説明

改良されたRNAポリメラーゼ変異体

【課題】 主細胞を用いて生産される組換えRNAポリメラーゼであって、野生型(天然型)RNAポリメラーゼのアミノ配列を変異することで宿主細胞での生産性が向上したRNAポリメラーゼ、該RNAポリメラーゼをコードする遺伝子、該遺伝子を用いるRNAポリメラーゼの製造法を提供すること。
【解決手段】 宿主細胞を用いて生産される組換えT7RNAポリメラーゼであって、野生型(天然型)T7RNAポリメラーゼを構成するアミノ酸配列のうち、490番目のメチオニンに相当するアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたことで、宿主細胞での生産性が野生型の生産性と比較して向上した、T7RNAポリメラーゼ変異体により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宿主細胞を用いて生産される組換えRNAポリメラーゼであって、野生型(天然型)RNAポリメラーゼのアミノ配列を変異することで宿主細胞での生産性が向上したRNAポリメラーゼ、該RNAポリメラーゼをコードする遺伝子、該遺伝子を用いるRNAポリメラーゼの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の伸長反応を行なう酵素であるポリメラーゼは、基質となる核酸よってDNAポリメラーゼとRNAポリメラーゼとに大別される。DNAポリメラーゼは、更にDNA複製やDNA修復において中心的な役割を担うDNA依存型DNAポリメラーゼと逆転写やテロメア合成を行なうRNA依存型DNAポリメラーゼの2つに分けられる。一方、RNAポリメラーゼは、mRNAやrRNAなどを合成するDNA依存型RNAポリメラーゼと、RNAウイルスで重要な機能を果たすRNA依存型RNAポリメラーゼ、そして特定の鋳型を必要としないRNAポリメラーゼの3つに分けられる。
【0003】
ポリメラーゼは生命現象を理解する上で重要な研究対象であるだけでなく、産業上も重要な酵素であり、さまざま産業分野で応用されている。例えば、DNAを増幅する手法であるPCR法ではTaqポリメラーゼが、RNAを増幅する手法であるTRC法(特許文献1及び非特許文献1)ではAMV逆転写酵素、T7RNAポリメラーゼが応用されている。
【0004】
以上のような、既に産業分野で応用されているポリメラーゼには、機能を強化した変異型酵素が知られているものも多い。例えば、T7RNAポリメラーゼでは、アミノ酸置換により認識するプロモーター配列を改変したもの(特許文献2)、高温での比活性及び熱安定性を高めたもの(特許文献3)、アミノ酸の欠失と置換により3’−デオキシリボヌクレオチドの取り込み能を増強したもの(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−014400号公報
【特許文献2】米国特許第5385834号公報
【特許文献3】特表2003−525627号公報
【特許文献4】特開2003−061683号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ishiguro T. et al.,Analytical Biochemistry,314,77−86(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
T7RNAポリメラーゼ等の既に産業分野での応用が進んでいるポリメラーゼでは、機能を強化した種々の変異型酵素が知られている。しかしながら、かかる機能強化は活性を向上する、特異性を向上する、何らかの耐性を向上する、等といった機能強化ばかりであり、その生産性、即ち、宿主細胞での生産性(宿主細胞中での発現性)の向上等、当該酵素そのものをより大量に生産する、等という観点からの機能強化ではない。
【0008】
そこで本発明は、宿主細胞を用いて生産される組換えRNAポリメラーゼであって、野生型(天然型)RNAポリメラーゼのアミノ配列を変異することで宿主細胞での生産性が向上したRNAポリメラーゼ、該RNAポリメラーゼをコードする遺伝子、該遺伝子を用いるRNAポリメラーゼの製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、野生型T7RNAポリメラーゼのアミノ酸を遺伝子工学的手法によって変異(他のアミノ酸への置換)することで、T7RNAポリメラーゼの生産性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、宿主細胞を用いて生産される組換えT7RNAポリメラーゼであって、野生型(天然型)T7RNAポリメラーゼを構成するアミノ酸配列のうち、490番目のメチオニンに相当するアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたことで、宿主細胞での生産性が野生型の生産性と比較して向上した、T7RNAポリメラーゼ変異体である。また本発明は、かかるT7RNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子である。また本発明は、かかるT7RNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞である。そして本発明は、かかるT7RNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞を培養することからなる、T7RNAポリメラーゼの生産方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のT7RNAポリメラーゼ変異体は、野生型T7RNAポリメラーゼを構成するアミノ酸配列(配列番号6)のうち、490番目のメチオニンに相当するアミノ酸残基が他のアミノ酸に置換されたものである。置換する「他のアミノ酸残基」は特に制限されないが、バリン、ロイシン、イソロイシン又はファニルアラニンといった疎水性アミノ酸が好ましいアミノ酸残基として例示でき、また中でもバリンは、特に好ましくいアミノ酸残基として例示することができる。結果的にみれば、490番目のメチオニンに相当するアミノ酸残基を上記のように置換することによってT7RNAポリメラーゼの疎水性が増加し安定性が向上したと考えられる。
【0012】
T7RNAポリメラーゼの立体構造は明らかになっている。490番目のメチオニンに相当するアミノ酸残基の置換は「生産性の向上」を達成する上で必須であるが、本発明では490番目の変異に加え、従来知られているT7RNAポリメラーゼの活性を向上するための変異等が重畳的に加えられていても良い。かかる変異としては、例えば、179番目のリジンに相当するアミノ酸残基、786番目のグルタミンに相当するアミノ酸残基及び685番目のバリンに相当するアミノ酸残基のいずれか一以上のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換を例示することができる。ここで、179番目のリジンに相当するアミノ酸残基をグルタミン酸等に置換する変異が加えられたT7RNAポリメラーゼでは、更に熱安定性および比活性の向上という効果を達成することが可能であり、786番目のグルタミンに相当するアミノ酸残基をロイシンおよびメチオニン等に置換する変異が加えられたT7RNAポリメラーゼでは、更に熱安定性および比活性の向上という効果を達成することが可能であり、685番目のバリンに相当するアミノ酸残基をアラニン等に置換する変異が加えられたT7RNAポリメラーゼでは、更に熱安定性の向上という効果を達成することが可能である。
【0013】
変異型T7RNAポリメラーゼをコードする本発明の遺伝子は、野生型T7RNAポリメラーゼ遺伝子(配列番号6)へ変異を導入することによって得ることができる。所定の核酸配列に所望の変異を導入する方法は当業者に公知であり、例えば、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR、核酸を含む細胞の変異誘発剤又は放射線への露出といった公知の技術を適宜使用することができ、また例えば実施例において説明した手法を参照することもできる。なお、野生型T7RNAポリメラーゼ遺伝子は、例えばT7ファージ(DSM No.4623,ATCC 11303−B7、NCIMB10380等)から、そのゲノム情報から作製した適当なプライマー(かかるプライマーの設計は、いわゆる当業者にとって容易である)を用いてPCRによって取得することができる。
【0014】
本発明の変異型T7RNAポリメラーゼは、細胞(宿主細胞)を、本発明の遺伝子を含むベクターで形質転換し、当該細胞を培養することによって生産することができる。
【0015】
本発明の遺伝子を含むベクターは特に限定されず、例えば自立複製型ベクターでも良いし、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれるベクターであっても良いが、本発明の遺伝子に対し、その転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結された発現ベクターが特に好ましい。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択すれば良い。大腸菌のための好適なプロモーターとしては、例えばlac、trp、trc又はtacプロモーター等を例示することができる。また、T7RNAポリメラーゼ遺伝子は、プロモーター以外の有用な配列が付加されていても良い。例えば、生産された本発明のT7RNAポリメラーゼを宿主細胞の細胞外へ分泌させるためのシグナルペプチドをコードする遺伝子を付加したり、生産後の精製操作を簡便にする目的で末端にヒスチジンヘキサマーを含んだタグ配列を付加する遺伝子を付加することが例示できる。
【0016】
なお、例えば宿主細胞として大腸菌を利用する場合、適当なプラスミドに目的の遺伝子を組み込んで本発明のベクターとすることが簡便である。かかるプラスミドとしては、pTrc99A(GEヘルスケアバイオサイエンス製)、pCDF−1b(タカラバイオ製)といった発現用プラスミドが例示できる。
【0017】
本発明の変異型T7RNAポリメラーゼを生産するためには、宿主細胞として、酵母、動物細胞株、植物細胞、昆虫細胞等の各種培養細胞が使用できるが、JM109株やHB101株といった、バクテリオファージの感染先で、かつ、取り扱いの簡便な大腸菌が好適な細胞(宿主)として例示できる。
【0018】
ベクターによる宿主細胞の形質転換は、通常の方法に従えば良い。このようにして得られる形質転換体を、導入した本発明の遺伝子の発現を可能にする条件下、適切な栄養培地中で培養することで、本発明の変異型T7RNAポリメラーゼを生産することができる。培養液からの変異型T7RNAポリメラーゼの抽出は、通常のタンパク質の精製方法を適用して行うことができる。例えば、本発明の変異型T7RNAポリメラーゼが細胞内に発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、適当な水系緩衝液に懸濁後、界面活性剤、リゾチーム処理、超音波破砕機等や市販のタンパク質抽出試薬などで抽出する。
【0019】
得られた抽出液に含まれるRNAポリメラーゼ量は、通常のタンパク質で用いられる分析法で測定することができる。例えばSDS−ポリアクリルアミドを用いた電気泳動法やイオン交換、疎水性相互作用、ゲルろ過などによる各種クロマトグラフィーを用いることができる。また少量のサンプルでも迅速に測定が可能なキャピラリーやマイクロチップなどを用いた電気泳動法も用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のT7RNAポリメラーゼ変異体は、宿主細胞を用いて生産される組換えRNAポリメラーゼであって、野生型RNAポリメラーゼのアミノ配列を変異することで宿主細胞での生産性が向上したRNAポリメラーゼである。後述する実施例で示したように、野生型のものと同等の活性等を有するものを、野生型と比較して約2倍の生産性で生産することができる(実施例4参照)。
【0021】
この結果、本発明のT7RNAポリメラーゼ変異体では、野生型のものと同一のコストで、より大量に生産することができる。これにより、産業分野での適用が進むT7RNAポリメラーゼをより安価に提供して、T7RNAポリメラーゼが適用されている種々の試薬や試験等のコストを引き下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】T7RNAポリメラーゼをクローニングしたプラスミドpTrc99A−T7RNApolの制限酵素地図。
【図2】野生型及びM490V変異型T7RNAポリメラーゼポリアクリルアミド電気泳動で経時的に分析した結果。レーン1は分子量マーカー、レーン2はIPTG添加前(野生型)、レーン3はIPTG添加1時間後(野生型)、レーン4はIPTG添加2時間後(野生型)、レーン5はIPTG添加3時間後(野生型)、レーン6は分子量マーカー、レーン7は分子量マーカー、レーン8はIPTG添加前(M490V)、レーン9はIPTG添加1時間後(M490V)、レーン10はIPTG添加2時間後(M490V)、レーン11はIPTG添加3時間後(M490V)、レーン12は分子量マーカー、の結果をそれぞれ示す。
【図3】IPTG添加前の野生型T7RNAポリメラーゼの菌体抽出物を全自動チップ電気泳動システムで分析した結果。縦軸は蛍光強度(装置からの読み取り値)、横軸は時間(秒)をそれぞれ示す。
【図4】IPTG添加3時間後の野生型T7RNAポリメラーゼの菌体抽出物を全自動チップ電気泳動システムで分析した結果。縦軸は蛍光強度(装置からの読み取り値)、横軸は時間(秒)をそれぞれ示す。
【図5】IPTG添加前のM490V変異型T7RNAポリメラーゼの菌体抽出物を全自動チップ電気泳動システムで分析した結果。縦軸は蛍光強度(装置からの読み取り値)、横軸は時間(秒)をそれぞれ示す。
【図6】IPTG添加3時間後のM490V変異型T7RNAポリメラーゼの菌体抽出物を全自動チップ電気泳動システムで分析した結果。縦軸は蛍光強度(装置からの読み取り値)、横軸は時間(秒)をそれぞれ示す。
【図7】精製された野生型T7RNAポリメラーゼを全自動チップ電気泳動システムで分析した結果。縦軸は蛍光強度(装置からの読み取り値)、横軸は時間(秒)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1 T7RNAポリメラーゼ遺伝子のクローニング
【0025】
T7RNAポリメラーゼ遺伝子のクローニングは以下の方法に従い実施した。
(1)T7ファージゲノミックDNAライブラリー(シグマ製)を鋳型プラスミドとして、T7RNAポリメラーゼ遺伝子を、以下の試薬組成及び反応条件にて、前半部分と後半部分に分けてPCR法を用い増幅した。なお、試薬組成のうち合成DNAプライマーは、前半部分の増幅にはプライマーFF(配列番号1、3’末端側20塩基は配列番号5の1から20番目の塩基に相当)及びプライマーFR(配列番号2、配列番号5の1813から1839番目の塩基の相補鎖に相当)を、後半部分の増幅にはプライマーRF(配列番号3、配列番号5の1825から1853番目の塩基に相当)及びプライマーRR(配列番号4、3’末端側20塩基は配列番号5の2633から2652番目の塩基の相補鎖に相当)を、それぞれ用いた。
【0026】
(試薬組成)(総反応液量:100μL)
各200pM 合成DNAプライマー
100ng 鋳型プラスミド
0.2mM dNTPs
0.025unit/μL TaqDNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex
Taq(商品名)、タカラバイオ製)
酵素に付属するバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、94℃で2分加熱
後、94℃・1分、58℃・30秒、72℃・1分の温度サイクルを25回繰り返
した。
(2)PCR反応後の液を1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで、PCR産物を精製した。
(3)精製したPCR産物のうち、前半部分のPCR産物を制限酵素BspHI(ニューイングランドバイオラボ製)及びHindIII(タカラバイオ製)で消化し、制限酵素NcoI(タカラバイオ製)及びHindIIIで消化したpTrc99Aベクター(GEヘルスケアバイオサイエンス製)にT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(4)(3)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをpTrc99A−T7Fとした。
(5)常法に従いpTrc99A−T7Fを調製後、後半部分のPCR産物を制限酵素HindIIIで消化し、制限酵素HindIIIで消化したpTrc99A−T7FにT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(6)(5)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをpTrc99A−T7RNApolとした。図1にpTrc99A−T7RNApolの制限酵素地図を示す。なお、T7RNAポリメラーゼ遺伝子については実施例2に示す方法を用いて塩基配列を決定することにより、意図しない変異が導入されていないことを確認した。得られたT7RNAポリメラーゼの遺伝子配列を配列番号5(GenBank No.FJ881694の1から2652番目の塩基に相当)に、アミノ酸配列を配列番号6(GenBank No.NP_041960と同一の配列)に示す。
【0027】
実施例2 塩基配列確認方法
実施例1で作製したT7RNAポリメラーゼを生産する組換え大腸菌を、37℃のLBG/Crb液体培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))で一晩培養後、定法によりプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドに含まれるT7RNAポリメラーゼ遺伝子の塩基配列決定は以下の方法で行なった。
(1)BigDye Terminator v3.1 cycle Sequencing Kit(商品名)(Applied Biosystems製)を用いて、添付のバッファー2.0μL、プレミックス4.0μL、合成DNAプライマー3.2pmol、鋳型プラスミド500ngを滅菌水にて20μLに調製し、サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、96℃で1分加熱後、96℃・10秒、50℃・5秒、60℃・4分の温度サイクルを25回繰り返した。
(2)(1)で調製した塩基配列決定用サンプルをBigDye XTerminator 精製キット(商品名)Centri―Sepスピンカラム(商品名)(Applied Biosystems製)(Applied Biosystems製)を用いて、以下に示す方法で精製した。
(2−1)BigDye XTerminator溶液20μLと及びSAM溶液90μLを加え、振とう器で30分間激しく撹拌振とうさせる。
(2−2)1000Gで2分間遠心分離する。
(3)(2)で調製した塩基配列決定用サンプルをABI PRISM 3130ジェネティックアナライザ(商品名)(Applied Biosystems製)で解析することで、塩基配列を決定した。塩基配列決定に使用した合成DNAプライマーは、(4)決定した塩基配列はGENETYX ver.8.0(商品名)(ゼネティクス製)を使用して解析を行なった。
【0028】
プライマーpTrcFs(配列番号7)、プライマーpTrcRs(配列番号8)、プライマーT7F0(配列番号9)、プライマーT7F1(配列番号10、配列番号5の258から287番目の塩基に相当)、プライマーT7F2(配列番号11、配列番号5の711から740番目の塩基に相当)、プライマーT7F3(配列番号12、配列番号5の1163から1192番目の塩基に相当)、プライマーT7F4(配列番号13、配列番号5の1615から1644番目の塩基に相当)、プライマーT7F5(配列番号14、配列番号5の2066から2095番目の塩基に相当)、プライマーT7F6(配列番号15、配列番号5の2520から2549番目の塩基に相当)、プライマーT7R0(配列番号16)、プライマーT7R1(配列番号17、配列番号5の2390から2419番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R2(配列番号18、配列番号5の1932から1961番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R3(配列番号19、配列番号5の1476から1504番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R4(配列番号20、配列番号5の1025から1054番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R5(配列番号21、配列番号5の561から590番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R6(配列番号22、配列番号5の111から140番目の塩基の相補鎖に相当)を必要に応じて選択し使用した。
【0029】
実施例3 M490V変異型T7RNAポリメラーゼの作製
実施例1で作製したpTrc99A−T7RNApolプラスミド(図1)のT7RNAポリメラーゼ遺伝子より、以下の手順で、アミノ酸配列490番目のメチオニンがバリンに変異したT7RNAポリメラーゼ変異体(M490V変異体)を作製した。
(1)pTrc99A−T7RNApolプラスミド(図1)を鋳型プラスミドとして、以下の試薬組成及び反応条件にて、PCR反応を行なった。なお、合成プライマーはプライマーM490VF(配列番号23)とプライマーFR(配列番号2)の組み合わせ、及びプライマーFF(配列番号1)とプライマーM490VR(配列番号24)の組み合わせを用いた。
【0030】
(試薬組成)(総反応液量:50μL)
各100pM 合成DNAプライマー
50ng 鋳型プラスミド
0.1mM dNTPs
0.025unit/μL DNAポリメラーゼ(PrimeSTAR HS
DNA polymerase(商品名)、タカラバイオ製)
酵素に付属するバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、96℃で30秒加
熱後、96℃・30秒、50℃・30秒、72℃・3分の温度サイクルを30回繰
り返した。
(2)反応液を1%アガロース電気泳動で分離後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで精製した。
(3)(2)で得られた、2種類の精製PCR産物を鋳型として、さらにPCR反応を行ない、M490V変異体遺伝子を作製した。なお、PCR反応における試薬組成、反応条件、及び精製操作は、合成DNAプライマーとしてプライマーFF(配列番号1)及びプライマーFR(配列番号2)の組み合わせを使用した他は(1)から(2)と同じ条件である。
(4)(3)で得られたDNA断片を、制限酵素HindIII(タカラバイオ製)及びBspHI(ニューイングランドバイオラボ製)で消化後、制限酵素NcoI及びHindIII(タカラバイオ製)で消化したpTrc99Aベクター(GEヘルスケアバイオサイエンス製)に、T4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(5)(4)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをpTrc99A−T7F−M490Vとした。
(6)常法に従いpTrc99A−T7F−M490Vを調製後、実施例1で調製した制限酵素HindIIIで消化したT7RNAポリメラーゼ遺伝子後半部分の精製PCR産物を、制限酵素HindIIIで消化したpTrc99A−T7F−M490VにT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(7)(6)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをM490V変異体とした。なおM490V変異については、実施例2に示す塩基配列決定方法を用いることにより、変異の導入を確認した。その遺伝子配列を配列番号25に、アミノ酸配列を配列番号26に示す。
【0031】
実施例4 T7RNAポリメラーゼの生産量確認
野生型及びM490V変異型T7RNAポリメラーゼの培養は以下の手順で行なった。
(1)LBG/Crb液体培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))3mLに実施例1及び3で得た野生型及びM490V変異型T7RNAポリメラーゼを産生する組換え大腸菌を植菌し、18mL試験管にて37℃で一晩振とう培養した。
(2)2×YTG/Crb培地(1.6% バクトトリプトン、1% バクト酵母エキス、0.5% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))100mLに(1)の前培養液1.0mLを植菌し、500mL容量のひだ付き三角フラスコにて、37℃、150回転/分(タイテック製、ロータリー式)で培養した。
(3)(2)の培養約3から4時間後(O.D.600nmの値としておよそ2.0から3.0程度)に500mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)100μLを添加し、温度を30℃に下げて更に3時間振とう培養した。
(4)IPTGを添加した後は1時間おきに培養液を適量サンプリングし、そのうちの900μLを14000回転/分で5分間遠心分離にて菌体を回収し、回収した菌体は−30で保存した。
(5)回収した菌体に核酸分解酵素Benzonae(商品名、ノバジェン製)を含むタンパク質抽出液BugBuster(商品名、ノバジェン製)を180μL加え、よく懸濁させたのち、室温にて1時間処理した。
(6)得られた抽出液を4℃にて12000回転/分で10分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清の一部をSDSポリアクリルアミド電気泳動で分析し、タンパク質の生産量を経時的に解析した。IPTGの添加により野生型及びM490V変異型とも顕著にT7RNAポリメラーゼを生産が確認された。98KDa付近のT7RNAポリメラーゼに相当するバンドの濃さから、M490V変異型は野生型よりも多く生産し、M490Vの変異によりT7RNAポリメラーゼの生産量が増加することがわかる(図2)。
(7)また全自動チップ電気泳動システム、エクスペリオン(商品名、バイオラッド製)による定量解析を行なった。IPTG添加3時間後のT7RNAポリメラーゼの含量は、野生型の9.1%からM490V変異型は16.5%に増加し、M490Vの変異により生産効率も向上していることがわかる(図4、図6、表1)。
【0032】
以上の実施例で使用した各配列については、配列表のほか、表2にも示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞を用いて生産される組換えT7RNAポリメラーゼであって、野生型(天然型)T7RNAポリメラーゼを構成するアミノ酸配列のうち、490番目のメチオニンに相当するアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたことで、宿主細胞での生産性が野生型の生産性と比較して向上した、T7RNAポリメラーゼ変異体。
【請求項2】
前記他のアミノ酸残基が疎水性アミノ酸残基である、請求項1に記載のT7RNAポリメラーゼ変異体。
【請求項3】
前記疎水性アミノ酸残基がバリンである、請求項3に記載のT7RNAポリメラーゼ変異体。
【請求項4】
179番目のリジンに相当するアミノ酸残基、786番目のグルタミンに相当するアミノ酸残基及び685番目のバリンに相当するアミノ酸残基のいずれか一つ以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された、請求項1から3のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ変異体。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ変異体をコードする遺伝子を含むベクターで形質転換された細胞を培養することからなる、T7RNAポリメラーゼの生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−75418(P2012−75418A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226039(P2010−226039)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】