又は配列番号54で表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを挙げることが出来る。配列番号52で表されるヌクレオチド配列は配列番号53で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを、配列番号54で表されるヌクレオチド配列は配列番号55で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを、それぞれコードする。
【0035】
本発明のポリヌクレオチドは、カリクレインをコードするDNAクローン等を鋳型として用いるdeletion-PCRによる直接増幅等の公知の遺伝子組換え技術により製造することが出来る。或いは、配列情報に基づいて、ポリヌクレオチド合成装置により本発明のポリヌクレオチドを合成してもよい。
【0036】
取得された本発明のポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該ポリヌクレオチドはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0037】
3.ベクター及び形質転換体
本発明は、上記本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供するものである。該発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより製造することができる。即ち、本発明の発現ベクターは、プロモーターの制御下で、転写産物として本発明のポリヌクレオチドを発現し得る。ベクターの種類としては、プラスミドベクター、ウイルスベクター等を挙げることができ、用いる宿主に応じて適宜選択することが出来る。
【0038】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、昆虫(カイコの幼虫等)、哺乳動物細胞(ラット神経細胞、サル細胞(COS-7等)、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO細胞等)等)などが用いられる。宿主は、好ましくは、昆虫細胞又は哺乳動物細胞である。
【0039】
哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オラウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
【0040】
プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドベクター(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミドベクター(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミドベクター(例、pSH19,pSH15)等を挙げることができ、用いる宿主の種類や使用目的に応じて適宜選択することが出来る。
【0041】
ウイルスベクターの種類は、用いる宿主の種類や使用目的に応じて適宜選択することが出来る。例えば、宿主として昆虫細胞を用いる場合には、バキュロウイルスベクター等を用いることが出来る。また、宿主として哺乳動物細胞を用いる場合には、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター等のRNAウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、センダイウイルスベクター等を用いることが出来る。
【0042】
また、プロモーターは、用いる宿主の種類に対応して、該宿主内で転写を開始可能なものを選択することが出来る。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。宿主が哺乳動物細胞である場合、サブゲノミック(26S)プロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0043】
本発明のベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(Ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。
【0044】
上記本発明のベクターを、自体公知の遺伝子導入法(例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、Gene Gunによる遺伝子導入法等)に従って上記宿主へ導入することにより、該ベクターが導入された形質転換体(本発明の形質転換体)を製造することができる。該形質転換体は本発明のポリペプチドを発現し得る。本発明の形質転換体は、機能型カリクレインの製造や、本発明のポリペプチドの製造などに有用である。
【0045】
4.機能型カリクレインの製造方法
本発明は、本発明の形質転換体を培養すること、及び培養物から機能型カリクレインを単離することを含む、機能型カリクレインの製造方法を提供するものである。
【0046】
本発明の形質転換体を培養すると、本発明のポリペプチドは形質転換体内で発現され、細胞外にプロテアーゼ活性を有する機能型カリクレインとして分泌される。即ち、形質転換体から培養上清中に、直接、機能型カリクレインが分泌されるので、エンドペプチダーゼ処理をすることなく、機能型カリクレインを得ることができる。従って、本発明の方法においては、好ましくは、培養上清から機能型カリクレインが単離される。また、本発明の方法は、実質的にエンドペプチダーゼ処理工程を含まない。
【0047】
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体の培養は、LB培地やM9培地等の適切な培地中、通常約15〜43℃で、約3〜24時間行なわれる。宿主がバチルス属菌である形質転換体の培養は、適切な培地中、通常約30〜40℃で、約6〜24時間行なわれる。宿主が酵母である形質転換体の培養は、バークホールダー培地等の適切な培地中、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体の培養は、血清含有又は不含のGrace’s Insect medium等の適切な培地中、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。宿主が哺乳動物細胞である形質転換体の培養は、血清含有又は不含のMEM培地等の適切な培地中、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。いずれの培養においても、必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。本発明の製造方法においては、宿主として昆虫細胞又は哺乳動物細胞が好適に用いられる。
【0048】
培養物からの機能型カリクレインの単離・精製は、例えば、培養上清を、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの複数のクロマトグラフィーに供し、プロテアーゼ活性を有する画分を回収することにより達成することができる。
【0049】
尚、本発明のポリペプチドは形質転換体内に発現されるので、形質転換体のホモジネートを上述の単離・精製工程に付すことにより、本発明のポリペプチドを得ることができる。
【0050】
本発明の方法は、エンドプロテアーゼ処理工程を要さず、高い活性の機能型カリクレインを得ることができる。また、本発明の方法を用いれば、エンドプロテアーゼによる汚染のリスクを回避することが可能となる。
【0051】
カリクレインは、種々の疾患の発症や治癒に関与していると考えられている。例えば、ニューロプシンは、神経可塑性作用のみならず、子宮癌、皮膚疾患、創傷治癒に関与していると考えられており(J. Clin. Pathol. 55, 235-241 (2002), J. Investig. Dermatol. 125, 1182-1189 (2005), J. Biol. Chem., vol. 282, pp.5834-5841, 2007参照)、機能型ニューロプシンを創傷、糖尿病性潰瘍、紫外線障害、褥瘡、火傷瘢痕、手術創等の皮膚疾患の予防・治療剤として開発することが期待されている。従って、本発明は、高品質の機能型カリクレインの効率的な大量生産方法を提供するものであり、カリクレインの医薬としての開発において有用である。
【0052】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(実施例1:制御配列の予測)
制御配列の予測は前述のSignal IP(WEB; http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)
を用いて行なった。
カリクレインの予測制御配列はYousef G.M. and Diamandis E.P., Endocrine Review (2001), 22(2), pp.184-204にも記載されている。しかし、本発明者らが予測した配列は、 ((S/A)-(Q/H)-P-(W/Y)-Q) のN末端側およそ10アミノ酸に活性化のための切断部位が存在するという独自の知見に基づいており、予測結果は上記文献に記載とは異なるものであった。
【0054】
(実施例2:機能型ニューロプシン(NP)を製造するためのコンストラクトの作製)
マウス改変型NP(以下、ΔNPと呼ぶ)の作製
マウス野生型NPをコードするDNAを鋳型として、下記のプライマーdeltaF(配列番号56)およびdeltaR(配列番号57)を用いたPCRにより、QGSKからなる制御配列を欠失したマウスΔNPをコードするDNAを増幅した。
この試験において用いたマウス野生型NPをコードするDNAは、特開平8-311099号公報中に記載されたBalb/cマウス由来のNPであって、pVL1392ベクターにくみこまれているものに由来する。このベクターからマウス野生型NPをコードする部分をNotIで切り出し、これをpGEM/NotIで再構築したものを上記試験において使用した。
哺乳動物細胞系での機能型NPの製造のため、マウスΔNPをコードするDNAをpcDNA3.1/NotIに組み込んだ。
昆虫細胞系での機能型NPの製造のため、マウスΔNPをコードするDNAをpVL1392のNotI部位に組み込み、このベクターを用いて常法によりバキュロウイルスを構築した。
【0055】
ヒトNPおよびヒトΔNPの作製
human brain total RNA (BD Bioscience)を鋳型として、ヒトNPをコードするDNAをhNP-myc-F(配列番号58)およびhNP-myc-R(配列番号59)を用いたRT-PCR により増幅し、pGEM vectorにクローニングした(NP/pGEM)。これから、ヒトNPをコードする部分を制限酵素消化により切り出し、myc-tagged vector(pCMV/myc/cyto Invitrogen社より購入)に組み込むことにより、ヒトNP-mycをコードするベクターを得た。
NP/pGEMを鋳型として用いて上述と同様にdeletion-PCR を行い、QEDKからなる制御配列を欠損させることにより、ヒトΔNPをコードするDNAを含むpGEM vectorを得た(ヒトΔNP/pGEM)。このベクターからヒトΔNPをコードする部位を制限酵素消化により切り出し、myc-tagged vectorに組み込むことにより、ヒトΔNP-mycをコードするベクターを得た。
【0056】
ΔNPの作製(共通操作)
マウスΔNPおよびヒトΔNPのPCR産物をEasy Trap ver.2(TaKaRa)によるバッファ交換に付し、滅菌水による抽出物を制限酵素DpnIにより処理し、0.8%アガロースゲルによる電気泳動により分離し、目的の大きさのバンドを切り出した。この産物をEasy Trap ver.2で精製し、滅菌水による抽出物をBlunting Kination Ligation Kit (BKL Kit)を用いてBlunting-kinase反応に付し、閉環させた。このプラスミドで大腸菌JM109を形質転換した。大腸菌培養後、得られたコロニーからGenElute TM Plasmid Miniprep Kit(SIGMA)を用いてプラスミドを抽出し、シークエンス反応により配列の確認を行なった。シークエンス反応の際、ヒトΔNP- myc tagged vectorにはM13プライマーを用いた。
【0057】
プライマー配列
上述の試験において使用したプライマーを以下に示す。
マウスΔNP構築用プライマー:
deltaF: 5’-ATCCTGGAAGGTCGAGAGTGTATA-3’ (24mer)(配列番号56)
deltaR: 5’-AGCTCTGGTGAGCCCTGCCCACGC-3’ (24mer) (配列番号57)
ヒトNP(myc tagged)構築用プライマー:
hNP-myc-F: 5’-ATTGGGACCATGGGACGCCCC-5’ (21mer) (配列番号58)
hNP-myc-R: 5’-GGACGGCCGAGCCCTTGCTGCCTATGA-3’ (27mer) (配列番号59)
ヒトΔNP構築用プライマー:
deltahNP-F: 5’-GTGCTGGGGGGTCATGAGTGCCAA-3’ (24mer) (配列番号60)
deltahNP-R: 5’-TGCCCTGGAGTGTCCTGCCCAGGC-3’ (24mer) (配列番号61)
【0058】
PCR反応
(組成)
全量 (滅菌水を用いて調整) 20μl
テンプレート(0.1μg/μl) 1μl
プライマー(10μmol/Lに調整) 各1μl
10 x buffer 2μl
Pyrobest polymerase(5U/μl) (TaKaRa社製) 0.1μl
dNTPs(10mM) 1.6μl
【0059】
(反応サイクル)
マウスΔNP:
94℃ 1:00→{94℃ 0:40→52℃ 0:40→72℃ 10:00}×25サイクル→72℃ 20:00→4℃保存
ヒトΔNP:
94℃ 1:00→{94℃ 0:40→65℃ 0:40→72℃ 10:00}×25サイクル→72℃ 20:00→4℃保存
ヒトNP:
94℃ 1:00→{94℃ 0:40→62℃ 0:40→72℃ 3:00}×25サイクル→72℃ 5:00→4℃保存
【0060】
Easy Trap ver. 2によるBuffer交換
PCR産物40μlに対し、キット付属のNaI 溶液350μl及びガラスパウダー 10μlを添加し、軽く混合した。この混合物を5分間室温におき、遠心した。上清の除去、10 x Wash Solution 500μlの添加、混合、及び遠心分離からなる一連の操作を3回繰り返し行なった後、上清を取り除き、沈殿したグラスパウダーを風乾させた。ここに滅菌水20μlを加え、56℃で5分間加温した。15000rpmで1分遠心し、上清をサンプルとして回収した。
【0061】
DpnI処理
以下のような組成の反応液を37℃で30分インキュベートした。
(反応組成)
全量 (滅菌水で調整) 30μl
Easy Trap ver2産物 20μl
DpnI(BioLabs) 3μl
NE Buffer(BioLabs) 3μl
【0062】
Easy Trap Ver.2によるゲルからのDNAの抽出
付属のプロトコルに従って行なった。具体的には、ゲルにNaIを350μl添加し、56℃で溶解させた。その後ガラスパウダーを10μl加え、5分間室温で放置後遠心し、上清を取り除いた。10 x Wash Solution 500μlの添加、混合、遠心分離及び上清の除去からなる一連の操作を3回繰り返したのち、沈殿したグラスパウダーを風乾させた。ここに滅菌水20μlを加え56℃で5分間加温した。これを15000rpmで1分間遠心し、上清を回収した。
【0063】
BKL KitによるBlunting-Kinase反応とライゲーション
付属のプロトコルに従って行なった。以下の組成の反応液を37℃10分間インキュベートした後、Micropure E2(Millipore)のフィルターにアプライし、15000rpmで遠心した。遠心後、抽出された産物を等量のLigation Solution Iと混合、16℃で1時間インキュベートし、ライゲーション反応により閉環させた。
(反応液)
全量 20μl
DNA 0.2〜20pmol
10x Blunting kination Buffer 2μl
Blunting Kination Enzyme Mix 1μl
【0064】
尚、マウスNPは本発明者らによって単離・同定された(The Journal of Neuroscience, July 1995, 15(7): 5088-5097)。上記試験に用いたマウスNPのヌクレオチド配列はNCBIにAccession# AB032202 [REGION: join(1604..1673, 2164..2323, 2605..2867, 5659..5792, 7193..7348)]として登録されており、配列番号1で表される配列を有する。上記試験に用いたマウスNPのアミノ酸配列はBAA92435として登録されており、配列番号2で表される配列を有する。上記試験に用いたヒトNP(Kallikrein 8 isoform 1)のヌクレオチド配列はNCBIにAB009849 (REGION: 35..817)として登録されており、配列番号3で表される配列を有する(Gene 213(1-2),9-16 (1998) )。上記試験に用いたヒトNPのアミノ酸配列はBAA28673として登録されており、配列番号4で表される配列を有する。
【0065】
上記試験の結果得られるマウスΔNPのアミノ酸配列を配列番号63に、ヌクレオチド配列を配列番号62にそれぞれ示す。
上記試験の結果得られるヒトΔNP-mycのアミノ酸配列を配列番号64に示す。
【0066】
(実施例3:昆虫細胞を用いた機能的NPの製造)
培養条件
細胞名:Sf21
培地組成:Sf900II SFM
培養方法:1Lリアクターに、新鮮培地600mL及び別に培養した細胞の培養液400mLを加え、50-60rpmで27℃にて撹拌培養した。規定の細胞濃度にバキュロウイルス116mLを接種した(MOI=1)。培養に使用した装置は、細胞培養コントローラーシステム「セルマスターMODEL 1700」(和研薬株式会社製)である。該装置のリアクターとなる器具は、マイクロキャリアースピンナーフラスコ(BELLCO社製)である。リアクターを攪拌するスターラーは、4-POSITION MAGNETIC STIRRER「MODEL 1104L」(和研薬株式会社製)である。
接種ウイルス:実施例2で作成されたマウスΔNPをコードするDNAが組み込まれたバキュロウイルス(2.0x10e7 pfu/ml)。バキュロウイルスは無血清化したものを用いた。
粗タンパク質溶液回収:感染72時間後に培養上清を回収した。培養液を3000rpmで15分間遠心分離し、上清を回収し、これを精製用粗タンパク質溶液とした。
【0067】
機能型NPの回収
昆虫細胞系で得られた粗タンパク質溶液を10mM Hepes (pH6)に対して透析後、ResouseS(アマシャム) カラムに吸着させ、10mM HEPES(pH6)で洗浄し、NaCl (0-0.45M)/10mM Hepes (pH6)で溶出した。各フラクションについて、NP活性測定、ウエスタンブロッティング、及び銀染色を行った。NP活性測定及びウエスタンブロッティングの手順は、実施例4に記載の方法に準じた。その結果、NP活性を有するフラクションが確認されたことから、昆虫細胞でマウスΔNPを発現させると、培養上清中に機能型NPが分泌されることが示された(図2)。
【0068】
活性フラクションを回収し、10mM Hepes(pH7.5)にて6倍希釈し、benzamidineカラムに吸着させた。10mM Hepes(pH7.5)で洗浄後、50mM benzamidine(アマシャム)/ 10mM Hepes pH7.5 にて吸着画分を溶出した。各フラクションについて、ウエスタンブロティング及び銀染色を行った。機能型NPを含むフラクションをVivaspinに対して透析し、最終的に精製されたマウス機能型NPを得た(図3)。
【0069】
(実施例4:哺乳動物細胞を用いた機能的NPの製造)
培養条件
細胞名:Cos7
培地組成:10% horse serum/90% MEM(sigma)
培養方法:上記培地中で、37℃、CO2濃度 5%、3.5cm dish、1.5x105cell/cm2の条件下で培養し、リポフェクション前にoptiMEM(1.5mL)に培地を交換した。
【0070】
リポフェクションによる一過的タンパク質発現
実施例2で作成した発現ベクター(マウスNP又はマウスΔNPが組み込まれたpcDNA3.1、或いはヒトΔNP-myc発現ベクター)をリポフェクションに用いた。各発現ベクター 3μg、LF2000 10μl及びoptiMEM 300μLの混合物を室温で20min静置し、COS7細胞に添加し、6時間反応させた。6時間後、再度培地を新鮮なoptiMEM 1.5mLに交換し、リポフェクションから48時間後に培養上清を回収した。培養上清を15000rpm、10min 遠心分離することによりデブリスを除去した。
【0071】
タンパク質発現の確認
デブリス除去後、TCA沈殿により培養上清中のタンパク質を濃縮し、濃縮試料のイムノブロッティングを行った。イムノブロッティングに使用した抗体は以下の通りである。
(1次抗体)
マウスNP;ウサギポリクローナル抗体
myc; 9E11 マウスモノクローナル抗体
(2次抗体)
AP抱合2次抗体
【0072】
その結果、上述のいずれの発現ベクターを用いた場合にも、細胞外へのニューロプシンの分泌が確認された(図4及び5)。
【0073】
機能型NPの活性測定
一次抗体(マウスΔNPについては F12 mAb(MBL)0.5μg、ヒトΔNP-mycについては9E11(抗myc抗体) 1μg、及びProtein G sepharose(50%(vol/vol)) 20μLを粗タンパク質溶液(COS7培養上清、1% TritonX-100/TBSで500μLに調整)に加え、4℃で一晩反応させてNPを免疫沈降した。遠心(10,000rpm、3分)したものを、1%-TritonX-100を含むTBS(以下“TTBS”)で3回洗浄した。沈降物に酵素基質溶液(200μM VPR-MCA(peptide institute) in TBS)100uLを加え、 37℃にて撹拌反応後(〜3時間)、酢酸ナトリウム(100mM pH4.0)で中和、反応停止させ、遠心(10,000rpm、3分)し、上清を得た。この上清を 100μlずつ96wellプレートに写し、プレートリーダー Mithras LB940(CBERTHOLD technology社製)を用いてAMC遊離量を蛍光検出することにより沈降物中のNP酵素活性を測定した(解析ソフト;MikroWin2000)。
沈降物中のNPがプロテアーゼ活性を発現するために活性化プロテアーゼによる処理を要するか否かを試験するために、必要に応じて免疫沈降物を遠心、TTBSで洗浄後にリジルエンドペプチダーゼ(Lys.C)で処理した。Lys.C処理の条件は以下の通りである:
Lysyl endopeptidase(EC 3.4.21.50, 和光純薬株式会社製)とSepharose4B(Amersham Pharmacia BIotech社製)との混合液(Shimizu C., et al., The Journal of Biological Chemistry(1998), vol.273, No.18, pp.11189-11196のExperimental Procedureを参照 )を10ng/mlになるように添加し、37℃、15分間で行なった。コントロールとして処理しないものについては、TBSを等量添加した。反応後、遠心(10,000rpm、3分)し、TTBSで4回洗浄し、活性測定に用いた。
【0074】
マウスNPをCos7で発現させても、Lys.C処理なしでは免疫沈降物はプロテアーゼ活性を有していなかった(図6)。免疫沈降物をLys.C処理するとプロテアーゼ活性を示したことから、プロNPが培養上清中に分泌されたことが確認された。一方、マウスΔNPをCos7で発現させると、Lys.C処理の有無に関わらず免疫沈降物中にプロテアーゼ活性が認められたことから、培養上清中へ機能型NPが分泌されたことが立証された。ヒトΔNP-mycをCos7で発現させた場合にも、Lys.C処理なしで免疫沈降物中に高いプロテアーゼ活性が認められた(図7)。
これらの結果より、ΔNPをコードする発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより、培養上清中に機能型NPが分泌されること、及びこの系を用いれば、活性化プロテアーゼによる切断をすることなく、高活性の機能型NPを大量に製造し得ることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の改変型カリクレインを用いれば、形質転換体から培養上清中に、直接、機能型カリクレインが分泌されるので、エンドペプチダーゼ処理をすることなく、高い活性を有する機能型カリクレインを得ることができる。本発明の方法を用いれば、エンドプロテアーゼによる汚染のリスクを有さない高活性の機能型カリクレインを、効率よく且つ大量に製造することが可能となる。従って、本発明は医薬用カリクレインの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】改変型カリクレイン及び改変型ニューロプシンの構造を示す模式図。
【図2】Sf21の培養上清中へ分泌されたマウス機能型NPのプロテアーゼ活性。
【図3】Sf21の培養上清中へのマウス機能型NPの分泌を示す、銀染色及びイムノブロッティング解析結果。
【図4】Cos7の培養上清中へのマウスNPの分泌を示す、イムノブロッティング解析結果。
【図5】Cos7の培養上清中へのヒトNPの分泌を示す、イムノブロッティング解析結果。
【図6】マウスNP又はマウスΔNPを発現するCos7の培養上清の抗NP抗体免疫沈降物中のプロテアーゼ活性。白色カラム:リジルエンドペプチダーゼ非処理、黒色カラム:リジルエンドペプチダーゼ処理。
【図7】ヒトΔNP-mycを発現するCos7の培養上清の抗myc抗体免疫沈降物中のプロテアーゼ活性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御配列からなるアミノ酸配列が欠失したカリクレインアミノ酸配列を含む、改変型カリクレインポリペプチド。
【請求項2】
カリクレインがニューロプシンである、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチドに含まれるアミノ酸配列が以下の(1)又は(2)のアミノ酸配列である、請求項2記載のポリペプチド:
(1)QGSKからなるアミノ酸配列が欠失したマウスニューロプシンアミノ酸配列;
(2)QEDKからなるアミノ酸配列が欠失したヒトニューロプシンアミノ酸配列。
【請求項4】
ポリペプチドに含まれるアミノ酸配列が配列番号53又は55で表されるアミノ酸配列である、請求項3記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項6記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
【請求項8】
請求項7記載の形質転換体を培養すること、及び培養物から機能型カリクレインを単離することを含む、機能型カリクレインの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−11195(P2009−11195A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174232(P2007−174232)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】