説明

改良された修飾BRSV生ワクチン

【課題】一回投与後に感染からの免疫を有利に与える改良されたBRSVワクチン組成物。
【解決手段】修飾生BRSウイルスおよびアジュバントからなり、共同して、一回投与後にBRSV感染からの免疫を与え、かつ、BRSVに特異的で、細胞性免疫および局所(分泌型IgA)免疫を含む免疫応答を誘起するBRSVワクチン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に受容動物に一回量で投与するのに適した修飾生ワクチンを採用して、ウシ呼吸器シンシチア(RS)ウイルス(BRSV)に対する防御免疫を誘発する改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ウシRSウイルス(BRSV)は、ウシ呼吸器疾患症候群(BRDC)の重要な病因因子であると認識されている。この疾患は、急速な呼吸、咳、食欲の減退、眼や鼻の分泌物、および高い体温によって特徴づけられる。急性発生の場合、徴候の発現から48時間以内に死に至りうる。
BRSVは、乳児期の子ウシを含めて、あらゆる年齢のウシに感染する。BRSVは、子ウシの流行性肺炎の最も一般的なウイルス病原体であると考えられ、新たに離乳した子ウシの肺気腫とも関連している。それゆえ、このウイルスに対する有効な予防法が子ウシや乳牛において必要とされている。
BRSVに対する防御免疫を確立することは問題がある。いくつかの他のウイルス性疾患の場合のように、BRSVに対する血清抗体のレベルは、疾患に対する防御と必ずしも相関してしない。この現象は、BRSVに向けて局所的に産生されたIgAに対する役割(キムマン(Kimman)ら、ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(J. Clin. Microbiol.)25:1097-1106,1987)および/または細胞性免疫がこのウイルスに対する有効な防衛を行う必要条件を反映しうる。乳児期の子ウシの防御免疫を確立することは、BRSVに対する母系抗体が注入された免疫原を枯渇させ、ワクチンを効果的に中和しうるので、付加的な障害を与える。最後に、多数回のワクチン接種が不便で経費の掛かることから、一回量(single-dose)ワクチンが望まれている。それゆえ、当該分野では、活力のある多面的な免疫応答を誘起する一回投与(one-dose)BRSVワクチン製剤が必要とされている。
【0003】
従来技術のBRSVワクチンに対する標準的な投与計画は、二回投与(two doses)である(ストット(Stott)ら、ジャーナル・オブ・ハイジーン・オブ・ケンブリッジ(J. Hyg. Camb.)93:251-261,1984;トーマス(Thomas)ら、アグリ-プラクティス(Agri-Practice)5:1986;およびシブルード(Syvrud)ら、ヴェテリナリー・メディスン(Vet. Med.)83:429-430,1988;ヴェテリナリー・ファーマシューティカルズ・アンド・バイオロジカルズ(Veterinary Pharmaceuticals & Biologicals),第8版,1993/94年,484,740-741,956-960,982-983頁)。クセラ(Kucera)ら(アグリ-プラクティス(Agri-Practice),ヴェテリナリー・メディスン(Vet. Med.)Vol.78,1983年10月,1599-1604頁,1983)に示されているように、一回の実験的なBRSVワクチン接種はBRSVに対して比較的低いレベルの血清中和(SN)抗体価を誘発したが、ワクチンの二回投与は1:10〜1:320のSN抗体価を誘起した。さらに、野外試験の間に明らかにBRSVに接触した牛群の場合、呼吸器疾患の治療を必要としたのが、一回量および二回量ワクチンを接種された動物では、それぞれ27%および21%であったのに比べて、ワクチン接種を受けなかった動物では、約48%であった。しかしながら、野外試験における呼吸器疾患の原因因子がBRSVであるという決定的な証明は行われなかった。また、一回量ワクチンが非常に免疫原性であるわけではないことが注目された。その後の評価によると、良好な防御を得るには、このワクチンを二回投与することが必須であるらしいと結論された(ボーバイン・ベテリナリー・フォーラム(Bovine Vet. Forum)1:No.2,2-16頁,1986;シブルード(Syvrud)ら、ヴェテリナリー・メディスン(Vet. Med.)429-430,1988)。欧州特許出願第129,923号(1985年2月1日付で公開され、1988年7月9日付で特許として発行された)には、水中油型の乳剤として処方された1種またはそれ以上の抗原(特に不活化インフルエンザウイルス)を含有する不活化ワクチンに生ワクチンを溶解することからなるBRSV生ワクチンの調製方法が記載されている。まだ母系免疫を有する若い動物では、血清学的応答が得られた。この出願には、BRSVおよびアジュバントを含有する修飾生製剤も記載されている。しかしながら、BRSV攻撃に対するBRSVワクチンの防御効力に関するデータは全く示されなかった。
【0004】
本発明のある目的は、BRSVに対する有効なワクチンを提供することであり、かかるワクチンは防御免疫を誘起し、かつ、このウイルスによって引き起こされる疾患を予防する。
本発明のさらなる目的は、BRSVワクチンに用いるのに適したアジュバントを提供することである。このアジュバントは、かかるワクチンの一回量を投与した後に防御免疫を誘起するようにウイルスの免疫原性を増強する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ブロックコポリマー(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン(POP-POE)ブロックコポリマー(好ましくは、プルロニック (PluronicR)L121(例えば、米国特許第4,722,466号))など)および有機成分(例えば、代謝可能な油(例えば、不飽和テルペン(turpin)炭化水素(好ましくは、スクアラン(2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン)またはスクアレン))など)からなる、免疫応答を増強する組成物を包含する。この組成物はまた、非イオン性の洗浄剤または界面活性剤(好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(例えば、ツイーン(TweenR)洗浄剤 (最も好ましくは、ツイーン(TweenR)-80(すなわち、ポリオキシエチレン (20)ソルビタンモノオレエート))など))を含有してもよい。
【0006】
この保存アジュバント混合物において、ブロックコポリマー、有機油、および界面活性剤は、それぞれ約10〜約40ml/L、約20〜約80ml/L、および約1.5〜約6.5ml/Lの範囲内の量で存在しうる。保存アジュバントの好ましい具体例では、有機成分は約40mL/Lの量で存在するスクアランであり、界面活性剤は約3.2ml/Lの量で存在するポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ツイーン(TweenR)-80)であり、POP-POEブロックコポリマーは約20ml/Lの量で存在するプルロニック(PluronicR)L121である。プルロニック(PluronicR)L121は、15〜40℃で液体のコポリマーである。なお、ポリオキシプロピレン(POP)成分は分子量が3250〜4000であり、ポリオキシエチレン(POE)成分は全分子の約10〜20%(好ましくは、10%)を構成する。
【0007】
別の態様では、本発明は、上記アジュバントおよび医薬上許容される安定剤、担体または希釈剤と組み合わせた修飾生BRSウイルスからなる、ウシRSウイルス(BRSV)による感染に対して動物を免疫する免疫原性組成物を提供する。アジュバントは、約1〜25%(v/v)(好ましくは、5%(v/v))の最終濃度で、このワクチン組成物中に存在する。この組成物はまた、他のウイルス(例えば、ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス(IBRV)、ウシウイルス性下痢症(BVDV)、およびパラインフルエンザ3型(PI-3V))を含有してもよく、筋肉内または皮下経路で投与すればよい。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は、修飾生BRSVおよびアジュバントからなる上記ワクチンの一回量を投与することによって、ウシRSウイルスによって引き起こされる疾患に対して動物を保護する方法を提供する。
【0009】
ここで引用するすべての特許、特許出願、および他の文献は、出典を示すことによって、それらの全体を明細書の一部とする。矛盾が生じる場合には、本開示が優先する。
【0010】
ここで用いるように、「修飾生ワクチン」は、疾患を引き起こす能力を弱めるために、典型的には組織培養細胞中に通過させることによって、変性されているが、動物に投与された場合には、疾患または感染に対して防護する能力を保持しているウイルスからなるワクチンである。
「アジュバント」とは、ワクチン組成物中でBRSVと組み合わせた場合に、BRSVの免疫原性および効力を増強する1種またはそれ以上の物質からなる組成物を意味する。
BRSVの「感染単位」は、TCID50、すなわち組織培養細胞の50%を感染または死滅させるのに必要なウイルスの量として定義される。
【0011】
本発明は、一回量での投与に適した、BRSVに対するワクチンを提供する。このワクチンは、修飾生ウイルス品種のものである。これは、ウイルスの病原性を低減するが、その免疫原性および/または効力は保存するという利点を与える。 このワクチンは、当該分野で標準的な方法によって、新しく採取されたウイルス培養物から調製すればよい(以下の実施例1を参照)。すなわち、ウイルスは、ヒト二倍体繊維芽細胞または好ましくはMDBK(マーディン-ダービィ(Madin-Darby)ウシ腎臓)または他のウシ細胞などの組織培養細胞中で増殖させればよい。ウイルスの増殖を標準的な技術(細胞変性効果の観察、免疫蛍光または他の抗体に基づく測定法)によってモニターし、充分に高いウイルス力価が達成されたら採取する。保存ウイルスは、ワクチン製剤に配合する前に、従来法によって、さらに濃縮または凍結乾燥してもよい。他の方法(例えば、トーマス(Thomas)ら、アグリ-プラクティス(Agri-Practice)V.7 No.5,26-30頁に記載のもの)を採用することができる。
【0012】
本発明のワクチンは、1種またはそれ以上の医薬上許容される安定剤、担体およびアジュバントと組み合わせた修飾生ワクチンからなる。使用に適した担体としては、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、最少必須培養液(MEM)、または、HEPES緩衝液を添加したMEMが挙げられる。安定剤としては、ショ糖、ゼラチン、ペプトン、消化タンパク抽出物(例えば、NZ-アミンまたはNZ-アミンASなど)が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本発明は、修飾生ウイルスの免疫原性を増強し、かつ、防御免疫を誘起するための一回投与を規定するアジュバントを包含する。
【0013】
適当なアジュバントの非限定的な例としては、スクアランおよびスクアレン (または動物起源の他の油);ブロックコポリマー(例えば、プルロニック(PluronicR)(L121)サポニンなど);洗浄剤(例えば、ツイーン(TweenR)-80など);クイル(QuilR)A、鉱油(例えば、ドラケオール(DrakeolR)またはマルコール(MarcolR)など)、植物油(例えば、落花生油など);コリネバクテリウム(Corynebacterium)由来のアジュバント(例えば、コリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)など);プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)由来のアジュバント(例えば、プロピオンバクテリウム・アクネ (Propionibacterium acne)など);ウシ型結核菌(カルメットおよびゲラン桿菌、すなわちBCG);インターロイキン(例えば、インターロイキン2およびインターロイキン12など);モノカイン(例えば、インターロイキン1など);腫瘍壊死因子;インターフェロン(例えば、ガンマインターフェロンなど);組合せ(例えば、サポニン-水酸化アルミニウムまたはクイル(QuilR)-A 水酸化アルミニウムなど);リポソーム;イスコム(iscom)アジュバント;ミコバクテリア細胞壁抽出物;合成グリコペプチド(例えば、ムラミルジペプチドまたは他の誘導体など);アブリジン(Avridine);脂質A;硫酸デキストラン;DEAE-デキストラン、または、リン酸アルミニウムを添加したDEAE-デキストラン;カルボキシポリメチレン(例えば、カルボポール(CarbopolR)など);EMA;アクリルコポリマー乳濁液(例えば、ネオクリル(NeocrylR)A640(例えば、米国特許第5,047,238号)など);ワクシニアまたは動物ポックスウイルスタンパク;サブウイルス粒子アジュバント(例えば、オルビウイルスなど);コレラ毒素;ジメチルジオクレデシルアンモニウムブロミド;またはそれらの混合物が挙げられる。
好ましいアジュバント混合物の処方は、以下の実施例2に記載されている。
【0014】
本発明のワクチンは、好ましくは筋肉内または皮下経路によって投与することができ、また、それほど好ましくはないが、鼻腔内、腹腔内、または経口経路によって投与することもできる。
【0015】
一回量で投与する場合、このワクチンは、約103.0〜約106.0 TCID50/ml、好ましくは10〜10 TCID50/mlに相当する量のBRSVを含有している必要がある。動物1頭あたり、約1〜5ml、好ましくは2mlを、筋肉内、皮下、または腹腔内に投与すればよい。1〜10ml、好ましくは2〜5mlを経口または鼻腔内に投与してもよい。
【0016】
以下の実施例は、本発明を、その範囲を限定することなく、さらに詳しく説明することを意図するものである。
実施例1:BRSVの増殖および採取
A)保存ウイルスの説明
BRSVは、多くの容易に入手可能な供給源から得ることができる。ある具体例では、BRSV375株を用いればよい。このBRSVの病原性株は、アイオワ州立大学(エイメス(Ames)、アイオワ)由来であった。いかなる適当なBRSV株も意図しており、本発明の範囲内に包含される。同様に、BHV-1、BVDV、およびPI-3Vは、容易に入手可能なウイルスである。病原性の形態で得た場合、これらのウイルスは、公知手段によって弱毒化し、ワクチン用に適した修飾生ウイルスを与えることができる。また、ウイルスは、従来法によって死菌とし、ワクチン用に適した不活化ウイルスを与えることもできる。ワクチン用にウイルスを弱毒化または不活化する方法は、公知である。修飾生および/または死菌BRSV、BHV-1、BVDV、およびPI-3Vウイルスワクチンは公知であり、市販品を利用することができる。例えば、トーマス(Thomas)ら、前掲文献、およびヴェテリナリー・ファーマシューティカルズ・アンド・バイオロジカルズ(Veterinary Pharmaceuticals & Bio logicals)、前掲および付録2,A-31-45を参照されたい。
【0017】
B)細胞培養
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから、BVDを含まないMDBK(NBL-1)細胞系を購入した。それは、10%(v/v)までのウシ血清、0.5%までのラクトアルブミン加水分解物(ジェイ・アール・エイチ(JRH)、レネクサ(Lenexa)、KS)、30mcg/mlまでのポリミキシンB(ファイザー(Phizer)、NY、NY)およびネオマイシン(アップジョン(Upjohn)、カラマズー(Kalamazoo)、MI)、および2.5mcg/mlまでのアンホテリシンB(シグマ・ケミカルズ・カンパニー(Sigma Chemical Co.)、セントルイス(St. Louis)、MO)を補足したOptiMEM(ギブコ(Gibco)、グランド・アイランド(Grand Island)、NY)中で保持した。また、細胞増殖を維持する必要があるなら、ピルビン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、グルコース、L-グルタミンおよび塩化カルシウムを添加してもよい。
ウイルス増殖用には、OptiMEM、イーグル(Eagle)MEM、メディウム (Medium)199または等価な培養液を、2%までのウシ血清、0.5%までのウシ血清アルブミン、0.5%までのラクトアルブミン加水分解物、30mcg/mlまでのポリミキシンBおよびネオマイシン、および2.5mcg/mlまでのアンホテリシンBを補足する。また、細胞増殖を維持する必要があるなら、ピルビン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、グルコース、L-グルタミンおよび塩化カルシウムを添加してもよい。
【0018】
C)培養物の接種
1:5〜1:5,000感染単位/細胞の感染多重度を用いて、MDBK細胞の個々の準密集培養物にBRSV、BVDV、PI-3V、またはBHV-1Vを接種した。これら細胞の増殖培養液を捨て、ウイルス増殖培養液(前記参照)で置き換えた後、種ウイルスを培養容器に直接添加した。ウイルス感染した培養物を36℃で保持した。
ウイルス増殖は、細胞変性効果を顕微鏡で調べるか、あるいは、蛍光抗体染色法によって測定した。BRSVの場合、感染細胞は融合細胞および伸長した紡錘状形細胞の形成を示したが、それらは実質的に完全細胞シートを含むまで進行した。BHV-1Vの場合、感染細胞は、細胞質顆粒化を示した後、感染細胞の円形化および/または風船様拡大を示す。BVDVの場合、感染細胞は、細胞内液胞を形成し、集合し、細胞を欠く区画領域が残る。PI-3V-感染細胞における細胞変性変化は、BHV-1V-感染細胞におけるものと同様である。
【0019】
D)ウイルスの採取
培養液を滅菌容器に採取した。多数回の採取は、50%の細胞シートが特徴的な細胞病理を示したときに始め、100%の細胞が影響を受けるまで続ければよい。ウイルス液は、必要に応じて、遠心または濾過によって清澄化してもよい。ウイルス液は、−50℃またそれ以下で保存するか、または凍結乾燥して2〜8℃で保存する。
最終ワクチンを調製するためには、保存ウイルスを単独または組み合わせてアジュバントと混合する。
液体保存ウイルスを用いる場合には、19部の保存ウイルスを1部のアジュバント(好ましくは、実施例2のアジュバント)と混合する。凍結乾燥保存ウイルスを用いる場合には、生理食塩水溶液中の5%(v/v)希釈溶液を調製する(1部のアジュバントと19部の生理食塩水とを混合する)。凍結乾燥保存ウイルスを希釈アジュバントで復元(再水和)して、最終ワクチン組成物を形成する。最終処方物には、1:10,000の最終濃度までチメリゾールを添加してもよい。
【0020】
実施例2:好ましい保存アジュバントの処方
本発明で用いるのに好ましいアジュバントは、以下の処方に従って調製した:
【表1】

これらの成分を混合し、安定な塊または乳濁液が形成されるまで均質化する。均質化の前に、これらの成分または混合物をオートクレーブに付すことができる。乳濁液は、さらに濾過滅菌してもよい。ホルマリンは、0.2%の最終濃度まで添加してもよい。チメロサールは、1:10,000の最終希釈倍率まで添加してもよい。
【0021】
実施例3:修飾生BRSVワクチンの増強
この実験用として、2種のBRSVワクチンを調製したが、その一方は実施例2に記載のアジュバント混合物を含有しており、他方はそれを含有していなかった。アジュバントを欠くワクチンは2mlあたり2.52 log感染単位のBRSVを含んでいたが、アジュバントを含有するワクチンは2mlあたり2.96 log感染単位および5%(v/v)アジュバントを含んでいた。
20頭のウシの各々に、アジュバントを欠くワクチンを2ml量ずつ投与したが、そのうち10頭には筋肉内投与し、残りの10頭には皮下投与した。さらに5頭のウシに、アジュバントを含有するワクチンを2ml量ずつ投与した。すべてのワクチン接種を21日目に繰り返した。血清試料は2回目のワクチン接種後6日目に取得し、これを抗BRSV血清中和抗体の存在について試験した。血清中和抗体アッセイについては、実施例4に記載する。
この実験の結果によると、アジュバント含有BRSVワクチンを接種した5頭の子ウシのうち4頭が抗BRSV抗体の形跡(セロコンバージョン)を示したが、アジュバントを欠くBRSVワクチンを接種した20頭の動物は全く抗体の形跡を示さなかった。このことは、実施例2に記載のアジュバントが修飾生BRSVワクチンの免疫原性を増強する性質を有することを示している。
【0022】
実施例4:修飾BRSVワクチンの一回量投与
以下のワクチン接種および攻撃実験は、アジュバントと処方した単一免疫化修飾生ウシRSウイルス(BRSV)がウシの防御免疫を誘起するか否かを決定するために実施した。第二に、この実験は、修飾生ウシ下痢症ウイルス(BVDV)、ウシヘルペスウイルス1型(BHV-1またはIBRV)、およびウシパラインフルエンザウイルス(PI3)の同時投与がBRSVに対する防御免疫の誘起を妨害するか否かを決定するために設計した。
【0023】
A)実験的ワクチン
マスター種から5継代目の修飾生ウシRSウイルス (BRSV)を、保存マスター細胞20継代目のマーディン・ダービー(Madin Darby)ウシ腎臓(MDBK)細胞上で増殖させた。簡単に説明すると、MDBK細胞は、5%ウシ血清、0.5%LAH、および30μg/mLゲンタマイシンを含有する最少必須培養液(MEM)を入れた回転ボトルあたり3×10個の細胞という密度で、850cmの回転ボトルに移植した。細胞は、ウイルスを感染させる前に、37℃で2日間増殖させた。回転ボトルから培養液を傾瀉し、ボトルあたり100mLのウイルス増殖培養液(2%ウシ血清、0.5%LAH、および30μg/mLゲンタマイシンを含有するMEM)中に1:600の感染多重度でウイルスを添加した。感染の7日後に、100%細胞病理学が示され、上澄み液を採取した。ウイルスを25%(v/v)SGGK3安定剤で安定化させ、凍結乾燥した。ワクチン接種日に、生理食塩水希釈液中に希釈した5%(v/v)アジュバントで凍結乾燥ウイルスを復元した(実施例2を参照)。復元BRSVウイルスは、PI3、BVDV、およびBHV-1ウイルスと合わせた。ワクチンの各成分の力価は、ワクチン接種日の力価測定を繰り返すことによって測定した。
【0024】
B)用いた実験動物
この実験には合計30頭のウシを用いた。これらのウシは、試験動物についてはワクチン接種日に、また、対照については攻撃日に、血清中和(SN)抗体価が2未満であることによって示されるように、BRSVに対して感受性である。動物は屋外で飼育したが、3方向が囲われ南側が開口したシェルターに近づけるようにした。対照は、ワクチンウイルスと接触するのを避けるために、攻撃前にワクチン接種を受けた動物から隔離して飼育した。完全な食餌を1日1回与え、干し草および水は自由に供給した。
【0025】
C)ワクチン接種
ワクチンを接種すべき動物に、2mL容量の混合型ワクチンを1回投与した。20頭の動物にワクチン接種を(10頭は皮下経路で、10頭は筋肉内経路で)行ったが、残りの10頭の動物は、ワクチン接種を行わずに、攻撃対照として供した。
【0026】
D)実験的攻撃
ワクチン接種の14日後に、動物を病原性BRSVウイルスで攻撃した。最少限の105.7 TCID50の病原性BRSVウイルスをエアゾール攻撃によって3日間連続で各々の子ウシに投与した。
【0027】
E)臨床的観察
ウシは、疾患および発熱(直腸体温)の臨床的徴候について、攻撃の2日前から14日後まで毎日観察した。ウシは、鼻や眼の分泌物、結膜炎、咳、呼吸困難、食欲不振、およびうつ病を含む(これらに限定されない)BRSV感染の徴候について観察した。直腸体温は、観察期間を通して毎日記録した。
【0028】
F)アッセイ
1.血清中和抗体アッセイ(SN)
100〜500のTCID50のBRSVを用いた変動血清・一定ウイルス中和試験においては、熱不活化血清の系列希釈物を、等量のウイルス懸濁液と混合した。血清ウイルス混合物は37℃で1時間インキュベートし、次いで96穴マイクロタイタープレート中のVERO細胞に接種した。SN抗体価の存在は、細胞変性効果によって検出されるウイルスの不在によって示された。SN抗体価の測定に際して、50%中和終点は、リード(Reed)およびミュンヒ(Muench)の方法に従って計算した。
【0029】
2.ワクチンの最終希釈物中におけるウイルスの力価測定
ワクチンのBRSVウイルス力価は、ワクチン接種日の力価測定を繰り返すことによって測定した。簡単に説明すると、混合型ワクチンを、適当な中和抗血清と合わせた。ワクチンおよび抗血清の混合物は、37℃で45〜60分間インキュベートした。ワクチンおよび抗血清の系列希釈物を調製し、VERO細胞に接種した。ウイルスの存在は、細胞変性効果の存在によって示され、特異的な免疫蛍光法(FA)によって確認した。ウイルス力価は、リード(Reed)およびミュンヒ(Muench)の方法によって、各レプリケートについて計算した。ワクチンのBRSV画分の平均的な力価は、103.4 TCID50/投与量であった。
【0030】
3.攻撃ウイルスの力価測定
投与したBRSV攻撃ウイルスの希釈物を系列希釈し、96穴マイクロタイタープレート中のMDBK細胞に接種した。ウイルスの存在は、細胞変性効果の存在によって示され、ウイルス単離について説明したように、特異的免疫蛍光法によって確認した。
結果を解釈するために、臨床スコアを以下のように割り当てた:
【表2】

【0031】
屋外で飼育したウシの場合、軽度の漿液性の鼻や眼の分泌物は正常であると見なした。発熱は、それが基準体温よりも少なくとも1度高い場合のみを有意であると見なした。基準体温は、攻撃前日および攻撃当日の各動物の平均体温として測定した。
各動物の全臨床スコアを総計した。ワクチン接種動物および対照の臨床スコアを、マン・ホイットニー・ランクド・サム・アナリシス(Mann Whitney Ranked Sum Analysis)によって比較した。
【0032】
疾患の臨床的徴候は、攻撃の5〜10日後の対照ウシにおいて観察された(表1)。すべての対照(100%)は、複数の日に呼吸器系疾患の徴候を有していることが観察された。呼吸器系疾患の特異的徴候としては、重度の漿液性鼻分泌物(実際に鼻孔から垂れる分泌物)、粘液膿性鼻分泌物、眼の分泌物および咳が挙げられる。対照子ウシについての平均的な臨床スコアは、3.7であった。
比較すると、ワクチン接種を受けた動物では、呼吸器系の徴候がほとんど見られなかった。ワクチン接種を受けた動物のうち、何らかの呼吸器系の徴候を示したのは、わずか40%であり、複数の日に臨床的徴候を示したのは、わずか2頭(10%)であった。ワクチン接種群の平均的な臨床スコアは1.0であった。マン・ホイットニー・ランクド・サム・アナリシス(Mann Whitney Ranked Sum Analysis)によって対照と比較すると、ワクチン接種を受けた動物には、臨床的疾患の統計学的に有意な低減が見られた(p<0.05)。
【0033】
これらのデータは、本発明によるアジュバント添加修飾生BRSVウイルスワクチンの一回量投与が病原性BRSVの攻撃に対する防御を与えることを示している。このワクチンおよび方法は、他のワクチンをBRSVワクチンと同時投与した場合にさえ有効である。
【0034】
それゆえ、本発明は、ウシRSウイルス(BRSV)による感染に対して動物を免疫するためのワクチン組成物を提供する。このワクチンは、修飾生BRSウイルス、アジュバント、および医薬上許容される担体からなり、かかる組合せは一回投与後にBRSV感染からの免疫を与え、かつ、BRSVに特異的で、細胞性免疫および局所(分泌型IgA)免疫から選択される免疫応答を誘起する。
【0035】
細胞性免疫としては、ヘルパーT細胞、キラーT細胞および遅延型過敏反応T細胞の刺激、ならびに、マクロファージ、単球および他のリンホカインやインターフェロン産生の刺激が挙げられる。細胞性免疫の存在は、従来のインビトロおよびインビボ・アッセイで評価し得る。分泌型IgAなどの局所免疫は、1〜2またはそれより大きい血清中和抗体価を示す従来のELISAまたはIFAアッセイによって評価することができる。本発明によれば、その結果生じる細胞性免疫または局所免疫は、BRSVに特異的であるか、あるいは、それと関連している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシRSウイルス(BRSV)による感染に対して動物を免疫するためのワクチン組成物であって、
該組成物が一回投与後にBRSV感染からの防御免疫を誘起し、かつ、BRSVに特異的で、細胞性免疫および局所(分泌型IgA)免疫から選択される免疫応答を誘起するように、修飾生BRSウイルス、アジュバント、および医薬上許容される担体からなるワクチン組成物であり、ここで該アジュバントがスクアランおよびスクアレン;ブロックコポリマー;洗浄剤;クイルA、鉱油、植物油;コリネバクテリウム由来のアジュバント;プロピオニバクテリウム由来のアジュバント;ウシ型結核菌;インターロイキン;モノカイン;腫瘍壊死因子;インターフェロン;サポニン-水酸化アルミニウムまたはクイル-A水酸化アルミニウムの組み合わせ;リポソーム;イスコムアジュバント;ミコバクテリア細胞壁抽出物;合成グリコペプチド;アブリジン;脂質A;硫酸デキストラン;DEAE-デキストラン、または、リン酸アルミニウムを添加したDEAE-デキストラン;カルボキシポリメチレン;EMA;アクリルコポリマー乳濁液;ワクシニアまたは動物ポックスウイルスタンパク;サブウイルス粒子アジュバント;コレラ毒素;ジメチルジオクレデシルアンモニウムブロミド;およびそれらの混合物からなる群より選択されるところの、ワクチン組成物。
【請求項2】
アジュバントがポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーおよび不飽和テルペン炭化水素からなる請求項1記載の組成物。
【請求項3】
不飽和テルペン炭化水素がスクアレンおよびスクアランの一方であり、コポリマーが平均分子量3250〜4000のポリオキシプロピレン成分を有し、ポリオキシエチレン成分が全分子の10〜20%を構成する請求項2記載の組成物。
【請求項4】
コポリマーが0.01〜1%(v/v)の最終濃度で存在し、炭化水素成分が0.02〜2%(v/v)の最終濃度で存在する請求項2記載の組成物。
【請求項5】
アジュバントが付加的に界面活性剤を含有する請求項2記載の組成物。
【請求項6】
アジュバントがまた0.0015〜0.20%(v/v)の最終濃度で存在する界面活性剤を含有する請求項4記載の組成物。
【請求項7】
界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートである請求項5または6記載の組成物。
【請求項8】
炭化水素がスクアレンおよびスクアランの一方であり、コポリマーが平均分子量3250〜4000のポリオキシプロピレン成分を有し、ポリオキシエチレン成分が全分子の10〜20%を構成する請求項4記載の組成物。
【請求項9】
さらにウシ鼻気管炎ウイルス(BHV−IV)、ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)、およびパラインフルエンザウイルス3型(PI−3V)を含有する請求項1〜8のいずれか記載の組成物。
【請求項10】
ウシRSウイルス(BRSV)による感染に対して動物を免疫するためのワクチン組成物であって、
該組成物が一回投与後にBRSV感染からの免疫を与えるように、修飾生BRSウイルス、医薬上許容される担体、および、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーおよび不飽和テルペン炭化水素からなるアジュバントからなるワクチン組成物。
【請求項11】
炭化水素がスクアレンおよびスクアランの一方であり、コポリマーが平均分子量3250〜4000のポリオキシプロピレン成分を有し、ポリオキシエチレン成分が全分子の10〜20%を構成する請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ブロックコポリマーが0.01〜1%(v/v)の最終濃度で存在し、有機成分が0.02〜2%(v/v)の最終濃度で存在する請求項11記載の組成物。
【請求項13】
アジュバントが付加的に0.0015〜0.20%(v/v)の最終濃度で存在する界面活性剤を含有する請求項12記載の組成物。
【請求項14】
界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートである請求項13記載の組成物。
【請求項15】
さらにウシ鼻気管炎ウイルス(BHV−IV)、ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)、およびパラインフルエンザウイルス3型(PI−3V)からなる群から選択される少なくとも1種の修飾生ウイルスを含有する請求項10〜14のいずれか記載の組成物。
【請求項16】
ウシRSウイルス(BRSV)によって引き起こされる疾患に対して動物を防御する方法であって、
該組成物が一回投与後にBRSV感染からの防御免疫を誘起し、かつ、BRSVに特異的で、細胞性免疫および局所(分泌型IgA)免疫から選択される免疫応答を誘起するように、修飾生BRSウイルス、アジュバント、および医薬上許容される担体からなり、ここで該アジュバントがスクアランおよびスクアレン;ブロックコポリマー;洗浄剤;クイルA、鉱油、植物油;コリネバクテリウム由来のアジュバント;プロピオニバクテリウム由来のアジュバント;ウシ型結核菌;インターロイキン;モノカイン;腫瘍壊死因子;インターフェロン;サポニン-水酸化アルミニウムまたはクイル-A水酸化アルミニウムの組み合わせ;リポソーム;イスコムアジュバント;ミコバクテリア細胞壁抽出物;合成グリコペプチド;アブリジン;脂質A;硫酸デキストラン;DEAE-デキストラン、または、リン酸アルミニウムを添加したDEAE-デキストラン;カルボキシポリメチレン;EMA;アクリルコポリマー乳濁液;ワクシニアまたは動物ポックスウイルスタンパク;サブウイルス粒子アジュバント;コレラ毒素;ジメチルジオクレデシルアンモニウムブロミド;およびそれらの混合物からなる群より選択されるところの、免疫原性医薬組成物を該動物に投与する工程からなる方法。
【請求項17】
前記ウイルスが1ミリリットルあたり10〜10感染単位の範囲内で存在する請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記投与工程が、筋肉内、皮下、腹腔内、経口、および鼻腔内投与の1つからなる請求項16記載の方法。
【請求項19】
アジュバントが最終濃度0.01〜1%(v/v)のポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーおよび最終濃度0.02〜2%(v/v)の不飽和テルペン炭化水素からなる請求項16記載の方法。
【請求項20】
アジュバントが付加的に最終濃度0.0015〜0.20%(v/v)の非イオン性界面活性剤を含有する請求項19記載の方法。
【請求項21】
炭化水素がスクアレンおよびスクアランの一方であり、界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであり、コポリマーが平均分子量3250〜4000のポリオキシプロピレン成分を有し、ポリオキシエチレン成分が全分子の10〜20%を構成する請求項20記載の方法。
【請求項22】
さらにウシ鼻気管炎ウイルス(BHV−IV)、ウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)、およびパラインフルエンザウイルス3型(PI−3V)の同時投与を包含する請求項16〜21のいずれか記載の方法。

【公開番号】特開2011−246489(P2011−246489A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184908(P2011−184908)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2007−57402(P2007−57402)の分割
【原出願日】平成7年5月8日(1995.5.8)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】