説明

改良された免疫応答を向上させる手段および方法

本発明は、免疫原性組成物を投与することによりヒト疾患を治療する目的で患者のターゲッティングした抗原に対する免疫応答を向上させる方法であって、上記患者が対象とする患者集団から選択されることを特徴とする、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に関し、詳細には乾癬などによって引き起こされる疾患または癌に対する患者の治療を目的とするワクチン接種処置に関する。本発明は、免疫原性組成物、特にワクチンによってイン・ビボで生じる免疫応答を向上させる方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫応答を誘発することによって動物を例えば感染症から保護することができる抗原(例えば、ペプチド、タンパク質)を動物系に導入することを含む伝統的ワクチン接種法は、以前から知られている。これらの手法は、更に生および不活性化ワクチンの両方の発達も含んでいた。生ワクチンは、典型的には感染性病原体の病原物質に対して指定された免疫応答を誘発することができる感染性病原体の弱毒化した非病原性のものである。
【0003】
近年、組換えワクチン、特に目的とする異種抗原をコードしてベクターから発現する組換え生ワクチンの発達に前進が見られている。中でも、組換えウイルスに基づくベクターは大いに有望であり、新たなワクチンの開発に重要な役割を果たしている。多くのウイルスが、異種病原体または腫瘍組織からタンパク質を発現しかつイン・ビボでのこれらの抗原に対する特異的免疫応答を誘発する能力について検討されてきた。一般に、これらの遺伝子に基づくワクチンは強力な体液性および細胞性免疫応答を刺激することができ、ウイルスベクターは抗原コード遺伝子の送達および抗原提示の促進および増強の効果的な方策となり得る。ワクチンキャリヤーとして利用するためには、理想的なウイルスベクターは安全でありかつ求められる病原体に特異的な抗原を免疫系に効率的に提示することができるものでなければならない。更に、ベクター系は、大規模に生産できる基準を満たすものでなければならない。いくつかのウイルスワクチンベクターがこれまでに現れてきたが、それらの総ては提案された用途によっては利点が相対的なものであり限界を有している(組換えウイルスワクチンの総説については、例えば、Harrop and Carroll, 2006, Front Biosci., 11, 804-817; Yokoyama et al., 1997, J Vet Med ScL, 59, 311-322を参照されたい)。
【0004】
プラスミドDNAベクターがイン・ビボで動物細胞に直接トランスフェクションすることができた1990年代初頭の観察に続いて、抗原をコードするDNAを動物に直接導入することによってDNAプラスミドを用いて免疫応答を誘発することに基づくワクチン接種の手法を開発する目的で、かなりの研究活動も試みられてきた。広義にはDNAワクチン接種と呼ばれているこのような手法は、極めて多くの疾患モデルに防御免疫応答を誘発するのに用いられている。DNAワクチンの総説については、Reyes-Sandoval and Ertl, 2001 (Current Molecular Medicine, 1 , 217-243)を参照されたい。
【0005】
しかしながら、ワクチンの分野における一般的問題は、ワクチン接種した個体に感染症や疾患から防御するのに十分強力な免疫応答を誘発する手段の同定であった。
【0006】
従って、例えば、近年の主要な努力は、ワクチンによって誘発された免疫応答を増加させる働きを行う免疫系のある種の重要な側面を刺激することによって作用する新規薬剤化合物を見出すことであった。免疫応答モディファイアー(IRM)またはアジュバントと呼ばれるこれらの化合物のほとんどは、トール様受容体(TLR)を介する基本免疫系機構によって作用し、様々な重要なサイトカイン生合成(例えば、インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子など。例えば、Schiller et al., 2006, Exp Dermatol., 15, 331-341を参照されたい)を誘発すると思われる。このような化合物は、ある種の樹状細胞、単球/マクロファージ由来のサイトカインの速やかな放出を刺激することが示されており、B細胞を刺激してIRM化合物の抗ウイルスおよび抗腫瘍活性に重要な役割を果たしている抗体を分泌することもできる。
【0007】
あるいは、様々なワクチン接種の方法が提案されているが、それらのほとんどはプライム・ブーストワクチン接種法に基づいている。これらの「プライム・ブースト」(Prime-boost)ワクチン接種法によれば、最初に患者にプライミング組成物を投与することによって免疫系を誘発させた後、増強用の第二の組成物を投与することによって増強する(例えば、欧州特許第1411974号明細書または米国特許第20030191076号明細書を参照されたい)。
【発明の概要】
【0008】
本発明者は、新規なワクチン接種法を確認した。第一の態様によれば、本発明は、少なくとも1種類のターゲッティングした抗原を含んでなる免疫原性組成物を投与することによって患者をヒト疾患について治療する方法であって、上記患者が、抗原に対して低〜中程度の免疫応答(すなわち、先行免疫応答)を誘発し、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部、および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる任意の先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物をも収容したことのない患者から構成される患者集団で選択されることを特徴とする方法に関する。
【0009】
従って、本発明は、少なくとも1種類のターゲッティングした抗原を含んでなる免疫原性組成物を投与することによる患者をヒト疾患について治療する方法であって、
低〜中程度の免疫応答を抗原に対して誘発し(すなわち、先行免疫応答)、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部、および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがない患者から構成される患者集団で患者を選択し、
上記の選択された患者に上記免疫原性組成物を投与する
工程を含んでなる、上記方法に関する。
【0010】
もう1つの態様によれば、本発明は、免疫原性組成物を投与することによってヒト疾患を治療する目的で患者に少なくとも1種類のターゲッティングした抗原に対して免疫応答(すなわち、増強免疫応答)を増強する方法であって、上記患者が、低〜中程度の免疫応答を抗原に対して誘発し(すなわち、先行免疫応答)、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部、および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがない患者から構成される患者集団で選択されることを特徴とする方法に関する。
【0011】
従って、本発明は、免疫原性組成物を投与することによってヒト疾患を治療する目的で患者における免疫応答を少なくとも1種類のターゲッティングした抗原(すなわち、増強免疫応答)に対して増強する方法であって、
低〜中程度の免疫応答を抗原に対して誘発し(すなわち、先行免疫応答)かつ (i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがない患者から構成される患者集団で患者を選択し、
上記の選択された患者に上記免疫原性組成物を投与する
工程を含んでなる、上記方法に関する。
【0012】
1つの特別な態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」は、腫瘍特異的または関連抗原および/またはウイルス抗原に向けられたものである。一つの態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」は、別個の抗原に向けられたものである。1つの特別な態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」は、いずれもMUC1抗原に向けられたものである。もう1つの特別な態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」は、いずれもT細胞免疫応答、好ましくはCD8+(細胞傷害性Tリンパ球)免疫応答である。
【発明の具体的説明】
【0013】
本出願全体を通じて本明細書で用いられている「1つの」および単数形の用語は、特に断らない限り「少なくとも1個の」、「少なくとも第一の」、「1個以上の」または「複数の」参照化合物または工程を意味するという意味で用いられる。例えば、「1つの細胞」という用語は、細胞の混合物を含む複数の細胞を包含する。更に具体的には、「少なくとも1個」および「1個以上」とは、1または1より大きな数を意味し、特に1、2または3を意味する。
【0014】
本明細書で用いられる「および/または」という用語は、「および」、「または」、および「上記用語によって連結される要素の総てのまたは任意の他の組合せ」の意味を包含する。
【0015】
本明細書で用いられる「約」または「およそ」という用語は、20%以内、好ましくは10%以内、更に好ましくは5%以内を意味する。
【0016】
「患者」という用語は、脊椎動物、特に哺乳類の1成員を表し、家畜、競技動物、ヒトなどの霊長類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書で用いられる「治療」または「治療する」という用語は、予防および/または治療を包含する。従って、本発明の免疫原性配合物または方法は治療応用に限定されず、予防用途に用いることができる。「予防」とは、直接的疾患(例えば、感染性疾患)を予防することに限定されず、肝硬変または癌のようなこれらの感染症の長期間の結果の防止をも包含する。
【0018】
活性化合物の「有効量」または「十分量」は、臨床結果を含む有益なまたは所望な結果をもたらすのに十分な量である。有効量は、1以上の投与回数で投与することができる。「治療上有効量」とは、ウイルス感染症に関連した1以上の症候の緩解並びに疾患の予防(例えば、感染症の1以上の症候の予防)など、これらに限定されない有益な臨床結果をもたらすための量である。
【0019】
もう1つの態様によれば、本発明は、免疫原性組成物を投与することによってヒト疾患を治療する目的で患者におけるターゲッティングした抗原に対する免疫応答を高める方法(すなわち、増強免疫応答)であって、上記患者が、抗原に対して低〜中程度の免疫応答(すなわち、先行免疫応答)を誘発し、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部、および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる任意の先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物をも収容したことのない患者から構成される患者集団で選択されることを特徴とする方法に関する。
【0020】
従って、本発明は、免疫原性組成物を投与することによってヒト疾患を治療する目的で、患者におけるターゲッティングした抗原に対する免疫応答を高める方法(すなわち、増強免疫応答)であって、
低〜中程度の免疫応答を上記のターゲッティングした抗原に対して誘発し(すなわち、先行免疫応答)、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部、および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがない患者から構成される患者集団で患者を選択し、
上記の選択された患者に上記免疫原性組成物を投与する
工程を含んでなる方法に関する。
【0021】
本明細書で用いられる「免疫原性組成物」、「ワクチン組成物」、「ワクチン」または同様な用語を互換的に用いることができ、患者の免疫系を刺激/誘発/増加して現在の状態を改善しまたは現在または将来の傷害または感染症(ウイルス、細菌、寄生生物感染症など)を防御しまたは減少させるのに適当な薬剤を意味し、例えば、腫瘍細胞増殖または生存の減少、患者における病原体の複製または蔓延の減少、またはある症状に関連した1もしくは複数の望ましくない症候の検出可能な減少は患者の生存率を消耗する。上記免疫原性組成物は、(i)少なくとも1種類のターゲッティングした抗原の全部または一部、および/または、(ii)全部または一部少なくとも1種類の異種ヌクレオチド配列、特に少なくとも1種類のターゲッティングした抗原の全部または一部をコードする異種ヌクレオチド配列をイン・ビボで発現する少なくとも1種類の組換えベクターを含むことができる。代替態様によれば、本発明の免疫原性組成物は、(iii)少なくとも1種類の免疫応答モディファイアーを単独でまたは(i)および/または(ii)と組み合わせて含んでなる。このような免疫応答モディファイアー(IRM)の例としては、CpGオリゴヌクレオチド(例えば、米国特許第6,194,388号明細書、米国特許第2006094683号明細書、WO2004039829号明細書参照)、リポ多糖類、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸複合体(Kadowaki, et al., 2001 , J. Immunol. 166, 2291-2295)、および樹状細胞および/または単球/マクロファージからサイトカインの産生を誘発することが知られているポリペプチドおよびタンパク質が挙げられる。このような免疫応答モディファイアー(IRM)の他の例は、イミダゾキノリンアミン、イミダゾピリジンアミン、6,7−融合シクロアルキルイミダゾピリジンアミン、イミダゾナフチリジンアミン、オキサゾロキノリンアミン、チアゾロキノリンアミンおよび1,2−架橋イミダゾキノリンアミンのような小さな有機分子である(例えば、米国特許第4,689,338号明細書、米国特許第5,389,640号明細書、米国特許第6,110,929号明細書、および米国特許第6,331,539号明細書を参照されたい)。
【0022】
本明細書で用いられる「抗原」または「ターゲッティングした抗原」という用語は、免疫応答のターゲットとなり得る複合体抗原(例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞など)を含む任意の物質を表す。抗原は、例えば、患者によって増強された細胞性および/または体液性免疫応答のターゲットであることがある。
【0023】
「抗原」または「ターゲッティングした抗原」という用語は、例えば、ウイルス抗原、腫瘍特異的または関連抗原、細菌抗原、寄生生物抗原、アレルゲンなどの全部または一部を包含し、
ウイルス抗原としては、例えば、A、B、C、DおよびE型肝炎ウイルス、HIV、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹、パピローマウイルス、エプスタイン−バールウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、呼吸器シンシチウムウイルス、ポックスウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、パポバウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス由来の抗原が挙げられ、既知のウイルス抗原のいくつかの非制限的例としては、tat、nef、gp120またはgp160、gp40、p24、gag、env、vif、vpr、vpu、rev、またはそれらの一部および/または組合せのようなHIV−1由来の抗原; gH、gL、gM、gB、gC、gK、gEまたはgDまたはそれらの一部および/または組合せのようなヒトヘルペスウイルス由来の抗原、またはHSV1またはHSV2由来のICP27、ICP47、ICP4、ICP36のような前初期タンパク質; gBまたはその誘導体のようなサイトメガロウイルス、特にヒトサイトメガロウイルス由来の抗原; gp350またはその誘導体のようなエプスタイン−バールウイルス由来の抗原; gpl、11、111およびIE63のような水痘帯状疱疹ウイルス由来の抗原; B型肝炎、C型肝炎またはE型肝炎ウイルス抗原のような肝炎ウイルス由来の抗原(例えば、HCVのenvタンパク質E1またはE2、coreタンパク質、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、NS5b、p7、またはそれらの一部および/または組合せ); ヒトパピローマウイルス由来の抗原(例えば、HPV6、11、16、18、例えば、L1、L2、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、またはそれらの一部および/または組合せ); 他のウイルス病原体由来の抗原、例えば、呼吸器シンシチウムウイルス(例えば、FおよびGタンパク質またはその誘導体)、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス、デング熱ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス)またはインフルエンザウイルス細胞(例えば、HA、NP、NAまたはMタンパク質、またはそれらの一部および/または組合せ)が挙げられ、
腫瘍特異的または関連抗原としては、癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。このような癌の更に具体的な例としては、乳癌、前立腺癌、結腸癌、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、消化器癌、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌、結直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝臓癌および様々な種類の頭部および頸部癌、腎臓癌、悪性黒色腫、喉頭癌、前立腺が挙げられる。癌抗原は、明らかに腫瘍特異的免疫応答を潜在的に刺激することができる抗原である。これらの抗原のいくつかは、正常細胞によってコードされるが、必ずしも発現されない。これらの抗原は、通常はサイレント(すなわち、発現されない)もの、分化のある段階でのみ発現されるもの、および胎芽(embryonic)および胎児性(fetal)抗原のような一時的に発現するものと特定することができる。他の癌抗原は、癌遺伝子(例えば、活性化ras癌遺伝子)、サプレッサー遺伝子(例えば、突然変異体p53)、内部欠失または染色体トランスロケーションから生じる融合タンパク質のような突然変異細胞性遺伝子によってコードされる。更に他の癌抗原はウイルス遺伝子によってコードすることができ、例えば、RNAおよびDNA腫瘍ウイルスで運ばれる。腫瘍特異的または関連抗原のいくつかの非制限的例としては、MART−1/Melan−A、gp100、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADAbp)、シクロフィリンb、結直腸関連抗原(CRC)−C017−1A/GA733、癌胎児性抗原(CEA)およびその免疫原性エピトープCAP−1およびCAP−2、etv6、aml1、前立腺特異抗原(PSA)およびその免疫原性エピトープ PSA−1、PSA−2およびPSA−3、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、T細胞受容体/CD3−ζ鎖、腫瘍抗原のMAGEファミリー(例えば、MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A5、MAGE−A6、MAGE−A7、MAGE−A8、MAGE−A9、MAGE−A10、MAGE−A11、MAGE−A12、MAGE−Xp2(MAGE−B2)、MAGE−Xp3(MAGE−B3)、MAGE−Xp4(MAGE−B4)、MAGE−C1、MAGE−C2、MAGE−C3、MAGE−C4、MAGE−C5)、腫瘍抗原のGAGEファミリー(例えば、GAGE−1、GAGE−2、GAGE−3、GAGE−4、GAGE−5、GAGE−6、GAGE−7、GAGE−8、GAGE−9)、BAGE、RAGE、LAGE−1、NAG、GnT−V、MUM−1、CDK4、チロシナーゼ、p53、MUCファミリー(例えば、MUC−1)、HER2/neu、p21ras、RCAS1、α−フェトプロテイン、E−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニンおよびγ−カテニン、p120ctn、gp100.sup.Pmel117、PRAME、NY−ESO−1、cdc27、大腸腺腫性ポリポーシスタンパク質(APC)、ホドリン、コネキシン37、Ig−イディオタイプ、p15、gp75、GM2およびGD2ガングリオシド、ヒトパピローマウイルスタンパク質のようなウイルス産物、腫瘍抗原のSmadファミリー、lmp−1、P1A、EBVでコードした核抗原(EBNA)−1、脳グリコーゲンホスホリラーゼ、SSX−1、SSX−2(HOM−MEL−40)、SSX−1、SSX−4、SSX−5、SCP−1およびCT−7、およびc−erbB−2が挙げられ、
細菌抗原としては、例えば、TBおよびライ病を引き起こすミコバクテリア、肺炎球菌、好気性グラム陰性バチルス、マイコプラズマ、ブドウ球菌感染症、連鎖球菌感染症、サルモネラ菌、クラミジア、ナイセリア由来の抗原が挙げられ、
他の抗原としては、例えば、マラリア、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラスマ症、住血吸虫症、フイラリア症由来の抗原が挙げられ、
アレルゲンは、乾癬を受けやすい患者のアレルギーまたは喘息応答を引き起こす可能性がある物質を表す。アレルゲンのリストは厖大であり、花粉、昆虫の毒液、動物燐屑粉、真菌胞子および薬物(例えば、ペニシリン)を挙げることができる。天然の動物および植物アレルゲンの例としては、イヌ属(カニス・ファミリアリス(Canis familiaris)); デルマトファゴイデス属(例えば、コナヒョウダニ); ネコ属(フェリス・ドメスティクス(Felis domesticus)); ブタタサ属(ブタクサ(Ambrosia artemiisfolia)); ドクムギ属(例えば、ホソムギまたはネズミムギ); スギ属(スギ); アルテルナリア属(アルテルナリア・アルテルナタ(Alternaria alternata)); ハンノキ属; ハンノキ属(Alnus)(アルヌス・グルティノサ(Alnus gultinoasa)); カバノキ属(ベツラ・ベルコサ(Betula verrucosa)); カシ属(クウェルクス・アルバ(Quercus alba)); オリーブ属(オレア・オイローパ(Olea europa)); ヨモギ属(アルテミシア・ブルガリス(Artemisia vulgaris)); オオバコ属(例えば、ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)); パリエタリア属(例えば、パリエタリア・オフィチナリス(Parietaria officinalis)またはパリエタリア・ユダイカ(Parietaria judaica)); チャバネゴキブリ属(例えば、チャバネゴキブリ); ミツバチ属(例えば、アピス・ムルティフロルム(Apis multiflorum)); イトスギ属(例えば、クプレスス・セムペルビレンス(Cupressus sempervirens)、クプレスス・アリゾニカ(Cupressus arizonica)およびクプレスス・マクロカルパ(Cupressus macrocarpa)); ビャクシン属(例えば、ユニペルス・サビオノイデス(Juniperus sabinoides)、ユニペルス・ビルギニアナ(Juniperusvirginiana)、ユニペルス・コムニス(Juniperus communis)およびユニペルス・アシェイ(Juniperus ashei)); クロベ属(例えば、コノテガシワ); ヒノキ属(例えば、ヒノキ); ゴキブリ属(例えば、ワモンゴキブリ); カモジグサ属(例えば、アグロピロン・レペンス(Agropyron repens)); ライムギ属(例えば、ライムギ); コムギ属(例えば、コムギ); カモガヤ属(例えば、カモガヤ); ウシノケグサ属(例えば、ヒロハノウシノケグサ); イチゴツナギ属(例えば、ナガハグサまたはポア・コンプレサ); カラスムギ属(例えば、マカラスムギ); シラゲガヤ属(例えば、シラゲガヤ); ハルガヤ属(例えば、ハルガヤ); オオカニツリ属(例えば、オオカニツリ); ヌカボ属(例えば、コヌカグサ); アワガエリ属(例えば、オオアワガエリ); クサヨシ属(例えば、クサヨシ); スズメノヒエ属(例えば、パスパルム・ノタツム(Paspalum notatum)); モロコシ属(例えば、ソルグム・ハレペンシス(Sorghum halepensis)); およびスズメノチャヒキ属(例えば、コスズメノチャヒキ)に特異的なタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
一つの特別な態様によれば、上記ターゲッティングした抗原は異種ヌクレオチド配列によってコードされ、組換えベクターによってイン・ビボで発現される。
【0025】
特に好ましい態様では、本発明の異種ヌクレオチド配列は、下記のターゲッティングした抗原HBV−PreS1 PreS2および表面envタンパク質、coreおよびpolHIV−gp120、gp40、gp160、p24、gag、pol、env、vif、vpr、vpu、tat、rev、nef; HPV−E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、L1、L2(例えば、WO90/10459号明細書、WO98/04705号明細書WO99/03885号明細書参照); HCV envタンパク質E1またはE2、coreタンパク質、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、NS5b、p7(例えば、W02004111082号明細書、WO2005051420号明細書参照); Muc−1(例えば、米国特許第5,861,381号明細書、米国特許第6,054,438号明細書、WO98/04727号明細書、WO98/37095号明細書参照)の全部または一部の1つ以上をコードする。
【0026】
本発明の別の態様によれば、免疫原性組成物は、少なくとも2個のターゲッティングした抗原、または少なくとも2個のターゲッティングした抗原をコードする異種ヌクレオチド配列、または少なくとも2個のターゲッティングした抗原をコードする少なくとも2個の異種ヌクレオチド配列、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0027】
もう一つの特定態様によれば、本発明の上記異種ヌクレオチド配列は、HPVのE6初期コード領域、HPVのE7初期コード領域およびそれらの誘導体または組合せからなる群で選択される1もしくは複数のHPV抗原の全部または一部をコードする。
【0028】
本発明による組換えベクターによってコードされるHPV抗原は、HPV E6ポリペプチド、HPV E7ポリペプチド、またはHPV E6ポリペプチドとHPV E7ポリペプチドの両方からなる群で選択される。本発明は、p53への結合が変更されまたは少なくとも有意に減少した任意のHPV E6ポリペプチドの使用および/またはRbへの結合が変更されまたは少なくとも有意に減少した任意のHPV E7ポリペプチド使用を包含する(Munger et al., 1989, EMBO J. 8, 4099-4105; Crook et al., 1991, Cell 67, 547-556; Heck et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 4442-4446; Phelps et al., 1992, J. Virol. 66, 2148-2427)。本発明の目的に適している非発癌性HPV−16 E6変異体は、約118位から約122位までに配置された1以上のアミノ酸残基を欠失しており(+1は、天然のHPV−16 E6ポリペプチドの第一のメチオニン残基を表す)、特に好ましくは残基118−122(CPEEK)を完全に欠失している。本発明の目的に適している非発癌性HPV−16 E7変異体は、約21位から約26位までに配置された1以上のアミノ酸残基を欠失しており(+1は、天然のHPV−16 E7ポリペプチドの第一のアミノ酸を表す)、特に好ましくは残基21−26(DLYCYE)を完全に欠失している。好ましい態様によれば、本発明で用いられる1以上のHPV−16初期ポリペプチドは更に改質されて、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスIl提示を向上させおよび/または抗HPV免疫を刺激するようになる。HPV E6およびE7ポリペプチドは核タンパク質であり、膜提示によりそれらの治療効果を向上させることは以前に示されている(例えば、WO99/03885号明細書を参照されたい)。従って、HPV初期ポリペプチドの少なくとも1つを改質して細胞膜に固定させることが望ましいことがある。膜固定はHPV初期ポリペプチドに膜固定配列を組込むことによって容易に行うことができ、天然のポリペプチドがそれを欠いていると、分泌配列(すなわち、シグナルペプチド)。膜固定および分泌配列は、当該技術分野で知られている。簡単に説明すれば、分泌配列は膜に提示されたまたは分泌されたポリペプチドのN末端に存在し、小胞体(ER)へのそれらの移動を開始する。それらは、通常は15−35個の本質的に疎水性のアミノ酸を含んでなり、次いで特異的なERに配置されたエンドペプチダーゼによって除去されて、成熟したポリペプチドを生じる。膜固定配列は、通常は性質が高疎水性であり、ポリペプチドを細胞膜に固定する働きをする(例えば、Branden and Tooze, 1991, 「タンパク質構造入門(Introduction to Protein Structure)」p. 202-214, NY Garlandを参照されたい)。
【0029】
本発明に関して用いることができる膜固定および分泌配列の選択は、後代である。それらは、狂犬病糖タンパク質、HIVウイルスエンベロープ糖タンパク質または麻疹ウイルスFタンパク質のような任意の膜に固定されたおよび/またはそれを含んでなる分泌されるポリペプチド(例えば、細胞性またはウイルスポリペプチド)から得ることができ、または合成することができる。本発明によって用いられる初期HPV−16ポリペプチドのそれぞれに挿入されている膜固定および/または分泌配列は、共通のまたは異なる起源を有することがある。分泌配列の好ましい挿入部位は翻訳開始のコドンの下流のN末端であり、膜固定配列の部位はC末端、例えば、停止コドンの直ぐ上流である。
【0030】
本発明で用いられるHPV E6ポリペプチドは、好ましくは麻疹Fタンパク質の分泌および膜固定シグナルの挿入によって改質される。場合によってはまたは組み合わせて、本発明で用いられるHPV E7ポリペプチドは、好ましくは狂犬病糖タンパク質の分泌および膜固定シグナルの挿入によって改質される。
【0031】
組換えベクターの治療効果は、1以上の免疫増強物質ポリペプチドをコードする核酸を用いることによって改良することもできる。例えば、カルレティキュリン(Cheng et al., 2001, J. Clin. Invest. 108, 669-678)、ヒト結核菌熱ショックタンパク質70(HSP70)(Chen et al., 2000, Cancer Res. 60, 1035-1042)、ユビキチン(Rodriguez et al., 1997, J. Virol. 71, 8497-8503)、または緑膿菌外毒素A(ETA(dlll))のような細菌毒素のトランスロケーションドメイン(Hung et al., 2001 Cancer Res. 61, 3698-3703)のようなポリペプチドに1もしくは複数のHPV初期ポリペプチドを連結するのが有利であることがある。
【0032】
もう一つの好ましい態様によれば、本発明による組換えベクターは、上記で定義したような1以上の初期ポリペプチド、更に詳細にはHPV−16および/またはHPV−18初期E6および/またはE7ポリペプチドをコードする核酸を含んでなる。
【0033】
もう一つの特定の態様によれば、本発明の上記異種ヌクレオチド配列は、MUC 1抗原またはその誘導体の全部または一部をコードする。
【0034】
もう一つの特定の態様によれば、本発明の上記異種ヌクレオチド配列は、HCV envタンパク質E1またはE2、coreタンパク質、NS2、NS3、NS4a、NS4b、NS5a、NS5b、p7またはそれらの誘導体の全部または一部の1以上をコードする。もう一つの特定態様によれば、本発明の上記異種ヌクレオチド配列は、配置がNSポリペプチドの少なくとも1種類が天然の配置のものとは異なる順序で現れるという意味において天然のものではない1以上の融合タンパク質をコードする。従って、融合タンパク質がNS3ポリペプチド、NS4AポリペプチドおよびNS5Bポリペプチドを含んでなるときには、天然の配置はNS3−NS4A−NS5Bとなり、NS3はN末端にありかつNS5BはC末端にある。対照的に、天然のものでない配置は、NS5B−NS3−NS4A、NS5B−NS4A−NS3、NS4A−NS3−NS5B、NS4A−NS5B−NS3またはNS3−NS5B−NS4Aであることができる。特に、本発明による融合タンパク質は、下記:
直接またはリンカーを介してNS3ポリペプチドのN末端に融合したNS4Aポリペプチド、
直接またはリンカーを介してNS5BポリペプチドのN末端に融合したNS3ポリペプチド、
直接またはリンカーを介してNS5BポリペプチドのN末端に融合したNS4Bポリペプチド、
直接またはリンカーを介してNS4BポリペプチドのN末端に融合したNS3ポリペプチドのN末端に直接またはリンカーを介して融合したNS4Aポリペプチド、および/または
直接またはリンカーを介してNS5BポリペプチドのN末端に融合したNS4BポリペプチドのN末端に直接またはリンカーを介して融合したNS3ポリペプチド
の少なくとも1つを含んでなる。
【0035】
本発明の融合タンパク質のこのような特異的部分において、それぞれのNSポリペプチドは独立して天然のものまたは改質したものであることができる。例えば、NS4A−NS3部分に含まれるNS4Aポリペプチドは天然のものであり、一方NS3ポリペプチドは下記のような少なくとも1つの改質を含んでなることができる。必要ならば、本発明で用いられる核酸分子は、特定の宿主細胞または生物、例えば、ヒト宿主細胞または生物においてターゲッティングした抗原(例えば、1もしくは複数のHPV初期ポリペプチド)を高レベルで発現するのに最適にすることができる。典型的には、コドンの最適化は、哺乳類宿主細胞で稀に用いられるコドンに対応する1以上の「天然」(例えば、HPV)コドンを一層頻繁に用いられる同じアミノ酸をコードする1以上のコドンによって置換することによって行われる。これは、通常の突然変異誘発によってまたは化学的合成法(例えば、合成核酸を生成する)によって行うことができる。増加発現は部分的置換によっても行うことができるので、稀に用いられるコドンに対応する総ての天然コドンを置換する必要はない。更に、最適化したコドンの使用法を厳守することから幾分逸脱して、1もしくは複数の制限部位の導入を合わせることができる。
【0036】
本明細書で用いられる「組換えベクター」という用語は、染色体外(例えば、エピソーム)、マルチコピーおよび組込みベクター(すなわち、宿主染色体に組込むためのもの)などウイルス並びに非ウイルスベクターを表す。本発明に関連して特に重要なものは、遺伝子治療(すなわち、核酸を宿主生物に送達することができる)並びに様々な発現系で用いられる発現ベクターである。適当な非ウイルスベクターとしては、pREP4、pCEP4 (Invitrogene)、pCI (Promega)、pCDMδ (Seed, 1987, Nature 329, 840)、pVAXおよびpgWiz (Gene Therapy System Inc; Himoudi et al., 2002, J. Virol. 76, 12735-12746)のようなプラスミドが挙げられる。適当なウイルスベクターは、様々なウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、AAV、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、フォーミーウイルスなど)から誘導することができる。本明細書で用いられる「ウイルスベクターという用語は、ベクターDNA/RNA並びにそれらの生成したウイルス粒子を包含する。ウイルスベクターは複製コンピテントであることができ、または遺伝学的に無能化して複製欠損または複製損傷となるようにすることができる。本明細書で用いられる「複製コンピテント」という用語は、特異的宿主細胞(例えば、腫瘍細胞)で一層良好にまたは選択的に複製するように遺伝子工学処理を施した複製選択的および条件複製ウイルスベクターを包含する。
【0037】
一つの態様では、本明細書で用いられる組換えベクターは、組換えアデノウイルスベクターである(総説については、「遺伝子治療のためのアデノウイルスベクター(Adenoviral vectors for gene therapy)」, 2002, D. Curiel and J. Douglas監修, Academic Pressを参照されたい)。これは様々なヒトまたは動物供給源から誘導することができ、任意の血清型をアデノウイルス血清型1−51から用いることができる。特に好ましいものは、ヒトアデノウイルス2(Ad2)、5(Ad5)、6(Ad6)、11(Ad11)、24(Ad24)および35(Ad35)である。このようなアデノウイルスはジ・アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(the American Type Culture Collection (ATCC),ロックビル,メリーランド)から入手可能であり、それらの配列、構成および製造法を記載している多くの公表文献の主題であり、熟練者であればそれらを応用することができる(例えば、米国特許第6,133,028号明細書、米国特許第6,110,735号明細書、WO02/40665号明細書、WO00/50573号明細書、欧州特許第1016711号明細書、Vogels et al., 2003, J. Virol. 77, 8263-8271を参照されたい)。
【0038】
本発明で用いられるアデノウイルスベクターは複製コンピテントであることができる。複製コンピテントアデノウイルスベクターの多くの例は、当業者であれば容易に入手することができる(例えば、Hernandez-Alcoceba et al., 2000, Human Gene Ther. 11, 2009-2024; Nemunaitis et al., 2001, Gene Ther. 8, 746-759; Alemany et al., 2000, Nature Biotechnology 18, 723-727を参照されたい)。例えば、それらは野生型アデノウイルスゲノムからE1A CR2ドメインにおける欠失によって(例えば、WO00/24408号明細書参照)、および/または天然のE1および/またはE4プロモーターを組織、腫瘍または細胞状態に特異的なプロモーターで置換することによって遺伝子工学処理を施すことができる(例えば、米国特許第5,998,205号明細書、WO99/25860号明細書、米国特許第5,698,443号明細書、WO00/46355号明細書、WO00/15820号明細書、およびWO01/36650号明細書を参照されたい)。
【0039】
あるいは、本発明で用いられるアデノウイルスベクターは、複製欠損である(例えば、WO94/28152号明細書; Lusky et al., 1998, J. Virol 72, 2022-2032を参照されたい)。好ましい複製欠損アデノウイルスベクターはE1欠損であり(例えば、米国特許第6,136,594号明細書および米国特許第6,013,638号明細書参照)、E1欠失は約459位から3328位までまたは約459位から3510位まで伸びている(受託番号M 73260でGeneBankにおよびChroboczek et al., 1992, Virol. 186, 280-285に開示されているヒトアデノウイルス5型の配列を参照することによる)。クローニング能は、アデノウイルスゲノムの(複数の)追加部分(非本質的E3領域または他の本質的E2、E4領域の全部または一部)を欠失することによって更に改良することができる。アデノウイルスベクターの任意の位置への核酸の挿入は、Chartier et al. (1996, J. Virol. 70, 4805-4810)に記載の相同組換えによって行うことができる。例えば、HPV−16 E6ポリペプチドをコードする核酸をE1領域の代わりに挿入することができ、HPV−16 E7ポリペプチドをコードする核酸をE3領域の代わりに挿入することができ、またはその逆を行うこともできる。
【0040】
もう一つの好ましい態様では、本発明で用いられるベクターはポックスウイルスベクターである(例えば、Cox et al. 「ヒト遺伝子療法におけるウイルス(Viruses in Human Gene Therapy)」J. M. Hos監修, Carolina Academic Pressを参照されたい)。もう一つの好ましい態様によれば、これはワクシニアウイルスからなる群から選択され、適当なワクシニアウイルスとしてはCopenhagen株(Goebel et al., 1990, Virol. 179, 247-266および517- 563; Johnson et al., 1993, Virol. 196, 381-401)、ワイエス株およびそれに由来する高度に弱毒化したウイルス、例えば、MVA(総説については、Mayr, A., et al., 1975, Infection 3, 6-14を参照されたい)およびその誘導体(例えば、MVAワクシニア株575 (ECACC V00120707 - 米国特許第6,913,752号明細書)、NYVAC(WO92/15672号明細書 - Tartaglia et al., 1992, Virology, 188, 217-232参照)が挙げられるが、これらに限定されない。MVAゲノムの完全配列の決定およびコペンハーゲンVVゲノムとの比較によって、MVAゲノムで生じた7つの欠失(I−VII)を精確に同定でき(Antoine et al., 1998, Virology 244, 365-396)、これらのいずれも抗原コード核酸を挿入するのに用いることができる。ベクターはポックスウイルス科の任意の他の成員、特に鶏痘(例えば、TROVAC, Paoletti et al, 1995, Dev Biol Stand., 84, 159-163参照)、カナリア痘瘡(例えば、ALVAC, WO95/27780号明細書、Paoletti et al, 1995, Dev Biol Stand., 84, 159-163)、鳩痘、豚痘などからも得ることができる。例えば、当業者であれば、このような異種ヌクレオチド配列、特に抗原をコードするヌクレオチド配列を発現することができるポックスウイルス由来の発現ベクターの産生を記載しているWO92/15672号明細書(参考として引用)を参照することができる。
【0041】
ポックスウイルスゲノムでの発現に要する核酸および関連調節要素を挿入するための基本的手法は、当業者が入手可能な多数の文献に記載されている(Paul et al., 2002, Cancer gene Ther. 9, 470-477; Piccini et al., 1987, Methods of Enzymology 153, 545-563; 米国特許第4,769,330号明細書、米国特許第4,772,848号明細書、米国特許第4,603,112号明細書、米国特許第5,100,587号明細書および米国特許第5,179,993号明細書)。通常は、いずれもウイルスゲノムと挿入する核酸を運ぶプラスミドに存在する重複配列(すなわち、所望な挿入部位)の間の相同組換えによって行われる。
【0042】
本発明の抗原をコードする核酸は、好ましくはポックスウイルスゲノムの非本質的座に挿入され、組換えポックスウイルス生育力と感染性を残しているようにする。非本質的領域は非コード遺伝子間領域または不活性化または欠失によってウイルス増殖、複製または感染が余り損なわれない任意の遺伝子である。欠損機能をウイルス粒子の産生の途中で供給すれば、例えば、ポックスウイルスゲノムで欠失したものに対応する相補的配列を有するヘルパー細胞系を用いることによって、本質的ウイルス座における挿入を考えることもできる。
【0043】
コペンハーゲンワクシニアウイルスを用いると、抗原コード核酸は、チミジンキナーゼ遺伝子(tk)に好ましく挿入される(Hruby et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci USA 80, 3411-3415; Weir et al., 1983, J. Virol. 46, 530-537)。しかしながら、例えば、赤血球凝集素遺伝子(Guo et al., 1989, J. Virol. 63, 4189-4198)、K1 L座、u遺伝子(Zhou et al., 1990, J. Gen. Virol. 71, 2185-2190)またはワクシニアウイルスゲノムの左末端であって、様々な自然発生的または遺伝子工学処理を施した欠失が文献に報告されているもの(Altenburger et al., 1989, Archives Virol. 105, 15-27; Moss et al. 1981, J. Virol. 40, 387-395; Panicali et al., 1981, J. Virol. 37, 1000-1010; Perkus et al, 1989, J. Virol. 63, 3829-3836; Perkus et al, 1990, Virol. 179, 276-286; Perkus et al, 1991, Virol. 180, 406-410)では、他の挿入部位も適当である。
【0044】
MVAを用いると、抗原コード核酸は、確認された欠失I−VIIのいずれか並びにD4R座に挿入することができるが、欠失IIまたはIIIにおける挿入が好ましい(Meyer et al., 1991, J. Gen. Virol. 72, 1031-1038; Sutter et al., 1994, Vaccine 12, 1032-1040)。
【0045】
鶏痘ウイルスを用いると、チミジンキナーゼ遺伝子内での挿入が考えられるが、抗原コード核酸はORF7および9の間に位置する遺伝子間領域に導入されるのが好ましい(例えば、欧州特許第314 569号明細書および米国特許第5,180,675号明細書を参照されたい)。
【0046】
1つの特定の態様によれば、上記組換えベクターは組換えプラスミドDNAまたは組換えウイルスベクターである。
【0047】
もう一つの特定の態様によれば、上記組換えウイルスベクターは組換えアデノウイルスベクターである。
【0048】
もう一つの特定の態様によれば、上記組換えウイルスベクターは組換えワクシニアベクターである。
【0049】
もう一つの特定の態様によれば、上記組換えワクシニアベクターは組換え MVAベクターである。
【0050】
好ましくは、本発明で用いられる抗原コード核酸は宿主細胞または生物でその発現に適当な形態をしており、これは、抗原コードする核酸配列が宿主細胞または生物でその発現に必要な1以上の調節配列によって制御されていることを意味する。本明細書で用いられる「調節配列」という用語は、宿主細胞への核酸またはその誘導体の1つ(すなわち、mRNA)の複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、安定性および/または輸送など所定の宿主細胞における核酸の発現を可能にし、に寄与し、またはを調節する任意の配列を表す。当業者であれば、調節配列の選択は、宿主細胞、ベクターおよび所望な発現のレベルのような因子によって変化する可能性があるを理解されるであろう。抗原をコードする核酸は、真核生物細胞中での抗原核酸の発現を指示する遺伝子発現配列に操作連結している。遺伝子発現配列は、プロモーター配列またはプロモーター−エンハンサーの組合せのような任意の調節ヌクレオチド配列であり、これが操作連結している抗原核酸の効率的転写および翻訳を促進する。遺伝子発現配列は、例えば、構成的または誘導的プロモーターのような哺乳類またはウイルスプロモーターであることができる。構成的な哺乳類プロモーターとしては、下記の遺伝子のプロモーター、すなわちヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、アデノシンデアミナーゼ、ピルベートキナーゼ、b−アクチンプロモーターおよび他の構成的プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。真核生物細胞で構成的に機能する典型的なウイルスプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス(例えば、SV40)、パピローマウイルス、アデノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ラウス肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス由来のプロモーター、モロニー白血病ウイルスおよび他のレトロウイルスの長端末反復配列(LTR)、および単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーターが挙げられる。他の構成的プロモーターは、当該技術分野において通常の技術を有する者には知られている。本発明の遺伝子発現配列として有用なプロモーターとしては、誘導的プロモーターも挙げられる。誘導的プロモーターは、誘導剤の存在下にて発現する。例えば、メタロチオネインプロモーターを誘導して、ある種の金属イオンの存在下にて転写および翻訳を促進する。他の誘導的プロモーターは、当該技術分野において通常の技術を有する者には知られている。一般に、遺伝子発現配列は、必要に応じてTATAボックス、キャップ形成配列、CAAT配列などのようなそれぞれ転写および翻訳の開始に関与した5′−非転写および5′−非翻訳配列を包含する。特に、このような5′−非転写配列は、操作可能に結合した抗原核酸の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を包含する。遺伝子発現配列は、場合によっては所望に応じてエンハンサー配列または上流のアクチベーター配列を包含する。ポックスウイルスベクターで用いられる好ましいプロモーター(下記参照)としては、制限なしにワクシニアプロモーター7.5K、H5R、TK、p28、p11およびK1L、初期および後期ポックスウイルスプロモーターの間のキメラプロモーター、並びにChakrabarti et al. (1997, Biotechniques 23, 1094-1097)、Hammond et al. (1997, J. Virological Methods 66, 135-138)およびKumar and Boyle (1990, Virology 179, 151-158)に記載されているような合成プロモーターが挙げられる。
【0051】
プロモーターは特に重要であり、本発明は、多くの種類の宿主細胞における核酸の発現を指示する構成的プロモーターおよびある種の宿主細胞でまたは特異的事象または外来因子(例えば、温度、栄養添加剤、ホルモンまたは他のリガンド)に応答してのみ発現を指示するものの使用を包含する。適当なプロモーターは文献に広範に記載されており、更に具体的にはRSV、SV40、CMVおよびMLPプロモーターのようなウイルスプロモーターを引用することができる。ポックスウイルスベクターで用いられる好ましいプロモーターとしては、制限なしにワクシニアプロモーター7.5K、H5R、TK、p28、p11およびK1L、初期および後期ポックスウイルスプロモーターの間のキメラプロモーター、並びにChakrabarti et al. (1997, Biotechniques 23, 1094-1097)、Hammond et al. (1997, J. Virological Methods 66, 135-138)およびKumar and Boyle (1990, Virology 179, 151-158)に記載されているような合成プロモーターが挙げられる。
【0052】
当業者であれば、本発明の核酸分子の発現を制御する調節要素が、更に転写の適正な開始、調節および/または終結(例えば、ポリA転写終結配列)、mRNA輸送(例えば、核局在化シグナル配列)、プロセシング(例えば、スプライシングシグナル)、および安定性(例えば、イントロンおよび非コード5′および3′配列)、宿主細胞または生物への翻訳(例えば、ペプチドシグナル、プロペプチド、三分節リーダー配列、リボソーム結合部位、シャイン−ダルガノ配列など)のための追加要素を含んでなることができる。
【0053】
あるいは、本発明で用いられる組換えベクターは、更に少なくとも1種類のサイトカインをコードする少なくとも1種類の核酸を含んでなることができる。適当なサイトカインとしては、制限なしにインターロイキン(例えば、IL−2、IL−7、IL−15、IL−18、IL−21)およびインターフェロン(例えば、IFNγ、INFα)が挙げられ、インターロイキンIL−2が特に好ましい。本発明の組換えワクチンがサイトカイン発現核酸を含んでなるときには、上記核酸は、1以上の抗原をコードする組換えベクターまたは同一または異なる起源であることができる独立した組換えベクターによって運ばれることがある。
【0054】
上記組換えウイルスベクターを含んでなるウイルス粒子は、普通の方法によって産生させることができる。典型的な方法は、
a.ウイルスベクターを適当な細胞系に導入し、
b.上記細胞系を適当な条件下で培養して、上記感染性ウイルス粒子を産生させ、
c.上記細胞系の培養物から産生した感染性ウイルス粒子を回収し、
d.場合によっては、上記の回収した感染性ウイルス粒子を精製する
工程を含んでなる。
【0055】
アデノウイルスベクターの増殖に適する細胞は、例えば、293細胞、PERC6細胞、HER96細胞、またはWO94/28152号明細書、WO97/00326号明細書、米国特許第6,127,175号明細書に開示されている細胞である。
【0056】
ポックスウイルスベクターの増殖に適する細胞はトリ細胞であり、最も好ましくは授精卵から得たニワトリの胎児から調製した初代ニワトリ胎児繊維芽細胞(CEF)である。
【0057】
感染性ウイルス粒子は、培養物上清またはリーシス後の細胞から(例えば、化学的手段、凍結/融解、浸透圧衝撃、機械的衝撃、超音波処理などによって)回収することができる。ウイルス粒子は、プラーク精製を連続的に繰り返すことによって単離することができ、次いで当該技術分野の手法(クロマトグラフィー法、塩化セシウムまたはスクロースグラディエント上での超遠心分離)を用いて精製することができる。
【0058】
一つの具体的態様によれば、本発明は、上記ヒト疾患が癌である上記方法に関する。
【0059】
好ましい態様によれば、上記癌は、例えば、乳癌、結腸癌、腎臓癌、直腸癌、肺癌、頭部および頸部の癌、腎臓癌、悪性黒色腫,喉頭癌、卵巣癌、子宮頸癌癌、前立腺癌、非小細胞肺癌である。
【0060】
一つの具体的態様によれば、本発明は、上記ヒト疾患が感染性疾患である上記方法に関する。
【0061】
好ましい態様によれば、上記感染性疾患は、ウイルスによって誘発される疾患であり、例えば、HIV、HCV、HBV、HPVなどによって誘発される疾患である。
【0062】
本明細書で用いられる「低〜中程度の免疫応答」という用語は、当業者に周知である。更に具体的には、これは、所定の標準的免疫分析法において定性化および/または定量化した尺度、例えば、増殖分析法における刺激の指標、ELISAまたはフローサイトメトリー分析法、CTL分析法、ELISPOT分析法におけるサイトカインの産生、ELISAによって測定される抗体の産生、フローサイトメトリーまたは顕微鏡法によって評価される細胞表面マーカーの発現の調節を意味する。上記の「低〜中程度の免疫応答」または患者への投与時に免疫応答(例えば、抗HPVまたは抗HCVまたは抗MUC1免疫応答)を誘発する能力は、当該技術分野で標準的な様々な分析法を用いてイン・ビトロまたはイン・ビボで評価することができる。免疫応答の開始および活性化を評価するのに利用することができる手法の一般的説明については、例えば、Coligan et al. (1992および1994, 「免疫学の最新の方法(Current Protocols in Immunology)」; J Wiley & Sons Inc, National Institute of Health編纂)を参照されたい。細胞性免疫の測定は、CD4+およびCD8+ T細胞由来のものを含む活性化エフェクター細胞によって分泌されるサイトカインプロフィールの測定(例えば、ELIspotによるIL−10またはIFNγ産生細胞の定量)、免疫エフェクター細胞の活性化状態の測定(例えば、古典的[H]チミジン摂取によるT細胞増殖分析法)、感作した患者における抗原特異的Tリンパ球の分析(例えば、細胞傷害性分析法におけるペプチド特異的リーシス)によって行うことができる。体液性応答を刺激する能力は、抗原結合および/または結合の競合によって測定することができる(例えば、Harlow, 1989, 「抗体(Antibodies)」, Cold Spring Harbor Press)。本発明の方法は、免疫応答の誘発または増強を反映する抗腫瘍活性を測定する目的で適当な腫瘍誘発剤(例えば、HPV−E6およびE7発現TC1細胞)を投与した動物モデルでも更に確認することができる。
【0063】
一つの具体的態様によれば、上記の「低〜中程度の免疫応答」は体液性免疫応答である。
【0064】
もう一つの具体的態様によれば、上記の「低〜中程度の免疫応答」は細胞性免疫応答であり、更に詳細にはT細胞免疫応答であり、更に一層詳細にはCD8+(細胞傷害性Tリンパ球)免疫応答である。
【0065】
好ましい態様によれば、上記の「低〜中程度の免疫応答は、少なくとも1種類の抗原に向けられた特異的免疫応答であり、更に具体的には、腫瘍特異的または関連抗原および/またはウイルス抗原であり、具体的態様では、上記のターゲッティングした抗原である。特定の場合には、上記のターゲッティングした抗原はMUC1である。
【0066】
もう一つの態様では、特定の患者集団におけるヒト疾患の患者を治療するための医薬品の製造を目的としたターゲッティングした抗原の全部または一部を含んでなる免疫原性組成物の使用であって、上記集団の患者が低〜中程度の免疫応答を上記のターゲッティングした抗原に対して誘発し、かつ、(i)ターゲッティングした抗原の全部または一部、および/または、(ii)上記ターゲッティングした抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがないことを特徴とする使用が提供される。
【0067】
もう一つの態様では、特定の患者集団でのヒト疾患を治療する目的で患者のターゲッティングした抗原に対する免疫応答を増強する(すなわち、増強免疫応答)医薬品を製造するための免疫原性組成物の使用であって、上記集団の患者が低〜中程度の免疫応答を抗原に対して誘発し、かつ、(i)上記のターゲッティングした抗原の全部または一部、および/または、(ii)上記のターゲッティングした抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがないことを特徴とする使用が提供される。
【0068】
もう一つの態様では、特定の患者集団でのヒト疾患を治療する目的で患者のターゲッティングした抗原に対する免疫応答を増強する(すなわち、増強免疫応答)医薬品を製造するための免疫原性組成物の使用であって、上記集団の患者が低〜中程度の免疫応答を上記のターゲッティングした抗原に対して誘発し(すなわち、増強免疫応答)、かつ、(i)上記抗原の全部または一部、および/または、(ii)上記抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがないことを特徴とする使用が提供される。
【0069】
一つの具体的態様によれば、上記患者集団における上記「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」は腫瘍特異的または関連抗原および/またはウイルス抗原に向けられる。一つの態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」は別個の抗原に向けられる。一つの具体的態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」はいずれもMUC 1抗原に向けられる。もう一つの具体的態様によれば、上記患者集団における上記の「増強免疫応答」および「低〜中程度の免疫応答」はいずれもT細胞免疫応答であり、好ましくはCD8+(細胞傷害性Tリンパ球)免疫応答である。
【0070】
本発明によって同定される特定の患者集団の患者は、実際にa) 患者自身で免疫応答(例えば、T細胞応答)(すなわち、先行免疫応答)をそれらの疾患(すなわち、それらの疾患(例えば、それぞれHPVまたはMUC1)に直接または間接的に関連した抗原)に対して産生することができ、b) 続いて上記患者に投与される免疫原性組成物はその先行免疫応答(すなわち、増強免疫応答)を効果的に増強し、および/または上記のような抗原に対して低〜中程度の免疫応答を誘発しなかった治療を受けた患者と比較して治療を受けた患者の生存率を伸ばしていると思われる。
【0071】
従って、本発明は、免疫原性組成物を投与することによってヒト疾患について治療した患者の生存率を伸ばす方法であって、
低〜中程度の免疫応答を上記のターゲッティングした抗原に対して誘発し、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部、および/または、(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがない患者から構成される患者集団で患者を選択し、
上記の選択された患者に上記免疫原性組成物を投与する
工程を含んでなる方法にも関する。
【0072】
本発明を例示的に説明してきたが、用いられている用語は、単語の性質において制限よりはむしろ説明のための者であると理解すべきである。本発明の多くの修飾および変更が、上記教示を考慮すれば可能であることは明らかである。従って、添付の特許請求の範囲内で、本発明を、本明細書に具体的に記載されているのとは異なる方法で実施することができることを理解すべきである。
【0073】
上記に引用した特許明細書、公表文献およびデータベースの記載の開示内容は、それぞれの個々の特許明細書、公表文献または記載が具体的かつ個別的に参照することによって組込まれることが指示されるのと同程度まで全体として参照することによって本明細書に具体的に組込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】フェーズII臨床試験TG4010.06 (腎臓癌)。TG4010免疫前のMUC1特異的細胞性免疫応答と患者生存の伸長との相関。点線: TG4010による免疫前にMUC1特異的T細胞応答についてELISpotの証拠を有する患者。実線: ベースラインにおいてELISpotによるMUC1特異的T細胞応答の証拠を示さない患者。丸印は完全なデータを表し、死亡日が知られているものである。十字印は修正データであり、分析の時点で生存しているかまたは追跡調査ができなくなった患者を示す。
【図2】フェーズII臨床試験TG4010.05 (肺癌)。TG4010免疫前のMUC1特異的細胞性免疫応答と患者生存の伸長との相関。点線: TG4010による免疫前にMUC1特異的T細胞応答についてELISpotの証拠を有する患者。実線: ベースラインにおいてMUC1特異的T細胞応答の証拠を示さない患者。丸印は完全なデータを表し、死亡日が知られているものである。十字印は修正データであり、分析の時点で生存しているかまたは追跡調査ができなくなった患者を示す。この研究では、細胞輸送と凍結による技術的困難により、図1で用いた細胞よりも悪い細胞条件となった。このため、バックグラウンドコントロールの1.5倍の10個のPBMC当たり5スポットのレベルを、MUC1に対する正の応答として認めた。正のコントロールに対する基準は、図1のデータについて用いたのと同じであった。
【実施例】
【0075】
静脈血試料を、免疫療法ワクチンTG4010(MUC1抗原をコードするMVAベクター)を用いるフェーズII臨床試験に参加した転移性腎臓癌患者から採取した。これらの患者は、これまでMUC 1抗原またはこれをコードする核酸、または任意の関連抗原を投与することによって治療を受けたことがなかった。血液試料を、TG4010で免役する前および最初のTG4010による免疫後のいくつかの時点で採取し、患者を検討した。血液試料をBecton Dickenson CPT(商標)試験管に集め、中央実験室に送り、末梢血単核細胞に加工し、液体窒素で凍結した。次に、PBMCバッチ毎に別の中央実験室に送り、MUC1特異的細胞性免疫応答を分析した。
【0076】
PBMCを、Diaclone(Besoncon,仏国)装置を用いるELISpot(酵素結合免疫スポット)分析法によりMUC1に特異的なCD8+(細胞溶解性T細胞の表現型)応答について評価した。ELISpotは、抗原に対してCD8+ T細胞応答を評価するのに用いられる極めて周知の分析法である。簡単に説明すれば、PBMCを、単独または抗原と共に、この実施例の場合にはMUC1配列由来のペプチドと共に、培地中のELISpot分析プレートに置く。用いるMUC1ペプチドは、患者のHLA型に特異的である。PBMCを、普通のウイルスタンパク質由来の正の制御ペプチドに対するELISpot応答についても評価する。これにより、この分析法が上手く行っておりかつ細胞がELISpot分析法で応答するのに適当な状態にあることが保証される。細胞を、ELISpotプレート中で16時間インキュベーションする。ELISpotプレートウェルは、ヒトインターフェロンγに特異的なキャプチャー抗体をコーティングしている。そうすれば、細胞を16時間の培養期間の後にプレートから洗い落とすとき、ペプチドに応答してインターフェロンγを産生する細胞の回りの部分はウェルの底に付着したインターフェロンを有することになる。次に、酵素にカップリングした第二のインターフェロンγ抗体を加え、洗浄後に酵素基質を加える。ペプチドと反応するT細胞があるときには、必ず着色スポットを生じる。次にスポットを計数し、その計数がそのペプチドに特異的な懸濁液中のT細胞の数である。
【0077】
MUC1は自己抗原であり、応答は弱いことが予想された。従って、特異的T細胞を、ELISpot分析の前のイン・ビトロでの増感段階で6日間組織培養で最初に膨張させた。この時間中に、患者PBMCを、HLAハプロタイプ(欧州特許第1210430号明細書)に結合することが確認されているヒトMUC1配列由来の短い合成ペプチドとT細胞増殖を促進するインターロイキン−2(IL2)と共に培養した。培養期間後に、増刊したリンパ球を洗浄し、バックグラウンドコントロールとして同じペプチドを用いてまたはペプチドを全く用いずに上記のELISpot分析法における特異的T細胞活性について評価する。
【0078】
ELISpot分析法では、バックグラウンドコントロールウェルにおけるよりも少なくとも10スポット/ウェル(10 PBMC)多くかつそのスポット数がバックグラウンドコントロール(ペプチドを含まない)を含むウェルにおけるスポット数の少なくとも1.5倍であるときには、応答は正であると考えられる。更に、MUC1に対する応答は、同一基準であることを除き正のコントロールが正であるときにのみ正であると考えられる。同様に、MUC1に対する応答(10スポット/ウェルを下回る)は、正のコントロールに対する応答が正であるときにのみ負であると考えられる。
【0079】
腎臓癌TG4010免疫療法の研究における患者由来のPBMCを、ELISpotによってMUC 1特異的なCD8+細胞性免疫応答について試験した。TG4010の免疫後に患者から採取したPBMCと同様に、TG4010の前に採取した患者由来のPBMCを試験した。MUC1特異的ELISpot応答について評価可能な患者PBMCと比較すると、TG4010で免役する前にMUC1特異的ELISpot応答を有する患者の間には有意な相関があり、患者の生存が延長したが(図1)、このようなMUC1特異的応答はベースラインではなかった。更に、ベースラインでMUC 1特異的ELISpot応答(すなわち、免疫原性組成物TG4010による先行免疫)を有する総ての患者は、検討において記録した総数37名の患者に基づいて計算した19ヶ月のメジアン生存を上回る全般的生存率を有していた。
【0080】
図1に示されるデータは、進行性小細胞肺癌の患者においてTG4010を用いる同様なフェーズII臨床試験によるデータによって支持される(図2)。31名の患者はMUC1特異的ELISpotについて評価可能であり、29名の患者はベースでのMUC1特異的ELISpot応答について評価可能であった。11名の患者の応答は、正のコントロール基準を満たしていた。これらのデータだけを、図2に示す。図1に示されているデータと同様に、TG4010で免役する前に、ベースラインで採取した血液からのPBMCによる検出可能なMUC1特異的ELISpot応答を示した肺癌患者(すなわち、上記のターゲッティングした抗原MUC1に対して低〜中程度の免疫応答を誘発しかつ(i)上記ターゲッティングした抗原の全部または、一部および/または、(ii)上記ターゲッティングした抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行して外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く受けたことがない患者)はベースラインで採取した血液からのPBMCによっては検出可能なMUC1特異的ELISpot応答を示さない患者より有意に長く生存した。更に、ELISpotによって測定したときにMUC1特異的T細胞応答を有する総ての患者は、研究における総数65名の患者のメジアン生存率より長い生存率を示した。メジアン生存率は13.7ヶ月であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原性組成物を投与することによりヒト疾患を治療する目的で患者のターゲッティングした抗原に対する免疫応答を増強する方法であって、
低〜中程度の免疫応答を前記のターゲッティングした抗原に対して誘発し、かつ、(i)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原の全部または一部および/または(ii)上記ターゲッティングした1もしくは複数の抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクター、を含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがない患者から構成される患者集団において患者を選択し、
選択された患者に前記免疫原性組成物を投与する
工程を含んでなる、方法。
【請求項2】
患者に投与される上記免疫原性組成物が、(i)前記記のターゲッティングした抗原の全部または一部、および/または、(ii)上記ターゲッティングした抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクター、および/または、(iii)少なくとも1種類の免疫応答モディファイアーを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒト疾患が癌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
癌が非小細胞肺癌または腎臓癌である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ターゲッティングした抗原が腫瘍特異性抗原である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
低〜中程度の免疫応答が体液性免疫応答である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
低〜中程度の免疫応答が細胞性免疫応答である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
免疫応答がCD8+免疫応答である、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
特定の患者集団でのヒト疾患を治療する目的で患者のターゲッティングした抗原に対する免疫応答を増強する医薬品を製造するための免疫原性組成物の使用であって、
前記集団の患者が低〜中程度の免疫応答をターゲッティングした抗原に対して誘発し、かつ、(i)前記抗原の全部または一部、および/または(ii)上記抗原をコードする少なくとも1種類の組換えベクターを含んでなる先行する外部から供給される免疫原性医薬組成物を全く投与されたことがないことを特徴とする、使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−511647(P2010−511647A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539656(P2009−539656)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010527
【国際公開番号】WO2008/067995
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(599082883)トランジェーヌ、ソシエテ、アノニム (32)
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE S.A.
【Fターム(参考)】