説明

改良された高速データ伝送ケーブル用絶縁体

本発明はデータ伝送ケーブルに関し、このケーブルでは、導電体用の一次絶縁体がテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを含む部分結晶性コポリマーを含み、前記コポリマーは、実質的にアルカリ金属塩を含有せず、約30±3g/10分の範囲のメルトフローレートを有し、10個の炭素原子に対し50個以下の不安定な末端基を有しており、前記コポリマーが、10GHzで0.00025以下の損失係数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次絶縁体がテトラフルフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを含むコポリマーであるケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
(特許文献1)は、フッ素化TFE/PPVEコポリマー(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)コポリマー)が、500MHzの周波数で、フッ素化TFE/HFPコポリマー(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー)の損失係数より優れた(低い)損失係数を示すことを表1で開示している(それぞれ、0.000366対0.000605)。高い損失係数は、信号強度の低下をもたらすため、より低い損失係数を必要とするケーブルでは、一次絶縁体(導電体を被覆する絶縁体)として、より高価なTFE/PPVEコポリマーおよびそれを後改良したTFE/PAVEコポリマーを使用する必要があった。
【0003】
【特許文献1】欧州特許第0423995B1号明細書
【特許文献2】米国特許第5,703,185号明細書
【特許文献3】米国特許第5,677,404号明細書
【特許文献4】米国特許第5,182,342号明細書
【特許文献5】米国特許第4,743,658号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定のTFE/HFPコポリマーが、500MHzで、TFE/PAVEコポリマーとほぼ同程度の優れた損失係数を示し、TFE/HFPコポリマーの損失係数のこの改良は、従って少なくとも10GHzの周波数でデータを伝送するさらに高速のケーブルに引き継がれ、少なくとも10GHzの周波数でデータを伝送するケーブルで、この特定のTFE/HFPコポリマーを一次絶縁体として使用することが可能になることが発見された。
【0005】
この驚くべき改良、すなわち損失係数の驚くべき減少をもたらす特定のTFE/HFPコポリマーは、TFE、および約2.8〜5.3のHFPIに相当する量のHFPを含む部分結晶性コポリマーであり、前記コポリマーは、実質的にアルカリ金属塩を含有せず、約30±3g/10分の範囲のメルトフローレートを有し、10個の炭素原子に対し約50個以下の不安定な末端基を有する。HFPIとはHFPインデックスのことであり、コポリマーのHFP含有量との関係は以下で説明する。
【0006】
本発明は、絶縁体が上記で定義された特定のTFE/HFPコポリマーである高速データ伝送ケーブルである。「高速」は、データ伝送速度が少なくとも約10GHzの周波数であることを意味する。従って、本発明のケーブルは、導電体およびその導電体を被覆する絶縁体を含み、前記絶縁体は、TFE、および約2.8〜5.3のHFPIに相当する量のHFPを含む部分結晶性コポリマーを含み、前記コポリマーは、実質的にアルカリ金属を含有せず、約30±3g/10分の範囲のメルトフローレートを有し、10個の炭素原子に対し約50個以下の不安定な末端基を有し、さらに前記ポリマーは、10GHzで0.00025以下の損失係数を示す。
【0007】
本発明の別の実施形態は、導電体およびその導電体を被覆する絶縁体を含むケーブルにより少なくとも10GHzの周波数でデータを伝送する方法であり、本方法は、TFE、および約2.8〜5.3のHFPIに相当する量のHFPを含む部分結晶性コポリマーから前記絶縁体を形成することを含み、前記コポリマーは、実質的にアルカリ金属を含有せず、約30±3g/10分の範囲のメルトフローレートを有し、10個の炭素原子に対し約50個以下の不安定な末端基を有し、さらに前記ポリマーは、10GHzで約0.00025以下の損失係数を示す。
【0008】
コポリマーの改良された10GHz周波数での損失係数は、上記実施形態で説明した高速データ伝送ケーブルの性能の改善(損失の減少)に引き継がれる。本発明の実施形態を以下に開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用されるTFE/HFPコポリマーは部分結晶性であり、すなわち、これらはエラストマーではない。これらは、テトラフルオロエチレン(TFE)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマーである。ここで、コポリマーは、二種以上のモノマーを重合して生成させたポリマーとして定義される。これにはTFEおよびHFPのジポリマーが含まれており、ヘキサフルオロプロピレンインデックス(HFPI)によって特徴づけられるコポリマーのHFP含有量が約2.8〜5.3である。本発明のTFE/HFPコポリマーには、TFE、HFP、およびペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)を含むポリマーも含まれており、ここで、アルキル基は1〜5個の炭素原子を含有する。そのようなビニルエーテルの例としては、ペルフルオロ(メチル−、エチル−、およびプロピル−ビニルエーテル)(それぞれ、PMVE、PEVE、およびPPVE)が挙げられる。通常、このコポリマーのHFP含有量もまた、約2.8〜5.3のヘキサフルオロプロピレンインデックス(HEPI)によって特徴づけられるであろう。HFPIは、コポリマーの膜上で計測される二つの赤外線吸収度の比であり、米国特許公報(特許文献2)の第3欄および第4欄に及ぶ段落で開示されているように、これに3.2を乗じることによって重量%HFPに変換することができる。TFE/HFPコポリマーは、少なくとも約1000サイクル、好ましくは少なくとも約2000サイクル、さらに好ましくは少なくとも約4000サイクルのMIT屈曲寿命を示す。MIT屈曲寿命の計測は、米国特許公報(特許文献2)に開示されている。一般に、本発明によるポリマーに組み込まれるPAVEモノマーの量は、コポリマーの全重量を基準として約0.2〜3重量%である。好ましいPAVEの一つはペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)であり、最も好ましいPAVEはペルフルオロ(エチルビニルエーテル)である。FEPコポリマーのメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に従って求められる。本発明で使用されるコポリマーのMFRは、約27〜33g/10分、好ましくは28〜32g/10分の範囲にある。
【0010】
重合は、添加されるアルカリ金属塩なしで実施される。米国特許公報(特許文献3)の実施例1の一般的な手順に従う。ただし、開始剤は過硫酸アンモニウムのみで構成される。一般的な代替開始剤、または、過硫酸アンモニウムとの共開始剤である過硫酸カリウムは使用しない。米国特許公報(特許文献4)に開示されている有機開始剤を使用することも可能である。重合用および洗浄用の水は脱イオン化する。上述の実施例1では、コポリマーはTFE/HFP/PEVEである。しかし、PPVE、PMVE、および他のPAVEモノマー、ならびにこれらのモノマーの組合せは置換することができる。1重量%のPEVEが本明細書の実施例で使用されるTFE/HFPコポリマー中に存在する。MFRは、重合に対する開始剤の添加速度によって制御される。重合後、得られたポリマー分散液を機械攪拌で凝固させる。凍結および解凍によって、または化学薬品添加によって凝固させることもできる。酸またはアンモニウム塩を化学的凝固に使用することができるが、金属塩、具体的にはアルカリ金属塩は使用することができない。本方法で、例えば凝固剤として、アルカリ土類金属を使用しないことがさらに好ましく、さらに、腐食が金属イオン源にならないように、重合の構成物質および処理装置を選択することが好ましい。ポリマー中のアルカリ金属イオンの測定方法は、カリウムイオンの測定例によって例示することができる。分析方法は蛍光X線(XRF)による。XRF装置を、既知量のカリウムイオンを含有するポリマーで標準化する。ゼロPPM基準は、カリウムのない配合を使って、カリウムイオンがない環境において重合することによって作られる。他の濃度での基準の場合、カリウムイオン含有量の絶対値はプロトン励起X線(PIXE)分光法によって求められる。分析物としてのカリウムは、検出下限界がポリマー中で5ppmである。本発明によるポリマーは、50ppm未満、好ましくは約25ppm未満、さらに好ましくは約10ppm未満、最も好ましくは約5ppm未満のアルカリ金属イオンを有する。
【0011】
脱イオン水を使用して生成され、アルカリ金属塩を使用せずに重合および単離されたコポリマーは、本明細書では、実質的にアルカリ金属塩を含有しないと記されている。通例、このようなコポリマー中には、アルカリ金属イオンは検出されないであろう。
【0012】
本発明で使用されるTFE/HFPコポリマーを、米国特許公報(特許文献5)で開示されているようにフッ素化され、熱的に、または加水分解に不安定な末端基を安定した−CF末端基に変換される。熱的に不安定とは、フッ素化ポリマーが溶解処理される一般に300℃と400℃との間の温度において、末端基が通常は分解による反応をすることを意味する。フッ素処理の影響を受ける不安定な末端基の例としては、−CFCHOH、−CONH、−COF、および−COOHが挙げられる。フッ素化は、4種類の不安定な末端基の総数を、ポリマー主鎖中の10個の炭素原子に対して約50個以下まで減らすように実施される。フッ素処理後のこれらの不安定な末端基の合計が、10個の炭素原子に対して約20個以下であることが好ましく、挙げた末端基の最初の3つに関しては、さらに、10個の炭素原子に対して約6個未満であることが好ましい。米国特許公報(特許文献5)に開示されているように、フッ素処理後、フッ素処理されたペレットをスパージングすることにより、抽出可能なフッ化物をフッ素化ポリマーから除去する。
【0013】
従来の押出し加工で、TFE/HFPコポリマーを、導電体用の一次絶縁体として、ケーブルの導電体に適用することにより本発明のケーブルを作製することができる。本発明のケーブルでは、コポリマー絶縁体の厚さが約9ミル(0.23mm)未満であることが好ましく、約6〜8ミル(0.15〜0.2mm)であることがさらに好ましい。絶縁体は、発泡させたものでも、非発泡、すなわち中実のものでもよい。発泡絶縁体は、ツイストペアケーブルまたは同軸ケーブル中に一次絶縁体として存在することができる。
【実施例】
【0014】
ASTM D 2520−01に従って、損失係数を、0.075×0.075×1.5インチ(1.9×1.9×38.1mm)の圧縮成形プラーク上で計測し、同じASTM手順に従って、損失係数をこれらのプラーク上で計測する。この手順で計測された損失係数は、ケーブルの電子的性能(信号損失)についての信頼できる判断材料であることが分かっている。損失係数の計測結果を以下の表に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
この実施例で使用されるTFE/HFPコポリマーは、3.8のHFPI、および、フッ素化処理によって得られる106個の炭素原子あたりに50個未満の不安定な末端基を有し、検出不可能なアルカリ金属塩含有量であり、MFRが30g/10分である。この実施例のTFE/PAVEコポリマーは、3.3重量%のPPVEを含有し、5g/10分のメルトフローレートを有する。このTFE/PAVEコポリマーはフッ素化されて、10個の炭素原子に対し50未満の不安定な末端基を有するようにされる。
【0017】
TFE/PAVEコポリマーの損失係数は、(特許文献1)の表1のフッ素化TFE/PPVEコポリマーの450MHzでの損失係数より小さく、すなわち、0.00035対0.00036(ASTM D 150)であり、このことは、上記の表における比較では、上記欧州特許で報告されたものより優れたTFE/PAVEコポリマーが得られているが、TFE/HFPコポリマーは、それでもこのより良好なTFE/PAVEコポリマーとまさに同程度の損失係数を示すことを表している。
【0018】
好ましくは、15GHzでの信号伝送周波数でのTFE/HFPコポリマーの損失係数は約0.00022以下であり、さらに好ましくは約0.00020以下である。
【0019】
電気的性質の驚くべき改良がさらに発見された。本発明で使用されるTFE/HFPコポリマーで絶縁した導電体でのキャパシタンス計測において、実際、絶縁体は発泡されていない、すなわち中実ポリマーである時、あたかも絶縁体が発泡質であるかのようにキャパシタンスが減少することが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも10GHzの周波数でデータを伝送するためのケーブルであって、導電体および前記導電体を被覆する絶縁体を含み、前記絶縁体が、テトラフルオロエチレン、および約2.8〜5.3のHFPIに相当する量のヘキサフルオロプロピレンを含む部分結晶性コポリマーを含み、前記コポリマーは、実質的にアルカリ金属塩を含有せず、約30±3g/10分の範囲のメルトフローレートを有し、10個の炭素原子に対し約50個以下の不安定な末端基を有しており、前記コポリマーが、10GHzで0.00025以下の損失係数を示すことを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体の厚さが9ミル(0.23mm)未満であることを特徴とする請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記絶縁体が中実であることを特徴とする請求項1に記載のケーブル。
【請求項4】
前記絶縁体が発泡質であることを特徴とする請求項1に記載のケーブル。
【請求項5】
前記ケーブルが同軸ケーブルであることを特徴とする請求項4に記載のケーブル。
【請求項6】
導電体および前記導電体を被覆する絶縁体を含むケーブルにより少なくとも10GHzの周波数でデータを伝送する方法であって、テトラフルオロエチレン、および約2.8〜5.3のHFPIに相当する量のヘキサフルオロプロピレンを含む部分結晶性コポリマーから前記絶縁体を生成する工程を含み、前記コポリマーは、実質的にアルカリ金属塩を含有せず、約30±3g/10分の範囲のメルトフローレートを有し、10個の炭素原子に対し約50個以下の不安定な末端基を有しており、前記コポリマーが、10GHzで0.00025以下の損失係数を示すことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2008−503857(P2008−503857A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516720(P2007−516720)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/021244
【国際公開番号】WO2006/009761
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】